終着点への道   作:月島柊

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登場人物
マスター
京町セイカ
さとうささら
すずきつづみ
ミリアル
アリアル
アベルーニ


VOICELOID
#1 


 

 「さて、ちょっと休憩」

 

俺、月島柊は日本国内でも名は知られているIT企業で勤めている。その中でもプログラムの提案・作成をやっている。週休3日で、中々のホワイト企業だ。

 

24歳という若さで会社内でも中間より上の立場になり、一人暮らしをしている。一人もいいものだ。なにせ邪魔をする人がいないのだから。ただ、まぁ……

 

「部屋が余ってるんだよなぁ……」

 

両親が「地方に住みたい」と言って移住。俺が元いた家を貰ったのだが、部屋がいくつも余っている。俺だけでは3つあれば事足りる。それなのに7部屋は過剰だ。

 

「妹……いや、いなかった。彼女……なんているのはリア充だけか」

 

当然俺には彼女などいない。男の一人暮らしだ。まぁ、部屋は綺麗だが。

 

すると、俺の家の呼び鈴が鳴る。こんな時間になんだろうか。宅配便などは頼んでいないはずだが。まぁ、こんな寒い時期に外にずっと立たせるのも悪い。東北の冬は寒いからな。

 

俺は玄関に向かい、ドアを開ける。

 

「はーい」

「こんにちは!」

 

雪の降る凍り付くような空気を貫く声。

 

「あ、え?」

「ささら、困ってる」

 

青髪の子が言う。この子より背の高いこの人はささらというのか。

 

「ごめんなさい。今日からこの家に住むことになったの!」

 

あぁ、なるほど。そういうことか。なら呼び鈴を鳴らすことも納得──

 

できない。できるわけがない。そもそもなんだ、今日からこの家に住むことになった?そんな子どもでも分かる冗談を……

 

俺はそう思って2人を見たが、どうも冗談を言っているような顔ではない。

 

「あー、っと、随分と急だね」

「そうですか?先週電話があったと思うんですが……」

 

電話があった?先週にまず電話なんてかかってきてたか……?

 

「まぁ、とりあえず入ってくれ。外は寒いからな」

「はい、マスター!」

 

マスターとかいうあだ名?もつけられた。

 

家の中に入ってから俺のスマホと家の固定電話の履歴を確認した。しかし、確かに電話はかかってきてない。

 

「電話なんてかかってきてないが」

「颯真っていう人は知ってますか」

 

颯真……俺の知り合いだな。

 

「知ってるけど」

「がさつなところありますか」

「あるね。……あっ」

 

そういうことか。電話するのを忘れてたんだろう。

 

「新しいマスター。よろしくね」

 

あぁ、肝心なことは教えてくれよ、颯真。

 

「よろしくね、マスター!」

 

ささらも言う。まぁ、部屋は余ってるんだしいいか。

 

「よろしく。それで、君の名前は」

 

青髪の子に聞く。もう1人はささらというのはなんとなく分かるが、この子は分からない。

 

「すずきつづみ……」

「つづみか。よろしく」

 

2人は椅子に座る。2人とも仲がいいんだろうな。

 

「風呂は時間になったら案内するから、部屋だけ先に言っておくよ」

 

俺は2人の部屋を案内した。客間が4つ余ってるからそこでいいか。

 

階段を上って2階に上がり、俺は2人に部屋を案内する。

 

「ここの2部屋を自由に使ってくれ」

「うん。分かったよ」

「ありがとう、マスター」

 

2人は部屋の中に入って荷物を置いた。この2人だったら世話できそうだ。

 

 

 

 

 

 「ありがとうございます、マスター」

 

おかしい。なぜか1人増えた。

 

緑の服を着た、大人の女性が1人増えた。

 

「この人が新しいマスターかい?」

「身長高いです!」

「迷惑かけるなよ」

 

なんか3人増えた。なんでこんなに増えなければならないのだ。

 

「私、セイカです」

「私はミリアルだ」

「アリアルです」

「こいつらの兄のアベルーニだ」

 

よく分からん。というか部屋が足りん。男女は分けるとして、そうしても2人分の部屋がない。

 

「えと……部屋が足りないんだけど……」

「アベルーニと私たちは一緒でいいぞ」

「ずっと一緒です!」

「それはやめてくれ」

 

だろうな。ここの2人は分けるとしよう。

 

「ならアリアルは同じ部屋だな」

「姉さんと一緒です!」

 

単純な奴らだ。おそらく思っていることはアベルーニも一緒だろう。

 

「そうか。なら……」

 

仕方ないだろう。

 

「私はマスターと同じ部屋ですね」

「あぁ。そうだ。悪いな」

 

セイカは首を横に振ってくれる。ええ子や。

 

「じゃあアベルーニたちの部屋はささらかつづみに案内してもらおう」

「うん。分かったよ」

 

ささらは3人を案内し始める。

 

一方で、セイカは俺の部屋になる。ただ、問題点が1つだけある。

 

「ベッド1つだけなんだが」

「じゃあ一緒に寝てもいいですよ?」

 

中々大胆なことをしてくる人だな。いい子だと思ったんだが。

 

「それはマジか」

「マジです」

 

そうだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 セイカと同じベッドの上で寝るのは、緊張しすぎて寝れなかった。セイカはこの家でもかなりスタイルがいい。あまり言うとセクハラにあたるかもしれないが、胸が大きい。

 

「狭くないですか?」

「大丈夫。セイカこそ狭くない?」

「平気です」

 

セイカは俺にくっついて目を瞑る。

 

たった1日の間にこんなに人が増えて。少なくとも冷静ではないよな。

 

それはそうと、セイカはもう寝息をたてて寝ている。寝つきはいいんだろう。

 

「……おやすみ、セイカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、朝から何やら騒がしかった。なんとなく騒がしい原因の人物は分かっているのだが。

 

(アリアルとミリアルだよな)

 

俺は1階に降りる。きっと俺に助けを求めてくるんだろう。

 

「おはよう──」

「マスター!」

「ふぐっ!」

 

ミリアルとアリアルが飛びついてくる。予想通りだが、一体何があったんだ。

 

「何があったんだ、アリアル」

「アベルーニが私のプリンを食べてしまったんだ」

「酷いです!」

 

さぁ、アベルーニの見解は。

 

「アベルーニ、見解を」

「そもそも俺が自分のために買ったものだ。お前らが自分のだと言い張っているだけだろ」

 

果たしてどっちが正解なのか。現時点では何も分からない。

 

「アベルーニの分も私たちのものだと言ったら私たちのものだ」

「私たちのです!」

 

うん。悪いのはこっちだよな。

 

「アリアル、ミリアル。せめて食べていいか聞いてから食べような」

「分かった……マスターが言うなら」

「マスターの言うとおりにします」

「俺の言うことも聞いてくれ」

 

アベルーニは困ったように言う。兄も大変なんだな、アベルーニ。

 

「おはよう!マスター!」

 

ささらが起きてきた。今日はつづみは一緒じゃないのか。

 

「おはよう。つづみは」

「まだ寝てるよー」

 

まだ朝も早いし、当然といえば当然か。昼になっても寝てたらさすがに起こすが。

 

「そういえば、セイカちゃんは?」

 

ささらが俺に聞いてくる。

 

「セイカだったらまだ寝てるよ」

 

俺がそう言うと、アリアルがアベルーニに聞こえないくらいの小声で言う。

 

「私たちも早く起きすぎてしまったんだな」

「もう一回寝たいです」

 

アベルーニは気付いていないらしい。バレたら怒られるだろうけど、俺も怒らないわけじゃない。

 

「ダメに決まってんだろ。一回起きたんだったら起きてろ」

「ん?何を言ったんだ、マスター」

 

アベルーニに2人が言ったことを俺は話す。

 

「もう一回寝たいってミリアルが」

「あー、あー!」

「早く起きすぎたとアリアルが」

「何も言ってないぞ!」

 

しかしアベルーニを騙すことはできない。

 

「お前ら……1日何時間寝てんだ!」

「怒らないでくれアベルーニ!」

「怖いですアベルーニ!」

「知るか!」

 

おー、怖い怖い。

 

「マスターは怒ったりしないのー?」

「俺はあれでも怒ったほうだ。あれ以上は怒らない」

「優しいんだねー」

 

ささらはいつも通り落ち着いた口調で話す。

 

 

 

 それから30分後、セイカが起き、1時間後、つづみ起きてきて全員が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、俺は仕事のために朝4時に起きた。起きると俺の横にセイカはいなかった。1階に降りると、セイカはささらと一緒に朝食を作っていた。

 

「おはよう、ささら、セイカ。早いね」

「マスター」

「朝ご飯作ってたの。食べていくでしょ?」

 

2人を迎え入れてくれて良かったな。こうやって朝ご飯作ってくれて朝が楽になる。

 

「ありがとう。朝早いから助かるよ」

「朝何時に行くの?」

「朝5時半には出て行くよ。東京まで行かないとだからね」

 

セイカはまるで妻かのように俺の近くにいた。俺とずっと話してくれているし、楽しい。

 

「北上駅だっけ、最寄り駅」

「そうだよ。どうかした?」

「帰り迎えに行くね」

 

ホントに新婚さんみたいだな。

 

「仲良いねー」

 

ささらがセイカの横で朝食を作りながら言った。

 

「そういうのじゃないからね!?」

「?そういうのってー?」

 

ささらが手を止めて疑問を浮かべる。ささらの天然なところがここにも現れたか。

 

「気付かなくていいよ。ほら、早くしないと俺行く時間になるぞ」

「そうだね!急がないと」

 

ささらはまた作り始める。セイカはホッと息を吐いてから作り始める。

 

5時前、朝ご飯が早くも出来上がった。俺は出されたご飯を食べる。献立はご飯、目玉焼きにワカメとレタスのサラダだった。いかにも朝ご飯のような献立で、当然おいしかった。

 

「どう?」

「美味しいよ。ありがとう」

 

朝からこんなに絶品を食べられて幸せだ。仕事も頑張れる。

 

 

 

 食べ終わると、俺は家から仕事に向けて出ていった。日によって電車はまちまちだが、基本的には朝6:29発のはやぶさ102号東京行き。本来はやぶさは、盛岡、仙台、大宮、上野、東京と停車するため、北上は通過する。しかし、号数が100番台のはやぶさは盛岡~仙台を各駅に停車する。そのため、北上から行く俺にとっては東京まで行く最速の新幹線だ。

 

北上を出ると、36分で仙台に到着。ここから通過運転が始まり、次は大宮。70分無停車だ。

 

320km/hという陸上を走る公共交通機関最速のスピードで走行し、大宮には8:31。速度を落とし、上野、東京と停車する。東京には8:56。最寄り駅は水天宮前のため、大手町まで歩き、9:08発半蔵門線押上行きで向かう。

 

9:12、水天宮前に到着。今日の仕事は10時からで、時間は十分間に合っている。

 

ちなみに、朝が遅い分、帰りは遅くなっている。帰りは盛岡行きやまびこの最終で帰ることになっているため、家に着くのは日を跨ぐ少し前。これでも仕事の時間は8時間くらい。1週間でおよそ24時間働いていることになる。

 

10:00、今日の仕事が始まった。基本的には俺は1人で仕事をする。しかし、およそ2~3週間に1回、プログラムの結合があるため、その日は他の人にも会う。

 

10:00~12:30まで午前の仕事、12:30~13:30まで昼休憩、13:30~19:30まで午後の仕事だ。家が心配になってくるのは久しぶりだった。家に帰ったら賑やかな空間が待っているんだろうな。と思うと、早く帰りたくなってくる。

 

「月島くん、今日の交通費の領収書」

「あー、はい」

 

定期券が買えない区間のため、毎日領収書を提出し、1ヶ月分を月の最終日にまとめて払われる。とはいえ、1ヶ月分は多額のお金になる。基本的に月~水曜が仕事のため、今月2月を毎週3日ずつ行ったとすると、1ヶ月で13日通うため、行きははやぶさ指定席、帰りはやまびこ自由席だとしても1ヶ月で349,830円。

 

「今日ははやぶさ指定席、前回の帰りはやまびこ自由席だったので26,910円ですね」

「そうか。にしても、月島くんはホントに遠慮してるね」

 

ここの課長が言う。仲は良く、気軽に話していられる。

 

「疲れてるんだから、たまにはグリーン車とか、やまびこ指定席でもいいんだよ?」

「そんなことしたら月に40万超えちゃいますよ。いいんです。俺はこれで。まぁ、あまりにも疲れてたら使うかもですけど」

 

俺がそう言うと、課長は笑った。

 

「そうか。使ってもいいんだからな。うちはお金あるから」

「そうですか。なら、なまには……」

 

俺がそう言うと、親指を立てて課長は去って行った。グリーン車とかあまり乗らないからな……今度気が向いたら乗ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その人帰り。

 

19:44発半蔵門線各駅停車中央林間行きで大手町まで向かい、東京からは20:20発やまびこ73号盛岡行きで帰ることにした。

 

今日は閑散期なのもあり、指定席も窓側はほとんど空いていたが、それは自由席も同じのため、自由席にした。

 

帰りはやまびこだが、終点盛岡まで先の到着。4分前に秋田行き最終のこまち45号が出発、次のはやぶさも1時間以上後を走るため、盛岡まで先に到着する。

 

東京からは、東京、上野、大宮、宇都宮、郡山と停車し、郡山から終点盛岡まで各駅に停車する。

 

もう辺りは暗く、景色は楽しめない。俺はリクライニングを倒す。空いていて後ろにいないからできることだ。リクライニングを倒すと、すぐに眠くなってくる。明日も仕事のため、睡眠時間は恐らく3~4時間ほどになるだろう。今のうちに少しでも寝ておかないと。

 

北上までの2時間51分、俺はぐっすり寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 北上には23:11に到着。朝セイカと約束していたことを思い出し、俺はセイカに電話した。だが、起きているのだろうか。そう思いながらも電話すると、予想外にも電話が繋がった。

 

《マスター?》

「セイカか。駅に着いたぞ」

《だと思ってもう駅にいるよ。東口だよね》

「あぁ。じゃあそこで待っててくれ」

 

俺は東口に出て行く。

 

東口に出ると、その目の前にセイカは立っていた。セイカ自身の車もあったが、雪もあって歩いてきていた。

 

「ただいま、セイカ」

「おかえり、マスター」

 

セイカは手袋をはめた手で俺の手を握る。

 

「こっち寒い?」

「あぁ。東京よりすごく寒い」

 

それもそうだ。東京の平均気温は6.6℃なのに対し、北上は-0.1℃。東京より6℃以上低い。

 

「東京は雪降ってた?」

 

セイカは歩きながら聞く。

 

「降ってなかったよ。こっちはずっと雪だった?」

「うん。こんなに積もっちゃった」

 

確かに歩道も雪が積もっている。明日滑りやすそうだな。おっと、この時期にこれは禁句か。

 

 

 家の電気はまだ着いていた。もう23時半なのに、まだ起きてるのか。

 

「おかえり。マスター」

 

つづみが廊下から入ってきた。

 

「おう、ただいま」

 

俺がソファに座ると、つづみが隣に座ってくる。つづみは少し眠そうに目を細くしていた。

 

「眠いか」

「……少しだけ……」

 

それもそうだ。もう23時半を過ぎているのだから。

 

「もう寝ていいぞ。夜更かしはよくない」

「ん……」

 

つづみはゆっくりと自分の部屋へ歩いていった。

 

「マスターも寝る?」

 

セイカが聞いてくる。

 

「シャワー浴びて歯磨いたらな。セイカは」

「私はもう寝れる。部屋で待ってるね」

「分かった」

 

俺はシャワーに向かった。明日も仕事だ。ゆっくりしていては寝る時間が削られてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「セイカ~」

 

金曜日の午前9時。セイカがずっと俺に抱き付いたまま離れなかったため俺は名前を呼ぶ。

 

「やだ」

「ヤダじゃないんだけど」

 

俺が困っていると、アリアル、ミリアル、アベルーニがやってきた。

 

「あ、アベルーニ!ちょっと助けてくれ」

「アベルーニ、私たちもやってもいいか」

「ぎゅーしたいです!」

「はは、ヨシハグシテイイゾ-」

 

棒読みでアベルーニが言う。

 

「ちょっ、アベルーニ!」

「頑張ってくれ、マスター」

 

アベルーニは1階に降りていく。なぜ離れてくれないんだ。離れてくれないと俺の身体が困る。

 

「セイカ?」

 

セイカは力を強くする。

 

「胸当たってるよ~」

「知ってる」

「知ってるんだったら離れてくれ」

「やだ」

 

セイカは離れようとしない。なぜこんなにも離れなくなってしまったんだ。

 

「あれ、マスター。セイカに好かれたの……?」

「つづみ、助けてくれ」

「分かった……」

 

つづみはセイカの後ろに回り込む。

 

「セイカ、悪く思わないでね」

 

つづみはセイカの脇の下に手を当て、くすぐる。

 

「うひゃうっ!ひゃ、あははっ!」

 

セイカはようやく離れてくれた。

 

「あー、助かった……」

「……」

 

つづみが無言で俺を見つめてくる。

 

「どうかしたか」

「……なんでもない」

 

つづみは早足で1階に降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も仕事だった。しかし、帰りは若干早く、東京18:28発やまびこ71号盛岡行きで帰宅する。課長から半分強制的にグリーン車で帰ることになったが、グリーン車は快適だ。イスも座り心地がいい。それに、何より広い。さすが2列ずつのシートだ。

 

「ありがとうございます、課長」

 

俺は小さくお礼した。

 

電車は、東京、上野、大宮、宇都宮、郡山、福島、仙台と、仙台から各駅に停車する。

 

 

 

 

 

 北上には21:18。雪が降っていて、今日はセイカも来ていない。なら、1人で帰るか。

 

暗い道を進んでいく。雪が降り積もっていて、寒い。やはり2月は寒い。そんな中でも、俺は家を目指して歩いていく。あぁ、背中まで寒い。カイロぐらい貼っておけばよかった。

 

その瞬間、俺の背中が激しい痛みに襲われた。斜めにズキズキと痛みが伝わってくる。

 

「っ!」

 

俺は後ろを振り向く。そこには雪の上に血を垂らしたナイフを持った男が立っていた。

 

「……お前が、マスターか」

「……誰だ」

「セイカさんから聞いていた。俺のセイカと一緒に寝ているらしいじゃないか」

 

セイカの知り合いだろうか。

 

「そんなこと、聞いてどうする……っ!」

 

男は俺に突っ込んでくる。ナイフを振り上げ、刃先を俺に向ける。

 

「セイカさんは俺のだ!他の奴が、触るなぁ!」

 

ナイフが振り下ろされる。左肩から斜めに痛みが奔る。

 

「俺の!俺の!俺のセイカさんに!」

 

男は俺を押し倒す。痛みから抵抗することができず、そのまま倒される。

 

「触るな!触るな!」

 

男は叫びながらナイフを振り続ける。俺は顔を必死で守るが、使っていた腕はボロボロになっていく。

 

「俺の!セイカさんに!」

 

高く振り上げられたナイフは、俺の身体に一直線に向かってくる。

 

「ぐはっ!」

 

刺された。指された場所の周囲が冷たくなり、意識が遠退く。

 

雪の上にドサッと音がした。ナイフを捨てて逃げたのだろう。

 

「……っ」

 

家に居る6人の顔が浮かんでくる。みんなの笑顔が、俺の脳内に浮かんでくる。雪は白くはなく、少しずつ赤色に、俺の場所から染まっていく。

 

マスターとして、全うできなかったな……申し訳ない。

 

地面は暗闇の向こうまで赤黒く染まり、俺も少しずつ意識が無くなっていった。雪が俺の額を冷たく触れ、俺の体温を奪っていく。

 

もうダメだった。その後すぐに意識を失い、その後どうなったかなど、俺は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が目を覚ましたのは病院だった。俺は病院で治療を受けたらしい。

 

「目、覚めましたか」

「あぁ、はい」

 

病院の看護婦さんが話しかけてくる。

 

「誰か来ましたか?」

「いえ、まだ誰も」

 

セイカたちも来ていなかったのか。やはり、気付かないか。寝てるかもしれなかったし。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

俺は病院の天井を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退院してすぐ、俺は家に帰ることができたのだが、家ではどこかそっけなく、6人全員今までより距離はあった。

 

「ただいま」

「おかえり、マスター」

 

ささらもフレンドリーな感じではない。

 

「帰ってきたのか、マスター」

「おかえり、マスター」

「おかえりなさい」

 

アベルーニたちも素っ気ない。

 

「おかえりなさい、マスター」

「……おかえり」

 

つづみとセイカもだった。もとからこいつらは家族として、という扱いではではなかったし、当然なのだろうか。

 

「……明日も仕事だから、留守番よろしくな」

「分かりました」

 

セイカの敬語も復活してしまった。少し寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイカも見送ってくれなくなった。悲しくなりながらも、俺は静まった家を出る。もう4月になり、少しずつ暖かくなってきていた。

 

「……セイカたちの原因、俺だよな」

 

俺がただ1人で勝手に刺されて、勝手に入院して、勝手に帰ってきた。呆れるのも当然だ。

 

「ごめん、みんな」

 

いっそ、あのまま俺は死んでしまった方が、みんなにとってよかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日は休みだった。誰にも言わずに休みだったため、みんなは気付かずに1階に降りていった。みんなが降りてからしばらくしてから俺は1階に降りたが、1階ではみんながなにやら話していた。

 

「やっぱり、嫌われてるのかな?」

「病院でも連絡来なかったからね……」

「最近話してないしな」

「やはり避けられているのだろうか」

「寂しいです」

 

みんな揃って俺のことを話していた。俺のことを心配していてくれていたのか……俺はとんだ勘違いをしていたんだ。

 

「そんなことない」

 

俺は1階のリビングのドアを開けて言った。

 

「お前たちは俺の大切な"家族"だ。避けるわけないだろ」

「病院から連絡が無かったのはなんだったんだ」

「病院で俺がほとんど動けなかったからだ。それに、俺も話しにくい状況だったし」

 

俺はアベルーニからの質問に答える。

 

「ごめん。いままで素っ気なくして。嫌われてると思ってたから」

「そんなことないよー!」

 

ささらが俺の隣に来て言った。

 

「マスターは大切な人だもん」

 

ささらがそう言ったのに、つづみとセイカは反応した。

 

「私もだよ!」

「私も……」

 

ささら、大切な人っていうのは少し語弊がある。別の意味でも捉えられるから……

 

「とにかく、よかったよ、マスター」

「嬉しいです!」

 

ミリアルとアリアルが言う。

 

また明るい家庭に戻れてよかった。これでこれからも平和に過ごしていける──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私が作るからささらさんは大丈夫です!」

「私が作るって、セイカちゃん」

「私が作ってあげたいの。ささらとセイカは大丈夫よ」

 

あれから半年が経った10月。もう寒波が到来してきて外は肌寒くなってきたが、何やら3人は言い合っているようだった。

 

「何してるんだ」

「あ、マスター」

 

つづみが俺の場所を空ける。

 

「マスターのお弁当誰が作るって話だったの」

 

ささらが人差し指をたてて言う。俺、いつも弁当なんて作ってもらってないんだが。

 

「弁当か。いきなりだね」

「だって夜中まで大変でしょ?少しでも癒やせないかなって」

 

セイカがもじもじしながら言う。

 

「そうか。それで言い合ってたわけだ」

 

俺は1つ、3人の前で提案した。

 

「なら、順番に作ればいいんじゃないか。今回はセイカ、次回はささら、みたいな」

 

そう言うと、3人は見合って頷いた。

 

「じゃあ今日私が作る」

「じゃあ明日は私ねー」

「明後日は私ね」

 

そう言っているが、セイカが作るはずの今日。それが問題だった。

 

「あのさ、今日気付かない?」

 

セイカは俺の服装を見て言った。

 

「仕事行かないの?」

「休みだ。というか、昨日まで4日間仕事だったんだからこれから3連休だろ」

「あ、そっかぁ」

「いつも仕事だと思ってたわ」

 

つづみの口調も変わってきて、平和だと思ったが、実際は天然さが増しただけか。

 

 

 

 

 

 

 12月のある日、俺は出張に行くことになった。初日の弁当はささらが作ってくれて、俺は出張の出発の日、12時に会社にいればいいため、8:16発はやぶさ8号東京行きに乗った。セイカが「マスターがいないと寂しい!」としつこく言ってきたため、俺とセイカはホテルに着いたら連絡するという約束をした。

 

はやぶさ8号は、いつものはやぶさ102号とは違う。はやぶさで100番台の号数を使う列車は盛岡発で、盛岡~仙台は各駅に止まる。しかし、はやぶさ8号は違う。新青森発で、停車駅も変則的。北上を出ると、一ノ関、古川、仙台、大宮、上野、東京に停車。水沢江刺、くりこま高原は通過する。

 

仙台には8:56、大宮10:07に到着し、東京には10:32に到着。会社には11:00ごろに到着した。

 

「悪いね。急な出張」

「別にいいですよ。出張からの帰りは直接帰っていいんですよね」

「あぁ。構わない。じゃあ、青森まで頼むよ」

「はい」

 

出張先は青森。来た道を引き返すことになるが、飛行機で羽田空港から飛んでいく。12:01発各駅停車中央林間行きで隣の三越前、三越前から12:09発銀座線渋谷行きで新橋、12:22発山手線外回りで浜松町、12:30発空港快速羽田空港行きで羽田空港へ向かう。12:48に到着後、13:25発JAL145便青森空港行きに搭乗。

 

 

 

 

 

 飛行機は早く、2時間しないうちに青森空港に到着。青森空港から青森駅へは連絡バスで向かう。15:00発青森駅前行きで青森駅へ。青森駅からは出張先まで歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルに着き、俺は約束通りセイカに電話する。18:00過ぎだったが、お風呂とか入ってないだろうか。

なんて心配はいらなかった。呼び出し音が1秒ほど鳴り、すぐにセイカは出た。

 

《マスター!》

「セイカか。お風呂とか大丈夫か」

《今入ってるよ》

 

確かに、少し反響しているような気がする。

 

「あぁ、今お風呂か……」

 

セイカがお風呂に入ってる……ってことは今全裸か。あのいつも一緒に寝ているときに密着している大きな胸が……

 

《どうかした?》

「へ!?い、いや、なんでもない!」

《なんか変な声でたよ。もしかして、想像しちゃった?》

「そ、そんなことないだろ!?」

 

慌てて俺はセイカに言った。まさか、全裸なのを想像してた。なんて言えるはずがない。

 

《そう?ならいいんだけど。あ、でも私のことだったら……その……いいよ?》

 

かわいいところもあるんだよなぁ、セイカって。ホント、かわいい。

 

「今日の夜寝れないかもなぁ」

《私の写真送ろうか?》

 

セイカの写真……欲しいな。

 

「お願い」

《ふふ、分かった。どんな写真がいい?》

「添い寝してる感じの」

《ならマスターのも欲しいな。ね、送って?》

「あぁ……仕方ないな」

《ありがとう。じゃあね》

「じゃあな」

 

俺は電話を切って、ベッドに横になった。横になった状態で、スマホカメラの向きが縦向きのままになるように気をつけながら俺は写真を撮った。そして、俺は写真を送る。それと同時に、セイカから写真が送られてきた。

 

「っ!な、なんだこのかわいいが限界突破した生物は……!」

 

俺は送られてきた写真を抱きしめる。

 

「早く帰ってやるからな」

 

俺は写真を抱きしめて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ◇    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターから写真をお願いされて、私はベッドに寝て、写真を撮った。写真を送ると、少し前にマスターから写真が来ていた。

 

「……っ」

 

私は無言で写真を抱きしめた。あぁ、かっこいい……

 

「ますたぁ……」

 

早く帰ってこないかな……早く会いたいよぉ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◇    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、仕事を大急ぎで済ませ、青森駅に午前中の内に着いた。ギリギリ12時前だったが、次の電車は惜しくも12:14発。12:14発奥羽本線弘前行きで新青森、新青森から12:39発はやぶさ24号東京行き、盛岡で14:08発やまびこ64号東京行きに乗り換える。

 

普通だったら盛岡から13:50発東北本線普通一ノ関行きなのだが、これだと北上着は14:37。やまびこ64号より11分遅くなってしまう。なるべく早く会いたい俺は新幹線にした。

 

やまびこ64号の中で俺はセイカに連絡した。14:26に着くと送ると、セイカは既読だけつけて返事は帰ってこなかった。まぁ、おそらくは……

 

 

 

 「マスターっ!」

 

セイカは飛びついてきた。予想通り、すぐに家を出て駅まで来ていた。

 

「おう。元気だな」

「元気だよ。あの写真、どうだった?」

 

セイカは上目遣いで俺を見つめる。

 

「とっても可愛かったよ、セイカ」

「ふふ、嬉しい」

 

セイカは俺の手を握り、ふふっと笑った。

 

 

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