能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
<<あかりさん……聞こえますか、あかりさん>>
どこか遠くに響く声に七井土あかりは、顔を上げた。
今時分がどこに居て何をしていたかも分からない。
ただ、どこかに向かって歩いていたように思う。
「行かなきゃ……」
ざっく、ざっく、と。
砂の山を歩く。
どこに向かっているのか。終わりはあるのか。
そんな疑問も浮かぶ端から、流れて溶けてゆく。
<<起きて下さい、あかりさん……>>
頭に響く声に振り返るも、誰もいない。
そんな疑問も流れ、振り返って、ただ歩く。
ざっく、ざっく。
<<あかりさん───ユウさんが、危ないです>>
「……?」
ユウって誰だっけ?
ふと浮かんだ疑問に、あかりは立ち止まる。
いつものようにすぐ気にならなくなる───訳じゃなかった。
ユウって誰?三上君?三上君って誰?
疑問がぐるぐるとループする。
「───あ」
そして───ふと我に返る。
私は? ───七井土あかり。イーリス・ブラック。
ユウって? ───その……大好きな人。
「ここは……」
確か、月軌道に来ていたはず。
このどこかも分からない砂漠ではなかった筈だ。
そう思った瞬間、目の前が開け───ミアが現れた。
<<繋がりました。あかりさん、思い出してください───あなたは、今、瀕死状態です>>
「……そうだ、私」
『涙虹石』を取り上げられ、必死に残る魔力をかき集めながらイスタスに掴まっていた。
しかし、遂に魔力を使い果たし───それからの記憶がない。
おそらく、心臓と肺が無くなり循環が停止。そして意識を失ったのだろう。
もう……9割死んだようなものだ。
「死ぬのかな……私」
<<死なせません───あかりさん、貴女が死んだら……ユウさんも、イスタスさんも悲しみます>>
「でも……『涙虹石』が無い私が居ても、役に立つ訳じゃ……」
<<違います。あかりさん、役に立つかじゃない。
貴女が皆を『助ける』のですよ>>
「……え」
あかりは、驚いたように肩を跳ねさせる。
少しは皆の役に立てるように、助けられるように……それは、確かに変身できるようになってからのあかりの気持ち。
でも……結局は、こうして守られている。心配をかけている。
ならいっそ……諦めてしまった方がよいのではないか、と。
<<あかりさん、私たち……一つ、いや二つかな。共通点があるんです>>
「……共通点?」
諦めに向かうあかりへ、ミアが優し気に声を掛ける。
<<頑固な事。
それと───大好きな人のこと>>
「ッ!?」
それは言うまでもなく、三上ユウの事。
夏休みに急に現れて1週間ばかり彼の家で過ごした事。
その短い思い出が、あかりの脳裏によぎる。
<<どれもこれも、懐かしい。私この思いを捨てたくない。
ユ=ウに死んでほしくない。これって、貴女も同じ?>>
「うん……そうだね」
二人の思いが交わる。
最初は隔意しかなかったあかりも、記憶が重なった今二人の思いは同じ方向を向く。
<<ユウを守ります。
助けられる私じゃない、『助ける』私になるために>>
「───うん!」
二人の重なる心が、力へと変わる。
あかりが心を解き放ったことで、ミアに集まる『意思』の力があかりに集う。
<<今の私は、我が国民の3割の心と共にあります。
ガ=ヘリクトより少なくとも『怪獣化』した私は、何でも成れる。
あかりさん───あなたの『心臓』だろうと!>>
「───分かった。
ミアさん、一緒に……助けに行こうっ!」
二人の手が重なり、光が満ちる───
〇 〇 〇
『む、これは……ミ=ア殿下か』
あと一歩でイスタス達を消し飛ばせる……そんな時、ガ=ヘリクトは急に自らの中から飛び出していく力を感じた。
そして3割ほど身体が縮小し、出力が落ちる。
それはガ=ヘリクトが行った『怪獣化』と同じ手段。
彼女へ向けられた国民の意思を束ね、力とする。
巨大な龍から抜け出した力は光となり、七井土あかりへと降り注いだ。
『ふん、その程度ではどうにもできん』
しかし、所詮は全体の3割程度。自らへの支持はゆるぎない。
7割の意思を束ねるガ=ヘリクトを凌ぐ程の力はない。
そう、自らの勝利が揺るがないことを確信した。
……それが、油断を呼ぶ。
「あ、あかり……?」
息も絶え絶えで『特異点』を維持していたイスタスは、浮かんでいたあかりから発する光に目を細めた。
ガ=ヘリクトの身体から抜け出した光はあかりの胸に飛び込み、熱を持つ。
蠟人形のように白かったあかりの相貌に赤みが差し、すっとその目が開いた。
「……あかり?」
イスタスの問いに、あかりはゆっくりと微笑む。
あかりはいつの間にか胸の前で組んでいた手を開くと、その下にある傷は白い光によって修復されていた。
そこに『涙虹石』は無い。
───代わりに、龍の顔を模したペンダントが浮かんでいる。
それこそ、ミ=アがその命と引き換えに生成した『心臓』。
新たなる魔法少女の相棒である。
「イスタス。これまで守ってくれて、ありがとう。
これからは私が……私たちが、あなたを守る!あなたが背負ったものも……全部!
───だから見守ってて……私の、変身ッ!」
「───っ!」
あかりは決意と共にイスタスの前に立ち、ぎちぎちと龍の紋章を握って『ガ=ヘリクト』を睨む。
彼女の背に守られる形となったイスタスは、初めて彼女の背中を見た。
慌ただしく出発してきた彼女の上着は、何時もの普段着である使い古しのボケたジャケット。
……決して綺麗な背中ではない。
しかし、これ程までに頼りがいのあるあかりの背中を、イスタス───三上ユウは見た事無かった。
「───変ッ身!」
あかりの胸元にある『心臓』から虹色の光が放たれる。
光の中であかりの服は虹色に分解され、光の粒となって消える。
『心臓』から放たれる七色の魔力により辺りは目が明けていられない程の眩しさとなった。
その中で両手を横に広げたあかりへ七色の光が巻き付き、黒いレオタードのようなインナーとなる。
両手両足にはレース地、黒字に金のラインが入った手袋と膝までのソックスが伸びる。
腰の後ろに大きな黄色いリボンが巻き付き、そこから伸びた光がシンプルな黒地のミニスカートとなった。
上半身には白と黒のジャケットが形成され、金の刺繍とラインが入る。
少し開いた胸元には『心臓』が取りつき、龍の顔を模した形へ変化した。
あかりの目に湛えた決意が虹色の光となり、長い黒髪は金色と染まる。
柳眉を逆立てたあかりが光と共に、彼女自ら名乗りを上げる。
「数多の命と悲しみを力に変えて、今……私は、生まれ変わる」
黒い下地に金のラインが入るコスチュームの少女、七井土あかり。
彼女は仁王立ちしたまま、右手で『ガ=ヘリクト』を指さす。
「───魔法少女、イーリス・ブラック。そして───」
イーリス・ブラックの胸元から飛び出す光が、人間大の『龍』へと変わる。
白く柔らかな鱗を持ち、長い尻尾と一対の翼をもつ龍───それは、ミ=アの変化した姿である。
「───騎龍、ミ=アー・ス・ラ・レーグヌム=ラ・ツェルト」
白い龍───ミ=アの背に立ったブラックが、ガ=ヘリクトを指さし……ぎゅっと拳を握った。
「人々を苦しめる怪獣は、私たちの命を全て使って───倒し尽くして見せる!」
ブラックが右手を横に振り、見得を切ると共にミ=アが吠える。
ミ=アの白い翼から虹の光が溢れ出し、二人の身体を前に進めた。
<<イーリス・リアクター戦闘出力。制限時間、無制限。あかりさん……行きますよッ!>>
「はい、ミ=ア!」
二人は頷きあい、イスタスのそばを離れ一気に宇宙を掛ける。
それは例えるなら彗星のように。
暗い宇宙に白い航跡が走る。
『ミ=ア殿下、今更『涙虹石』を再構築した程度でッ!』
それを見たガ=ヘリクトが左腕を振るうが、急旋回した二人はするりと脇を抜ける。
そして急旋回し、逆落としにガ=ヘリクトへ迫る。
「ミ=ア!出力を上げて、ランサーを!」
<<ドラコ・モード、起動!>>
ブラックのコスチュームに走る金の刺繡が、赤く光る。
光はブラックの両肩から放射状に伸び、光のマントを形成する。
そしてブラックの右手に、龍上槍である白いランスが伸び……そして回転する。
それは龍の国の思いを受けた力がドラコ・ランサーに集まり、虹色に光る。
その回転力は魔力で生成された疑似質量の生成と縮小により、更に加速する。
まるで回転力だけイスタスの『特異点』を模したかのような、無双の貫通力を誇る二人の新武装。
「ドラコ・ランサー!
……ええ、いッ!」
そしてブラックはその獲物を、勢いのままガ=ヘリクトの右前足へ突き立てる。
少しの抵抗はあったが、二人の勢いに負けたのか鱗を貫通。
ガ=ヘリクトの鱗は今まで解析した『怪獣』を模した、尋常ではない強度を粘性を誇る。
300t超の一撃すら容易に防ぐ鎧を、ドラコ・ランサーは容易く突き破った。
イスタスへ向けられてたガ=ヘリクトの剣の力が、緩む。
『このッ! 調子に乗るなッ!』
だがガ=ヘリクトもそれ以上は怯まず、ブラックへ向け何かを投げる。
それは途中で無数に分裂を繰り返し、宇宙を埋めるがごとく増えてゆく。
「あれは……あの時のッ! 探査装置とかいうやつ!」
それは、ブラックにとって忌々しき初戦の相手。
虫とも哺乳類ともとれる、奇妙な生き物。
決して強いわけではないが、その数は異常と言うほかない。
「ミ=ア、ドッキング・シーケンス!」
<<ドッキングします!>>
数が多すぎで機動力で振り切れない───事を判断したブラックが、合体を指示。
白龍ミ=アが光になり、7つに分離する。
白い光はエングレーブを施した手甲、脚甲になり、ブラックのコスチュームに装着される。
また、ブラックの背に回った2つの光が1対の翼となり、腰から白い真っすぐな装甲関節を持つ尻尾が伸びる。
最後に胸元に回った光が龍のペンダントと同化し、白い『龍の顎』が現れる。
これこそはミ=アとブラックの完全同期。
『怪獣』と『魔法少女』が一つになった存在。
『怪獣化』により多数の思いの力で急発達した力が、魔法少女の『魔力炉』を活性化させている。
紫電を纏うほど可視化された魔力を放ちながら、無数の探査装置が襲い掛かる宇宙を駆ける。
「ミ=ア、ブレスで一気に薙ぎ払います!」
<<分かりました。魔力周波数、探針波連続発射……共振周波数、特異点特定>>
一体化したミ=アから、探針用の魔力が放たれる。
それはかつてあかりが騎士ラ=グラリアから受けた音波攻撃『オーロラ・ロアー』に似ている。
しかし、ここはもちろん宇宙空間の為、空気はない。
だが空気はなくとも、ここには濃密な『魔力』が存在する。
ならば『魔力』を『波』と定義し、同じ振る舞いをさせる事も今の二人には造作もなかった。
「バレル展開……ミ=ア、口を開けて!」
ブラックの胸部に光で白き龍の頭が描かれ、ブラックの言葉にミ=アの顎が開かれる。
<<ドラコ・ブレス!>>
そして、その口腔から特定周波数の魔力波が放たれる。
それは距離も真空も無視し、魔力波さえ届けば効果を発揮する防御不能の必殺攻撃。
───ギキキキっ!?
音の無い宇宙で、魔力を通して探査装置達の悲鳴が響く。
ブラックに近い方から順に『ドラコ・ブレス』に触れた端から、探査装置の獣はサラサラと光の粒となって消えていく。
ブレスの効果範囲は波のように広がり、無数の探査装置はたった一射でその全てを光へと分解された。
『何故こうも、今更……今になって、盾突く!』
<<それはこちらのセリフです!
魔力の因果を消し去ったとして、世界が救われる保証があるのですかっ!>>
ぎりぎり、と口蓋を打ち鳴らしたガ=ヘリクトが尻尾を振り回す。
100m級の巨体から振り回される大質量の運動エネルギーは、小惑星を砕く程のもの。
しかしブラックは自らの赤い光のマントを囮にし、間一髪でそれを避ける。
ついでとばかりにドラコ・ランサーを振るって尻尾に傷を残す。
ランサーは耐え切れずに砕け散ったが、ガ=ヘリクトの尻尾に大きな亀裂を刻み込んだ。
『やってみなければ、分からん!
それに……どうせ失敗したところで、痛くも痒くもないわッ!』
ゴウ、とガ=ヘリクトが吼える。
彼の怒りに呼応して、ばきばきと身体に赤い筋が浮かび上がった。
「それは……単なる自殺じゃないっ!」
『だとしたら、どうした!
私にはもう……失うもの等、無い!』
ブラックの言葉にも、ガ=ヘリクトは聞く耳を持たない。
彼───魔力の暴走により家族を亡くした男には、最早届かないのだ。
<<あなたもまた……同じだったんですね……>>
「……うん」
ミ=アもあかりも、彼の目的が個人的な『復讐』であることは、もう分かっていた。
1国の指導者に上り詰めてまでやる事が小さい?まあ、そういう見かたもあるかも知れない。
しかし、それはミ=アとて同じこと。
復讐の方向とやり方が違うだけで、二人はとっても似た者同士だとも言える。
ただ、まだ彼女には『責任』がある。この諍いを終わらせる責任が。
その矜持だけが、ミ=アをガ=ヘリクトの所まで堕ちるのを良しとさせなかった。
結果的に……ではあるが、それが勝負を決めた。
彼と正々堂々議会でやりあっていたら、敗北していたのはミ=アの方だっただろう。
<<ブラック、王家の剣を委ねます。この戦いに、終止符を!>>
「ええ!」
ブラックの尻尾パーツが分離し、目の前で関節毎に接続され長い柄となる。
それは、巨大な剣───宇宙船『アル=ラツェルトⅡ世』に積まれていた、初代祖龍の持つ王家の剣の持ち手。
ブラックがそれを両手で掴むと、がしん、と先端が二つに分かたれ、長い鍔となった。
「インペラトル・ソード・フォーム!」
<<展開します!>>
ブラックの声と共に、巨大な柄から黒い刀身が伸び、虹色の文様が走る。
それは、ガ=ヘリクトの持つ因果律遡行剣のオリジナル。
因果律を遡行し、存在矛盾を起こして対象を歴史から消滅させる奇跡の顕現。
思いの力を受けたその刀身はシステムの設定距離を超え、大きく、長く拡大する。
1km先まで拡大したそれは、一瞬で今度は逆に2m程の長さに縮まる。
それは小さくなったのでない。その質量のまま恐るべき圧縮率で凝縮されたのだ。
その思いが、砕かれないために。
その願いを───届けるために。
「ガ=ヘリクト、覚悟!
インペラトル、エクティス、フル・チャージッ!」
<<幻想改変枝・過剰出力、イーリス・リアクター最大出力>>
ブラックに宿る思いが、ざわめく様に頭上に掲げた剣に集う。
彼女の幻想改変枝は規定の最大出力を超え、軋みをあげながら思いを力を変換する。
「……くッ!」
およそ人が耐え得るものではないエネルギーが溢れ、ブラックの身体をバラバラにしようと暴れだす。
決して破れる事の無いコスチュームすら耐え切れずに所々破れだし、その度に彼女は傷を負う。
しかし───いつの間にかブラックの隣には、ミ=アの幻影が立っていた。
彼女が共に剣の柄の手を添えると、暴れ狂うエネルギーは収まりを見せた。
二人は頷き、剣を共に持ちながらガ=ヘリクトへ向ける。
「これで、全部───」
<<持っていきなさいッ!>>
ブラックの翼から光が飛び出し、二人はガ=ヘリクトへ駆ける。
彼はそうはさせじとイスタスへ向けた因果律遡行剣を引き戻し、二人へ振り下ろす。
さしもの二人も、巨大なガ=ヘリクトの剣に吹き飛ばされる───事は無かった。
ばきん、と。
『馬鹿なッ!?』
ガ=ヘリクトの持つ因果律遡行剣が、あっけなく砕け散る。
同じ因果律遡行剣がぶつかり合った場合、原理上は魔力が高い方が競り合いに勝つ。
しかし実際は僅かに抵抗を示しただけで、ガ=ヘリクトの剣はそれを防ぐことができなかった。
───彼は気づいていない。
ブラックと───ミ=アと戦闘を始めてから、段々とその身体が縮小していたことを。
ミ=アが国民にずっと呼びかけ続けていた事を。
二人の支持率は今、この瞬間……逆転した。
それはつまり、復讐よりも世界の明日が欲しいと言う国民の答え。
それがこの二人の対決、最後の決め手となった。
───貫く。
音の響かない宇宙の中で、二人の剣が、ガ=ヘリクトの胸元───『超大型極光石』を貫いた。
響かないガ=ヘリクトの絶叫を背に、二人はそのまま大きな風穴を開け、突き抜ける。
ブラックとミ=アはガ=ヘリクトを振り返らず、目を閉じる。
<<……眠りなさい>>
ガ=ヘリクトの残骸が虹に包まれ、泡と消えていく。
因果律を遡り、彼はこれから居なかったことにされる。
だが、誰も覚えていない訳ではない。
彼の研究通り、因果の法則の例外である『魔力』は、その結果のみを記録する。
『魔力』を持った人間は、彼の事を忘れないだろう。
ブラックはガ=ヘリクトを背に振り返り、ぶん、と剣を振るう。
それと共に、ガ=ヘリクトだったものは……何かを言い残すこともなく、虹の彼方へと全て消え去った。
───神龍アル=ラツェルト、撃破。
<<ありがとう、あかりさん。私を王で居させてくれて……>>
「いえ……」
胸元の輝きが、急速に萎んでいく。
一つの目的を終えた『思い』が、方々に拡散して行くのだ。
この『力』が使えるのは、今日限りの奇跡。
薄れゆくミ=アの気配に、ブラックは目を伏せた。
<<大丈夫。一人じゃ、ないから……>>
その声を最後に、ブラックの中から気配は消え去った。
魔力も体力も限界まで出し切ったあかりも又、意識を混濁させながらだんだんと眠りに落ちていく。
このまま……全て消えてしまおうか。
───とん。
そのまま地面まで漂うばかりと思われたその身体は、何者かに優しく支えられた。
普段着のデニムとジャケットのままで、ブラックに微笑むのは、何を隠そう三上ユウである。
「……二人供お疲れさん。相変わらず扱い難いんだよ。
まぁ───後は任せろ」
ユウがポンと頭に置かれた手には、彼女の思い人の匂いを感じさせる。
その不思議と安らぐ匂いの中、眠りの中で落ちていくのだった。
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気を失ったブラック───あかりを回収した三上ユウ。もう変身が解けて琴音にバレたのでユウと呼ぶ。
やたらと不必要にべたべたくっつくようになった後輩にチョップをかましながら、三人は地球へ飛ぶ。
ガ=ヘリクトが消滅した時点で『超大型極光石』も消滅したのか、地球に掛かっていた靄のような魔力は立ち消えた。
急ぐ理由は無いので、安全に帰る事にしたのだ。
来るときは宇宙船があったが、もうあれはミ=アと一体となり消え去った。
従って、宇宙から帰還するには全て三上ユウが個人でやらねばならないのだから。
ポヨ公と騎士ラ=グラリア?まあ、何とか帰ってくるでしょ(棚上げ)。
「スタ先輩───じゃなかった、三上さん?」
「いつも通りでいいぞ?」
「じゃあ、スタ先輩。
当面の危機は去ったけど……実はまだ何にも解決してないっすよね?」
「だよなぁ……」
世界の魔力減少問題はまだ先らしいので棚上げするとして……。
残った問題としては───アル=ラツェルトを1体と数えるなら、残り2体の怪獣の始末。
それと地球で活性化した7つの『龍脈』とやらをどうするか、もある。
当然、当事国が絡んでくるだろうし、そうなると『魔法少女』だけでどうにかできるモンでもない。
だが、唐突に『怪獣』が龍脈に突っ込んでアボン、地球に核の冬が訪れた!ENDの可能性も0ではない。
どうにかできるのは自分達『魔法少女』だが、何かに縛られたくはないというジレンマ。
さて、どうしたものか……。
「今回は色々、危なかったっスよね」
「そうだな。正直、自分に足りないものを自覚したよ」
琴音がすりすりとユウの腕に頬を擦りつけながら言う。
結果的にこうなったが、最初からユウが全力で何もかも吹き飛ばすこともできたかも知れない。
まあ、その場合ミ=アもあかりも自分さえ全力で曇るだろうから……良かったと信じたい。
「あたし達も結構、無茶苦茶な自覚はあるっスけど……。
ここまで振り回される羽目になるとは思ってなかったっス。
建前は兎も角として……もっと、積極的に動くべきかも、って」
「そうだな」
原因の一つは、受動的であった事だ。
相手の出方を見てから方策を考えるスタイルで、イニシアチブを取れる訳がない。
考えてみれば、ルクスを除いて初めて人間と変わらない『意志』持つ相手だった。
残りの『怪獣』が意思持つとは考えたくないが……。
「で、一つ提案があるんス。
あたし、考えたんスけど。
今の『魔法少女』じゃ積極的に動けないなら……」
琴音がユウを見上げながら……口の端を不気味に持ち上げる。
「二人でこの世界を動かすために。
───悪の秘密結社、やらないっスか?」
琴音の両手が、ユウの頭を掴む。
地球を背に微笑むその顔は、『魔女』に相応しい妖しい輝きを湛えていた。
龍の王国編終了。
次回、悪の魔法少女編 ……また、暫く時間貰います。