「ごめんね、しばらく実家行かなきゃいけなくて」
ポニーテールを結んで、凪紗が俺に言った。2年前の夏だった。
「どうして急に」
俺が聞くと、凪紗はいつもとは裏腹に暗い声で言った。
「お葬式と、パパのやってる会社のヘルプ行かなきゃいけなくて」
「そうか……どのくらい」
俺が聞くと、凪紗は指を2本立てた。最初はそんなに長くないだろうと思った。
「2週間?」
凪紗は首を横に振る。
「2ヶ月?」
凪紗はまた首を横に振る。
「2年……」
凪紗は小さい声で言った。俺も2年も凪紗に会えないのは寂しかった。だが、俺はこう言った。
「行ってきな」
凪紗は一瞬驚いたが、こくりと頷いた。
凪紗が出発する直前、凪紗は俺に抱き付いて言った。それは今でも覚えている。
「まだ柊くんのことが好きだったら、2年後の今日、帰ってくるね」
凪紗はそう言って実家に帰った。
それは今でも覚えている。今日は凪紗が実家に帰ってから1年と364日。明日が凪紗が帰ってくる日だ。向こうがまだ好きであったら、だが。
凪紗が実家に行ってから1ヶ月くらいは毎日電話していたが、それからはヘルプが忙しくなったのかほとんどしなくなった。
「明日か……」
自炊できないせいで、俺の食事はいつしかバランス最悪になっていた。コンビニのおにぎりが主食で、一汁三菜など一切なかった。
「凪紗……」
しばらく話せてないし、声も聞けていない。最後に声を聞いたのは去年の大晦日。年越しだから、と電話したのが最後だ。
2年前は俺も高校卒業したばかりで、給料もそれほど高くなかったが、今は成果が認められ、今の月収は26万で、平均より高い。まぁ、2年前から有り余っているわけだが。
そして凪紗が帰ってくる日になった。連絡などはないまま、もう午後になっていた。冷房をつけて、凪紗を気持ちよく迎える準備はできている。
ピンポーン
俺の家の呼び鈴が鳴った。もしかしたら凪紗かもしれないと思い、俺は玄関に走っていき、ドアを勢いよく開けた。
「はい!」
来たのは凪紗
ではなく、宅配便だった。そうだ、通販頼んでたんだ。
「あ、えっと、サインかはんこを……」
宅配便の人も困っている。それもそうだ。急に勢いよく出られたのだから。
「すいません……」
俺ははんこを押し、通販で買ったものを受け取った。
通販で買ったのは凪紗の好きだった飲み物の24個入りの箱。まぁ凪紗が来る前に来てくれたのはいいことだ。
そして夜になり、時刻は20時を回った。ここまでくると、もう凪紗は来ないんじゃないかと思ってしまう。あと4時間もしないうちにで明日になる。やっぱり、凪紗は来ないんじゃないだろうか。
21時を過ぎた。もう帰ってこないと思い、俺は風呂に入る準備を始めた。入ってるうちに来るなんてこともないだろう。
風呂に入っているときも、凪紗のことは考えていた。ただ、帰ってこないんだったらもう待っている意味はないのではないか。買ったものも、意味は……
「はぁ……」
ため息をつく。今の自分に、状況に呆れた。もう10時過ぎてるんだぞ?もう来るはずがないだろう。
ピンポーン
また呼び鈴が鳴った。俺は慌てて服を着て出た。だが、また宅配便とかだろうな。俺は宅急便だと想定して元気いっぱいでは無い声で言った。
「はい」
そこまで期待せずに出た。
「元気ないな~」
俺はその人のことを見る。
「っ!」
そこには、ポニーテールだった髪を下ろし、大きなキャリーケースを持った女の子がいた。いや、もう女性か。
「凪紗!?」
「忘れてたとか言わないよね?」
凪紗は少し不機嫌そうに言う。
「まさか。ずっと来なかったから不安だったんだぞ」
「ちょっと遅かったかな。渋滞ハマっちゃって」
渋滞?一体何のことを言ってるんだ。深夜バスで帰ってきたのか?いや、そしたらもっと早いだろう。
「渋滞って?」
「あ、車買ったの。柊くんの家の車庫、2台分空いてたなーって。それで、1台分だけ余ってたから」
あ、1台分しか余ってないの俺のせいだ。
「1台俺のなんだよ。なんだ車買ってたのか」
凪紗は重そうなキャリーケースを持ち直す。結構重そうだな。
「とりあえず、おかえり」
俺は家の中に凪紗を通す。
「失礼しまーす」
「自分の家だろ」
凪紗は「てへっ」と舌を出す。こういう天然っぽいところも好きだ。
「ん?柊くん、なんかいい匂いするね」
「風呂入ってたから。まだコンディショナー流してない」
「うそ、なんかごめん」
「いいよ、凪紗だったら」
凪紗はキャリーケースから荷物を色々出す。2年ぶりの家で、少し緊張でもしてるのか、動きがぎこちない。
「ん、なんだ、その写真」
凪紗のキャリーケースから1枚の写真が出てきた。プリクラだろうか。
「あ、それ──」
凪紗が隠すようにするが、見えていた。
「この男……見たことないな」
凪紗の実家は青森で、凪紗の両親と周辺の家の人としか面識はない。それもあるのかもしれないが、少し年上くらいの男と2人で写っていた。
「そ、それは……」
ショックだった。2年の間に凪紗には別の彼氏ができてたか。
「そうか……そうだよな、2年だもんな」
さっきまで動きがぎこちなかったのもこれが原因か。
「ち、違うの!」
「何が違うんだ。この写真のお前、すごく楽しそうじゃないか」
2年の間に変わってしまったらしい。
「それ、お父さんの同僚の息子さん!」
「え?」
お父さんの同僚の息子さん?
「ヘルプあったときに撮ったの。お父さんたちにも言ったし……」
「だからって、ダメだろ。俺の許可無しに他の男と仲良くなったら」
俺はそう言って風呂に向かった。体を洗うためだ。コンディショナーも流さないと。
リビングに戻ると、消えたテレビの前で大人しくしている凪紗がいた。
「凪紗」
俺は凪紗に後ろから抱き付いた。なに落ち込んでるんだ。
「俺以外の男と仲良くなるな」
「ごめんなさい……私、別れた方が──」
「ふざけたこと言うな!」
俺は凪紗をぎゅっと抱きしめる。苦しいと言おうと知らない。
「俺の隣に、ずっといればいいんだよ」
凪紗は少しずつ明るくなっていき、俺の顔を寄せる。
「うん!ずっと隣にいる!」
凪紗はキスする寸前まで近づく。
浴室から凪紗の鼻歌が聞こえてくる。こんな光景も久しぶりだな。俺がリビングにいても外の雑音しか聞こえなかったし。
「いいなぁ、彼女って」
俺は改めてそう思った。
凪紗はシャワーで髪が少し濡れた姿で出てきた。1番男がそそられる姿だろう。
「柊くん、今日も一緒に寝るよね」
「言ったろ?ずっと俺の隣にいろって」
凪紗は俺に抱き付く。寝に行こうとしているが、その前に髪ぐらい乾かさないと。
「凪紗さん、髪乾かすよ」
「あ、おねがーい」
俺は凪紗の髪を丁寧にドライヤーで乾かしていく。凪紗、ずっとポニーテールだったのにいつの間に下ろすようになったんだ。
「凪紗、いつから髪下ろすようになったんだ」
「去年くらいかな。気分転換で」
かわいいから別にいいんだが、新鮮だ。
ベッドに入ると、凪紗は俺にくっつく。ベッドはダブルで、昨日まではダブルベッドを1人で寂しく使っていたが、今日からはまた2人で使うことになる。
「柊くんは女の人と関係持たなかったの?」
「持たなかった。だって凪紗がいるし」
「好きっ」
凪紗は俺の腹に抱き付く。ああ、幸せだ。こんなに至福の時があっていいのか。
「凪紗、明日から仕事復帰なのか」
「ううん。明後日からだよ。柊くんは?」
「ごめん、仕事。今お盆前で忙しいんだ」
これ
このあと出張も入ってるし、忙しい。それは明日言うことにしよう。凪紗も眠いだろうし。
「凪紗、眠いか」
「うん……おやしゅみ……」
凪紗は抱き付いたまま眠った。もう何でもいい。凪紗が帰ってきてくれたから。
翌朝、俺は仕事の支度中に凪紗に言った。昨日の出張の件についてだ。
「凪紗、今週の金曜と土曜出張でいない」
「え……金曜日出発?」
「うん。土曜日の夕方くらいに帰ってくる」
凪紗はズーンと落ち込んだようだった。そんなに落ち込むか。
「どこ?」
「仙台」
俺がそう言うと、凪紗は椅子に座って言った。
「お土産、お願い」
「おう。分かってる」
俺は凪紗の頭を撫でた。ここから職場まで距離があるため朝は早い。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい。帰ったらいっぱいしよ」
言い方に語弊がありそうだったが、それはともかくとして俺は職場に向かった。
帰りはなるべく早くして、20時には家に着いた。家に帰ったら今までとは違う。凪紗がいるからだ。
俺は玄関のドアを開け、リビングのドアを開ける。凪紗は今何してるんだろうか。
「ただいま」
「おかえり!」
凪紗は俺に飛びつく。愛情表現としては100点満点だ。というか、これで今日の仕事の疲れが吹っ飛ぶ。
「夕飯できてるよ!」
「お、助かる」
凪紗はキッチンに行って夕食を取りに行く。久しぶりにコンビニのおにぎりじゃない食べ物が食べられる。
「はい、どうぞ」
凪紗は俺のことをじっと見つめ、俺からの味の感想を求めている。
「どうどう?」
「美味しいよ。さすが凪紗だね」
凪紗のご飯は本当に美味しい。2年ぶりに食べたが、やはり美味しい。2年前の味もまだ覚えている。
「えへへ~」
凪紗はニコッとする。かわいい。
夕食を食べ終わると、俺はお風呂に入るために準備を始めた。凪紗は俺の後ろをずっとついてくる。きっと、そうだな。
「一緒に入るか?」
「入る」
俺と凪紗は一緒に風呂の脱衣所に行き、服を脱ぐ。2年前って一緒に入ってたりしてたかな。そんな覚えはないんだが。
「初めてだね」
「やっぱりそうだよな」
凪紗もやっぱり初めてだと思っているらしい。
「うん。同棲してるみたいじゃない?」
「だな。いっそ結婚するか?」
俺がそう言うと、凪紗は顔を赤くした。まだ恥ずかしかったかな。
「じ、実は……」
凪紗は俺の方を見ないで言った。
「婚姻届、ある……」
「あんのかい」
俺は凪紗にくっつく。
「いつ貰ってきたの?」
「きょ、今日……」
考えることって全部同じなんだよな。なんで同じなんだろうか。
「結婚指輪って買ってないよな」
「うん。それはまだ。どうして?」
「いや、俺が買おうと思って」
凪紗は裸のままで密着する。俺は少しくっついただけだったが、凪紗は密着してくる。
「ありがとう、柊くん」
「あぁ」
凪紗のことだったらなんでもしてあげられる気がしてきてしまう。甘やかしすぎかもな……
出張当日、凪紗は朝早く起きて俺を見送りに来てくれた。朝6時なのもあって、凪紗も少し眠そうだった。
「凪紗、良い子にしてろよ」
「してるってば。大丈夫」
俺は正直家を出たくなかった。凪紗と離れるのが嫌だったのだ。今日1日ずっと会えないし、明日も半日会えない。我慢できない。
「……行ってきます」
俺はその気持ちを堪えてそう言った。
「待って!」
凪紗は俺を呼び止めた。何の用だろうか。
「ぎゅぅ」
凪紗は背後からハグした。俺の気持ち、分かってたのか。
「ありがとう。また明日ね」
「うん……いってらっしゃい」
俺は家を出た。
最寄りの鶴川駅から小田急線に乗る。鶴川駅には各駅停車と通勤準急、準急しか止まらず、上り方面のこの時間は各駅停車だけ。
6:25発各駅停車新宿行きで途中の新百合ヶ丘まで向かい、新百合ヶ丘で千代田線直通の急行我孫子行きで大手町まで行く。
各駅停車新宿行きが来て、出発すると、少し寂しい気持ちになった。いつもはならないのだが、今日は会えない時間が長いのもあって寂しくなる。
急行我孫子行きに乗り換え、大手町まで向かう。凪紗からLINEが来て、俺はすぐにLINEに反応した。
凪〈時間に余裕できたら電話しよ!〉6:38
柊〈いいよ。今日休みだっけ?〉6:38
凪〈仕事だけど、柊くんと電話したい〉6:39
柊〈忙しかったらいいからな〉6:39
凪〈大丈夫。頑張るから〉6:39
そうして連絡は終わった。ホテルに着いたら連絡しようかな。それまであんまり余裕ないし。
大手町には7:20。10分ほど歩いて東京駅の新幹線ホームに向かう。7:32発のはやぶさ5号新青森行きに乗るため、余裕はない。
俺は早足で新幹線の改札に向かう。切符はsuicaにしているため、今買う必要はない。
早足で行った結果、新幹線ホームに7:29に着くことができた。新幹線に乗り、指定した席に座った。
1人で座っているため、相席になる。東京では相席にはならず、7:32、時間通りに出発した。
大宮まで来て、相席になった。大宮の次は仙台。栃木、福島県内の駅には止まらない。
「あっ」
隣の女性のスマホが俺の足に落ちた。
「すいませんっ!」
俺はスマホを拾い、女性に渡す。しかし、女性も取ろうとして俺の足下に屈む。俺の太ももに女性の頭がぶつかる。
『すいません!』
お互い同時に謝る。それが少し面白くてお互いに笑った。
それから、女性の名前が深雪(みゆき)であると知り、お互いの名前を知って少し親しくなった。
「仙台出張ですか。私もなんです」
「そうなんですね。どこの企業ですか?」
俺がそう聞くと、深雪は名刺を渡す。
「こちらの会社です」
「あれ、この会社……」
何か聞き覚えがある会社だった。
「知ってました?」
「はい。聞いたことがあって」
俺も名刺を渡す。
「この会社なんですね。知ってます」
お互いに知っている会社だった。まぁ、そんなことよくある話だろう。無名な会社ってわけでもないし。
「帰るのって明日ですか?」
「はい。明日の午後に」
「そうなんですね。はやぶさ32号だったりします?」
俺は買っていた切符を確かめる。こまち32号、13号車5番D席だった。
「俺こまちの方ですね」
「そうでしたか。だったら違いますね」
深雪は切符を見せる。はやぶさ32号の7号車8番A席だった。
「時間は一緒ですね」
「そうですね。また会いそうですね」
深雪はふふっと笑った。
仙台に着くと、出張先の仙台支部に向かった。いつもは新宿の東京本部。そこからの出張だ。
「本部から出張の月島です。よろしくお願いします」
周りから拍手が起こる。俺は仙台支部との話し合いと、会社の調査でやってきた。
「それでは、月島さん、会議室の方にご案内します」
俺は仙台支部の社員についていき、会議室へ入る。
会議室に入ると、もう相手が座っていた。来るのが遅かっただろうか。
「すいません、遅くなってしまいました」
「いえ。どうぞ、座って下さい」
俺は椅子に座る。相手の顔を見ると、俺は座っていた椅子をガタンと鳴らすように立った。
「深雪さん!?」
「柊さん!?」
まさかの新幹線で相席だった人が今日の相手だったとは……
「えと、とりあえず気楽な感じでいいですよ」
「あ、はい。それでは──」
会議が始まった。
会議は3時間ほどやって、そのあと仕事もやって、気付けば18時になっていた。
「柊さん」
深雪さんに呼ばれた。俺は深雪さんの隣に立つ。
「どうしました、深雪さん」
「このあと、一杯どうですか?」
飲みの誘いだった。このあとは時間もあるし、いいか。
「いいですよ。いきましょう」
俺は深雪さんと2人で飲みに行った。
居酒屋に着いて、俺たちは1杯飲みはじめる。
深雪さんはお酒に弱く、1杯飲んだタイミングでもう酔っていた。早すぎる。
「柊さ~ん、明日ってひまなんれすか~?」
ダメだ、これは。もう酔いすぎて手に負えない。
「午前は仕事だけど」
「ひまじゃないんれすね~、えへへ~」
もう酒は飲まないようにしておいた方がいいんじゃないか……
「柊さん、白雪さんってしっれますよね~?」
呂律が回ってない。ただ、凪紗のことを言っている。
「なんで凪紗のことを知ってるんですか」
「同級生なんれす~!結婚したってきたかりゃ、名前柊さんだったし」
おお、なんという繋がり。世界って狭いんだな。
「そうですか。凪紗と仲良かったですか」
「仲良かったれすよ~!」
深雪はお酒を置いた。もう飲むなよ、深雪さん……
居酒屋を出て、深雪さんを、深雪さんの部下に預けた後、俺は予約していたホテルに向かった。もう20時を過ぎていた。凪紗と電話しなきゃいけないのだが、少し遅くなってしまった。
すぐにホテルの部屋に着くと凪紗に電話した。
《もしもし》
「凪紗。遅くなってごめんね」
《いいよ。そっちも大変だろうし》
「そうか。あ、言い忘れてたんだけど、明日こまち32号で帰る」
《そうなの?じゃあ迎えに行っていい?》
「暇だったらいいけど。無理するなよ?」
《大丈夫だよ。どうせ暇だもん》
そんなに暇だったか、凪紗って。
「じゃあお願い」
《うん!》
「じゃあ、おやすみ」
《おやすみ》
俺は電話を切った。明日の16:31発、はやぶさ・こまち32号東京行きで帰る。仕事は午前で終わるから、お土産とかはその時間で買う。
翌日、俺は東北支部で午前分の仕事をしていた。そこまで量は多くないため、13時までには終わりそうな量だった。
すると、俺のスマホのバイブが鳴った。俺がスマホを見ると、凪紗からの電話だった。仕事中で分かってるはずなのに、なんで電話なんか。凪紗は仕事中に電話をかけてくる人じゃないのに。
俺は心配になって、電話を取るため、会社の部屋から出た。
「凪紗?どうしたんだ」
《柊くん……ゲホッ、ゲホッ》
咳き込む凪紗。
「凪紗、大丈夫か?」
《う、ちょっと風邪を……ゲホッ、ゲホッ》
結構酷そうだ。
「風邪、耐えれそう?」
《うん……怠いし頭痛いけど、じっとしてれば……》
心配だ。凪紗がそんなことになることはなかったから。
「分かった。帰るまで耐えろよ」
《うん……》
俺は電話を切った。まさか凪紗がそんなことになるとは……
「どうしたんです?柊さん」
深雪が俺に話しかけてきた。
「凪紗が風邪を……」
「えっ!」
深雪は驚いていた。やっぱり昔から丈夫だったんだろう。
「早く帰っていいですよ、柊さん」
「え」
「半分受け持つので、残り半分だけやって、凪紗のところに行ってあげてください」
深雪は俺にそう言ってくれた。
「でも……」
「いいですから、早く!」
俺は残っていた仕事を早急に終わらせ、予定の13:00より1時間巻きの12:00に全て終わらせた。保存可能な簡単なお土産だけ買い、俺はみどりの窓口に行った。
切符を変えてもらい、「乗変」と書かれた切符をもらう。こまち32号13号車5番D席から、13:31発、こまち22号16号車8番C席に変えた。凪紗が心配で、早く帰りたかったのだ。
13:31、時間通り出発。東京まで行き、中央線と小田急線で鶴川まで帰る。
本来19:11頃に着くが、16:10に到着。走って凪紗のもとへ行き、凪紗の部屋に入る。
「凪紗!」
凪紗の体が飛び跳ねる。
「柊くん……!」
凪紗は驚いた様子だった。ただ、いつもより確かに元気はなさそう。
「良かった。大丈夫だったか」
「うん……ごめんね」
凪紗は両手を広げて、俺に向ける。
「何かいるか?」
「柊くんの体……」
俺は凪紗に近づく。凪紗は弱い力で俺を抱き寄せる。
「あ、お水欲しい……」
「分かった。取ってくるね」
俺は水を取りに行った。
凪紗に水を持って行くと、凪紗はぐったりした様子で俺を見た。
「凪紗、今日は大人しく寝ておけ」
「うん……」
凪紗は俺から水を受け取った。俺は一緒にいることができず、凪紗の部屋から出た。移る可能性があるからだ。
翌朝、休みなのもあって俺が起きる時間が遅くなった。俺はゆっくりめを覚ました。
「ん……」
目を開けると、そこには凪紗が俺の上に乗っかっていた。
「あ、起きた」
俺は凪紗をハグした。
「おはよう、凪紗……」
「おはよ、柊くん」
凪紗は俺の顔の横に自分の顔を近づける。ロングヘアの髪が俺の顔に当たる。
「風邪、治った?」
「うん!もう完璧だよ」
凪紗は俺の体を起こす。まだ少し眠いんだが……
「柊くん今日休み?」
「あぁ。出張明けで」
凪紗は俺の体を起こしきると、背後から抱き付いて言った。
「じゃあずっと一緒だね!」
「そうだな。よし、どこか行くか」
「うん!行こ行こ!」
着替えて、どこかのテーマパークにでも行こうと思い、凪紗と一旦分かれる。
その後、凪紗の着替えと準備を待って家を出た。
「行こう、柊くん」
「あぁ。行こう」
俺と凪紗はテーマパークに向かった。風邪も治れば凪紗はいつもの感じに戻る。これこそ凪紗だ。