終着点への道   作:月島柊

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〈月島柊×瀬名紬希〉

 

 神奈川県横浜市。

高校3年の俺は就職先も決まり、あとは出席数だけ足りればいい感じだ。

高校といえば、やはり青春だろう。普通はそうだ。ただ、俺には青春の「せ」の字もないほどに青春とはかけ離れた存在だった。

 

「今度の電車は、8両編成、エアポート急行金沢文庫行きです」

 

通学途中の俺は、電車に乗っていつも通り高校へ。

7:31発エアポート急行金沢文庫行きは、途中日ノ出町、井土ヶ谷、弘明寺、上大岡、杉田、金沢文庫に停車する。何も追い越さないし、上大岡で特急三崎口行きに抜かれる。以外と不便。

ちなみに、目的地は杉田。魔法科高校で、上の地位。

俺が通っている高校は、魔法の実力で地位が決まる。俺は学校内1番上の地位で、「秀才」とか「優等生」などと呼ばれている。嬉しくはないが。

 

 杉田には7:51。徒歩6分の位置にあり、根岸線新杉田駅からも近い。所要時間は京急が徒歩も含めおよそ26分、根岸線が徒歩も含めおよそ25分。そこまで変わらない。しかも、根岸線は半分の電車が1つ手前の磯子で折り返すため、京急の方が便利。

 

「おはよう、柊」

 

俺の友達の影山魁だ。高校1年の頃からの友達で、結構一緒に居ることが多い。あと、彼女がいない同士。

 

「おはよう、魁」

 

俺たちは学校内へ入り、授業を受けた。

 

 帰り。魁に誘われ、俺は金沢文庫にある喫茶店へ。結構美味しいらしく、魁はよく来てるらしい。あと、魁が来ている理由が……

 

「琴音ちゃん、いつもの、こいつにも」

 

琴音、という名前の女の子。ボブヘアの、多分俺たちより年下。

 

「それで、目的はあの子か」

「んな訳あるか。あいつはマスターの娘だぞ?」

 

違うのか。

 

「じゃあ、コーヒーが目的か」

「そうだ。ここのコーヒー美味いんだよ」

 

結構かわいかったけどな。

 

「って、美味いな、これ」

「だろ?」

 

俺はコーヒーを口に入れ、喫茶店に30分程度滞在した。

 

 俺と魁は19時になって、ようやく家に帰った。魁はこの近くなため、俺とは駅前で別れた。

 

「じゃあな。また明日」

「あぁ。じゃあな」

 

俺は19:09発快特青砥行きで横浜へ。いつもはエアポート急行だからか、速度が速いのは新鮮だ。

快特青砥行きは、途中上大岡、横浜のたった2駅。19:26に到着する。

 

「京急をご利用下さいましてありがとうございます。都営線直通快特青砥行きです。次は上大岡です」

 

電車は上大岡に着くと、多くの乗客を乗せて出発した。ただ、これでもそこまで多くない。俺の号車は席が全て埋まる程度で、結構空いている。

 

「都営線直通快特青砥行きです。次は横浜です」

 

放送が入り、俺は少し降りる準備をした。

外の景色はみるみるうちに都会になってくる。この景色を見てるのも結構好きだったりする。

 

「まもなく、横浜、横浜です。JR線、東急東横線、みなとみらい線、相鉄線、ブルーラインご利用のお客様お乗り換えです」

 

横浜に到着すると、俺は京浜東北線乗り換えのために階段を下った。何もない平凡な日常。

 

「ねぇ、今度そっち行かね?」

「次って何分だっけ」

「ねぇ、今何時?」

 

駅に響く声が気になってしまう。俺の悪い癖だ。そんな中で、普通じゃない会話も聞こえてくる。

 

「ちょっとでいいからさ、な?」

「けど、帰らないと……」

「いいからいいから。すぐ終わるからよ」

 

圧倒的ナンパだよな。普通の会話じゃないことは確実だ。

俺は進路を変え、その声の方向に進んでいった。

 

「こっちこっち」

 

声が聞こえる。こっちであってるな。

 

「嫌です!」

 

そんな声が聞こえると、前の方からボブヘアの子が走ってくる。俺の学校と同じ制服。あの喫茶店の子じゃない。別の子だ。

 

「きみ、こっち」

 

俺は女の子の手を取り、急いで走った。

今は19:29。今1番早く発車する電車は……多分19:31発南浦和行きと19:31発国府津行き。近いのは南浦和行きだし……

俺は京浜東北線ホームの4番線の階段を駆け上がった。

 

「えっ、あの!」

 

19:31発南浦和行きがホームに入ってくる。俺と女の子は電車に乗り込んだ。階段から少し後ろに行った号車に乗り、撒いた。

19:31、時刻通り出発。

 

「ごめんね。急で驚いただろ」

「いえ……あ、ありがとうございます」

「いや、いいよ」

 

俺は外を眺める。多分話すことなんかもうないんだろうな。

 

「あの、杉田の魔法科高校ですか」

「え?まぁ」

「あの、そこの高校の2年なんですけど」

「あ、そうなんだ。じゃ、俺ここだから」

 

19:35、東神奈川に到着。その2年生の子はそのまま京浜東北線に乗っていった。いいのかな、乗っていって。無理矢理乗せちゃった感じだったけど。

19:38、向かい側から横浜線八王子行きが出発する。俺の最寄り駅である相模大野まではいつもこれで行っている。

さっきの子、会ったことなかったな。

 

 翌朝、少し気分を変え、町田6:40発の当駅始発に乗って東神奈川へ、東神奈川から京急東神奈川まで歩いて移動し、京急東神奈川からエアポート急行で杉田まで。乗り換えは少ないが、少し面倒。

東神奈川までは座って通学でき、京急東神奈川からもガラガラで、反対方向と比べるとどれだけ空いているか分かる。

 

「あれ、昨日の……」

 

声をかけられた。女の子が俺の横に座っていて、少し緊張する。

 

「あ、どうも」

「おはようございます。同じ学校ですよね」

「そうだね」

 

会話がすぐに途絶える。なんだろう、この空気感。

 

「いつもこの電車なんですか?」

「いや、いつもはもっと遅い電車」

「何時の電車ですか?」

 

結構聞いてくるな。

 

「この1本後のエアポート急行」

「そうなんですね」

 

2人だけで話すと、無性に周りが気になってくる。というか、女子と2人で話すことがないからか、緊張する。

 

「あの……具合悪いですか?」

「大丈夫だよ。平気」

 

違う意味で大丈夫じゃないけど。

 

 杉田には7:39。後輩の子とは正門の前で分かれ、俺は教室に向かった。

 

「柊くん、ちょっといい?」

 

先生だ。

 

「なんですか。今着いたばっかなんですけど」

「これを2年の瀬名に届けてほしくて」

 

瀬名って誰だよ。

 

「何組ですか」

「B組。お願いね」

 

先生はそれだけ言って行ってしまった。だれもやるなんて言ってないが。まぁ、行くしかないか。

俺は2年B組に書類を届けに行った。

2年B組は俺の教室の真下。俺は前のドアから、近くの人に聞いた。

 

「瀬名さんっているかな」

「紬希ですか。紬希!お客さん!」

 

その子は瀬名さんを呼んだ。瀬名さんはボブヘアの髪を揺らしてこっちに来る。

 

「って、先輩!?」

「あぁ、瀬名さんって君だったんだ」

 

俺は書類を瀬名さんの前に出して言った。あの横浜駅で会った子だ。今日の朝一緒だったのもこの子だ。

 

「あ、これ……」

「俺は知らん。先生から渡された」

「ありがとうございます。あ、先輩。帰りって暇ですか」

 

一緒に帰るとか言い出すんじゃないだろうな。

 

「暇だけど」

「一緒に帰らないですか?」

 

やっぱり言ってきた。

 

「付き合ってるわけじゃないですし」

「だったらいいよ。帰り何時になる」

 

俺は結構帰りが早いし、瀬名さんは部活もあるはずだ。

 

「今日は7時くらいで帰れますよ」

「じゃあ、駅で待ってるから」

 

俺はそう言って教室に戻った。

彼女は作らない。作りたくない。あんな面倒な関係、もうごめんだ。

 

 19:00、杉田駅に俺は到着し、瀬名さんを待った。

19時台の杉田駅品川方面は1時間に11本発着する。普通電車が6本、エアポート急行5本。上大岡では快特6本が増え、17本になる。

19:08、瀬名さんが手を擦って歩いてきた。

 

「お待たせしました。行きましょ」

「あ、待って」

 

俺は瀬名さんを止めた。

 

「どうしたんですか?」

「あの、ご両親っている?」

「海外に仕事行ってます。先輩は?」

「俺の両親も。一人暮らしって不安か?」

「はい」

 

だったら頼みがあった。俺に足りないものを補って貰おうとした。

 

「家来てくんね?」

「はい?」

 

瀬名さんは困惑した表情で言った。

 

「お金はあるのに料理が作れない俺。君は一人暮らしが不安。な、winwinな関係だろう?」

 

俺は瀬名さんに言った。瀬名さんは最初は不審そうに見ていた。

 

「別に嫌だったらやめてもらって構わない。無理を言うつもりはないから」

 

俺がそう言うと、瀬名さんは不審そうな顔から笑った。

 

「もしかして、私の表情見て言いました?私が不審そうな顔したから」

「そんなとこだが」

 

瀬名さんは俺の手を取って言った。

 

「いいですよ。というか喜んで」

 

瀬名さんは俺の手を握って笑った。さっき言ったとおりだし、付き合うまで発展させるつもりもない。付き合うという話になったらこの話はなかったことにしよう。

 

「ありがと。じゃ、行くか」

 

俺たちは杉田駅から電車に乗った。

19:20発普通品川行き。京急の普通は遅いことで知られている。杉田~横浜は19:20発普通品川行きで29分、19:20発で上大岡から19:27発快特品川行きに乗り換えると15分。快特を使うだけでかなり早く移動できる。京急東神奈川までも横浜まで快特、横浜で普通に乗り換えると1本早い普通に乗り換えられる。

 

「先輩、家どこですか?」

「相模大野。瀬名さんは」

「星川です。前は怖くなっちゃって京浜東北線で新子安まで行っちゃいましたけど」

 

あの時のことだろう。横浜で絡まれてたときの。

 

「無事に帰れたか?」

「はい」

 

瀬名さんは笑った。よく笑う人だ。

 

「よかった。あ、上大岡着くぞ」

 

瀬名さんは俺と一緒に降りた。瀬名さんは俺に少し悲しそうな感じで言った。

 

「もうすぐ卒業ですよね」

「あぁ。あと2週間か」

 

瀬名さんは俺の手を握って言った。

 

「卒業したら、同居はどうなるんですか」

 

言われてみれば、卒業したら瀬名さんとは無関係になる。ただの男が女子高生を家に上がらせてる、不審者だ。

 

「卒業したら終わりかな」

「そうですか。あ、交互にしません?家に上がるの。泊まるんですよね」

 

確かに、宿泊を伴うんだったらそっちの方がいいか。

 

「じゃあそうしようか。今日は俺の家でいいよ」

「はい」

 

瀬名さんは俺に返事した。

 

 19:35、横浜に到着。いつも瀬名さんはこの電車らしく、いつもは間に合ったら19:45発各駅停車湘南台行き、間に合わなかったら19:54発快速海老名行きに乗るらしい。

俺はここから19:42発に乗ってもいいのだが、乗り換えが楽だから19:48発橋本行き。19:42発だと東神奈川で乗り換えになるが、48分発だと乗り換えがない。

 

「先輩、あれですか」

「あぁ」

 

瀬名さんの髪が風に乗ってふわりと揺れる。

 

「先輩、髪に興味あるんですか」

「いや、そういうわけじゃない」

 

俺がそう言うと、瀬名さんは電車に乗った。電車に乗ると、瀬名さんは俺に言った。

 

「私の髪型、結構嫌いな人多いんです」

 

瀬名さんは作り笑いで言った。ボブヘアが嫌いだなんて、贅沢なやつだ。

 

「いいじゃん。ボブヘア」

「ありがとうございます。でも、それから男の人が怖くて……髪引っ張られたりして」

 

酷い彼氏だな。女子の髪を粗末に扱うなんて人じゃない。

 

「じゃあ、俺の家に来た方がいいな。大丈夫。俺はそんなことしないから」

 

俺は瀬名さんの隣に立った。

 

 俺は家に着くなり瀬名さんに家の中を案内した。瀬名さんは一通り場所が分かると、俺のために料理を作ってくれた。もう夜遅いため軽い夕食。いつもは町田でサンドイッチを買っていったが、久しぶりの手作り料理。

 

「あんまり豪華な物は作れませんけど、いいですか?」

「あぁ。作ってくれるだけでいい」

「了解です」

 

瀬名さんは黙々と料理を作る。

作られた料理は豪華じゃないと言っていても、コンビニの弁当よりは豪華。食べてみると、腰を抜かすほどのおいしさ。

 

「美味しい……これを毎日食えるのか」

「えへへ……恥ずかしいです」

 

瀬名さんは俺の隣に座って、顔を手の甲に乗せ、リズムを刻むように左右に揺れた。

 

 

 翌朝。

俺はソファで寝たまま朝を迎えた。いつも通り制服に着替え、出発しようとする。

って、ちょっとまて。瀬名さんがいるんだった。起きてたらいいけど。

俺が寝室に行くと、瀬名さんはエプロンに着替えていて、料理する気でいた。

 

「おはようございます。先輩」

「おはよう。ありがとね」

 

瀬名さんは任せてください。と言わんばかりに俺の横を通り抜け、キッチンへ。ありがたいな、やっぱり。

朝食を食べたら、すぐに出発。これは瀬名さんも同じだったらしく、2人とも慣れていた。

相模大野6:46発通勤準急北綾瀬行きで町田まで行き、町田からは6:56発東神奈川行きに乗り換える。

 

「先輩、眠そうですね」

「いつもだろ」

 

俺は瀬名さんに突っ込んだ。瀬名さんは笑って俺の顔を見た。

 

「いつも眠いんですか」

「そうだろうな。朝早いし」

 

就職先は近いからもっと遅く起きれるかな。

 

「そうですか。朝苦手なんですね」

「朝はね。瀬名さんは得意か」

「はい。先輩、駅着きますよ」

 

瀬名さんは俺のことを寄せた。

この時間の横浜線は結構混んでくる。長津田、十日市場、中山と止まっていくと、車内のドア近くはかなりの混雑。俺たちは気付いたらドアの前から真ん中あたりに押されていた。座席の前ではなく、ドアとドアの間なため、つり革も少ない。

 

「んっ、んっ!」

 

瀬名さんは背伸びするようにつり革を掴もうとする。届いてないけど。

 

「瀬名さん、俺に掴まってて」

「はい」

 

瀬名さんは俺の腕にぎゅっと掴まった。俺は少し前にあるつり革を掴んでいたため、そこまで揺れることはない。

 

「うっ……先輩……苦しいです」

 

瀬名さんは上目遣いで俺を見る。満員電車には乗り慣れてないのかな。

 

「せんぱ……きゃうっ!」

 

瀬名さんが俺に突っ込んできた。瀬名さんがいたところには人が来て、瀬名さんが今の状態から動けなくなった。

 

「せんぱ──」

 

チュッ

 

瀬名さんのことを見ていた俺と上を見た瀬名さんの唇が触れあった。すぐに暑くなり、汗もかいてきた。

 

「……っっっっ!」

 

瀬名さんはかなり動揺していて、顔を紅くして声が出ていなかった。まぁ、そうなるよな。

 

 学校に行って、俺は瀬名さんに昼休みに呼ばれた。しかも屋上。まだ寒いんだし、屋上には出たくなかったが。

俺は屋上のドアを開けた。屋上には瀬名さんしかいなかった。まだ昼休みが始まったばかりの時間だからだろうか。

 

「瀬名さん、どうしたんだ」

「先輩、好きです」

 

あー、なんだそんなこと……って、え?

 

「待って、なんつった」

「好きです」

 

聞き間違いじゃない。絶対に「好きです」って言ってる。俺の頭の中の思考回路がショートしそうだ。またあの時みたいになるのか?あと2週間なのに。なのに、なぜか断りたくない。あいつとは違う気がする。

俺は考え続けていたが、すぐに声に出てしまった。

 

「俺も」

 

断れない。あいつとは違う。そんなことを思ってるんだから、きっと俺も好きなんだ。

 

「先輩っ!」

 

瀬名さんが俺に抱きついてきた。今日の電車内とは違う。抱きつき方が少し違った。

 

「名前で呼んで。俺も名前で呼ぶから。紬希ちゃん」

 

紬希ちゃんはぴょんぴょん跳びはねて、うれしそうにした。

 

「うん!柊くん!」

 

紬希ちゃんとの同居生活……いや、同棲が始まった。

 

 今日は紬希ちゃんの両親に相談した上で、紬希ちゃんの引っ越しの日。両親は日本に戻ってくるらしい。俺の両親はまだ海外にいるらしいけど。

星川の紬希ちゃんの家に行って少し手伝っていた。星川っていうと、隣の鶴ヶ峰が元カノの最寄りだったかな。それを思い出すと苦しくなってくるが。

 

「それ、入るかな」

「多分な。てか、スーツケースには入る」

 

俺は服の整理を紬希ちゃんと一緒にやっていた。その中には俺が見てはいけない物もあったが。

 

「えっと、下着は」

「スーツケースの中に入らないかな」

「ブラは……何着ある」

 

言いづらいが、仕方ない。

 

「4あるはず」

 

紬希ちゃんが指で4を表した。数えるのも嫌になってくるが、一応数えた。

 

「あれ、5あるぞ」

「あれ?確かに4着……あ、今つけてないからだ」

 

今つけてないからって……じゃあ今ノーブラってことか?

 

「あ、興奮した?」

「んなわけあるか。じゃあ5あっていいんだな」

「うん。さ、これで全部かな。あとは業者の方が来てくれるし」

 

紬希ちゃんと俺は星川から電車に乗って大和まで。小田急線で相模大野まで行って俺の家に着く。

俺たちは家に鍵を閉めて電車に乗った。

俺の両親はもう日本に戻ってこないらしい。元から俺とは悪い関係だったし、別に帰ってこないんだったらそれでいい。帰ってきたら帰ってきたらで嫌だし。

 

「柊くん、聞いてる?」

「あ、ごめん」

「なんか考え事してた?」

「そんなとこ」

 

紬希ちゃんは俺の隣にピタッとくっついて、俺に言った。

 

「同棲したら何する?」

「まずは一緒に食事したいね」

 

紬希ちゃんは不満そうな顔をした。

 

「同じベットで寝たりとかは」

「あ、する」

 

そういうと、紬希ちゃんはぎゅっと抱きついた。

 

「じゃあ、今日からねっ」

「分かった。けど、あの、電車内だからさ……」

 

そう言うと、紬希ちゃんは俺からさっと離れた。

 

「じゃあ、家に帰ってからね」

 

紬希ちゃんはさっきの立ち位置に戻った。

 

 また俺は金沢文庫の喫茶店に来ていた。

魁と一緒にこの店のマスターとその娘さんと話すのが日課だ。流石に付き合えることはないと思うが、なんかマスターとその娘さんと話すのが楽しい。

 

「魁くんはどうなんだい?ほら、卒業したら引っ越すとか言ってたろう?」

「はい。俺はもう汐入のマンションで一人暮らしします」

 

魁は地図をマスターに見せながら言った。魁はもう一人暮らしを始めるのか。

 

「そのマンションだと少し狭くないか?」

「まぁ1人ですし、大丈夫ですよ」

 

マスターはその部屋の間取りを見て言った。

 

「結構いい立地だな」

「ありがと。ホントは横須賀中央の近くがよかったんだけど」

 

快特の関係もあるんだろう。汐入は快特止まらないし。

 

「娘さんは来年何年生?」

「高3。な、紗菜」

 

娘さんの紗菜さんは静かに頷いた。

 

「受験とか就職も待ってるんだろ?頑張れよ」

「ありがとうございます。頑張ります」

 

紗菜さんはカウンターの裏に入り、姿を消した。

 

「じゃあ、君らも帰るか」

「あぁ。長い間邪魔したな」

「いや、大丈夫。また来いよ」

 

マスターが言ってから俺たちは帰り始めた。

金沢文庫からは京急で横浜まで。18:49発快特印旛日本医大行きで横浜まで行く。

電車は比較的空いている。と言っても上大岡で金沢文庫18:44発普通品川行きと接続し、南太田で金沢文庫18:34発普通品川行きを追い越すため、上大岡から先は若干混んでくる。

上大岡到着前、電車はホームでないところで停車した。先行電車が遅れているそうだ。

神奈川新町で人身事故が発生していて、運転を見合わせているらしい。上大岡には3番線に18:51発予定エアポート急行羽田空港行き、4番線に18:48発予定普通品川行きが停車中。この電車も入れなかった。

停車から10分後、この電車が動き出した。上大岡で運転を見合わせるらしい。

 

「ただいま、京急線は京急川崎以北で運転を見合わせています。弘明寺、横浜より先をご利用のお客様はブルーラインをご利用ください」

 

そうアナウンスがされ、俺は振替乗車を利用しブルーラインへ。

ブルーラインのホームは人でごった返していた。京急で横浜より先へ行く人、弘明寺へ行く人、ブルーラインを利用する人でごった返していた。

 

「19:19発普通あざみ野行き到着します。ご乗車になりましたら車内中程までお進みください」

 

19:19発普通あざみ野行きは入線時は席が全て埋まる程度だったが、ホームの人が乗るときには俺が乗れなくなるくらいの混雑になった。

そのあと、俺は横浜方面が混んでいたため、湘南台方面19:21発普通湘南台行きで港南中央へ。港南中央から19:29発普通あざみ野行きで新横浜へ。

案の定、港南中央で座れなかったが、上大岡ではぎゅうぎゅう詰めに。俺は前にいた俺より少し小さい女子高生を腕で支えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

聞き覚えのある可愛らしい声。って、まさか……!

俺は女子高生の方を向いた。やっぱり。あの喫茶店の子だ。

 

「あ、どうも……」

「お疲れ様です。今日は混んでますね。大変です」

 

喫茶店の娘さんは俺から少し距離を置くように言った。多分つぶされないようにだろう。

 

「そうだね……あ、もうすぐ駅着くよ」

 

電車は弘明寺に到着。少しも人は降りず、京急線からの振替客で大量に乗ってきた。と言っても今でもぎゅうぎゅう詰めにだったため、駅員の力を借りて若干乗ってくるくらい。

俺は耐えられなくなり、喫茶店の娘さんを支えていた腕に力が入らなくなり、喫茶店の娘さんを押しつぶすようになってしまった。

 

「うぐ……」

「ごめん……後ろからの力強すぎて……」

「いえ……あはは、身動き取れないです……」

 

娘さんは苦笑いして言った。

 

 次々駅に止まっていき、横浜には3分ほど遅れて到着。横浜まで来ると少し空いてきた。俺は新横浜までブルーラインを使い、新横浜から横浜線、小田急線を使い相模大野まで帰る。

 

「今日は災難でしたね……」

「そうだね。君のおじいさんがやってる喫茶店、お世話になってるよ」

「ありがとうございますっ♡」

 

かわいく笑顔で言った。なんだろうこのかわいい笑顔は。

 

「それじゃあ、また会う日まで」

「うん。じゃあね」

 

娘さんは電車から降りていった。って、なんかポケットに感触が……それは手紙で、それにはこんなことが書かれていた。

 

「明日、喫茶店来てくださいねっ」

 

しょうがない。明日行くか。

 

 

 

 「おかえりー!マイダーリンっ!」

 

紬希ちゃんが俺に飛びついた。

 

「おう、ただいま」

「遅かったね?」

「京急止まっちゃってさ」

 

俺は紬希ちゃんの膝の上に頭を乗せた。

 

「疲れたでしょーっ」

「あぁ。やれやれだ」

 

紬希ちゃんは少し薄着になって、上着を俺の身体にかけた。

 

「柊くん、夕飯どうする?」

「ん、食う」

「おいで」

 

紬希ちゃんは俺の先を歩いて冷蔵庫に行った。冷蔵庫から夕飯を取ってきて俺に言った。

 

「一緒に食べれなかったんだけどね」

「大丈夫。紬希ちゃんの料理だし」

 

俺は紬希ちゃんの料理を食べ始める。美味しい。

 

 

 

 

 

 

 翌日放課後、俺は金沢文庫の喫茶店に行った。約束通りだったが、魁もいなければマスターもいない。一体どこに行ったんだか。

 

「いらっしゃいませ。こっち来てください」

「おう」

 

俺は娘さんについていった。娘さんは狭い部屋の中に入って俺の前に立った。

 

「すみません。急に」

「いや、いいけどさ。何かあった?」

「胡蝶蘭って知ってる?」

「あの赤いやつ?」

 

胡蝶蘭って花だけど。花がなにかあったか?

 

「分かんないかなぁ。分かったら言って」

 

なんだ、胡蝶蘭。喫茶店に飾ってある花が胡蝶蘭なのか?いや、ただの観葉植物だ。花なんてない。

 

「花言葉って何だっけ」

「調べればいいじゃないですか」

 

俺はスマホで胡蝶蘭の花言葉を調べた。

 

「あなたを愛しています……かぁ。なんかいい花言葉だ……って、はぁ!?」

「それだけですっ!早く帰ってください!」

「え、ちょっ!」

 

 翌朝、京急が止まっていたため、俺は小田急線、横浜線、グリーンライン、ブルーラインと根岸線で行った。

ブルーラインはぎゅうぎゅう詰め。というかブルーライン自体もあざみ野駅車内点検で遅延していた。

中山6:57発日吉行きのグリーンラインはぎゅうぎゅう詰めとまではならなくても、かなり人がいた。

7:03、センター南に到着。7:08発普通湘南台行きはドア上に手をかけて乗らないといけないくらい混んでいた。

7:14、新羽に着いたが、ここにマスターの娘さんがいた。だが、娘さんはスマホに夢中で気付かない。

俺は降りる人を譲るために1回降りて、そのあとに再び乗った。またドア上に手をかけて乗ったが、娘さんは気付く気配がない。それもあって、俺は娘さんに声をかけた。

 

「おーい、乗らないのか」

「ふぇあっ!」

 

娘さんは急いで乗ってきた。手持ちのバッグを振り、普通は後ろ向きに入るのに前向きで入ってきた。もちろん俺がギリギリ乗れる混雑だったため、娘さんはドアからはみ出る。

ドアが閉まりだし、娘さんは必死でホームの端を足で蹴り、俺に飛び込んでくるようにして乗ろうとした。しかし、ドアが横から閉まり、バランスを崩す。

 

「うぅ……乗れないぃ……ひゃうっ!」

 

ドアが閉まって当たる度に娘さんは「ひゃうっ!」と小さく声を漏らした。

 

「すみません、中程へお進みくださーい」

 

男性の駅員さんが駆けつけた。俺も少し後ろへ下がるが、びくともしない。

 

「押しま──」

 

駅員さんが言いかけた。それもそのはず。この人も男性だ。なぜかって?それは、娘さんのお尻がドアが閉まるのを妨げているからだ。今日は体育がないんだろう。Yシャツから透けて見えたのは体育着ではなく下着。まぁブラジャーとかいうやつだ。

多分スカートの下もパンツ。男性駅員は押せないし、見れない。

 

「み、見ないでよぉ……?」

 

駅員さんに聞こえないくらいの小声で娘さんは俺の胸の中で言った。

 

「すみません!押しまーす!」

 

女性の駅員さんが来た。女性の駅員さんは少し遠慮気味に娘さんのお尻をスカートの上から触り、押し込んだ。

 

「んっ……」

 

娘さんは小さく喘ぎ声を出す。なんというか、ドンマイ……

 

「すみません、背伸びしてくださいますか」

「あ、はいっ!」

 

娘さんは背伸びした。

背伸びしたことによってお尻が中に入り、ドアが閉まった。

 

「うぅ……狭いですぅ……」

「そうだな……」

 

俺は娘さんの制服を少し見てみた。

 

「結菜……」

「はい……え?」

 

力のない声で結菜が言った。

 

「いや、名札……」

「あ、そうですか……」

 

そう話していると、次の北新横浜に到着した。俺たちは1回降りて、そのあと1番最後だったが、電車に乗った。結菜はまたこっち向きで背伸びだ。

7:20、2分遅れて新横浜に到着すると、俺たちは人に押されてホームへ。そのあとは今までにないほどの大勢の客を乗せて岸根公園へ。結菜も背伸びていても電車からはみ出ていた。結局、男性の駅員さんが結菜を押したが、入らない。

2人の男性駅員、1人の女性駅員が結菜のことを押すが、奥からの力で無理。

 

「きゃぁっ、うぐ……あっ……」

 

結菜は苦しそうだった。俺は結菜を少し抱き寄せる。

 

「ふにゃっ!」

 

ドアは急に閉まり、電車はしばらく間を空けて出発。他も閉まってなかったんだろう。

抱き寄せた手はすぐに退かしたが、結局結菜のすぐ横にあった。

 

「次、どこでしたっけぇ……」

 

力のない声。

 

「岸根公園、片倉町、三ツ沢上町、三ツ沢下町、横浜」

「結構ありゅぅ……」

 

結菜は俺に押しつぶされて苦しそう。昨日の、「あなたを愛しています」って、本当だったんだろうか。

 

「結菜」

「はいぃ……」

「昨日の花言葉の件なんだけど……」

 

そう言うと結菜は必至でも立ちながら俺に言った。

 

「彼女いるっていうのは知ってます。同棲してるっていうのも」

「なんで……」

「魁から聞きました」

 

あいつか……

けど、彼女いて同居してるってのも知っててなんで告白、プロポーズなんか……

 

「最初に来てくれた時に、ときめいちゃったんです。一目惚れですね」

 

まさか一目惚れしたなんてな……

 

「だから、私決めたんです。先輩が卒業するまでにプロポーズするって」

 

卒業したら簡単に会えなくなる、ということだろう。確かに卒業までにプロポーズするっていうのはよく考えたことだと思う。

 

「流石にダメ、ですかね」

「……少し考えさせてほしい」

 

確かにプロポーズは承諾した方がいい。普通はそうだ。ただ、俺の場合は結菜のプロポーズを「はい。喜んで」とは簡単には言えない。俺は付き合っていて、同棲もしてる。取りあえずはそれを紬希ちゃんに話さないといけない。

 

「ちょっと彼女に聞いてみる。返事はまた今度でいい?」

「はい。もちろんです」

 

そう言ってからも、電車はますます混んでいく。座席の前ももう人が入れないくらいにパンパン。ドアの前なんて窒息するくらいだ。

 

「せんぱ、い……」

「結菜……」

 

三ツ沢上町を5分遅れで出発。次の三ツ沢下町~横浜間はブルーライン最混雑区間。今でもぱっと見190%はある乗車率ももっと増えるのだろうか。

三ツ沢下町には7:32に到着。5分遅れだ。三ツ沢下町ではもう乗れなくなっていて、乗る人は俺の近くのドアからは0人。他のドアからは数人居たらしく、若干車内が押し合った。結菜は苦しそうに俺の目の前で背伸びしている。

三ツ沢下町は7:34に出発。6分遅れに拡大した。

横浜には7:37に到着。7分遅れて到着した。俺と結菜は押されて降車。降りるときに少し俺の手が結菜の胸に当たってしまったが、結菜は気付いていなかった。

横浜からは7:50発予定各駅停車大船行きに乗る。45分発が3分遅れている磯子行き、50分発はその2分後に来る。

 

「先輩、さっき、胸触りました?」

「不可抗力だ。許してくれ」

「別に怒ってませんよ。減る物じゃないので」

 

結菜は俺の手を掴んだ。

 

「この手で、もっと私されるんですから。いろんなこと」

 

待て、俺はこれからそんなことするのか……?

俺は少し不安で、けど少し楽で、感情がよく分からなかった。

 

 

 

 

 「ってことが……」

 

俺は今日起こったことを紬希ちゃんに全て話した。包み隠さず、みんな全て話した。

 

「そっか……もう潮時なのかもね……」

「っ……」

 

俺のせいだろうか。また前の彼女にしたように彼女を幸せにできずにして別れてしまう。またそうなるのか。

 

「なーんてねっ、ライバルできちゃったか」

「え?」

 

俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

 

「いや?その、誰だっけ。結菜ちゃん?プロポーズ受けてよ」

「いや待ってくれ。紬希ちゃんが俺と別れるかもしれないんだぞ?」

 

紬希ちゃんは不思議そうな顔をしてこっちを見ている。

 

「違うよ?私が柊くんを取るの。ま、どっちを取るかは柊くん次第だけどね」

「けど、俺それだと……」

「私と別れたいの?」

 

そう言われると、俺はもう引き下がるしかなかった。

 

「私と結菜ちゃんで勝負だからね!」

 

女同士の争い。かなり熱い戦いになりそうだ。

 

 また俺は金沢文庫の喫茶店に来ていた。

魁と一緒にこの店のマスターとその娘さんと話すのが日課だ。流石に付き合えることはないと思うが、なんかマスターとその娘さんと話すのが楽しい。

 

「魁くんはどうなんだい?ほら、卒業したら引っ越すとか言ってたろう?」

「はい。俺はもう汐入のマンションで一人暮らしします」

 

魁は地図をマスターに見せながら言った。魁はもう一人暮らしを始めるのか。

 

「そのマンションだと少し狭くないか?」

「まぁ1人ですし、大丈夫ですよ」

 

マスターはその部屋の間取りを見て言った。

 

「結構いい立地だな」

「ありがと。ホントは横須賀中央の近くがよかったんだけど」

 

快特の関係もあるんだろう。汐入は快特止まらないし。

 

「娘さんは来年何年生?」

「高3。な、紗菜」

 

娘さんの紗菜さんは静かに頷いた。

 

「受験とか就職も待ってるんだろ?頑張れよ」

「ありがとうございます。頑張ります」

 

紗菜さんはカウンターの裏に入り、姿を消した。

 

「じゃあ、君らも帰るか」

「あぁ。長い間邪魔したな」

「いや、大丈夫。また来いよ」

 

マスターが言ってから俺たちは帰り始めた。

金沢文庫からは京急で横浜まで。18:49発快特印旛日本医大行きで横浜まで行く。

電車は比較的空いている。と言っても上大岡で金沢文庫18:44発普通品川行きと接続し、南太田で金沢文庫18:34発普通品川行きを追い越すため、上大岡から先は若干混んでくる。

上大岡到着前、電車はホームでないところで停車した。先行電車が遅れているそうだ。

神奈川新町で人身事故が発生していて、運転を見合わせているらしい。上大岡には3番線に18:51発予定エアポート急行羽田空港行き、4番線に18:48発予定普通品川行きが停車中。この電車も入れなかった。

停車から10分後、この電車が動き出した。上大岡で運転を見合わせるらしい。

 

「ただいま、京急線は京急川崎以北で運転を見合わせています。弘明寺、横浜より先をご利用のお客様はブルーラインをご利用ください」

 

そうアナウンスがされ、俺は振替乗車を利用しブルーラインへ。

ブルーラインのホームは人でごった返していた。京急で横浜より先へ行く人、弘明寺へ行く人、ブルーラインを利用する人でごった返していた。

 

「19:19発普通あざみ野行き到着します。ご乗車になりましたら車内中程までお進みください」

 

19:19発普通あざみ野行きは入線時は席が全て埋まる程度だったが、ホームの人が乗るときには俺が乗れなくなるくらいの混雑になった。

そのあと、俺は横浜方面が混んでいたため、湘南台方面19:21発普通湘南台行きで港南中央へ。港南中央から19:29発普通あざみ野行きで新横浜へ。

案の定、港南中央で座れなかったが、上大岡ではぎゅうぎゅう詰めに。俺は前にいた俺より少し小さい女子高生を腕で支えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

聞き覚えのある可愛らしい声。って、まさか……!

俺は女子高生の方を向いた。やっぱり。あの喫茶店の子だ。

 

「あ、どうも……」

「お疲れ様です。今日は混んでますね。大変です」

 

喫茶店の娘さんは俺から少し距離を置くように言った。多分つぶされないようにだろう。

 

「そうだね……あ、もうすぐ駅着くよ」

 

電車は弘明寺に到着。少しも人は降りず、京急線からの振替客で大量に乗ってきた。と言っても今でもぎゅうぎゅう詰めにだったため、駅員の力を借りて若干乗ってくるくらい。

俺は耐えられなくなり、喫茶店の娘さんを支えていた腕に力が入らなくなり、喫茶店の娘さんを押しつぶすようになってしまった。

 

「うぐ……」

「ごめん……後ろからの力強すぎて……」

「いえ……あはは、身動き取れないです……」

 

娘さんは苦笑いして言った。

 

 次々駅に止まっていき、横浜には3分ほど遅れて到着。横浜まで来ると少し空いてきた。俺は新横浜までブルーラインを使い、新横浜から横浜線、小田急線を使い相模大野まで帰る。

 

「今日は災難でしたね……」

「そうだね。君のおじいさんがやってる喫茶店、お世話になってるよ」

「ありがとうございますっ♡」

 

かわいく笑顔で言った。なんだろうこのかわいい笑顔は。

 

「それじゃあ、また会う日まで」

「うん。じゃあね」

 

娘さんは電車から降りていった。って、なんかポケットに感触が……それは手紙で、それにはこんなことが書かれていた。

 

「明日、喫茶店来てくださいねっ」

 

しょうがない。明日行くか。

 

 

 

 「おかえりー!マイダーリンっ!」

 

紬希ちゃんが俺に飛びついた。

 

「おう、ただいま」

「遅かったね?」

「京急止まっちゃってさ」

 

俺は紬希ちゃんの膝の上に頭を乗せた。

 

「疲れたでしょーっ」

「あぁ。やれやれだ」

 

紬希ちゃんは少し薄着になって、上着を俺の身体にかけた。

 

「柊くん、夕飯どうする?」

「ん、食う」

「おいで」

 

紬希ちゃんは俺の先を歩いて冷蔵庫に行った。冷蔵庫から夕飯を取ってきて俺に言った。

 

「一緒に食べれなかったんだけどね」

「大丈夫。紬希ちゃんの料理だし」

 

俺は紬希ちゃんの料理を食べ始める。美味しい。

 

 

 

 

 

 

 翌日放課後、俺は金沢文庫の喫茶店に行った。約束通りだったが、魁もいなければマスターもいない。一体どこに行ったんだか。

 

「いらっしゃいませ。こっち来てください」

「おう」

 

俺は娘さんについていった。娘さんは狭い部屋の中に入って俺の前に立った。

 

「すみません。急に」

「いや、いいけどさ。何かあった?」

「胡蝶蘭って知ってる?」

「あの赤いやつ?」

 

胡蝶蘭って花だけど。花がなにかあったか?

 

「分かんないかなぁ。分かったら言って」

 

なんだ、胡蝶蘭。喫茶店に飾ってある花が胡蝶蘭なのか?いや、ただの観葉植物だ。花なんてない。

 

「花言葉って何だっけ」

「調べればいいじゃないですか」

 

俺はスマホで胡蝶蘭の花言葉を調べた。

 

「あなたを愛しています……かぁ。なんかいい花言葉だ……って、はぁ!?」

「それだけですっ!早く帰ってください!」

「え、ちょっ!」

 

 翌朝、京急が止まっていたため、俺は小田急線、横浜線、グリーンライン、ブルーラインと根岸線で行った。

ブルーラインはぎゅうぎゅう詰め。というかブルーライン自体もあざみ野駅車内点検で遅延していた。

中山6:57発日吉行きのグリーンラインはぎゅうぎゅう詰めとまではならなくても、かなり人がいた。

7:03、センター南に到着。7:08発普通湘南台行きはドア上に手をかけて乗らないといけないくらい混んでいた。

7:14、新羽に着いたが、ここにマスターの娘さんがいた。だが、娘さんはスマホに夢中で気付かない。

俺は降りる人を譲るために1回降りて、そのあとに再び乗った。またドア上に手をかけて乗ったが、娘さんは気付く気配がない。それもあって、俺は娘さんに声をかけた。

 

「おーい、乗らないのか」

「ふぇあっ!」

 

娘さんは急いで乗ってきた。手持ちのバッグを振り、普通は後ろ向きに入るのに前向きで入ってきた。もちろん俺がギリギリ乗れる混雑だったため、娘さんはドアからはみ出る。

ドアが閉まりだし、娘さんは必死でホームの端を足で蹴り、俺に飛び込んでくるようにして乗ろうとした。しかし、ドアが横から閉まり、バランスを崩す。

 

「うぅ……乗れないぃ……ひゃうっ!」

 

ドアが閉まって当たる度に娘さんは「ひゃうっ!」と小さく声を漏らした。

 

「すみません、中程へお進みくださーい」

 

男性の駅員さんが駆けつけた。俺も少し後ろへ下がるが、びくともしない。

 

「押しま──」

 

駅員さんが言いかけた。それもそのはず。この人も男性だ。なぜかって?それは、娘さんのお尻がドアが閉まるのを妨げているからだ。今日は体育がないんだろう。Yシャツから透けて見えたのは体育着ではなく下着。まぁブラジャーとかいうやつだ。

多分スカートの下もパンツ。男性駅員は押せないし、見れない。

 

「み、見ないでよぉ……?」

 

駅員さんに聞こえないくらいの小声で娘さんは俺の胸の中で言った。

 

「すみません!押しまーす!」

 

女性の駅員さんが来た。女性の駅員さんは少し遠慮気味に娘さんのお尻をスカートの上から触り、押し込んだ。

 

「んっ……」

 

娘さんは小さく喘ぎ声を出す。なんというか、ドンマイ……

 

「すみません、背伸びしてくださいますか」

「あ、はいっ!」

 

娘さんは背伸びした。

背伸びしたことによってお尻が中に入り、ドアが閉まった。

 

「うぅ……狭いですぅ……」

「そうだな……」

 

俺は娘さんの制服を少し見てみた。

 

「結菜……」

「はい……え?」

 

力のない声で結菜が言った。

 

「いや、名札……」

「あ、そうですか……」

 

そう話していると、次の北新横浜に到着した。俺たちは1回降りて、そのあと1番最後だったが、電車に乗った。結菜はまたこっち向きで背伸びだ。

7:20、2分遅れて新横浜に到着すると、俺たちは人に押されてホームへ。そのあとは今までにないほどの大勢の客を乗せて岸根公園へ。結菜も背伸びていても電車からはみ出ていた。結局、男性の駅員さんが結菜を押したが、入らない。

2人の男性駅員、1人の女性駅員が結菜のことを押すが、奥からの力で無理。

 

「きゃぁっ、うぐ……あっ……」

 

結菜は苦しそうだった。俺は結菜を少し抱き寄せる。

 

「ふにゃっ!」

 

ドアは急に閉まり、電車はしばらく間を空けて出発。他も閉まってなかったんだろう。

抱き寄せた手はすぐに退かしたが、結局結菜のすぐ横にあった。

 

「次、どこでしたっけぇ……」

 

力のない声。

 

「岸根公園、片倉町、三ツ沢上町、三ツ沢下町、横浜」

「結構ありゅぅ……」

 

結菜は俺に押しつぶされて苦しそう。昨日の、「あなたを愛しています」って、本当だったんだろうか。

 

「結菜」

「はいぃ……」

「昨日の花言葉の件なんだけど……」

 

そう言うと結菜は必至でも立ちながら俺に言った。

 

「彼女いるっていうのは知ってます。同棲してるっていうのも」

「なんで……」

「魁から聞きました」

 

あいつか……

けど、彼女いて同居してるってのも知っててなんで告白、プロポーズなんか……

 

「最初に来てくれた時に、ときめいちゃったんです。一目惚れですね」

 

まさか一目惚れしたなんてな……

 

「だから、私決めたんです。先輩が卒業するまでにプロポーズするって」

 

卒業したら簡単に会えなくなる、ということだろう。確かに卒業までにプロポーズするっていうのはよく考えたことだと思う。

 

「流石にダメ、ですかね」

「……少し考えさせてほしい」

 

確かにプロポーズは承諾した方がいい。普通はそうだ。ただ、俺の場合は結菜のプロポーズを「はい。喜んで」とは簡単には言えない。俺は付き合っていて、同棲もしてる。取りあえずはそれを紬希ちゃんに話さないといけない。

 

「ちょっと彼女に聞いてみる。返事はまた今度でいい?」

「はい。もちろんです」

 

そう言ってからも、電車はますます混んでいく。座席の前ももう人が入れないくらいにパンパン。ドアの前なんて窒息するくらいだ。

 

「せんぱ、い……」

「結菜……」

 

三ツ沢上町を5分遅れで出発。次の三ツ沢下町~横浜間はブルーライン最混雑区間。今でもぱっと見190%はある乗車率ももっと増えるのだろうか。

三ツ沢下町には7:32に到着。5分遅れだ。三ツ沢下町ではもう乗れなくなっていて、乗る人は俺の近くのドアからは0人。他のドアからは数人居たらしく、若干車内が押し合った。結菜は苦しそうに俺の目の前で背伸びしている。

三ツ沢下町は7:34に出発。6分遅れに拡大した。

横浜には7:37に到着。7分遅れて到着した。俺と結菜は押されて降車。降りるときに少し俺の手が結菜の胸に当たってしまったが、結菜は気付いていなかった。

横浜からは7:50発予定各駅停車大船行きに乗る。45分発が3分遅れている磯子行き、50分発はその2分後に来る。

 

「先輩、さっき、胸触りました?」

「不可抗力だ。許してくれ」

「別に怒ってませんよ。減る物じゃないので」

 

結菜は俺の手を掴んだ。

 

「この手で、もっと私されるんですから。いろんなこと」

 

待て、俺はこれからそんなことするのか……?

俺は少し不安で、けど少し楽で、感情がよく分からなかった。

 

 

 

 

 「ってことが……」

 

俺は今日起こったことを紬希ちゃんに全て話した。包み隠さず、みんな全て話した。

 

「そっか……もう潮時なのかもね……」

「っ……」

 

俺のせいだろうか。また前の彼女にしたように彼女を幸せにできずにして別れてしまう。またそうなるのか。

 

「なーんてねっ、ライバルできちゃったか」

「え?」

 

俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

 

「いや?その、誰だっけ。結菜ちゃん?プロポーズ受けてよ」

「いや待ってくれ。紬希ちゃんが俺と別れるかもしれないんだぞ?」

 

紬希ちゃんは不思議そうな顔をしてこっちを見ている。

 

「違うよ?私が柊くんを取るの。ま、どっちを取るかは柊くん次第だけどね」

「けど、俺それだと……」

「私と別れたいの?」

 

そう言われると、俺はもう引き下がるしかなかった。

 

「私と結菜ちゃんで勝負だからね!」

 

女同士の争い。かなり熱い戦いになりそうだ。

 

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