能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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来年もよろしく!


第五話 To start up a "Sgr A*" 始動!おかしい時を作る企業

 

 

 

 ───放課後の屋上。

 秋の気配がけぶり、街路樹が赤く色づき始める時期。

 

 三上ユウは学校の屋上で寝転がった身体を起こし……うん、と身体をごきごきと解す。

 そして上体を起こして校庭をのぞき込むと、陸上部員が帰り支度をしているところだった。

 

「委員長は……お、ちょうど終わりか」

 

 ユウのお目当ては、クラス委員長である卯花うのはななぎさ。

 彼女は陸上部に所属しており、さっきまでトラックを走っていたようだ。

 彼女たちが部室にはけるのを見届けると、ユウは鞄を持ち上げて後を追うべく屋上から辞した。

 

(……さて、あいつの事情でも分かればいいんだが)

 

 言うまでもなく、委員長こと卯花うのはななぎさは『極光石オーロラ・リアクター』を持つ魔法少女。

 彼女曰く、オーロラ・スカーレットとやらである。

 

 彼女は夏休み中に魔力の適応過剰になり、病院に入院していた。

 そこにユウが簡易型リアクターを撃ち込んだところ……急に魔法少女として目覚めてしまった。

 ……まあ、それだけならまだ分かる。

 

(でも、よく分からない事情を持ってそうなんだよな……)

 

 彼女は目覚めた途端、十全に力を使いこなしてユウと戦闘。

 そして敵わないと見るや離脱した。謎の桃髪少女と共に。

 

 魔法少女の戦い方を知っているどころか、ポヨ公すら見たことない『強化』カードを使用。

 そして軽々と”空を飛びまわって”すらいた。

 

(空を飛ぶか……どんなに知識があったって、人間が『空を飛ぶ』感覚を持つのは”経験”するしかない)

 

 あの桃髪少女から、強化カードを含む魔法少女の知識を受けたのは間違いないだろう。

 だが、どんなに知識を貰ったからといって、飛行を経験することはできない。

 

(俺も『能力』で吹っ飛んでるだけ、でも苦労したのに……)

 

 何十回も墜落して感覚を掴んだユウはともかく。

 知識だけで、あんなに見事に飛べるはずがない……とユウは実体験している。

 

(あいつ……どこで”練習”したんだ?)

 

 委員長が寝込んだのが、確か夏休み半ば過ぎ。

 それから、たった半月ぐらい入院して……もちろん昼間飛ぶ練習なんかできる訳がない。

 なら、そこに彼女の”事情”とやらが絡んでいる、と見るべきだろう。

 

「……あれ?」

 

 探偵の如く委員長の後を付けて事情を暴くことを決めたユウ。

 校門を出て家路に付く委員長をこっそり追おうとして……ふと、見失ってしまった。

 

 我が目を疑ったユウはごしごし目を擦り、慌てて小走りで校門をくぐる。

 そしてきょろきょろと辺りを見回すが……どこにも彼女の姿は無かった。

 

(え……消えた?)

 

 繁華街ならいざ知らず、郊外の丘にある学校の校門である。

 正面にまっすぐ続く緩い坂で見失う事は……よっぽどない、と、思いたかった。

 

 別にユウは本職探偵でも無ければ、尾行の経験がある訳でもない。

 でも明らかに不自然な見失い方は、まるで”魔法”でも掛けられたかのような鮮やかさである。

 

(……大人しく、帰るか)

 

 カバンで渋面を隠し、仕方なく家路に付くことにした。

 ユウは道端に落ちている石を、軽くこつんと小突きながらとぼとぼと歩く。

 その足、ズボンの下には発信器が巻かれている。

 

 ユウは日本政府からの魔法勢力接触監視として、マークされているのだ。

 いきなり家に押しかけたりして、ユウも委員長も怪しまれる訳にはいかない。

 なので、『帰り道でばったり』作戦で行こうと思ってたのだが……。

 

「……」

 

 いかに腐れ縁とはいえ、今まで委員長を遊びに誘った事などない関係。

 委員長側も何やら組織的な動き(桃髪少女との協力?)が見え隠れしている。

 下手にユウ本体がちょっかいを掛けて、身バレするのは避けたいところ。

 

 とはいえ、クラスメートにして割と話す友達と言う立場は活用したい。

 今のユウはまるで恋する乙女か、シャイボーイのようなムーブである。

 あかりが居てシャイボーイ? とは言うな。

 

 とにかく、ユウとしては不自然にならない程度の接触で探りを入れるしかない。

 ユウは未練を振り切るようにくしゃくしゃと髪を掻く。

 そして改めてカバンを担ぎ、とぼとぼと校門から伸びる長い長い坂を下ってゆくのだった。

 

 

 〇  〇  〇

 

 

「───痛い痛い……身体バキバキだわ」

「こっちに来たか。早速だが決裁書類が溜まってるぞ」

「ちょっとだけ待ってて」

 

 後輩の家、雪下邸。

 その一室で『魔法少女イスタス』はぐぐぐ、と背伸びしてごきごきと音を立てる。

 学校に行っている間眠っていた魔法少女の身体使い魔の身体。

 寝返りを打たずにいたみたいで、あちこちがこっていたようだ。

 

 イスタスはラ=グラリアが淹れてくれたコーヒーを飲んで、はぁと息を吐く。

 行先のないラ=グラリアを含む竜人生き残りもここ、琴音邸に匿われていた。

 大きな身体を縮めるようにしてデスクに座り、ポチポチPCを叩いている。

 

 イスタスはいつもの変身コスチュームではなく、ダークグレーの女性ものスーツ。

 そこに上から白衣を被ったいでたちである。

 

 学校が終わった後、三上ユウ本体は家に直帰。

 身体をベッドに寝かした後、魔法少女の身体使い魔の身体に意識を移したのだ。

 

 これが三上ユウが後輩魔法少女である雪下琴音から、やっとのことで修得した使い魔魔法。

 メイン意識をどちらかの身体に移している状態だと、もう一方は半分寝ているような状態になるそうだ。

 

 琴音は同時並行で何体も動かせるが、熟練度が足りないのかユウはそこまでできない。

 便利ではあるが……なんか本体を忘れそうで若干恐ろしさもある。

 

 ───まあ、それはともかく。

 

 これで煩わしい監視と身バレを気にせずに動くことができる。

 本体の足には親父が付けさせた発信機があるので、こそこそ活動ができないので。

 

「……さて、仕事しますか」

 

 イスタスはPCを立ち上げて『会社』のタスクを確認する。

 

 自由に動ける身体を得たイスタスは、積極的に動き始めていた。

 まず、身体を得たからには法的にも自由に動かす状態にしないといけない。

 

 早速ラ=グラリアの伝手(経〇連方面)で、謎のアメリカ系日本人としての戸籍をゲット。

 次に、弁護士に相談して即日起業の手続きを取っていた。

 

 名前は、もちろん株式会社『サジタリウス』。

 ───表に出す会社名は、目で見える星座名サジタリウス

 ───裏で活動する場合は、目で見えない"Sgr A*"サジタリウス・エー・スターと言う名前とした寸法である。

 

 あ、ちなみに会社は株式非公開である。

 公開しちゃうと敵対的買収されるのが目に見えてるからね、仕方ないね。

 

 でもそうなると苦しくなるのが資金調達。

 銀行からの融資(借金)も、実績0資本金なし、おまけに商品開発もこれからとなってはかなり難しい。

 資本金0円でも起業自体はできなくもないが……見た目完全にペーパーカンパニーになってしまうので、そんなとこと取引してもらえなくなる。

 

 ───しょうがないので、イスタスはへそくり・・・・を用意した。

 

 過去のある日。

 同じ琴音邸で、以下のようなやり取りが発生した。

 

「……これ、何すか?」

「そりゃ、金だけど」

「いや、それは分かるんスけど……」

 

 事務所として間借りさせてもらっている、雪下邸の一室。

 そこに、風呂敷背負ったイスタスがどかんと机……は危ないので、床に『へそくり』を並べた。

 それは、インゴット……っぽく、棒状に成形されたきんきら輝く黄金である。

 

「どっから盗んできたんスか?」

「人聞きの悪い事言わないように。

 これは私がコツコツ作り貯めしていた、Auだから」

「どうやって稼いだんすか?あ、どっかから掘ってきたとか?」

「いや、だから……『作った』んだって」

「……んん?」

 

 要領を得ない顔で首を傾げる琴音に、イスタスが溜息をついてガラガラとホワイトボードを引っ張ってくる。

 いつもの授業体制に入ったイスタス。

 琴音は少し戸惑ってから、観念して大人しく椅子に座った。

 

「この世の元素、鉄までの重さの元素は星の核……つまり、核融合で作られるのよ。

 ───こんな感じ」

「はぁ……」

 

 イスタスがぎゅっと手に『強化』を込めてぎゅっと握ると、芥子粒みたいな玉がころりとまろび出る。

 それは、いつも『特異点』の核としてイスタスが使っている鉄球の小さいバージョンであった。

 

「……え、今、鉄の元素作ったってことスか?」

「そうよ。でも、この方法でできるのはあくまで鉄まで。

 鉄以上に重い元素はもっと別のアプローチが必要になる。何だかわかる?」

「い、いえ……」

 

 琴音は久々にイスタスの出鱈目ぐらいを実感して額に汗しながら、掌で鉄球を転がす。

 ちなみにこの鉄球作成、イスタスは簡単にやっているように見えるが、結構複雑なことをしている。

 

 最初に、イスタスの『強化』された掌が空気中の水分を捉え、圧縮して濃度を高める。

 次に、持ち歩いている微量の酸化チタンを光触媒にし、水分に『強化』した光源を照射して水素を生成。

 

 『強化』で反応を促進し、核融合反応の燃料を確保してから……一気に圧縮。

 いつもの圧力強化で太陽に匹敵する圧力が形成され、水素が熱核融合によりヘリウムと中性子に変換される。

 

 そして中性子を逃がさず、更に高圧をかけ熱核融合を促進することで原子は中性子を捉え……どんどん重い元素になっていく。

 ヘリウムから炭素、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素───そして、最終的に『鉄』となるのだ。

 ただ、この方法では鉄以上の重い元素は作れない。

 

「鉄以上の重い元素が作られる方法は二つ。

 s(slow)過程とr(rapid)過程って言う二つの方法があるの。

 s(slow)過程は置いといて……私が使ってるのはこのr(rapid)過程って方法」

「はぁ……」

 

 完全にハテナマークを頭から生やした琴音が、首を90°傾げながらイスタスを見やる。

 イスタスはホワイトボードに「r過程」と記載し、その下に二つの方法を書く。

 

「要するに核融合よりもっと高温高圧・中性子過剰環境を作って、元素が中性子を捕獲すると重元素になる。

 その環境は幾つか考えられるんだけど……主に中性子星同士の衝突か、重力崩壊型超新星ね」

「あぁ……もしかしていつもの奴っスか」

 

 琴音が納得顔をしながら、膝を叩く。

 ちなみにどちらもイスタスは再現できるが、中性子星の衝突は不意に跳ねて危ないので要練習だとか。

 

「そういう事。いつもは面倒くさいから取り出さずに特異点に吸い込まれるままにしてるけど」

 

 特異点形成にあたっての重力崩壊環境は過剰な中性子環境になり、微量の重元素が形成される。

 そこから一番安定した物質である金を取り出して凝縮する必要がある。

 

「これ、結構集中力使う割にリターンがしょぼいのよね……」

 

 イスタスの労力的には、しけた金山から砂金を浚うのとどっこいぐらい。

 それほど金抽出と純度上げ(精錬)は中々面倒くさい。

 特に人類が出したことない高温・高圧環境で中性子をぽこじゃか晒しているのだ。

 

 そのため、人類の知らない新元素が割とじゃんじゃか生成される。

 だいたいが半減期がクソ短い人工元素だが、たまに安定した謎元素も生まれたりする。

 

 元素組成を調べるのも面倒くさいので、総当たりで圧力を上下させて金から分離できる温度を調べて力業で分離。

 それでもダメなら、諦めて作り直す。

 そこまでやって、そこそこの純度(22金ぐらい)の金が作れる状態。

 

「1年ぐらいこれだけに集中して作業して……ようやくのこの10kgぐらい。

 ……正直、もうやりたくないわ」

「1年で金10kgって凄くないっスか?これだけやれば大金持ちに!」

「あのねぇ……これをどうやって“マネー”に替えれると思ってるの?

 どこ産とかどこ精錬所製とか、一切存在しない怪しさ満点の金インゴットでしかないでしょ」

「はぁ……」

 

 質屋に金を売るにもインゴットの刻印が無ければ、足元を見られて安い査定値になるオチがある。

 

「それに10kgだとウン千万レベルだから、確定申告もしなくちゃいけない。

 毎回こんなもの持ち込んでたら、どこから持って来てるのか痛くもない腹を探られなきゃいけなくなる」

「なるほど……」

 

 確実にどこから盗んできたか、密輸入ルートでもあるのかと税務署と警察に目を付けられる。

 だから、『まっとうに』稼げる会社を持つ必要が、あったんですね。

 

「だから金の現金化はこれっきりにして……これを元手に会社をやっていく訳だけど。

 当面の問題はイスタスしかマトモに人員が居ないのよね……」

「あたしも協力するっスよ?」

「もちろん、琴音もラ=グラリア達も協力はしてもらう。

 でも、ちゃんとした『社員』として登録するには琴音は若すぎるし、ラ=グラリアも見た目がちょっとね」

「あー……」

 

 琴音も言葉に詰まって、頬を掻く。

 偽造とはいえ、登録上20歳にしてアメリカ系日本人の戸籍を持ったイスタスは、まあ大丈夫。

 でも琴音は高校1年生であり、ラ=グラリア達も一目で人間とは違う鱗を持った竜人種族である。

 

 二人ともリスク高すぎて、正式に社員登録できねぇ。

 変身系の魔法がある訳だから、これを使えば何とかなるとイスタスは勝手に考えていたのだが……。

 

 実は、変身魔法は結構高度な技術らしく、リアクターが無いとダメらしい。

 それも『涙虹石イーリス・リアクター』か、地球産『極光石オーロラ・リアクター』だけ。

 アル=ラツェルト産の『極光石オーロラ・リアクター』には変身は不要としてオミットされていたらしい。使えねぇ。

 

 まあ、そもそも元手とした金もウン千万レベルでは、そうホイホイ社員を数十人も雇えない。

 つまり───

 

「最初は、私だけで24時間戦うしかない……」

 

 しばらくの間、イスタスは一人で仕事する戦うしかない。

 

 ここに社長、技術、営業、製造、品質保証、総務、サポートに至るまで全てを兼任したスーパービジネスマン。

 いや、スーパービジネスウーマンが誕生した。昭和のワンマン企業か。

 

 まあ、そんなこんなやり取りで立ち上げた会社にて。

 ポヨ公をしばきつつ最速の約1週間後にとある商品が完成。

 そしてサジタリウスより最初の商品が発売されることになる。

 

 ───それは、名を『あたおかシート』と言った。

 

 

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