百合いいよね...私?私はノーマルですけど何か?   作:ヒオルカ

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委員長①

 

 

 

百合。

 

 

それはユリ目ユリ科ユリ属の総称であるが、彼女にとってそれは主たる意味にはならない。

私は知らなかったのだけれど、どうやら女性の同性愛をテーマにした作品のことを百合作品というらしい。

 

彼女は目を輝かせて私に語ってくれる。その百合という恋愛ものについて。私はそれを聞いて...最初、ピンとは来なかった。それは良い意味でも、悪い意味でもだ。

 

女性同士の恋愛に忌避感がある人もいるらしいが、私にはそのような感性は身についていなかったのが良い部分。

 

悪い部分としては、そもそも恋愛自体が私の辞書から抜け落ちていたという点だ。

 

 

彼女は誰彼構わず百合を布教する。男女問わず。

 

 

 

 

私も例に漏れず、その一人だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「芹沢さん。ちょっといいかしら?」

 

図書室で本を漁っていたらそれなりの時間になってしまった。今日の新作百合アニメ『マジカロンド』の第一話を見るため早々に帰り支度をしていると、凛とした声が耳に入ってきた。

 

「あ、うん!どうしたの?天野さん。」

 

彼女は天野香織さん。ウチのクラスのスーパー委員長だ。

誰もやりたがらなそうな委員長に真っ先に立候補して、行事の取りまとめや作業などもバッチリこなす黒髪ロングな美少女メガネ委員長である。

 

メガネは良いぞ。私はメガネを外すと美人になるパターンも、メガネを装着時でも美人なパターンも大好物だ。現在連載中のネット小説『ネプチューンの落し物』第24話でエリカがアズサとキスをする際にメガネがぶつかっちゃって、アズサが慌ててメガネを外そうとするんだけどエリカがアズサを無言で制止して、そのままぶつからないようにゆっくりと唇を触れさせるシーンなんかもうそのまま眠るように気絶して気がついたら朝になって美奈子が迎えに来てた。」

 

「あの...声に出てるのだけど。」

「あっ...ごめんなさい!」

 

興奮しすぎるとたまに脳内のものが溢れ出る。はずかしィ!

 

 

「そ、それでどうしたの?」

 

誤魔化すように私がそう言うと、彼女は一枚のプリントを私に見せてきた。

 

「進路調査の提出日が明日までなんだけど、小百合さんまだ未提出だったから大丈夫かなって。」

 

進路...?あ、あのプリントか!?

アレを貰った日は新刊の発売日だったから、適当に鞄に詰め込んで、それから...どうしたっけ?

 

ダメ元で鞄を漁ってみる。

 

 

これかな...いや、これは専門店でグッズ買った時に付いてきたよく知らない作品のポストカードだ...

 

これかな?うわ!一年前に書いた自作の百合小説だ隠せ隠せ!

 

 

鞄をひっくり返してみるけど見つからない。やっぱり家だろうか?あのごった返したマイルームに埋もれたと考えると救出は絶望的だ。定期的に美奈子に手伝ってもらって片付けてはいるが、焼石に水。どうしてでしょうね?(すっとぼけ)

 

 

 

私が唸りながら鞄に頭を突っ込んでいると、委員長は持っていたプリントをそのまま私に差し出してきた。

 

「これ予備だから、これに書いて良いわよ。」

「本当...!?ありがと〜!神!愛してる!」

 

我がクラスの委員長はなんと素晴らしきお人なのだろうか。私のようなポンコツにも対応可能とは。

 

「...大袈裟よ。」

 

「いや本当に助かったよ〜!今から部屋片付けてたらマジカロンド第一話『再生の魔法』を泣く泣く録画で見なきゃならないところだったよ...!」

「そ、そう...良かったわね。」

 

「天野さんも帰り?駅まで一緒に帰ろう?」

「いや、私はまだ先生の手伝いが少し残っているから...」

 

帰りのホームルームが終わって私が図書室から帰還してもまだお手伝いとは、さすがスーパー委員長というべきか。教師は彼女にバイト代をお支払いするべきである。

 

「そうなの...?こんな時間までお手伝いなんてすごいねぇ...大変じゃない?自分の好きなことやる時間とか取れてる?」

 

私は取れてる。むしろ取りすぎて成績は低空飛行だ。コラテラル・ダメージ。

 

「...家に帰っても、私は勉強ぐらいしかやることないから。」

 

そう呟く天野さんの姿がちょっと寂しそうに見えて、烏滸がましいかもしれないが、なんだか心配になってしまう。

 

「何かなりたいものがあるの?夢とか、そういうの。」

 

私がそう聞くと、天野さんはしばらく間を置いた後、少し自信なさそうに呟いた。

 

「私は...公務員になるの。」

「こ、公務員...!すごいなぁ。私まだ将来の夢とか決まってないや。進路調査どうしようかなぁ...」

「将来の夢...とか、そんな大したものじゃないわ。ただ他にやりたい事もないから...」

 

 

「...じゃあ、これから自分のやりたいことを見つけるのが天野さんの夢だね!」

 

「...え?」

 

 

夢がまだ無いということは真っ白な原稿用紙にペンを構えている状態であると、『白河荒夢の原稿』(2巻で打ち切り...は???)で荒夢先生がアシスタントの理子に言っていた。

その通りだろう。ペンをかざして白紙の原稿を睨めば、自分の内から表現したいものが湧き出てくるはずだ...

 

 

 

...うわさっきの自作百合小説お前は湧いてくるんじゃない!やっぱりフワフワすぎる夢はダメだ。

 

 

 

「自分に自信の持てる夢を見つけるのが夢!それは公務員かもしれないし他のかもしれないけど...委員長ならきっとできるよ!」

 

天野さんは困ったような表情を浮かべる。

 

「今から見つけるだなんて、そんなの...」

 

「大丈夫!というか私だってまだ見つかってないし...それにね?ついこないだ完結したライトノベル『影と光のプレリュード』、通称『とのプレ』最終回でミュルシーズにコアを貫かれて消滅したはずのレイアらしきシルエットの人が現れて、「もう一度自分の夢を追って、キミに相応しい人になるよ。」って言ってそれでアトリは...って超ネタバレだったごめん!!!」

 

 

「いや、全然大丈夫。」

 

 

「そ、そう...?とにかく、自分がこうなったら...みたいなのを想像してみようよ!小説家とか...監督とか、イラストレーターとか!」

「なんだか偏りを感じるのだけど...」

「あはは、ちょっと趣味入っちゃった?でも、何か思い浮かんだら私に教えて!オタクはイマジネーション得意だから... 膨らませたらきっと良いことあるよ!」

 

「...うん。」

 

「良かった!じゃあ私は帰るね!あとこれ、オススメだからね!」

 

『影と光のプレリュード』1〜4巻を鞄から取り出して置いていく。ストーリーも一区切りするちょうどいい巻までのスターターキッドだ。毎日日替わりで布教用に持ち歩いている。

 

天野さんと色々話せたし布教もできてウキウキしながら帰路に着く。さあ今夜もめいいっぱい百合成分を補給するぞ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「おかえりなさい、香織。今日の小テストはどうだったの?」

「...ただいま。問題なかったよ、お母さん。」

 

母は安心した顔を見せる。小テスト一つでそこまで一喜一憂するのは、どうせ彼女が私の成績以外のことにあまり興味を持っていないからだろう。

 

「それなら良かった。でも、油断しないで期末テストの準備は怠らないようにするのよ...」

「分かってる。夕飯まで自室で勉強してくるから...」

 

そう言うと母が喜ぶことは、小学生の後半あたりに気づいた。中学生になってお父さんが亡くなってからはそれが悪化した気もする。

それからは、 私のこの行動はルーティンになっている。

 

自室の扉を閉めて何故かずっしり重い鞄を置き、小さく息を吐く。

 

 

 

さて、どうしようか。本当に勉強しても良いのだけれど、もう随分先のところまでの予習を済ませてしまっている。

将来の自分の糧、なんていう目線で考えればもっと先までしても良いけれど、あまり詰め込みすぎない方が目先の成績は安全だろう。

 

それに...将来に関して何か積み重ねようという気に中々ならない 。将来は公務員になれと言われているし、それに逆らう気もないけれど、不安もない。

 

きっとなんとかなってしまう。だって私、勉強しかやることがないから。

 

幼い頃から勉強漬けだった私は、これといった趣味もなく...つまらない人間になってしまった。

私のお父さんは大企業の部長で、あまり家には居なかった。

小学生の頃の私は...あまり帰ってこないお父さんと何を話したらいいのか分からなくて、学校のテストの話ばかりをしていたらしい。

 

きっとそのせいだろう。両親は私を天才だと考えて、勉強を沢山させるようになった。私はそんな期待をされて、そして今の今まで、応えられてしまった。

 

そしてお父さんが居なくなった後、今度はお母さんと...何を話していいのか分からなくなった。

たぶんお母さんもそうだ。お父さんが居た頃の生活を追っている。

 

私はきっとこのまま、安定という名の停滞を一生続けていくのだろう。

 

 

 

.........

 

 

 

ダメだ。ぼーっとしていると余計なことを考えてしまう。どうにもならないことを考え続けるのは、ただストレスがかかるだけの時間だ。

 

やはり諦めて少し参考書でも開こうかと鞄に手を伸ばすと、そこには見慣れないものが大きく鞄のスペースを占領していた。

 

 

 

『影と光のプレリュード』

 

 

確か、芹沢さんに借りた...?ものだったか。というか持って帰るの凄い重かった。

 

時計を見る。夕飯の時間にはまだ早い。

 

ブックカバーでも付けていたら、お母さんに見つかったとしてもまず疑われることはないだろうし、まあ暇つぶしに開いてみるのもいいか――

 

 

 

 

 

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