能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
怪獣をなんやかんやで特異点に叩き込み、何とか街と家族と自宅とその他大勢を守り切った魔法少女イスタスこと三上ユウ。
あの後超スピード!? で目についた要救助者だけ助け起こして追っ手を撒くためにいろんな所を駆けずり回ってから、変身解除。
何とか動いてた電車に乗って最寄駅から悠々と自宅へ帰還したのだった。
で、あの激闘から一夜明けて。
流石に疲れたユウは夕食後すぐに爆睡してしまっていた。
朝起きてT〇itter(SNSアプリ)を立ち上げると、案の定様々な見出しがタイムラインを賑わせていた。
トレンドタグには、
『#本物の怪獣』
『#現場魔法少女』
『#死者138人』
首都圏の端にあるそこそこ大きな街であるので、動画で撮影していた人がおり、大量にアップされている。
警察や政府の公式見解などはまだ出ていない。
当たり前だが虚実様々な憶測が飛び交っていた。
「……おーおー、結構撮られてるな」
イスタスの動画だけ抽出してみると、様々な角度から撮られていた事がわかる。
幸いにも変身前の姿をとらえているものは無かったので、ユウは胸を撫で下ろした。
(やっぱり便利。俺の魔法少女)
堂々と姿を現す手段を得て、ユウの6年間燻っていた承認欲求がむくむくと満たされるのを感じる。
ただ一部はイスタスの『ヨシッ!』姿を切り抜いて、現〇猫とのコラや現場魔法少女猫.BBまで作られている。
一生ネットのおもちゃコースかもしれない。まあ有名税というやつだろう。
よくできているイスタスMAD動画をニヤニヤ笑って見ながらタイムラインを流していくと、2階から目を覚ましたポヨがふよふよと降りてきた。
「ちょっと性格悪いポヨ。138人も死んだって書いてあるポヨよ」
「そこは深く突っ込まないことにする。精神衛生上よくないからな。
てかお前、日本語読めたのか」
「覚えたポヨ」
「まじかすげぇな」
トレンドをざっと見た後に新聞の見出しを流し見すると、おっさん向けの言い方に直したニュースが踊っている。
曰く、
『問われる災害出動の意味、9条改正に向けた動き本格化か』
『日米安保の更新について政府間協議が開始』
こちらはまだイスタスは出てきていない。
怪獣以上に裏が取れない存在だから、飛ばし記事にはしにくいのだろう。
まあ、スポーツ新聞系には今頃1面を飾っているはずだ。
「というかポヨ公、お前普通に寝たりするんだな?」
「ポヨを何だと思ってるポヨ。
ポヨは8時間寝ないと死んでしまうポヨ」
「まじかすげぇな」
ポヨはユウの食べかけのトーストをあむあむと食べ始める、ユウは無言でもう一枚のパンをトースターに入れる。
「それよりポヨ公、今日帰ってきたらお前の事とか怪獣の事とか聞かせてくれ。
今後の活動方針を決めたい」
「わかったポヨ。でもどこ行くポヨ?」
「学校だ。俺ぐらいの年はみんな学ぶのが仕事なんだ」
「何を学ぶポヨ?」
「世の中のしくみかな」
「すごいポヨね」
朝飯を平らげた後、ユウは家を出る。
家の鍵はかけておいたが、ポヨ公が何かやらかさないか心配だった。
──────────────────────────
「いやホームルームなっが!」
普段通りに登校したユウは、喧噪渦巻く教室で思わず口に出した。
既に1限目の時間に掛かりつつあったが、担任教師が来なくてHRがなかなか始まらない。
どうやら職員会議が長引いているらしく、生徒は自習するようにとのアナウンスが流れていた。
「てか今日休みで良くない?」
「最初に言ってくれよなー」
教室中でめいめいにぶーたれる声が上がる。
自習している奴なんかおらず、みんなスマホに噛り付いて情報を漁っていた。
こいつらがイスタスの姿を見てると思うと、ユウとしてはこそばゆい気持ちになる。
(それにしても、こいつらの中に被害者は居なさそうでよかった)
さすがのユウも、クラスメートに被害者が出たら寝覚めが悪い。
教室内を見回して欠けている人間がいないことに内心そっと胸をなでおろす。
(……あいつも、大丈夫そうだな)
そして、ユウはチラチラと右通路側に座る少女に視線を向けて確認をする。
彼女───『七井土 あかり』こそは9ヶ月前、1年生時にユウが介入したいじめ対象であった。
去年彼女をいじめから助けて以来、ユウはちょくちょく彼女を目で追って『眼をかけてます』アピールをしている。
昔のヤンキーや番町よろしく『何かしたら三上ユウが出る』というバックを意識させることで再発を抑える試みだ。
上手くいっているようだが、本人からも恐れられているのがネック。
今は廊下の窓越しに別のクラスの女子と話をしている。
担任が来てないのはうちのクラスだけではないらしい。
楽し気に話しているので、まあ問題はなさそうだ。
(さて、内職でもしますか)
ユウはハードカバー付き文庫本を取り出し、見えないように鉄球に『強化』をかけてくるくる回す。
鉄球の素材強化と重力強化、まあ『特異点』技の練習である。
今までこんな技使うことないだろうと考えていたが、『怪獣』というこれまた出鱈目な存在が来ると分かればもう習熟しておくに越したことはない。
ぶっちゃけ昔ノリで作った技だったので、前回は制御ミスってあたり吹き飛ばしてもおかしくなかったことはポヨ公には絶対内緒だった。
「三上くん、何してるの?」
ユウのあまり話しかけんなオーラを無視し、前席の女生徒が話しかけてくる。
「麗らかな朝に一人、窓辺で静かに本を嗜む。
───魔法少女にしか為せない技よ」
ユウは焦らず、鉄球を隠しながら答えた。イメージは深淵のご令嬢。
「その筋肉で乙女はなくない?
いつもみたいにハードカバーって言うほどハードじゃないよねガハハとか言いながら本を引き裂いてよ」
「そんなことをした記憶はかけらもないが。
お前が望むならお前の教科書全部積んでから引き裂いてもいいぞ」
「ケチ」
前席の女生徒と雑談しながら、朝の時間は過ぎていった。
───そして一日が流れた。
「いやホームルームなっが!」
授業、昼休憩、午後の授業。
時間は矢のように流れ、帰りのHRの時間。
ポヨ公との打ち合わせに備えてそわそわしていたユウは朝と同様クソ長い職員会議に思わず叫んだ。
「まあしょうがないっしょ。怪獣出たんだし」
「てかまっすぐ帰れとかダルすぎ」
朝と同様、ぶいぶいと不満を言うクラスメートたち。
どうしようもないやつらではあるが、そのダメさ加減がなんとなく愛おしい。
(……あれ?)
また内職でもするかと本を取り出そうと机に手を突っ込んだユウは、机の中に見覚えのない紙に気付いた。
それは一枚のルーズリーフであり、急いで書いて破ったのか半分に破れている。
『明日の放課後、空き地まで来て下さい。───七井土』
(……明日?明日は祝日だぞ?)
愛の告白か決闘の申し込みか分からないが、何か言いたいことがあるようだ。
ちらりと七井土に目を向けると、目が合い、一瞬飛び上がって前を向く様子が見れた。
(うーん……DMでも飛ばしてくれればいいのに、何でこんな方法なんだ?)
手紙とも言えない手紙を送ってくる意図をユウは測りかねた。
ラブレター的内容ならルーズリーフ破って渡すみたいな雑な渡し方にはしない……はずだ。
(まあ、帰り道だし覗いてみるか。
……てか、ポヨ公の飯忘れてたな。何かやらかしてないといいが)
とりあえず飯は食べるらしい謎生物に昼飯を作るのを忘れていた。
冷蔵庫のあまりものでも食べているかも知れないが、最悪外に出ていると考えると今から恐ろしい。
ユウは一刻も早く帰ることを決めたのだった。
ちなみにその後、
(……いねぇ。本格的に今日と間違えているのか?)
HR終了後、七井土は矢のように教室を飛び出していった。
今日の間違いか聞きたかったのだが……とユウはとりあえずスーパーによって夕飯の惣菜を買ってから空き地に寄ったのだが、5分待っても誰も来ない。
(ポヨ公が気になるし、帰るか。明後日もう一度聞いてみよう)
ちなみに、帰ったらポヨ公は居間で倒れていた。
空腹で動けなくなったらしい。
ユウは夕飯を準備すべくいそいそと台所へ向かったのだった。
──────────────────────────
「第一回、魔法少女イスタス活動方針決定会議を開催します」
「ポヨー」
腹もくちくなり、ポヨの元気も復活した状態で、居間に巨大なホワイトボードが用意された。
達筆で書かれた議題名が躍る。ここに一人と一匹だけの会議が開かれた。
「改めてお前のことを教えてくれ。どこから来たとか、どうしたいとか」
「分かったポヨ。ポヨは元々妖精の国からきたポヨ。
妖精の国はこの世界から大分離れた次元にある国だポヨ」
「次元を移動するとかすげえな」
ユウは素直に感心した。
力づくでできることは大抵できるユウであるが、力づくではさすがに次元移動はできない。
ユウはホワイトボードに『すげえ』と書いた。
「ポヨは移動中、何か変なものに追いかけられて急にこの次元に落とされたポヨ。
この世界はポヨ達と相性が悪くて魔力がうまく使えないポヨ。
だからポヨ達の魔力を誰かに渡して使ってもらわないといけないポヨ」
「それで魔法少女か」
「そうポヨ。別の世界に行った妖精から聞いたことがあったポヨ。
ごく稀にポヨ達の魔力を持てる人間がいるポヨ。それが魔法少女。
ポヨはその人間を探していたんだポヨ」
ポヨ公は耳を前足で掻きながら愛らしいアピールをする。
この姿に釣られて魔法少女になるやつも出るかもしれない。
「妖精の国に帰るためにか?」
「その通りポヨ。でも今はそれは置いておいていいポヨ。
ポヨは100年程経てば自然に身体が無くなって妖精の国に帰るポヨ」
「なんだそれ。死んで転生するってか。
結構アジア的世界観なんだな」
「妖精はこの世界で言う精神的な生き物ポヨ。
肉体が無くなっても、魔力さえあれば妖精の国でもう一度復活するんだポヨ」
思ったより妖精っぽい生態をしていた。
生死の概念が人間とはだいぶ異なるようだ。
「つまり、お前の目的は魔法少女を作って魔法で次元の穴でも空けて帰れるならそれでよし。
出来なくてもとりあえずこの世界で100年間過ごせればそれでいいってことか?」
「そうポヨ。ポヨの仲間たちも同じ精神性だからあんまり気にしないでほしいポヨ」
「うらやましい限りだな。人生ゴールしてるようなもんじゃねぇか」
「ポヨは逆に一度限りの生を一生懸命生きている人間たちがうらやましいポヨ。
この間の『怪獣』で失われた命には大変申し訳ないと思うポヨ……」
しゅんとして下を向くポヨ公の腹の内は分からないが、少なくともユウには裏は無いように思えた。
「故意じゃないんなら、気にするな。
そういえば、魔法少女になるデメリットとかないのか?」
「そんなの特に無いポヨ。
もしやりたくないなら、涙虹石を捨てればもう変身できないポヨ」
悪質な変身押し売りでもないらしい。
とりあえず、ユウはポヨ公に対しては警戒レベルを下げる事にした。
「お前の目的はだいたいわかったから、次は『怪獣』の件にいくか」
ユウはホワイトボードに『怪獣対策』とでかでかと書き込んだ。
「次は『怪獣』について。まずはポヨの知見を貰いたい」
「分かったポヨ。
あの怪獣は次元移動中に遭遇した謎の生物ポヨ。
次元の狭間に居たってことは……どこか別の次元から『捨てられた』生き物かも知れないポヨ」
「捨てられた?」
「時たまああいう手に負えない生物を次元の狭間に捨てる世界があるポヨ……。
やめてくれって苦情を入れても聞いてくれない、迷惑な世界ポヨ」
「ゴミ捨て場になってんのか。お前ばっちいところからきてんだな」
「ポヨはきれいポヨ!」
ポヨ公の言い分はともかく、『怪獣』はどこかの世界から捨てられた廃棄物らしい。
もしかしたら次元のはざまに捨てないと世界が滅ぶレベルの災厄だった可能性も考えられる。
ユウはげんなりとした。
「んで、『怪獣』はあれ一体きりか?」
「それポヨが……ポヨがこの世界に落ちた時に7体ほどあれみたいな『怪獣』が一緒に落ちるのを見たポヨ」
「まじか……え、もうこの世界に7体いるの?」
それを早く言えとばかりにポヨ公を睨みつけるユウ。
しかしポヨ公は無視してしれっと話を続けた。
「そうポヨ。でもこの世界のどこに居るのかは分からないポヨ。
怪獣が魔力を持っていればこの世界のどこに居るかわかるポヨが、あの『怪獣』は魔力的な存在とはちょっと違うみたいポヨ」
「お前でもよく分からん『怪獣』が7体、いや、あと6体か。
なかなか厳しい状況だな」
前回のティラノもどきレベルが6体と考えると、普通に世界の危機である。
それぞれ違う世界から来てるとすると前回ほどの厄介さはないかも知れないが……。
渋面で唸るユウに対し、ポヨ公は安心させるように笑顔で続ける。
「でも、こう言うとあれポヨがこの世界で良かったポヨ。
ユウみたいな強い人間がいる世界なら、怪獣のせいで滅びることはなさそうポヨ」
「そうか。そこは勘違いしないで欲しいんだが、俺みたいな人間は俺以外に居ない。
少なくとも俺は6年間世界中を探し回ったが見つけることが出来なかった」
ポヨ公は四つ耳を逆立て、目を真ん丸にして驚愕していた。
おそらくユウのような能力者が大勢いるような世界だと思っていたのだろう。
「え……そう、なんポヨか?」
「そうだ。
後でその辺説明するが、『怪獣』の件に話を戻していいか?
あいつらには何か弱点とか、行動原理とか、そういうもの何かないか知らないか?」
ユウの事情は一旦おいて置き、今の『怪獣』についての弱点を探る。
今後の魔法少女としての活動を考えるにあたって、人類に怪獣は対処できるのか、できないのかが知りたかった。
今の人類で手に余る場合、魔法少女イスタスとしてはなんか人類の守護者みたいな立ち位置で『怪獣』を倒しに回る必要があるかも知れない。
正直、三上ユウとしてはそれは勘弁願いたかった。
ユウは確かに人々を守るヒーローには痺れる憧れるところはある。
最初はいいだろう。人々は救いの手が現れたことを喜び、イスタスを大歓迎する。
その後、怪獣被害が増えればいずれ取りこぼしが出て、それを責める人間も出るだろう。
それまでならまだいいが、怪獣を倒し終えれば今度は強力すぎる戦力としての『イスタス』を持て余す。
各国は何とかイスタスを制御下に置こうとするし、制御できなければ排除を考える。
仮に従順に従ったとして、一生厳しい監視下の生活は免れない。
死んだ後も貴重な研究材料として扱われる。
(やはり身バレ防止。身バレ防止を徹底せねば……)
「うーん……それぞれ別の世界から来てると思うポヨから、弱点は分からないポヨ。
まあ、でも次元の狭間に居たから、少なくとも空気が無くても生きていけるとは思うポヨ」
「まじか。宇宙にぶっ飛ばしても死なないのか。その方面で何とかできないか考えてたんだけどな……」
今の人類に100mを超える巨体の生物を第一宇宙脱出速度に乗せるような技術はない。
しかしユウの能力を使えば可能性はあった。
推力を『強化』するか、重力をマイナスに『強化』すればいい。
しかしここで『強化』の弱点が一つあった。
あまりに強力な『強化』はそれなりの時間と集中力が必要なのだ。
重力操作できる範囲もそれほど広くない。せいぜい自分を中心に2m程が限度。
例外として『特異点』でやったようにやることを決めて操作対象(コア)を絞ることで制御できる範囲や距離は伸ばすことが出来る。
しかしそれをするには普段から訓練を繰り返し、それだけに集中して何とかできるレベル。
しかも怪獣に張り付いて攻撃をいなしながらではまず集中力が持たない。
「あと、たぶん行動原理は『帰巣本能』だと思うポヨ。
昨日の怪獣、ポヨの空けた『次元の穴』の痕跡に向かって進んでたと思うポヨ」
「次元の穴って……あ、空き地の黒い穴か!」
「そうポヨ。」
そして新たな懸念事項が生まれた。
怪獣はあの空き地を目指して来る可能性があると。お前使徒かよ。
「それだけじゃないポヨ。今、この世界と次元の穴はほつれの状態にあるポヨ。
何かの拍子に小さい穴が開いたり閉じたりするポヨ」
「なんだと……え、ということは、あの空き地ってすげー危険じゃないのか?」
「めちゃくちゃ危ない場所ポヨ。
確率的には一番穴が開きやすい場所だし、怪獣も残り香を追ってくる可能性が高いポヨ」
ユウはカバンに突っ込んでいたルーズリーフの切れ端を思い出し、猛烈に嫌な予感が沸き上がる。
フラグが立ったみたいな。
「会議は一旦中断する。空き地の確認を先にしたい」
「いいポヨが……穴を開けたり閉じたりはできないポヨ?」
「それはいい、とにかく確認だ!」
急いで玄関に行き靴を履いたユウは、玄関から飛び出した。
空き地までは2分で到着するほどの近所である。
ポヨ公もふわふわついて来たが気にしなかった。
……そして。
空き地に到着したユウは、それを見たのだった。
───倒れている、七井土あかりを。