能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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第七話 To start up a "Sgr A*" スカーレット、その心の内とは

 

 琴音邸にてポヨ公の開発物を確認した魔法少女イスタスこと、三上ユウ。

 ダークグレーの女性ものスーツに白衣を羽織った彼女は、ポヨ公の安易な提案を切って捨てた。

 

 ふて寝したポヨ公を捨て置き、イスタスと琴音は連れ立ってパーティション(衝立)を超える。

 『開発室』は、大きくポヨ公エリアと琴音エリアに分かれている。

 今までの現代風、あるいはSFじみたポヨ公の部屋とは異なり、琴音エリアは土の匂いが強い。

 

「……うーん。これは」

 

 そして、その光景を見てイスタスは思わず唸る。

 そこには……。

 

「どうっスか!ざっと試作24体は出来たっスよ!」

「世間には絶対にお見せできない光景だけど……」

 

 琴音エリアは、彼女の魔法の影響か太い木の幹が地面から顔を出していた。

 そこから伸びた枝が網のように張り巡らされ、根本には大小様々な『人型』が蠢いている。

 

 よく見ると、木の枝からは大きな果実のようなものが沢山ぶら下がっている。

 うっすら中に人型が見える事から考えると……木の実のように『できる』らしい。

 十二の国みたいな人かも知れない。

 

 そして、動いている者たちはみんな同じ容姿に見える。

 少しくすんだ赤い長髪の女性体。

 何を隠そう、今ユウが動かしているイスタスと瓜二つであった。

 

「スタ先輩ボディーのホムンクルス、リアクター抜きでございます」

「高そうな料理名みたいに言うな」

 

 誇らしげに胸を張る琴音に軽くツッコミを入れながら、イスタスはそれらを見やる。

 自らの姿に瓜二つなのはまあ、置いておくとして……。

 彼女達は黙々と鍋に何かを放り込んでかき回したり、土砂を運んだりしている。

 

「彼女達は使い魔として琴音が動かしてるの?」

「いや、この子達は雑霊の魂を入れて契約した“眷属”にしてるんスよ。

 魔力を対価にやりたいことをお願いする、召使いみたいな」

「なんかクトゥルフの神話生物みたいだな……」

「それは心外っス! 魔女としてこちらの方が由緒正しいんスから!」

 

 眦を吊り上げた琴音がぷんすこ怒る。

 琴音のズレた怒りはさておき、不足しがちなマンパワーの補填にはうってつけではある。

 

「彼女達のスペックは?」

「まぁ、4トントラックぐらいなら一人で持ち上げて運べる位っスね」

 

 小型重機並みの性能を誇るようだ。

 これが普及したら世界中の重機メーカーは大打撃を受けるかも知れない。

 見た目が人間過ぎて駄目だろうけど。

 

「人間重機だな。

 ……ちなみに、彼女達のお値段は?」

「14万8千円っスね」

14万!? うせやろ!?

 

 思わず関〇クレーマーが出るほどイスタスは驚愕した。(2度目)

 ただ、先ほどとは違って良い方での驚きである。

 

「結構高いっスよ?(高校生並感)」

「めちゃくちゃ安いだろ?(経営者並感)」

 

 原材料費だけだろうとしても、4t運べる小型重機が14万は安い。

 まあ、人型故に掘削やら運搬やら色々できる代わりに専用重機に効率は劣るだろうが。

 

「運用費用は?」

「今の大気魔力濃度だったら……いつまでもOKっスね」

「……」

 

 給料の要らない労働者とかいう、経営者の夢の人材。

 これもう、単純労働者を全て駆逐して人間社会を破壊できる戦略兵器では?

 だから魔女は狩る必要があったんですね……という時の権力者ムーブにイスタスは共感すら覚えてしまった。

 

「これは……採用せざるを得ない。

 絶対に外部流出はできないけど」

「やりっス!目指せ全国制覇!」

止めろ、日本が滅ぶ

 

 無邪気にはしゃぐ琴音をイスタスは額に汗しながら抑える。

 世界滅亡に直結するポヨ公の開発に対し、琴音に対してはある程度自由にさせていたイスタス。

 こんな形で世界征服できそうな兵器ができるとは、想像していなかった。

 

「魔女ってのは凄いもんだな……」

「でしょ! まあ、“眷属”は何も指示しないか、作業終わると暴れるんスけど……」

「デメリットでか!」

 

 思わずイスタスはずっこけた。

 どれだけ安くてもこのご時世、安全性に欠ける製品は売れない。

 イスタスは逆に安堵した。

 

「まあ、うちで使う分には琴音が監視してればいい、か。

 ……琴音これ、もしかしてニチアサ的戦闘員作ろうとした?」

「えへ。

 スタ先輩ボディのスペアにもなるから、いいじゃないスか」

 

 琴音が舌をぺろんと出して微笑む。やはり趣味か。

 適当に放って暴れるとか、それっぽい仕様からイスタスは推察したのだが当たりだったようだ。

 イスタスボディー開発の資産を流用して開発費削減してるのはいいのだが。

 どうにもうちの開発メンバーは趣味に走る傾向があるようだ。

 

「今のところは、このまま地下工場の拡大に使うか……」

「そっスね」

 

 ちなみに琴音邸地下は、空前の拡大ブーム。

 ラ=グラリア達、囲った竜人達の住処やら『暖おかシート』の組み立て工場やら。

 今は秘密に使えるスペースはあればあるほど良いという状況である。

 

「秘密結社といえばアジト、アジトといえば地下!

 ここをあたしたちのキャンプ地とするっスよ!」

「はいはい」

 

 イスタスはこめかみを抑えながら、バサバサと書類を机に置いた。

 琴音の謎の情熱に頭を痛めるイスタスであるが、有用ではるので何ともし難い。

 

 諸々の報告を聞き終えたユウは、頭を振りながら時計を確認。

 そして備え付けのソファーにごろんと寝転がった。

 

本体三上ユウに戻るんスか?」

「ええ、“時間”なんであとヨロシク」

 

 ソファに寝転がったイスタスが目を閉じる。

 意識を女の身体であるイスタスから、三上ユウを意識して───

 

「……はぁ」

 

 時間は放課後である。

 直帰したユウと琴音とは異なり、トラックを走る姿が夕日に眩しく映る。

 

 うーん、とユウは大きく背伸びをした。

 学校の屋上で寝転がったままであった身体が、動かす度にごきごきと音を立てる。

 意識を入れ替えた後は、いつも身体の違和感を無くすように柔軟が必要だったりする。

 

 んで言うまでもないが、今日のユウのお目当てはクラス委員長である卯花うのはななぎさ。

 何としても彼女の動向を掴むべく、張り付いているのだった。

 

「……どうしたもんか」

 

 今までの成果は芳しくない。

 委員長自身も、最近は教室でも余所余所しくなって部活後はそそくさと帰る。

 ユウは何回か後を付けたが、見事に巻かれてしまっていた。

 

 この期に及んでは校内で直接呼び出すか、家に直接訪問するしか───いや。

 ユウはぐっと口を結んだ。

 

「試してみるか」

 

 そういった足踏みや尻込みが、先の戦いでの後手に繋がったのだ。

 何のための秘密結社か……と、ユウは覚悟を決めた。

 ユウはスマホで琴音に電話をかける。

 

「琴音、ホムンクルス動かせるか?」

『お、いいやる気じゃないっスか。了解っす。

 ……場所は?』

「帰り道……〇×町の交差点ぐらいで人払いの結界展開。『俺たち』を襲ってくれ」

『了解っス!』

 

 必殺、マッチポンプ作戦である。

 これで三上ユウが偶然変身を目にして協力者に……と言う流れを作って事情を探る。

 せっかく秘密結社を作ったのだから、少しは『らしく』してもいい。

 

 嬉しそうな声色の琴音を他所に、ユウは階下を望む。

 そこにはトラックを走り終えても、どこか浮かない表情の委員長が見えた。

 

「……悪いが、少しばかり付き合ってもらうぞ。委員長」

 

 今度はその姿を見失わないために。

 素早くユウは校門へと先回りするために降りていくのだった。

 

 

 〇  〇  〇

 

 

「よ、そろそろ話してみない」

「……何が?」

 

 カーカー秋の夕暮れにカラスが鳴くころ。

 校門に背を預けていた三上ユウが、お目当ての相手を見つけたユウが話しかけた。

 

 彼女の名前は卯花うのはななぎさ。クラス委員長。

 練習を終えて制服に着替えた彼女は、ジャージの上着だけカーディガンのように羽織っている。

 

「最近、付き合い悪いじゃないか?」

「そう? あなたとそれ程親しいわけじゃないと思うけど」

「でも、あかりの件ではおせっかいしてくれたじゃない」

「それは……」

 

 僅かに目を逸らし、俯くなぎさ。

 ボブカットに揃えた彼女の髪が、影を伸ばす。

 

「お礼……って訳じゃないけど。話ぐらい聞くぜ?

 そのぐらいのお節介は返させてほしいかな」

「……」

 

 彼女……委員長は、かつてあかりが休んだ時にユウを強制的にプリント係として家に行かせている。

 そして、おそらくは家人にユウを『イイヒト』と吹き込んでくれたのだ。

 

 おかげでその流れに乗って付き合うことになり、今日までの関係になっている。

 ユウは今回、そのお礼と言うお題目を使わせてもらうことにした。

 

「そんなに、悩んでるように見える?」

「見えるね。途轍もない無表情で遠くをみたままぽけーっとしてるだろ。

 覇気がないよ覇気が。

 夏休みに何があったんだよ」

「……」

 

 勿論、ユウは彼女が夏休みに『魔力過剰』で入院したこと。

 そしてユウ自身が撃ち込んだ簡易型リアクターを下地に、魔法少女オーロラ・スカーレットとなったことは知っている。

 

 問題はそこからだ。

 彼女は謎の桃髪魔法少女とつるんでおり、そして何故か変身当初から空の飛び方、戦闘方法に至るまで熟知している。

 何かある……と考えない方が、おかしいレベルだった。

 

「……まあ、ちょっと歩こうか」

「そうね……」

 

 歩き出したユウに、しぶしぶと言った感じでなぎさが続く。

 長く伸びる二人の影が、歩幅に合わせて抜きつ抜かれつを繰り返した。

 

「……」

 

 彼女から、言葉はない。

 いつもの彼女であれば勝気で明るく、リーダー気質で肩を切って歩くタイプだった。

 今は全くの無表情、どこか遠くを見たままの状態から変わらない。

 

 続く沈黙に耐え切れず、彼女の様子をチラチラ見ながらはぁ、とユウは溜息を吐いた。

 

「街、直ってきたな」

「……そうね」

 

 天気デッキならぬ怪獣デッキ。

 今のご時世に無難オブ無難な会話を選択するユウ。

 

 てくてくと丘から下る先には、最初に現れたティラノ型怪獣の爪痕が見える。

 既に出現から数か月経っており、街からは瓦礫は撤去済み。

 そして新たなビルやら家の建設ラッシュが始まっていた。

 

「怪獣なんてどうなるかと思ってたけど……案外、何とかなるもんだな」

「……ガラスみたいな地面をよく直したもんだわ」

「……?」

 

 ユウはなぎさの返しに、内心ふと首を傾げた。

 

(地面がガラス化するほどのレーザーだったか?溶けはしたが……)

 

 ユウの記憶ではガラス化した地面は無かった筈。

 

 アスファルトであれば、だいたい150℃ぐらいから溶ける。

 ガラス化の転換点は知らないが……高圧力と400~500℃以上必要だったように記憶している。

 そしてユウの『特異点』の場合は熱を遮断した関係でガラス化はせずに範囲内は圧縮される。

 

「……」

 

 なぎさは特にそれ以上を言葉を発さず、すたすたと歩みを進める。

 ユウも遅れまいと、内心の疑問を置いて速足で付いて行った。

 

 言葉もなく……ただ歩いているだけ。

 ユウはチラチラとなぎさを横目で見るが、相変わらず無表情のままである。

 

(この前戦った時は、まだ彼女らしかった……んだが)

 

 時を経るごとに彼女は無感情になっているように思える。

 それが何かはまだユウにはまだ分からなかった。

 

 委員長との沈黙に耐え兼ね、ゴソゴソとポケットからスマホを取り出すユウ。

 ポチポチといつも見ているサイトを巡回する。

 

(あまり変化なしか)

 

 国内は元より、海外の反応系から国外ニュースを拾う。

 そこには相変わらず南極で頑として動かない怪獣に対し、まだアプローチが続いているようだ。

 しかし、結果は全滅のようだった。

 

(……およ)

 

 その他魔法少女関連を漁っていると、ぽつぽつと世界中に出没する魔法少女の話題があった。

 曰く、屋根を飛び越えてった。

 曰く、山で爆発があったら少女が飛び出してった。

 曰く、トカゲみたいなものと戦闘していた。

 

 様々な真偽の怪しい情報が飛び交っている。

 そして目撃例は圧倒的に日本が多いようである。

 

(……まあ、そうなるな)

 

 ユウ自身が打ち込んだ簡易型リアクターを元に発現した魔法少女達が多いのだ。

 ユウも琴音やラ=グラリアと手分けしつつ、市井の探偵まで雇って動向を探っている。

 特に、琴音の魔法で所在はある程度把握はできてはいる。

 

 基本的には、彼女たちは受け入れ態勢が整うまで手出しはしない方針だ。

 まだ準備は不足であるが……収入確保の道筋ぐらいならできつつある。

 予備資金も作ったので、何人か面倒見るぐらいならば問題ない。

 

 そろそろ、目に余る者たちが出れば預かる・・・覚悟で介入はできる。

 さしあたっては委員長なのであるが───

 

「……ッ!?」

 

 それは、ちょうど二人が交差点に差し掛かった時。

 突然、ドン、と腹に響く重低音が響いた。

 

(……よし、いいタイミングだな)

 

 琴音のホムンクルスの襲撃だと判断したユウが、委員長を庇うように伸し掛かる。

 ちなみにマッチポンプ作戦は、まず彼女の変身を目撃したユウが協力者的な立ち位置に収まる。

 そして秘密の共有で親密になった委員長から事情を吐露されて云々……が目的。

 

 そんなテンプレ展開を目指しているが、最悪はなんか手掛かりだけでも手に入れたいところ。

 彼女が手遅れになる前に、介入する『力』を整えてきたのだから。

 

 しかし、彼女をユウが庇ったその瞬間……逆にすごい力で委員長がユウを押し退け返した。

 そして、飛んできた破片が委員長の腹に直撃する。

 

「……ぐっ!?」

「委員長ッ!? なんで庇った!」

 

 ユウは思わず目を見開いて委員長の顔を見る。

 脂汗こそ流しているが、その顔はあくまで冷静であった。

 その瞳はどこか遠くを見ているような……暗く虚ろである。

 

(……くそ)

 

 ユウは自分のせいとはいえ、彼女の行動を読み間違えたのを後悔した。

 病院で交戦した際の印象からあまり他人に関心が無さそうではあったのだ。

 なので、まさか身を挺して自分を庇いに来るとは、想像していなかった。

 

「だ、大丈夫か?」

「問題……ないわ」

 

 大き目のコンクリートの破片が直撃したにしては、顔を顰めるだけの委員長。

 流石に魔法少女の防御力か、ユウの傍目には傷は見えなかった。

 

「……立って。逃げるわよ」

「あ、あぁ……」

 

 先に立ち上がったなぎさが、ユウの手を引き立ち上がる。

 ユウは打ち付けた彼女の腹をちらりと見てから、慌てて立ち上がる。

 

 しかし走り出そうとした二人に、ざ、っと人影が囲むように行く手を阻む。

 その数は、10人。

 

「……な、なんだ? 何が起こったんだ?」

 

 ユウが疑問の声を上げる傍ら、なぎさが左手でユウを庇いながら囲んでいる者たちを見やる。

 

 二人を囲んでいる10人は、奇妙な風体・・・・・の者たちだった。

 ごつごつした緑色の鱗を持ち、長い首、長い舌、赤い瞳。

 皆、黒くつなぎ目の無いぴっちりしたスウェットのようなもの着用し、顔の額には赤い宝石が見えた。

 

(琴音の作品じゃない!? なんだこいつら!)

 

 ユウは内心ひどく驚いていたが……その容姿を見て心当たりがあった。

 竜の見た目……となれば、可能性はアル=ラツェルト残党である。

 ミ=ア達より大分爬虫類よりの見た目だが。

 そしてアル=ラツェルトであるなら彼らの狙いは───。

 

「……何者?」

「───リアクターを、ワタセ

 

 機械音声による変換を挟んだような、高い声でそれは喋ったのだった。

 

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