終着点への道   作:月島柊

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〈影山柊×桃野美菜〉

 

 高校2年生。

 

放課後で、俺とあと1人だけ女子生徒が残っていた。他はもうみんな帰ってしまったらしい。

 

それもあって、ものすごく気まずい。こんな空間にいたくない。さっさと帰ろう。

 

「……ねぇ、影山くん……」

 

女子生徒が俺の名前を呼ぶ。

 

「どうしたの?」

「明日の1限ってなんだっけ」

「確か数学Ⅰだよ」

 

俺がそう言った瞬間、廊下から何か破裂音が聞こえた。誰かが荷物か何かを落としたんだろうか。

 

俺はドアを開けて帰ろうとする。しかし、ドアはびくともせず、開けることができない。

 

「あれ……」

「どうしたの?」

 

女子生徒がこっちに寄ってくる。ドアが開かないことを察したのか、女子生徒は窓の鍵を開ける。

 

「開いたか」

「ううん、開かない……」

 

そうなると、あとはグラウンドの方向の窓か。ただ、ベランダがないため落ちるしかない。

 

「一か八かだ」

 

俺はベランダ側の窓を開ける。しかし、鍵を開けようとするとバチッと電気が伝わり、俺は思わず手を離す。

 

「痛っ」

「だ、大丈夫?」

 

女子生徒が俺を心配してくれる。

 

今分かったことで言うと、俺たちは閉じ込められた。この教室に、しかも計画的に。窓の鍵に電気を流す必要はないからだ。

 

「影山くん、どうしよう……」

「助けを呼ぼう。それしかない」

 

俺は着ていたブレザーを脱ぎ、Yシャツでグラウンド側の窓に体当たりした。窓が外れて落ちてくれれば気付くはずだ。

 

「ふっ!」

 

俺は突進する。しかし、ビクともしない。開けることもできないわけだ。

 

「ドアは……」

 

俺は廊下のドアに向かって体当たりする。こっちは少しは動いたが、開かない。

 

「影山くん、どうしよう……」

「どうするか……」

 

 

 

 

 

 

 

 閉じ込められたまま、俺と女子生徒は2人だけで話していた。もう暗くなってくる。俺は電気のスイッチを押す。

 

「影山くん?スイッチは?」

「いや、入れたんだけど……」

 

何回か繰り返すが、電気は点かない。まさか……

 

「電気が通ってないってことか……」

「うそ……」

 

外から中が見えないようにだろう。電気が点くんだったら真夜中に電気を点けていれば不自然に思って助けが来る。それを防ぐためだろう。

 

 

 

 真っ暗になってきて、外からの僅かな光が入ってくるくらいになった。お互いの顔はほとんど見えなくなり、話しもしづらくなってきた。

 

「ねぇ……影山くん……」

「なに?」

「私たち、このまま死んじゃうのかな……」

 

女子生徒の不安そうな声が聞こえる。

 

「そんなわけないだろ。助けは来る」

「そうかな……」

 

俺たちはなるべく近くで横になった。声を頼りに近寄るしかなかったが、恐らく近くだ。

 

 

 

 

 翌朝、教室の中が久しぶりに明るく照らされた。平日なはずだが、学校に生徒は来るのだろうか。

 

「そろそろ生徒来るよね?」

「あぁ。来るはずだ」

 

女子生徒は昨日より不安そう。

 

30分経って、生徒が登校してくる時間になった。しかし、誰も登校してくる様子はない。というか、チャイムも鳴らない。

 

「ねぇ、先生とかも来ないの?」

「音が聞こえないよな……」

 

俺は廊下のドアを叩いてみた。誰かいたら気付くはずだ。

 

俺が叩いた数秒後、廊下を歩く足音が聞こえた。誰かいたのか。

 

「先生来たな」

 

ドアの前に来たのは俺たちの国語教師だった。

 

「よかった……鍵は外からかかってるはずだし」

 

先生が来たことに安心した。これで外に出れる。

 

ドアが開き国語教師が入ってくる。よかった、助かった。

 

「先生、ありがとうございま──」

 

国語教師のスーツのポケットから拳銃が見える。俺がその場から1歩足を下げた時にはもう遅かった。

 

バンッ

 

教室の中に反響するほど大きな銃声が鳴り、俺は倒れた。撃たれたところが冷たく感じてくると、国語教師は言った。

 

「俺は言ったな。子どもは嫌いだと」

 

国語教師はそう言うと、俺の撃たれた場所を踏みつけて言った。

 

「君はホームルーム委員だったな。だから君を隔離した。まぁ、余計なやつまでついてきたが」

 

国語教師は女子生徒の方を見る。そして、こう言った。

 

「この学校には誰も入れない。窓も開けられないだろう。君たちは、この教室(おり)の中で死んでいくんだ」

 

そう言って国語教師は出て行った。ドアを閉め、俺を蹴飛ばして。

 

俺が倒れているところに、女子生徒は駆けつけた。そして俺の傷口を見る。

 

「影山くん、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫……少し痛いだけだよ」

 

俺が起き上がると、俺の体に突き刺さっていた銃弾が床に金属音を立てて落下する。よかった、傷は浅いみたいだ。

 

「さぁ、きっと今頃警察が捜査してるだろう。それまでは耐えよう」

「え、うん……」

 

女子生徒は驚いたような顔をしたまま固まる。

 

そうは言ったものの、実際警察が見つけるまで俺が生きている自信はほとんどゼロに等しかった。食べ物も尽きるし、飲み物だって尽きる。そんな中で生きていくなんて無茶な話だ。

 

さらには銃弾で受けた傷もある。余命宣告されたようなものだろう。

 

俺は床に寝そべった。もうこれしかできることはないからだ。

 

「あ、ケータイ繋がるかな……」

「どうだろうな」

 

繋がったら少しは望が見えるか。

 

女子生徒はケータイの電波を確認する。

 

「繋がってる!えっと、とりあえず警察に連絡……」

 

女子生徒は警察に通報する。

 

電話が終わると、女子生徒の手元からケータイが落ちた。

 

「どうした」

「道が寸断されてるから時間かかるって……あと2日くらい……」

 

あと2日か。終わったか。

 

「そうか……君は耐えれるか」

「多分……」

 

女子生徒は言った。だったら、ここから生きて出て行けるのはこの子だけだ。

 

「そうか」

 

俺はそう言うだけで、力を全て抜いた。少しでも生きていたかったから。

 

聞いたことがある。人間は何も食べないと約3週間、何も飲まないと3日~7日で死んでしまう、と。

 

昨日からのため、今日で2日目。2日かかるということは、4日目に出られる。水分は3日でアウト。間に合っていない。

 

俺は女子生徒の方を見た。水分をほんの少しだけ摂っていた。まだあったんだろう。

 

「影山くん、平気?」

「あぁ。全然大丈夫だ」

 

俺は嘘をついた。そんなはずない。ただ、女子生徒に心配してほしくなかった。

 

そうだ、最後かもしれないし、これだけは聞いておこう。俺は女子生徒の方を見て言った。

 

「君、名前なんだっけ」

「桃野美菜だよ」

「桃野さんか。いい名前だね」

 

俺は笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、真っ暗な中で俺たちは近づいて寝ることにした。

 

「影山くん、あと2日だよ」

「そうだな。頑張ろう、桃野さん」

 

俺は桃野さんにそう言った。桃野さんは耐えられるはずだ。だったら頑張ってほしい。

 

「ねぇ、影山くん」

「なんだ?」

「私ね、好きな人いるんだ」

 

こんな状況の中で何を言っているんだ。

 

「そうか。生きられると良いな」

「他人事だね」

「いいだろ。今はそれが1番だ」

 

俺はそう言った。俺にはまったく関係ない話だ。

 

桃野さんが生きてくれれば良い。ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼頃、俺の体調は急変した。

 

昨日の銃弾で受けた傷が悪化してきて、かつ脱水症状が出てきた。もうまともに立っていることもできず、俺は桃野さんに気付かれないように座っていた。

 

「まだかな、警察」

 

そう言っていたが、俺はもう話すことすらつらい。めまいが出てきて、視界がぼやける。それに、傷のところが痛い。

 

「もうすぐだよね」

 

俺はゆっくり頷いた。まだ桃野さんも気付いていない。

 

 

 

 

 

 4日目朝、パトカーのサイレンの音が聞こえた。ようやく警察が来たようだ。ただ、もう遅かった。

 

教室の中に国語教師が来た。ドアを開けて、俺たちに近寄ってくる。

 

「君たちなのか、呼んだのは」

「違います!もうスマホも使えないですし……」

 

俺も何か言おうと思ったが、もうそんな余裕もなかった。

 

「なら、お前か」

 

俺は動こうとした。だが、動けない。動かせない。

 

「無視か。なら、こいつを殺すか」

 

国語教師は黒いものを出した。何を出しているのかは、ぼやけて分からないが、おそらく拳銃だ。

 

「やめて!」

 

カチャッと音が鳴る。銃を撃とうとしている。

 

俺は無理やり体を動かした。桃野さんを守らなければならない、という使命感からだ。好きな人がいるんだったら、会わせてあげたい。それだけだった。

 

バンッ  バンッ

 

2発鳴った。両方とも俺に直撃する。2回別のところに痛みが迸る。

 

「影山くん!」

 

国語教師は笑っていた。桃野さんは俺の名前を叫んだ。

 

「よかったね、桃野さん。もう弾切れだ」

 

国語教師は帰っていく。またドアの鍵の音が聞こえる。

 

ただ、もう限界だった。空腹、脱水、負傷。3つがもう限界まで来ていた。

 

「……よかった、無事で……」

 

俺の意識が遠くなっていく。目の前の景色が消えていく。俺、もう死ぬのかな。

 

「大丈夫ですか!っ、遅かったか……早く救急を──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時からしばらく経って、学校も再開。国語教師は傷害罪や殺人未遂で逮捕され、代理を仕立てた。私の体調も少しずつだったが戻り始め、今は普通に授業を受けられる程度にまではなった。

 

影山くんは、まだ目を覚ましていないらしい。偶に「実はもう亡くなっている」とか「行方不明になっている」などと不吉な噂も聞くが、先生に聞いたところ心拍はあり、病院で入院しているらしい。

 

今の私がいるのも影山くんのおかげだ、と言っても過言ではない。影山くんが身を挺して守ってくれた。その分、影山くんは怪我を負ってしまったわけだが。

 

家に帰って荷物を置く。そして、私は自転車にまたがり、影山くんの入院している病院に向かった。事実を確かめたいのだ。

 

病院に着いて、許可をもらい、私は影山くんの病室へ。まだ意識は戻ってないと思うが、少しでも顔を見ておきたかった。

 

影山くんは寝ていた。心拍数もかなり低い。1分間の心拍数は僅か41。普通は65回前後を刻むため、かなり低い。

 

「影山くん……」

 

影山くん、もう死んじゃうのかな……

 

私がそう思っていると、心拍数が少しずつではあったが上がってきた。41から43、47、51、55と少しずつ上がっていき、やがて63まで回復した。私は天敵のついていない影山くんの右手をぎゅっと握る。私の気持ち、少しでも受け取って……

 

「影山くん……っ」

 

そして、心拍数は上がり続ける。64、66、67と不規則に。

 

「桃野、さん……?」

 

影山くんの声がした。私は影山くんの顔を見る。

 

「影山くん!」

 

影山くんが目を覚ました。ずっと意識のなかった影山くんが、やっと起きてくれた。

 

「……なんで……あ、先生は、あの……」

「もう逮捕されてるよ。良かった、柊くん……」

「柊、くん?」

 

影山くんが私に聞き返した。最初は意味が分からなかったが、少しして分かった。

 

「あ、えっと……!」

「いいよ、別に……」

 

影山くんは疲れ果てたように上を向く。そっか、キツいんだよね、話すことも。

 

「君のおかげ、だな」

「え……」

 

影山くんからまさかのことを言われた。

 

「君が、俺を、助けてくれた……」

「私は、ただ隣にいただけで」

「知ってる、よ。今も、手、握ってるから……」

 

影山くんは途切れ途切れで話していく。ただ、その1つ1つに影山くんの全力が詰まっていた。

 

「あ、ありがとう……」

「お礼は、こっちが言うはずなんだけど……ありがとう」

 

影山くんは右手を少し動かす。

 

「この手も、俺を救ってくれたんだな……」

 

影山くんはニコッと笑う。そういえば、笑った顔ははじめてみたかも。

 

「そうだ、好きな人は……上手く、やってるか……」

「う、ううん。まだ告白してないの。今からするところで……」

 

影山くんは私の手を力いっぱい動かす。少し持ち上がるくらいだけど。

 

「早く、してこい……」

「うん。するね」

 

私は髪を後ろにどかして、影山くんの顔に近づいて言った。やっと、この時がきた。

 

「柊くん、私、君のことが好き」

 

私は勇気を振り絞って言った。影山くんは一瞬戸惑っていたが、すぐに理解したようだった。

 

「俺を……?」

「うん。優しいし、それに私を守ってくれた」

 

影山くんは私の方を向いた。

 

「よろしくね」

 

影山くんはニコッと笑った。

 

よかった、柊くんの彼女になれた。

 

「まずは退院しないとね」

「あぁ。頑張るよ」

 

私は柊くんの頭を撫でてその日は帰った。退院したら何しよっかな。デートとかしてみたいかも。

 

私はそんな想像を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3ヶ月、真冬になって外はかなり寒くなってきた。柊くんの退院の日が今日のため、私は病院の前まで来ていた。退院して最初に会いたいからだ。

 

「柊くん!」

 

ちょうど出てきた。出てきた瞬間に気付いた。柊くんは私の方に歩いてくる。

 

「“美菜”」

 

柊くんが呼んだ名前に驚いた。ずっと私のこと「君」か「桃野さん」で呼んでたのに、下の名前で呼んでくれた。

 

「下の名前……」

「美菜が俺を下の名前で呼んだからさ」

 

柊くんは私を抱きしめる。心臓のドキドキが治まらない。聞こえちゃいそうなくらいドキドキしてる……

 

「美菜、好きだよ」

 

柊くんはそう言って私の耳にキスする。体全体が暑くなる。真っ赤になってそう。

 

「うぅ……」

「かわいい」

 

柊くんはさらに強く抱きしめる。

 

「はう……」

 

柊くんは私の背中をポンポンとたたいて私から離れた。少し名残惜しい気がしてしまう。

 

「あ……」

 

名残惜しくて思わず声が出た。

 

柊くんは手を握ってくれる。

 

「行こう、美菜」

「うん!」

 

私は柊くんと一緒に家に帰った。

 

 

 

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