能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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ちょっとだけね、ちょっとだけ


第四章 悪の秘密結社編
第一話 To start up a "Sgr A*" 風向き、変わりそうね


 

 

 どんどん、ばちばち。ぱんぱん、どかん。

 明るい昼間に響く、見た目地味~な花火大会。

 それをフードの男───三上ユウは望遠鏡で眺めていた。

 

「……ふむ」

 

 真っ白。地面に積もる雪からの反射で眩しいほどの雪原。

 そんな目が痛くなりそうな場所に、三上ユウは立っている。

 ダボっとした防寒用のズボンともこもこのフード付きジャケットを着込んだユウは、双眼鏡で遠くを見やりながら息を吐いた。

 

「ガチガチっすね~。これは硬い。

 センパイ、そろそろこの花火大会も飽きてきたっスよ」

「……そうだな」 

 

 ユウは一人ではない。

 隣にはユウの首に手を回し、ペトリと無駄に身体をくっつけながら不満そうに口を尖らす少女。

 後輩にして、世界最後の魔女。そして3人目の魔法少女───雪下琴音ゆきしたことねがいた。

 

「それにしても、もう少し着込んで来いよ」

「動き難いから嫌っスよ。センパイにくっついてれば暖かいし」

 

 彼女の格好はぎりぎりまで切り詰めたダメージジーンズに、Tシャツ一枚。

 いつものペンデュラムをくるくる回しながら、ユウにもたれ掛かっている。

 対照的な涼し気な姿の彼女は、しかし寒そうにはしていない。

 

 それもその筈。

 ユウの『強化』能力の効果範囲である、周囲2mは気圧調整により常温に保たれている。

 むしろ薄着の後輩に配慮して少し温度を上げたため、着込んでいるユウが暑すぎて汗をかく。

 

 ユウはため息をついてフードを取り、上着を投げた。

 

「結界は機能してるんだろうな?」

「ばっちりっスよ。アタシらに誰も気づいてないない」

 

 ユウの確認に、琴音はぱちりと片目を瞑る。

 今日の彼女の役目は結界係。

 彼女の結界が張られた範囲は、外から見て全く違和感を感じないレベルで隠れられる。

 まあ、レーダーは対象外らしいが、徒歩の人間2人ではRCSが低すぎて探知されることはないだろう。

 

 赤外線?

 あれは範囲狭すぎてわざわざ『目標』から離れたこの場所を捜索するやつはいない。きっと。多分。

 

「で、あの『怪獣』どうするんスか、センパイ?」

「うん……今回は見送ろうか」

 

 更に、どんどんばちばちと音が響く。

 二人が見てる先に居るのは、ここ南極・・で新たに発見された『怪獣』。

 さしずめ『巨大亀』というべき姿の『怪獣』に、周囲を固めた多国籍軍から威力偵察用の攻撃がバンバン飛んでいる。

 

 苦労して持ち込んだ野戦砲やら、爆撃機からJDAM(レーザー誘導爆弾)が降り注ぐ。

 機種はなんと8発機、B-52だ。1950年代からの息の長ーい航空機。

 まあ、迎撃も無さそうな固定目標なんだから、B-1BやらB-2を使うよりはお財布に優しいかも知れない。

 

 ───しかし残念ながら『巨大亀』には全く効いていなかった。

 

 あ、それと攻撃前にはありとあらゆる方法でコンタクトが試みられた

 が、それは全くの無駄足に終わった。

 

 周囲にはいろんな周波数で語り掛けたり、文字見せたり、餌贈ってみたりの努力の跡がある。

 でも、『巨大亀』君全く無視。無反応。

 

 まるで岩山じゃないか? と錯覚するぐらいまるで動きなし。

 多国籍軍もまるで反応の無いのをいいことに、『巨大亀』に近づいて直接爆薬をセットまでしてる。

 んで、どかんどかんと先ほどまで発破作業が続いてたのだが、これまた無傷。

 最終的に岩盤掘削用の装備まで持って来て穴開けようともしたが、てんで歯が立たなかったようだ。

 

「さしずめ、『防御力』に振り切った怪獣ってとこっスかね」

「だろうな。ガ=ヘリクトの話だと怪獣の進化は『魔力』に対する免疫だとかなんとか言ってたが……。

 まあ、あの『ルクス』もどっちかと言うと逃げる方向に特化してたしな。

 そういう、進化の方向性もありなのかも知れん」

 

 琴音の見るところ、『怪獣』からは魔力も感じられないそうだ。

 とすると純粋に物理的にそれだけ硬いという事になる。そんなことある?

 戦車装甲に使われるセラミック複合材や合金と言えども、一瞬の衝撃には強くても継続的な衝撃には結構弱い。

 最近は敢えて壊れることで衝撃を逃がす構造もある。

 

 それぐらい最近の装甲貫徹技術は装甲技術を追い抜きつつある。

 いや、結局イタチごっこだからいつか装甲技術もまた伸びるんだろうけど。

 そのブレイクスルーのきっかけが目の前の『巨大亀』になる事を、各国は期待したりしてるのかも知れない。

 

「ここまでリアクションが無いなら、害する気も無いだろ」

「ただ単に硬すぎて人類認識してないだけじゃないっスか?

 ここはセンパイがドカンと一発」

「だから、やらんって」

 

 おそらく、ユウの『特異点』ならあっさり倒せる。

 懸念点である『魔力』が無いなら、ユウの『特異点』を防がれる可能性はほぼ無いのだ。

 仮に魔力があってもガ=ヘリクトや前回のブラック最終フォームレベルまで行って、ようやく『特異点』を防がれるレベル。

 

 だから、倒せはするだろう。

 でも、別の理由でこの『巨大亀』は今倒したくなかった。

 

「見ろよ。あそこに来てる連中」

「え……うわ」

 

 ユウが指さす先に居るのは、カメラを構えた報道陣。

 そしてそのカメラが向く先には、様々なプラカードを抱えて『巨大亀』の前に座り込む人々がいた。

 ユウから借りた双眼鏡で彼らを見た琴音が、苦り切った顔で言葉を吐き出す。

 

「『共生派』……って、やつスか」

「ああ。

 アル=ラツェルトが奴らを立ち上げて煽ってたらしいから、本格的な援助はもうない筈なんだが……」

 

 ガ=ヘリクトは『共生派』を作って足を引っ張らす作戦を実施してたらしい。

 と、騎士ラ=グラリアが言っていた。

 ガ=ヘリクトが居なくなった今、援助は無くなった筈だが……。

 

「地上に残ったアル=ラツェルトの残党か、若しくは『怪獣』が欲しいどっかの国か。

 奴らは新たなパトロンを得て……こんなとこまで来たってことだな」

「厄介っスねー……あ、ネットにも上げてる」

 

 『共生派』曰く、知性ある生命体を殺すな。汝隣人を愛せ。云々。

 こいつは前回の『ルクス』と違い、今まで全く何も喰っていない。

 動いてもいない……ただ、生きているだけだ。

 

 こいつは知ってか知らずか、人類を害する『怪獣』を倒す───という、今までの『魔法少女』の大義名分おやくそくを外している。

 いつか暴れださないか……と言う恐れはあるが、あれだけ攻撃しても無反応。

 ユウから見ても危険性は低いと考えられる。少なくとも、直ちに影響はない。

 いや、空気中に遅効性の毒でも撒いてるとか、環境作り変えてるとかしてるかも知れないが……。

 

「今『巨大亀』を倒したら、共生派に『魔法少女』に対する攻撃材料を与えちまう。

 『無抵抗で大人しい怪獣、人に害を為さないのに排除するのか?』ってな」

「今、散々国連軍が攻撃してるじゃないっスかっ!」

 

 『怪獣』発破作業の爆音を聞きながら、琴音が叫ぶ。

 しかし、ユウは肩を竦めるだけだった。

 

「そんな事、お得意のキリトリ報道でどうにでも偏向できる。

 何より、そうなる様に黒幕バックが世論を煽っているっぽいし、しょうがないだろ。

 この花火大会だって、恐らく本気じゃない。安全性の最終確認みたいなもんだ」

 

 全世界の国家、研究機関、企業にとって怪獣は魅力的だ。

 素材の一かけらとっても、とんでもない強度があるのだから研究のし甲斐がありそうだ。

 魔法関係はアル=ラツェルト経由の情報もあろうが、ひも付きじゃない研究対象は喉から手が出るほど欲しい筈。

 

 ユウが『特異点』に放り込んでしまうと、圧縮後マイクロかナノ単位のなんだか分からない物質しか残らない。

 最初のティラノもどきの調査でがっかりした各機関は、何とか『魔法少女』の手を引かそうと躍起になっている。

 それが、この『共生派』の活動として表れているのだろう。

 

「という訳で、今回は静観する。帰ろう。

 明日から2学期だしな」

「うぃっス。

 あ、それと明日レスキュー・ミッション・・・・・・・・・・・ですから、忘れないように来て下さいね?」

「お、おう……」

 

 琴音の妙な迫力を感じさせる笑みに、やや引きながらユウは帰り支度をするのであった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 かなかなかな、なかなかなかな、かなかなか。

 今日は気温が低いのか、昼間なのにヒグラシがよく鳴いている。

 

 夏休みも終わったものの、残暑厳しい2学期の最初の日。

 ここ、三上ユウの通う高校でも始業式が始まって、あっさり終了。

 ここ最近物騒なので注意、というお決まりの文句だけ聞いて今日は解散。

 

「……あれ」

 

 教室から帰り支度を始めたユウは、ふと、七井土なないどあかりの席を見る。

 彼女は欠席。

 

 彼女───魔法少女イーリス・ブラックこと七井土あかりは、地球に戻ってからずっと目覚めていないのだ。

 ポヨ公曰く、ガ=ヘリクトとの最終戦の際、ミアと意識が混ざった事。

 そして『アカシックレコード』と深く繋がったことで膨大な情報が混入し、昏睡状態となったそうだ。

 ミ=アの意識が完全に消えたのかどうかも、分からない。

 

 身体自体は問題ないとのこと。

 今の彼女は普通の医者が見たら健康なのに、(恐らく)精神的な問題で起きない謎の患者である。

 

 彼女は今、親父の伝手を使って入院し、情報の秘匿をお願いしている。

 親御さんへのカバーストーリー説明も親父にお任せした。

 ユウ自身が話しても、(社会的に)説得力が無いんで。仕方がない。

 

(まったく親父も……もっと話してくれればいいのに)

 

 あ、そうそう、ちなみに親父が冒険野郎の教授という建前で政府の工作員っぽいのは最近知った。

 ポヨ公と琴音に魔法使って調査してもらったもう、あっさりカメラだの繋がり先だの分かるのなんの。

 おかげで地球に帰ってからの親父(≒政府機関)との交渉はスムーズにいった。

 

(『魔法』怖ぇ~……原理が分からんのが怖ぇ~……。

 原理訊いても、自分が納得できないのが怖ぇー……)

 

 ユウが自分で納得できないという事は、『魔法』に対して『強化』能力が掛けられないという事。

 これを解決するには、多分長い時間が掛かる。

 近づかんとこ、したいけど……もう逃げられない程に関わっているのだ。

 

(もう政府筋からも、アル=ラツェルト協力者……ってバレたしな)

 

 親父もある程度ミ=アと仲良くなって何らかの情報を持って来てくれる打算はあったんだろう。

 その目論見に乗る形で、地球に還ってきてからは親父(政府筋)に以下の説明をしている。

 

 ・三上ユウと七井土あかりは、地球で(親父の手引きで)ミ=アと交友を持ち、アル=ラツェルト協力者に。

 ・ミ=アが女王に即位し、戴冠の為に月へ戻った際にガ=ヘリクトが蜂起。

 ・ガ=ヘリクトは地球に何かしようとしていた。(龍脈の存在は伝えてない)

 ・ミ=アはその企みを打ち砕いたものの、クーデターにより国はバラバラに。

 ・ミ=ア含む、アル=ラツェルトの者たち地球各地へ潜伏。

 ・騒動に巻き込まれたユウとあかりは命からがら逃げてきて、あかりは昏倒という寸法。

 

 上記のように、あくまで傍観者目線からの事情……と言う感じで説明している。

 そこまでの情報流出は妥協した。

 特に何かお咎めがある訳ではないが……今後、ユウにも監視が付く恐れはある。

 

 代わりと言っては何だが……ポヨ公と雪下琴音の存在。

 そして『強化』能力と魔法少女関連は、厳重に秘匿した。

 親父(≒政府機関)はまだ、あかりが『魔法少女』だとは気づいていない。

 

 病院に行かせる前にポヨ公に検査させたが、ミ=アを宿した影響か『魔力』が低レベルで安定している。

 つまり、不意に傷ついてもすぐ直るような異常は起こらない。

 バレる心配は、今のところ低いとのこと。

 

(まだ『魔法少女』はバレてはいない。

 ……でも、バレたらもう普通の生活はできないだろうな)

 

 『魔法少女』バレしたあかりの将来を考えると、ユウには不愉快な未来しか浮かばない。

 ミ=アを宿したと言うだけでもうアレだが……彼女の身体自体が魔法技術の塊だ。

 政府が離さないだろう。

 

 今、政府監視の病院に入っているのも気がかりだが……。

 では目覚めない彼女を囲ってしまえばよかったか?とも思うが、あの優しそうな親御さんを考えるとその手段は取れなかった。

 ユウは定期的に見舞いに行き、情報流出が無いかチェックする必要があった。

 

「……情報か」

 

 それから情報流出と言えば……琴音には『強化』能力がバレた。

 前回の一件で変身を強制解除されたのだから仕方がない。

 宇宙空間で能力解除すれば死ぬしかないのだし。

 

 ぎりぎり、あかりにはバレていない。ミ=アは知ってるからバレてるかも知れないけど。

 なので『強化』能力を知る者は、地球? 側はポヨ公、琴音の二人。

 アル=ラツェルト側はミ=アとラ=グラリアの二人。

 ……計四人。

 

 将来的にはあかり、親父辺りは話す可能性はある。

 だが、現状もうこれ以上増やす気はない。

 

 肝心なのは『魔法少女』関連、そして『強化』能力についての秘匿。

 親父及び政府筋にはアル=ラツェルト協力者という秘密の共有をすることで、今は勘弁してもらう。

 

 ……まあ、近いうち何らかの制限が来るかも知れないが。

 

「そういえば、委員長も休みか」

 

 ふと、ユウは考えを止め誰もいない前の席を見る。

 いつもの軽口を叩いていた委員長が居ないことで、どうにも座りが悪い心地だった。

 その原因は前席の友人の不在。

 

 委員長とは別にそこまで親しいわけではないが、中学時代から腐れ縁的に同じクラスが続く相手である。

 あかり事件以降、ユウとしては気軽に軽口がきける数少ない相手だった。

 せっかく『窓辺で一人、物憂げに外を見やる』乙女にしか為せない技、をしても突っ込んでくれなければ虚しいだけだ。

 

 最近も妙にあかりとの仲を気にしてみたりと、近所のおせっかいおばさん的な気の回し方をしていた。

 風邪でもひいたのだろうか。

 

<<ミー……ッ!>>

 

「はいはい……」

 

 そんなぼうっと前席を見やるユウに、どこからか猫の鳴き声が響く。

 奇妙な黒猫である。

 

 すたすたと窓の縁から降り立った黒猫には、首輪がある。

 そして、後輩がよく使う『ペンデュラム』が首輪から下がっている。

 

 頬杖をついたままのユウにぺしぺしと猫パンチを繰り出したあと、ぺろぺろ舐めて首の後ろをすりすりする。

 それに一つ顔を顰めたユウが、がさがさと荷物を纏めて鞄を背負う。

 

 ユウは黒猫をカバンに放り込んで、教室を出ていくのであった。

 

 

 

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