百合いいよね...私?私はノーマルですけど何か?   作:ヒオルカ

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幼馴染

 

 

 

 

「ぐぅ...ッ!」

 

全身が汗ばむ。

 

「...ッ!」

 

視界が明滅する。

 

「ああ...っ!」

 

私の脳を揺さぶる、この感覚の正体は...っ!

 

 

 

 

 

「ああッ!尊い!絶対ヤバいってこのカプ!うわぁ!」

 

この世界に存在してしまった至宝、『百合』そのものである!

 

 

 

 

「もう...小百合、興奮しすぎ。」

「あっ...ご、ごめん。えへへ...」

 

教室を見回すと、クラスメイト達が苦笑いしている。もう幾度と起こしたことのある発作なので、いつものことだと思われてしまっているのかも...

 

「でもねでもね!私が昨日の深夜2時に閃いた、ジュンとソラミの組み合わせはとんでもないポテンシャルを秘めてると思わない!?どう!?!?」

「また夜更かしして、お肌に悪いですよ〜。今日も遅刻ギリギリだったし...というか、えっと...この前映画見に行った『ガーリィ・ジャックポット』のキャラだよね?その二人接点あったっけ?」

 

「おんなじ画面にいた!!!」

 

「......」

 

なんだかピンときてなさそうな目の前の女の子は篠田美奈子ちゃん。幼稚園からの長〜い付き合いで、所謂幼馴染というやつだ。

 

「例え会話シーンが全く0だったとしても、そこに可能性がない訳じゃないんだよ!確かに二人は所属組織も目的もほとんど関係はないけど、例えばアトラス機関に何かあってクロノス財団と協力関係になったら、あの二人の性格上...!」

「はいはい。」

 

とにかく私達は気心知れた仲と言うべきか、お互いのことをよく知っているし、こうして私が性癖を全開にしてもちゃんと話を聞いてくれるめっちゃ良い子なのだ。

 

美奈子ちゃんどころかクラスメイトに全部バッチリ聴かれてるのは内緒である。

 

「いや〜、しっかし本当に好きだねぇ、百合。中学の頃からだっけ?」

「そうそう!学校帰りに美奈子と寄った本屋さんで、私は運命の出会いを果たしたのだよ...!」

 

あの時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。

なんとなくで買った一冊の文庫本。

本なんて漫画か雑誌くらいしか読んでいなかった私が、どうして小説なんかを手に取ろうと思ったのかは分からない。

ただ表紙に彩られた手を取って見つめ合う二人の女の子の姿に、なんだか重力を感じて誘われるがままにレジへと持っていってしまった。

 

「あの時小百合を連れて行って本当に良かったのかなぁ?」

「もちろんだよ!美奈子は私の人生を彩ってくれた大天使様だよ!愛してるぅ!」

「も、もう...調子良いんだから...」

 

美奈子には本当に感謝してもしきれないくらいだ。この世にこんな素晴らしい世界があると知らずに生きていくことなど、もう考えられない。

 

「そうだ、これ!昨日見つけた新しい百合小説でさ。密かにネットで話題になってるやつでね!戦争で前線に送られた少女と専用銃に搭載されたAIとの百合なんだけどね!感情を殺そうと意識して振る舞う少女と、一見感情豊かに見えるけど本当の心を知らないAIの交流が......!」

「それもいいけど、そろそろ先生くるよ〜?」

「...なにっ!」

 

それは大変だ。以前新書サイズで表紙に女の子がバチバチに描かれた本を、漫画と間違われて没収されたことがある。

あの時の私の号泣スライディング土下座懇願は、この学校の伝説として語り継がれている。忘れてほしい。

 

「それと一限の数学、出席番号的に当てられるから16ページの問題よく見ときなよ〜。」

「本当!?美奈子ありがと〜!」

 

美奈子は事あるごとに私の世話を焼いてくれる。朝迎えにきてくれるし、宿題も手伝ってくれる。

どんくさい私をいつもサポートしてくれるその姿には、ママ味を感じずにはいられないぞ...!

 

皆が席について先生を待つ。長い授業と妄想の時間が始まりを告げるまでのホームルーム。

そんな短い間でも思い起こされる尊い百合の世界...

 

こんなに素晴らしいものが存在する世界と、最高の友達。前世の私はおそらく救世主か何かだったのだろう。

 

今このような人生を生きていけることに感謝しながら、私はまた妄想の世界へと思考を沈ませていく...

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私には幼馴染がいる。

 

隣でぼけーっとしている彼女、芹沢小百合。

 

ちょっとどんくさいけど、元気が良くてみんなに好かれる、そんな彼女には変わった点が一つある。

それは...女性同士の恋愛を扱った作品をこよなく愛しているという点だ。

 

中学一年生の頃に唐突に目覚めた彼女は、それはもう小説に限らずアニメ漫画ゲーム映画と数多の百合作品に手を出しまくっていた。

 

昔から側にいて親交があった私が巻き込まれるのは必然だっただろう。彼女の布教活動に押し負けて、私も様々な百合作品に目を通させられてきた。

 

私にも素質があったということなのか、小百合の洗脳能力が高いのか...あまり抵抗もなくそういったものを受け入れることができた。

 

それから...あの日の私の気持ちに関しても。

 

 

 

中学二年生の時。

 

きっかけは些細なことだ。私の付けているキーホルダーがおかしいと、学校でからかわれたことがあった。

 

まあデザインが多少奇抜であったことは認める。

それでもこのキーホルダーは昔、亡くなったおばあちゃんと行った旅行で買ってもらったもので、ずっとお気に入りのアイテムだったものだから、馬鹿にされたのが悔しくて、でも何も言えなくて。

 

その時、小百合が私を庇ってくれたことは鮮明に覚えている。

 

 

 

「ちょっと!他人が好きなものを否定しちゃダメだよ!」

「何よあんた。どーみても変なキーホルダーでしょ?こんなの付けてるなんてセンスがおかしいんだよ!」

 

「あのねぇ!夢百合学園物語season4第13話で令嬢のミノリが両親に自分との結婚を反対されたことを知ったアミコが黙ってミノリの元を去るんだけどそれを知ったミノリが親のセッティングしたお見合いを抜け出してアミコにを見つけ出してこう言ったんだよ!『私は誰になんと言われようと、自分の好きに正直に生きていきたい!』って!その言葉を聞いて涙を流すアミコとそれ以上言葉を交わすことなく抱きしめるミノリの未来には幸せが待って

 

「うわぁなんだコイツ怖いよぉ!逃げろ!」

 

 

 

...守った、というか気持ち悪がられて逃げられたのかもしれない。

 

「――まあその後season6でアミコが昔結婚の約束をしていた女の子が現れて泥沼になるって言う長期シリーズ特有の後付.........あれ?どこいっちゃったのかな?」

 

ようやく正気を取り戻した?彼女は、こちらを振り向いた。

 

「大丈夫?美奈子ちゃん。そのキーホルダー、大事なものなんだよね?任せて!美奈子ちゃんの好きは私が守るから!」

「...っ」

 

小百合が私の手を握る。

 

一年前から百合の英才教育を強制的にさせられて。

その上でこんなにかっこいい笑顔を見せられてしまったら、それはもう当然のことなのかも知れない。

 

とどのつまり、私は彼女のことが好きなのだ。

 

こうやって毎日世話を焼いていたって全く苦にならない。そのくらい好き。

 

彼女にこの想いを打ち明けたならば、一体どんな反応をするのだろうか。

 

まるで今まで見てきた物語の世界のようだと喜んでくれるかも知れないし、まさか自分がその対象になるなんて思わず驚愕するかも知れない。

 

まあ、正直受け入れてくれるだろうと思っている。これだけ百合好き好きアピールをしているんだし。

それでもちょっぴり勇気が出なくて、溜め込んだままのこの日常もなんだか楽しくて、結局現状維持。

 

 

 

そんな私の意気地の無さが、天罰となって私に降りかかったのは、なんでもない放課後のこと。

 

 

 

彼女はなんだかそわそわして、用事があると言って私と一緒に下校することを断った。よく見ると、鞄からはみ出たちょっと上質な紙が一つ。

 

その紙に一枚、ハートマークのシールが貼ってあるのを見た瞬間、私はフラフラと奈落へ落ちていくような感覚に襲われるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「......」

 

つい後を付けてしまった。

 

悪いことをしているのは分かっている。これまでまともに生きてきた私の良心は黙って引き返すべきだと言っているが、それでも気になりすぎて足は止まらない。このまま帰ったらまず眠れないだろう。

 

別に、邪魔をしようとか考えているわけじゃない。当然だ、今の今まで勇気を出せなかった私にとやかく言える問題じゃない。

 

それでも、もし彼女がOKを出したその瞬間...一体私はどうなってしまうのだろうか?

 

...小百合は階段を登っていく。この先は...屋上に続いている階段だ。告白にはピッタリのロケーションと言えるだろう。

 

上の方から扉の音が聞こえる。小百合が扉を開けたのだ。

 

私は小百合がいなくなったことを確認してから、ほんの少し空いた扉の隙間から覗き見る。

 

「...!あ、来てくれたんですね...!」

「あれ...?う、うん。」

 

視界の先にいたのは二人。

一人は小百合と...もう一人は、女の子。

 

まあ予想の範囲内だろう。あれだけ百合好きを公言していれば、女の子からの告白というものもありうる話だ。

 

「あ、あのですね...今回呼び出させてもらったのは、その...」

「う、うん...」

 

彼女は恥ずかしそうに俯いている。ここから見ていてもやきもきするが、それ以前の一歩も踏み出せなかった私が言えることじゃない。

 

「わ、私...!」

 

扉の取手を掴む手に力が篭る。なんだか涙が出てきた。あそこに立てなかった自分が情けない。

 

「私...!小百合さんのことが好きなんです!」

「ええっ...!?」

 

耐えられなくなって、目を伏せる。

完全なる告白だ。手紙の中身まで見ていなかった私の微かな希望は当然の如く打ち砕かれる。

それでもその場から動くことはできずに、耳だけを澄ませている、なんとも惨めな女だ。

 

彼女はどう答えるのだろうか。Yesか、Noか。

誰にでもなく祈る。どちらにかは、言わないけれど。

 

 

少し間を置いてから、小百合が...返事をした。

 

 

 

 

「その...ごめんなさい!私、その...付き合うのは無理かなって...」

 

 

大きく息を吐く。

 

ああ...彼女は断ったのだ、告白を。

 

酷い女だ。目の前で一つの恋が終わったというのに、これだけ安心して、力を抜いて、穏やかな気分でいられてしまうのだから。

 

「そ、そうですよね、ごめんなさい...あんまり関わったことのない人から告白されても、ダメですよね...」

「うーん、えっと...」

 

力の抜けた足をどうにか動かして立ち上がる。脱力感に身を任せている場合ではないのだ。

 

決めた。私も告白をしよう。

もうこんな思いをするのはごめんだ。小百合はポンコツで胸もないが、顔は整っている方だし明るくて人気はある。今まで私は呑気にしていたが、うかうかしていたら誰かに取られてしまってもおかしくない。

 

「あのね?」

 

そうと決まったらここに居ても仕方がないだろう。告白は終わったし、小百合に盗み聞きがバレるかもしれ――

 

「私ノーマルだから、その...女の子と付き合うのはちょっと。」

 

 

 

.....................は?

 

 

 

いまなんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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