おい、バトルしろよR   作:ししゃも丸

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別れ

 

 

「まさか本当にロケット団を倒すとは……」

 

 突然舞い込んできたロケット団が解散したというニュースはさすがにカツラも予想だにしなかった。

 グレン島でレッドと別れたあと、ミュウツーを探すために彼とは少し遅れて島を出た。

 その際とくに意識したわけではないが、持ち運べる小さなラジオも一緒に持って行った。べつにこれでミュウツーを探そうと思ったわけではない。

 ただ何となく、気まぐれにすぎなかった。

 それから本土で一夜を過ごし、これまたふとラジオをつけたらそのニュースが流れてきたのだ。

 

『……多くのロケット団員を逮捕したとヤマブキ警察から発表がありました。また情報によれば幹部は倒されたという情報もありますが、幹部逮捕に関しての情報は正式に発表は──』

 

 世間にとっていい報せなのだと素直に思った。

 ただ幹部……あの三人を逮捕するのは至難の技であり、表向きはジムリーダーということもあってまず捕まることはないだろう。戦闘員達がそのことを告白することもない。脱走した自分が言うのもおかしな話ではあるが、ロケット団の戦闘員やその構成員達の忠誠心は異常でカルト集団と言ってもいいだろう。

 それでもこれは事実上ロケット団の敗北であり組織の解散とも見て取れる。警察内部にもロケット団の工作員、協力者、信者もいるが今回ばかりはそう報じずには居られないだろう。

 

「レッド、キミは本当にすごいな」

 

 たった10歳の少年がロケット団を倒したということにも驚きだが、何よりそれを成し遂げた彼の力はすさまじいものだ。

 そもそも世間の10歳の子供はそんなことできるはずがない。まあ当然のことだが。だが彼はそれをしてしまった。世界中の子供が10歳を迎えると旅に出るのはいまでは一般的なことだ。多くの少年少女はジム巡りをしながら技を磨き、ポケモンと共に強くなるだろうし、その中には将来ジムリーダーになるような逸材もいるだろう。

 

 それでもレッドと同じことができる子供などそう簡単にいるものではない。いや、いる方がおかしいのだろう。

 

「ロケット団が弱いのではなく彼が強いのだ。レッドはそんなこと考えてすらいないだろうな」

 

 恐らく本人は自覚すらしていない、とカツラは彼の性格から判断しているが、ロケット団の幹部達を含めその戦闘員はそれなりの手練れだ(もちろん差はある)。はっきり言って対等に戦える人間はジムリーダーぐらいだろう。その門下生ですら手こずる。それほどにロケット団という組織は巨大で強かったのだ。

 

 だがそれでも……あのサカキを倒せたとはカツラは思っていなかった。

 何度も面識はある。しかし戦ったことはない。悪の道に落ちた人間だが腐ってもジムリーダーでもあるからこそわかるのだ。

 

「サカキは強い。サカキが倒れない限り組織は不滅だ」

 

 サカキを倒してこそ真にロケット団を倒したと言える。

 それはレッドも気づいているだろう。戦いはまだ終わっていないのだと。

 

「人のことよりまずは自分のことか」

 

 レッドのことは気になる。だが何よりも今は自分のことに集中しなければ。

 カツラは右腕の袖をまくる。それはなんとも形容しがたいものだった。

 それは人の皮膚なのであろう。うねうねと動くことをまず目を瞑れば、だが。まるで何か意思を持った何かに寄生されているように見えることだろう。

 

 そう。これは意思を持っている。

 

 ロケット団を脱走するきっかけとなったのは、自分が生み出したミュウツーが施設を破壊し逃げ出したのがはじまりだ。そのミュウツーを探すべく、残されていたミュウツーの細胞を自らの右腕に投与した。

 その結果がこれだ。禁忌を犯した自分に相応しい姿と言える。

 

 ミュウツー細胞は本体とリンクしていることもあり彼の感情によく反応する。そして本体を求めているのか、ミュウツーがいる場所がなんとなくわかる。

 だがそれは逆も同じで、向こうもこちらの存在あるいは感情を感じ取っているし、自分がいまいる場所も普通の人間である自分とは違ってミュウツーは把握しているだろう。

 

 だが不思議なことにミュウツーは動いていない。理由はわからない。寝ているとも思えないが、こちらを誘うための罠とも考えられる。

 ミュウツーは人間を憎んでいるだろう。特に自分を生み出した私自身を。

 

「考えても仕方がない、か」

 

 いまあれこれ考えても意味はない。まずはミュウツーを見つけてからだ。

 

 

 

 

『待っていたぞ』

 

 ハナダシティ郊外で探索していた時にミュウツーは突然現れた。

 カツラは突然のことに呆気にとられた。突然現れたこともそうだが、それ以上にミュウツーから殺意といった怒りの感情が向けられていないということだった。

 いや、ないわけでないが彼はとても落ち着いてるのをミュウツー細胞を通して感じ取れた。

 だからカツラは尋ねた。

 

「私を殺さないのか」

『……たしかに最初そう考えていたし否定はしない。その衝動がいまもないとは言わない。わたしは生まれたいと願ったわけではない。わたしはわたしになりたいと望んだわけではない。お前たち……いや、お前の欲望によって生み出された』

 

 エスパーポケモンだからだろうか。直接言葉を脳に送っているのだとすぐにわかった。ミュウツーがなせる業というべきか、それとも右腕の細胞から人の言葉を理解したのか。研究者ゆえにそういった考えがすぐに脳を駆け巡ってしまう。

 

「ではなぜ、私の前に現れた。こんなこと私に言う資格はないが、お前はもう自由の身だ。お前を追っていたロケット団はほぼ壊滅した。ならばカントーにとどまる必要はないはずだ」

『お前の言いたいことは、わかる。たしかにその通りだろう。だが、会いたい人間がいる』

 

 その言葉に驚きを隠せなかった。この世界に私以上に執着するような人間がいるということにカツラは少し動揺した。

 だからカツラは尋ねた。その人間の名前を。

 

「それは誰だ」

『……お前の記憶にもいた男、そう、レッド。レッドにわたしは会いたい』

 

 少し引っかかる言い方をした。ミュウツー細胞を通して自分の記憶を見たのだと思うが、『にも』とミュウツーは言った。どこかでレッドを見たのだろうか。

 いや、レッドは見ていた。タマムシシティの研究所でミュウツーを。彼がそう言っていたのをカツラを思い出す。

 だが、時系列的にミュウツーはまだ目覚めていなかったはずだが。

 

「なぜレッドに会いたい?」

『戦いたい』

「どうして」

『ヤマブキシティで戦うレッドを遠くから見ていた。あいつは強い。たったそれだけのことだが、わたしはあいつと戦ってみたいと思ってしまった。わたしがポケモンだからなのかはわからない。戦うことで何かを得られるとは思っていない。それでもわたしは、レッドと戦いたい』

「──わかった。レッドをお前の元へ連れてこよう」

『感謝する』

 

 まさかお礼を言われると思わず反射的に声を出してしまう。

 

「やめてくれ。私は……お前にお礼を言われるような人間ではない。むしろその逆だ。ここに来るまで私は、お前が望むならこの命を差し出してもいいと決めていた。その逆なら命をかけてお前を止めるつもりだった。だから……感謝などしないでくれ」

『わかった』

 

 それ以外のことをミュウツーは口にすることはなかった。ミュウツー細胞を通してカツラの感情を感じ取ったのだろう。

 

 ──あんたは自分を罰してほしいだけだろ。

 

 レッドの言葉が脳裏に浮かぶ。

 その通りだ。ジムリーダーでありながら悪に墜ち、関係のない人々やポケモンたちをたくさん傷つけ──禁忌を犯した。

 許されるはずがない。許されたいとも……いや許されたかった。誰かに罰せられて、その償いをすることで救われたいと、そんな都合のいいことを思っていた。

 

 だから少しでも正しい行動を、ジムリーダーとして成すべきことをしようと決意した。

 そしてミュウツーがそれで少しでも何かの助けになるなら、それは私がしなければならないのだ。

 

 

 

 

 ヤマブキシティ郊外の草原。

 そこにレッドとサンダーが向かい合い、その少し後ろでファイヤーとフリーザーが二人を見守っていた。

 

「じゃあ……これでお別れだな、サンダー」

『そうだな』

 

 レッドは寂しそうにサンダーの頭を撫でると、サンダーもそれを名残惜しそうな顔をしていた。

 

 ──別れ。

 

 それは突然やってくるものだ。それが今回不運にもレッドとサンダーにも訪れてしまっただけの話。

 最初に言い出したのはレッドだった。

 強制的とはいえ、ロケット団によってサンダーはファイヤー、フリーザーと合体して『サ・ファイ・ザー』という存在になってしまった。そのことを顧みて、改めて伝説のポケモンは人が手にするものではない、共にいれば今回のように大勢の人やポケモンに迷惑をかけてしまうと考えてしまった。

 同時にサンダーも自身の意思に関係なくそのような存在になってしまい、さらには主であるレッドを傷つけたことによる罪悪感からか、彼からその提案を受けても大きく動揺はせず、むしろ自分もだと同意した。

 

「俺がもっと強ければいいけど、まあこの有様だしな」

 

 マサラ生まれだけあってかその治癒能力は高く、いまではほとんど傷は目立っていない。それでもまだ全身に包帯は巻かれているが。

 その姿を見てサンダーはくすりと笑う。当然だろう。普通の人間ならここに立っていないのだから。

 

『時がくれば、また一緒にいられるさ」

「そう、だな。それがいつなのかはわらかないけど。ところで、三匹で行動するのか?」

 

 体を横に向けながらサンダーの後ろにいる二匹を見る。ファイヤーはこれといって普通な感じに見るのだが、フリーザーだけなんとも言えない様子で、言葉にするとにらみつけられている感じだろうか。

 フリーザーとはふたご島、グレン島と相まみえたものの、そこまで遺恨になるようなことはしていないはずなのだが、当のフリーザーはそうではないようだった。

 人間である自分に負かされたからだろうか。それぐらいしかレッドには思い当たる節がなかった。

 

『まさか。別におれたちは仲がいいわけじゃないし』

 

 意外であった。伝説の三鳥と言われているから、てっきり家族みたいな近しい間柄だと勝手に思っていたのだが、どうやらその逆らしい。

 

「ま、相性悪そうだしな」

『だろ。レッドこそ平気か? お前はよく無茶をするからさ』

「心配ご無用──と言いたいけど、俺はまだまだ未熟だから。とりあえず用事が片付いたら……そうだな、また旅をしながら自分を鍛えるよ」

『だな』

 

 サンダーは深く訊くことはなかった。

 レッドの言う用事とは、ロケット団の首領であるサカキと戦うこと。それが唯一先の戦いで果たせなかった心残りでもある。

 その戦いに自分も居てやれないのが、サンダーにとっても心残りだった。

 

「じゃあ元気でな」

『レッドも』

 

 レッドは再びサンダーの体を撫でながら別れを告げ、サンダーは金色の翼を大きく広げて空高く舞い上がる。それに合わせるように後ろにいたファイヤーとフリーザーも飛び立つ。

 三匹は最後にレッドを見つめる。時間は僅か数秒。まるでレッドの姿を目に焼き付けるようにも見える。

 そしてレッドに背を向けて、三匹はそれぞれ別の方向へと飛び立っていった。

 

 彼らが見えなくなると、イーブイのモンスターボールがカタカタと動いたのでボールから出す。

 イーブイはボールから出ると、レッドの肩に飛び乗って言った。

 

『これからどうするのレッド?』

「サカキを探す。あいつを倒さなきゃ、色々と終われないから。それが終わったら、さっきも言ったけど、また旅をするさ」

『ボクの所為でレッドの旅を邪魔したくはないよ』

「俺がしたいからそうするんだ。お前が気にする必要ないよ」

『……ありがとう、レッド』

 

 複雑な表情をするイーブイを見て、レッドは彼の頭を撫でる。

 旅の目的はイーブイのためだった。ロケット団によって再び何かの実験の被害を受けたイーブイの体は、目に見えない所で酷く傷ついていた。

 元々イーブイの体を治すためにオーキド博士の所に預けていた。博士曰く、その時すでにイーブイの体──DNAは酷い状態だったらしい。知らない単語ばかりを並べて説明されたが、簡単に言うとイーブイのDNAはとても不安定だと言われた。

 現状イーブイには3つの進化先が存在するが、その進化先の因子がすでにイーブイのDNAに存在しており、そのDNAが原因でイーブイの体を蝕んでいるとのことだった。

 ロケット団はそれを利用して、制御装置を使ってイーブイの進化を自由自在にコントロールしようとする計画だった。ただその制御装置は半分失敗作で、実際には効果こそ成功していたが自在に進化することはできなかった。

 

 ロケット団に拉致された所為でイーブイのDNAはまた少し変化、あるいは傷ついたらしく、いまは落ち着いているがいつまた不安定になるかわからないとも博士は言っていた。

 

「旅の中で、お前の体を治す方法があればいいんだけど」

『うん……」

 

 沈うつな表情を浮かべながらイーブイは答えた。

 旅をする中で、イーブイの治療法が簡単に見つかるとはレッドもイーブイも思っていない。オーキド博士の元で治療ができないのなら、他の所で治せるとは思っていないからだ。

 なによりすでに答えは知っている。

 

 博士は言っていた。「イーブイを進化させれば──」と。進化先であるブースター、サンダース、シャワーズになれば、DNAがそのどれかに固定されることで問題は解決すると。

 だが、レッドは即断することはできなかった。しようと思えばできたが、何よりイーブイ自身がそれをまだ望んでいなかったからだ。

 

 イーブイを悩ませているのは、この能力があればレッドの力になれると思っていることだ。

 本来であればイーブイは自由自在に進化することはできない。それがロケット団の実験によるものだとはいえ、進化の石を必要とせず進化できるのは誰にもできない強い能力だ。

 レッドの傍で、この先旅をしながら戦い続けるなら、この力を捨てるのは惜しいとイーブイは思ってしまっている。

 だが悩んでいる間にも少しずつ体は壊れていく。

 

 最悪の事態になるようならレッドは決断をするつもりでいる。それまではイーブイの答えを待つ。

 例えそれが未熟と言われようとも。

 

「まずはサカキを探すか。けど、その前に寄り道しよう」

『どこにいくの?』

「なんとなく北。とりあえずハナダに向かう」

『ハナダに寄るところなんてあるの?』

「んーこればかりは勘ってやつかな」

『わかった。ぼくらはレッドが行くところについていくだけだよ』

「ありがとう。じゃあ行くか」

『うん』

 

 先導するかのようにイーブイが肩から飛び降りて先頭を歩き、レッドはそれに続く。

 この先何かが待っているような気がする。それがいいことなのか、それとも悪いことなのかはわからないが、とりあえず自分の直感を信じるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

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