能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
隣県の山奥にある、某総合病院。
その隔離棟最上階にある一室は、異様な雰囲気に包まれていた。
カーテンやベッドが散乱し、燃え上がり、そして壁に穴が開く。
まるで爆撃でも受けた廃墟かと言わんばかりの荒れた一室で、二人が対峙していた。
一人は何を隠そう、我らが三上ユウ。
身バレ防止のフルフェイス・ヘルメットと黒いコートに、手には拳銃と言うアウトロー感あるいでたち。
背中のバックパックには黒猫(In 琴音)が入っている。
もしヘルメットじゃなくてファントムマスクだと、どこぞの心の怪盗団に居る屋根ゴミちっくである。
一方。
それに対峙するは魔法少女……魔法少女オーロラ・スカーレット。
守るべき者の危機に覚醒した、新たなる魔法少女である。
「ここから……居なくなってッ!
命の炎をここに……極光の風が万物を穿つ」
<<ヘリオポーズ収束、オーロラ・ストーム照射>>
スカーレットの手に集まる極光が、ユウへ向けて照射される。
光の速度……には及ばないが、輝く熱線というべきものがユウに直撃。
その光の先は燃え上ったり熱で融解したりしているが、ユウに特にノーリアクション。
その程度では特に問題は無かった。
(レーザーの類だろうけど……少し不思議だな)
効かないと分かっているので、ユウは少しその魔法による物理現象を考察する。
見た目は眩い光なのでレーザーと思われるが、逸れた分が一定周期で壁に穴が開いたり燃え上ったり。
極端な例では鉄が磁力を持ったのか、固まってくっついたりしている謎の現象が起こっている。
(オーロラが見える……という事は、もしかしてレーザーじゃなくて太陽風かこれ?)
太陽風とは、太陽の活動によって生じる電荷を帯びた粒子(プラズマ)。
オーロラはそれが地球の窒素・酸素原子が励起されて見える現象である。
光(可視光)以外にも、各種電磁波や電流と磁場、熱……様々な影響がある。
「……素直に凄い魔法だな」
太陽の大規模核融合で生成される太陽風を再現できるとは、恐れ入った。
またもや人類科学ではまだ到達できない境地。
そしてこの魔法の凄い所は、『ありとあらゆる』現象を一手で引き起こしている所である。
普通の人間では、たとえ長男であろうと耐えられまい。
いや、仮に七井土あかりや雪下琴音が『魔法少女』に変身していたとしても、アウト寄りのアウト。
電荷を帯びた粒子(プラズマ)の直撃への対処。
発生する有害なX線をはじめとする放射線への対処。
プラズマの強烈な熱への対処。
嵐のように巻き起こる電場・磁場への対処。
───それら全てを対処して初めて、三上ユウのように悠然と立っていられるのだから。
「すまんが、相手が悪かったな」
「ッ!?……グッ」
ユウの『強化』能力に不備はない。
ユウはばさりとコートを振り、炎を振り払うとスカーレットに向けて跳躍。
スカーレットの首根っこを掴み上げると、そのまま余勢をかって窓から跳躍した。
「病院で電波を発する魔法は……使っちゃいけませんっ!」
「……ッ!」
二人はそのまま病院の駐車場まで一気に跳躍し、着地する。
ユウが首から手を離すと、彼女はせき込みながらも距離を取った。
幸いにもスカーレットは一人部屋。
あの強烈な電場・磁場で病院の精密機器に悪影響が出ないといいが……。
べったべたに地面にアース取っていることを祈るだけだ。
「───風の精霊、シルフェリオ。私に天駆ける翼を……。
フォームチェンジ、V-STOL」
<<アクセプト。ソーラー・セイル展開>>
徐にスカーレットが懐から取り出したカードを胸元に取り込みさせる。
するとスカーレットの背から蝶の翅のようなものが広がり、宙に浮く。
羽ばたいてこそいないが、細かく振動している翅の支脈から鱗粉のような光の粉が舞う。
「飛べるんか、それ」
ユウは華麗に姿勢制御しながら空を舞うスカーレットに、ため息をつく。
ユウ達の『涙虹石』には基本、飛行能力はない。
あかりと琴音の3rdフォームはそれっぽいことができたが、あれは謎推進力でロケットのように動いていただけだ。
「よっと、ほっと」
一旦離脱したスカーレットが、逆落としに突っ込んできて手の剣で薙ぎ払う。
それをステップとジャンプで避けながら、離脱するスカーレットを見やる。
彼女は無理に旋回してユウへの攻撃手数を増やすのではなく、翼の形を変えて揚力を増やしダイブ&ズーム。
運動エネルギーを高度に変換する、無理をしない一撃離脱の構えである。
スカーレットは明らかに……エネルギー機動性理論を知っている動きである。
War〇hunderプレイヤーかな?
ユウの弱点───空を飛べないこと、機動力がないことを見切ったのであれば、中々の眼力である。
「……ほいっと」
「……ッ!?」
でも、何度も同じ手の内を見せたのはいただけない。
突入のタイミングを見切り、カウンターでスカーレットの腕をがしっと掴むユウ。
そのまま腕を引き、捻りながら足を払う事で、見事にくるりとスカーレットは回転。
頭から落ちないように左手を差し入れる優しさも残して、ばんと地面に寝かされた。
「離してッ……ッ!」
「悪いがそうはいかないな」
ぐ、ぐ、と手足をばたつかせるスカーレットに対し、ユウは潰さないよう慎重に『力を入れて』押さえつける。
そしてスカーレットの胸元にある『極光石』を握った。
「いいか、死ぬほど痛いぞ。臍に力を入れろ」
<<センパイッ!後ろっス!>>
「何……ッ!?」
ゆっくり押し潰すか───と力を入れたところに黒猫の琴音から警告。
フルフェイスでは流石に視界が狭い。
ユウは即座に彼女から手を離し、バク転しながら飛びのいた。
ユウ自身のみだったら防御力に頼る選択もありだが、今は背負った黒猫がいるのだ。
「……なかなか、素早いじゃない」
そして飛びのいた先に見えたのは、先ほど病室から逃げたピンク髪の少女。
彼女はスカーレットと似た腰から長い裾の透明なスカートと、十字にクロスされたベルトの衣装のコスチューム姿。
そして、胸元には『極光石』が輝いている。
「……まさか、今日で二人目とはな」
<<"魔法少女"のバーゲンセールっスね>>
ユウは改めてピンク髪少女に構えるが、彼女はさっさと倒れているスカーレットを抱え上げて翼を出す。
そしてすぐに飛び上がったかと思うと微かな鱗粉を残し、急加速。
そのまま空へと逃げ去っていった。
ピンク髪少女も、変なカード持ってるのか……とユウはため息をつく。
<<追撃、しないんスか?>>
「……やめとこう。いや、無理だな。
明らかに慣れた動きしている。
誰か支援してるやつが居るんだろう」
ユウの見たところ彼女の飛行姿も、スカーレットと同じく空力を感じさせるしっかりとした飛び方だった。
推力だけで無理やり吹っ飛んでいるユウでは、小回りで勝てる道理が無い。
例えるなら、サターンⅤロケットで零戦を補足するようなものだ。
牛刀でもって鶏をざくざくしてるってレベルじゃねーぞ。
<<じゃあ、撤収するっスよ。そろそろ通報されて警察も来る頃なんで>>
「そうだな……そうするか。
一応、直近の命の危機にあった娘たちは助けられたんだから、良しとしよう」
ユウとて別に無限の善意で人を助けている訳ではない。
あくまで、ミ=アとあかりが起きた時に、彼女たち自身の瑕疵で曇るのを防ぎたいだけだ。
ガ=ヘリクトに全部責任を押し付けて楽になれる性格ならいいが、多分そうじゃないので。
ばさりとユウはコートを翻し、林に隠したスクーターに向かう。
この日のレスキュー・ミッションは、一応成功、と言う形で終了したのだった。
……新たな火種がぽこじゃか生まれているような気がするのは、心の棚に三段ぐらい上げて置くことににして。
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その夜。
レスキュー・ミッションを終えて家に帰って待っていた親父と夕食時。
「……え、発信器?」
「ああ。悪いが付けてくれ」
「マジか。それ、重犯罪者用のやつじゃん」
親父から唐突に、ベルト状の発信器を渡された。
足に巻け、とのことだ。
「今日、人事異動で替わった内閣情報調査室のセンター長から決定が下りてな。
アル=ラツェルト関連の要監視対象者は全員付けとけとよ」
ほれ、と親父も足首をあげて見せると、同じデザインの発信器がそこには巻かれていた。
ユウは思わず、渋面を作って悪態をつく。
(来たか、行動制限……まあ、分からなくはないけど)
親父に対しては今日のレスキュー・ミッションは勿論、魔法少女も『強化』能力もまだバラしてない。
ただ、ミ=アとその周囲と懇意になって連絡を取り合う仲であるという事。
そして、その関係で魔法関連の機密を知ることになったという事だけ伝えてある。
実際夏休みに一度月まで連れてもいるし、そこまでは言わざるを得なかった。
家のドアまで(ラ=グラリアに)壊されているし。
それを考えると発信器ぐらい付けとけってのは、自分でも同じ立場ならそう考えるだろう。
でも……今はだいぶ困るのだ。
「これ、付けなきゃダメ?プライバシーとかあるでしょ」
「ダメだ。壊すなよ。
壊したら信号が途絶えた地点に捜査員が殺到するからな?」
「うへ……」
常に電波を発しているタイプなので、いつでも安心! ……監視者からは。
狙い目はトンネルとか地下だろうが、最近のトンネルも地下街も結構アンテナ入っているからな……。
「これ、取ったらどうなる訳?」
「センサがお前の人肌に触れていないと、別の信号が発信される。諦めろ。
これはお前の命を救うものでもあるんだからな」
「まあ、それは解るけど」
親としては、まあ、子供の危機を知らせる命綱になる事は間違いない。気持ちはわかる。
でもさぁ……これで『レスキュー・ミッション』みたい遠出できないじゃん! バレルじゃん!
と大声で反論したい気持ちを抑え、ユウは、はあ、とため息をついた。
「慣れだよ慣れ。
それより、最近はアル=ラツェルトの動向はどうなんだ?」
「日本にいる連中は『ラ=グラリア』の元に集まっている人達が数十人、後はバラバラに潜伏してるってよ」
親父が余りもので作った野菜炒めを口に放り込みながら、雑談がてら情報交換。
最近、親父はもう古巣である内閣調査室とやらに居る方が多いらしい。
身分はどうなってんだ?
「……面倒だな。
それで、例の『魔力酔い』患者の方はどうだ?」
「あれは……どうしようもない。
世界の満ちる魔力濃度が下がらないと、だそうだ」
「ふうん……」
龍脈もリアクターも、爆弾情報なのでまだお上には出せないし、出してない。
少々心苦しいものはあるが、そこはユウは慎重にならざるを得ない。
『結晶化』により失われる命?それはユウが安全に手を差し伸べられる範囲なら、助けるのだ。
(簡易型リアクターの方だったら、もう渡してもいいかも知れないが……)
龍脈の活性化により、世界中で上昇した魔力濃度。
そしてそれにより倒れたり『結晶化』する者が増えた。
ユウはその対策をポヨ公に求め、そしてポヨ公は対策となるものを作り出した。
それが、簡易型リアクター。
設備や素材が足らないので、ラ=グラリア経由で一部支援を受けて完成したそれ。
体内魔力を調整するだけの効果しかないが、日本中で数千人は居ると言う患者に対して救いになるのだ。
もうこれ国に渡しちゃってもいいか……と言う気もする。
でも、今回の発信器対応を見ると、二の足を踏まざるを得ないとユウは先の展望を見据える。
(リアクターを生産、量産できる体制が整っている……と国に教えるのはマズイな。
そんな連中と繋がりがある日本人……もっと行動制限が掛けられる可能性が高い)
仮にラ=グラリアから直接ブツを国に渡してもらったとしても、繋がりがあるユウにはとばっちりが来る。
国から見たアル=ラツェルト残党は、ばっちりくっきりあれだ。反社と同じ。
不法入国・滞在は勿論、凶器準備集合罪とかだろうしなかなかシャレにならない。
発信器も、おそらく本音は彼らのねぐら探しだろう。
ミ=ア含む彼らと付き合っていく以上、そうなる運命とも言える。
(……今のままでは、いいように国、あるいは組織に使われるだけだ)
今の流れでは、もう将来的に軟禁生活みたいにされかねない恐れがある。
どこかのリアリストお姫様も自由を得たければ”思いだけでも、力だけでも、だめなのです”と言っていた。
───やはり表立って動くには、限界に来ている。
「あと例の……『魔法少女』だっけか。
増えてんだよなぁ……どうしたもんか」
「あ、ふーん……」
ユウが惚けながら生返事する。
今日の委員長のように『結晶化』を乗り越えて魔法少女となる者が、世界中で生まれている。
世界、特に龍脈のある国でぽつぽつ、一人二人生まれているのがニュースでもちらほら。
そして、日本は『特に』その比率が高い。
実は、こっちはユウが原因の一端にもなっていたりする。
勿論、ユウが撃ち込んだ“簡易型リアクター”の影響である。
ユウがそれで死にそうな『結晶化』患者を救っていたのが、結局『魔法少女』を増やす結果となった。
簡易型リアクター自体には変身機能は無い。
体内魔力を調整し、生き延びさせることだけしかできない……筈だった。
しかし……そのうち『結晶化』した『極光石』と融合するみたいで。
ガ=ヘリクトが地球に仕掛けた『結晶化』にも、基本は変身機能OFFバージョンだそうだ。
でも、簡易型と融合することでそれが外れ易くなるらしい。
一部、簡易型リアクターなしで『結晶化』を乗り越えたど根性ガールも居るようだが。
まあ兎に角……そんなわけで、非常識な存在が日本には増えているのだった。
「日本で確認されただけで、11人。
中には傷害や器物破損をしでかしやがったバカも居るからな……頭痛いぜ」
「お、そうだな」
んで、そんな力を得たのが『我が強い』10代思春期ガールと来れば。
まあ、そうなるな……という日向顔でユウもため息をつく。
ユウ達はこれまで『人々を守る魔法少女』というブランドイメージを意図して築き上げてきた。
それは新しくこの星に現れた『魔法少女』という種族に対する排斥を抑えるためでもある。
『怪獣』というどうしようもない天敵が居るうちは良いが、問題はいなくなった後。
その時……人類が『魔法少女』に対しどういう目を向けるか。
それをこそ、ユウは恐れていた。
(ここに来て、『魔法少女』のブランドイメージ失墜はマズイ)
やらかしているらしき、新たな魔法少女達。
そして裏には、それを支援してる何らかの影も見え隠れしている。
……特に、スカーレットを拾っていった謎のピンク髪魔法少女の動きも気になる。
(あいつ、何者だ?)
ユウに気取られずに一撃を入れた技量、一目散に逃げた判断、そして謎の飛行装備。
どこを取っても、普通の少女ではない。
こうなれば……もう、“やる”しかないかと、ユウは心の中で溜息をつく。
(迷ってる暇はないな。琴音の提案に乗るのは癪だが……)
「……ちなみに、友達の家に遊びに行くくらいはいいだろ?」
「ああ。
……危険なところに行かなきゃ、な」
もぐもぐ野菜炒めを咀嚼しながら、ユウは親父に心の中で謝る。
(危険な事しかないんだよなぁ……。
まあ、俺自身の不幸は出さないから許してくれ)
微妙に親父の顔を見辛くなったユウは、いそいそと夕飯を片付けて自室へ戻ったのだった。