能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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第八話 To start up a "Sgr A*" スカーレットの守りたいもの

 

 

 委員長こと卯花うのはななぎさと共に帰宅していた三上ユウ。

 二人は帰り道の交差点に差し掛かった所で襲撃を受ける。

 

 それ自体はユウ自身が企図したものであったが……現れたのは琴音のホムンクルスではなく。

 アル=ラツェルト残党と思われる竜人達であった。

 取り囲む10人は油断なく囲みながら二人にじりじりと近づく。

 

 それを見た委員長───なぎさは、ちらりと背に庇うユウを見てはぁと息を吐く。

 

「逃げるわよ」

「え、ああ……」

 

 やや呆然としながらも、ユウはさぎさに手を引かれ立ち上がる。

 彼女は打ち付けたわき腹を庇いながらも、強い力でユウを引いて走った。

 

「……委員長! 自分で走れる!」

「そう」

 

 なぎさにやや遅れ、我を取り戻したユウが駆ける。

 二人は連れ立って来た道を戻るが、当然周りには人影が見当たらない。

 

(琴音の結界は掛かってる……でも、なんで連絡がない? あいつは無事か?)

 

 ユウに琴音へテレパシー送れるような技能はない。逆はある。

 今出たらなぎさに怪しまれるかも、とはいえ、仲間の危機なら仕方ないとも思えるが。

 

 陸上部の委員長とそれなりに鍛えているユウの足は速い。

 だが、囲む竜人達の足はそれ以上にすばしっこい。

 

 たちまちのうちに追い付かれた二人は、竜人の強靭な手足で掴まれた。

 そのままぐい、と引かれ、別の腕で殴られそうになる。

 

 ユウはさりげなく『強化』を使用して受ける体制に入ったところで───委員長が割り込んだ。

 

「───ッ!?」

 

 ばしん、と正に人外の膂力で引っ掻かれる。

 しかしユウに痛みは無く、それはすべて割り込んだ委員長が引き継いだ。

 

「お、おい! なんで庇った!」

「……」

 

 ユウの詰問にも答えず、なぎさは僅かに顔を顰めただけで答えない。

 彼女の引っ掻かれた左腕には鋭利な爪痕が走り、赤黒い血が流れている。

 しかし、彼女の表情はあくまで冷めたものだった。

 

「うまく避けて」

「避けてって……」

 

 なぎさはそれ以上ユウには取り合わず、攻撃後の隙を晒した竜人にすっと距離を詰める。

 そして伸びきった腕を引っ張ると同時に足払いを掛けた。

 ぐるり、と大柄な竜人が冗談のように宙を舞う。合気の業に近い。

 

「グアッ!?」

 

 なぎさは背中から地面に落ちたそれから素早く離れ、今度はカバーしようとした別の竜人に手から何かを放つ。

 それは、転ばした隙に拾った砂利。

 目潰しとして放たれたそれが目に入り、怯む隙にユウを無事な右手で引っ張る。

 

「……走るわよ」

 

 無言で頷いたユウとなぎさが走り出す。

 なぎさはついでとばかりに、カバンからプリントの束を目晦まし替わりに宙にぶちまける。

 あっけに取られた竜人達の隙をつき、二人は包囲の突破に成功した。

 

「はぁ、はぁ……」

「……」

 

 二人は辛くも追っ手を振り切って路地裏に隠れた。

 相手が琴音みたいに魔法による追跡が出来るなら悪手だが……他に方法はない。

 なぎさの体力の続く限り走り続けるのは現実的ではない。

 

「……なぁ、委員長。聞いていいか?」

「……」

 

 狭い路地裏で背中合わせになりながら、二人は跳ねた息を落ち着けた。

 静寂が下りた後、ユウが尋ねる。

 

「なんでその……俺を庇ったんだ?」

「……ここで訊くこと?それ」

「まぁ、気になったんで……あと、気分大丈夫か?止血するか?」

 

 だらだら、と血が流れるままの傷跡をなぎさは放置している。

 それがユウには痛々しくて見てられなかった。

 しかしなぎさは破れた袖で傷口を縛りながら、何でもない顔である。

 

「ほっとけば治るわ」

「……」

 

 いやまあ、魔法少女の修復力ならそうでしょうね。

 ……とは言えず、ユウは憮然とした表情で押し黙った。

 

「……なあ、委員長よ」

「何よ」

 

 なぎさは動いている時の苛烈さとは裏腹に、とても静かだった。

 お陰てユウまで冷静になって話すことができた。

 

「俺なんか……お前にしたか?」

「何って?」

「お前に……“命を救われる”ようなことを、さ」

「……」

 

 冷えた頭で考えたところで……ユウは委員長に助けられた場面を改めて疑問に思う。

 彼女が正義感溢れる人間だったとしても、ああも自らの身体を盾に庇うのは流石にない。

 どこぞの正義の味方かと言う自らへの省みなさっぷりである。

 

 そしてそれは、あの病院で対峙した時ともまた印象が食い違う。

 ユウはそれがどうしても引っかかっていたのだ。

 

「あいつらが何で襲ってきたかは置いといて……。

 明らかにその……釣り合って無いだろ。

 さっきのは、俺を庇って命落としてもおかしくなかったぞ?」

 

 ユウとしても少し良心が痛む。

 本当は琴音の“作品”で同じことをしようとしていたのだから。

 結果的には同じ状況は作れたのではあるが。

 

「……別に。私の勝手でしょ」

「そりゃ、そうだけど……」

 

 二人とも見つからないように声を押し殺しながら、お互いを見つめる。

 でも、委員長の声はどこか遠くから話しているような気がした。

 

 夕暮れはもう通り過ぎ、夜の帳が下りていた。

 少し寒々として空気が漂う中で、委員長はふとユウから視線を落とす。

 そして、ぼそりと呟いた。

 

「5回」

「え?」

 

 思わず聞き返したユウに、委員長は続ける。

 

「あの子があたしに助けを求めた回数よ」

「あの子?」

 

 委員長はその続きを言わない。

 でも、ユウには一つだけ心当たりがあった。

 

「───あかり、の事か?」

「……」

 

 以前、七井土あかりに対するいじめが発生していた件である。

 原因は何だったか───確か、女子グループ内でのいざこざからの無視だった。

 

 あかり自身にも非はゼロじゃないので、彼女は甘んじて受けていた。

 彼女は一番楽な無視仕返しという方法を取っていたのだ。

 まあ、それは仲直りする気も無いと言う意思表示でもあるが……。

 

「まさか……」

 

 でも違ったのか、とユウは気付いた。

 彼女は、彼女なりに仲直りの努力をしていたのか……と。

 

「あたしは5回あの子に助けを求められたわ。

 中学でクラス一緒だったし、委員長だったし……」

 

 三上ユウは高校からあかりと同クラスになったので知らなかった。

 委員長───なぎさは、中学からそれなりにあかりと親交があったらしい。

 

「でも、あの子のSOSは見て見ぬふりをした。

 ……なんでかわかる?」

「いや……」

「あたしがどうしようもない……馬鹿だったからよ」

 

 その先は予想できる分、ユウは聞きたくなかった。

 自嘲するような彼女の表情を見たら、聞かない訳には行かなかったが。 

 

「あの時のあたしにとって大切だったのは、世間体だけ。

 最低よね……あの子に関わって内申点落として、なんて嫌だった」

 

 委員長は確か、部活でスポーツ特待狙いだったはず。

 大学へは勉強はそこそこでもいいが、部活の成績と内申点がすべてになる。

 

 『委員長』としてはクラスが恙なく治められればそれは加点対象。

 対して問題のあるクラスだった場合は……逆にマイナス考査もあり得るという所だろうか。

 

 ユウは頭をガシガシと掻いた。

 こういった問題は、中々解決に持って行けることは難しい。

 何が正解かは相手によるとしか言いようがないからである。

 和解するにせよ決別するにせよ、なあなあで済ませるにせよ。

 

 あかりを庇えば、今度は委員長が村八分だった可能性が高い。

 彼女は彼女のベターな選択を引いてたと言える。

 事実、委員長に比べて失うものがないユウは実力行使して村八分になっているので。

 

「でも分かったの。あの子は……あかりはあたしにとって、大切な友達。

 ずっとずっと昔から……あたしを助けてくれたたった一人の親友だったの」

 

 要は委員長はあかりとユウに対し、引け目を感じていたという事だろう。

 それはユウも理解した。

 しかし、あかりと委員長の関係には首を傾げた。

 

「……あかりとそんな、親しい関係だったか?

 俺と委員長は一応その……腐れ縁と言うか友達って言うか、だが」

 

 二人を『親友』と言わしめるには、疎遠だったようにユウには見えた。

 中学一緒だったとは言え、二人は二言三言話すぐらいしか見た事無かったはず……である。

 

「分かってる。

 あんただって、ちゃんと友達よ」

 

 委員長はこつん、と拳をユウの額に当てる。

 少し口元に笑みが戻っていた。

 

「でも、あの子だけはちょっとだけ特別。

 どんな私でも、どんな世界になり果てても……唯一友達で居てくれる子だから」

「……」

 

 ユウの中で、むくむくと違和感が広がっていく。

 委員長は妄想癖でもなければ、虚言癖でも無かった筈。

 あまりにも、委員長の語る『七井土あかり』と『二人の関係』には乖離がある様に思えた。

 

「だから───あの子を、悲しませないであげて。

 あの子と……あの子が好きなあんたは、あたしが守ってあげるから」

「委員長……」

 

 彼女の『覚悟』には偽りはない。それはいい。

 ただ、それは本当に彼女本人のものだろうか。

 ユウは委員長───卯花なぎさの悟ったような笑顔に、その決意の固さを見た。

 

「……ッ!」

 

 その時、ガサガサとした物音が立つ。

 いつの間にか、二人が隠れている路地の出口に竜人が立っていた。

 袋小路であり、逃げ場がない。

 

 (選択肢が多すぎて)どうするか逆に迷うユウに、委員長が庇うように立つ。

 そして、なぎさはユウに背中を見せながら胸の傷へ手を伸ばした。

 

「人類が終わろうと、世界が壊れようと関係ない。

 あたしは……あかりと、あかりの幸せを守る。

 だから───」

 

 覚悟を決めたなぎさが、ジャージの上着を脱ぎ棄てて胸元のリボンをほどく。

 開かれた胸元には……縦に伸びる切れ目がある。

 そしてその奥に眠る赤い鉱石が、きらりと光った。

 

「力を貸しなさい……魔女・・!」

「!? ……今、何て」

 

<<点火Ignition>>

 

 なぎさが胸元のスリットに手をスライドさせる。

 すると、『Ignition』の字が浮かび上がった。

 

 そして赤くなったかと思うと……周囲の温度が上がったかのように暑くなる。

 前回と同じく急激に高まった気温に、ユウは額に汗が滲む。

 

 強烈な極光オーロラの光が熱を生む。

 委員長の胸元に現れた『極光石オーロラ・リアクター』を掴んで叫ぶ。

 

……変身!

 

 委員長の胸元にある『極光石オーロラ・リアクター』から緋色の光が放たれる。

 光の中で制服が分解され、裸になったなぎさの身体に、緋色の光が十二単のように重なっていく。

 

 『極光石オーロラ・リアクター』から放たれる七色の魔力により辺りは目が明けていられない程の眩しさへ。

 その中で両手を横に広げた少女へ七色の光が巻き付き、黒いレオタードのようなインナーとなる。

 両手両足には艶のある、黒字に赤のラインが入った手袋と膝までの革地のブーツが伸びる。

 腰から長い裾の透明なスカートが広がると、十字にクロスされたベルトが胸元を隠し締め付けた。

 

 大きく開いた胸元には赤い『極光石オーロラ・リアクター』が取りつき、ペンダント状へ変化。

 それが彼女のざっくり開いた胸元、そこに縦に走る傷に挟まる。

 

 委員長髪が腰まで伸び、二本の白い角が後ろへ伸びた。

 なぎさの瞳に決意が宿り、極光と共に名乗りを上げる。

 

命の炎を繋ぐために……今、私は生まれ変わる───」

 

 黒い下地に切れ目の多いベルトとコート型コスチューム。

 コートの裾を翻し、委員長───なぎさは竜人達に向かって言い放つ。

 

「───魔法少女、オーロラ・スカーレット

 

 前回見たときと同様、激情を秘めた赤い少女が大地に立つ。

 ユウは少しだけ動きかけたが……大人しく彼女に任せることにした。

 

閉ざされた未来を切り開き───ただ一人の友七井土あかりを守って見せる!

 

(お前……そうか)

 

 ユウは病院で聞けなかった、なぎさのフル名乗りを聞いた。

 ポヨ公曰く、名乗りは個人の無意識の願望から自動生成されると言う。

 極光石オーロラ・リアクターは違う可能性はあるが。

 

 彼女のあかりへの思いは本物なのだろう。

 彼女の言動にある、前後関係が変なのが気になるが。

 

 委員長───魔法少女オーロラ・スカーレットと竜人達が睨みあう中、ユウはすっと崩れ落ちる。

 できるだけ気絶したように見せかけて。

 

『……スタ先輩、聞こえるっスか?』

 

 脳裏に琴音からの声が響いたからである。

 

(何があった?)

『面目ないっス。なんか変なトカゲたちに絡まれまして』

(そっちにも行ったのか)

 

 どうやら、彼らには琴音の結界も効かないらしい。

 実際ガ=ヘリクトにも見破られてたので、アル=ラツェルトや魔力を持つ者には効きが悪い可能性がある。

 

『こっちは撒きましたけど、スタ先輩のとこどうします?ホムちゃん突っ込ませます?』

(いや……止めとこう。委員長の目的はある程度分かった。

 手を組む余地はありそうだ)

 

 彼女の目的があかりを守る事なら、十分手を組むことは可能だ。

 だが、彼女の言動にある疑問点が胸襟を開くことを留めていた。

 

 なぜか、委員長はあかりと親友になっている。

 なぜか、委員長は急に魔法少女として戦い慣れているように見える。

 なぜか……『魔女』と言う単語を口にした。

 

 『魔女』はもう琴音しかいない。ユウはそう聞いた。

 しかし……これだけ並行世界から怪獣やら何やら来ているのだ。

 ユウはまたぞろ、別勢力クラスが来ている想定をしなければならない。

 

 彼女自身は信用できるとしても、彼女の背後関係が信用できるかはまた別問題だ。

 やはり、鍵は病院で見かけたピンク髪魔法少女だろうか。

 ユウは、単純にスパスパ怪獣を倒してた頃を思い出してため息をつきたくなった。

 

『じゃあ、どうします?なんかそこそこピンチ見たいっスけど』

(……そうだな。借りは返さないとな)

 

 二人で話し込んでいる中、スカーレットが竜人達と立ち回りを演じている。

 病院で戦った感じでは、そこらの敵に負けそうな性能では無かったが……。

 

 スカーレットはさりげなく、路地に横たわるユウを庇うような立ち位置を崩さない。

 それが、足枷になっているようだった。

 

(使い魔体で加勢する。結界はそのまま貼っといてくれ)

『了解っス』

 

 ユウは本体を路地に寝かせたまま、意識を使い魔に飛ばす。

 使い魔体───イスタスとしての身体は、予め琴音邸から交差点を見下ろせるビルの屋上に移動させてあった。

 

 寝た状態からすっと起き上がったイスタスは少しだけ柔軟をして、階下を望む。

 そして、とん、とフェンスを一足に乗り越えた。

 

変身ッ!

 

 落下の風により裾をはためかせながら。

 イスタスは胸に浮かぶ『涙虹石イーリス・リアクター』を、掴んで叫んだのだった。

 

 

 

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