無残に破壊されている光景が広がっている。場所は見覚えがある。恐らくシルフカンパニーにあるどかのオフィスだった場所だろう。シルフカンパニーはすでにロケット団の手中にある、だから見覚えがあった。
これは未来に起こりうるビジョンの一つだ。私はそこで宙に浮きながら、多分3階分のフロアが戦闘によって繋がり、その真下を見下ろしている。目を凝らせば、原型をとどめていないオフィスチェアやテーブルがコンクリートに紛れていて、その上にあお向けで倒れている少年を見ている。
少年の周りは血まみれだった。少年が着る服も赤く染まっている。呼吸は……していない、心臓の鼓動も聞こえない。あれ程ロケット団を苦しめた少年は、呆気なく死んでしまった。当然だ、私の隣にいるアレがやったのだ。圧倒的な強さを持つコレに、あの少年もついには歯が立たなかった。
場面が変わる──場所は同じ。でも、辺り一面が燃えている。シルフカンパニーのビルを丸ごと焼却炉にしたかのように、目に広がるのは赤い光景。そこでも私は、ある一点を見つめている。そこには人だったようなものが見えた気がした。
場面が変わる──場所はまた同じ。今度は赤ではなく青色の世界だった。すべてが凍っている。シルフカンパニーは巨大な氷の塔になっていた。私は、また少年を見つめている。いや、だったものを見つめている。腕が取れた人形のように、凍り漬けにされて体が砕けてしまった少年だったものを見ていた。
場面が変わる──今度は違った。すでに目の前には少年の顔が映っていて、私も床に倒れていた。彼の目に光はない。そして、私の命の鼓動も少しずつ弱くなっていくのがわかる。どうやら相打ちだったらしい。
場面が変わる──少年が私を見下ろしていた。その姿はお世辞にも綺麗という言葉からとてもかけ離れたものだった。どうやら私は、負けたようだった。
場面が変わる──ここは、どこだろう。自然に囲まれたとても静かで心地よい場所のようだ。暖かい風が髪をなでる。私は、ここを知らない。視線の向こうには……少年がいた。彼は私を見て笑っていた。訳がわからない。
場面が変わる、変わる。何度も変わる。その映像はどれも似ているものばかり。でも、確かに違う所があって決して同じものはなかった。
映像が止まる。同時に夢から覚め──意識が覚醒する。
これらは、私の未来だ。私は稀にいる超能力者よりも、桁外れの超能力を持っている。そのため多くの人がたまに見るデジャヴや予知夢といったものが、いつしか未来予知のようなものに置き換わった。私が見る夢は正夢となる。
これらはこれから起きるであろう出来事。私が選んだ選択肢によって繋がる未来か、それともまた別の要因によって引き起こされたものか。確かにこの世に絶対はないのだろう。それでも、不確定要素に怯える必要はないだろう。
未来予知が視せた映像は、そのほとんどが私の勝利によって終わっている。私が敗北する割合はだいたい1割だろう。それでも1割もある。10回戦えば1回は負けることになる。だが、その1割を恐れていては話にならない。
壁に掛かっている時計を見る。数時間も眠っていたのか、すでにお昼を過ぎていた。恐らくこれから数時間もしない内にあの映像の内容が現実のものになるだろう。
しかし、本当にそれでいいのだろうか、そう訴えている私がいた。なぜだ、いや、たった一度だけ見たあの光景が原因だ。私が、あの少年と共にあることなんてまずあり得ない。だが、未来予知は数ある世界線の一つから視せる確実に起こるであろうビジョン。だからウソでない。まさに「あり得るもしれない」世界。
「……レッド」
少年の名を口に出す。あの少年と私との間に一体何があるというのか。何もないはずだ。私はロケット団で、彼は組織に歯向かう愚か者。それ以上でもそれ以下でもない。
なのになぜ、私は彼を殺すことを躊躇っているのだろうか。子供だからという情けや同情ではない、はずだ。遠目でしか見たことがなく直接会ったこともない少年に、私は何を想い抱いているというのだ。
なら確かめればいい。そう決断した私はベッドから降りる。そこでふと鏡に映る自分が目に入った。鏡の中の私の表情は、普段より柔らかったように見えた。
21番水道の上空を北に向けて黒いリザードンが飛んでいく。その背にマサラタウンのレッド、そう呼ばれている少年が乗っている。
グレン島からマサラタウンまではそこまで離れていない。それこそリザードンのような空を飛べるポケモンに乗っていけば、1時間とかからずに行き来できるだろう。
レッドからすれば久しぶりの帰省ということになるのだが、当の本人はそこまで深い意味はない。マサラタウンは自分の故郷であることは理解しているものの、まだ子供故に深く心に刻まれているほど特別な感情はない。
それでも旅をしてきて色んな街を見てきて思ったのは、マサラタウンはとてもいい所だということ。それは間違いないと、レッドは自信を持って言えるほどだった。コンクリートで出来た沢山のビルが並んでいる都会よりも、自然豊かな田舎の方がとてもよく思えたからだ。
そんな自然に囲まれたマサラタウンは、ある距離まで近づいてくると空から見ればすぐに見えてくる。
マサラタウンが見えると、リザードンがさらに速度を上げた。リザードンなりの気遣いか、ただ単に町が見えたから速度を上げただけなのか。レッドからすればどちらにせよ、速く町につけるからちょうどよかった。
海岸からすぐに草原を超えると、すぐにマサラタウンの入口が見えてくる。リザードンが少しずつ高度を下げならマサラタウンに入っていくと、レッドは少しして町に違和感を覚えた。
「変だ。誰もいない」
『ホントだ。人っ子ひとりいないな』
時刻はすでに午後の3時を過ぎていて、もう少しすれば夕方になる時間だろう。それでも誰も外に出ていないのはおかしい。大人どころ子供一人いない。
マサラタウンは田舎で人口も少ない。だからと言ってここまで人が出歩かないなんてことはなかったはずだ。
嫌な予感がする──そう感じた直後、目の前にあるオーキド研究所を見て、嫌な予感はすでに起きたあとだと気づいた。
オーキド研究所はマサラタウンの中で一番大きな建物になる。だから少し離れていても目立つのでよく見える。それがまるで内側から爆発でも起きたかのように天井はなく、壁も原型を留めてはいなかった。
レッドはリザードンをボールに戻し、研究所の入口だった場所に飛び降りた。
ふと、地面を見れば微かだが複数の足跡が残っているのに気づいた。大きさからして大人、それも人だけではなくポケモンらしき足跡もある。流石に足跡だけではポケモンを断定はできない。
研究所の中を進んでいく。空から見た時は爆発が起きたと思ったが、実際はここで戦闘が起きたらしい。となるとオーキド博士が目的なのだろうか。しかしだからと言ってここまでする理由なんて──壁に背中を付けてレッドは足を止めた。
人の気配……一人、いや二人か。
この先は研究所のメインルーム。多くの研究資料や機材が置いてあった場所だ。襲撃犯か、それとも町の生き残りか。そうは思いつつも、レッドの手にはスピアーのモンスターボールを構える。いくら壁がなくなったからと言えど、この狭い空間ならスピアーかピカチュウが適任だ。特にスピアーなら一瞬で相手の所まで行ける。
ゆっくりと壁に這いつくばりがら距離を縮めていく。近づくにつれて声が聞こえてくる。それはどこか聞き覚えのある声だった。気配を殺して顔だけ出す。そこには見知った背中が見えた。
「リーフ、それにグリーンも」
「レッド……? レッド!」
声をかけるとリーフがこちらに振り向き、レッドの姿を見た途端、涙を流しながら抱きついてきた。レッドは不気味ながらも彼女の肩を掴みながら訊いた。
「ど、どうしたんだよ、リーフ」
「だってぇ、だってぇ」
「泣いてちゃわからないだろ」
「だったらハッキリと言ってやろうか。レッド、お前とリーフが正義の味方の真似事をした結果がこれだ!」
初めて聞くグリーンの怒鳴り声を聞いた。しかしレッドにはその意味がわからない。だが、それにリーフが嚙みついた。
「なによっ、グリーンだってあいつらと関わってるじゃない! それに私は間違ってないもん!」
「それがこの有様だ! おじいちゃんだけじゃない。姉さんや町のみんなが連れ去られたんだぞ!」
「あいつらって……ロケット団か?」
「ああっ」
グリーンが睨みながら肯定する。
確かにこんなことをするのはロケット団ぐらしかいない。ただロケット団の仕業だとしても、なぜここまでのことをするのか、それがレッドにはわからなかった。
「ヤマブキシティに入れなくて、それでグリーンと一緒におじいちゃんに相談しようと、したの。そしたら、そしたら……こんなことになってて……」
「そう、なのか。でも、どうしてここまで」
「少なくともここを襲撃した原因はお前だよ、レッド。見ろ、これを」
そこには不自然なほどに綺麗な状態で残されているパソコンがあった。正確には研究所にあるポケモン預かりシステムと繋がっているパソコンだ。その画面は研究所が所有しているポケモンの一覧が表示されている。ただそのほとんどが残っている。それは、変だ。ポケモンの密輸をする程の組織なのに、研究所のポケモンを見逃すなんてあり得るのだろうか。見ているところが違ったのか「違う、これだ」、とグリーンが指でそれを教えてくれた。
それはイーブイで、俺のポケモンだった。そしてそこには名前だけが表示されていて、預かりシステムの中には存在していなかった。
「まさか、でもなんで」
あのイーブイは特別だ。ロケット団によって遺伝子を弄られてしまい、さらには謎の装置で自由に進化できる個体にされてしまった。てっきりロケット団はイーブイのことなんてもう諦めていたかと思っていた。けどそうではなかった。でも、なぜなんだ。
「思い当たる節があるようだな。少なくとも研究所が襲われたのはお前が原因だ」
「そんな風に言わなくてもいいでしょ!」
「だが事実だ」
「イーブイを取り返しに来た理由はわからなくもない。けど、なんで博士だけじゃなくて町のみんなを連れ去ったんだ? これじゃまるで……」
「ああそうだ。町のみんなは人質あるいは……お前を釣るための餌だ。いや、俺達かもな」
冷静になったのか、グリーンはまるで自分を責めているような言い方だった。
「でも、みんなどこに行ったの?」
「ヤマブキシティだ」
「どうしてそう言い切れるんだ、レッド」
「あそこにあるシルフカンパニー。そこがあいつらの本拠地、らしい。だから町のみんなが捕らえられるとしたらあそこだ」
「確証はあるんだろうな」
「ああ」
目つきをガラリと変えたグリーンが荒々しく聞く。レッドは肯定しながら、「元ロケット団からの情報だよ」と言うと、グリーンはリザードンを出してその背に乗った。
「いいか、レッド。マサラとは白を意味する。マサラタウンは世界で一番きれいな場所なんだ。それをこうまで汚されただけではなく、町のみんなを連れ去った。そんなことをされれば、オレだって冷静じゃあいられない。なのにお前は、まるで他人事のようにオレには見えるぜ」
「そんなことは……」
「どうだかな。お前には家族がいない。守りたい大切な人もいない。だからそんなに冷静でいられるんだっ」
言うだけ言ってグリーンはリザードンと共に空高く飛んで行った。場所はヤマブキシティ。考える必要もない。
すると残されたリーフが言ってきた。
「ごめんね、レッド。グリーンが酷いこと言って。でもいまは冷静じゃないから、あんなことを言っちゃったんだと思う」
「いいんだ。本当のこと、かもしれないし」
レッドは首を横に振って答えた。
グリーンの言っていることは、本当だと思う。二人のように家族はいないし、守りたいと思える大切な人もいない。なによりマサラタウンが汚されても、真っ先にグリーンのような感情は出てこなかった。
それでもマサラタウンは好きなのは本当。それをリーフにも言うと、彼女は笑顔で頷いた。
「レッドは口には出さないし顔にも出さないけど、私は知ってるから。レッドがマサラタウンのことが好きだって。幼馴染だからわかるもん」
「ありがとう、リーフ」
「えへへ。でも、どうしよう。私、空を飛べるポケモン持ってないから、ヤマブキシティまでどうやって行こう……」
笑顔から一転。頭を抱えながらリーフは困った顔をしながら、グリーンが飛んで行った空を見上げて言った。
そこでレッドは腰についてるプテラが入ったモンスターボールをリーフに渡した。
「こいつはリーフに任せるよ」
「任せるって……え、これってプテラ⁉ ど、どこで捕まえたのよ!」
プテラのことを知っているが故にリーフの反応はとてもオーバーリアクションだった。プテラはまず野生で見つけることはほとんどなく、化石から復元されることが多いからだ。それを知っているリーフだからこそ、なんでプテラをレッドが持っていることに驚いているようだった。
ただその経緯を話すとまた面倒になると思ったのか、レッドは適当に誤魔化した。
「いいからプテラに乗ってグリーンを追えって。俺も後から行くから」
「わかった。ありがとうね、レッド。またあとで」
プテラに乗ってヤマブキシティへと向かうリーフを見送る。研究所に一人残ったレッドは、一度大きく深呼吸して一呼吸置いてから虚空に向けて言った。
「いるんだろ。出てこいよ」
「──ふふっ。やはりお前は気づくか」
「ただの直感だけどな」
そう言いながら背後を振り向くと、そこには長身で髪の長い女が立っていた。そしてその場にバリアーポケモンと呼ばれているバリヤードが、パントマイムのような動きをしながら控えていた。
レッドはこの女を知らない。知らないのだが、いい人間ではないということは雰囲気で察した。むしろこのタイミングでとなると、ロケット団側の人間だと考える方が間違いないだろう。
「マジックミラーというものがあるだろう。このバリヤードが張ったバリアがそれに近いもので、私が姿を消せていたのはそれに似たようなものだよ」
解説を頼んでもいないのに勝手に教えてくれた。もしかしていい人間なのかもしれないとレッドはちょっぴり思った。
「あんた、ロケット団だな。それも下っ端じゃない、もっと上の立場の」
「ああ、お前からしたらこれが初対面だものな。改めて名乗ろうか。ロケット団幹部のナツメだ。それとヤマブキジムのジムリーダーであり、ご覧の通りの超能力者だよ」
ナツメが右手を振ると、崩れた天井あるいは壁の瓦礫が勝手に持ち上がる。超能力者、彼女の場合はサイキッカーというのだろうか。
それを見て、脳裏にカツラの言葉を思い出す。ナツメの強さはレベルが違う、そう言っていた。確かに軽々とあの瓦礫を浮かせた所を見るに相当の実力者なのだろう。
強者。まさに自分が求めた人物が目の前にいるのは内心嬉しくてたまらない。下手をすると一つのミスが死に繋がる。これは、生まれて初めての体験だった。キョウやマチスとはまた違ったベクトルの強さで、対人戦において個の能力としては目の前のナツメが一番なのは間違い。
しかし何故このタイミングなんだ。仕留めようと思えばいつでもできたはず。それこそ自慢の能力で一捻りすればいいだけのはず。なのにこうして素直に堂々と現れた、それがレッドには不可解だった。
「で、そのナツメが何の用だ。ここで俺を殺すのか」
「いや、ここではない」
「どういう意味だ」
「これは、自分でもおかしなことをしているという自覚はあるさ。しかしだ。どういう訳か、お前と私には妙な縁があるらしい」
ナツメはそう言いながら正面まで近づいてくると、ジッとレッドを、彼の瞳を覗き込む。
「えにし……?」
「これは忠告になるのだろうな。あるいは私なりの慈悲というやつだ──レッド、お前はこれからヤマブキシティ、ロケット団の拠点であるシルフカンパニーに向かう。そこでお前は、死ぬ。だからここで手を引き、我々と関わらずにいれば……生きられるだろう」
それは予想外だった。自分が死ぬ、そう宣告されたことよりも、目の前の女が自分に恩情を与えていることが。
わからない。なぜ、会ったばかりの自分にそこまで情けをかけるのか。益々ナツメという女が理解できない。いや、理解しようとは思わないが。
「俺は、お前に殺されるのか」
「そうだ」
「それで俺が手を引くとでも思っているのか?」
「引かないだろうな。お前がレッドならば」
言っていることが矛盾しているし、何よりこの女は自分をどうしたいのだ。生かしたいのか、それともその手で殺したいのか、レッドにはわからない。
「じゃあ諦めるんだな」
「の、ようだ」
「わからない。結局あんたはどうしたいんだ。殺したければここで殺せばいいだろっ」
「私にもわからない。だからこうして直接お前の元にやってきた。なあ、教えくれないか。お前にとって私はなんだ?」
「敵以外に何があるって言うんだよ。あんたおかしいよ」
理解できないことだらけで不機嫌になっているのか、レッドの口調が荒くなってきた。その当人は最初と変わらず涼しい顔をしている。
すると腕を組みこちらをジッとまた見つめてくると、何かを考え込みはじめながらぶつぶつと何かを言っているのが聞こえた。だが本当に小さくて聞き取れなかった。
「……お前は死ぬ。それなのにやってくるのか?」
「知るか。それに死ぬ死ぬうるせえんだよ。これから乗り込んでやるから首を洗って待ってろ」
それはもうヤケクソに近かった。意味がわからず、話が通じているようで通じていないような会話を続けてすべてを見透かされていて、また上から目線の物言いにレッドは本当に苛立っていた。
ただそれが通じたのか、ナツメはレッドに背を向けて歩き出した。
「──なぜあの私はこいつと一緒にいたのだ」
テレポートで消える直前、それだけはハッキリと聞こえた。
苛立ちの現況が消えたことでレッドは少しだけ平静を取り戻し、グリーンとリーフにかなり遅れてヤマブキシティへと向かった。
あのナツメが待つヤマブキへと。
「ちょっと。あんたもうちょっと頭を使ったらどうなの?」
「だったらお前の悪知恵でなんとかしてみろ」
「ちょっと二人ともやめてよ。ここで争ったって何も解決しないでしょ」
仲裁に入るとグリーンとブルーはそっぽを向いて再び各々で動き始める。それを見てリーフは何度目かわからないため息をついた。
レッドから譲り受けたプテラに乗ってマサラタウンからヤマブキシティにたどり着いたリーフ。そこには先行して来ていたリザードンに乗ったグリーンに、プリンで浮かんでいたブルーがヤマブキシティ全体に張られているバリアに手こずっていた。
グリーンは最初と同じようにリザードンでバリアを無理やり破ろうとしているが、元々それができなくてマサラタウンに戻ったものの結局は振り出しに戻っていた。今はゴルダックを使って町の内部をポケモン図鑑を通して見ていた。
一方のブルーは、以前見たことあるシルフスコープとやらで街を観察していた。同時にグリーンが街のバリアを張っているのがシルフカンパニー前にいるバリヤードが原因だと言うと、「そんなこと知ってるわよ。一々言わなくていいから」と、煽るような発言をするものだから、先程のように口論になってはリーフが仲裁していた。
対してリーフはと言えば、二人のように何かをしたくてもできないでいた。理由はグリーンのポケモンの中で一番レベルが高いであろうリザードンの攻撃がバリアを破れない時点で、残念ながら白旗を上げざるを得なかったからだ。
自分の手持ちポケモンが弱いわけではなく、むしろグリーンとまではいかないまでもそれなりに仕上がっている自信はあるが、この状況を打開できるポケモンがいないのだと口に出さないで言い訳をしたくなる。
今の手持ちはニョロボン、フシギバナ、ギャラドス、キュウコン、ハクリュー、イーブイ、そしてプテラである。元々プテラが加わった時点でイーブイのブイブイを預けるつもりだったリーフだったが、状況が状況なだけに少しでも戦力は必要だった。
もしもハクリューがカイリューに進化していたら、グリーンのリザードンと力を合わせればなんとかなったかもしれない。そうリーフはないものねだりしても仕方がないと首を横に振る。
しかしどうしたものか。街を覆っている外壁に蓋をするようにバリアは張られている。それも一体のバリヤードでだ。これだけでかなりのレベルの個体だということがわかるし、東西南北にあるゲートすべてが通行禁止。さらにブルーが言うには街に外出禁止令も出ている。そしてシルフカンパニーを中心にロケット団の戦闘員が配置されている。レッドが言うようにあそこがロケット団の本拠地で間違いない。
場所もわかっているし、準備も整っているのに足止めを食らってなにもできない。グリーンが益々苛立つのもわかる。
一応方法がないわけではない──ないわけではないのだが、流石にテロリストのような真似はできないとリーフは頭を抱える。
「なにやってんだ、お前ら」
そんな時に背後から知っている声がして振り向くと、気配もなくレッドが後ろに立っていた。
「あ、レッド。実は──」
「バリヤードが作ったバリアの所為でヤマブキシティに入れないのよ。そこのハンサムくんのポケモンでも突破できないくらい強固でね。あと目の前にあるゲートは当然通行禁止」
「ふん」
「……というわけ」
「お前らバカなの?」
『は?』
レッドの言葉に三人の声が思わず揃う。グリーンは苛立っていたのあってさらにそれが顔に出ていて、ブルーに至っては「あんたに言われたくないわよ」みたいな顔をしていて、かく言うリーフもその通りであった。
そのレッドは三人の視線など気にも留めずにヤマブキシティの外壁の前まで歩いていく。壁からだいたい10メートルは離れていない距離だろうか。腰についているボールを一つ投げるとカビゴンが現れた。カビゴンは四股を踏むと、そのまま相撲のように手を地面につける。
「はっけよい、のこった!」
──カビゴンのすてみタックル! 壁に穴が空いた!
てっきり張り手をするかと思えば、そのまま壁に向かってタックルをするだけだった。壁の向こう側に行ったカビゴンは、体についてコンクリートの破片や埃を払うと外側に戻ってボールに戻っていた。
そしてレッドはこちらに顔だけ向けて言う。
「俺が外のやつらを引きつけるから、その間にシルフカンパニーに行け。じゃ、生きてたらまた会おうぜ」
リーフ達が呆気に取られていると、すぐに街の中から轟音が外にまで聞こえてきた。どうやらすでに始まったらしい。
「あいつはバカなのか」
「バカだからできるんでしょ」
「それには同意する」
「それじゃ遠慮なく行きましょうかね」
「あ、ちょっと待ってよ!」
ブルーの言葉に続くようにグリーンも駆け出す。それに少し遅れてリーフも走り出した。
二人を追っている中でリーフには一つ気掛かりなことがあった。レッドのあの言い方は、まるでこれから自分が死ぬことを知っているような言い方だった。
いや、そんなはずはない。あのレッドがそう簡単に死ぬものか。それよりもおじいちゃんとお姉ちゃんに街のみんなを助けるんだ、気持ちを切り替えるためにリーフはレッドの言葉を今は忘れることにした。