方舟のエピローグ   作:ヒオルカ

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W

 

 

 

 

眩暈がする。

 

 

気がついたら朝か。朦朧としていて、寝たのかどうかすら分からない。

 

壁に刻まれたバツ印を見る。カレンダーは一周し、ペンのインクはもう残っていない。

 

「一年と......」

 

視界がボヤけて上手く数えられない。

考えるのを諦めて、目を閉じる。

 

 

 

 

 

こうなったのは三日前。湧き出ていた水が遂に止まってしまった。

原因は分からないが、この枯れた荒野で唯一の水源となっていた場所が停止した。少し遠くに出て探し回ったが、結局他の水源が見つかることはなく、先に体の方が限界を迎えた。

 

倉庫の食糧はまだあるが...水がなければ、どうしようもない。

 

 

「...っ」

 

 

血の気が引いて行く。

今までの怠さとは違う、死に近づいて行くスイッチ。

 

じんわりと暑いはずのこの部屋が妙に涼しく感じられる。

 

 

 

ここまでか。

 

 

 

最後の力を振り絞って、這いつくばりながら外に出る。

 

家の中にいるよりは外へ出ていたほうが、死体は見つけやすいかもしれない。

それとも、外ではすぐに劣化してしまうだろうか?考えがまとまらない。

 

 

 

今更になって、一人で死ぬのが怖いだなんて。

 

 

 

 

本来ならあそこで死んでいたっておかしくない命だ。今の生活だって、生きているとも言い難い。

 

 

でも...やっぱり、一人は嫌だ...!

 

 

 

「...あら?」

 

 

 

...足音。

 

こっちに来る...?

 

「...っ!」

 

声が出ない。音の方向を向くことすらできない。

 

「っ...!あんた...!」

 

声が聞こえた。誰だ...?

 

「...無様ね。世界を救った大英雄様が、こんな辺境で一人、這いつくばって。」

 

もう...意識も...

 

 

 

「......チッ」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

...心地よい、揺れ。

 

 

体温。

 

 

揺蕩う意識の中で、ずっと求めていた感覚に、触れている気がする。

 

 

 

「う...」

 

「あら、お目覚め?あたしとしては一生目を覚さなくても良かったのだけど。」

 

そう言って、私を背負っていた彼女は私を地面にそっと寝かせた。

 

「ほら、飲みなさい。一応さっきもちょっと飲ませたけど、足りないでしょう?」

 

...!水...

 

彼女からチタンの水筒を受け取って、口をつける。

 

 

長らく求めてやまなかった水分が全身に浸透する。

 

「っ...はぁ...!はぁ...」

 

ようやく、視界が回復する。その視線の先にいたのは...

 

 

 

 

「...!W!Wなのか...!」

 

「そうよ、『元』ドクター。今は荒野で行き倒れの無職?ざまぁないわね。」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「本当に歩けるの?無駄な意地はってんじゃないわよ。」

 

「いや、大丈夫だ。」

 

二人、荒野を歩く。彼女は少しペースを落としてくれている。

 

「...ここが何処か、分かるのか?」

 

「ここはラテラーノとレム・ビリトンの間。前ならサンクタの輸送隊が元気に餌を運んでくれたところだけど...今はいないわ、誰かさんのせいでね。」

 

「...そうか。」

 

人通りがないのは、やはり源石の車が使えなくなったせいで都市間の移動が激減したことが原因なのだろう。

とにかく、長らく判明していなかった現在地が判明したことに嬉しさを覚える。

 

「...あんたこそ、こんなところで何してたのよ。」

 

「分からない。気がついたらここに倒れていて、そのまま一年とどのくらいかだ。」

 

そう言うと、Wは悪そうな顔で笑った。

 

「きっとあのババアがあんたを捨てたのよ。知っての通りあいつは性格悪いから、戦いが終わって必要の無くなったあんたを、ポイっとね。」

 

「まさか。」

 

憎まれ口を叩きながら、二人並んで歩く。この時間が懐かしくて、ずっと求めていたもので、自然と頬が緩む。

 

 

 

「見えた?あそこがレム・ビリトンよ。」

 

目の前に広がる、大きな鉄の塊を見上げる。かつて唸り声を上げて移動していたその都市は、いまや沈黙したままだ。

 

「ああ...あれも、もう動かないんだな。」

 

「そうよ。天災も来ないから動く理由もないし、そもそも動力だって死んでる。ただ入りにくいだけの都市。」

 

人が智慧をかき集めて作り上げた対抗手段が不必要になるということは、きっと良いことなのだろうけど。

 

もう少しで入り口が見えるといったところで、Wは進行方向を変える。

 

「...?入らないのか?」

 

「言ったでしょ、入るのが面倒なの。あっちにあたしたちの拠点があるから、そっち行くわよ。」

 

Wに従いしばらくレム・ビリトンに沿ってを歩くと、小さな集落のようなものに辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここがWの拠点か。」

 

「天災が消えて移動都市以外の土地もちゃんと使えるようになって、今のところ土地が余りまくってんのよ。もちろん広すぎて治安はアレだけど。」

 

石造りの家が幾つかと、テントがたくさんある。黙ってWについて行くと、家から一人のサルカズが姿を見せた。

 

「W?戻ったのか...その男は?」

 

「昔の知り合いよ。頭だけは無駄に良いから拾ってきたの。」

 

 

「そうか。俺はWの傭兵部隊にいる、ロッジだ。よろしく頼む。」

 

そう言うと、若いサルカズ傭兵『ロッジ』はこちらに手を差し出してきた。

その手には、幾つかの大きなへこみのようなものが見えた。

その手を取って握手を交わす。

 

「よろしく頼む。私は...」

 

「コイツはドクターって呼んであげなさい?哀れにも職場を解雇されて、昔の役職に縋ってるの。」

 

「...解雇された訳じゃないぞ。ただ私の役割が終わったというかなんというか...」

 

「ははは、どうやら本当に知り合いのようだな。」

 

なんだかどんどん自分の謂れのない不名誉がばら撒かれている気がするが、残念なことに自分に止める手立てはない。

 

「ロッジ。こいつロクな飯食べてないから、なんか食わせながらここのことでも説明してやりなさい。あたしはレム・ビリトンに報告行ってくるから。」

 

「分かった。では行こうか、ドクター。」

 

Wと別れ、ロッジの背中について行く。

 

 

 

 

 

「ドクター。」

 

「なんだ?」

 

「君はサルカズか?」

 

「いいや。」

 

ロッジは少し意外そうな顔をして振り返った。

 

「そうか...俺の手を見て、握手を躊躇わなかったサルカズ以外の人間は、初めてだよ。」

 

「源石病が治った跡だろう?何も問題はない筈だ。」

 

「そうだ。だが皆一瞬くらいは恐れるものさ。あの時の苦痛が、再び舞い戻ってきやしないかと。」

 

「......」

 

「おかしな話だろう?サルカズの大部分は自ら望んで源石病を患う。俺だってその一人だ。だが、よりによってそれが綺麗さっぱり消え去った今になって思うんだ。あれは本当に俺たちに必要だったのかってな。」

 

「...それは。」

 

「...出会って早々に面倒な話をしたな。ともかく、ここは色々あって行き場を無くしたサルカズたちの集落ってところだ。お前もきっと、すぐに馴染めるさ。」

 

彼はそう言って、少し口角を上げた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ドクター。なんかこれ薄くないか?昔アイアンリストシティで飲んだやっすいアルコールみたいだ。」

 

「きっとこっちの葉っぱを使ったんだろう。葉が先から分岐している種類じゃないと、必要な分は抽出できない。」

 

 

 

 

 

「ドクタードクター!教えてもらった通りに折ったよ!これでお姉ちゃんの病気治る?」

 

「治るさ。君のそれと、そっちで鍋の薬草を煮立たせている彼への応援があればね。」

 

 

 

 

 

「なぁ、加減ってものを知っておいた方がいいんじゃないのかい?ドクターさんはよ。」

 

「君が、『2回動けるソードナイト』や『攻撃が貫通するアサシン』とかのピースを追加投入してこなければ、考えておくよ。」

 

 

 

 

ここにきて大体二週間ほど。

 

ここの集落にいる人の性格もあってか、ロッジの言った通り随分と簡単に馴染むことができた。今では戦闘依頼の指揮を取ったり、勉強を教えるような仕事をしている。

 

この集落にいる理由は人それぞれあるが、とりわけWの戦闘部隊に所属しているのは、傭兵家業が厳しくなったサルカズ達だ。

 

天災が消え、戦争の火種が見えなくなった今の世の中、傭兵の仕事は減少していたらしい。

 

そんな中で源石によるアーツや身体能力のブーストが消滅したことも重なり、多くのサルカズが廃業の危機となった。

 

そんな彼らをまとめ上げたのが、Wだったらしい。

 

彼女はレム・ビリトンの武器製造会社から仕事の契約を受けられるようにしたらしく、その依頼を分配したり複数で当たるなどをして、この集落を維持している。

 

野良のサルカズ傭兵に与えられる待遇としてはマシな方...くらいのレベルだった最初に比べて、今はそれなりの待遇を受けられているらしい。要領のいい彼女が何かしら上手くやったのだろう。

 

 

 

そんな日々を過ごしていた時、Wの部隊に一つの依頼が舞い込んできた。

 

 

 

 

「げ...」

 

「会社からの依頼か?どうした。」

 

「はぁ...ほら、これよ。」

 

乱雑に開けたせいで端っこが切れた依頼書には、『ラテラーノからの輸送車護送』の依頼が記載されていた。

 

 

「これは、また。」

 

「分かってて投げてるのか、それともレム・ビリトンのコータス様は、その辺の事情には興味もございませんってことかしらね?」

 

 

ラテラーノは、主にサンクタと呼ばれる種族が住んでいる都市だ。

 

サルカズとサンクタは、はるか昔から因縁ある存在として争いを繰り広げてきた歴史がある。

 

「ま、今月厳しいし...やるわ。いいわねみんな。」

 

「ああ。」

 

「ま、しゃーないね。」

 

「じゃ、20分後に作戦会議。ロッジ、地図と資料持ってきなさい。」

 

「了解した。」

 

 

 

 

 

 

作戦会議を終え、二人でテントを出る。

 

「...W。まだ、サルカズとサンクタの争いは、続いているのか?」

 

「んー。微妙なところね。源石が動力の輸送車が使えなくなってから、そもそもカチ合うこともなくなったし。それこそ私はこの依頼の輸送車が、あの日以降初めて見るラテラーノの輸送車になるわ。」

 

Wは少し考え込む。

 

「どうせあたしらも、サンクタ共だって、なんで争ってるのかなんてもう誰も覚えちゃいないのよ。」

 

「そうか...W、確か君は...」

 

「ええ。何回もラテラーノの輸送隊を襲ったわ。当然カケラも後悔していないのよ?そもそもサンクタがどうとかじゃなくって、金のためだったし。」

 

「......」

 

「あの時は中々高く売れたわ、サンクタの銃はね。」

 

Wは自分が背負った銃に少し触れる。

 

「でも、今はそうでもないのよ。ラテラーノの銃が高性能だったのは、サンクタが特別に銃を上手く扱えたから。アーツがなくなって、射撃の技術の差がいくらか埋まった今、ラテラーノ以外の会社も銃を積極的に作るようになったのよ。レム・ビリトンの会社もそうだし、元々作ってたBSWとかもね。」

 

「なるほど。その意味でも、ラテラーノの輸送隊を襲う意味は薄れたと?」

 

「そうよ。そのせいで私たちでも平気だろうってことで仕事が回ってきたのかも。じゃなきゃ都市外のサルカズ傭兵なんかに頼んだりはしないでしょうし?」

 

アーツは人々の生活、戦い、種族のあらゆるところに浸透していた。その消滅は、芋づる式に様々な影響を引き起こしているようだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「...よろしく、お願いしますよ。」

 

「ええ。任せてちょうだい。」

 

ラテラーノの輸送隊の代表と挨拶し、隊列に加わる。彼らのほとんどは護衛がサルカズであることを知ってはいたものの、少し顔を顰めている気がする。

 

「おーい。一応あたしもこの隊の護衛やってるからよろしく〜。」

 

ふと荷台を見上げると、長銃を持ったサンクタが一人、こちらに手を振っていた。

 

「ああ、よろしく...って、君は...!」

 

「ん...?あれ、ドクターじゃーん!お久しぶり〜!」

 

ラテラーノ側から乗ってきた護衛の一人は、かつてロドスで外勤オペレーターしていた、アンブリエルその人であった。

 

 

 

 

 

 

 

「アンブリエルはラテラーノに戻ったのか?」

 

「うん。なんだかんだで、サンクタが暮らすにはまだいい国だよ。主にスイーツ的な意味でー。」

 

移動の最中、直接戦闘のできない私は、荷台の上で彼女と話をした。

 

「ラテラーノも、やっぱり混乱はあったのか?」

 

「そりゃもちろん。急に銃が上手く撃てなくなってさ... ちょっと前に会ったアドナキエルくんが羨ましかったよ。彼はクロスボウだったからあんまり影響なくって。これも最近ようやくちゃんと撃てるようになったんだよ。」

 

アンブリエルは少し自慢げに銃を構える。

 

「サンクタはほとんど銃を使用していたしな。」

 

「まあ...他の国に比べたらマシだったかも。銃と共感能力が使えなくなっただけで、そもそも感染者はラテラーノにはいなかったし...みんなどーしよどーしよって言いながらスイーツ作ってるくらいだったよ。」

 

「......」

 

ラテラーノ国民は、何があってもスイーツ作りの手は止めないらしい。

 

「今は、警備の仕事を?」

 

「そうだねー、まだ銃の扱いに慣れきっていない人もいるから、今のところは結構引っ張りだこって感じだよ。でもこれからはどうだろうねー、『確実』な仕事じゃないかも?」

 

 

荷台に揺られる。

W以外のオペレーターとの接触は、傭兵として活動している最中にもなかった。高揚した私は、ラテラーノや他のオペレーターのことを沢山聞いた。

 

 

 

「ねぇドクター。みんなのこと、心配?」

 

「なんだ、急に?」

 

「だって、あたしを最初に見た時、めっちゃ嬉しそうだったからさ。」

 

...そんなに嬉しそうだっただろうか?少し頬が熱くなってしまう。

 

「まあ想ってくれるのはありがたいと思うけどね、そんなに心配しなくってもいいと思うよ?」

 

「...え?」

 

彼女は微笑みながらこう続けた。

 

「みんな逞しいの、知ってるでしょ?うまいことやってるよ。」

 

「......」

 

「楽観的なあたしが言ってもアレだけどさ。あんまり心配しないで、ドクターもこの世界でやりたいこととか、見つけに行くのはどう?」

 

「それは...」

 

「...っ!待って...」

 

突然アンブリエルがスコープを覗き、直後に笛を吹いた。

 

 

 

「敵襲!10時の方向!敵影複数確認!」

 

「W!」

 

「隊を二つに分けて、あとは作戦通り。行くわよ!」

 

Wは護衛隊の半分を輸送隊に残し、賊の迎撃へ向かう。

私はここから通信で指揮をとる手筈となっている。突入したW達との連絡を...

 

 

繋がらない。

 

砂嵐の音しか耳に入ってこない。何故だ...?

 

「...!ドクター!」

 

「どうした!」

 

アンブリエルがスコープを覗きながらこちらに声をかける。

 

「なんか煙に紛れてキラキラしたのが見える!アーツ...?」

 

自分もスコープを覗かせてもらう。

 

「いや、アーツは存在しなくなったはずだ。あれは...反射機構を使っているのか?どこかの新型ジャミング機器かもしれない。」

 

「......」

 

あれは...量はそこまで多くなさそうだ。あのスポットを越えさえすれば電波は通じるはず...

 

「...はぁ、しょうがないなぁ。」

 

「...?」

 

「行きたいんでしょ?ドクター。顔に書いてあるよ。」

 

「...頼めるか?」

 

アンブリエルは銃を構え直した。

 

「はーい。サンクタ1の長銃使いにお任せあれ〜。」

 

「よし...頼んだ!」

 

荷台を降りて駆け出す。彼女は伝えずとも、予測していた敵の位置に向けて次々と弾丸を発射してくれている。私を狙う敵は、その全てが沈黙する。

 

 

「いってらっしゃい、ドクター。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「...W。」

 

「あんた...久しぶりねぇ?」

 

2人のサルカズが、互いに銃を向けている。

 

「...W!よりによってお前がサンクタの輸送隊を守ってるのか?」

 

「そうよ。何か文句でも?」

 

周りには数人のサルカズが倒れている。既にW達が倒した襲撃犯だ。

 

「忘れたわけじゃないだろう?あいつは奴らに殺されたんだぞ!俺たちはまだサンクタの輸送隊を襲ったことがなかったのに!」

 

「......」

 

「あいつには子供だっていた!そんな奴らの味方を、よりにもよってお前がするなんてことは...!」

 

「忘れたわ。」

 

 

 

「...は?」

 

「忘れたって言ってんのよ。」

 

「本気で言ってんのか!」

 

 

Wが後ろ手でハンドサインを出す。今から20秒後だ。

 

 

「なにもかも消え去ったの。源石病も、アーツも、レユニオンも、『サルカズ』も。あたしは原因も分からない、こんな気持ちの悪い因縁に付き合うのはもうゴメンよ。」

 

「原因だと...?サンクタはあいつを殺した!それで十分だろ!」

 

「あいつを殺ったサンクタは、とっくにあたし達が皆殺しにしたでしょう?」

 

「それからも、俺たちはサンクタの輸送隊を襲ったじゃないか!」

 

「金になったからよ。今はならない。ただそれだけのことじゃない。」

 

あと10秒。

 

「W...!やっぱりあんたみたいなのがいちゃいけない!あんたがサンクタに味方することの意味が分かるだろう!」

 

「サルカズは他人に生き方を強制されるのは嫌いなのよ。それだけは今も変わらないでしょう!」

 

0。

 

 

 

「ロッジ!今だ!」

 

「はぁッ!」

 

死角から飛び出しWを狙った伏兵を、合図と共に飛び出したロッジが抑える。

そしてWは相手よりも早く、相手の銃を撃ち落とした。

 

「ぐぁっ...!なんでバレて...!?お前...!ロッジ!?」

 

「久しぶりだな。」

 

「W。向こうの岩陰と、そこから3メートル右の少し盛り上がった砂地だ。」

 

「はいはい。あんたも無茶が板についてきたわね。」

 

 

 

 

こうして敵の計略は失敗に終わり、輸送隊を襲撃した賊のほとんどが、Wによって拘束された。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「...ロッジ、どうして、お前も...」

 

拘束された賊の頭領が、譫言のように呟く。

 

「...俺は、世界が変わって、俺も変わって、それで...嫌になったのさ。まっさらになって、俺のやりたいことを探そうってなった時、その中に...復讐は無かった。それだけなんだ。」

 

「嘘だ。まだ燃えてるはずなんだ...!父親を殺されたお前の炎が...Wの炎が...まだ...!」

 

「ありがとう。俺の代わりに、仇を取ってくれて。長い間、俺の代わりに背負ってくれて。だが、もういいんだ。」

 

「っ...!.......」

 

彼はそれ以上は話すことなく、黙りこくった。

 

 

 

その後は、輸送隊を無事レム・ビリトンに送り届けることができた。

 

相変わらず嫌そうな顔をしたサンクタの隊長は、もう変なサルカズのいざこざに巻き込まれるのはゴメンだと言って、帰りは別の傭兵に依頼して去っていった。

 

「じゃね、ドクター。暇だったらラテラーノにおいでー。」

 

「ああ。また会いに行くよ。」

 

大きく、ゆっくりと手を振って遠ざかっていくアンブリエルを見送ってから、Wと合流する。

 

「あんたはついて行かなくて良いの?」

 

「...?どうして?」

 

「ロドスのオペレーターだったんでしょ?あいつ。」

 

Wは不機嫌そうに口にする。

 

「...いや、彼女なら大丈夫だ。」

 

「あんたのこと言ってるんだけど...まあ良いや。」

 

彼女は早足で集落へと向かっていく。

 

 

 

「なぁ、ひとつ聞いても良いか?」

 

「何よ。」

 

「...Wは、サンクタとサルカズの争いを、止めたいのか?」

 

そう言うと、彼女は呆れたように振り返った。

 

「なぁに?信じちゃったワケ?あんなのブラフに決まってんでしょ!あいつを動揺させるための台詞よ。」

 

「じゃあ、また輸送隊を襲うのか?」

 

「そうよ。サンクタ共が高く売れそうな銃を開発したら、すぐにでもね!」

 

「...あくまで金のため?」

 

「...何よ、その目は?信じてないでしょあんた!」

 

「さぁね。」

 

Wの本心は今も昔も分かってはいない。けれど、あの時彼と話していたWは...ずっと真剣だった気がしたのだ。

 

 

 

「そうだ、ほら。これあんたにくれてやるわ。」

 

「なんだ?...って、随分な大金じゃないか?」

 

Wは集落の倉庫から、一つの袋を取り出して私に差し出してきた。

 

「給料よ。」

 

「給料?貰ってたと思うんだが...」

 

「天引きして貯めといたやつ。あんたすぐ変に高い謎の虫スナックとか買ってくるんだから、貯めといてやったの。」

 

謎ではない。源石病がなくなった今、食べられる虫の研究は加速度的に進んでいるのだ。

 

「何のために?」

 

「あんたがここを出ていくときのためよ。」

 

出ていく?

 

「分かりやすいのよ、あんたは。ロドスのオペレーターを探しに行きたいって顔をずーっとしてたもの。だから、この金でとっととお好きなところに行きなさい。あんたはもう用済みよ。」

 

...そんなに分かりやすい顔をしていただろうか。

確かに以前の私は、彼女達のことが心配で...

 

 

 

 

...今日、アンブリエルと話したことを、思い出す。

 

 

 

 

 

「いや、私はここに残るよ。」

 

「...話聞いてた?お払い箱だっつってんのよ。」

 

「今日、アンブリエルと話して...少し考えが変わったんだ。」

 

一呼吸置いて、自分の頭を整理する。

 

「きっと彼女達は、必死になって自分達を探す私より、自分のやりたいことを見つけた私の方が、喜んでくれると思ってね。」

 

「あんたねぇ...」

 

「それに...ふふっ、いつかWがサンクタの輸送隊を襲ってしまうらしいからな。放っておくわけにはいかない。」

 

「っ...ちょっと!何笑ってんのよ!」

 

彼女はこちらを睨みつけてからそっぽを向いて、再び歩き出した。

 

 

 

「W。」

 

「なによ。」

 

 

 

「ありがとう、私を拾ってくれて。これからも...一緒に。」

 

「っ......」

 

 

 

彼女は立ち止まって、少しだけこっちを見る。

 

 

「...当然よ!あんたのその無駄に良い頭を使い潰すために拾ったんだから...!」

 

 

 

 

 

「そこまで言うんだったら、一生!あたしに付き合ってもらうわよ!覚悟なさい!ドクター!」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

◼️◼️◼️◼️との協定について。

 

◼️年3月2日、ラテラーノ・レムビリトン間にて発生したラテラーノ発輸送隊襲撃事件において、特別調査隊Eと共に襲撃部隊を退けた傭兵組織、◼️◼️◼️◼️と協定を結ぶことができた。

 

彼らは事変により行き場を失ったサルカズの保護と生存を目標としており、その一環として輸送隊襲撃を防ぎサルカズの地位向上を図ったものと考えられる。

 

◼️◼️◼️は当該地域の重要な輸送ルートの安全性と本来の目的のため、◼️◼️◼️◼️と協定を結ぶことを提案し、合意に至った。

 

物資の提供は3月24日に全量を完了。

 

以降下記の事例が発生した場合は、プライベート回線WB214を使用し連携を行うこと。

 

・事変被害により生活に大きな影響を受けたサルカズの保護

・当該地域の事件、異変の新規情報

・サルカズ傭兵の雇用案件

 

以上。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

その傭兵組織は、荒野に寄り添う。

 

サルカズがサルカズであったときから変わらないこの荒野で、ここがサルカズの家である言わんばかりに、旗印を掲げる。

 

戦いに塗り潰されたサルカズはあまりに多く、彼らの目的は荒唐無稽と言わざるを得ない。

 

それでも、ある傭兵と、ある男は先にある何かを見据えて、歩みを止める気配はない。

 

 

 

それは...いつのことだったか。

 

 

同じように、出口の見当たらない問題に立ち向かい続けた組織と、よく似て―――

 

 

 

 

 

 

ED No.214 W

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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