百合いいよね...私?私はノーマルですけど何か?   作:ヒオルカ

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お待たせし過ぎてヤバい。リアルが酷すぎるせいなのです許し亭!
ほんと申し訳ない!


文学少女①

 

本の虫。

 

僕の生態を形容するとしたら、そんな言葉が適当かもしれない。そのくらいに本というものが大好き。

 

入学して半年、授業以外のほとんどの時間をこの図書室で過ごしている。

 

それはただ本が好きという理由だけではなく、人付き合いが苦手だっていうのも一因。

昔からお父さんの仕事の都合で転校を繰り返していたせいかもしれない。新しい人間関係を作るのに疲れてしまったのかも。

 

そんな中で、一人で楽しめて怒られないものとして本を選んだのは必然だった。

それと、もう一つ好きなことはあるけど...こっちはみんなには見せられない方だ。

 

この周辺には図書館はない。一番近いところでも電車かバスで行く隣町の小さな図書館だ。そんな感じで、この学校の図書室は僕のオアシスになっている。

備え付けのパソコンを弄って、今日入ってきた数冊の新しい本を眺める。化学の本と...小説、絵本。どれも面白そうなラインナップだ。

 

「すみません、これお願いします。」

「は、はい。」

 

パソコンに集中していると、本の貸し出しに来た生徒が。

すぐにバーコードを読み取り、生徒に手渡す。

 

「返却期限は11月20日です。」

 

僕は二年生になって委員会決めの話が回ってきた時に、図書委員に立候補した。そうすれば図書室に居られるし、他の委員会も面倒そうだから。

 

先程の生徒が図書室を後にする。僕は机の下に置いておいた本を取り出して開いた。

 

残念ながら、ここの生徒に熱心な本読みはあまり居ない。それゆえこの時間はほとんど僕の読書タイムにさせてもらっている。

 

「......」

 

しばらく、紙を捲る音だけが響く。

 

 

 

 

 

「あの!」

「わっ...は、はい?」

 

急に声をかけられて驚いてしまう。図書室に来る人間にしては元気な声だ。

 

「『もくもくのふね』って入ってます?」

 

彼女は息を切らしながら聞いてくる。

 

「あ...はい。今日入ってきたやつですけど...」

 

ブックコートフィルムとバーコードが貼られたばかりの本を、後ろの棚から取り出す。

 

『もくもくのふね』は、去年大賞を取った新人作家が今年出版した新刊の絵本だ。

 

図書委員会特権みたいなもので、図書室に並べる前に一足先に読ませてもらった。

内容としては、日々を退屈に過ごしている主人公の女の子の元に、空から雲でできた船『もくもくのふね』とその船長が現れるというお話。

 

それにしても珍しい。本を聞きにくる生徒もそういないのに、目的の本が絵本だなんて。

勿論絵本も文学の一つだ。誰かに向けて伝えたい意味を込めたお話に、貴賎はない。

 

そう考えると、彼女が絵本を手に取ってくれたことが少し嬉しく思えてくる。

 

「それです!貸出お願いします...!」

 

彼女は心底嬉しそうに生徒証を差し出してくる。

バーコードを読み取って、彼女に渡す。

 

「返却期限は11月20日です。」

 

「はーい!どうも〜。」

 

足取り軽く、彼女は図書室を後にする。

 

...ふと、パソコンに表示された生徒証のデータが目に入る。

 

あ...芹沢小百合さん。

 

確か隣のクラスだったはずだ。他のクラスのことはほとんど知らないが、彼女のことは聞いたことがある。

 

彼女は、百合というものをこよなく愛しているらしい。

お花ではなくて、女性同士の恋愛模様を描いた物語のこと。

僕も、そう言った作品を読んだことがある。四年前に出版された『ガラスの花束を君に』という文庫小説だ。

残念ながら、人気が出ることはなくひっそりと書店からいなくなってしまった。発行部数も少なかったのか、古本屋でも見かけることはない。しかし、同性愛という感情が友情の裏側に細かく描写されてストーリーにうまく練り込まれたこの作品は、今でもたまに読み返すくらいにはお気に入りの一冊だ。

 

...彼女はこの本、知ってるだろうか?隣のクラスまで百合好きが知れ渡っているくらいだし。

 

でも、『ガラスの花束を君に』はそこまで百合を全面に押しているわけではない。

僕もただの友情ではないと気づくのに時間がかかったし、本を読み慣れている人でなければ純粋な友情という認識で終わってしまうかもしれない。

 

もし彼女がこの本を読んでいたとしたら、一体どちらの――

 

 

...やめておこう。ほとんど知らない人のことをどうこう考えるなんて、ちょっと有名人に会えて変な思考に陥ってしまった。

 

周りを見る。元気な彼女が去った図書室は、いつもに増して閑散としている。

 

...今なら平気かも。

 

気分を変えて、鞄から原稿用紙を取り出す。これは、僕のもう一つの趣味だ。

 

 

執筆。

 

予習を終えていて、すでに頭に入っていた先程の化学の授業中、ちょっとぼんやりしながら思いついていたアイデアを紙の上に滑らせる。

 

 

僕が物書きを始めたのはつい一年くらい前のこと。

 

休日に静かな喫茶店で本を捲っていた時、少し遠くの席の人は、コーヒーを片手に机に齧り付いていた。

別にまじまじと見る気はなかったけど、とにかく必死にペンを動かしていた。何かに取り憑かれたかのように。

 

彼女は追われていた。追い詰められて、苦しんでいるようだった。

 

 

僕が一冊を読み終えた時、彼女はちょうど帰り支度をしている最中だった。

切羽詰まった顔をしていた彼女は、一転して晴れやかな表情になって店を後にする。

 

あの作家さんは自分の中に積もり積もった何かを吐き出すことができたから、あんな表情をしたのか。

そう考えると少し羨ましく感じた。いつも通り活字を取り込むだけではなく、自らのインスピレーションを実現すること。

 

......ちょっとやってみようかなと、思った。

 

別に作家になれるとか、そんな自惚れはしない。

当然だけど別の人に見せるとかもしない。あんまりにも恥ずかしいし。

 

ただ、今まで少なくない数の本を読んできた僕をどうにか出力することができれば、一つくらいは自分の満足するものが出来上がるのではないかと思ったのだ。

 

ゆっくりと日が落ち始める。

静かな図書室に、かすかなペンの音が聞こえる。

 

こうして僕のいつもの一日が、ゆったりと過ぎていく...

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「これ!ありがとうございました!」

 

翌日。いつものように僕が図書室のPC前で本を読んでいると、芹沢さんが本を返却しにきた。

 

「はい。」

 

まあ絵本だからそこまで読むのに時間はかからなかっただろう。

バーコードを読み取る片手間に彼女の表情を伺う。

 

 

...すっごいニコニコだ。

 

何かいいことがあったのだろうか?それとも、この絵本をとても気に入ったとか...

 

『もくもくのふね』の表紙を見る。この本が彼女に笑顔をもたらしたと考えると、嬉しい気分になってくる。

 

「あの...この絵本、読んだことある?」

 

「えっ?」

 

芹沢さんが僕にそう問いかけた。もしかして何か顔に出ていただろうか?恥ずかしい...!

 

「あの、えっと...はい。」

「やっぱり!あ、ごめん大きな声出して。良ければちょっとお話しない?感想とか話し合いたくって。」

 

彼女は人気のない周りを見てから、そう僕に提案をしてくる。

彼女が本当にこの本を気に入ってくれたのだと知って嬉しくもあり、でも本の感想なんて話したことがないものだから、どうして良いか分からない。

 

「か、感想ですか...感想...」

「私ね、ゆきちゃんとポーラには百合の可能性が秘められていると思うの...!」

 

...あ、やっぱりそっち系?

 

その線もあるんじゃないかとは思っていた。

『もくもくのふね』はポーラ船長が主人公のゆきちゃんを連れて、彼女の退屈を晴らす何かを探しにいくというお話。

特に最後のシーンではポーラとゆきちゃんの心情が分かりやすく、かつ精密に描かれている。その二人の関係性は...もしかすると、そういった方向でも受け取ることができるかもしれない。

 

彼女もそう感じたのだろう。なんなら女の子が二人いればそれは百合みたいな考えを持つ人もいるらしい。

 

「ごめんね急に百合とか言って!『もくもくのふね』は、ポーラ船長が最初は義務感でゆきちゃんを連れ出したんだけど、旅をしていくにつれて義務ではゆきちゃんの本当の興味は見つからないと悩んで、確かに旅で回った場所には彼女を満たすものはなかったんだけど、ラストでゆきちゃんはポーラ船長についていくことを選んだのは彼女との旅それ自体が自分を満たしうるものだと気づいたからだったよね!」

 

「あ、う...うん。」

 

「でも途中の描写で、ゆきちゃんは旅の進路よりもポーラ船長がどうやって進路を決めているかに興味を持っていたよね!それってただ旅に価値を見出しているんじゃなくって、彼女が悩みながら進んでいくその旅路に価値を感じたんだと思うの!ポーラ船長の側で道を共に探すことを選んだゆきちゃんと船長の間には...百合の種があると思うの!」

 

「...っ...は、はぁ...」

 

まさに洪水。噂通りの早口だ。

だけど、彼女は随分と読み込んでくれているようだ。絵本とは子供向けに作られているから、伝えたい内容も全て直接的だろうとそこまで読み込まない人も少なくない。

 

それに...

 

「えっと...百合の...種ですか?百合じゃなくて?」

 

「そう!種!ゆきちゃんはまだ百合な感情を持っているわけじゃなくって、親みたいな自分の人生の指標を船長に重ね合わせていると思うの!船長もまだ義務感でゆきちゃんを導いてはいけないと気づいて彼女と心を共にした旅をしようと決心しただけで、二人の関係はまだ百合じゃない。これからの彼女達の旅路に...百合が可能性の一つとして見える、そんな感じがするんだよ!」

 

ああ、自分の感情をこれほど率直に吐き出すことができるのは才能と言っていいんじゃないかと思う。僕は原稿用紙にそれを綴るのに数時間かけているのだから。

それに『百合の種』とは。彼女は百合の細部にまでこだわりが存在しているみたいだ。

 

「す、凄いですね...!あなたの、その、よく読み込んでいるんですね...尊敬します。」

「え?いやぁ、そんなことは...ていうかごめんね?私ばっかり話しちゃって。」

「いいんです、その、僕そんなに話すの得意じゃないし...僕もこの絵本、とても好き...です。」

 

「ほんと!?」

 

芹沢さんの言うことは、整理こそされていないものの、充分な説得力のあるものに感じられる。

 

「えっと...南空島のお店でプレゼント用に勧められた赤いリボンを断って、青いリボンをポーラ船長にプレゼントしたのは、ゆきちゃんがこれからの旅路に自らの意志を乗せていくと決心した選択だったのかなと...その、僕は思うんですけど...」

 

「!!!」

 

芹沢さんの目がカッ!と見開かれた...

 

何かまずい事を言ってしまっただろうか...?解釈違いとか...

 

「それは...ッ!い、良いッ...!尊いぃ!無理ィ...!ぐぁあ...」

 

彼女はもがき苦しんで地に倒れ伏した。

 

「え、あ...あの...!?大丈夫ですか?」

「は、はひ...平気...っ!ちょっとオーバーフローしちゃったよ...あなた天才だね!えっと...あ、ごめん!まだ名前聞いてなかったね。私は芹沢小百合!二年B組だよ。あなたは?」

 

一方的に知ってはいたが、そういえば自己紹介がまだだった。名前も知らない相手とこれだけ話すというのは、なんだか奇妙な感覚だ。

 

「あ、僕は宮本千枝、です...二年C組で...」

 

自己紹介もしどろもどろだ。年一回のクラス替えの時くらいしかしてないのだから、当然かもしれない。

 

「よろしくね!千枝ちゃん!千枝ちゃんはさ、他にも好きな本とかある?すっごい天才的な解釈力を持ってるし、なにか教えてほしいな!」

 

いきなり下の名前...!陰に住まうものとしては眩しすぎるその光、ヴァンパイアだったら灰になっていそうだ。

 

「えっと、す、好きな本...」

 

どうしよう。僕の好きな本はあれだが、世に対して知られていないマニアックな本を出したら、気取っているとか思われてしまうかもしれない。

 

でも...もしかしたら。

 

この本の感想を話し合う...なんて、そんな夢物語が叶ってしまうと考えると...

 

 

「...が、『ガラスの花束を君に』っていう小説なんだけど...」

 

言ってしまった。どうか引かれませんように。あわよくば興味を持ってくれま――

 

「知ってる!!!」

 

「...え?もう?」

 

「千枝ちゃん...!君、百合の才能、あるよ!」

 

百合の才能は別に...それより、本当に読んだことがあるの?あの本を知ってる人を現実で見るなんて。しかも、それを百合だと解釈している。

彼女の...百合センサー?は本物と言わざるを得ない。

 

「その、僕...鏡さんが彩音ちゃんに渡したガラスの花束と同じ形の花を彩音ちゃんが集めてお返しをするシーンが好きなんです...!」

 

「わかっわわわ分かる!彩音に「あなたの色がいい。」と言われて悩んだけど結局分からなくて透明なガラスの花束を贈ったら、色を付けてお返しをしてこう言うんだよね!「なら私が全部色を塗ってあげる。あなたの花束は私が求める色になるの。」って!キャー!」

 

「うん...!うん!それでも最後まで彼女達は友達で、でもそれがこう、なんていうか恋人になる以前の部分から染められていく感じが――

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

暑い。

 

図書室の片付けをして、戸締りをする。まだ熱が残っているようで、ボーッとしてしまう。

 

あれから時間を忘れて、僕たちは語り合った。

気づけば図書室を閉める時間だったので、芹沢さんは先に帰って行った。

 

友達...と、好きな本について語り合うのがこんなに楽しいだなんて、全く知らなかった。

そうこうしている間にも、次会った時に話したいことが湧いてくる。まだオススメの本はいっぱいあるし、彼女のオススメも聞いてみたい。

 

彼女は...また来てくれるだろうか。芹沢さんは結構クラスの中心的存在だと聞いているので、もしかしたらこれっきりになるかもしれないけど。

 

でも...もし来てくれたなら、また一緒にお話がしたいな...

 

 

図書室の整理が終わって電気を消そうとすると、足元に紙がが落ちているのを見つけた。

 

これは...原稿用紙?ホチキスでとめられた数枚の紙。

 

僕の書いていたのは...鞄に入っている。誰のだろうか?他の学年で作文の宿題でも出ているのかもしれない。

こういうのは大体最初に名前が書いてあるし、そこを見て後で落とし物の報告を――

 

 

.........

 

書いてない...えっと...

 

 

......!?

 

 

「うわわっ!?」

 

 

こ、これ小説!?

 

しかも、け、結構過激...!

 

お、女の子同士がくんずほぐれつ...だ、駄目だ!

 

目を背ける。内容に関わらず、自作小説を不本意に読まれるということは、所有者に対して甚大なるダメージが発生すること間違いなしだ。

 

でも、これは一体誰が...

 

 

あ。

 

 

も、ももももしかして...?

 

芹沢さんの!?

 

 

 

 

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