能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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つづき


第四話 始まりの魔法少女、少女を助ける

 七井土なないど あかり、三上ユウのクラスメート。

 垂れ目と太めの眉を持つ容貌はある種、純朴で気弱な印象を抱かせる少女である。 

 淡い茶色の地毛をハーフアップに纏め、後ろで結んだ黄色いリボンは制服のブレザーとよく似合っていた。

 

 ───その彼女が、空き地に倒れている。

 

 仰向けに大の字になって倒れている姿は、一瞬寝ているのかと錯覚させる。

 しかし力なくだらりと広がった手足と四方に広がる髪が、それを否定していた。

 

七井土なないど、しっかりしろ!」

 

 一瞬呆けていた三上ユウは気を取り直し、七井土あかりへ駆け寄る。

 急いで抱き起すと、ぬるりとしたものが広がる。

 それは黒く変色しつつある血だった。

 

「……まじか」

 

 大穴が空いていた。

 どこって、胸を中心に。

 心臓を中心に、肋骨ごと肺の一部ももぎ取られるように無くなっている。

 誰がどう見ても、致命傷。手遅れだった。

 

(七井土は……昔、助けてしまった・・・・・・・責任がある、のに……)

 

 ユウの苦い記憶と共にある少女の命は、零れ落ちようとしていた。

 ユウはスマホで119に手を伸ばしたが、悲しそうに七井土を見るポヨを見て叫ぶ。

 

「ポヨ公、なんとかならんのかッ!?」

「この世界ではポヨの回復魔法は使えないポヨ。

 せめて他に魔法少女がいれば───あ、れ、作りかけの涙虹石が……反応してるポヨ?」

 

 ポヨの四つ耳、そこには元々それぞれ4つのイヤリングとして石が付いていた。

 この前イスタスに渡したのはその一つ。

 イスタスに渡した涙滴型の石とは別、十字の形をした石が淡く光っている。

 

「……ッ! ユウ、この娘、『魔法少女』の素質があるポヨ!

 『魔法少女』にしてこの娘自身の魔力が使えれば、もしかしたら助かるかも」

「……議論してる暇はないな、やってくれポヨ公!」

「わかったポヨ」

 

 ポヨは耳に掛かっている十字の石───涙虹石を取り、七井土あかりの胸に空いた穴に置く。

 

「『三界を統べる精霊の名のもとに、汝の力もて呼び覚まされし、我が半身へと与え給う』」

 

 ポヨが呪文を唱えると、涙虹石が鈍く震えて……光の粒が集まっていく。

 くるくると七井土の身体の周りを回る光が胸に集合していき、時間を巻き戻したかの如く心臓や皮膚が修復され覆われていく。

 

「おお、きれいに治るじゃ、ない……か……」

 

 光が収まると、十字型の涙虹石は七井土の胸の中に消え、ぶちまけられた血までキラキラした光と共に消えていく。

 魔法もやるじゃないかと感心したユウは一つの事実に気づいた。

 

 ……あれ、身体が綺麗に治る。それはいい。

 でもその、服はそのままだ。

 引き裂かれて、袖しか残っていないレベルの服とも言えない布だけ。

 

 ……胸がはだけたまま・・・・・・・・なのだ。

 

 つまり、客観的に見て三上ユウは今、上半身をはだけさせた女に迫る筋肉質の謎の男になる。

 強姦一歩手前かな?

 

「……へ、変身へんしんッ!

 

 う……という、彼女が覚醒する兆候を見て間髪入れず、ユウは涙虹石を掲げてそう叫んだ。

 服がはじけ飛び身体が一瞬で女性化。

 昨日の焼き直しのように両手を横に伸ばしたユウの身体にきらきらした光が降り注ぐと上半身から短いマントに覆われ、腕まで2重フリルのついた袖が伸びる。

 

 背中とお腹が大きく開いたデザインの黒いインナーが下半身まで覆われ、足は左右色違いのニーハイソックスが包む。

 

 首には先ほどの涙虹石が中央にあしらわれたペンダントが取りつき、短めのフレアスカートがふわりと伸びた。髪はすらりと腰まで伸び、燃えるような赤に染まる。最後にタイトな革ロングブーツで足が包まれた。

 

願いと約束を力に変えて、今オレは生まれ変わる

 

 再びオートで動く身体に従い、ユウは腰をくの字に曲げ、右手の掌底を突き付けたポーズで啖呵を切る。

 

「───魔法少女、イスタス

助けを求めるなら、諦めない限りワタシが守る

 

 ユウ───イスタスの変身の光で目が覚めた七井土あかりは、困惑したようにイスタスを見やる。

 どうやら三上ユウの姿は見ていないようで、内心イスタスは胸を撫で下ろした。

 

「え、ええと、貴女は……イスタスさん?助けてもらったようで……ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして───ここで何があったか、教えてもらってもいいでしょうか?」

「あ、は、はい」

 

 イスタスは澄ました表情を作りながら、素知らぬ顔で七井土あかりへ手を伸ばす。

 七井土あかりは手を握って立ち上がると、一瞬自分の身体の状態に驚く。

 上半身は上着も下着も吹き飛んでおり、スカートのみの状態とあってはさもありなんと言える。 

 イスタスの手に導かれ、なんとか空き地の隅で身体を隠すようにうずくまった。

 

「ごめんなさい、何か羽織るものでもあるといいのだけど」

「いえ、大丈夫です。その……女性の方で安心しました」

「……そ、そうね」

 

 イスタスは思いっきり顔を背けた。

 

「私はその……ここで人を待っていたんですが、その時急に空に黒い穴が開いたんです。

 その、信じられないと思うんですけど……」

「信じますよ。私も以前それを見ましたんで」

「そうですか……あの穴から、その、黒いミミズ? 虫? みたいなのが出てきて、その。

 逃げようと思ったんですが、気が付いたら、こうなってました」

「そう。

 ……間に合わなくて、ごめんなさいね」

 

 イスタスは自分の肩を掴んで震える七井土あかりをそっと抱きしめた。

 ……ちなみに三上ユウにやましい気持ちは一切ない。

 イスタス化した彼女の精神性はもちろん男ではあるが、元々七井土あかりに対しては妹みたいな庇護の対象として認識していた。

 

 イスタスは彼女の震えが収まるまでしばらくそのままで待った後。

 気を取り直すように、ポヨを手招きした。

 

「ポヨこ……ポヨ、彼女の身体の状態、説明してもらえる?」

「わかったポヨ」

 

 イスタスの肩越しに、四つ耳の謎生物が顔を見せる。

 安心させるためか、無駄にいい笑顔をしていた。

 

「初めましてポヨ。ポヨはポヨ。

 別の世界から来た妖精だポヨ」

「よ……え?しゃべって、え、妖精?」

 

 あかりは少し混乱した様子で謎生物を見る。

 まあ、魔法少女としゃべる4本耳マスコット動物のどちらがインパクトあるかと言うと後者かもしれない。

 

「ええと……信じられないと思うけど、私は魔法少女、このポヨは妖精。

 ……あなた、そういうのに理解とか、あるかしら。アニメとか」

「え、まあ、その、知ってはいます、けど……」

 

 あたふたしながらもポヨ公をさわさわ触りながら頭を撫でる七井土。

 結構動物好きだったりするのだろうか。

 

「まず今、君の身体は心臓を中心に大穴が空いた状態で瀕死だったポヨ。

 魔力を元にして疑似的に心臓とか肺を再構成したポヨ。

 気分は悪くないポヨ?」

「え、魔力? ……ええ、なんともない、です」

「いいポヨね。やっぱり魔力との親和性が高いポヨ。

 君なら『魔法少女』になれるポヨ」

「私が……魔法少女?」

 

 イスタスを見ながら何とも言えない表情をする七井土あかり。

 何気に喜んでるのか痛いと思ってるのかはユウには読み取れなかった。

 

「そのことだ───そのことですけど、ポヨ。

 彼女を無理に『魔法少女』に勧誘するのは、止めましょう。

 少なくとも少し時間を置くべきよ」

「そうポヨか?

 『怪獣』対策を考えると戦力は一人でも多い方がいいと思うポヨ」

 

 ポヨ公としては、魔法少女を増やすメリットのが大きいかも知れない。

 でもイスタスとしてはさすがに知り合いを巻き込んであの『怪獣』と戦わせる気にはなれなかった。

 

「その方針は後で話しましょう。

 今は───七井戸さん、羽織るもの持ってくるから、家まで送っていきます。

 ポヨ、彼女を見ていて」

「わかったポヨ。後で話すポヨ」

 

 イスタスは『強化』した脚力で跳躍。

 家に戻ると、母親のタンスから上にあったパーカーを引っ掴み直ぐに戻る。

 

「これを着て。

 家はどこ、案内するわ」

「ありがとうございます。

 家はすぐそこの……あ、その、そういえばなんですが……。

 男の子、見ませんでした?」

 

 思わず反応しかけたイスタスは口の端をひくひくさせながら、目をぐるりと回して言い訳を考える。

 

「待ち合わせ相手かしら。特に見てないけど……。

 その……ちなみに、本当に今日・・待ち合わせしたのかしら?」

「はい、そうです」

「本当に……今日・・待ち合わせしたのかしら?」

「……? ええ、そうです、けど」

 

 意味深に繰り返すイスタスに、ハテナ顔で顔を傾ける七井土。

 ポン……ずっこけ……と言う単語が頭をよぎりイスタスは肩を落とした。

 

「……はぁ、やっぱり、嫌われちゃったのかな……」

「……」

 

 それはこちらのセリフだ、と言う言葉をイスタスは喉元まで出てきたが飲み込んだ。

 これ以上の意味深台詞を吐くと色々ぶちまけてしまいそうになり、イスタスは諦めた。

 

「とりあえず、今日は帰った方がいいわ。

 この場所は危険なの。私が暫く見張っておくから、その子が来たら伝えておくよ」

「……そう、ですか。わかりました。ありがとうございます」

 

 七井戸あかりを家まで送るイスタス。

 彼女の名誉のために出てきた家族まで顔合わせまでして、人間離れした『跳躍』をし、視界から消える。

 これで彼女が暴漢に襲われて錯乱しているという誤解は免れるだろう。

 

 その後念のため隣町まで移動して家に帰ったユウは、なんか恥ずかしさと自己嫌悪でソファに突っ伏したのだった。

 

 

──────────────────────────

 

 

「じゃあ続きいくぞ」

「わかったポヨー」

 

 その後。

 風呂に入って精神を落ち着けたユウは、改めてポヨとの会議を再開した。

 

「それで、ポヨ公。

 まずあいつの状態は特に放っておいても問題ないのか?」

「あの娘の肺と心臓は体内に埋めた涙虹石から供給される魔力で構成しているポヨ。

 魔力が切れない限り、特に問題ないポヨ」

 

 ポヨ公は用意したオレンジジュースをストローでごくごく飲みながら言う。

 

「魔力ってどうやったら増えたり減ったりするんだ?」

「魔力は放っておけば勝手に回復するポヨ。

 魔法少女になってガンガン魔法使えば魔力は減るポヨ」

「ふむ……仮に魔力が切れたどうなるんだ?」

「それは……魔力で構成している肺と心臓が消えるポヨ」

 

 あっさりと言うポヨ公に、ユウはやはり人間と死生観が異なるナマモノなんじゃないかと疑った。

 

「つまり死ぬんだな。

 やっぱり魔法少女にはさせない方がいい」

「安心するポヨ。

 そこは消える前に魔法を強制停止させるリミッターを付けといたポヨ」

「でもそれって根本的な解決にはなりませんよね。

 こんなに俺とポヨ公で意識の差があるとは思わなかった…!

 これじゃ、俺…地球を守りたくなくなっちまうよ…」

「急にどうしたポヨ」

 

 思わずミス〇さんになってポヨ公に突っ込んでしまった。

 一つ咳払いして心を落ち着けたユウは、思わず立ち上がった腰を落ち着けてコーヒーを飲む。苦い。

 

「すまん、落ち着いた。

 とりあえず、方針の話に戻るが……まず、6体の『怪獣』は俺が倒そうと思う」

「やってくれるポヨ?」

「ああ。

 それに伴う、発生するであろうリスクはすべて『謎の魔法少女イスタス』として回避する」

「素顔は出さないポヨ?」

「絶対に出さない。

 『魔法少女イスタス』と『三上ユウ』は極力接点を切り離す」

 

 そこまでは既定路線としてユウは覚悟していた。

 問題は、他の魔法少女の扱いである。

 

「で、少なくとも6体の『怪獣』を倒すまで他の魔法少女は増やさない方針で行きたい」

「それまたどうしてポヨ?」

「単純にあんな怪獣と戦わせて守り切れる自信がない。

 死なせてしまったら責任取れん。

 ポヨは何か勝算とかないのか?」

 

 そう言うと、ポヨは短い前足を組んでうーん、と体を逸らした。

 てか四本足族の癖に前足を組めるのかこの畜生。

 

「……正直、戦力的な意味で今のイスタスに匹敵する魔法少女はできないポヨ。

 でも、魔法は戦うだけじゃないポヨ。

 発現する固有魔法には回復魔法だったり、移動魔法が現れる可能性もあるポヨ」

「なるほど、確かにそれは便利そうだな」

 

 防御力なら三上ユウは絶大だが、『強化』で回復はできない。

 正確には自身の肉体のみ『回復力強化』はできるのだが、細胞分裂の命数を消費する。

 しかも手足が生えるレベルの回復は流石に不可能だ。

 

「だが却下だ。

 すまんが今後増やす魔法少女にはしっかりとリスクを認識してもらってから、増やしてもらう」

「どういうリスクだポヨ?」

「それは『魔法少女』が『イスタス』と同じことが出来ると認識されて各国から戦略兵器みたいに見られるリスクだ」

 

 ユウはあまり社会の厳しさを知らなそうなポヨへ向けて、厳しい表情で言った。

 

「『怪獣』を倒した実績は今のところ魔法少女『イスタス』の特異点技だけ。

 ならどうにかして『魔法少女』を手に入れたいと思うだろ?」

「うーん、よく分からないけど、そんなものポヨ?」

「そんなものだ。少なくとも俺が政治家か軍人ならそう考える。

 自国内で大量破壊兵器モドキの人間がいるなら誰だってそう思うだろ普通」

 

 それがイスタスを三上ユウから極力切り離す理由でもある。

 まかり間違って魔法少女の大安売りでもされない為に、ユウはポヨへ向けてしっかりと釘を刺したかった。

 

「でも変身していれば分からないポヨ」

「バカお前、日本のお巡りさんなめんじゃなねーよ。

 今頃痕跡物やら撮影された動画やら情報集めてるはずだ。

 どんな些細なものから特定されるか、分かったもんじゃない」

 

 DNAレベルで変身してるだろうから指紋や血痕からは追えないと思うが、監視カメラ、SNSの情報、足跡などあらゆる科学捜査を文字通り国家の威信にかけて実施してくるのが予想される。

 下手な魔法少女ではすぐに変身解除でもして見つけられてしまうことが容易に想像できた。

 特に、あのポン過ぎる七井戸あかりについては。

 

「うーん、分かったポヨ。

 でも、手が足りるポヨ?」

「そこは……まあ、何とかするしかないな。

 ワンオペだって回せればそれがベストだ」

「前の話に比べて全然説得力を感じないポヨ……」

「うるさい。

 そこは正直出たとこ勝負だ」

 

 痛いところを突かれてユウは負け惜しみのようなセリフを吐いた。

 『怪獣』対策は実際どうすればいいのか個々の特性を見て考えるしかないのだ。

 

「うーん……あ、そうポヨ。

 ユウがお風呂入っている間にてれび?ってやつで『怪獣』の話をやってたから見るポヨ」

「何か新情報が出たのか?」

 

 怪訝そうにしながら、リモコンでテレビをつけるユウ。

 N〇K放送では、どこかの都市からの中継画像が映っていた。

 

「……出たか、『怪獣』」

 

 どこかの都市を思わしき場所で、巨大な樹木を思わせる『怪獣』が都市を飲み込まんと縦横無尽に蔦が這いずり回っている。

 場所を早く言え場所を……と焦れるユウは、アナウンサーからの言葉に凍り付いた。

 

『───ここ、ドバイではいきなり出現した大きな樹木のような生物に襲われ、すでに大量の死傷者が出ている模様ですッ!』

 

「……ドバイだと?」

 

 地図をひっくり返し、アラブ首長国連邦にある都市だと分かる。

 羽田空港からの距離は約 7,946 Km。

 飛行機で9~10時間はかかる距離であった。

 

「……」

 

 あまりにも遠すぎる。ユウは黙考した。

 転移の穴がある空き地に集合するのかと思っていたら、いきなり反対側みたいな場所に現れてしまった。

 飛行機での直行便なんて今更使えないだろうから、正攻法でドバイまで乗り込んだら何日掛かるか分かったものではない。

 

「あ、まだ続きがあるみたいポヨ」

「……なんだと?」

 

 そしてテレビのニュースでは、中継が切り替わる。

 今度はどこか見覚えのある自由の女神が映っていた。

 ───半分に折れて、上半身を謎の鳥が咥えている姿で。

 

『ここ、ニューヨークに現れた巨大な鳥のような怪獣は、縦横無尽にビル群を破壊しながらぐるぐると上空を旋回しています。一体彼らは何なのでしょうかっ!

 ニューヨーク上空では、鳥に攻撃された航空機が多数出ている模様です!

 9.11以来の大惨事に米国では非常事態宣言が───』

 

 ユウは崩れ落ちた。

 

「二体同時出現。しかも海外だと」

 

 想定を軽く超える事態に、ユウの頭は真っ白になった。

 




2022/12/13 少しだけ変更

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