能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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第五話 わたしにできること

 

 ミアと騎士ラ=グラリアに連れられ、記憶の間とか言うサーバールームを見学していた三上ユウ。

 その途中、少しだけ豪奢な鎧を纏う壮年の男───執政官ガ=ヘリクトがミアに声を掛けてきたのだった。

 

「執政官こそ、どうしてこちらに。

 今は地上で準備されている筈では……」

「その件ですが、結晶化の準備が整いました。

 最後に、御身の御裁可を頂きたく思います」

 

 そう言いながら、執政官と呼ばれた男はミアに金属製の棒───鍵のような物を手渡す。

 それを見たミアはあからさまに顔色を悪くし、目を背けた。

 

「……嫌です」

「それが民意なれば」

 

 執政官の言葉は、ミアを批判する色が滲んで聞こえた。

 ミアはますます、しゅんとして俯く。

 

(……二人の立場は、どういう関係なんだ?)

 

 何やら有力者のようだが、民意とか言ってるってことは意外と共和制だったりするのか?

 ミアは鍵をひったくるように受け取ると、それを地面に叩きつけた。

 

「そんなやり方で、一体何人が犠牲になると思っているのですか!」

「この世界の人間には『極光石オーロラ・リアクタ―』となって貰い、世界寿命を延命してもらう。

 ……それが、国民の意思なれば」

 

 叩きつけられた鍵は跳ね、からからと音を立ててユウの前まで飛んできた。

 思わず拾ってしまったが、それには誰も何も反応しなかった。

 横目で騎士の反応を伺うも、ちらりと見ただけでなにもしない。

 ミアと執政官の口論を他所に、鍵を見ながらユウは熟考する。

 

(……地上での工作はその準備か何かか)

 

 ユウが知る限り、ニュースでも幾つか世界各国の怪しい動きがあった。

 龍の国の介入でその準備をしていたとすると、合点がいく。

 

(だが、だとすると……この国が『怪獣』を放った説とは矛盾するな。

 人間が減れば『極光石オーロラ・リアクタ―』とやらにする人数が減ると思うが)

 

 それに、下手したら世界中の国家が崩壊されるレベルだった。

 そう考えると、『怪獣』を放ったのは別口か、もしくは事故だろう。

 

「騎士ラ=グラリア、質問しても?」

「……なんだ」

 

 二人を他所にユウは騎士に話しかける。

 

「あの方は、どのような立場の方で?」

「……我が国の政務を預かっている。

 国民議会より選出された、執政官だ。各軍の総司令官でもある」

「あ、そうなん……」

 

 ユウは大統領みたいな者だと理解した。

 じゃあミアの立場は象徴的なものに限定されるのかも知れない。

 続けて質問しようとしたが、ミアがそのまま涙を流して走り去っていったのでその機会を逸した。

 残された男3人はどことなく、気まずい雰囲気で沈黙した。

 

「あの……初めまして。ミアさんに付いてきました、地球人類の三上ユウと申します」

「……」

 

 沈黙を破り、執政官に向かってユウは見様見真似で膝をついて挨拶する。

 執政官はぎろりとユウを見て、口を開いた。

 

「地球人類風情が、なぜここに居る?」

「私が、連れてきました」

 

 ユウを睨みつける執政官に、横から膝をついたまま騎士ラ=グラリアが口を挟む。

 意外と好感度高いのだろうか、とユウは内心表情の読めない騎士の内面を伺う。

 

「……ラ=グラリアか。なぜここに連れてきた?」

「地上でミ=ア殿下のお世話をしていた者です。

 少しは、慰めになるかと……」

「ふん……そんな者は不要だ。

 そいつも『極光石オーロラ・リアクタ―』に結晶化させろ」

 

 冷たく言い放つ執政官に、ラ=グラリアは冷静なまま異を唱える。

 

「お待ちを。

 私はこの者と騎士の誓いとして、約定を交わしております。

 それを反故には出来ません」

「ミ=ア殿下と言い、お前といい……お前たちはいつもそれだな。

 なぜ民意で決まった事にぐちぐちと口出しする」

 

 ぶんぶん、と手を大きく振りながら執政官はラ=グラリアを批判する。

 ユウとしてはラ=グラリアに味方したいところだが……余計な口を挟まずに推移を静かに見守った。

 

「そいつ一人を生かしておくリソースで、我が国民が一人賄えるのだ。

 お前がそれを国民に説明してくれるのだろうな?」

「……」

 

 取り付く島もない様子の執政官であるが、意外にもユウは彼にそれなりに好感を持っていた。

 横紙破りを許さず、民意の代表者として正しい姿をしている。

 どちらかというと、ミアや騎士ラ=グラリアの方が身勝手していると言えるだろう。

 

「ふん……そんな事より、お前は先にミ=ア殿下を説得しろ。

 あの方に『鍵』を使って貰わねばならないのだからな」

「……了解しました」

 

 言いたい事は言った、とばかりにかつかつと風を切って執政官は退室する。

 緊張していた空気が弛緩し、跪いていた騎士ラ=グラリアは立ち上がる。

 彼が立ち上がるのを待って、ユウは改めて騎士ラ=グラリアに頭を下げた。

 

「守って頂いたようで、ありがとうございます」

「気にするな。ミ=ア殿下の為だ」

 

 何でもない、と手を振る騎士ラ=グラリアにユウはこちらもこちらで好感を持つ。

 正義の男という訳でもないが、忠義の男……とでも言うべきか。

 今まで関わったことの無いタイプだけに、興味もあった。

 

「これから、どうするので?」

「そうだな……お前には狭いが部屋を用意してあるから、そこで暫く生活して貰う」

「いや、それもあるが……ミアの事だよ」

「……」

 

 ユウが拾った鍵を見せると、騎士ラ=グラリアは少しだけ沈黙した。

 彼としてはミアの意思を優先したいのだろうが、総司令官の命令を反故にもできないんだろう。

 ジレンマに迷っている様子が見て取れた。

 

「お前は……我らが、怖くないのか?

 その鍵は、お前たち地球人類を滅ぼすことになるのだぞ」

「……」

 

 騎士ラ=グラリアが少しだけ怪訝そうにユウに尋ねる。

 確かに、今地球人類を滅ぼす、滅ぼさないの話をしているのだ。

 ここは普通……泣いて縋ってでも助けてほしいと、懇願する場面なのだろうか。

 

 でも、生憎として三上ユウは、もうミアを知ってしまっている。

 龍の国に同情心を持ってしまった以上……問答無用で滅ぼす気はもう無くなった。

 だからこれからは、条件交渉をするべきなのだ。

 

「怖くない訳がない。

 だから……騎士ラ=グラリアに問う。

 まだ地球人類と共存する目があるだろうか。

 俺たちと共に問題に取り掛かり、共に解決していく気はあるだろうか」

「難しい。何故なら我らがこの世界の人間に欲するものは、結晶化して魔力となって貰う以外にない。

 計画実行の是非は国民投票によって決定している。

 それを覆すのは……ミ=ア殿下であっても、難しい」

「……」

 

 国民投票する政治形態だったとは少し驚きだが、あのサーバ内の人間達だとするとある意味やり易いのかもしれない。

 そうすると……戦うべきは、あの執政官ではなく、本質的には龍の国の国民なのだろう。

 彼らに何らかのメリットを提示できなければ、地球人類は滅ぼされる。

 勿論、三上ユウとしてはそんな事を許すわけにはいかないので、そうなる前に全て吹き飛ばさざるを得ない。

 ミアの為にも、できればそんな事はしたく無い。

 となると……。

 

「もう一度ミア殿下と話したいが……いいか?」

「……よかろう」

 

 二人は連れ立って、退室したミアの後を追った。

 探し回る必要があるかと考えたが、騎士は壁に埋まっている端末を操作するとすぐに居場所を突き止める。

 何のことはなく、先ほどの展望室に戻っていただけであった。

 

「ミア、少しいいか?」

「……はい」

 

 泣き腫らした顔に、むくれた顔をしたミアは、ユウを見ずに返事をした。 

 

「これから言う事は少し無責任に聞こえるかも知れない。

 でも、大事なことなので答えてほしい。

 ミアは、地球人類も犠牲にせずに済む方法……心当たりがあるんじゃないのか?」

「!……」

 

 ミアは肩をびくりと震わせた。

 ユウは彼女が落ち着くのを待って、静かに続ける。

 

「以前、ミアは地球に来た目的は『イスタス』に会う事だと言っていた。

 それが……その方法に関係しているのでは?」

「……はい。イスタスの持つ力なら、或いは……」

 

 やはり、ユウの力目当てだったらしいと知った。

 ここで正体を明かすべきか、ユウはしばし熟考する。

 しかし、わざわざ敵地というべき場所で明かすのはリスクが高い。

 少し考えた後、ユウは改めてミアと騎士に向けて口を開いた。

 

「こんなこと訊いていいか分からんが……どうしてそこまで地球人類に肩入れするんだ?」

「……」

「俺自体はその……ミアを妹みたいに思ってるし、助けたいとも思ってるよ。

 でも、それはこの1週間暮らしてみて思った感想だ。

 ミアが地球人類を助けたいと思うのは……何かきっかけがあったんじゃないか?」

 

 無償の善意もあろうが、危地にある祖国の中で自国民より優先するのはよっぽどだとユウは思う。

 執政官や国民の方が普通であり、ユウも自分ならそうするとは思う。

 

「……」

 

 ミアはぎゅっと己の手を握りこんでユウを見た。

 その暗い青味がかった瞳には、葛藤している色が浮かんでいる。

 

「私は今から己の立場を弁えない、愚かなことを言います。

 騎士ラ=グラリア……今から言う事は聞かなかったことにして下さい」

「……御意」

 

 特に口を挟むことは無いが、騎士ラ=グラリアは一礼して押し黙った。

 覚悟を決めたのか、ミアは意外なほど強い感情でユウに向かって吠えるように口を開く。

 

「私は……正直、我が国民が憎い。

 これまで散々我らが国を維持し、導いてきたにも関わらず……世界の危機にあっさりと王族を見放した!

 今までの政策の失敗は全て我ら王族の咎になり、私以外全ての王族は処刑されたの」

「……」

 

 ローマかと思ったらフランス革命かよ、とユウは心の中で独りごちた。

 さしずめミアは名目上の王位にあるルイ・シャルル(17世)で、執政官はロベスピエールだろうか。

 そんな生活なら、まあ……この国にいるのは息が詰まるだろう。

 

「私、わたしは……もうこんな国に居たくない。

 でも……私にはそんな贅沢は許されない。私はお飾りであれ……国主なの。

 我が国民が道を見失い、暴走するのであれば……それは正さないといけない」

「……」

「今のままでは、この国は民たちの声に扇動されて限りなく……そう、限りなく利己的になる。

 安全のために魔力が足りないなら、現地の生命を使って世界を延命する。

 足りないなら、また他の世界に行く。

 安全に、確実に……根本的な対策をする事はなく、目先の安全のみに飛びついて」

 

 国主としての矜持か、ミアの考えは衆愚政治による国の暴走を訴えていた。

 ユウはどうにも、アル=ラツェルトの政治体制と科学力がちぐはぐな印象を受ける。

 技術的に突出してるかと思えば、政治体制がユウの主観的には古臭いのだ。

 

「この流れは断ち切らないといけない。

 我が国民が決定的な過ちを犯してからでは、遅い。

 前例を作ってしまえば、それを無数に繰り返すだけの害悪になってしまう」

 

 大きな視点で見れば、人間を含む知的生物を捕食していく肉食動物のようなものだろうか。

 国だろうと人だろうと、多かれ少なかれ他者を食い物にするのだ。

 

 だから、ミアの言葉は多少偽善的に感じる。

 地球人類だって、安全を求めれば似た行動を取るだろうとユウは思うのだ。

 

「もう、私の声に耳を傾ける人間は……騎士ラ=グラリアぐらい。

 だから、もう私は、わたし……だけの、力では何も、なにもできないの」

 

 今が分水嶺である、とミアは言う。

 確かに前例が出来れば、もう後に引けなくなるのは想像に難くない。

 だから……ユウはミアの手を引く。

 

「お前はもっと、我がままになっていい。

 人の事は気にするな」

「……でも、私はこの国の責を負う者なのです」

「違う、そうじゃない。

 俺はであるミアに聞いているんだ。

 お前はどうしたい?」

「……」

 

 ユウの手を握り返したミアは、はっきりと言い放った。

 

「私は……悔しい。国民をぎゃふんと言わせたい。

 お前たちに、真っ当な政が出来るものかっ!」

 

 ユウは笑った。

 取り繕ってはいるが……彼女の本音は復讐なのだろう。

 ぽんぽん、とミアの頭を撫でて抱きしめた。

 

「よし。分かった。

 俺が何とかしよう」

 

 ミアが腫らした目をユウに向ける。

 

「つまり……地球人類から何らかのメリットを提示して、ミ=ア殿下の名の下に王政復古する。

 或いは再度の国民投票を実施させて、認めされれば……地球人類、ひいてはミ=ア殿下が救われると」

「……そんな事が出来たらな」

 

 これからの取るべき道を口に出したユウに、騎士ラ=グラリアは諦めの口調で吐き捨てた。

 彼とて色々模索はしたのだろうが……難しかったのは想像に難くない。

 ユウは手に持った鍵を握りしめると、騎士ラ=グラリアに向き直って言った。

 

「道は狭いが……まだ、諦めるのは早い。

 ミアと騎士ラ=グラリアは『妖精ポヨリス』は知っているか?」

「……妖精なら。

 かつて『涙虹石イーリス・リアクター』を研究していた、友邦です」

 

 ミアの言から、ポヨ公がかつてここで『涙虹石イーリス・リアクター』を開発していた事はほぼ間違いない。

 そして……結構抜け目ないあいつの事だ。

 故郷消滅の対策を忘れてはいないはず。

 

 だのに『怪獣』対策の為とはいえ、これだけぽんぽん気前よく『涙虹石イーリス・リアクター』提供している。

 という事は、何らかの別の目途が立っていると見るべきだろう。

 

 その『目途』が大事なのだ。

 希望さえあれば、それが戦う武器になる。

 

「俺は一度ミアを連れて地球に戻る。

 そして妖精と一緒に……この国の世論をひっくり返す。

 それが今出来る、俺の戦い方だ」

「ユ=ウ、あなたは……どうして、そこまで」

 

 嬉しくも悲しげなミアの瞳に、ユウは微笑んだ。

 

「俺は三上ユウ、又の名を───魔法少女イスタス。

 助けを求めるなら、諦めない限り……俺が助けてやる」

 

 目を丸くするミアと騎士ラ=グラリアに向けて、ユウはそう言い放つのだった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 少し時が戻り、琴音の家であかりが目覚めた後。

 二人はポヨから今までの顛末の説明を受けていた。

 

「龍の国と共同開発……それでも世界が消滅するのは避けられなかったんですか」

「そうポヨ。

 彼らアル=ラツェルトの民は世界を諦め、別世界へ逃れる道を選んだポヨ。

 しかもプロジェクト凍結した後、ポヨは早々に試作で開けられた穴に突き落とされたんだポヨ!

 それも当時のプロジェクトリーダーだった、ガ=ヘリクトにポヨ!」

 

 ぱたぱた、と耳をボクシングみたいに琴音お気に入りのクッションに叩きつける。

 ホコリが舞う中琴音はポヨに空手チョップを叩き込んで止めながら頷いた。

 

「中々苦労しているみたいっスね。

 でも、じゃあ龍の国はこの世界に根を下ろすのが目的っスか?」

「多分違うポヨ」

 

 ポヨはそこまで言うと、いつも使う小さなホワイトボードにペンで四つの〇を描いた。

 そして、その全てに×印を追加していく。

 

「並行世界は幾つもあるポヨが、これまでの観測でどの世界でも『魔力』減少は発生していることが分かったポヨ。

 だから、どこの世界に逃げようが結局原因を何とかするか、莫大な『魔力』を作り続けない限り先はないポヨ」

「えー……」

 

 あかりと琴音が顔を見合わせる。

 二人にはこの世界どころか、並行世界合わせて全てが消滅の危機にあるとは、ちょっとスケールが大きすぎた。

 

「じゃあ、どうすればいいのよ……」

「龍の国でも原因を特定できなかったポヨ。だとすれば、考えは一つ。

 何らかの方法で、この世界で莫大な『魔力』を生み出そうとしているポヨ」

「どうやって?」

「分からないポヨ。

 『怪獣共生派』とか言う連中が龍の国と繋がって何かやってるらしいポヨ。

 おおかたこの世界の人間に強制的に魔力を作り出させたり、すると思うポヨ」

 

 ポヨの知る上で『涙虹石イーリス・リアクター』を強制的に使わせる方法はない。

 そもそも『涙虹石イーリス・リアクター』は原理上、発達した神経回路チャクラを利用して高次空間の穴を開ける装置。

 適合する神経回路はそれなりに多いとはいえ、全人類は無理だ。

 

「それって……かなりマズイんじゃない?」

「そうポヨ。

 目算ポヨが……仮に地球人類全員があの『極光石オーロラ・リアクター』とか言うものを持たされて魔力を絞り出せば、3年は世界延命できるポヨ」

「え……てか、それでも3年しか持たないの?」

「それぐらい莫大な減少速度なんだポヨ」

 

 伊達に今までの並行世界で解決の目途が立たなかった訳ではない。

 仮に全人類が魔力供給しても間に合わない消滅速度なのだ。

 

「じゃあその……ちょっと非人道的っスがクローンで人増やせばいいんじゃ?」

「肉体はそれで増やせても、精神はそう簡単に増やせないんだポヨ。

 たっぷり時間をかけて魔力に触れさせながら、育てないと使える神経回路にならないんだポヨ」

「うーん……うちの家系みたいっスね……」

 

 琴音の家系は子供が生まれると、できるだけ両親が魔力と触れ合う環境で育てる。

 幼い頃から魔力と触れ合うことで、やっと魔法使いとなる事ができる。

 勿論、才能の分の差し引きは存在するが。

 

「だから、急激に世界の魔力が減少する環境だとそもそも魔法使いが減るポヨ。

 人だけ増やしてもどうしようもないポヨ」

「……」

 

 琴音は腕を組んでうんうん唸るが、良い解決策は思い付かない。

 対してあかりは、じっとポヨを見ながら下を向いて考える。

 

(ポヨさんなら……もしかして、もう何か考えてあるんじゃ?)

 

 あかりはポヨの落ち着き具合から感がえて、何か策があるのでは……と看破した。

 そして今までの言動から考えて、嘘は言わないが、本当の事も言っていない……という事も。

 

「……ねえ、ポヨさん、もしかしてもう対抗策、あるんじゃないですか?」

「え……?」

「……」

 

 唸っていた琴音があかりをぽかんとした表情で見る。

 そしてポヨはあかりから目を逸らした。

 

「世界から『魔力』が失われる……これが妖精の国でも起きてるなら、一刻も早く対処したいはず。

 でも、ポヨさんはこの世界で結構のんびり暮らしてるように見えます。

 それは……もう、何か対策の目途が立ってるからじゃないん、ですか?」

「確かに……ナナ先輩、意外と冴えてるじゃないっスか!」

「意外と……?」

 

 琴音が手を叩いてあかりを褒めるが、あかりは怪訝な顔で首を傾げた。

 はしゃぐ二人を他所に、ポヨは益々口をへの字にして二人から目を逸らす。

 

「……策なら、確かにあるポヨ」

 

 二人の様子に観念したのか、ポヨは残りの耳についている飾り……ではなく、口からんべっと一つの石を出した。

 白くくすんでいる涙滴型の石は、誰の『涙虹石イーリス・リアクター』とも違い、『力』を感じない。

 

「未完成のブランク・リアクター……これが完成するまで待ってほしいポヨ」

「ブランク・リアクター?」

「世界を支える為に必要な魔力量は、もう計算を終えているポヨ。

 だから、その力に耐えるだけの筐体は、既に作ってあるんだポヨ。

 ただ、肝心の動力炉がない状態ポヨが……」

 

 このままでは唯の石でしかない。

 ポヨは目を細めて、二人を睥睨しながら言った。

 

「逆に言えば、今までに見た事もない程高出力の動力炉さえあれば。

 この新しいリアクターで世界を支える『魔力』も作り出せるポヨ。

 ───そう、例えば『重力特異点』を利用した降着円盤を動力炉にすれば」

「……まさか」

 

 二人の脳裏には、いつもその規格外の力を発揮する魔法少女の姿がよぎる。

 

「イスタス自身に、動力炉となって貰う。

 それが世界を救う最後の方法。

 それが……ポヨの目的だポヨ」

 

 目を見開く二人に、ポヨは心なしか低い声でそう言ったのだった。

 

 

 


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