同じ高校に通っている黒崎千香と城山蒼。しかし、黒崎はいつも元気がない。周囲からはただ陰キャなだけだと言われているが、黒崎の元気がない理由は──
2年2組14番、中央委員長を務めている。黒崎とは中学の頃に出会ったが、ほとんどかかわりは無かった。
クラスの代表のような存在で、周りからもよく信頼される。
2年2組15番。城山とは進級した時からずっと席が近く、2年生になって隣になった。どんなことがあろうとほとんど話すことはない無口な性格で、クラスからは陰キャだといわれている。
朝8時15分。いつも通りの時間に俺は登校した。6月で蒸し暑い日が続いている。
俺の隣の席は黒崎千香。無口な子だが、別に人に対して当たりが強いわけではない。
10分ほどして、黒崎が入ってきた。黒崎は6月でも手首まで隠すように長袖。それでも汗一つなかった。
「おはよう、黒崎」
「……」
黒崎は一瞬だけ俺に目を合わせると、もう座ってしまった。机の上に伏せ、誰との会話もシャットアウトしてしまっていた。
(まぁ、いつも通りか)
俺は自分の席で荷物の整理を始めた。
2限目、体育の授業が始まった。今日はグラウンドで、サッカーの授業だ。
「今日の欠席何人いる」
体育の先生が俺らに聞いてくる。
「今日の欠席いないです」
「そうか。そしたら2人でペア組もうか」
先生が先頭から番号を言っていく。
「1、2。1……奇数か。女子も奇数か」
そう言うと、中央委員の女子が頷いた。
「そしたら……最後の人だけ男女で組んでくれるか」
最後は俺。俺は女子の最後を見る。黒崎だった。
黒崎と2人で俺はボールのパス練習を始めた。黒崎と2人でペアを組むのは初めてだったが、黒崎は可も無く不可も無く、授業は上手くやっていた。
(なんだ、授業はできるのか……じゃあなんでそんなに関わりを拒絶するだろうか)
俺は結局理由の分からないまま授業を終えた。
放課後、俺はすぐに帰ることにした。いつも1人で帰っているが、今日は一段と人が少なかった。俺は人の少ない帰路を1人で歩いていく。
学校からしばらく歩き、俺は信号に引っかかった。
(ここの信号長いんだよな……ん?)
俺に追いついた人がいて、俺はその人のことを見た。その人は、こんな時期なのに長袖で手の甲くらいまでを隠していた。こんな人、あいつくらいしかいないだろう。
「黒崎?」
「……」
なにか俯いてボソボソ喋っていた。
「黒崎、何かあったか」
「……!」
驚いた勢いで後ろに倒れそうになった黒崎を、俺は手を伸ばして防いだ。
「危ない。どうしたんだ、黒崎」
「……ごめんなさい……」
久しぶりに声を聞いた。決して高い声ではなく、クールで、若干低めの声だった。
「いや、どうして謝る。謝る必要ないって」
黒崎は手首のあたりを握った。
「何かあったか、手首」
俺がそう聞くと、黒崎は慌てた様子で服のカフスを引っ張り、手の指先まで隠した。
「すみません……失礼します……!」
信号が青に変わった瞬間に黒崎は走って行ってしまった。結局、手首に何かあるのかは聞くことができなかった。だが、あの様子を見る限り、少なくともなにかはある。
(黒崎には悪いが、少し後をつけてみるか)
俺は黒崎の走っていった後をつけた。
黒崎は俺から離れてからは歩いていた。今からどこへ向かうのだろうか。
そう思っていたが、結局行きついたのはある一軒家だった。家の中に入っていく黒崎を見て、半ば安心した。
(なんだ、家に帰っただけだったか)
俺は黒崎の家の前を後にした。図らずも黒崎の家を知ってしまったが。
翌日も、黒崎は長袖で登校してきた。今日も気温は30℃を超える真夏日だったが、相変わらず、長袖でも汗一つかいていない。朝は涼しい、のか? いやそんなことないだろう。何せ最低気温も24℃、朝6時時点で26℃だぞ?いくら何でも涼しいとは感じにくい気温だろう。
「おはよう、黒崎。暑くないのか」
俺がそう聞くと、俺の顔の横に顔を寄せ、耳元でささやいた。
「……聞かないで」
そう言うと、いつも通り自分の机に伏せてしまった。聞かないで、というと何か事情でもあるんだろうか。肌に関する事情とか、そういうのが。
「悪かったな、知られたくないことだってあるのに」
(黒崎だって大変なんだよな)
俺も深い詮索はせず、追及はしなかった。
3時限目の授業が終わり、俺は次の授業の準備をしていた。すると、校内放送のチャイムがなり、教室中が静かになった。
《2年2組黒崎、2年2組黒崎。職員室まで来てください》
黒崎が校内放送で呼ばれた。黒崎はうつむきながらも教室から出て行った。出て行ったあと、しばらく教室には沈黙が広がった。
その沈黙の中で、小さく話し声が聞こえる。
「黒崎さん、何かやらかしたのかな」
「さぁな……いつも黙ってるから分かんねぇや」
「ああ見えて、実は結構な問題児?」
「いや、今の時点でもある意味問題児だろ」
黒崎がいないからって、好き勝手言いまくっている。中央委員長として見過ごすわけにはいかず、俺は声を出した。
「事実無根な憶測を言うな。人の心情まで考えろ」
そう言うと、さっきまで陰口を言っていた奴らは静かになった。単純な奴らだ。
4時限目は結局黒崎が戻ってくることはなかった。荷物がまだあることから、学校にはいるのだろう。
「城山、少しいいか」
先生に呼ばれた。
「はい、大丈夫ですよ」
俺は先生のもとへ向かった。
「ここでは少し話しにくいことなんだ。場所を変えよう」
先生は俺が行くと、人の少ないところへ向かった。
職員室と北校舎(今の時間帯は昼休みのため人がいない)の間にある通路に俺と先生は行き、先生はそこで俺に話した。
「突然すまない。黒崎のことで少し話がな」
黒崎のことだった。
「黒崎、ですか」
「あぁ。今日黒崎が呼ばれていたのは知っているだろう」
「はい。4眼の前に」
先生はうなずいた。
「実はな、黒崎はご両親に連れられて帰ってしまったんだ」
「でも、荷物はありましたよね」
「あぁ。それで、荷物を持って行ってくれないかと思ってね。城山だったら信頼できる。家は知ってるか」
家は昨日知ってしまったばかりだった。
「知ってます」
「じゃあ、お願いできるか」
そういうことだったら別に断る理由はないだろう。
「はい、いいですよ」
「すまんな、それじゃ、頼んだ」
先生はそう言うと、職員室へ戻っていった。
しかし。両親が来て、さらに荷物も置いてまで帰らなければならないなんて、何か重大な理由でもあったのだろうか。
放課後、俺は黒崎の荷物を持って黒崎の家に向かった。つい昨日行ったばかりのため、場所は覚えていた。
俺は黒崎の家に着くと、呼び鈴を鳴らした。すると、しばらく間が空いた。なんでこんな中途半端な間が空くんだ?
俺が不信に思っていると、1分ほどしてお母さんが出てきた。
「すみません、なんでしょう」
出てきたお母さんは普通──ではなかった。
手のひらは少し赤くなり、普通の手の色ではなかった。それに、痛みを抑えるかのようにずっと手のひらを押さえているように見える。俺は黒崎の荷物を家の中に置いて言った。
「すいませんお忙しい中。今日の午前中に千香さんが帰ってしまったと聞きましたので、荷物をお持ちしました。それから──」
俺が少し長めに話していると、黒崎がお母さんの後ろを通った。その手には血の付いた果物ナイフ、そして黒崎の手首から血が出ていた。リストカットだろうか。俺は引き続きお母さんと話を進めた。
「千香さんに、何かしましたか」
俺がそう言うと、お母さんは慌てて振り向いた。黒崎は血のついた果物ナイフを置いてきたばかりらしく、まだ手首からは血が出ていた。
「千香!何してるのよ」
心配している口調でないことは俺にはわかった。この口調は心配している口調ではない。怒りの感情が入った声だ。
お母さんは黒崎に寄り添い、体に触れた。だが、俺には優しくしているように見えるようにしているが、実際、リストカットによって切られた手首に爪を立てて触れているのがうっすら見えた。
俺はすぐに黒崎のところに向かって走った。お母さんの手を真上に振り払い、黒崎の手首に触れないように黒崎のことを抱きしめた。
「やっぱりか。黒崎、大丈夫か」
「な、なにするのよ!」
俺はお母さんの右手の爪が見えるようにつかみ上げた。
「なんですか、この血は」
「なによ、少し切っただけじゃないの!」
「俺と会った時に切ったことはないですね。何も触れていませんでしたので。それに、千香さんからも血が出てますし」
俺がそう言うと、お母さんはひるんだ。だが、すぐに叫んだ。
「お父さん!」
父親を呼ぶつもりだ。俺は黒崎の耳元でささやいた。
「駅まで走って逃げて」
俺は黒崎のことを押した。黒崎は少し戸惑いながらも外に走っていった。
「どうしたんだ、母さん」
「こいつ、千香のこと気づいたわ」
そう言うと、父親は拳を振り上げた。
「そうか。君には黙ってもらわなければならないね」
「やっぱり、知られたくない事情があるんですね」
父親は俺に向けて拳を振り下ろした。しかたない、力を見せるしかないか。
俺は振り下ろされた手首をつかみ、捻るようにして床にたたきつけた。
「ぐはっ!」
父親は床に叩きつけられてうごけずにいた。
柔道を習っていたことがあるため、こうやってすることができた。
「あなたたちは千香さんに向けて虐待をした。それは一生消えることのない、あなたたちのレッテルだ。虐待という名の」
俺はすぐに警察に連絡。俺が警察に今までのことを話すと、両親はすぐに警察に連れていかれた。
俺は黒崎が逃げた最寄りの駅に向かった。すると、黒崎はベンチに座って手首を強く押さえていた。だが、血が出すぎて指の隙間から血がすこしずつあふれ出てきていた。
「黒崎、安心して。もう両親は警察に連れてかれたよ」
黒崎はうなずいた。だが、手首から手は離さない。きっとそうでもしていないと耐えれないほど痛いのだろう。
「黒崎、俺の家おいで」
俺は黒崎を自分の家に連れて行った。
家に着くと俺は黒崎を部屋に連れて行った。包帯を取りに行った。部屋に戻ると黒崎の手首に包帯を巻く。
「包帯巻くからな。ちょっと手離すぞ」
俺は黒崎の手を離した。黒崎の手首からはまだ血が出ていた。
「黒崎、大丈夫か。まだ痛いか」
黒崎はまだ痛そうにしていたが、さっきよりは痛くはないように見えた。
「……ありがとう、城山くん……」
黒崎が言った。初めてかもしれない、黒崎が俺に話してくれたなんて。黒崎はそもそも話すことが少なかったせいで、少しうれしかった。
しばらく日が経ち、ある夏の晴れた暑い日、黒崎は児童相談所に送られた。が、親戚も遠いことを知っていたため、俺は家族と話し合ったうえで、黒崎を引き取ることにした。
家庭裁判所に許可をもらい、その翌日から黒崎は俺の家に来ることになった。
「黒崎、よろしくな」
「うん……」
黒崎は俺の隣に座った。まだ緊張しているのだろう。
「大丈夫だからね、千香ちゃん」
「俺たちが守ってやるからな!」
母さんと父さんは黒崎を守るために躍起になっていた。ただ、俺は守るために躍起、というより黒崎の傍から離れなかった。守るというよりもただ単に離れたくなかったからだ。
黒崎の部屋の用意ができていないのもあって、黒崎は俺と同じ部屋で暮らすことになった。黒崎は俺の部屋に入ってもずっとその場に立ち尽くしていた。
「黒崎、座っていいぞ」
「……」
黒崎は俺の隣に座った。といってもカーペットの上で、やはり遠慮しているようだった。
「ベッドにでも座って。距離感あるみたいでいやだ」
そう言うと、黒崎はベッドの上に座り、俺に寄り添った。
「今日からここで暮らすんだ。リラックスしてくれ」
黒崎は緊張した様子で、俺の腕にしがみついた。
(あれ、意外とかわいい……)
想像していたより甘えてくる性格だったため、少し驚いた。
夜。俺と黒崎は寝る支度をした。黒崎をベッドで、俺が床の上で寝ることにした。来たばかりなのと、女の子を床で寝かせるわけにはいかなかった。
「き、き、きや、城山くん……!」
震えた様子で俺の名前を黒崎が呼んだ。
「どうした?具合悪いか」
黒崎は首を横に振った。具合が悪いわけではないらしい。
「いっ、い、一緒に、ねっ、寝よ!」
一緒に寝たかったらしい。……え?
「一緒に寝るって、そこで?」
黒崎はうなずいた。
「い、いいけど……いやじゃないのか」
黒崎は首を傾げた。髪が揺れる。
「いやじゃ、ない……です?」
男女が同じベッドに寝ていいのか?本当にいいのか?
「来て……」
黒崎は俺のことを誘った。ここまでされたら断る方が失礼に値するだろう。
「あぁ……」
結局、その日の夜は寝ることができなかった。
黒崎は俺の家に来てから、毎日幸せそうに過ごしていた。そのせいなのか、結局黒崎の部屋を準備することはなく、俺の部屋で一緒に過ごすことになった。
家では少しずつであるが心を打ち明けてくれるようになった。それに──
「城山くん……お腹、空いた……」
以前より話してくれるようになった。ただ、大体話すのはお腹空いた、ということばかりだ。
「あと1時間待てないか」
「……がんばる」
黒崎は部屋に戻った。黒崎がヤバい。かわいく見えてきすぎて困る。好きになってしまいそうだ。
「城山くん……」
部屋に戻った黒崎が俺を呼んだ。
「なんだ?」
「城山くんも一緒にいよう……?」
黒崎がドアから顔だけをひょこっと出して俺に言った。俺は黒崎と一緒に部屋に戻った。
黒崎は先にベッドの上に座っていて、俺のことを待っていた。俺が黒崎の隣に座ると、黒崎は俺の肩に頭を乗せた。
「どうかしたか?黒崎」
「黒崎……じゃない」
黒崎は上目遣いで俺を見つめた。
「千香……千香って呼んで」
黒崎は俺の顔に手を添えた。
「……蒼くん」
黒崎にそう呼ばれて、俺の中にあった理性が消えた。
「千香っ!」
俺は千香のことを押し倒し、同時に千香のことを強く抱きしめた。
「きゃっ!」
千香は最初こそ戸惑っていたが、しばらく抱き着いていると、千香の方から抱き寄せてくれた。
「蒼くん……」
空腹のことなんて忘れて、俺は千香のことを抱きしめていた。
翌日は朝から雨が降っていた。それにも関わらず、気温は最高34℃、最低気温も27℃。雨が降って気温が下がるなんて、今の世の中には無いのだ。
「あっついな……」
俺の部屋から廊下に出るだけで蒸し暑さが俺を襲う。襲ってくるのは千香だけにしてほしいものだ。
「千香、そろそろ学校行く──」
俺は部屋にいた千香の姿を見て言葉を失った。あの千香が、半袖の制服を着ていたのだ。
「ん、分かった」
千香は俺についてきた。千香が薄着をしているのは、多分人生で初めて見たのではないだろうか。
「蒼くん、半袖、どうかな……このYシャツ、薄いんだけど……」
長袖よりも確かに若干薄い。ただ、そんな千香を見ているのも新鮮だった。とても愛らしい。
「愛らしい」(心の声:めっちゃ似合ってる)
「愛らっ!? ~~っ!//」
おっと、心の声と実際に出た言葉が逆になってた。別にどっちも事実だし、いいか。
朝の駅は改札前に大勢人がいた。雨になると人が少し多くなる。それが通勤ラッシュの普通なのだが。
「暑い……」
千香が細い声で言った。
「だな。早く電車の中行こうか?冷房効いてるから」
千香は頷いた。俺と千香は改札を通り、ホームに降りた。
電車は混雑した状態で到着し、それに俺たちも乗車した。車内は蒸し風呂のようで、冷房より満員による湿度の高さが目立っていた。
千香と俺は密着した状態で身長差から千香は埋もれるようになり、汗もかいていた。
「蒼くん……汗、止まらない……」
千香の髪から汗が垂れ、俺の制服に滲む。
「ごめん、蒼くん……」
「大丈夫。むしろ良い」
千香は恥ずかしそうだった。
「うぅ……制服、透けそう……」
電車の中で蒸された俺たちは、駅に着いてから歩いて学校まで向かった。とにかく気持ち悪かったが、着替えられないし仕方ない。
「ねぇ……私、行って大丈夫かな」
千香は以前のことを思い出したのか、ふとそう言った。俺の家に来てから、千香が学校に行くのは初めてのことだ。
俺は千香の頭を撫でて言った。
「大丈夫。どっちにしろ俺の隣なんだから、何かあったら俺がいるだろ」
「じゃあ、任せる……」
クラスに入ると、多くの視線を浴びた。千香は周りからの視線に怯え、俺の後ろに隠れてしまった。俺は視線を送り続けるクラスメートに言った。
「そんなにじっと見つめるな。嫌がってるだろ」
俺がそう言うと、クラスが一気に静まり返った。そして、その後すぐに
「かわいい!」
「黒山さん、今彼氏とかいるの?」
「もしよかったら俺と付き合わね?」
「いや俺と!」
「連絡先交換して!」
男子が千香のところに殺到した。
「おい、千香にあんまり詰め寄るな」
俺は男子を引き離す。千香がこんな男子に取られては大事件だ。
「城山くん、さっき『千香』って呼んでたよね!?」
「黒山さんとはどういう関係なの!?」
「まさか彼氏?」
女子も今度は俺に詰め寄ってきた。今度の標的は俺か。
「いや、そんな関係じゃない。というか、答えないぞ」
「なんで~?ねぇねぇ、彼氏なの?仲いいじゃん」
「そうだよ~、どうなの?」
女子が俺に詰め寄っていると、千香が俺と女子の間に割り込んできた。
「蒼くんを困らせないで……!」
千香は細い声だったが、声を張るように言った。頑張ってくれているのが声から分かった。だが、これが逆効果だったらしく
「声もかわいいじゃん!」
「やっぱ俺と付き合わね!?」
男子側がさらに熱くなった。
結局、男子側を俺が抑えると女子側が盛り上がり、それを千香が抑えると男子側が盛り上がり、というのを永遠と繰り返す羽目になった。
その日の昼休み。移動教室から戻り、俺が自席についても、千香はいなかった。
(千香、どこいったんだろう)
俺は千香がいないため仕方なく1人で昼食を済ませた。
俺が食べている途中に千香が戻ってきた。
「千香、どこ行ってたんだ」
「ちょっと、屋上に呼ばれちゃって……あの、告白を……」
俺は頭の中の思考が
「あ、でも断ったよ……?だって──」
千香がそこまで言ったところで、クラスメートの女子が俺に話しかけてきた。
「城山くん、ちょっといいかな」
「ん、あぁ、いいよ。ごめんね、千香。話はまたあとで」
俺は女子生徒についていった。
女子生徒が向かった先は体育館横にある花壇だった。俺はそこで女子生徒に止められ、女子生徒は俺の方を振り向いた。
「城山くん!」
女子生徒が俺の顔を見て言った。これから何が始まるっていうんだ。
「私、城山くんのことが好きです!」
デジャブ。千香も今日告白を受けた。俺も今日告白を受けた。なんてこった。
「城山くん委員会もやっててクラスまとめられてるし、それに優しいから……付き合ってください!」
これは、受けるべきなのか?断るべきなのか?俺には千香もいる。そしたら、この子には悪いが、こうする以外の選択肢はないだろう。
「ごめん、付き合えない……」
「どうして……?黒山さんとは、付き合ってないんだよね?」
それが問題だった。俺は黒山のことが好きだ。ただ、向こうはわからない。だが、もし両想いだったら、先に付き合ってしまっては合わす顔がない。だから、断るしかなかった。
「でも、ごめん」
俺がそう言うと、女子生徒は走って行ってしまった。
教室に戻っても、空気は変わっていなかった。千香も視線を若干浴びながらも一人でいた。
「千香、さっきの話の続きは」
「それより、さっき、なにしてたの?」
千香が聞いてきた。
「あぁ、告白だった。断ったけどさ」
「そう、なんだ」
千香は少し間を開けて言った。
「今日、一緒に帰ろ」
「あぁ、いいぞ」
あの話は結局聞けなかった。
帰り。千香と俺は一緒に帰っていた。だが、いつもと違う道を千香は通っていた。人通りの少ない道で、人気も全くない。
「あの話の続き、ね……」
千香はあの話の続きをしてくれた。
チュッ
俺の頬に手を添えて、千香は俺にキスした。ほんの一瞬のキスだった。
「私、告白断ったの、蒼くんが好き、だから……」
千香はほんのり顔を赤くして言った。
「俺が……?」
「そう。同じ家なのに、迷惑だとは思ってるんだけど……」
俺は千香のことを抱き寄せ、今度は俺から
チュッ
「迷惑なんかじゃない。だったら、俺も迷惑をかけてることになっちゃうから」
「……え、それって……」
俺と千香は向かい合って、目を見つめあった。
そのあとは、2人でぎゅっと強いハグをした。
それから5年、俺と千香は家を出て、2人で暮らし始めた。そして、2人で生活を営み始めた8日後の11月8日に俺と千香は婚姻届けを提出。11月8日にした理由は、「8」という数字が中心で交わっていて、ほどけないように固く結ばれているように見えたからだ。ずっと結ばれていよう、いう思いからだ。また、「11」は語呂合わせで「いい」となることから、11月にした。絶対に忘れない日になるだろう。
結婚式は11月22日、運よくこの日に取ることができた。ただ、あるものはまだないまま。
12月25日夜、俺と千香は2人でフラワーパークに行っていた。俺は千香の肩を抱き寄せ、まだ渡していなかったものを渡した。
「千香、大好きだ」
そう言って、俺は藍色のケースを開け、光り輝くリングを千香に見せた。
「指輪……」
千香は指輪を手に取った。
「蒼くん……つけて……?」
俺に指輪を渡した千香。俺は千香の左薬指に指輪をはめた。
「じゃあ、蒼くんも」
それと同時に、千香は俺の左薬指に指輪をはめた。全く別物の、俺の指にぴったり合う。
「これで、結ばれた、よね」
この日、俺と千香は正式に結ばれることになった。一生、千香と一緒にいることを誓った。