能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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第四話 To start up a "Sgr A*" 始動、闇の魔法少女

 

 

 ───親父に発信器を付けられてから、翌日。

 

 学校帰りにあかりの病院に見舞いをし、ユウはあるところへ向かっていた。

 学校から徒歩30分程。

 小高い丘の上に建てられた一軒の洋館が、そこには聳え立っていた。

 

 ユウは珍しく緊張した面持ちで、入口にある古めかしい鉄柵に添えられた紐を引く。

 するとちりんちりんと控えめな音量の鐘が鳴る。

 

「……うん」

 

 柵に掛かる表札には、『雪下』の文字。

 何を隠そう、後輩女子である雪下琴音の家である。

 

「はーい、いらっしゃいっス」

 

 彼女はどこからともなく入口の柵まで現れると、南京錠を開けた。

 

「……もう結界張ってんのか」

「そりゃ当然っスよ。今日はよろしくお願いしますよ、センパイ?」

「あ、あぁ……」

 

 琴音の結界はユウに対しても機能する。

 彼女がいきなり現れたように見えるのは、単に効果範囲から彼女が出て来た為だ。

 

 今日の琴音の服装は部屋着にあるまじき、妙に背中が広く空いたナイトドレスのようなもの。

 月をあしらったイヤリングを付け、唇には紅を差している。

 髪もウイッグを付けてアップに纏めたその表情は、かなり大人びて見えた。

 

(……だいぶ、印象が変わるな)

 

 元気後輩ッ娘が見せる大人な雰囲気に、ユウは珍しくたじろぎながら門をくぐる。

 洋館らしく玄関には靴箱がなく、二人は靴のままメインホールを通る。

 

「その発信器とやらは、大丈夫っスか?結界では遮れないっスよ?」

「遮らないでいい。むしろ遮ると通報されるからな。

 今は空気膜だけ張って、盗聴を無効化だけしている」

 

 どことなくぎこちなく、ユウは琴音の質問に答える。

 琴音は少しだけ面白そうに口の端を持ち上げながら、ユウの腕をとって組みだす。

 

「いつもながら器用っスね」

「ああ。今日は単に後輩の家に遊びに来ただけ。……そういう事だ。

 後で誰かに聞かれても、そう答えろよ?」

「もちろん、分かってるっスよ」

 

 今のユウは、常に行動ログを取られているようなものである。

 どこへ行くにも建前を作らないといけないのはストレスが溜まっていた。

 

(……まあ、その為の今日でもあるんだが)

 

「ちなみに、今日ご家族は?」

「この家はおばあちゃんから相続した、持ち家っス。

 ここ、ばあちゃんの結界が残ってるんで……お母さんも、来ないっスよ」

「……そうか」

 

 琴音は前を向いたまま、ユウにそう告げた。

 彼女の言葉に思うところが無いではないが、踏み込むか迷ううちに歩みが続く。

 

 二人は階段を上がり、大きなクローゼットのある部屋まで通された。

 そこには、場違いな透明ガラスの棺の様なものが横たわっている。

 

 中には一人の───長い赤髪の女性が寝かされていた。

 その姿は、”ある女性”によく似ている。

 

「どうっスか。上から下までそっくりっしょ?

 いや~、苦労したんスから」

「琴音はそこまで手伝ってないポヨ?」

「居たのかポヨ公」

 

 その棺の上に、ぴょいーんと四つ耳の謎生物が飛び乗って琴音にくさす。

 言わずもがな、妖精の世界からやってきたポヨ公である。ユウはもう本名忘れた。

 ポヨ公は地球に帰ってから、ユウの家を出て琴音家に居候している。

 

 何でかって? そりゃ彼女であれば無敵の結界様で匿えるからである。

 妖精だろうと。……アル=ラツェルト残党であろうと。

 

「人間そっくりのホムンクルスなんて、まだこの世界の人間じゃハードル高いポヨ。

 『涙虹石イーリス・リアクター』とアル=ラツェルトの資材で何とか完成したポヨ」

 

 どことなく自慢げなポヨ公の頭を撫でながら、ユウはよいしょとどかして中の少女の胸に手を置く。

 その中には、ユウが使用していた『涙虹石イーリス・リアクター』が埋め込まれているのだ。

 それを意識しながら、ユウは琴音に教わった魔法を思い出す。

 

「ええと……使い魔契約だよな?」

「そっス。自分がその身体と重なるイメージで」

 

 琴音の教えに従い、心の中で適当な呪文をちんからほいと唱えながら『女の身体』を意識する。

 ユウは直ぐにぼうっと意識が揺らぎ、どこに居るか曖昧になり───。

 

「───おっと」

 

 白い細腕が、倒れ込むユウの身体を支える。

 赤い髪の少女が目を開き、棺からむくりと起き上がるとユウの身体を抱き上げた。

 

「……なんだか、久しぶりな感覚だ。いや……感覚ね」

「センパイって言ったら、やっぱりこの姿がしっくりくるっス。

 ───お久しぶりっス、スタ先輩」

 

 長い赤毛の少女───ユウの変身した魔法少女イスタスと同じ顔をした少女。

 それはユウが『涙虹石イーリス・リアクター』修復に当たり、出した追加注文。

 発信器に縛られない自由に動き回るアバターが欲しいと言う要望を出した。

 それに応え、ポヨ公と琴音が用意したのがこのホムンクルスイスタスの身体である。

 

 ───琴音の持つ『使い魔契約』で、意識だけ『魔法少女イスタス』に渡して動かす。

 

 これが、『行動制限発信器』に対するユウの回答だった。

 

 ちなみにユウは使い魔契約魔法を教わり使えるようにはなったが、あくまで見様見真似。

 やっている内容を、頭で理解している訳ではない。

 

 それでも発動する魔法が凄いのか、『強化』能力さんが『魔法』を理解できないのか今のところ不明。

 ユウ、いやイスタスは女性化した手をぐっと握りこみながら、具合を確かめる。

 

「しかし、このコスチュームデザインはどうなんだ?」

 

 以前のイスタスは長い赤髪と白を基調としたコスチュームだった。

 基本は変わっていないのだが、白い部分が黒く反転しており、全体的に寒色になっている。

 おへそが露出するように開いていたり、イメージ的には『悪堕ち』したイスタスと言う感じである。

 

「『涙虹石イーリス・リアクター』の基本情報は書き換えできなかったポヨ。

 ホムンクルスにデータ移すと、何故か被服レジストリ出力が変わってしまったポヨ」

「……まあ、いいか」

 

 姿見に写った自分の姿を見ながら、イスタスはユウの身体を寝かせる。

 自分の身体を客観的に見るのは、何とも不思議な気分であった。

 

「もうちょっと慣れたら、起きたまま操れるっスよ」

 

 ほれこの通り、と琴音が自身の使い魔である黒猫を肩に乗せる。

 琴音も自身の使い魔である黒猫と同じ動作で手を上げながら、くねくねと腰を振っていた。

 

「ともあれこれで魔法少女イスタス───いや、ブラック・イスタス復活!っスね」

「ブラック……じゃあ、あかりと被らない?」

「じゃあシャドウ・イスタスで」

 

 やたらと命名に拘る琴音に、ユウがため息をつきながら言った。

 

「名前はどうでもいいけど……男の身体じゃあ、ダメだったの?」

「男だと魔力の通りが悪いんス。

 あと、埋め込んだ『涙虹石イーリス・リアクター』の影響っスね」

 

 完全な人型ホムンクルスなんて代物を作るのは、ポヨ公でも琴音でも手に余る。

 そこで『涙虹石イーリス・リアクター』が魔力の通りがいい『少女』の姿へ強制的に変えてしまう機能を流用し、魂の無い疑似生命を『変身』させて身体を用意した。

 つまり、足りない部分は『魔力』で人の身体を補っているという形。

 今の七井土あかりボディーみたいなもんである。

 

「じゃあまず、何からやります?

 久しぶりにあれ……ミーティングやりましょうよ」

「分かった。じゃあ簡単に所信表明だけ……」

 

 ひとしきりイスタスが身体を動かして確認した後。

 がらがらと、人数分の椅子とホワイトボードを持ってきた琴音に促されてみんな着席。

 ユウ───魔法少女シャドウ・イスタス(仮)は同じく運ばれてきたホワイトボード前に立つ。

 

 

 〇  〇  〇

 

 

 イスタスは黒くなったコスチュームの上からばさりと白衣をかぶり、ザマス眼鏡を掛ける。

 足をクロスして立ちながら胸の下で腕を組み、グイっと胸を反るポーズで話し始めた。

 なんでそんなポーズしたって?それはあれ……気合いが入るのだ。

 

「まず、大目標だけど……何をおいてもまずはコレ。

 私たち魔法少女が自由に、健康で文化的な最低限度の生活ができるようにする』。

 これにしたいんだけど、異存ない?」

「OKっス!」

「ポヨ」

 

 イスタスの確認に、琴音とポヨ公が賛同を示す。

 ポヨ公はいまいち分かって無さそうだが。

 

「今までは『魔法少女は正義の味方』っていうスタンスで、自由・安全と生活環境を買う戦略だった。

 でも、今はもうそれが崩れつつある……なんでか分かる?」

「怪獣が出なくなってきたことと、魔法少女がいっぱい増えてきた事っスか」

「正解。

 『怪獣』が後2体でおしまいっていうメタ情報は私たちしか知らないけど、南極の亀さん除けば後一体。

 世界的にも怪獣の脅威は忘れられつつある。

 そして、『魔法少女』がどんどん増えつつある現状……今度は『魔法少女』が脅威にすり替わる」

「やるせないっスね」

 

 地球を守ったのは間違いなくイスタスであり、七井土あかりであり、雪下琴音である。

 だが同時に、その3人の力は容易に地球を滅ぼしかねない脅威でもある。

 

 例えるなら───制御不能の核弾頭が3発、世界のどこかでフラフラしてるようなもの。

 

 既に各国の世論操作の影が見え隠れしているが、早晩『魔法少女』への制限が具体化するのは間違いない。

 少なくとも、ユウが国の指導者ならそうする。普通に怖いし。

 

 3人がこれから、この世界で自由に生きる。

 それは、何より……それこそ怪獣を倒すより難しいことになるのだ。

 

「今まで通り、正体を隠していたんじゃだめポヨか?」

「それは続けるけど……アル=ラツェルト関係はもう隠しきれない。

 私は……彼らを切り捨てる選択肢を除外したからね。

 地球に点在する彼らから、魔法技術はどんどん漏洩していく筈」

 

 ミ=ア(今はあかりと同化中?)を含む、アル=ラツェルト人員と関わっているのはもう言い逃れできない事実。

 正体は隠せるかもしれないが、世界中に残存するアル=ラツェルト人員から少しずつ魔法情報は漏れる。

 

 特に、彼らアル=ラツェルト人が龍脈工作の為に潜入していた場所の国々。

 

 日本、北アメリカ、チリ、ニュージーランド、マレーシア。

 それに中国・インド国境と、スイス・オーストリア・イタリア国境(アルプス)。

 

 地球人類と見た目が異なるアル=ラツェルト人が、これらの国々に何の打診もなしに潜入して龍脈操作できていたとは考え辛い。

 おそらく、政府又は地元組織と何らかの密約があったはずだ。

 魔法技術の提供を見返りに行動を黙認する的な。

 

 そう考えると、魔法少女がアル=ラツェルトのある意味兵器であることも後々バレる。

 そして……自分達も欲するようになる。

 

「魔法技術は、今の地球では完全にブルーオーシャン。

 技術・経済面でも欲しい上に、もう軍事利用例魔法少女を示しちゃってるんだから……ね。

 これから技術開発競争は激化するし……積極的に魔法少女を生み出そうとするし、制御下に置きたがる」

「まあ、そうなるっスね」

 

 このままでは魔法少女の将来の展望としては、自由になる未来は見えない。

 それは琴音も同意である。ポヨ公は首を傾げたが。

 

「自由であることが大事なんポヨか?」

「ええ、その通り」

「抑圧されるのは、魔女としては許し難いっスね」

 

 少年少女の機微がよく分かってないポヨ公に、イスタスと琴音が同時に答える。

 謎生物は未だに人の尊厳的なものは理解できてないんだろう。

 

「人間社会に生きる以上、社会的地位としがらみは必要なもの。

 でも、今のままでは国やどこかの傘下に収まってもダメ。

 自由もなく厳重な監視下に置かれるのは間違いない。

 自由は与えられるものじゃなくて、勝ち取るものだから。

 私はゴメンだね。そしてそれは、今増えている『魔法少女』達も同意見だと思ってる」

「そうっスね……」

 

 探せばそんな扱いも受け入れるいい子ちゃんも居るかも知れないが。

 『我が強い』10代ガールズに、それは期待できないとイスタスは考える。

 

「だったらもう、自活するしかない。彼女たちの受け皿と言う意味でも……。

 自分達で独自の収入源を持って、自分魔法少女自分達魔法少女を律する。

 つまり───」

悪の秘密結社っスねっ!」

 

 琴音が先走って嬉しそうに手を上げる。

 イスタスはそれに肩を竦めて答えた。

 

「……まあ、呼び方は何でもいいし、悪徳に走る気もないけど。

 要は生活費は自分達で稼いで、『魔法少女』の共同体を作りましょうって事」

「だからつまり、悪の秘密結社っスねっ!!」

「……」

 

 妙な拘りを発揮する琴音に、付き合いきれんとイスタスが目を揉む。

 いや、まあ……確かに客観的に見てそんな組織、反社である。核武装したワ〇ネルレベルの。

 各国が知ったら世界の敵認定も免れない。

 

「とにかく……収入が無いと話にならない。

 表の作業として、まずは看板となる会社を作る。

 折角自由に動ける身体を手に入れたしね。明日でも身分買って弁護士と相談するわ。

 そして可能なら数年以内に経済の仕組みに食い込んで離れられないようにする。

 せっかく魔法技術があるんだし、企業と提携して商品開発するのがいいかな」

「お、いいっスね。

 あたし肥料とか得意っすよ。森がバカスカ生えるぐらいの」

「……1/100ぐらいに希釈したらいいかもね」

「やってみるっス」

 

 琴音の魔法呪いに頼るのは恐ろしそうだが、効果は悪くない。

 緑化には使えるかも知れん。

 まあ、現実の緑化事業は地下水の消費量が多すぎて将来的に枯渇する見込みが分かってから、ぽしゃっている。

 要検討と言ったところだろう。

 

 無難なのは、リアクター技術のスピンオフ事業。

 『魔力』→『電気』変換自体は容易だそうだ。

 要するに魔力でお湯を沸かしてタービンを回せばよいのだ。

 

 魔法でやる事は大気魔力を熱に変え、お湯を沸かすだけでいい。

 今なら材料費(燃料)がタダ同然で大気中から汲み上げられる上、ポヨ公によるとエネルギー変換効率約99%という超効率。

 結局、タービン発電部分が熱効率では約50%ぐらいに落ちるだろうが……それでも、いい数字。

 

 魔力は将来的に枯渇する資源とは言え、そこは石油も一緒。

 既存の火力発電所に小規模の工事で実現できる見積もりもある。

 

 インフラ系公共事業に食い込めれば、それだけ社会的地位も持てる。

 問題は、信用がないことだ。ある訳ねぇ。

 そんな怪しいとこに国が金出さねぇ。

 

 でも蛇の道はアル=ラツェルトヘ ビ

 うちを頼ってきた残党に、なんと龍脈事業で日本の経団連工作をやっていた凄いのがいた。

 今の私たちには何者にも代えがたい『コネ』を持っている。

 元々地球人類を絶滅させる悪の工作員ではあるが、大切に使わせて頂きます。

 

 うん?直接魔力を電気に変えられんのかって?

 それはできた。できたけど、直流か交流かも分からん、不安定な電源がな。

 出力がランダムだから、雷でも耐えられるデ〇リアンクラスの強電回路でも持ってれば使えるかも知れんが。

 そんな便利な電気回路はない。

 

「まあ、収入はそれであげるとして……次に安全保障。こっちは裏の作業。

 新しく生まれた『魔法少女』が悪事を働けば、世論が煩い。

 ポヨ公……魔法少女たちの動向は分かる?」

 

 ポヨ公は『魔法少女』探索に関しては、開発者だけあって一日の長がある。

 今は開発業務に忙殺されているが、いずれそちらにも力を入れたいところ。

 

「ポヨが見たところ、全国に小規模の集まりがいくつかあるっぽいポヨ。

 だいたいは2~3人で集まって、何かしてるみたいポヨ」

「ふむ……」

 

 あのスカーレット委員長も、ピンク髪魔法少女とつるんでいたご様子。

 思えばスカーレットは初回から力を使いこなし、謎の飛行能力を追加するカードも使っていた。

 

 そう考えると、ピンク髪魔法少女は別口のアル=ラツェルト残党、もしくは魔法技術を手に入れたどこかの組織と関係している可能性もある。

 政府機関だったらまだマシだが、山奥の総合病院でこそこそやってたところを見るとかなり怪しい。

 

 それに彼女はどうやら『魔法少女化』による医療応用の実験をしてもいるようだ。

 適正が分からないままやっていた……ようなので、犠牲者はそれになりに多い筈。

 

(それでもやっていた……不治の病とかだったら、やるかも知れんな)

 

 その気持ちは分からんでもない。今の医療は大勢の犠牲の上にあるものだ。

 だが、それで無理やり人体実験させられている人間は溜まらないだろう。

 

 ……まあその点では、イスタス達の簡易型リアクターも人の事は言えないのだが。

 こちらはポヨ公お手製だけあって性能は安定しており、犠牲を出したことはない。

 勝手に人体実験モドキしてるのは同じなので、イスタスもスカーレットに強く正義を説く気はない。

 

 イスタス個人的には『バレなきゃ犯罪じゃない上手くやってくれ』とは思うのだが……。

 大量の不審な人死を出していれば国が動くだろうから、望み薄いよなとため息をつく。

 

「とりあえず、興信所でも使って今分かっている魔法少女を調査。

 生活に困ってるようなら、仕事と場所を提供しようじゃない」

「なんだかんだ言って、スタ先輩優しいっスよね?」

「勝手されるのが困るだけよ」

 

 笑いながら突っ込む琴音に、イスタスがふん、と横を向く。

 

「私たちの手を跳ねのけて、それでも勝手するのであれば……。

 今、覚醒した『魔法少女』達は大きく世間のイメージを損ねている。

 今後、私たちが生きる世界で排斥されかねないマイナスイメージは極力避けたい。

 だから───魔法少女の悪事は、私たちが裁く

 

 具体的には、魔法少女の持つ『極光石オーロラ・リアクター』を破壊するか、奪い取る。

 簡易型リアクターさえ残せば、死ぬ事は無く、変身能力は無くなる筈である。

 

「差し当たっては、スカーレットとあのピンク髪。

 探し出して、背後関係を聞き出してから倒す。

 スカーレット委員長は幸い素性が知れてるから……私の本体三上ユウで探りを入れるわ」

 

 悪事を働く『魔法少女』を罰し、自浄作用が働くことを示す。

 それで人々からは安心を。

 『魔法少女』達には畏怖を持って襟を正してもらいたい。なんて。

 

 傲慢じゃないか?何様かって?……まあ、そうも言われるだろう。それは覚悟する。

 自分達の正当性なんて無いんだから。

 『自分の良識』なんて言う、宛にならないものにも期待できない。

 

「うふふ……いいっスね。あたし好みっスよ。

 どうせなら、全ての魔法少女をアタシらで管理して、世界征服しません?」

「やらない。と言うか、やりたくない。

 人間一人の面倒を見るだけの時間と金と労力って、凄まじいのよ?

 それと世界だの国だの責任を押し付けられるのは……正直、御免被る」

 

 迫害されて助けを求めてくるのなら、支援する用意はある。そのための組織化でもある。

 でも、所詮イスタスは自分の手が届く範囲しか守れない。

 今の自分達3人と一匹、あとアル=ラツェルト数十人でも手に余る、と考えている。

 

「11人以上居るらしい『我の強い』10代女子を纏めるって……どうやるの?」

「そこはこう……スタ先輩がぺしっと力で。あるいはカリスマでこう」

「アホか」

 

 くいっとしなを作る琴音に突っ込みを入れつつ、イスタスはため息をつく。

 こいつ最近ため息ばっかだな?

 

「でもでもそれって、無責任って言われません?

 うちらが『魔法少女』を増やす手助けしてるみたいなもんっスから」

「全部の責任なんて取ろうとしたら、その先はもうあれ……独裁者よ。

 死ぬところだった命を助けた上で、居場所を提供する準備してるだけ有情だと思ってほしい所。

 政治家にでもなって『魔法少女』の権利を守ります!なんて……自由の無い生活は、嫌」

 

 ぷくー、と琴音が頬を膨らます。

 この魔女後輩、もしかしたら国家転覆とか考えてるんだろうか。

 恐ろしいと言うか意外に子供っぽい……いや、高1とかそんなもんか?

 

「……あたしが魔女として、全ての魔法少女を顎で使うって言ったら?」

「んなことできる訳?……まあ、そんなアホな事、止めるわ」

「じゃあじゃあ……スタ先輩が暴走したら、どうするってんスか?」

「そりゃあ、琴音が止めてくれ」

「んな事無理っスよ!ナナ先輩ならともかく」

 

 ぷんすか怒った振りをする後輩を宥めながら、イスタスは考える。

 そろそろ……教えてもいいかもしれない、と。

 

「そうね。だから、私の弱点を教えておく」

「え……」

 

 あっさりと答えたイスタスに、琴音がぽかんと口を開ける。

 目を見開いた驚き顔の琴音に、イスタスは続けた。

 

「私はまだ『魔力』が何なのか、よく理解していない。

 よく理解していないものは、『強化』で防げない。

 つまり───大量の『魔力』をぶつけられたら、それだけで多分死ぬ

「は───え?」

 

 頭が回ってないのか、琴音が首を傾げる。

 その姿を見ながら、イスタスは淡々と話した。

 

「琴音の固有魔法『魔力整流枝プリズム・レクトファイアー』なら、日本中の魔力でも集められるんでしょう?

 私の本体の魔力許容量は分からないけど、多分それには耐え切れないわ。

 だから、もしそんな場合があったら遠慮なく、大量の魔力を直接ぶつけなさい」

「……」

 

 すん、と琴音が真顔になる。

 そして今まで盛り上がっていたテンションが落ち着いたように静かになった。

 

 ───そう。今のイスタス───三上ユウを殺すのに大仰な必殺魔法など要らない。

 

 単純に魔力許容量を超える魔力をぶつけるだけで、死んでしまう。

 将来的に『魔力』の何たるかを実感を持って理解すれば……は、まだまだ遠いので割愛。 

 

「……?」

「───どうして」

 

 下を向いた琴音が、ぼそりと呟く。

 俯いたその表情は伺えないが、どこか悲し気なニュアンスを感じたイスタスは首を傾げた。

 

「どうして、スタ先輩はそんなに……弱みを出せるんスか。

 前もそうっス。センパイはちょっと……いや、かなり自分を蔑ろにしてないっスか?」

「……」

 

 将来的に克服する予定だが……とは続けずに、ユウは琴音の言葉を考える。

 琴音は普段、割とできる事できないことはハキハキと答えてくれる後輩である。

 しかし、弱み……というか、内心みたいなものを聞いたのはあの温泉以来無かったように思う。

 

 最近はあかりが居ないこともあって、ポヨ公のできない作業や場所の提供など彼女の助力はかなり大きい。

 ユウとしては最早身内同然の気持ちであった。

 それを……少し考えて素直に伝える事にした。

 

「まあ……今更だから、かな。

 琴音はもう、その……身内と言うか、『助ける』対象だからかな」

「!……」

 

 びくり、と肩を震わせる琴音。

 構わず、イスタスは続けた。

 

「前回で思い知ったけど……私は、あかりとミ=アを一人で『助ける』つもりでいた。

 でも……最後には結局、二人に『助けられて』しまったわ。

 私一人では結局自分達が死ぬか、地球を死の星にしてでも諸共吹き飛ばすか二択だった。

 私たちと地球を救ったのは、私じゃない。ブラックとミ=アだわ」

「……」

 

 神妙な表情で琴音を見るイスタスに、琴音は瞳を潤ませた。

 

「月並みな言葉で悪いんだけど……結局、誰かを助けるのは他人の為じゃないなって。

 だから、琴音───ポヨ公もだけど。もし私が暴走したら止めてほしい。

 私を見て、横で支えてくれる人は……やっぱり琴音なんだなって、思うから」

「え───」

 

 少年のように鼻の下を擦り、少し気恥ずかしそうなイスタス。

 琴音とポヨ公は今まで見たことの無いイスタスの表情に驚きを隠せなかった。

 

 思わず胸を高鳴らせた琴音が、飛び上がって横を向く。

 

(あれ……なんでこんなに)

 

 琴音は、妙な胸の苦しさに唇を嚙み締める。

 その心に湧き上がる気持ちは───嫉妬だろうか。

 

 その意味を理解する事無く、琴音はイスタスからそっぽを向いて誤魔化すように口を開いた。

 

「せっかく……そう、せっかくなんで、名前付けましょうよ。あたしら秘密結社の名前」

「名前?」

「はい。魔法って”名前”が大事なんスよ。

 闇に潜みながら世界に浸透し、魔法少女を倒すあたしらの新しい名前を」

 

 ハイテンションを思い出すように、琴音は言葉を絞り出す。

 イスタスはふむ、としばし考える。

 暫く考えて……そしてまあ、星の名前でいっか、と琴音に軽く答えた。

 

「じゃあ……いて座の中にあって、陰に潜むもの。この天の川銀河世 界の中心。

 目には見えずとも、銀河に影響を与える極大特異点。いて座A*……から肖ることにして。

 すなわち───秘密結社"Sgr A*"サジタリウス・エー・スターかな」

 

 秘密結社……"Sgr A*"サジタリウス・エー・スター

 いて座の名を持つ秘密結社が、静かにこの世界に生まれたのであった。

 

 

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