能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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第十話 決戦!月面『怪獣』

 

 

 

 ───月軌道。

 

 あらゆる障害を(文字通り)力づくで無視して、イスタス達は月軌道に到達した。

 時間が無いので、地球脱出も月軌道への加速も急減速もイスタスが(強化して)やった。

 地球脱出から優に3時間。新記録だろう。

 

 おかげで宇宙船の強度を超えて船腹に亀裂が入ったりしたが、些細な問題だ。

 人間はイスタスの周囲2メートル以内にぎゅうぎゅうに押し込んで何とか守った。

 イスタス以外のみんなは急加減速にやられてヘロヘロであるが、軌道投入して10分、ようやく復調してきた。

 

 宇宙船は月へ向けた減速終了後、ミアと騎士ラ=グラリアとあとポヨ公が乗り囮としてそのまま直進。

 イスタス達魔法少女三人は、琴音の認識阻害魔法を掛けた状態で変身して分離。

 3人で掌位して回転しながら別軌道で月の裏側にある移民船を目指す。掌位する必要?別にない。

 

 軌道傾斜角を合わせ終わり、太陽と直角に回転してまんべんなくバーベキューロール中に琴音が口を開いた。

 

「月の裏側って、少しワクワクするっスね」

 

 イーリス・ブルー(琴音)とイーリス・ブラック(あかり)は、人生初の宇宙遊泳中にして月出張である。

 多分人類でもごく少数しか得られない体験ではある。

 

「二人ともおさらいするけど、1気圧環境はあくまで私の周囲2m以内。

 口だけ入れとけば大丈夫とかじゃないからね。

 手足も数分晒せば有害な宇宙線に被曝するし、内圧でパンパンに膨らんで最悪死ぬから」

「り、了解っす」

「まあ、今の3rdフォームならある程度大丈夫みたいだけど」

 

 酸素はボンベで幾つか持ってきた。

 どうやら「アル=ラツェルト」では魔法か何かで酸素圧縮してるらしく、1本で3人が1日分持つとか言う優れもの。

 宇宙に拠点構えてるだけあって、そこら辺の宇宙技術は流石地球技術を超えている。

 

 そんなら宇宙服も貸してもらえないかと思ったが、そこは不要だった。

 二人ともフルスペックである3rdフォームなのだが、流石と言うべきの耐熱・耐寒・耐衝撃。

 当初から考えられていたのか、宇宙空間に滞在しても暫く問題ないようだ。

 ちなみにイスタスの1stフォームだとお陀仏になるので要注意。

 

「ミアさん……大丈夫かしら」

「こう言っちゃなんだが、ミアだけなら殺されはしないよ。

 なんたって、曲がりなりにも自分達の主と仰いでいるんだから」

 

 宇宙船で囮となるために分かれて来たミアに、ブラックは心配そうに呟く。

 その心配を払拭させるように、イスタスは努めて明るく話した。

 

 そう言われても、ブラックはずっとミアの居た方向を眺め続ける。

 彼女の涙を見て、どこか自分と同じシンパシーを感じてしまったのかも知れない。

 

「そろそろ裏側が見えてくる……気合い入れろ」

「……ええ」

「了解っス」

 

 暗い宇宙でもう数分飛べば、月の裏側に到達する。

 だんだんと月面のクレーターが増えていき、歪な月面に降り立っている龍型の移民船が見えてくる───筈であった。

 

「な……」

 

 三人は息を呑む。

 ようやく見えてきた月の裏側。

 

 人類から隠されたそこには───移民船はいなかった。

 

 ───どくん、どくんと脈打つ肉。

 ───湯気の様に立ち上るそれは、蒸発している水分だろうか。

 

 のそり、と持ち上げる巨大な首が3人を向く。

 

 全長数Mに及ぶ巨大な歯が立ち並ぶその凶悪な相貌は、伝説にある『龍』そのもの。

 

『ようやく来たか。鍵たちよ』 

 

 それは声なき声で、自分たちの胸元から声を掛けて来たのだった。

 

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 

 宇宙空間に声は響かない。その波を媒介するものが無いからだ。

 その言葉は、三人の『涙虹石イーリス・リアクター』を通じて伝えられて来た。

 

「認識阻害が効いてないっス!?」

 

 ブルーが叫んだ。

 これまでほぼ完璧に機能していた彼女の魔法。

 実は彼女自身が知らないことだが、地球から離れる毎に彼女の属性である『土』と『風』属性が薄くなっていた。

 これまでの魔法の効力が大幅に減じられていたのだ。

 

「まさか……お前、ガ=ヘリクト……執政官、なのか?」

『ほう、よく気付いた』

 

 そしてイスタスは、その声にどこか覚えがあった。

 慇懃さと憤懣さを合わせたような低い声、それは執政官ガ=ヘリクト。

 その声はよく覚えていた。

 

「その姿は……一体」

『何のことはない。これが私の目指していたものだ』

「なに……?」

 

 100mを超える巨体。

 その身体は移民船だったと思しきパーツが所々に残っている。

 

 宇宙線が容赦なく降り注ぎ、空気もない世界でも、ものともしない頑丈な表皮と鱗を持つ身体。

 内圧で膨らむこともなくその体を保てているとすると……もはや尋常な生物ではない。

 そう、それは正に───

 

怪獣化・・・、それに成功しただけの事』

 

 背中から生える巨大な2対の翼が、ぶるりと震えるように立ち上がる。

 その振動が空気の無いはずの世界で、イスタス達に怖気を震わせた。

 龍はその巨体を持ち上げ、ゆっくりと月面からイスタスたちの居る軌道上へ昇ってくる。

 

『怪獣とは世界の異物たる『魔力』に対して現れる免疫生物。

 巨大な『魔力』の脅威に晒されたとき、世界に存在する知的生命の意思の統一願いにより超急速異常発達現象は現れる』

「じゃあ……地球の魔力を活性化させたのは……」

『勿論、このためよ』

 

 イスタス達は言葉を無くした。

 月軌道から見える龍の姿は、月軌道に居るイスタス達に届かんとばかりに、その鎌首を持ち上げた。

 

「世界の延命……じゃなかったのか」

『延命?そんな事は必要ない』

 

 くぐもった龍の声は、どこか怒りに満ちた声音で言った。

 

『この数年、調べた限り世界の魔力減少に『原因』などなかった・・・・

 それは、見つけられないだけだと思っていたが……それは違う。

 文字通り、『原因』など無かったのだ』

「何を……言っている?」

 

 龍は饒舌に語る。

 それは元研究者たる矜持か、出来の悪い生徒に諭すようにゆっくりと話す。

 

『研究者であれば、陥る罠よ。

 『魔力』とは、それすなわち原因を飛ばして・・・・『結果』を得る奇跡なのだ。

 故に、魔力が無くなる原因などない。魔力総量が減ると言う結果があるのみだ』

「え、ええ?」

 

 ブルーとブラックが混乱して、首を傾げる。

 すべての事象には因果───原因と結果で成り立っている。

 この宇宙の原則を曲げられると、まるで理解できなくなってしまう。

 

「でもそれじゃ……お前は何のために、そんな姿になった?」

『勿論───憎き『魔力』を消し去る為よ!』

 

 ぐあっ、と顎を開く龍。

 

「お、おかしいじゃないっすかっ!

 結局魔力が無くなれば皆滅びるんでしょ?」

 

 ブルーの叫ぶような言葉に、龍は口角を持ち上げて嗤う。

 

『それは違う。

 魔力を無くすのではない、『魔力』の存在そのものを───消し去るのだ!』

「ええ……?」

 

 再び困惑顔のイスタス達に、龍はその両前足を広げて講義する教師のように、顎を持ち上げる。

 

『『魔力』は因果を無視する性質上、過去、現在、未来において常に同量が存在すると仮定できる。

 どの時間軸で『侵入』されたかは……分からん。

 ───ただ、これだけは言える。

 『魔力』が存在せずとも、滅びることなく生きていた世界はあったのだ

「ッ!?」

 

 三人の顔が驚愕に染まる。

 魔力が存在しない世界───滅びのない世界。

 それは、そんなのがあるのなら……確かに、すべての問題は解決するだろう。

 しかし……それは、あまりにも都合が良すぎる。

 

「そんな事が……できる訳がっ!」

 

 イスタスも、それに叫ぶ。

 相手のエビデンスすら確認せずにその言葉を信じる訳にはいかない。

 しかし、その言葉は相手を信じさせる『力』に満ちていた。

 流石に、一国の指導者の持つ言葉は、重い。

 

『侵略者たる『魔力』なき清浄なる世界へ───戻す!

 世界を超え得る頑健なる『身体』は手に入った。

 後は牙だ───レジストリ書き込み:0x221A』

 

<<『涙虹石イーリス・リアクター』上位割り込み───強制停止>>

 

「な……ッ!?」

 

 魔法少女三人の身体から急速に魔力が抜けていく。

 そしてぽん、と胸元にあった『涙虹石イーリス・リアクター』は飛び出し、迷わずガ=ヘリクトの元へ飛んでいく。

 イスタスは慌てて二人を離さないように、ぎゅっと掴んだ。

 

『よく『涙虹石イーリス・リアクター』を育ててくれた。感謝する。

 特に……見ていたぞ?七井土あかり、とか言ったな。

 私の仕込んだ『幻想改変枝プリズム・コンバーター』は想像以上の成長を見せた。

 放った探査装置・・・・の因果を遡り、消滅させるまでのシステムに構築してくれたのだから』

「……え」

 

 ガ=ヘリクトの放った探査装置。

 ブラックとイスタスには、心当たりがあった。

 それは……七井土あかりと親友の心臓を襲った、謎の怪物。

 彼女が魔法少女に成らざるを得なかった原点であり、唯一あかり───ブラックが必殺で消し飛ばした存在。

 

 それが───

 

「見られてた……のか」

 

 ぎり、とイスタスが臍を噛む。

 自分が目立つことで二人はなるべく隠していたつもりだったが、最初からガ=ヘリクトの狙いはブラックだったのだ。

 『涙虹石イーリス・リアクター』自体、ポヨ公出奔前に仕込みがされていた。

 

『お前のおかげだ。これで……『魔力』をその因果から───消し去ってくれる!』

 

 ぶん、とガ=ヘリクト……いや、もう怪獣アル=ラツェルトとも呼ぶべき存在が、その前足を振るう。

 其処から巨大な一本の黒い板のようなものが伸びる。

 虹色に光る文様───アカシックレコードが板の上に描かれ、そこから魔力が迸る。

 

「あれはまさか……ブラックの、必殺か!」

 

 ブラックの剣と同じ因果律遡行、存在矛盾消滅兵器。

 それを───龍は途轍もない規模で展開した。

 それこそまさに、『魔力』すべてを消し去らんとばかりに。

 

『消え去れ、その魔力と共に』

 

 龍がその剣を大きく振りかぶる。

 

 イスタス───いや、もう半分ほど魔力が解けて三上ユウに戻りかけているが。

 急いでポケットから取り出した鉄球に『強化』を掛ける。

 

 宇宙空間で地上のように素早く動くことなどできない。

 それに龍の持つ剣もその身の丈を超える───150mはあるかという長大な、大きすぎる大質量物体。

 

 おまけに二人───あかりと琴音はついに変身が解除され、イスタスの範囲を出たら即死の状態。

 つまり、受けるしかない。

 

「二人とも、しっかり掴まれ……ッ!」

 

 イスタスが白く輝く『強化』鉄球を、守るように前に突き出す。

 白色矮星レベルまでイスタスの力で『強化』された鉄球が歪み、ニュートン力学を超えてアインシュタイン方程式の特殊解に至る。

 ただし特殊解───シュバルツシルト解のような無回転ではなく、自らの重力崩壊によっておよそ人の認識できない自転速度を持つ。

 

 まともに開放すればその強烈な磁界と潮汐力で月の軌道すら影響を与えかねないそれを、イスタスは『強化』で抑え込む。

 およそこの宇宙に存在するものの中で、一番の理不尽。科学で解明できない特異点。

 それがブラックホール。

 

 ───しかし。

 

「……───ッ!?」

 

 がつん、と150m超の因果律遡行剣が、イスタスが盾と掲げた『特異点』に突き刺さる。

 神社で受けたブラックの必殺とは、比べ物にならない。

 

 単純に大質量な事もあるが、シュバルツシルト半径の中に入ったのに因果律遡行剣は存在を崩さない。

 それどころか、有り余る魔力出力により特異点内の時間───外から見て無限の時間を片っ端から遡行し消滅させてゆく。

 

「……馬鹿な!?」

 

 それは物理の限界。

 真に無限は存在せず、物質はどこまでいっても『有限』であるのだ。

 であるのなら───終わりは、存在する。

 

 科学の理不尽と、魔法の理不尽のぶつかり合い。

 今度は、魔法の理不尽により物理法則は敗北をしようとしていた。

 じりじり、と因果律遡行剣により特異点が縮小され、三人に迫る。

 

(ダメだ、もう持ち堪えられないッ!)

 

 どうにか特異点中心質量を維持するために『強化』を掛け続けているが、じわじわ質量が減っていく。

 シュバルツシルト半径が縮小し、イスタスの額に汗が滲む。

 

(マズい、このままだと───ッ!)

 

 最悪、『特異点』のコントロールを保てなくなる。

 今イスタスがコントロールを解き放った場合、特異点の潮汐力は確実に月を崩壊させる。

 月の潮汐力が無くなれば地球の大気・海洋循環を狂わすだろう。

 『特異点』の残留質量次第では……地球大気をも引き剥がし、死の星と化するかもしれない。

 

 ガ=ヘリクトごと地球まで道連れにして3人が生き残るか、イスタス達だけこのまま消し去られるか二つに一つ。

 

 そんな絶体絶命の中───ふ、と。イスタスの左手を掴む力が抜ける。

 

「あ、あかりぃぃーーーーっ!」

 

 イーリス・ブラック───いや、七井土あかり。

 『涙虹石イーリス・リアクター』無き彼女は、ついに体内に残留した魔力を使い切った。

 

 彼女は、心肺機能と循環系を『魔力』で代替している。

 『魔力』が切れた時───それは、あかりの生命活動が停止するとき。

 

 全身が弛緩したあかりの身体が、無重力にふわりと舞うのだった。

 

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 

「姫様……」

「……」

 

 イスタス達がガ=ヘリクトと対峙しているその時。

 別軌道で月軌道に入った宇宙船『アル=ラツェルトⅡ世』では、ミアと騎士ラ=グラリアが居た。

 既に移民船はガ=ヘリクトに取り込まれ、存在しない事。

 そしてイスタス達と戦闘に入った事は望遠で把握していた。

 

「まさか……ガ=ヘリクトがそこまで、そんな事を───」

 

 ミアが顔を伏せる。

 騎士ラ=グラリアは記録を参照し、裏をとっていた。

 

「……確かに、この世界へ来る前に亜空間内で謎の信号発進が何回か記録にあります。

 特に気にしていませんでしたが……今思うと、これは空間内の怪獣に対する信号ですね。

 『涙虹石イーリス・リアクター』……いや、『幻想改変枝プリズム・コンバーター』が成長する因果情報を集めていたのか」

「『幻想改変枝プリズム・コンバーター』は、我が国で稼働できる者はいませんでした。

 おそらく、別世界に送り込んで起動できる者を探していたのでしょう」

 

 二人は暫く沈黙。

 ミアはそのまま顔を伏せていたが……やがて、顔を上げる。

 頬には涙の跡……そして、決意の瞳があった。

 

「騎士ラ=グラリア、私は……何でしょうか」

「……アル=ラツェルトの王に連なる、殿下にございます」

「今、我が国民は既にほぼ『怪獣』と化しました。

 行政機関はその能力を失ったと考えます。

 残る国民たる騎士ラ=グラリア、貴方はその剣を誰に預けますか?」

 

 騎士ラ=グラリアは、ミアに最敬礼で跪く。

 

「我が忠誠は、御身の前に」

「よろしい。

 これより、アル=ラツェルトの国事は私が預かります」

 

 略式の戴冠式。

 これを以て、ミア───ミ=アー・ス・ラ・レーグヌム=ラ・ツェルトは正式に女王として即位した。

 

「ポヨさん、調整は終わりましたか?」

「何とか終わったポヨ。

 でも、ほんとにやるポヨか?」

「はい。ガ=ヘリクトが取り込んだ我が国民。

 彼らが全て賛同していたとは思わないし、思いたくありません。

 ───なら、私でも出来る・・・はずです」

 

 ポヨと騎士ラ=グラリアは顔を見合わせる。

 ミアの決意は本物だ。

 今の状況をどうにかする……いや、どうにか介入するにはだが、最早それしかない。

 それは分かってはいたが───

 

「二人は、早く退艦しなさい」

 

 ポヨと騎士ラ=グラリアは動きださなかった。

 しかし、ミアにどんと押され……脱出用のランチに詰められて射出された。

 

「───」

 

 すぅー、はぁー、と。

 大きく深呼吸したミアは、通信機を手に取る。

 まだ、繋がるはずだ。伝わるはずだ。

 ガ=ヘリクトが取り込んだ民に。

 

『我がアル=ラツェルトの民よ。

 まだその心に誇りが残っているのであれば……。

 私……ミ=アー・ス・ラ・レーグヌム=ラ・ツェルトの下に集いなさいっ!』

 

 ミアに、光が集う───

 

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