百合いいよね...私?私はノーマルですけど何か? 作:ヒオルカ
新年あけましておめでとうございます。ようやく更新ですがどうせ色んなガバがあるので先に謝らせてくださいごめんなさい!
ところでコイツ、ゲージが赤くなってちょっとの間ランキングにも居たみたいです。
...?
(゚Д゚)!?
感想、評価等沢山いただけて狂喜乱舞しております。良ければ今後ともお付き合いいただければ幸いです...!
ヤバい。
無い。
今日の布教用百合コンテンツを『とのプレ』から『美姫抜剣!(1〜8巻)』に詰め替えていたところ、鞄の隅にいつもチラチラと見えていた『ヤツ』の存在が見当たらない。
どこかに置いてきた...?落とした...!?アレを!?!?
マズいマズいマズい!
動悸がマッハで地球がヤバい。
中身は私の若い純情が煮詰まった、あんまりにもあんまりな内容だ。もしも、万が一にもあれを誰かに拾われたりなんかしたら、私は...ッ!
休み時間にアテのありそうな場所を探す。
脂汗がとめどなく溢れ出る私の様子を見た美奈子に心配されたが、こればっかりは美奈子に相談するわけにもいかない。例え心通わせた友であっても、いやむしろ友であるからこそ見せてはならぬものもある。
とにかくいろんな場所を駆けずり回ってみるも、それらしきものは見当たらない。
後は...昨日長居した、図書室だろうか?
図書室は昼休みと放課後に開かれる。私は昼休みが始まると同時に駆け出した。我が業をこの手に取り戻すために...!
「あああ、あのぉ、コレ昨日拾ったんですけど、もしかして......ってうわぁ!?芹沢さん!?」
「カヒュッ」
―――――――――――――――――――――――
一晩悶々としながら悩んだ結果、やはりお返しするのが一番だという結論に至った。
自らの手で書いた原稿が失われるというのは悲しいものだと思う。頭の中のものを文字に変換することは想像以上に難しい。
良いものが浮かんでいたとしても、ペンを取ると手が止まってしまうこともある。
その結晶はたとえ後から読み返すのが恥ずかしいものであっても、価値のある証だと思うのだ。
それに僕は昔パソコンで執筆をしていた時、一度誤ってデータを消してしまったことがある。あの時の、全身から血の気が引いていく感覚を忘れたことはない。
急いでもう一度書き直そうとしても、あの時絞り出した語句がなんだったのか思い出せず、結局そのお話は書き上げられなかった。それ以来僕はもっぱら紙媒体だ。
そんな訳で勢いのまま、出会い頭に彼女のものと思われる原稿用紙を差し出す。
すると彼女は白目を剥いて地に倒れ伏し、もがき苦しみ出した。
......早まったかな。
「落ち着いてください!あのその、全然読んでないです...!」
「うぎぎ...じゃあなんで私だってわがっだのぉ?」
「あ...それは...その...ちょっとです!最初のとこをちょっと!」
「書きたいところから書いたから最初がクライマックスだよォ!ぐええええ...」
芹沢さんの慟哭は収まる気配を見せない。図書室は開きたてで誰もいないのが幸いだけど、とにかくどうにかしなきゃ...僕が起こしてしまった事態だから...!
でもどうしよう...!何か、何か...!
「ぼ、僕のも見せます...っ!」
「あばば...ほえ?」
「僕も、その、書いてるんです...それを、あの...えっと...」
あ、ああ...つい言ってしまった...!他の人に見せる気なんてなかったのに...!
「ほ、ほんと?千枝ちゃんが書いた小説...?」
しかし効果はあったようで、芹沢さんは少し落ち着いてくれた。
しょ、しょうがない。これは見せるしかないかも...
チラッと横目で彼女を見ると、その目は期待の眼差しと化している。
「うぅ...えっと、ど、どうぞ...」
躊躇いながら、私は鞄から原稿用紙を差し出した。
―――――――――――――――――――――――
「ふおお...へぇ...」
原稿用紙を渡してから10分ほど。彼女はそれに齧り付いている。
目の前で自分の描いた小説を読まれる...ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい状況だ。
しかもすごいじっくり読んでる。もうそろそろ読み終わってもおかしくない時間なのに...
「ああの、文字汚くて読みづらかったらすみません...」
「え?そんなことないよ!すっごい綺麗!」
あ...よ、よかった。それに彼女の精神も回復したように思える。なんとかなった...かな?
「...うん!」
彼女がパッと顔を上げた。
「いい...!いいよこれ!好き!」
「うぇ...?」
今、好きって...ほ、本当に?
「あの、これは百合ってわけじゃないんですけど...?」
「うん、分かるよ。」
「じゃ、じゃあなんで...?」
「もう、私を何でもかんでも百合にしちゃうモンスターだと思ってない?」
思ってますごめんなさい。
「まあその、完全に否定はしないけど...でもね、百合がないってのも尊いんだよ。」
「...?えっと...」
「愛し合ってる、仲が良いっていうのは言わずもがな。喧嘩したり仲が悪かったりだって、もし百合じゃなくたっても、百合の種や友情ってこともある。」
「......」
「じゃあ、百合でも友情でもない二人が一緒にいるのはどうして?その二人の関係が深まった時、そこには特別な何かがあるはず...そう思うの!」
「えーっと...?」
つまり、彼女は百合を突き詰めたことによって人間同士の関係性を見出すことが得意になって、それが百合でないものにも適用されるように...
...百合が好きすぎて、「百合じゃない」という百合を見出した...?
駄目だ自分でも何を言っているのか分からない。今までたくさんの本を読んできたけど、これほど読み取りにくい文言は初めてです。
「えーっと、なんて言ったら良いかな...そのね、千枝ちゃんの書いてくれた小説は、登場人物の心理描写が奥深くって素敵だって言いたかったの!」
「そ、そうかな...」
「荒夢先生が言ってたよ。『どんな絵も音も文字も、それを反射する人の心が無ければ全て無色透明さ。』って。それくらい、人の感情を表現できるのって大事なことだと思う!」
荒夢先生...『白河荒夢の原稿』の話かな。確か第一巻三章で、理子が小説の風景描写を上達させるためにがむしゃらに風景資料をかき集めていた時、荒夢先生が彼女にそう声をかけたのだ。
どんな言葉ものらりくらりと躱す、おちゃらけた雰囲気を持つ荒夢先生は、しかし時に理子を導く保護者のような誠実さを見せてくれて...
つくづく打ち切りになったのが悔やまれる。その一報を聞いた時僕の手にあった情報端末は滑り落ち、そのまま最新型の端末になった。
「あ...う、その...ありがとう...せ、芹沢さんのもす、凄かったよ...!その、語彙とか―
「それ以上はいけない。」
「あ、はい...」
それにしても顔が熱い。自分の創作物を知り合いに見せる行為のどれほど心臓に悪いことか。
「ねぇねぇ、これって続きはあるの?」
「えっと...はい。お家にあと100枚ありますけど...」
「そんなに!?凄いね...もしかして、小説家目指してたりする?」
...小説家。
なりたくないかと、はっきりそう聞かれれば、一切ないとは言わない。
でも無理だ。ただ偶然見た小説家さんがなんとなく気になって、それで始めただけのふわふわした僕が、敬愛する彼ら彼女らの世界に飛び込むなんて考えられない。
「む、無理ですよ...僕はただ、読んでいるだけでその、いいんです。憧れは...ないわけじゃないけど、そこに僕がいちゃダメなんです。」
「...!」
そう告げた途端、芹沢さんは少し目を見開いて...
...?
「...あ、あの?」
「あ...そ、そっか。うん。」
彼女は少し視線を逸らしてから、もう一度こちらを見る。
「分かるよ、その気持ち。まあその、無理にとは言わないけどさ。少しでもなりたい気持ちがあるんだったら、挑戦してみてもいいんじゃない?...なんて、ごめんね偉そうに!」
「で、でも...」
そうなるとこれを、応募に出す...ということになる。
応募なんて行為は、それなりに自分の作品に自信がなければ難しい。
今の時点で倒れそうなのに、応募なんてした時には一週間ほど熱でも出し続けるんじゃないだろうか。
......
「あ...ご、ごめんね変なこと言って!私その、今日は帰るね!これオススメの百合小説!またね!」
「...あっ!」
そうこう悩んでいるうちに、芹沢さんは足早に出て行ってしまった。
なんだか少し様子がおかしかった気がする...もしかして僕、何か失礼なことを言ってしまっただろうか?
どれもこれも、きっと僕がうじうじと悩んでいるせいだ...
...ところで、パソコン前に置かれたライトノベル『美姫抜剣!』8巻分は、僕が持って帰るのだろうか?
―――――――――――――――
ペンを揺らして、原稿用紙にインクを乗せる。
ここ最近停滞していた部分も多少進んでいるように思える...
よし、とりあえず一区切りだ。
...あれ?
......なんかちょっと百合になってない?
だ、ダメだ!別に僕はそんなつもりで書いたわけでは...!
せっかく百合でなくとも彼女に褒めてもらえたのに、今百合に転換しようものなら一体どんな反応されるかわかったものじゃない。
描き直そう。小説は自分の心を移す鏡なのだから、他の人に影響されたものでは...
いや、逆に言えば僕の心が...
カチャリと、鍵が開く音がした。もうこんな時間か。
原稿用紙をしまって席を立つ。
「ただいま。」
「おかえりなさい、お父さん。」
出迎えて荷物を受け取ってから、ラップをかけて置いた料理を温める。
「いつもありがとうな。」
「ううん。お父さんもいつも遅くまでお疲れ様。」
いつものように遅くに帰ってきたお父さんに料理を出して、お風呂のスイッチを入れる。
「...なあ、千枝。」
「ん?」
お父さんは少し間を置いてから、呟くように言った。
「また、転勤が決まったんだ。」
「...そっか。」
僕と彼女の終わりの時計が、秒針を動かした。
年始に書くオチではない...?続きはなる早(当社比)であげたい所存です。