おい、バトルしろよR   作:ししゃも丸

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潜入

 

 

 

 通路を歩く。変哲もないただの通路。変わっているのは飾り気もないシンプルな構造で、例えるならばスパイ映画やSF映画に登場するような通路だろうか。雰囲気もどこか冷たい印象を受ける。通路の側面には一定の間隔でガラス窓があり、各区画を見下ろすことができた。その多くは実験施設らしい。耳をすませばとある区画で行っている研究員の声が聞こえた。

 

『──にH227を投与』

 

 近くにいた何かの装置を担当している研究員が頷くと、ロボットアームが部屋の中央に拘束されていたイシツブテにそれを投薬すると、イシツブテは光始めた。

 

 ──イシツブテはゴローンに進化した

 

 ゴローンに進化しても周囲の人間の反応は薄かった。リーダーらしき研究員がまた何かを指示すると、同様の薬かはわからないが再びゴローンに投薬され、また光った。

 

 ──ゴローンはゴローニャに進化した

 

 今度はゴローニャに進化した。だが、これはあり得ないことである。野生でいるゴローニャは別として、本来ゴローニャはトレーナー間におけるポケモン交換による進化でしか発表されてないからだ。

 つまりこれは、薬による強制進化の実験ということなのだろう。

 

 だがその代償はとても大きいようである。ゴローニャが暴れ始めているのだ。その様子は異常で目は赤く血走っていて、ある意味では混乱に近いようにも見えた。次第に拘束しているロボットアームが折れて──同時に複数のみずタイプのポケモンが現れ、容赦なく暴れているゴローニャにハイドロポンプらしき技を放った。

 

 効果は抜群……と思いきやゴローニャは想定よりもハイドロポンプを長時間耐えて見せて、そして倒れた。

 それを見た研究員は淡々とメモしていた。

 

『H227による進化は依然として効果を維持することを確認。ただ連続投与による進化は精神に異常をきたし、混乱または錯乱状態になる。だが同時に弱点による技──』

「……外道が」

 

 最後まで聞くこともないと、レッドは再び通路の奥に向けて歩き出した。いつもの赤がトレンドマークの服装ではなく、黒い帽子に黒い服、そして胸に赤いRのマーク。

 

 そう。レッドは今現在ロケット団に扮して彼らの秘密研究所に潜入していた。

 

 

 

 

「ここタマムシのどこかにあるロケット団の研究施設に潜入してほしいのです」

 

 それがジムリーダーエリカが頭を下げてまでレッドにお願いしたいと言った内容だった。それにレッドはこれといって反応しなかった。ただ隣にいたマサキが反論した。

 

「なんでそんな危険なことをレッドに頼むんや! なによりもそれがジムリーダーが言うなんて!」

「それは、わかっています。ええ、痛いほどにわかっていますともっ」

「だったらなんで……」

「本当なら私自ら赴くのは至極当然。ですが、私にはジムリーダーという肩書が邪魔をしています。ロケット団にとって我々()()()()()()()()()は邪魔な存在。だからこそ常に監視されている、と言ってもいいでしょう。なので長時間ここに留まっているのも危険なのです」

「だからってレッドじゃなくてもええやないか」

 

 理解はできても納得はできない。そんな感情でマサキは言ったようにレッドは聞こえた。

 

「残念ながら親衛隊と言ってもロケット団と戦うにはまだ未熟。何よりもロケット団との戦いは普通でない。それこそ問答無用、ありとあらゆる手を使ってくるでしょう」

「まあその通りではあるけどさ」

 

 身をもってロケット団の手口を知っているレッドはエリカに肯定した。

 

「先日クチバで起きたサントアンヌ号の事件は私も聞いております。それを解決をしたのがあなたなのも。レッド、あなたは人として強くそのポケモン達も異常なまでに強い。だからこそあなたにしか頼めないのです」

 

 エリカは自分と隣に控えていたスピアーとピカチュウを見て言う。ジムリーダー程のトレーナーが言うのだ。見ただけでそのポケモン達の実力はわかるのだろう。またタケシやカスミと交流があるということは、リザードンの存在もカスミから聞いているのかもしれない。

 

 レッドのリザードンは、気づけば手持ちポケモンの中では最終兵器みたいなポジションになりつつあった。レッドとリザードンは波長が似ているのか強くなるための努力を惜しまない性格で、恐らく才能もあったのだろう。リザードンはメキメキと頭角を現し、その強さは同じく手持ちポケモンである伝説ポケモンのサンダーに対して己の肉体のみで勝てるほどである。

 

 そういう事情も踏まえたうえでエリカは自分に頼んでいるのだろう。ただレッドには気掛かりなことが一つあった。

 

「リーフには頼まなかったのか?」

「あ、それはワイも思ったで。リーフも十分強いトレーナーやからな」

 

 話を聞いた感じではリーフとは女性同士ということもあるのか、短期間でも良好な間柄であるのではとレッドは感じ取っていた。自分ほどでもないがリーフも強いはずで、現に今回のイーブイの捜索を手伝っているからだ。

 

「先程も申したように、ロケット団の戦いは生半可な覚悟で挑むことはできません。リーフも強いです。それはジムリーダーとして保障します。ですが、あの子は優しすぎます。今回の件に関しては適していないのです」

「優しいかな、あいつ」

「少なくともお前さんよりは情に厚いと思うで」

「そうかな」

「そうやで」

「ならそうなのかも」

「……不思議な関係ですのね」

 

 そうだろうかとマサキと互いに見合うが、こんなものんだろと二人してエリカに言った。ただマサキは初めて出来た友達なので、他の人間との付き合い方がわからないレッドはあまり理解はしていなかったが。

 

「話を戻そう。エリカのお願いは受ける。ロケット団に仕返しができるなら猶更だ」

「ありがとうございますっ」

「ええんかレッド。一応敵の拠点に乗り込むんやで」

「まあなんとかなるよ。で、その拠点の場所はわかってるの?」

「ええ。場所は──」

 

 タマムシゲームセンター。そこがロケット団の研究施設がある場所らしい。らしいというのは、あくまで仮説だと言う。潜入している密偵はいるのに情報の精度が甘いのは、そことは別の場所から下っ端として潜入し、出入りも常に別の場所を使うためであり、ゲームセンターだという確証を得たのは他の団員がそのようなことを口に出していたからだという。

 

 一応ゲームセンターという名目だが表向きはカジノみたいものらしく、組織の資金源として運営しているのもロケット団の可能性もあるだろうという結論に至ったらしい。

 わかっているなら踏み込めないんかとマサキがエリカに言ったが、ジムリーダーと言えどそこまでの権限はまだなく、かと言って警察と合同に捜査しようにもロケット団が潜り込んでいないという保障はないから頼れないらしい。

 

 それからのレッドの動きは速かった。捕獲したイーブイをマサラタウンのオーキド博士に精密検査を依頼してからレッドは街へと向かった。

 

 あとは簡単だった。

 エリカ達はロケット団を潰そうとしているがやはり甘い。リーフを優しいと言ったが彼女達も甘いとレッドは感じた。ロケット団に対して遠慮というのがないのか、見るからに怪しい男を後ろからイシツブテを使って気絶させたあと、路地裏に連れて行ってスピアーの毒針をちらつかせながら色々と吐かせた。

 

 捕まえたのは下っ端だったが情報は意外と豊作だった。施設に入るための入口を聞けて、さらにはゲームセンターから直通で研究施設には入れるらしい。だがそこは最低でも部隊のリーダー以上の人間しか入れないらしい。

 

「となると他の場所から行くかしかない、か」

「へ、へへ。じゃ、じゃあ俺も解放して……」

「あて身」

 

 捕らえた団員を再び気絶させ、レッドは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 吐かせた情報に間違いはなく、道中にあったロッカールームでロケット団の服を奪い、他の団員達に紛れて行動をしていた。不安だったのは背が低いことだった。成長期故に日々身長は伸びているのだがそんなすぐには伸びはしない。しかし意外と気にしてないのか、誰も気にもとどめてはいなかった。

 

「にしてもさっきのはあの薬と同じもの、か?」

 

 オツキミ山でキョウがサイホーンに使用した薬と同様の効果を発揮していたのを見るに、多分同じ薬だと想像はつく。実際に効果は現れてはいるのにまだ実験をしているということは、アレはまだ未完成だということだろうか。

 

 考えうるものとしては戦力増強のために使用か、あるいはマチスが言っていた好事家といったような裏世界に関わりある人間に売るか。まあそんなことを考えても仕方ないとレッドは先に進む。

 

 正直に言って、ロケット団という組織を舐めていたと認めるしかなかった。この研究施設をの全貌まではわからないが、ここに来るまでの間だけでも認識を改めるには必要なものばかりだったからだ。

 よくよく考えればあのサントアンヌ号でさえロケット団の支配下にあったと考えれば、彼らの資金力は相当のものだということがわかる。

 見える範囲だけでも人員の数や研究設備もそうだが、何よりも目を張るのは忠誠心、だろうか。確信はないがそのようなモノを確かに感じる。

 

 だが一人一人の強さに関してはそうでもない。腕の立つ者も確かにいるが自分の敵ではないとレッドは断言できた。だが、問題は彼らの強さでないのかもしれない。ロケット団の強さはこの団員の数なのではないかと思えてきた。

 

 戦いは数なんて言葉があるのを思い出す。確かにその言葉は的を得ているのだろう。特にロケット団という組織に関しては。

 

 もしかしてとんでもない相手と戦っているのでは──それに気づいた瞬間、レッドの額に汗が一滴流れた。

 

『──現時点でのこのミュウツーの完成度は90%といったところです』

 

 恐らくポケモンの名前だろうか。聞き覚えのないポケモンの名前を聞いて思わずそこで立ち止まる。その部屋は、まさに実験室らしい部屋だった。中央に円柱型のカプセルがあって、そこには見たことのないポケモンが何かの液体の中にいた。そしてその前に白衣を着たスキンヘッドの研究員に、ロケット団の団員が話し込んでいた。

 

『これ以上は無理なのか?』

『ええ。ですが現時点でもこのミュウツーの強さは相当のものです。ただその分狂暴で我々の制御下に置くことは非常に困難。それを解決するためのプランも進んではいますが難航しています。現時点あるいはそれ以上の強さと管理能力を併せ持ったミュウツーを生み出すためには、やはり今あるサンプルだけでは無理です』

『それは承知している! だからこそミュウを捕獲してこいと言うのだろう!?』

『ええ。ですがそれは不可能』

『言われなくてもわかっているっ。だから総動員してまでミュウのデータディスクを盗んだあの小娘を探しているのだ!』

 

 思わずその小娘がリーフなのではと思い焦る。だがそうならエリカにその情報が渡っているし、彼女が保護するために動いているはずだと気づき、焦りは次第に消えた。

 

 しかし、ミュウとは何のポケモンだろうか。そんなポケモンなんて聞いたことがない。いや、あのミュウツーと言ったか。あの色というか所々あの夜に出会ったポケモンに似ているような──突然、警報が施設中に鳴り響いた。自分と同じように誰もが突然のことに手を足を止めていた。

 

『ポイント24にて例の小娘を発見! 手の空いている戦闘員は全員急行せよ! 繰り返す──』

 

 小娘。確かにそう聞こえた。リーフではないのなら一体誰だろうか。そんなどうでもいいことを考えようとしたその時、背後から来た一人に声をかけらえる。

 

「おい、何をしているんだ。お前も行くんだよ」

「あ、ああ。わかってる」

 

 適当に相槌を打ってその団員に付いていこうとする。たが、最後にもう一度あのミュウツーと呼ばれたポケモンが入ったカプセルを見た。

 

 ……いま、こっちを見た、か? 

 

 一瞬、目が開いてこちらを見たような気がした。目を凝らして再度見るが、別に目を開いている様子はない。先程同じように目を閉じている。

 

「急げよ。遅れたらどんな罰を受けるかわからねえぞ!」

 

 面倒見がいい男なのだろう。まだ来ないレッドに大声て叫んだ。自分が潜入していることを思い出し、その男の後に続くように来た道を戻る。

 

「しかしどうしたもんかなあ……」

 

 潜入して研究施設での非合法な実験も確認した。ゲームセンターの真下にこの研究施設もあることの裏もとれた。あとはこれをエリカに伝えればいいのだが、どうやら今しばらく時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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