おい、バトルしろよR   作:ししゃも丸

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ディグダの穴

 

 

 ディグダの穴。クチバシティ付近にある洞窟で、ニビシティとクチバシティ間を繋ぐ長い洞窟である。名前の由来はその名の通りで、ディグダが掘ったと言われているからである。しかしそれはあくまで昔からの言い伝えであり、実際のところ本当にディグダが掘ったのかはわかっていない。ただ洞窟内には数多くのディグダが生息しているため、それ以上の考察はあまりなされていない。

 

 この洞窟は長い。地図を思い浮かべれば一直線のように思うかもしれないが、この穴はディグダ達が掘ったものだ。当然常に直線という訳ではない。かといって迷路になっているわけでもなく、今では街の方向を示すための看板ぐらいは道中にいくつか立ってはいる。

 

 そんな洞窟内、場所はニビシティとクチバシティの中間に位置する場所にレッドはいた。正確には小さなランタンを焚火の代わりにして。その前にレッドは座禅を組みながら瞑想をしていた。

 

「ふぅ」

 

 それは、体の中に確かに存在している。言葉にするとそれは氣と呼ばれるものになるのだろうか。しかしそうではないという不思議な確信があった。突如芽生えたものなのか、それとも元々備わっていたものかはわかっていない。それを確かめるためにレッドはこのディグダの穴を訪れたのだ。

 

 場所は静で人が来ないような場所がよかった。候補には真っ先にオツキミ山が思い浮かんだが、先の崩落事件のこともあって除外。次にハナダの洞窟や無人発電も候補にあがったが、どうせなら行ったことがない場所にしようと思い、リザードンの背に乗ってクチバシティに戻りこのディグダの穴にやってきた。

 

 瞑想を初めてかれこれ数時間は経つ。だがそのナニカを使えるまでに至ってはいない。それは水道の蛇口を捻りたくも硬くてまわせず水が出ないイメージだろうか。自分はそれを知らないのだから当然できるわけがない、と珍しく弱音を吐いたりもした。

 さらにレッドはリザードンになんで口から炎を吐き出せるのか、とバカらしい質問をした。当然リザードンからすれば首を捻ることしかできないし、そんな疑問すら抱かない。

 

 人間は口から火も水も出せはしない。だからできるわけないのだと言って諦めたくても、それはそれで嫌なのでこうして瞑想して少しずつ何とかしようとしている。

 

 ただポケモン達曰く、「稀に使ってるよ」と言うのだ。なんでも体に纏ってるとか。どうやら無意識に使えてるらしい。だからこそ余計に難航しているのだ。

 

「……はぁ」

 

 瞑想を止めてため息を吐く。目は自然とランタンの光を捕らえさらにその奥、壁を背にして眠る一人の男を見た。

 

 男は黒いスーツを着こんだ化石マニア、らしい。身長は160から170。体格は意外とがっしりしている。本人曰く、このディグダの穴は稀に化石が掘れるらしく、彼は休日をよくこのディグダの穴で化石掘りをして過ごしているのだという。

 

 彼と出会ったのは洞窟の入り口でのことだった。用心棒というほどのことでもないが、お礼はちゃんとするので道中のボディーガードとして同行してくれないかと頼まれたのがきっかけだ。修行の時間が減るぐらいで別に断る理由は別になく、ニビシティ方面には向かう予定だったのでレッドは素直に引き受けた。

 

 でも変なんだよな、このおじさん。

 

 道中暇つぶしとして互いに話をしたり振ったりもしていたが、化石マニアと自称はしていたのでその知識は豊富だったと思う。たまに足を止めては小さなピッケルを壁岩に叩きつけて採掘もしていた。実際にそれらしいものを発掘していた。本人曰く、化石がどうかは調べてみないとわからないらしい。

 

 それでもレッドが変だと思ったのはいくつか気になる点があったからだ。まずは服装。旅をしているトレーナーならともかく、彼は休日を利用して採掘をしているといった。ならばあんなスーツを着て採掘に来るだろうか。それに装備も自分と同じ必要最低限のものしか持ってきていないのが余計に不信感が募る。他にも自称化石マニアにしてはあまりにも立振る舞いがそれではなく、歩いている時でさえ体の軸はブレていない。

 

 あとは本当に直感だ。それを直接問いだすことはしないしする気もない。もうこのことを考えるのやめよう。どうせこのディグダの穴だけの付き合いだ。そう思って眠ろうとしたとき、彼は体を起こしてこちらにやってきた。どうやら起きたようだ。

 

「眠れないのかいレッド」

「いま眠ろうとしたところ」

「はは。それはすまないね」

「別にいいよ。で、どうしたの」

「なに。ちょっと話をしたくなっただけさ」

 

 彼はバックから水が入ったペットボトルを取り出し、それを一口飲みながらそう言った。

 

「何を聞きたいのさ」

 

 話なら洞窟を進んでいる道中でたくさん話したと思うが、それでも何を話そうというのだろうか。それに明日もあるというのに。

 

「いや、少し気になっていたことがあってね。ディグダの穴にも野生ポケモンはいるだろ。主にディグダになるけど、ここまで歩いてきて一度もその姿を見ていないと思ってね。こんなことは初めてだ」

「多分、俺が原因じゃないかな」

「レッドが? どうして」

「これは俺の経験談でさ、野生ポケモンって捕獲されたポケモンより気配が敏感なんだよ。中にはそれで逃げる個体もいるし、逆に自分の縄張りに入った人間を襲う個体もいるんだ」

「ディグダはその前者というわけか。だからと言ってここには進化したダグトリオだっている。それなのに一度も現れないなんてことはないだろ」

「言ったろ。俺が原因だって。言葉にすると殺気を飛ばしているっていうか、まあ近づくなオーラを出してる」

 

 可能な限りわかりやすく説明してみたものの、彼には受け入れがたいのかあまり伝わっていないようだ。いや、信じていないような顔をしている。

 レッドは周囲に飛ばしているオーラを一旦解除して、トントンと地面を叩いた。

 

「何をしてるんだ?」

「まあ見てなよ……ほら、きた」

『よんだ?』

 

 ゴゴッと地面から小さな穴を掘るような音が聞こえると、ニョキっとディグダがその姿を現した。レッドはそのディグダの頭を撫でて、お礼としてポケモンフードをあげ、ディグダをそれを美味しそうに食べた。

 

「これは、その、たまげたな。一体どうやってディグダを呼んだんだい?」

「こう、ちょっと来てくれないって感じのオーラを飛ばして」

「おじさんにはわからないな」

 

 手を挙げながら頭を横に振って彼は言った。それもそうだとレッドも思った。

 

「だろうね」

『で、どうしたの』

「いや、なんでもないんだ。ありがとう、もう行っていいよ」

『ばいばい』

 

 ディグダは来た道を戻ったのか、ただそこに小さな穴だけが残った。それを見た彼はまた驚いた顔をしていた。

 

「もしかしてポケモンの言葉がわかる、のか?」

「おじさんはわからないの? 自分のポケモンだっているんだろ」

「いるにはいるけどポケモンの言葉はわからないよ、普通はね」

 

 信じられない、そう目で訴えているのがわかる。しかしレッドからすれば、これが自分にとっての普通になっていた。いつしか人と会話するような自然な感じでポケモンの言葉が聞こえるようになった。

 トレーナーならば自分のポケモンの言葉ぐらいわかるものだ、そう思っていた。

 

 しかし、現実はそうではない。俺は、普通ではないらしい。

 

 それに気づいたと知ると、なんだか気分が悪くなった。

 

「もう寝るよ。お休み」

「ああ、お休み」

 

 普通ってなんなのだろうか。レッドはそのことを考えながら意識が落ちるまで考えていた。

 

 

 

 

 

 マサラタウンのレッド。その少年の名前がここ最近の報告書で何度も見かけるようになった。最初はオツキミ山、次はクチバでだ。三幹部と呼ばれているキョウとマチスを、たった10歳の若造が退けたという。

 

 俄かには信じがたい報告であった──が、マサラタウン出身ならばそこまで不思議なことではないと私は知っていた。

 

 マサラタウンはカントーの中では一番の田舎だ。自然豊かで、人とポケモンが住むには最適の場所という認識しかない。ただマサラタウン出身のトレーナーというのは、カントーだけではなく全国的に見ても優秀なトレーナーを輩出している、そう何かの資料で見たことがある。

 

 近年、いや、少し前ならばあのポケモン博士で有名なオーキド博士も、かつてはリーグ優勝者である。これを知っている若者はいないだろう。

 

 またマサラタウン出身のトレーナーの中には、稀に逸脱した身体能力を持ったトレーナーがいると言われている。詳細は知らないがポケモンの技を受けても耐えられるらしい。現にマチスの報告では、至近距離での10まんボルトに耐えたという。マサラタウン出身ならそれぐらいはして見せるだろうとさえ思えてしまう。

 

 だから驚きはしても、その現実を受け入れられないほど慌てもしなかった。

 

 しかしそれでも相手はたった10歳の子供だ。我らロケット団が10歳のトレーナーに何度も妨害され恥をかかせられているのは、非常によくはない。先のタマムシ秘密研究所を失ったのも大きい。主要メンバーは退避済みだったのはよかったが、施設を差し押さえられたのは大きな損失だ。人やポケモンはすぐに増やせても、研究設備だけはすぐには整えられないのだ。

 

 マサラタウンのレッド。オーキド博士の孫であるグリーンとその妹のリーフ。盗人のブルーという女。ここ最近の報告でこれらの名前を見ない日はない。その中で特に邪魔なのがマサラタウンのレッドだ。トレーナーとしての腕前なら後者の二人の方が脅威だと判断するが、この男は違う。こいつは、たった一人でも我々ロケット団という組織と戦うことを恐れはしないからだ。こいつはトレーナーではない。戦士あるいは兵士に近いものだ。だから恐れない。

 

 恐れを知らない兵士は、いつだって怖いものだ。

 

 だからこの目で直接見定めることにした。マサラタウンのレッドが、一体どんな男なのかを。

 

 偶然にもナツメの予知夢でレッドがディグダの穴に向かうと報告を受け、私はわざわざ演技までして身分を偽ることで彼と共に行動することができた。

 洞窟を進みながら私はレッドに話を振った。なぜ旅をしているのか、どんな体験をしたか、ありきたりで障りのない質問ばかりを自然に訊いた。多少警戒はしていたようだが彼は普通に話した。内容に関してはウソをつくようなものではないので、恐らくはそのほとんどが本当のことだろう。

 

 それでわかったことは、レッドという子供は子供らしくないことだった。『強くなりたい』、そこに何か特別な理由はないように思える。天涯孤独ということも関係はしているだろうが、それはあくまでそれを望むようになったきっかけでしかないので、今の彼にはあまり関係ないだろう。

 

 この『強くなりたい』というところが子供らしくないのだ。ポケモントレーナーとしてではなく、ひとりの人間としての個の強さを求めていることにある。それはどちらかといえば武闘家に近い。10歳の子供がそれを求めるにしては、やはりどこか異常なのかもしれない。

 ただそれはそれとして、マサラタウンの生まれというだけにしてはこの身体能力については少し首をひねりたくもなった。

 

 時間にして夜の9時過ぎだろうか。彼は寝ることはなく瞑想をはじめた。サイキッカーであるナツメもよく瞑想をして、その力と集中力を高めてはいるのでそれと似たようなものだろう。理由を聞けば、「体の中にあるナニカを知るため」という。ナニカとはなんなのだろうか。ナツメ曰くサイキッカーではないことは確からしいが。

 

 私は寝たふりをしていたのだが、一向に寝る気配がないので自然に起きたように見せながら、なぜ道中ポケモンに出くわさなかったことを訊いてみた。それにレッドは自分が原因だという。さらには一体どんな手品を使ったのか、野生のディグダを呼んで見せた。さらにはまるで会話しているような素振りさえしていた。

 

 そのことを聞けば、レッドは言った真顔で言った。自分のポケモンの言葉がわからないのかと。まるで当たり前のことのように。

 

 ポケモンの言葉を理解できる──そんな人間がいたという話を、むかし聞いたことがある。それもトキワシティの生まれで。それを知ってはいても、レッドのは少し違うのだ。まるで人と人が会話するような、そんな自然な感じで受け答えをしているように見えたのだ。

 

 私がそれは普通ではないと告げると、年相応に傷ついたようにも見えた。どうやら中身は意外と繊細のようである。

 

 短い時間の中で私はこのレッドという男が組織に欲しいと思った。強さだけなら行く行くは私をも超える逸材だ。本人だけではなく彼が持つポケモンも強いという。個体を選ぶが育成という点においても斜めに尖っているが悪くはない。

 だが、それは無理だということもわかっていた。手懐けられるわけがない。こんな純粋無垢で、ただ強さを求めるだけの子供を。純粋だからこそ善悪には敏感だ。組織のために働くわけがないし、尽くす動機も理由もない。

 

 だからここで始末しようと決断した。レッドが寝ている間に仕留めようとしたのは、私なりの優しさだった。苦しまないように一撃で殺そうとした。

 しかしそれは叶わなかった。レッドが寝てる間、私には常に殺気のようなものを当てられていたからだ。それも彼のボールから。

 

 話の中で彼にポケモンなんていらないだろうと試しに聞けば、「一緒に戦ったり、背中を守ってくれる相棒が欲しかったから」、とポケモンを連れている理由を語っていたが、まさにいまその通りのことをレッドのポケモンはしていたようだ。

 

「くくっ。手強い」

 

 思わず声に出た。ここまで手こずったのは久しぶりだ。そして出したボールを戻したのも。こちらから仕掛けなければ仕掛けてはこない。それがハッキリと伝わってくる。だからここで行動を起こすのをやめた。

 

 もう少し観察を続けよう。そう思い私は殺気を当てられながら眠りについた。

 

 

 

 

「……うっ。太陽の光が眩しい」

「そうだな。私もまだ目が慣れないよ」

 

 ニビシティ側のディグダの穴の出口を出たのは、太陽がちょうど真上にくる辺りだった。あれから私は化石マニアに扮しているため発掘もしなければいけないので、洞窟を出るのにここまで時間がかった。

 

 我ながら驚いたのは化石らしきものが発掘できたことだろうか。片手で数えるほどだが、ひとつだけやけに綺麗な琥珀の化石が出てきたので、もしかしたら本物かもしれない。

 

「博物館に行って鑑定してもらうんだよね」

「ああ。そのつもりだよ」

「俺もそれが本物なのか気になるから一緒に行ってもいい?」

「もちろん。お礼もしなきゃいけないしな」

 

 私は滅多にすることがなくなった笑顔を振るまきながら肯定した。

 レッドの一歩後ろを歩く。僥倖とこの場合は言えばいいのだろうか。現時点ではまだ抹殺を取りやめてはいない。ヤるなら人目がつかないこのタイミングだろう。

 

 しかしなぜだろうな。背後を取っているのにも関わず、一撃で仕留められないと思ってしまうのは。今は殺気もない。油断、はしていないだろうが有利なのは私だ。腰についているボールにいつ手を伸ばすか、そうタイミングを見測っているとレッドが足を止めた。

 

「……スンスン」

「どうしたんだ、レッド」

 

 街の入り口の少し前辺りでレッドは足を止めたと思うと、ガーディのように匂いを嗅いでいた。

 

「っ!」

 

 レッドはいきなり地面を蹴って街へと走り出した。私も少し遅れて後を追う。最初は何事かと思えば、直後に目の前から黒い煙が上がり始めた。火事だ、それも火の手がまわるのが速いのか、黒煙は時間と共に大きくなっていく。

 火事の発生現場に近づくにつれて周囲の温度が明らかに高くなっているのがわかった。これは人によるものではなく、ポケモンだということはすぐにわかった。

 

「あれは」

 

 ひふきポケモンのブーバー。それがこの騒動の犯人らしい。

 燃えていてたのは私達の目的地であった博物館だった。もうすでに博物館全体に火の手が回っており、消防隊が来たところでもう全焼は免れないだろう。それでもブーバーはまだ口から火を噴いている。見たところ野生なのはわかるが、なぜここに野生のブーバーがいるのか、それはさすがに私でもわからない。

 

 ブーバーを見つけたレッドは、どういうわけか静かにブーバーのもとに歩き出していた。

 これは見ものだ、そう思い私は年甲斐もなく心を躍らせた。すると、レッドはいきなりその場にしゃがむと、何故かその場に埋まっていたイシツブテを拾い上げ、ブーバーに向けて力いっぱい投げ飛ばした。

 

『ブバッ──』

 

 イシツブテは見事にブーバーの腹に当たり、そのまま少し後ろに吹き飛んで倒れた。私は生まれて初めてくの字に曲がったポケモンを見ることができたが、如何せん期待していたモノではない。

 

 ブーバーが倒れたことで万時解決というわけではなく、すでに建物全体に火の手が回っているため、消防隊が来ない限りは燃え尽きるまでこのままだろう。

 

 レッドは燃えている博物館をジッと眺めていると、こちらに戻りながら言ってきた。

 

「中には誰もいないからとりあえず安心かな」

「そんなことまでわかるのか」

「悲鳴とかも聞こえないし気配もないから。消火したいところだけど、みずタイプのポケモン持ってないんだよね、俺」

 

 まるでみずタイプのポケモンがいれば、この火事をなんとかできるような言い方だった。ただ、レッドならできてしまうのだろう。短い時間であるがそれぐらいのことをしてみせる男なのは分かる。

 

「ならこの場から離れよう。下手すると私達が放火犯だと疑われてしまう」

「そうだね」

 

 なにせ、キミにはリザードンがいるからな──とは流石に付け加えなかった。レッドは私の言葉に頷くと、私達は来た道とは別の方角に向かって走り出した。

 

 

 

 

 それからニビシティの郊外に私とレッドはたどり着いた。ここにたどり着くころには黒い煙の勢いは衰え、だんだん消えていくのが見える。ニビシティにとってあの博物館は観光名所の一つであるので、それがなくなったことでしばらく街にはあまり人はやってこないだろう。

 そこんなことを思いながら、私はポケットから今回のお礼としてお金が入った封筒をレッドに渡した。

 

「これは?」

「今回のお礼さ」

「別にいいのに」

「まあ私なりのケジメというやつだ。ああ、それとこれも」

 

 ディグダの穴で見つけた綺麗な琥珀をレッドに渡した。それを見ると、彼は大きく目を開いては、琥珀を太陽に向けるその姿は年相応に喜んでいるように見える。

 

「いいの? これもしかしたら化石かもしれないんでしょ」

「かもね。でも、これを鑑定する場所はないし、それ以上にいいものを見せてもらったからね」

「何か見せたっけ」

「ああ。とても()()になったよ」

 

 自覚がないのかレッドは首を傾げる。まあそうだろうなと思うが、こればかりは言えない。

 

 短期間であったがレッドのことは分かった。いや、まだ未知数の部分はあるが色々と豊作だった。ただ手持ちポケモンについても知りたかったがこれ以上は難しいだろう。

 

「そっか。……じゃあこれでお別れだね。じゃあね、おじさん」

「ああ。()()()、レッド」

「え、あーうん。また」

 

 また言葉の意味を理解していないレッドは首を傾げながら歩き出した。方角はトキワの森方面だろうか。

 トキワの森。私の遊び場であり思い出の場所だったところ。いまの私にとっては、都合のいい場所でしかない。

 

 レッドととの距離はもう10メートル以上は離れている。それでも私のポケモンなら問題なくヤれるだろう。

 惜しい、本当に惜しい人材だ、胸の中で口惜しそうに呟きながら腰のボールに手を伸ばす──が、その手はボールを掴むことなく、ズボンのポケットに戻った。

 

「……くくっ、アハハ」

 

 つい声を漏らす。だがこれを笑わずしてどうする。ここまで離れているのに、あいつのポケモンはボールから私に殺気を放っているのだ。ああ、笑うしかない。これに気づけない間抜けは、きっとこの殺気を放っているポケモンによって返り討ちに遭うことだろう。

 

 最初はレッドとそのポケモンが欲しいと思ったが、今はその願望は変わった。戦いたい。あいつとそのポケモンと。きっとそれは楽しいのだろうな。まさに命を賭けた戦いになるだろう。

 

 そしてその願いは近いうちに果たされる。私にはそう思えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

「で、そんなに怪しいのか。あのおじさん」

『……』

 

 化石マニアのおじさんと別れて、トキワの森のとある場所でボールから出たスピアーに尋ねると、スピアーは頷いて肯定した。

 

 スピアーは手持ちのポケモンの中では、誰よりも気配というかそういうモノに敏感だった。善人のフリをしていても、スピアーはそれを見抜く才能を持っている。それがあのおじさんにも反応したということになる。

 

 確かにスピアーの言うことをレッドは否定はしない。自分もどこか怪しいと思っていたからだ。ただそれ以上のことがわからないのだ。洞窟で夜を過ごした時もスピアーは一人警戒していたし、ここまで来る間彼に向けて殺気を向けていた。

 

 もう少し意見がほしいと思い、レッドはリザードンをボールから出した。

 

「お前はどう思う、リザードン」

『スピアーと同じだ。オレは、あの男は不気味だと感じた。底が知れないと思った人間は始めてだ。レッドを除いてな』

『……』

「何かしてくれば反撃した。でも一筋縄ではいかなかったかもしれない、か」

 

 スピアーがそう言うならば本当なのかもしれない。自分が感じるものよりも、ポケモン達の方がより本能でそれを感じとるからだ。

 

『……』

「どうするかって? どうしようもないだろ。まあ、少し気になることは言っていたが」

 

 またな、と言っていたのがどうしても頭に残っている。親しい間柄でなければ使わないだろう。いや、使うかもしれないが普通は、「またどこかで」とか「機会があったまた」とか、そういう風に言うものだと思うからだ。

 

 あの言い方ではまるで、絶対に会うことを示唆しているようだ。

 

『で、これからどうするんだレッド』

 

 これ以上考えても仕方がないのか、リザードンが話題を変えた。

 

「ふたごじまに行こうと思う。タマムシに居た時にマサキから気になる話を聞いたから」

 

 マサキ曰く、最近ふたごじまを通った漁船の船乗りが、とても綺麗な鳥ポケモンを見たという話が出回っているらしい。カントーに生息する鳥ポケモンで綺麗なポケモンは、思いつく限りではパッと出てこない。ピジョットならカッコイイという感想が出てくるが、流石に綺麗という言葉は出てこない。ならばと、きっとそのポケモンは伝説かその類のポケモンに違いないとレッドは睨んだ。

 

『じゃあすぐに向かうのか?』

「まずはトキワのポケモンセンターに向かおう。ニビシティの博物館があんなことになったから、これを解析できる施設がないかマサキに聞いてからふたごじまに行こう」

 

 ポケットから琥珀を取り出す。彼が何者であろうと、これは関係ない。それに自ら差し出したものをあとから返せと言うような男には見えなかった。

 琥珀をポケットに戻してリザードンの背に乗ろうとすると、スピアーが珍しく提案してきた。

 

『……』

「え、久しぶりトキワの森だから駆けまわりたい? よし。じゃあ誰が一番速く森を抜けられるか競争な」

 

 そう言ってレッドはボールにいたピカチュウ、カビゴン、サンダーを出した。ボールの中とはいえ話は聞いていたのか、彼らはすでにレッドの合図を待っていた──一匹を除いて。

 

『これさぁ、おいらが一番不利じゃ──』

「はい、よいスタート」

『あんまりだぁあああ!』

 

 カビゴンの言葉など無視してレッドは合図をし、彼らは一斉に地面を蹴り、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

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