終着点への道   作:月島柊

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〈奴隷と俺〉

 

 「疲れた……まだ掃除も終わってないし……」

 

こんな弱音を吐いているのは、フレンスドラの中央部にある、所謂「豪邸」に住むバステ・セトニクロ。

 

豪邸といっても豪華ではない。よく皇族たちが住んでいるあの大きい建物とほとんど同じ大きさの広さを持った家で、部屋も多い。約10年前までは父と母、それに加えて義妹と義姉と暮らしていた。しかし、父と母が病により他界。それからは俺と義理の姉妹が住んでいたのだが、6年ほど前に義姉がフレンスドラから中枢機能をもつイレグレンダに引っ越した。そのあと義妹もついていき、俺1人になった。

 

もちろん、1人でいくつあるか答えられないほどの部屋をを掃除する。疲れる。

 

「そろそろメイドでも雇うか……?いや、でも面倒だよな。毎日玄関に行かないといけないし……」

 

結局そうやって今まで逃げてきた。なら、もういっそのこと探してみるか。俺はそう決意した。

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は家を出てフレンスドラのまち中へ向かった。町なかにだったらメイドを紹介している店ぐらいあるだろう。

 

が、メイドはどうやら雇う人は少なくなってきているらしく、メイドを紹介している店はもうなかった。

 

途方に暮れて自宅に戻ろうとしている途中、鉄格子で囲まれた、牢屋のようなものを運搬している人とすれ違った。牢屋の中には3人少女がいて、馬が2頭でその牢屋を引っ張っていた。俺はその馬を操縦していた男に話しかけた。

 

「その中にいるのは誰だ」

「あぁ、これから奴隷として売るとこなんスよ」

 

奴隷か。この男は奴隷商人ということか。

 

「親から捨てられた子を引き取ってるんスが、勝手が悪いんスよね」

 

奴隷商人の男は檻の中の少女たちを無知で叩きつける。いくら奴隷だからといって、この扱いは受けるべきではない。しかも、この少女たち、意外と使えそうだ。

 

「なら、俺が今買ってもいいか」

 

俺がそう言うと、奴隷商人はしばらくフリーズした。

 

「買うって、こいつらを!?」

「そう言ってるだろ。それ以外何を買うんだ」

 

奴隷商人の男は落ち着くまでに時間がかかったが、どうにか落ち着いたようだ。

 

「価格はどのくらいだ」

「交渉で決めるっス」

 

交渉か……命を買うわけだからな。100ペクトでは足りないだろう。

 

「300ペクトでどうだ」

「こいつら奴隷ッスよ?300ペクトなんて高いですって」

 

300ペクトで高いか。

 

すると、奴隷商人は驚愕的な価格を打ち出してきた。

 

「35ペクトでどうスか」

 

35ペクト。そこら辺で売っている、少し高い食料が買えるくらいの価格だ。ただ、こんな価格を言い渡されても少女たちは何も言葉を発さない。ずっと俯いたままだ。

 

「お前、正気か?」

 

俺は奴隷商人に聞き返した。

 

「正気ッスよ」

 

命をこんなに軽々売るとは……

 

「なら50ペクトだ。50ペクトで買う」

「仕方ないっスね。了解っス」

 

奴隷商人は少女たちの檻を開ける。首輪も何もついていないため、逃げるんだったら今だが、少女たちは逃げなかった。

 

やがて首輪が奴隷商人につけられ、俺に首輪と繋がった鎖を3つ渡す。

 

「これが首輪の鍵ッス。まぁ、使わないでしょうけど、念のためッス」

 

奴隷商人が首輪を渡す。念のためって言われてもなぁ。

 

そう言い残し、奴隷商人は軽快な面持ちでその場をあとにした。その場に残された少女3人のうち1人は地面に膝をつき動けずにいた。残り2人は立ててはいたものの体力はほとんど無さそうだった。

 

「えっと、君たち、ご飯とかは食べていたのか」

 

少女たちは首を横にふる。ここまで何も食べずにいたというのか。なら、まずは食べ物を与えたほうがいいだろうか。

 

「なら、まずはなにか食べよう。……君たちの名前聞いてもいいか」

 

少女たちは何も話さない。なぜ質問しても話さないのだろうか。それに、怯えているような気もする。

 

「もしかして、何も話しちゃいけないとかある?」

 

俺がそう言うと、少女たちはうなずいた。そうか、話すことを禁止されていたのか。

 

「今は俺が主人だ。君たちは自由に話してくれていい」

 

俺がそう言うと、膝をついて座り込んでいた少女が口を開いた。

 

「……ミリティア、です……」

 

それに続いて、残りの2人も言う。

 

「アリティアです……」

「ソレアです」

 

ミリティア、アリティア、ソレア。何か最初の2人の名前が似てるな。

 

「アリティアとミリティアは姉妹か何かか」

 

俺がそう聞くと、ミリティアとアリティアは顔を見合い、しばらくしてからアリティアが言った。

 

「双子、です」

「双子か。髪型は変えてるんだな」

 

髪型は全く異なり、短く切られたミリティアと、すっかり伸びきったようなアリティア。双子の割には全く違う。

 

「……前のご主人様にそうされました。紛らわしいと……」

 

そういうことか。ならば2人が望んでこうしている訳ではないということだ。

 

「君たちはどうしたい。2人とも同じような感じがいいか」

 

俺がそう聞くと、2人はこれまでよりも大きく頷いた。

 

「なら、そうすればいい。俺のもとにいる限りは君たちの自由にしていい」

 

生活は自由であるべきだ。制限される生活は誰も望んじゃいない。

 

「それじゃ、とりあえず何か食べに行くか。美味しい店を知ってるんだ」

 

3人は遠慮気味だったが、俺が歩くとしっかりと俺についてきた。あくまで奴隷。そう考える人もいるだろうが、アリティア、ミリティア、ソレアの3人はれっきとした人間だ。俺と同じ。扱いは変えないべきだ。

 

 

 

 すぐ近くの、俺の行きつけの店に着くと、3人の首輪を鍵を使って外してやった。店の中で首輪をつけてても視線を感じるだろうし。

 

「いっぱい食えよ。お金だけはあるからな」

「いいんですか……?これとか、65ペクト……」

「私たちより高いですよ?」

 

私たちより高い、か。普段聞くことのない言葉だ。

 

「君たちの価値はもうお金じゃ計れないよ。大丈夫、こう見えても剣士でお金はもらってるから」

 

そう、俺は剣士だった。そのせいもあり、忙しすぎて掃除まで手が回らなかった。

 

「じゃ、じゃあ……これで……」

 

手を震わせてソレアが指差した。それは55ペクトと書かれた、ハンバーグだった。

 

「これでいいのか?」

「はい……」

「もっと食っていいぞ」

 

俺はそう言って、その場にあるタッチパネルからハンバーグランチとサラダ、牛乳を頼んだ。合計は80ペクト。これを頼めば少しは遠慮が無くなるだろう。

 

「じゃあ、ジュースも追加で……」

「あぁ。ミリティアとアリティアは」

 

俺が聞くと、2人は同じものを揃って指差した。4人合計は235ペクト。この街の平均月収が300ペクトなのをみると、中々高いが、俺の月収は比にならない。剣士に加え、この街の保護、さらには母さんや父さんが遺していった仕事も全て受け持っているため、合計は実に5840ペクト(使わないが、日本円で¥5,980,160 奴隷の値段は1人¥72,000)。全然はした金だ。

 

しばらく待つと、料理がやって来た。みんなでそれを食べ始める。3人も久しぶりのまともな食事を頬張っている。

 

「詰まらせるなよ」

 

俺がそう言ったときには、ミリティアが喉に詰まらせていた。

 

「言わんこっちゃない。ほら、大丈夫か」

 

俺は背中をさする。ミリティアはゆっくりと落ち着いてきて、少しずつ解消していった。

 

「あ、ありがとうございます……」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 家に着くと、俺はまず3人の服装について言及した。とはいっても、俺はそれらしい女子の服なんて持っていない。メイド服なんてもってのほかだ。

 

「着替えがないな……」

「お気になさらず……私たちはこれでいいので……」

 

そんなわけにはいかないだろう。過ごしづらいだろうし、体だって汚いのは嫌だろう。

 

「いや。じゃあ、今日は俺の服を着るといい。3着くらいだったらあるだろ」

 

上だけは俺の方がサイズは大きいため着れる。ただ、下に至ってはシェアはしにくい。

 

「下は、今下着とか履いてるか」

「はい」

 

そうか。なら今日はそれで我慢してもらわないと。

 

「明日買いに行こう。今日はそれで我慢してくれ」

「全然いいです。私たちを引き取ってくれたので、感謝してます」

 

ソレアが頭を下げると、みんなが頭を下げた。うっ、いい子過ぎる。

 

「さ、さぁ。君たちの仕事を言うからね」

 

俺は3人に告げた。

 

「週に2回、この家の清掃を頼みたい。あと、料理を作れるんだったら作ってほしい。以上だ」

 

3人はポカンとした表情を浮かべる。

 

「そうか。月収を言ってなかったな。月収は90ペクトでどうだ。平均月収には到底及ばないが、90ペクトは最低でも与えよう」

 

3人はまだ唖然としている。おかしいな。何が疑問なのだろうか。

 

「年収は1080ペクト。どうだ」

 

俺は3人に給料を言い渡した。3人はポカンとして俺のことを見ていた。

 

「足りないか」

「い、いえ!十分すぎます!」

 

そんなにか。だが、この子たちにはなるべく優しくしてあげたい。給料もそうだが、扱いも考えなくては。

 

「じゃあ、まずは風呂に入ってこい。そこの突き当たりにあるから」

 

俺がそう言うと、ソレアが俺に近づいてきた。

 

「ご主人様は、どうするんですか……?」

「俺は君たちの服を持ってくるけど……どうかしたか」

「あ、いえ……あの、お、お風呂が怖くて……すみません……」

 

そうか。しばらく入ってなかっただろうし、前の主人からのトラウマもあったりするのだろうか。

 

「ならここで少し待っててくれ。一緒に入ろう」

「あ、ありがとうございます!」

 

ソレアは上が揺れるほど速く頭を下げた。

 

女の子と一緒にお風呂に入るのは初めてなのではないだろうか。そういう人はいなかったし。あ、妹と入ったことがあるか。俺がまだ小さかった頃に。

 

「それ以来かぁ……」

 

しかも家族内の関係ではないし、少し緊張する。ソレアも、アリティアもミリティアもみんな捨てるにはもったいないほどの美少女だし、そんな子と入るなんて……いや、まだアリティアとミリティアがいないだけいいか。

 

俺は着替えを3人分取り、ソレアが待っているところへ向かう。

 

ソレアは広間の真ん中でアリティアとミリティアたちと一緒に待っていた。

 

「ソレア、行くぞ」

「はい」

「分かりました」

「行きます」

 

なんで3人が反応するんだ。俺と入るのはソレアだけだったはずだが。

 

「……ミリティアとアリティアもか」

「怖いみたいなので、誘いました。ダメ、でしたか?」

 

ソレアはふるふると震えながら言った。流石に否定はできないか。

 

「いいよ。1人も3人も変わらない」

 

ホントは変わるけど。だって1人だけであんなに緊張してたのに3人だぞ?変わるに決まってるだろ。

 

俺は半分流される形で風呂まで行った。3人が汚かった服を脱ぎ、洗濯機の中に入れる。3人の肌が露わとなり、俺は少し暑くなった。風呂に入ってないのに。

 

「どうかしましたか?」

「ご主人様、動かないんですか?」

「え、あ、いや、なんでもないさ。うん」

 

3人はキョトンとしていた。今からこの3人と一緒に風呂に入るのか。大変だ。

 

「ご主人様、お身体洗います」

 

ソレアは俺の体にピタッとくっつき、風呂の椅子に座らせる。色んなところが当たって気まずいのだが、ソレアもお礼したいなどの感情があるのだろう。

 

「ご主人様、私も……」

「私もしたいです……」

 

ミリティアとアリティアが言う。本当にお礼とかの感情なのか?3人とも洗いたいなんて。

 

「いいけど、君たちの体も洗った方がいいだろ」

「私たちは最悪洗わなくても……」

「ご主人様が優先ですし……」

 

そんなことを言っても、3人だって綺麗な体の方がいいはずだ。

 

「じゃあ早く済ませてくれ。終わったら君たちの体を洗え」

「……じゃあ、洗ってくれますか?」

 

聞き違いだろうか。何か「洗ってくれますか」と聞かれた気がするのだが。

 

「洗ってくれますか、と言ったか」

「はい。ダメでしょうか……」

 

俺の体を洗いながらソレアが目をうるうるさせて言う。やめてくれ、そういう視線には弱いんだ。

 

「……分かった」

「ありがとうございます、ご主人様」

 

ソレアは俺の体を洗っていく。ミリティアとアリティアも俺の首や手などを洗う。少し如何わしいことをしている気分になる。

 

 

 

 お互い体を洗い合った。何も言えないことではないが、言わない方がいいというのは目に見えていた。

 

「今日は疲れてるだろ。このあとはゆっくり休んでくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

しばらく檻の中で過ごしていたのだから、今夜から「働け」というのはあまりにも酷だ。ならば2~3日程度休んでもらった方がいい。

 

「空いてる部屋がいくつかあるからな。そこで寝るといい」

 

掃除しているから汚くはないはずだ。

 

「はい、ご主人様」

 

3人は俺にくっつき、すっかり甘え上手な奴隷──いや、少女になった。

 

 

 

 

 翌日は街に出かけて3人の服など必要なものを買った。3人は街に怯えているようだったため、用が済んだらすぐに家に帰った。

 

「もう君たちは奴隷なんかじゃないよ。端から見てもそうは見えない」

「あ、ありがとうございます」

 

家に帰ってくると3人の様子は元に戻った。外の世界がよほど怖かったのだろう。

 

「ご主人様、今日の服、着てもいいですか?」

 

ソレアが俺の服の裾を引っ張って言った。

 

「いいぞ。ミリティアとアリティアも着るか」

「はい。着たいです」

 

俺は袋の中から今日買ってきた服を出した。1人3着ずつ買い、常に着れるようにした。

 

「じゃあ着替えておいで。ここで待ってるから」

『はい!』

 

3人は同じ部屋に向かい、一緒に着替えに行った。

 

ソレア、すっかりあの双子とも馴染んだな。よかった、ミリアリもうれしいだろう。

 

「ミリアリ……短くていいな」

「どうかしましたか?ご主人様」

「ミリアリって私たちですか?」

 

もう3人が着替えから戻ってきた。戻ってくるの早いな。

 

「あぁ、聞いてた?」

「すいません。気になること言ってたので」

 

俺はミリティアとアリティアを俺の隣に寄らせ、ソレアを俺の前に座らせて俺も座った。

 

「双子の2人を呼ぶとき長いなって思ってさ。ミリアリだったら短くていいなぁ、って」

「かわいいです、それ」

「じゃあ私とアリティアだとアリソレですか?」

「それ、かわいいかも」

 

3人だけでまとめた呼び方について話し始めた。

 

「じゃあミリソレもいるな」

「私ミリソレ好き」

 

3人どうしも仲がいいらしい。仲良く暮らしてくれるんだったらいいことだ。

 

「ご主人様とのペアネームもほしいです」

「え、俺との?」

 

アリティアがそう言った。

 

「セトアリ、とか」

 

ミリティアが言った。

 

「いいじゃないか、セトアリ」

「はい。私たち、セトアリですっ」

 

アリティアが俺の腕に抱きついた。

 

「じゃあセトミリですよね、私たちは」

「セトソレ?」

 

セトミリはともかく、セトソレは言い間違えることがありそうだな。

 

「ソレアとはセトレアかな」

「セトレア……気に入りました!」

 

笑顔になってくれた。これでみんなのペアネームができた。あってもなくてもいいような名前だが、仲良くなるきっかけだ。

 

 

 

 「ミリアリ、ご飯食べるぞ」

「早く来て。冷めちゃうよ」

「はい、セトレア」

 

すっかりペアネームで呼ぶようになった。ペアネームをつけてから1週間、もうペアネームで呼ぶほうが自然になってきた。

 

「このあとアリソレは玄関の掃除だったかな。ミリティアは俺と庭の手入れだな」

「じゃあ庭に行けばセトミリはいるんだね」

「休憩の時には庭に行こ、アリティア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミリティアと一緒に俺は庭の手入れをしていた。庭もやはり広く、軽くかくれんぼくらいはできるほどの広さはある。というか、ここで子供のころは義姉と義妹と一緒に鬼ごっこをして遊んでいた。そんな庭も今になっては俺一人が持っているだけ。持て余していた。

 

「ミリティア、そっちは終わったか」

 

ミリティアには花壇に花を植えてもらっていた。俺は伸びてしまっていた草木を刈っていた。こんなもの剣を一振りしてしまえば済んでしまうのだが、家の中でくらい平凡な暮らしをしたい。

 

「はい、終わりました。ご主人様も終わりましたか」

「ある程度はな。あと少しだ」

 

ミリティアは手を汚してこっちに来た。

 

「素手でやっていたのか。手袋花壇に置いてあっただろう」

「失礼かと思いまして」

 

まだ奴隷だった時の癖が残ってしまっているのだろうか。

 

「着けてよかったんだがな。一先ず手を洗っておいで。洗ったら戻ってきてくれればいい」

「はい、ご主人様」

 

ミリティアは家の中に入っていった。

 

「さて、あと少し終わらせるか」

 

俺は残りの作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は討伐に出た。フレンスドラの町の外にゴブリンの群れがここ最近になって増え始めたらしい。厄介な話だ。3人も家に置いてきてしまっているし、心配だ。

 

「セトニクロ、こっちだ」

 

同じ討伐隊のメンバー、クエルトだ。

 

「ゴブリン、どんだけいるんだ」

「もう森一帯が支配されてるらしい。どうも人質がいるらしくてな」

 

人質まで出たか。ただごとじゃないな。

 

「もう特攻隊が出発してる。特攻隊の情報から俺たちが出ることになるらしい」

「わかった。回復材とか準備しておこう」

 

俺とクエルトは先頭に向けての準備を進めた。

 

魔物が出た場合、まずは特攻隊が現地に向かう。特攻隊は敵の殲滅を目的とせず、その場の情報を討伐隊に提供するのが目的だ。しかし、最近はそもそも強力な魔物が現れなかったため、特攻隊が殲滅し、結局俺たちは必要ないことが多かった。

 

「討伐隊!至急出動してください!」

 

俺たちはその場からすぐに町の外にある森へ向かった。ゴブリンがかなりの数いることだろう。

 

 

 

 俺がその場に着くと、特攻隊が盾を構えなす術のない状態になっていた。

 

「下がって大丈夫だ。回復しておけ」

 

俺が討伐隊のリーダーのため、先陣を切って敵に進んでいく。

 

「全員、行け!」

 

討伐隊全員でゴブリンの群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンの群れの討伐が終わり、次の人質の救出に移った。人質は3人で、いずれも軽症だった。

 

「人質はあなたたちだけですか」

 

俺がそう尋ねると、1人がこう言った。

 

「いえ、あと1人……」

 

だが、近くにはいない。まさか、討伐している最中に連れ去ったのか。

 

「わかりました。お大事になさってください」

 

俺は残りの1人の人質について全体に指示した。

 

「人質があと1人いるらしい。周辺を隈なく捜索してくれ」

 

俺たちは残りの1人を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り1人の人質はその日のうちに見つからず、そのまま暗くなってしまった。捜索は打ち切られ、また明日の朝から捜索を再開することになった。

 

俺はもう遅くなってしまったが、家に帰ることにした。家に着けば3人が迎えてくれる。帰るのが楽しみになった。

 

家に着き、俺はドアを開けた。

 

「ただいま、3人とも」

 

俺がそう言うと、普段なら3人が出てきてくれるのだが、今日は出てきてくれなかった。

 

(2階にでもいるのか?)

 

だが、玄関や1階は掃除された様子がない。あの3人に限って掃除をしないわけがない。そうなると、やはり何かあったんだろうか。

 

「ご、ご主人様!」

 

ソレアが汗をかいて、走ってこっちに来た。

 

「どうした、ソレア」

「ミリアリと女の人がゴブリンに襲われてて、それで!家の奥に!」

 

俺はソレアの頭に手を置いた。

 

「そうか。落ち着いて」

 

ソレアが落ち着いてから俺は言った。

 

「ソレアは庭にいてくれ。庭は昨日結界を張ったばかりだから安全だ」

 

ソレアは庭に出て行った。俺は剣を構え、家の奥にゆっくりと近づいた。

 

家の奥が見えると、そこにはミリアリと女性1人がゴブリン2体に囲まれていた。だが、2体くらいならすぐに倒せる。

 

俺はわざと足音を立て、ゴブリンたちを俺にひきつけた。

 

「さぁ、こっちだ」

 

ゴブリンたちは2体で俺にとびかかってくる。だが、そんなもの討伐隊リーダーにかかればなんてことない。

 

「ふっ」

 

俺は勢いよく剣を振り、ゴブリンを倒す。ゴブリンたちを倒し終わると、俺はミリアリたちのもとに向かった。

 

「大丈夫か、ミリアリ。と……お前!」

 

そこにいたのは俺の義姉、アイリスだった。

 

「アイリス、シーファは」

 

シーファは俺の義妹で、アイリスの妹だ。

 

「家にいる……」

「そうか」

 

アイリスは俺の手を掴み、立ち上がった。

 

「アイリス、お前体調とか大丈夫かよ」

「大丈夫。もう帰れるから……痛っ」

 

アイリスは膝をついて肩を押さえた。肩が痛いんだろう。

 

「アイリスさん、包帯巻きましょうか?」

 

ソレアが包帯の入ったキットを持ってきた。よくある場所が分かったものだ。

 

「え、あ、セト、この人たちは?」

「ここのメイドだ」

「メイドじゃないです!奴隷です」

「もう奴隷じゃないだろ。ならメイドだ」

 

アイリスはソレアと俺を交互に見ながら俺に言った。

 

「なんか、ごめん」

「なんだ、姉だからって申し訳ないと思ってるか」

 

俺はソレアの包帯をもらい、アイリスの服を上だけ脱がせた。

 

「別に気にしなくていい。俺は元気にやってるしさ」

 

俺はアイリスの肩に包帯を巻いた。アイリスは俺の顔を見つめ、優しく笑った。

 

「変わったね、セト」

 

アイリスは俺の顔にそっと触れた。

 

「今日、泊まってもいいかな」

「アイリスが泊まりたいんだったら」

 

俺はミリアリのもとに戻った。ミリアリはどこも痛い様子はなかったが、ただゴブリンに対してかなりの恐怖心を持っていた。

 

「ミリアリ、怖かったか」

「……怖かったです」

 

ミリアリのもとにソレアが駆け寄る。ソレアはミリアリを抱きしめてくれていた。

 

 

 アイリスと俺は昔暮らしていた部屋に戻った。昔暮らしていた部屋もメイドの3人によって掃除されていた。アイリスはベッドの支度を始めた。

 

「ねぇセト、私がいなくなって寂しかった?」

「まぁ、誰もいなくなったからな」

 

アイリスはにやりと笑った。

 

「じゃあさ、私が癒してあげよっか」

「それはいらない。メイドがいるし」

「ふぅん」

 

アイリスは布団をバサッと高く上げ、ベッドの上に敷いた。

 

「セトも変わっちゃったね」

「そうか?」

 

アイリスは俺の隣に座った。そして、アイリスは俺の頭を撫でた。

 

「昔はこうしてたんだけどな~」

「そんなこともあったな。ただ、今は今だから」

 

アイリスと出会った時のことはまだ鮮明に覚えている。もちろんシーファと出会った時のことも、何もかも。

 

「セト、忘れないでね、昔のこと」

 

アイリスのその言葉はなぜかいつもよりも俺の心に深く、重く刺さってきた。俺はそれに対して短く

 

「わかった」

 

とだけ答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあね、今度セトもこっちに遊びに来てよ」

「考えておくよ。時間があったら行くかも」

 

そう言うと、アイリスは得意としている飛行魔法ですぐに飛んで行ってしまった。俺はアイリスの背中を見ながら昔のことをふと思い出した。

 

出会ったときアイリスとシーファが泣いていたこと、しばらくは何も話さなかったこと。もしかしたら、今のソレアたちとの関係に似ていたのかもしれない。

 

俺は家に戻った。今頃3人が家の掃除をしてくれているところだろう。

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