能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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つづき


第九話 始まりの魔法少女、少女の心を知る

 三上ユウ、自宅。

 七井土あかりを魔法少女にするのに失敗した後、解散して夕飯の準備がてら色々考えながら三上ユウは帰宅。

 ポヨ公を蹴たぐり回しながら夕食にし、居間で帰りに買ってきた本を広げていた。

 

「うーん……どうしたもんかな」

 

 つぶやきと共に、読みかけの本を被るようにしてソファーに寝転がる三上ユウ。

 これの持つ本の表紙には「やる気を出す100の方法」「海兵隊式罵り手帳」「コスモスの空に」「葉隠」等が記載されている。

 

「モチベーションを上げる……なら、できそうな気がする。

 ……でも『死んでもいい』気持ちって何だよ。俺ですらそこまでの決意ねーよ」

 

 三上ユウはあくまで『強化』という能力を持つ前提があるから、戦えるところがある。

 もし『強化』能力が無くなればみっともなく逃げ出すかも知れないと自己分析していた。

 

「じゃあ、あかりの『涙虹石イーリス・リアクター』は回収するポヨ」

「お前はいい加減、そこに書いてある基本的人権とヒューマニズムを理解しろ」

「大分非効率ポヨね……」

 

 今までに発覚したポヨ公の倫理的ギャップ。

 それを解消するためにポヨ公はPCの前に縛り付け、基本的人権とヒューマニズム宣言を読ませている。

 どこまで納得するかは分からないが、少なくともこいつの頭であれば理解はするだろう。

 

「非効率だろうがなんだろうが、この世の中そうやって動いてんだよ。

 お前もそれを理解しないとこれ以上魔法少女増やすなんて、できん。

 今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」

「分かったポヨ」

 

 ポヨ公に倫理教育を施しつつ、ユウは対策を練る。

 

「精神的な成長を促して死も恐れぬ戦士にする?……無理無理。

 まだ全身麻酔でもかけて物理的に取り出して変身させる方が現実的か?」

 

 でもその場合、変身より心臓の復活させる方を願いそうだ。

 結局のところ、彼女のメンタルを何とかしないことはにっちもさっちもいかないのだ。

 

「……メンタルねぇ」

 

 七井土あかりは過去、いじめによりメンタルに大きくダメージを負っている。

 ……あるいは、そこを刺激すれば……。

 

「いや、流石に下種すぎるだろ……」

 

 思いついたのは『お前を殺して私も死ぬ!』的な、開き直りプッツン状態。

 それならもしかしたら、やりようによってはできるかも知れない。

 

 ただ流石に三上ユウはそこまで堕ちていないのだ。

 それにただ暴れるだけのバーサーカーでは役に立たない。

 三上ユウが欲しいのは正面戦力ではなく、どちらかと言うと調査したり移動補助したりするサポート要員。

 人類が滅亡する瀬戸際でもない限り、そんなことはしないだろう。

 

(ま、最悪このままでもいい)

 

 無理してあかりを魔法少女にはしなくていい。

 潔く諦めて次を探すべきだろう。

 ポヨ公も何やらPCを見ながら悶えているのを横目で見ながら、三上ユウは半分諦めながら本を読み進めるのだった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 翌日の学校にて。

 結論から言うと七井土あかりは、休んでいた。

 ……まあ、無理もない。

 

「三上君、七井土さんにプリント渡しておいてよ」

 

 帰り支度をしていたユウに、前席に座る女生徒───クラス委員長がプリントを渡して来る。

 

「なんでよ。

 委員長が渡しておいてくれよ」

「彼女、あなたにだけは怖がってないみたいだから?」

「は?俺はあいつに怖がられてるだろ?」

 

 ユウ視点では、視線が合う度に飛び上がる。

 近づけば急ぎ足で逃げられる状態だ。

 これで避けられていないのなら、何だというのだとユウは訝しがった。

 

「逆よ逆。

 彼女、『あの時』以来、あなた以外のクラス全員を怖がってるわ」

「そりゃ、程度問題だろ。

 全員見て見ぬ振りだった訳だし……」

 

 いじめに加担しようとしまいと、助けもせずに無視していれば恨みもする。

 だから彼女は最近、別のクラスの友達としか話しているのを見ない。

 無視したクラスメートよりはマシ、程度だとユウは考えていた。

 

「それでも、このクラスでは三上君以上に話せる人は居ないでしょ。

 私だとまた読まずにそのまま捨てられるかも知れないわ」

「……」

 

 不承不承、という体でユウはプリントを受け取った。

 正直様子を見に行きたい気はあったのだが、押し付けられると行きたく無くなる天邪鬼。

 

「せっかくだから、避けられてるか確かめてみたらいいじゃない。

 はい、これ住所」

「お、おい、いいのかよこれ」

「いいのよ。

 先生の許可はもらったから」

「なに?」

 

 住所は知っているからいいのだが、生徒の住所がこんな簡単に知れていいのだろうか。

 昨今のプライバシーというかリテラシーはどうなっているのか。

 

「さぁ行った行った。根性見せなさいよ?」

「どうしてプリント渡すのに根性が関係するんですかねぇ」

 

 ニヤニヤとしながら早く行くよう促す委員長に、どこか作為的な匂いを感じる。

 これは何か企んでるな?

 

(……まぁ、いいか)

 

 おそらく、先生からあかりの様子見を依頼されているのだとユウは推測した。

 委員長はそれを利用して俺とあかりの接点を作ろうとしているのでは。

 

 真相は分からないが、素直に従うことにした三上ユウは運動部の掛け声を横目に一旦帰宅。

 それから七井土宅へ歩いて向かったのだった。

 

 自宅から歩いて10分の実に近所である。

 こんな近いと実は昔から接点会ったんじゃないかって?ないんだな、これが。

 主な理由はユウ側の事情になるのだが、この場では割愛する。

 

 七井土宅はそれなりに稼いでいるのか敷地面積も大きい家だ。

 清潔感もあるし、庭も丁寧に手入れされている。

 親のセンスが垣間見えるようだった。

 

「……あ」

 

 そして目が合う。

 庭に置いてある白いチェアに、30代ぐらいに見えるご婦人が座っていた。

 あかりに似た優し気な相貌で、ふんわりボブの髪型をしている。

 

「ね、君もしかして『三上君』?クラスメートの」

「はぁ、そうですが……」

 

 いきなりの質問に面食らうが、ユウは一度『魔法少女イスタス』として顔を合わせているので面識はあった。

 

「あかりの母です。

 ちょっとお話し聞かせてくれない?」

「はぁ……分かりました」

 

 はぁはぁばかり言って変質者みたいだが、流れに流されるように誘導されたユウはそんな言葉しか出なかった。

 対面にかけると、好奇心に輝く瞳でじろじろとユウを見る。

 割と筋肉派であるユウは上腕二頭筋でもぴくぴくさせようかと思ったが、自重した。

 

「あの娘……最近学校ではどう?」

「あかりさんですか。

 最近はその……ええと、なんと言ったらいいか」

 

 ユウは言葉に詰まった。

 あかりは両親にいじめの事やら最近の事情をどこまで話しているのか、分からない。

 流石にあれだけ釘を刺した『魔法少女』関連は言ってないだろうが……。

 

「今日、ずる休みなのあの娘。

 外出たくないとか言って」

「はぁ」

 

 でしょうね。

 主に自分とポヨ公のせいで。

 

「でも『三上君』なら出てくるんじゃないかと思って」

「……あかりさんは、普段自分の事はなんと?」

「うふふ、それはあなたから聞いてみて欲しいわ。

 あの娘の部屋は2階上がって左手前だから、行ってあげて?」

「……はぁ」

 

 ここまで言われると、ユウは何となく見えてきた。

 学校のクラス委員長の反応。お母上の反応。そして普段視線を向けた時のあかりの反応。

 

(あれは怖がってたんじゃなくて、恥ずかしがってた?)

 

 彼女から見たら唯一いじめから助けたヒーローという状況。

 聞かされた話と状況から流石にユウでも七井土あかりの心持は想像できなくもない。

 それがどのくらいの強さまでは分からないが……心を寄せているのは間違いなさそうだ。

 

(うーん……)

 

 だが大変申し訳ないのだが、三上ユウにとって七井土あかりへの認識は『子供』カテゴリーである。

 近所に居る犬猫と一緒で、近づいて来れば可愛がりもするし、ケガしてたら助ける。

 でも恋愛対象ではなかった。

 そりゃ男として下着でも見せられればドキドキするが、いちゃいちゃしたい的な気はない。

 でもこれって……。

 

(モチベーションに、使える……か?)

 

 愛ですよ愛。

 学校生活に復帰させるのも、『魔法少女』にするにも。

 愛というモチベーションはそりゃ思春期少女には効果的だろう。

 

(……外道だけどな)

 

 それをやったら心を弄ぶ外道である。

 しかし今は物理的に危険な状況下。

 どんな手でも『魔法少女』にしておけるなら、次の襲撃があったとしても安心であるという考えもある。

 

 少なくともこの周辺に潜んでいると思わしき虫?のような奴を討伐するまでは、『そういう関係』にしておくのも手ではないか。

 ユウは迷った。

 

(……後で殺されるかな)

 

 好きでもないのに付き合って、ヤル討伐ことやったらハイさよなら。

 酷い字面だった。

 ぶるぶると頭を振って気分を入れ替えながら、案内された二階の階段を上る。

 そして『あかり』と書かれたドアプレートが掛かった扉の前に立った。 

 

「……七井土、入ってもいいか?」

「……ぇ!」

 

 こんこんこん、と三回ドアをノックして、聞く。二回はトイレだ気を付けろ。

 中からは押し殺した驚愕の声と共に、ドタバタと何かを片付ける音。

 回答はなかったが、ユウは3分待った。

 

「……もう、入っていいか?」

「ぃ、ぃや、あの……いいです」

 

 混乱してはいるが許可を貰い、ゆっくり扉を開けて入室。

 部屋はピンクピンクしてると思いきや、白基調の割と落ち着いた内装だった。

 

 あかりは部屋着で薄いピンクのキャミソールに急いで出したのかカーディガンという出で立ち。

 下も白いだぼっとしたフリースパンツなので、外にも出ずリラックスしてたんだろうと思わせた。

 所在なくきょろきょろするユウに、あかりはすっとクッションを押し出す。

 

「あ、ありがと」

 

 ユウも少し緊張しながら腰を下ろすと、二人はお見合い状態で黙る。

 プリントを渡せば用事は終わるのだが、ユウはいまださっきの結論を迷っていた。

 

(どうするか。まぁ、まずは確かめるか)

 

「その……だな。なんだかよく分からん流れでここまで来てしまったんだが。

 俺の要件はとりあえず、プリント渡しに来ただけだ」

「……は、はい」

 

 がさがさとカバンから少しだけよれたプリントを取り出し、あかりへ渡す。

 あかりも受け取りつつ、内容を見るふりをしてチラチラとユウを上目遣いで追った。

 

「で、だが……そのだな。

 えー……一昨日の用件って聞いていいか?」

「……ぁ!」

 

 取り出したルーズリーフ。そこには『明日』の放課後空き地まで来て下さいと書いてある。

 自らのミスに気付いたあかりは、ぺこぺこと頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい。

 今日って書いたつもりだったんです……あ、でも間違って良かったかも。

 いや良くないけど……」

 

 あかり的にはユウが空き地に行って襲撃されることにならなかったので、結果的にはOK。

 でも間違って呼び出してしまって申し訳ない。

 そんなあかりの心の動きを正確に読み取ったユウは、そのまま顔に出さずに続けた。

 

「で、何の用事だったんだ?」

「それは……」

 

 ぎゅっとクッションを抱きしめて俯くあかり。

 俯きながらか細い声で、あかりは言った。

 

「お……」

「お?」

「お話し、したいなって……」

「そうか、それはできたな。

 ……で、何の話をしたいんだ?」

 

 容赦なく話を続けるユウに、あかりは喉の奥でひっと悲鳴を上げた。

 完全に何も考えておらず、何を答えればいいか分からないあかりの脳みそはフリーズした。

 

「す……」

「す?」

 

 そして反射的に『それ』を言葉にしようとして、最後の一線で踏み留まった。

 いや、踏み留まってしまった。

 

「す……するめいか」

 

 あかりはヘタレた。

 ここで前へ行けているなら、いじめられもしなかったかも知れない。関係ないか。

 

「そうか。

 酒のあてとしてはいいが、単体でだとちょっとくどいかな」

「うん……」

 

 あかりはす……の続きを切り出せずに自己嫌悪してクッションに顔を埋める。

 そんなこと言ったってしょうがないじゃないか……と心の中でえ〇りが喋るのを聞きながら悶え転がる。

 しばらく悶えるあかりの様子を見ていたユウは、一度目を瞑ってから口を開いた。

 

「なぁ、あかり。

 お邪魔じゃなければ……俺と付き合ってくれないか?」

「!?」

 

 あかりは倒れた。

 

 




第一章、了

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