終着点への道   作:月島柊

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どうも。月島です。
今回もハッピーエンドという感じで終わるかと思います。いつかはハッピーエンドじゃないのも作ってみたいですね。

さて、今回は2人の終着点への道ですね。スタート地点はみんな同じ。ただ、終着点は人それぞれ違います。この2人はどんな終着点を迎えるのでしょう。

それでは、長々と話してもアレなので本編へ、どうぞ。



〈葉山柊×葉山楓〉

 

 「なぁ、知ってるか?」

 

俺の親友、海斗が聞いてきた。

 

「知らん」

「だろうな」

 

そもそも情報を中々取り入れない俺が知ってるとでも思ったのだろうか。

 

「今年の新入生にさ、すっげー可愛い子がいるらしいぜ」

「へぇ、会ってみたいな」

 

興味なさそうに言う。

 

「興味ないだろ、お前」

「あぁ。どうせ関係持たないからな」

 

俺と海斗は教室から出て部活に向かう。今日から新入生が部活に入ってくる。

 

俺と海斗はプログラミング技術部、通称プロ技部に所属している。プロ技部は、プログラムの基本からゲームの作成までを行う部活だ。学校内でも活動回数は多く、週に5回、水曜と日曜以外は全て活動する。

 

1年生は2年生から基礎知識を学び、2年生は1年生に基礎知識を教え、3年生はゲームの作成を行う。そんな感じのため、先輩後輩の関係はかなり良い。

 

「どんな子だろうな」

「あの可愛いって話題の子来ないかな」

「あ、俺その子の担当になりてぇ!」

 

などと声が聞こえてくる。2年生は1年生の中で担当が決まっている。1年生に番号を振られ、2年生は番号を適当に選ぶ。当然男女ペアになることもあり、去年の俺がそうだった。斎藤由真(さいとうゆま)先輩。俺の担当だった先輩だ。

 

「ね、柊くんも女子狙い?」

 

由真先輩が俺に聞いてくる。

 

「んなわけないじゃないっすか。もしそうだったらこっちにいませんって」

 

そう、番号は適当に振られているはずなのだが、ある程度の規則性がある。

 

それは何かというと、入部してくる部員の数の中央値に女子が固まりやすいのだ。先生がばらけているように見せるためなのだが、簡単に読まれてしまっている。

 

「それもそっか。じゃああれ?彼女とかいらないんだ」

「部活の後輩が彼女になるとは思えないですし、まぁそんな感じです」

 

そうしている間に、顧問の先生が入ってきた。いつも通り新入生を後ろに引き連れている。

 

「さぁ、今回は25人の新入部員が来てくれた。早速番号を言っていくぞ」

 

俺はとりあえず余っていた23番を手に取り、顧問の指示を待った。

 

「今回はみんなから見て左から10番目が1番だ」

 

みんな固まった。そう、先生が対策していたのだ。今までずっと左から順に並んでいたため、真ん中あたり、そう、それこそ今回だと9~16付近が女子になる。しかし、今回は左から"10番目"が1番。真ん中あたりは左から19番目から最後までと左端。今まで通りでいくと19~25と1番が真ん中になる。要するに……

 

「俺じゃねぇか……」

 

余りで取ったのは23番。真ん中に入っている。

 

「じゃあ自分が持っている番号と同じ人の左側に立て」

 

23番か。今までの傾向から女子なんだが……

 

案の定女子だった。ボブヘアで、縮こまっている。小柄な女の子だ。

 

「よろしく、お願いします……」

 

大人しい。他のところにいる騒がしかったり陽キャなやつらとは大違いだ。

 

「よろしく。俺は葉山柊。君は?」

 

俺が聞くと、その子は小声で言った。

 

「葉山、楓です……」

 

同じ苗字。まさか前世では兄妹だったとか……そんなわけないよな。

 

「楓ちゃんだね。じゃあ、早速俺と楓ちゃんが使うPCを案内するからついてきて」

 

楓は大人しくついてくる。いい子だな、この子。

 

PCは番号が決まっている。俺と楓は12番と13番が割り当てられた。

 

「どっち使いたい?」

「……何か使い勝手とか変わりますか?」

 

楓は俺をじっと見つめる。

 

「変わらないと思うけど。メーカーも同じだし」

「じゃあ先輩が先に選んでください」

 

楓は一歩後ろに下がる。この子、ええ子や。

 

「じゃあ、13番使おうかな」

「じゃあ12番使います」

 

楓は12番の椅子に座る。起動の方法とか分かるかな。学科は分からないけど。

 

「……」

 

楓はパソコンのディスプレイと向かい合ったまま動作停止する。

 

「起動方法分かんない?」

 

楓はこくりと頷く。ここで聞いても失礼じゃないかな。

 

「学科は?」

「情報技術科です」

 

なのに分かんないのか。それは以外だった。

 

「デスクトップの電源ボタン押して。そしたら点くから」

「ですく……とっぷ……?」

 

まずい、デスクトップも分からないか。

 

「そこにあるでっかい箱のことだよ」

「でっかい箱……これですか?」

「そうそう。そこに電源マークあるでしょ?」

 

楓はそれを押す。PCがつくまでに中々時間がかかったが、大丈夫だろうか……

 

 

 

 プログラムを教えているうちに、気づけば活動終了時間になった。18:00がプロ技部の活動終了時刻。

 

俺はせっかく一緒になったのもあり、楓と一緒に帰ることにした。楓も快くOKしてくれた。

 

「楓ちゃんは中学の頃何部だったの?」

「バスケ部でした。ただ、身長もあって試合にはそんな出してもらえませんでしたけど」

 

確かにバスケは身長も大事だからな。そんなこともあるんだろう。

 

「じゃあ、コンピュータいじるのは初めて?」

「……そうですね。パソコンは使ってなかったので」

 

今時の中学生や高校生はほとんどスマホとかタブレットとかだもんな。好き好んでPCは使わないだろう。

 

「いっぱい学ぼうね。3年生になったらきっとプロだ」

 

楓は少し俯いた。照れを隠しているようだった。

 

「そうですね。頑張ります……!」

 

楓は首を縦に揺らす。自分で励ましているのだろう。

 

今日は気分でバスで来ていた。学校から10分ほど歩き、バス停に着く。どうやら楓は毎日電車とバスで来ているらしい。

 

「楓ちゃん、毎日バスって大変じゃない?」

「慣れちゃえば意外と楽ですよ。先輩は自転車とかですか?」

 

楓ちゃんは定期券を出しながら言った。

 

「うん。駅から自転車で通ってる」

「電車は使うんですね」

「遠いからね」

 

順番にバスに乗っていく。バスは1人2人程度乗った状態で到着したが、ここのバス停でうちの生徒が大量に乗車し、少し窮屈なくらいだ。

 

「楓ちゃんの髪さ」

「はい?」

 

俺は楓の髪をよく見る。やっぱり綺麗だ。サラサラしてそうというか、ふわふわ?

 

「綺麗だよね」

「そ、そうですか……?」

 

楓は自分の髪を押さえる。やっぱりふわふわしてる。

 

「うん。ふわふわしてるじゃん」

「あ、あんまり言われると……恥ずかしいです……」

「あ、ごめん」

 

俺は謝った。少しキモかったかな。

 

「いいですけど……女の子の髪ってみんなこんな感じだと思いますよ?」

 

楓は髪をぎゅっと押さえながら言った。かわいい。

 

「そうなんだ。なんか綺麗に見えたからさ」

 

こういう彼女がいたら幸せなんだろうな。少し遠慮気味でかわいい小柄な子。

 

 

 バスはしばらく進み、駅のバス停に着く。ここから電車に乗っていく。ただ、帰宅ラッシュ時間帯でホームに人は多い。楓も同じ方向らしく、一緒だ。

 

「この時間の電車って混んでますよね……」

 

楓から話しかけてくれた。それがなんとなく嬉しくて、俺は楓の顔を見て話す。

 

「苦手だったりする?」

「人混みは少し苦手です。朝とか、もみくちゃにされちゃって……」

 

大変そうだな。いつも会わないってことは、その時間に行かなきゃいけない理由でもあるんだろうか。

 

「時間ずらすのは?」

「朝はその時間で行かないとバスがなくて……」

 

バスの時間も関係あるのか。それだと大変だな。

 

「じゃあ俺が合わせるよ。朝何時?」

「えっと……7時半くらいに電車乗ります」

 

やっぱりピーク真っ只中だな。かわいそうだ。

 

「じゃあその時間に4号車あたりで待ってて。俺行くよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

電車がやってきた。楓の髪を靡かせ、電車が止まる。車内は座席が全て埋まり、立ち客がドア横に少しいる程度の混雑。ただ、ここからの人で混んでくる。

 

奥へ奥へと押され、反対側まで行ってしまった。ただ、次の駅はこっちが開くはず。

 

「楓、大丈夫?次こっち空くけど」

「多分、大丈夫です」

 

楓もまだ大丈夫そう。ただ、問題は次の駅から。

 

次の駅に着くと、人が一気に乗車。押し合い、身体同士が密着し合う。楓も俺に苦しいくらいに密着する。

 

「すみません、先輩……っ」

「全然大丈夫」

 

楓の顔は赤くなっていた。真っ赤だ。

 

「どうかしたか……体調悪い?」

「いえ、そんなことないです……あ………」

 

楓は俺の体に顔を押し付ける。顔を埋めてくるくらいに強く押し付けてくる。

 

「か、楓ちゃん?」

 

俺が聞くと、楓は顔を埋めたまま言った。

 

「痴漢……」

 

俺は楓の後ろ側を覗き込む。確かに楓のスカートの中に手が忍び込んでいる。

 

「スカートの中にズボンとか履いてる?」

「履いてないです……今日体育無かったので……」

 

ということは、直接下着に触れられる可能性があるってことだ。

 

俺は忍び寄っている手を掴む。それと同時に、楓の体がビクッと震える。当たってしまったか。

 

痴漢の犯人は次の駅で降りていった。逃げるんだったら最初からするな、という感じだが。

 

「あ、ありがとうございます……」

「うん。大変だよね」

 

俺は楓を少し押してしばらく開かないドアに壁ドンした。こうすれば俺が前にいるから痴漢もないはずだ。

 

「あ……」

 

楓は恥ずかしそうに俯く。少し我慢してくれればいいだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 楓のデスクは12番、俺が13番。これは固定で、俺が3年生になるまで変わらない。

 

14番のデスクは誰も使っていない。2年生は23人の在籍で、2人1年生が溢れ出ているが、1人で2人見ている人がいるため、溢れている人はいない。

 

ただ、満足な教えを受けていない1年生だったら少なからずいる。最悪な考えだと思うが、2年男子の目的は1年生で1番の美人の子。それ以外に当たった2年男子は雑になる。

 

俺はそんなことなく、聞かれたら答えているし、困っていそうだったら助けている。ただ、俺たちのちょうど後ろにあたる、21番デスクと22番デスクにいるところは違かった。

 

「あの、森先輩、これが──」

「分からないんだったら自分で調べろ」

 

辛辣な当たり。21番デスクの後輩も泣きそうなのを堪えてマウスをダブルクリックしている。検索サイトを選んだんだろう。

 

「森、いくらなんでもそんな対応はないんじゃないか」

 

俺は森にそう言った。

 

「何だ、事実だろ」

 

森に反省している様子は全くない。これは……

 

「先輩、ちょっと……」

 

楓が俺のYシャツの裾をくいっと引っ張る。

 

「どうかした?」

「話があるんですけど……いいですか」

「分かった。じゃあ穿孔室いこうか」

 

俺と楓は穿孔室に向かう。この時間は誰もいないはずだ。

 

穿孔室のドアを閉め、俺は楓の話を聞く。その話はさっきのことに関連した話だった。

 

「21番デスクの人、桃内美菜っていうんですけど、先輩がもらうことってできませんか?」

 

普通、他の人の後輩をもらうことはない。後輩とは1年間固定のペアだからだ。

 

ただ、今回は事情が違かった。あの状況であと11ヶ月続くと、いつどうなるか分からない。

 

「……」

 

俺は黙り込んだ。臨機応変に対応すべきか、決まりを守るべきか。

 

しかし、俺はすぐに結論が出た。

 

「森に聞こうか。いけたら14番デスクに座らせるから、14番デスクのPC電源つけといて」

「わかりました。すいません、お願いします」

 

俺はプログラム室に戻って森に聞いた。ただ、森は即答だった。

 

「森の後輩、もらっていいか」

「こんな奴いつでもくれてやる」

 

森はそう言って21番デスクの電源を強制的に落とした。それを顧問に見つかり、森は顧問に呼び出された。

 

「森、ちょっと来いよ」

「え」

「さっさと来いっつってんだよ」

 

顧問の先生はかなり怒っていた。PCを強制的にシャットダウンし、かつ後輩への発言。

 

結局、後輩は俺の元へ。楓が用意してくれていた14番デスクで桃内美菜はさっきの作業を続ける。

 

「美菜ちゃんだよね」

「え、はい……」

「調べなくて大丈夫だよ、俺が教える。コンパイルのやり方か」

 

俺は自分のコマンドプロンプトを見せながら説明を続ける。

 

 

 

 後輩2人相手だが、そこまで大変じゃなかった。2人は人の話を聞くのが得意だし、見て覚えるのは苦手でも、俺の言うことを覚えて実行するのはできていた。

 

「今日はゲーム作りを少しやっていこうか」

「ゲーム作れるんですか!」

 

美菜ちゃんが食いついてくる。

 

「多分イメージしてるゲームとは違うけどね」

 

俺は今日のために作った、ゲーム作成の基本を載せたスライドを自分の画面に映し出す。

 

「まず、今日作るゲームね」

 

今日作ってみるゲームは、テキストアドベンチャーと呼ばれるゲームだ。文字だけのゲームで、選択によって展開が変わるゲーム。

 

「長いですね……」

「そうだね。それで、俺ってダブルクォーテーションの中にアレを入れちゃいけないって言ったんだけど、覚えてる?」

 

俺が聞くと、楓が答えた。

 

「全角文字、ですよね」

「そう。プログラムに全角を入れるとエラー起こすからね。ただ、今回はダブルクォーテーションの中だけ、全角を入れてもいいよ」

 

ダブルクォーテーションの中に全角は使ってもいいのだが、それ以外に全角を使うとエラーを起こす。それを防ぐためにダブルクォーテーションの中に全角は使ってはいけないと教えていた。

 

「最初、ゲームを始めるってプログラムですね」

「どうすればいいんだろう……」

 

そういえば教えてないか。

 

「こういうときはif文を使うんだ。tabキーで字下げして、ifのあとに()を置いて、その中にやること置いて」

 

できるかどうか、それは2人に任せる。

 

 

 

 

 

 部活に新入生が入ってから2ヶ月、体育祭が近づいてきた。うちの学校の体育祭は競技数が多い。100mや障害物走、綱引きといった定番はもちろん、借り物競走やカップル走もある。カップル走は実際のカップルでなくてもいい。ただ、男女で走ることはカップルであることを事実上公言することになる。その場で考えなければならない。

 

ルールはスマートからゴールまで手をつないでいく。付き合っていない場合は普通に、付き合っている場合には恋人つなぎだ。あと、これは完全に運なのだが、レーンが1から4まであり、そのランダムな数字を言われる。言われた数字のレーンの組はゴールしたあとにレーンの数字×順位の秒数キスしなければならない。

 

「先輩?」

 

楓が俺の顔を覗き込む。

 

「なんか悩んでます?」

 

美菜が俺の後ろから声をかける。そのまま隣の14番デスクに座り、俺の方を見る。

 

「いや、体育祭だなーって」

「なんでしたっけ、あの、カップル走、みたいな」

 

美菜が思い出す。それで悩んでいたのだが。

 

 

「それ。相手誰にすっかなーって」

「男女で走ったらどうなるんですか?」

 

楓が聞く。なんだ、気になってる人でもいるのだろうか。

 

「カップルであることを公言することになるな」

「それ、人前で告白してるってことですよね……」

 

実際そうだ。だから男女で走る人たちはいないんだが。

 

「それがうちの学校だからな。仕方ないだろ」

「それで悩んでたってことですか」

 

俺は頷く。美菜はPCの電源をつけながら言った。

 

「先輩って彼女とかいないんですね」

「あぁ。だから出なくていっかなって」

 

美菜は少し楽しみにしてそうだが、カップル走、普通に気まずい。特に男子同士だと尚更だ。

 

「まぁ、それがいいですよね」

「借り物競走も出たくはないんだけど、まぁ出なきゃいけないし」

 

俺はプログラムのアプリを開き、今日やる予定のプログラムの準備を進めた。

 

 

 

 

 

 体育祭当日。

 

結局俺は100mと借り物競走に出ることにした。1本で勝負をかけるよりいい気がした。借り物が何になるかは運だが。

 

「柊、頑張れよ」

 

後ろから声をかけられる。

 

「海斗か。ありがと」

 

俺は100mの整列位置に向かった。

 

そして100m走が始まる。グラウンドのトラック4分の1周で、周りで見ている人もよく見える。

 

そんな中に最前列で応援している、楓と美菜が見えた。俺が前を通ると、楓の「がんばれ」と言う声が聞こえた。

 

俺はニコッと笑う。結果的に1位になり、生徒の席に戻るとすぐに楓と美菜がやってきた。

 

「1位おめでとうございます、先輩!」

「先輩って足速かったんですね」

「短距離だけだよ」

 

次は3年生の100mをはさみ、2年生の借り物競走になる。

 

俺の借り物競走はどんなお題が来るんだろうか、少し楽しみにしていた。過酷なものは嫌だが。

 

紙が洗濯挟みについていて、俺はその紙を取ってお題を見る。そこには「ボールペンをもってこい」と書かれていた。けど、たしか……

 

「あ、あった」

 

ポケットにボールペンが入っていた。いつも身につけてるからだ。

 

次のお題がラスト。俺は紙を開く。開いた瞬間、俺は1年生の児童席に走る。

 

「楓ちゃん、来て」

「え、あ、え?」

 

楓の手を引っ張る。ただ、お題の関係上このままじゃいけない。

 

「よっと」

 

楓をおんぶする。軽かった。

 

「ひゃっ!?」

 

俺はそのまま走っていく。ゴールには2位でフィニッシュ。まぁまぁいい成果だった。

 

「そ、それで……お題はなんなんですか?」

 

俺はお題の紙を楓に見せる。2行になって書かれている。

 

「大切な人と一緒にゴールせよ。ただし、おんぶだからね、ハート……」

 

楓は恥ずかしそうに俯く。今までにないくらいで、今にも逃げ出しそうだった。

 

「そういうこと。ほら、次1年の借り物競走だぞ」

「あっ、ちょっと待って下さい!」

 

楓は俺を呼び止める。何のようだろうか。

 

「ん?」

「このあと、3年のカップル走終わったら呼ぶので来てください」

 

楓はまだ顔を赤くして言った。何をするんだろうか。

 

「分かった。じゃあ、またあとで」

 

楓と俺は分かれた。俺はもう出る種目はないし、あとは応援席で応援してればいいだけだ。

 

 

 

 2年、3年のカップル走で今年もカップルであることを公言した組がいくつかあった。もう今年も後悔する人が多くなる。

 

「先輩、来てください」

 

楓が呼びに来た。もうそんな時間か。

 

「あぁ」

 

俺は楓についていった。

 

 ついていった先は、カップル走のスタート位置。いや、嘘じゃない。本当だ。

 

「え?」

「私、先輩のこと好きですから」

 

さりげなく、今両思いであることを告白していた。

 

スタート。手と手を絡み合わせ、恋人つなぎで手をつなぐ。

 

「今回は、3番レーンだ!」

 

実況が入る。俺たちは……

 

 

 

 

 

 俺たちは3着でフィニッシュ。レーンは3番。そう、キスの対象だ。

 

「9秒間、熱いキスを、どうぞ!」

 

急かされて、俺は楓の髪に触れ、顔をこっちに優しく触れる。

 

「楓、しよう」

「はい……っ」

 

俺は口を近づけ、楓とキス。9秒間で、それなりに長い。しかし、俺も楓もキスにためらいはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の帰り、学校から帰るところで色んな人に冷やかしのように言われたが、どうにか駅まで辿り着いた。遅れているようで、ホームには結構人が溜まっていた。

 

「先輩、どうして私を?」

 

楓が手をつないで言う。

 

「会ったときに思った。かわいいって」

「一目惚れってことですか。じゃあ私と同じです」

 

そういうやつだろう。結局、俺は楓が好きなんだから関係ない。

 

「あとどのくらいでしょうね……」

「さぁ……けど、10分遅れだったらそろそろだろ」

 

電車は混んでそうだが、この際ラッキーだ。

 

「先輩、あの、お付き合い、してるんですよね」

 

楓がもじもじして言った。

 

「そうだよ。どうかした?」

 

もしかして不満だったんだろうか。いや、そうはみえなかったけど……

 

「け、結婚とかは!」

「話飛んだな!?」

 

付き合い始めてすぐ結婚の話か。話の飛躍がすごい。

 

「だ、だって、付き合ったからには……あ、嫌でしたか……?」

 

そんなことはない。俺は首を横に振った。そもそも俺が好きだから好き合ってるのに、嫌なわけがない。

 

「えと……じゃあ、最初は同棲とか……」

「同棲ですか!?えっと、考えておきます……」

 

2人とも当たりが強かったり弱かったりして中々噛み合わない。ただ、それも良かったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 同棲にはかなりの時間がかかった。両親の許可や、俺が付き合うことへの許可もいた。さらに、安い立地などを探しているうちにかなりの時間がかかった。結局は2人で東大宮に住むことにしたのだが、俺はもう卒業し、就職してしまっていた。

 

「先輩、いってきます」

「もうそんな時間か」

 

俺は在宅勤務が主となった。週に1度くらいは出勤があるが、土曜だ。

 

「気をつけろよ」

「分かってますよ。先輩も待っててくださいよ?」

「わかってるさ。ほら、遅れるぞ」

 

楓は家を出て行った。

 

結婚は楓が高校を卒業してからにした。きりがいいからだ。

 

俺と他の女性との関係はほとんど無い。あるのと言えば母親と由真先輩、あとは美菜だけ。楓が知っている人だけだ。

 

 

 

 

 

 楓が帰ってくるのは19時半くらい。遅いのもあって少し淋しい。

 

「楓、来て」

「なんですか、先輩」

 

そうは言うが、楓も分かっていた。楓は後ろ向きで俺の上に座る。俺がこの体勢でハグして楓を吸いたいだけだ。ほら、よく猫を吸うとかあるだろう?あれの楓ver.だ。

 

「汗臭くないんですか?」

「あぁ。全く」

 

俺の栄養になってくれてるのだから、いいもんだ。

 

「すーっ」

 

楓を吸い続ける。楓は嫌がることなく俺に吸われていた。

 

「先輩、今どのくらいですか?」

「ん……80%くらい?」

 

楓は「じゃあ」と言って俺の方を向いた。足にまたがって、楓は大きく足を広げて俺に向かい合わせで座る。

 

「私も補給させてください」

「あぁ。もちろん」

 

楓は俺のことをぎゅっと抱き寄せる。そのまま肩と首の中間あたりを吸い始める。

 

しばらくすると、今度は首に口を付け、吸血鬼のように吸い始める。

 

「楓?」

「先輩の匂い……」

 

楓は俺の首を吸い続ける。だったらあそこにキスしてほしいんだけど……

 

「先輩、こっちもいいですか?」

 

楓は俺の唇を人差し指でつつく。

 

「どうぞ」

 

俺がそう言うと、楓は俺の唇を咥えた。たまに楓の舌が俺の唇に当たって気持ちいい。

 

「先輩、なんで口閉じてるんですか」

「え、だって……」

「キスじゃないですよ、これじゃ」

 

楓は再びキスをする。俺は少し口を開けた。これ、ただのキスじゃない気がする。

 

舌がたまに絡み合い、その度に、くちゅ、と口の中から音が鳴る。楓がたまに吸うのもあって、じゅるっと音が鳴ったりもする。

 

「んちゅ……ん……」

 

楓は俺の顔を押さえる。キスしたまま逃げられなくなった。楓の方が多く補給してるんじゃないかと思い、俺も吸い始めた。

 

「んぐ!?」

 

楓は慌てて俺から離れた。

 

「先輩!」

「ごめ」

 

楓はポカポカ叩いてくる。かわいい。

 

 楓の卒業式が近くなってきて、楓の両親が俺たちの家にやってきた。楓がいないときに来たため、当然のごとく卒業式関連だ。

 

「卒業式の日、楓に何かしたいなって思ってね」

 

楓のお母さんが言う。それは同感だ。せっかく高校卒業という節目なのだから何かしてあげたい。

 

「そうですね。でも、何をしたらいいんでしょうか」

「そうね……豪華なレストラン行っても楓は苦手だしねぇ」

 

豪勢なものじゃない方がいいということだろう。そうなると、いつもより少し良いものがいいだろう。

 

「どこか行けたら良いんだが……」

「そうですね……」

 

楓が平気そうな場所。言われてみると結構難しい。

 

両親も悩んでいて、やはり楓にあったものを探すのは大変なんだろう。

 

「ファミレスとか……」

「ファミレス?」

 

お母さんが聞き返した。

 

「はい。ファミレスくらいだったらそんなに豪勢でもないですし、楓も行きやすいんじゃないかと」

 

両親は一瞬険しい表情を浮かべたが、やがてにこやかに笑ってくれた。

 

「そうだね。いいかもしれない」

「なら、どこのファミレスにしましょうか」

 

両親の前に俺はスマホの地図を出す。ここにファミレスの一覧を映し出し、両親と一緒にどこがいいか選ぶ。

 

 

 

 

 

 楓が帰ってくるのもあり、16時までに済ませ、ちょうど両親と電車の中ですれ違えるような時間に両親は出て行った。

 

15分ほど経って、楓が帰ってきた。帰って来るなりためらいもなく俺の膝の上に直行。

 

「んー……疲れたよぉ」

「お疲れ様」

 

楓は俺の膝の上ですやすやと眠ってしまった。こんな子が今年卒業なのか。正直考えられない。

 

「もうすぐ私も先輩の仲間入りですね」

「あぁ。就職だもんな」

 

楓も卒業後は就職。俺と同じ道を歩むことになる。

 

「先輩の会社に入ろうとしてるんですけどね」

「そうか……は?」

 

今聞き捨てならないことが聞こえたような気がした。俺の同じ会社に入る?そんなことが聞こえた気がした。

 

「だから、先輩と同じ会社に入ろうとしてるんです」

「俺と一緒に働こうってか?」

「はい」

「来年度から週5出勤だぞ?」

「知ってます」

 

楓が俺の会社に、か。先輩後輩の関係が変わらないのは少し複雑だが、少し嬉しい気もした。

 

「分かった。頑張れ」

「はい!」

 

楓はニコッと笑って言った。

 

 

 

 

 卒業式当日、俺と、楓の両親が卒業式に出席した。楓の人生の節目に立ち会えて、なんか寂しい気が、おめでたい気が……

 

「葉山、楓」

 

楓の名前が呼ばれる。楓は少し緊張したような歩き方で卒業証書を貰う。

 

楓がこちらを振り返ると、一瞬だけ俺と目が合った気がした。いやまさか合うはずがないか。

 

と思っていると、楓がニコッと笑って口元を少し動かした。俺に気付いていたのだろうか。

 

「楓、笑ってたわよ」

「君に気付いたんじゃないか」

 

両親もそう思っているらしい。やっぱり、あの動きは気付いてるよな。

 

 

 

 

 卒業式が終わり、俺たちは楓たちを待った。楓はどんな顔をして来るだろうか。やっぱり卒業は悲しいから泣いてくるかな。楓もそういうところあると思うし。

 

「せんぱーいっ!」

 

遠くから近づいてくる声があった。ただ、楓じゃない。来たのはあの子だ。

 

「み、美菜ちゃん!?」

「卒業したのは私もですよ!」

 

期待してたのとは違う人に両親も驚いていた。何でこいつが楓より先に来るんだ。

 

「卒業おめでとう。このあとの進路は」

「大学進学です。先輩に教えて貰ったC言語使って」

 

そう言われるとありがたい。

 

「ちょっと、美菜ちゃん!」

「あ、楓ちゃん来ちゃった。先輩、またいつか」

「あぁ。頑張れよ、大学」

 

俺は美菜ちゃんに手を振って見送った。

 

楓が来てから俺と両親は楓を抱きしめた。楓は泣いていなかった。

 

「楓、もうついに大人なんだな」

「もう小さい頃とはちがうものね」

 

両親が成長を感動していた。そうだよな。ずっと見守ってきたんだから。ただ、これから楓を守るのは……

 

 

 

 

 俺は両親に少し話し、先にファミレスに行っているように言った。俺は今日必要なものを買って、市役所に行って貰ってきて、ファミレスに向かった。これから楓を守るのは……

 

ファミレスに着いて、俺は空いていた楓の隣に座った。楓は俺が来ると左肩にくっついた。

 

「先輩、待ってたんですよ」

「ごめんね」

 

もうファミレスに楓たちが着いてからは1時間くらい経っていることだろう。買いに行って、貰ってきてというのは時間がかかった。電車で行っても2時間くらいはかかった。

 

「……」

 

俺が言おうとする言葉が詰まる。

 

「柊くんは何か食べるかい?」

「あ、えっと……じゃあ定食でいいです」

 

お父さんが気を遣って言ってくれた。

 

定食が来て、少し食べてから俺はさっき言おうとしていたことを楓に言った。

 

「楓、卒業したからさ……」

 

俺はカバンの中から立方体の箱を出す。

 

「いいかな」

 

俺は箱を開ける。

 

結婚指輪が入っている。楓は口を開けたままでいたが、ゆっくり判断して言った。

 

「……はい。」

 

俺はその次にこれを出す。これは両親にも言っていなかった。

 

「えっ、婚姻届……」

 

楓は泣きそうになる。今日のビッグイベントかな。

 

「結婚してくれ」

 

楓は涙を少し流しながらもいつも通り、ニコッと笑って俺に返事した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までありがとうございます。執筆者の月島柊です。

今回はハッピーエンドでしたが、次回作は少し重い話しにしようかと考えています。最終的にはハッピーエンドになると思いますが。バッドエンドは得意じゃないんですよね。

さて、ここ最近はジメジメとしてきて、私の住んでいる関東でも梅雨入りしました。暑いですね。まぁ、暑くなってくると夏の長期休暇が来るので少しは楽しく思えますが。

気温が高くなくても湿度が高い。もしくは両者共に高かったり、夏は気候面では嫌ですが、1番の長期休暇は夏なのでね。楽しみたいと思います。

そうだ、たまにではありますが、私もTwitterやってるんです。ぜひ最後のIDを検索してフォローしてみてくださいね。

それでは、また次回の前書きで会いましょう!

6月10日(土)22:50執筆完了 月島柊

Twitter @Tsukishimasyu20
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