能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
ぺっぺっぺぺぺ、ぺっぺっぺぺぺ。
夕闇の中、独特のエンジン音が響く。
男───三上ユウは自らのスクーターを安全運転で、山道を走らせていた。
家への帰路ではない。
学校から一度家に帰り、私服の上から体格を誤魔化せそうな黒いコートを羽織っている。
彼はコートを靡かせ、ヘルメットを被った頭で曲がりくねる道先を見やる。
隣町への県道である山道だ。
「……そろそろか?」
<<そっスねー>>
唐突に琴音の声が、ユウの頭に響く。
スクーターにはユウ一人しかいない。
彼が背負ったバックパックからもぞもぞと黒猫が頭を出す。
その首には、琴音が肌身離さず持っていたペンデュラムが首輪に付けられている。
そして、黒猫はユウに語り掛ける。頭の中に、直接。
<<早く『涙虹石』直らないっすかね>>
「ポヨ公次第だろ。ガ=ヘリクトのコードを全部取り除かないと危なくて使えん」
残念ながら、二人は今『涙虹石』を持っていない。
ガ=ヘリクトに停止させられたコードを含む、ポヨ公の知らないコードを総当たりで変更中だ。
それが終わるまで、『魔法少女』への変身はできない。
<<そうっスけど……使い魔じゃなくて早く、生身で先輩の背中にくっつきたいっス!>>
「2ケツは違反だ」
黒猫が器用に首を伸ばして、ユウの背中にすりすりする。
この黒猫は後輩にして魔女にして魔法少女である『雪下琴音』が作り出した使い魔だそうだ。
あまり大したことはできないが、使い魔とペンデュラムを通してお得意の『結界』を展開できる。
これから行く先は『涙虹石』の無い琴音には危険であるため、使い魔として同行している。
以前から使い魔の制作はしていたのだが、今日完成したそうで。
その試運転がてら『レスキュー・ミッション』に付いて来ることになったのである。
琴音である黒猫は肉球のついた手でぴとっとユウの背中に触れながら、頭の中へユウの疑問に答えていた。
「確認だが、ラ=グラリアの話だと……確か、対象は10人だったな?」
<<そうっス。場所は隣県の総合病院、アル=ラツェルトの残党が居る可能性ありって>>
確認がてら琴音に話を振ると、琴音の使い魔である黒猫が器用に前足を組んで話し出す。
黒猫が揺れる単車の上でよたよたと鞄からスマホを取り出し、肉球で操作する。
「10人のレベルは?」
<<レベル7が9人……1人がレベル9。『結晶化』しかけっスね>>
「……急いだほうがいいな」
全世界の人々は一度、ガ=ヘリクトの手によって強制的に『結晶化』しかけた。
『結晶化』とは『極光石』になる事。
それはユウやあかりたち『魔法少女』の活躍によって阻止されたが、置き土産が残った。
それが世界7か所にある『龍脈』の活性化であり、大気魔力濃度の上昇。
ポヨ公曰く、『魔力』とは基本的に人体には毒である。
つまり、耐性の低い者と適正が高い者は体調を崩して寝込んでしまう。
最悪───『結晶化』してしまう。
それが全世界的に発生し奇病として問題となっていた。
「ラ=グラリアからの呼びかけはどうなった?」
<<あんまりっス。国内でミ=アさんを慕う十数人は来たそうっスけど……それ以外はさっぱりで>>
「まあ、そうだな……」
アル=ラツェルトはガ=ヘリクト共々消滅したが、地球に来ていた少数は生き残っている。
主に結晶化のために『龍脈』操作をしていた者たちだ。
彼らは龍脈のある7つの国家と繋がり、魔法技術を餌に工作していた。
それらをラ=グラリアからの呼びかけて集めているが、やはり集まりは悪い。
元々ガ=ヘリクト派である彼らを仲間に引き入れるのは難しいだろう。
「目の前のできることをするしかない。
まずは───『結晶化』を防ぐ。
琴音、結界頼むぞ」
<<うっス>>
暫くスクーターを走らせると、総合病院が見えてきた。
隣県の郊外に作られた総合病院は、町から少し離れた山の中にある。
アクセスが悪いにも程があるが、それは逆に『結晶化』などの奇病を隔離するにはうってつけだ。
ユウは病院の駐車場には止めず、県道脇の林の中にスクーターを隠して夜を待つ。
面会時間を過ぎ、人が疎らになったところで琴音に『結界』を張ってもらい、ゆっくりと進む。
───がしゃり、とフルフェイスヘルメットのバイザーを下ろす。
ユウは一見して体系を隠すような黒いコートに、フルフェイスヘルメットと言う怪しげないでたち。
『結界』も万能ではないので、院内カメラや荒事が起きた時に備えて身バレを防ぐためにこうなった。
『涙虹石』はまだ、ガ=ヘリクトのコード抜きができずに使えないのだ。
てくてくてく、と殊更ゆっくり歩くユウが正面玄関から、堂々と病院に入る。
院内はもう人はほぼいなくなっており、受付にいる看護師もユウの姿を見ることもしない。
『結界』が機能していることを確認したユウは、そのまますり足で病室へと向かう。
<<1階は……えーと、左に進んだ先にある病棟の7号室から9号室っス>>
了解、と声に出さず返事したユウが歩みを進める。
がらり、と病室を開いた先に寝ている少女の顔を、事前に確認していたスマホの写真と照合する。
「間違いない。処理する」
顔を確認した後、ユウは徐に懐から拳銃を取り出す。本物ではない。
元はエアガンであるが、ポヨ公お手製の改造が施してある。
「……すまんな」
ぱすん、ぱすん。
寝ている少女の胸に打ち込まれた命中痕が、僅かに光を放つ。
<<魔力強制排出装置の起動確認っス>>
「ああ、次に行こう」
それは、ポヨ公が開発した魔力強制排出・吸収装置を埋め込む為のもの。
元々『涙虹石』に搭載されている二つの機能だけを取り出した、簡易型のリアクター。
これを埋め込んでおけば、自動的に身体が耐えられる魔力量に調整してくれる……らしい。
「簡易型、もっと増産させんとな」
<<ポヨさん悲鳴上げてたっスよ>>
「悲鳴上げる元気があるなら、まだ頑張れる筈だ」
ポヨ公に与えているタスクは、3つ。
『涙虹石』の停止コード除去。
『結晶化』対策の魔力強制排出・吸収装置の増産。
んで、時間が余ったらブランク・リアクターの製造続き。
休み? いけるいけるあいつ妖精なんだから頑張れるって。
『無理』というのは、嘘吐きの言葉なんだから。
途中で止めてしまうから無理になるんだって()。
がらり、つかつか、ぱすんぱすん。
ユウはポヨに今度差し入れでも持っていこうと思いながら、無心で病室を回る。
病室を回って、顔を確認し、装置を埋め込んでいく。
これで3回目のミッションだったが、もう慣れたものだ。
「……これで最後か」
<<そうっスね>>
そして、最上階の端の病室にたどり着く。
そこには、レベル9───『結晶化』目前の患者が居るはずだった。
徐にがらりと戸をスライドさせて入ると、そこは個室だった。
ベッドにはユウと同年代ぐらいの少女が、寝かされている。
年の頃はユウと同年代───女子高生ぐらいだが、大きなベッドに寝ている姿はかなり小さく見えた。
病的に白い肌、そしてその肌と髪には虹色の光る線が走っている。
『結晶化』の兆候だ。
肩ほどまで伸ばした髪も、『魔力』の影響で虹色に輝いている。
顔を確かめるまでもなく、ユウが銃を向けようとして……ユウは気づいた。
その顔に───見覚えがあることに。
「……委員長?」
ユウの前の席に座るクラス委員長、卯花なぎさ。
ボブカットで切れ長の目、右頬に特徴的な泣き黒子……と、ユウとしてはその顔を見間違える事はない。
決して親友……とまでは言えないのだが、小、中学を通してユウの腐れ縁。
何故かずっと委員長をし続けるために、『委員長』が通り名となった少女である。
毎日ユウの愚痴の様なおちゃらけの様な謎の掛け合いに付き合ってくれる、唯一の友人と言っていい。
<<知り合いっスか?>>
「……ああ。まあ、友達……かな」
今日学校に来てなかった理由が、これだったとは思っていなかったが。
こうして知り合いにまで影響が出ていると、少しだけクルものがあった。
そして、委員長に気を取られている隙にもぞもぞと委員長のベッドから一人の少女がまろび出てきた。
「……もう一人、居る?」
もう一人……委員長と似た背格好で薄いピンク色の髪をした少女が、目をパッチリ開けてこちらを見ている。
『結界』を纏っている筈のユウに向けて、驚愕の表情を向けていた。
<<結界は切れてないっス! その娘も、適正者っス!>>
「11人目……か? 面会時間は終わっている筈だが……」
その娘はベッドで一緒に寝ていたのか、腰まであるピンク髪を所々跳ねさせている。
ユウは少し怯んだが、すぐ終わらそうと気を取り直す。
目を丸くして動けないピンク髪少女を押し除けると寝ている委員長に銃を向け、躊躇いなく引き金を引く。
ぱすん、ぱすん。
空気が抜ける音と共に、魔力調整装置が埋め込まれる。
その決して大きくない音と行為に、ピンク髪少女は驚いてシーツをばさっとユウに浴びせかけた。
「……なッ!?」
ばさりとシーツを左手で跳ねのけたユウ。
その隙にピンク髪少女は病室を飛び出して逃げていく。
追いかけるか迷ったユウは、しかしそれどころでは無くなった。
今しがた装置を埋め込んだ委員長に、大量の虹の光が走っているのを見て目を見開いた。
「琴音、どうなっているッ!」
<<急激に『魔力』が高まっているっス。この娘もしかして───>>
琴音が言葉を言い切る前に、寝ていた委員長の目がかっと見開く。
同時に彼女を中心に旋風が巻き起こる。
シーツやカーテンが大きく捲り上がり、空を舞う。
少女の瞳が虹色に輝き、開いた胸元から声が響く。
<<点火>>
そして、一瞬赤くなったかと思うと……舞っていたシーツ類が燃え上がる。
「……何ッ!?」
<<あっつ! 熱いっスよ!>>
急激に高まった気温に、ユウは慌てて自らの範囲の気圧操作をして温度を下げる。
同様する二人を他所に、ゆっくりと状態を起こした少女の胸元から光が漏れる。
それは……虹色の光。
しかし優しい虹ではなく、強烈な極光の光。
少女は鋭く眼を険しくさせ、ふわりとベッドの上に浮き上がる。
熱に耐えかねたのか、少女の病院着は燃え上がり、焼け落ちていく。
そして……胸元に現れた『それ』を掴んで呟いた。
「……変身」
委員長の胸元にある『極光石』から緋色の光が放たれる。
光の中で裸の少女の身体に、緋色の光が十二単のように重なっていく。
『極光石』から放たれる七色の魔力により辺りは目が明けていられない程の眩しさへ。
その中で両手を横に広げた少女へ七色の光が巻き付き、黒いレオタードのようなインナーとなる。
両手両足には艶のある、黒字に赤のラインが入った手袋と膝までの革地のブーツが伸びる。
腰から長い裾の透明なスカートが広がると、十字にクロスされたベルトが胸元を隠し締め付けた。
大きく開いた胸元には赤い『極光石』が取りつき、ペンダント状へ変化。
それが彼女のざっくり開いた胸元、そこに縦に走る傷に挟まる。
委員長の肌は赤みが差し、髪が腰まで伸びる。
そして頭からは後ろへ伸びる、二本の長く白い角。
無表情だった少女の瞳に光が宿り、極光と共に名乗りを上げる。
「命の炎を繋ぐために……今、私は生まれ変わる───」
黒い下地に切れ目の多いベルトとコート型コスチュームの少女。
委員長はベッドから降り立ち、そして……すかさずユウに向けて右腕を振るう。
「……ッ!?」
すぱっと。
病室を舞うシーツやカーテンが、一文字に切り裂かれる。
彼女の手には、いつの間にか光が凝縮した剣状のものが握られている。
それが……ユウの体表面に展開している気圧差障壁を貫いて、コートを切り裂き、皮膚まで達していた。
……ん、まあ、それ以上は流石に切り裂けなくて止まったが。
熱、振動、衝撃、電磁波、重力加速度に正圧・負圧なんでも防げるユウに物理現象では傷つかない。
「……これは、魔法か?積層した空間?」
ユウは接触した剣を掴んでぐにぐにと揉む。意外と柔らかい(ユウ的に)
ユウの感触的には、重力勾配が内側に極端に偏った広い空間。それが棒のように見えている。
幸いと言うべきか……その現象はユウの『強化』能力でも再現できる。
つまり、干渉できるという事。
「……ッ!」
剣を掴んだユウが、グイっと委員長を引き寄せる。
それに危機を感じた委員長が、剣を手放して後ろへ飛ぶ。
委員長は、少し顔を顰めながらユウへ啖呵を切る。
「───私は……魔法少女、オーロラ・スカーレット」
委員長───いや、オーロラ・スカーレットはそう言い放つと同時に、強烈なプレッシャーが病室を包む。
一気に濃度の上がった魔力が、大気を輝かせていた。
「あなた、あの娘……あの、娘たち、魔法少女の覚醒を邪魔するつもり?」
スカーレットの感情が高ぶるように肌に虹の光が走る。
彼女は自身の胸元に走る傷を左手で撫で、そこから虹色の魔力が含む呼気が噴出する。
それはユウがと言うよりポヨ公が作った『魔力強制排出装置』のスリットだが、うまく融合?しているようだった。
<<まあ、間違っちゃいないっスね>>
「……いや、『魔法少女化』する前に大勢死人が出るだろ」
琴音とユウが、スカーレットの言葉に突っ込む。
『魔力』に許容できないものは死ぬ。
『魔力』に適性を持つものは寝込んで、暫くして死ぬ。
『魔力』に適正を持ち、その中で一握りの神経が強い者が魔法少女になる。
男の場合や、年いった奴はって?
そもそも適性を持ちやすいのは女で、しかも年頃らしいからしょうがないだろ。
「あの娘は私が守る。その命……極光に還りなさいッ!」
スカーレットがおもむろに右手をユウへ向ける。
彼女の胸元にある『極光石』が光る。
すると病室内の熱量が上がり、次々に物が燃え上がる。
スカーレットから発せられる強力な遠赤外線によって、病室が燃え上がり。
熱で剛性を失ったベッドやら柱が、粉々に吹き飛んだ。
「……言ってくれるじゃないか」
だがしかし、当然の如くユウに怪我はない。
少女の魔法で黒いコートは熱を持ち一部燃え上っているが、ダメージは0だ。
魔力そのものは防げないが、魔力で起こった物理現象には負ける道理が無い。
それにしても、フルコスチュームの魔法少女に対し、フルフェイスと黒いコートで顔と体形を隠すユウ。
……どこから見ても、確かに怪しげな秘密結社の戦闘員である。拳銃持ってるし。
この場面だけ客観的に見れば、10人が10人ユウを悪と見做すだろう。
実際、免許も無しに勝手に医療行為と称して、怪しげな薬物(リアクター)を打ち込んでもいる訳だし。
ユウは自らの怪しいいでたちを自重しながら、『スカーレット』に話しかける。
「魔法少女になったところで、碌なことないぞ?」
「『魔法少女』になんなきゃ救えない命だってあるのよ。邪魔しないで」
十字にクロスされたベルトをあしらったスカーレットが、ユウを睨みつけて言う。
ユウはふと、今まで簡易型リアクターを打ち込んできた少女たちの顔を思い出した。
彼女の言う、救いたい命とは彼女たちの事だろうか、と。
「……まさか、耐えられるかどうかも分からないのに『魔力』を与えてるのか?」
「このまま死ぬよりマシよ?傾向はつかめたしね」
ユウがスカーレットの返答に眉を顰める。
確かに『魔法少女』になれば、不具合部分を『魔力』で補う七井土あかり状態になる。
医療への応用が効くとも、言えなくもない。
だが……彼女のやり方には大きな問題がありそうだった。
「……傾向を掴むために、犠牲を強いてるのか」
「有象無象が死んだところで興味ない。
あなただって、大切な人がそうなれば分かるわよ」
「……」
(でもお前だって友達だと思ってるし、友達に手を汚されたくねーよ)
とは言わなかった。喉元まで出かかったが。
スカーレットの回答に淀みはない。
ユウの見たところ、彼女はもう『覚悟』している側の人間である。
彼女について諸々の疑問が頭に浮かぶが、ユウとしては彼女に別に害意はない。
しかし……あかりとミ=アは彼女の境遇と行いに、どう思うだろうか。
あかりとミ=アが帰って来た時に、彼女たちの力及ばす助けられなかった涙は見たくない。
ユウはもう、彼女たちの瑕疵はあえて背負うと決めたのだ。
ほんと……『人を助ける』とは、辛い道のりである。
「そうだな……でも、その力を好き勝手に振るわれると、俺の『大切な人』が困る。
だから悪いようにはしない───その『極光石』、置いてってもらおうか」
ユウの言葉に、『魔法少女』オーロラ・スカーレットが睨む。
心なしか、部屋の温度が上がったような気がした。
「分かり切った事、聞かないで。『これ』はもう、私。
私はこれから……もっともっと、『魔法少女』を増やさなきゃなんないの」
「……そうか。残念だ」
ユウとスカーレット。
黒い少年と紅の少女が、お互いに身構える。
『極光石』製魔法少女 VS 悪の? 戦闘員。
───ここに、新たな戦いが幕を開けようとしていたのだった。