終着点への道   作:月島柊

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水野愁×風波瑞浪〈中編〉

 

 「ただいま」

 

私はドアを開けて家に入る。

 

「遅かったようだけど」

 

お母さんが言う。今は20:40。遅かったのは愁くんと一緒にいたからだ。ちょっと新宿まで行って愁くんと遊んできた。ただ、そんなこと言ったら……

 

「遊んできた、とかないでしょうね」

「違う。少し部活が長引いただけ」

 

私はそんな嘘をつく。こうでも言わないと、私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日は無理にバイトを入れている。事情もあって、家にはほとんどいない。というか、居たくない。

 

「いってきます」

「待ちなさい」

 

お母さんが私を呼び止めた。何か言われる。

 

「彼氏なんかいたら、どうなるか分かってるわね」

「……うん」

 

私は家から出て行った。

私の母親は所謂毒親だ。友達を作ることだって、中学までは禁止だった。誰と交流することもなく、1人でいることしか許されなかった。

まだ恋人を作っちゃいけない。愁くんの存在を知られたら、愁くんの身も、私の身も危ない。

私を愛しすぎている、なんてことはない。私を殺そうとしたのは、お父さんと私を離したのはお母さんだから。

 

 中学校の頃、私は初めて入院した。それはお母さんが原因。友達を作ることを禁止されてたのを、私が反抗した。すると、お母さんはナイフを持って私のところに歩いてきた。その時の恐怖感は今でも覚えている。

本当に怖いと、動けなくなる。力は入るのに、どう動かしたらいいか、分からなくなる。

お母さんは私の左脚をナイフで刺した。そのあと、犯行はバレてお母さんは警察に連れてかれた。しかし、そのあとすぐに釈放。上手く嘘をついて刑事責任能力がない、とされた。お父さんはそれを不服としたが、お母さんに追い出され、もう4年くらい顔を見ていない。

 

 けど、お父さんのことを話したら私が叩かれる。謝っても許されない。

そんな目に愁くんがなったらいけない。それで私は気付かれないようにしている。

 

「風波さん、次4番テーブルね」

「はい!」

 

バイトしてそれを忘れようとしている。思い出すだけで苦しくなってくるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイトの時間が終わると、私はすぐに帰る。すぐに帰らないと、今度は何をされるか分からない。

 

「お疲れ様、風波さん」

「お疲れ様です、先輩」

 

私は家まで1人で歩いていった。

 

 家に着くと、お母さんは夕食の準備をしていた。ただ、いつもより作っている量が少ない。いつもの半分程度少ない気がする。

 

「ただいま」

「えぇ……」

 

お母さんの顔は暗かった。ただ、恐ろしい笑みを浮かべていた。口が三日月のような形をしていた気がする。怖くなって、部屋に駆け込んだ。

 

(なんなの、あの目……怖い……)

 

私は部屋の中で俯いた。また何かされるのかな、と思って怖かった。

 

 夕食の時間になった。私は時間を見て下まで降りていく。夕食がいつも通り用意された。

 

「私は仕事で部屋にいるから」

「はい……」

 

そういうことだったんだろうか。それで別の夕食を食べるから、私の分だけだったんだろうか。そしたら、あの笑みは……

私は用意された夕食を食べる。

 

(いつもと大して味は変わらな──)

 

「いっ……!」

 

心臓が「ドクン」と激しく高鳴る。死にそうなくらい、音が聞こえるほど心臓が高鳴る。私は耐えられなくて椅子からなだれ落ちる。心臓を強く押さえるが、全然効果はない。

私はハッとした。そうだ、少なく作って、私だけに食べさせる。それに毒を入れてたら、自分には何もないけど私は毒の効果がある。

 

「そういう、こと……」

 

苦しい。視界が心臓の鼓動と共に歪む。やがて世界がぼやける。

 

「ふふ、かかったわね」

 

お母さんの声。やっぱり、思った通りだった。けど、もう意識が……死んじゃうの、かな……

浮かんでくる思い出は、家族のものは一切なかった。

愁くんと、もう会えないのかな。最近縁を戻したばっかりなのに……

ごめんね、愁くん。こんなに不甲斐なくて、勘が鈍くて……

 

「愁、くん……」

 

私の意識はそれ以降はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ここは、どこだろう……

山の中っぽいけど……

私は木に囲まれた中で目を覚ました。どこかは全く分からない。

 

「痛っ」

 

何かがぶつかった。動いている。

 

「なに……」

 

私が向くと、そこには見たことない動物がいた。少しかわいい、かも。

 

「よかった……」

 

少し安心した。

しかし、それもつかの間その動物は爪を立てて私に襲いかかってくる。顔に爪が当たり、引っ掻かれる。

 

「いっ……!やめ、て!」

 

私は起き上がろうとする。しかし、斜面でバランスを崩した。左手から斜面に沿って滑り落ちていく。何かバッグのようなものもあり、それに必死で掴まっていた。

私は木にぶつかって止まった。息が止まるくらいの衝撃だった。

 

「うっ……どこ、ここ……なに、これ……」

 

私は掴まっていたバッグを開けた。バッグは私の。中には私の服や下着が入っていた。スマホとかは……私が持ってたんだっけ。

 

「ここ、どこだろ……」

 

私はポケットに入っているスマホを取り出して電源を付けようとする。

 

「あれ、つかない……」

 

電池が切れてるのかな……けど、とにかく歩かないと。

私は力を振り絞って坂を下りていった。

 

 20分くらいすると、アスファルトの道についた。よかった、道路っぽい。

 

「ちっ、邪魔だな」

 

通る人にすれ違いざまに言われる。

私って、邪魔だったのかな。邪魔だからお母さんもこんなところに捨てたの……?

 

「瑞浪?」

 

私を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた優しい声。

 

「愁くん……」

 

愁くんだった。愁くんも邪魔だって思っちゃうのかな。私、邪魔な人間だもんね。邪魔だったらもう切り捨てていいから。幸せに──

 

「よかった……!」

 

愁くんに私は包まれていた。愁くんは泣きながら私を力いっぱい抱きしめる。

 

「心配だったんだからな。急にいなくなったって聞いて」

 

愁くんは抱きしめて私を撫でる。

 

「愁くん、私のこと、邪魔って言わないの……?」

 

そう聞くと、愁くんは私の目を見つめて言った。

 

「何を言ってるんだ!瑞浪は俺の大切な彼女だよ。邪魔だなんてそんなわけないだろ」

 

愁くんは熱く否定する。愁くんは私のこと邪魔って言わないんだ。安心した……

私は愁くんにおんぶされていた。駅はこっちなのかな。どこか分からないから、駅の方向も知らない。

 

「ここ、どこ?」

「高尾だよ。それにしても、なんでこんな遠くに」

 

私は愁くんになら、と思い話した。

 

 愁くんはその話を聞くと、拳を握りしめて言った。

 

「なんて母親なんだ。俺は瑞浪のこと大好きなのに」

 

愁くんに言われると凄く嬉しい。

 

 

 愁くんは車に乗せると、愁くんのお母さんに家まで帰るように伝えていた。愁くんはずっと私に触れていた。撫でたり、抱きしめたり、手を繋いで揉んだり、少し私の気分も戻ってくると私のほっぺをむにゅむにゅして遊んだりしていた。

 

「瑞浪、こっちおいで」

 

愁くんの家に私は入り、案内された部屋に入る。

部屋はシンプルな壁紙に、シンプルなシングルベッド。シンプルイズベスト。この模範解答だ。

 

「ここは?」

「俺の部屋だよ。あ、荷物はそっちに置いて」

 

なんか止まる準備でもしてくれてるのかな。なんか悪い……

 

「いいよ、私その辺のホテルで泊まるから……」

「宿泊代、あるの?」

 

私はバッグを開けて財布を出す。財布の中を漁り、お札を出す。

 

「うっ……」

 

7000円弱しか入ってない。2万はないと厳しいよね、ホテルは。

 

「ウチだったら無料だよ?」

「うぅ……泊まらせて下さい……」

 

愁くんは頷く。彼氏の家にもう泊まるなんて、おこがましいというか、申し訳ないというか……なんか複雑。

 

 お風呂も貸してくれて、夕飯も作ってくれた。勝手に来た人なのにこんなしてくれて嬉しかった。

けど、私はもう帰れない。親に見捨てられたんだ、私。住む場所なんて、私には……

そんなことを悩んでいると、愁くんのお父さんが話しかけてくれた。

 

「瑞浪ちゃんと愁はもう同棲するんだもんな?」

「うん……って、ふぇ!?」

 

聞き間違いじゃなければ、同棲する、って言われた気がする。

 

「やっぱりそうなのね!?それで、結婚式はいつ!?」

「結婚式を挙げるんだったら服も揃えなくちゃな」

 

話しがどんどん進んでいってる。同棲!?結婚式!?

 

「ちょっと、父さん、母さん。話が早いよ」

 

愁くんの言うとおりだ。まだ同棲とか言うには早いと思う。うん。

 

「同棲はするけど、結婚式はまだ……な」

 

同棲はするの!?そこは否定しないの!?

 

「同棲するのか!じゃあベットは……」

「何言ってるのお父さん。ベットは1つでいいでしょう?2人で抱き合って寝るのだもん」

 

はわわ……なんかどんどん恥ずかしくなってくる……

 

「ちょっと、瑞浪が困ってるから……」

 

あのシングルベッドで2人で寝る?もしかして愁くんと強制的にくっついて寝ることになる?

 

「瑞浪?」

 

呼ばれてようやく気付く。

 

「ひゃいっ!」

「あ、あのさ、ベッドどうする?」

 

一緒がいい、ってこの場所で言えるはずがない。

 

「ゆ、床で寝るから……」

 

私がそう言うと、愁くんは私を抱えた。なんか天井が見える……って、これお姫様抱っこじゃないの!?

 

「まって!あの!」

「俺は一緒のベッドで寝たい。さ、行こう」

 

愁くんはお構いなしにお姫様抱っこしたまま部屋に入っていく。恥ずかしい……

部屋に入ると、私を先に寝かせてくれた。すぐに愁くんも寝てきて、修学旅行のときみたいになった。

 

「こうしたかったんじゃないの?」

「だって……暑いだろうし……」

 

ドキドキしすぎて寝れない。これを上手く言い訳するためにそんなことを言った。

 

「エアコンつけようか」

 

愁くんは冷房をつける。愁くんは一緒に寝たいんだろうな……

 

「あ、もしかして恥ずかしいから?」

「あうっ……」

 

図星だった。愁くんは笑ってドアを閉める。鍵も閉めて私の隣に寝る。

 

「安心して、外に音はほとんど聞こえないよ」

 

じゃあ、何しても許される、のかな。

私は愁くんのことを抱き寄せ、顔を埋めた。少しは落ち着くかもしれない、と思ったからだ。

 

「ん、瑞浪……」

 

愁くんも分かってくれているようだった。私を優しく撫でてくれる。

 

「もうそんなことされないからね。ずっと俺といよう」

 

愁くんは抱いたまま言った。少し告白みたいに聞こえるけど、告白かな。

 

「なに、告白?」

「悪い?」

 

否定しないんだ……

 

「ううん。嬉しい」

 

きゅっ、と弱く愁くんを引き寄せる。これで同棲が始まるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日は私だけバイトだった。毎日入ってるし、結局家には居られない。

 

「バイト、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

「ちょっと待って」

 

愁くんのお母さんが言う。しかし、愁くんは私を呼び止めた。私は愁くんのところに歩いていく。

 

「瑞浪、家に帰りたくないからバイト増やしてたんだろ?」

「うん。そうだね」

 

私が頷くと、愁くんは言った。

 

「もう俺のとこにいるんだし、瑞浪がよかったら減らしてもいいんだよ。辞めろとは言わないけどさ」

 

愁くんは真剣な眼差しだった。そっか、もうお母さんとは一緒にいないんだ。

家はどんな居心地なんだろう。それが少し楽しみだった。落ち着いて過ごせるのが家なのかな。

 

「分かった。ちょっと考えてみるね」

 

私はそう言ってバイトに行った。週に今は6回入れてるけど、3~4回くらいには減らそっかな。

7:10発三軒茶屋行きで三軒茶屋へ行き、三軒茶屋で7:27発田園都市線、各駅停車中央林間行きで桜新町へ向かう。バイトは桜新町でしている。定期券は桜新町↔東府中。同じ料金で1番遠くの駅だ。

バイトが始まって、私はいつも通りバイトを始める。いつもより少しやりにくかったが、家に帰ったら愁くんに会えると思うと少しは楽になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【水野愁】

 

 俺は瑞浪が出て行った2時間後、9時過ぎに家を出た。俺も今日はバイトなのだ。瑞浪のバイト先を知っていれば意地でも常連になるのだが、生憎知らない。

俺は9:11発三軒茶屋行きで三軒茶屋へ行き、三軒茶屋9:30発準急中央林間行きで長津田へ。学校よりバイト先の方が遠い。

定期はすずかけ台↔東府中。同じ料金で1番遠くの駅だ。すずかけ台なんて使うことはほとんど無いが、中央林間に抜けるときは安く済む。

 

 長津田に着き、俺はすぐ近くのネットカフェに向かった。ネットカフェのバイトだ。かなり条件もよく、シフトは平日2日、休日1日の週3日。祝日は確実に休めるし、平日も毎週火曜、木曜と休日は土曜。間隔もなるべく均等にしてある。

今日は10:30~14:30の4時間。昼休憩でいなくなる人の穴埋めだ。

もちろん休日昼間なんて人はいない。本領発揮は夕方~夜にかけて。案外暇だ。

 

「水野くん、暇だよね」

 

店長が話しかけてきた。

 

「何すか、その仕事頼みそうな感じは」

「はは、そう思ってたのか。別に暇な人に頼まないよ」

 

忙しい人には頼むのか。それもどうかと思うが。

 

「人なんて来ないからね。昼休憩の穴埋めだし、人も少ないんだ」

「入れる人が少ないんじゃないんですか、この時間」

「そうかもしれないね。お、お客さんだ」

 

俺はレジの前に立つ。今日の客はこの人だけかもしれないな。

 

「今から6時間っていけますか」

「コースはどうなさいますか」

「鍵付き個室でお願いします」

 

鍵付き個室は一応1番高い部類。その分1人の時間は過ごせるが。

 

「2340円になります」

 

そう言うと、客は静かに3000円を出す。

 

「660円のお返しになります。これ以降10分の延長毎に140円追加されますのでご了承ください」

 

客は鍵を持って部屋に向かう。今から6時間入る人いるんだな。なんか珍しい。

 

 

 

 

 

 

 14:30になり、俺はバイトを終えた。店長に報告しに一旦裏に行く。

 

「店長、時間終わったんで帰ります」

「あいよ。お疲れ」

 

俺は長津田駅に向かい、次の電車に乗る。少し遅くなったか。

次は14:42発準急押上行き。準急が停車する駅で降りたことないとこで降りたいな。どこだろう……急行停車駅は降りたことあるし……

そうなると、用賀と桜新町、駒沢大学か。用賀はあるし、大学の駅に降りるのもな……

 

(桜新町にすっか)

 

俺は準急で桜新町まで行くことにした。

桜新町までは準急で約24分、急行と各駅停車を乗り継いで約32分、各駅停車で約40分。結構離れた場所にある。

 

 桜新町には15:06。近くは一体何があるんだろうか。

駅前を適当に歩いてみていると、すごく落ち着いて感じのカフェがあった。こういう落ち着いてる店いいよな。

 

(よし、入ってみるかな)

 

俺はカフェに入った。

 

「いらっしゃいませ。空いているお席におかけ下さい」

 

男性店員から言われて俺は座った。窓に近い席に座り、冷房の効いた室内で涼む。何頼もうかな。暑いし冷たいのがいいな。アイスコーヒーとか……

 

「ご注文お決まりでしたら──え?」

 

店員さんに違和感があった。なんだ、そんな話し方。

 

「ん……」

 

俺が見上げると、そこに立っていたのは瑞浪。白いワイシャツに焦げ茶色のエプロンのような服。カフェの服装だ。

 

「なんでここに……?」

「適当に寄っただけなんだ。ホントに」

 

実際桜新町で降りたのは適当。ここに来たのも適当だ。

 

「……この服装、恥ずかしいんだけど……」

 

確かに、肩に掛かっている帯で胸が強調されてる。

 

「いいじゃん、似合ってるよ」

「うぅ……何にする、注文」

 

俺は瑞浪に考えていたことを言った。どうするかな、瑞浪。

 

「俺が欲しいもので」

「え……?あ、うん……」

 

瑞浪はゆっくり戻っていった。何を持ってくるかな。

そして瑞浪はお盆の上に2つ置いて持ってきた。少し不安そう。

 

「っと……アイスコーヒーとパンケーキ……」

「おっ、ありがと」

 

瑞浪は俺の隣にちょこんと座る。俺に比べて若干小柄な体がかわいい。

 

「あれ、バイトは?」

「だって、愁くん来たから……店長が……」

 

店長が許可してくれたのか。いい店長だな。

 

「それで……さ……」

 

瑞浪はワイシャツのボタンを外し、大きな片胸が露わになった。ブラも下にずらし、乳首を俺に見せた。そして、カーテンも少し閉めて、俺の席を外から見えないようにする。

 

「声に出さないでよ……?」

 

瑞浪は胸の先を搾るようにして、乳首の近くを弄る。小さく「んっ」と声を出しながら乳首を搾っていた。

 

「んっ……出ない……」

「な、何出そうとしてる……?」

 

瑞浪は頑張って胸の根元から先っぽまで少しずつ手を移動させる。

 

「……お乳……」

「……知ってるか?」

 

瑞浪は胸を搾るのをやめて俺の方を見た。

 

「母乳ってさ、普通は子ども産んでないと出ないんだよ。それで、まさか……」

 

瑞浪にそう言うと、瑞浪は必死で否定し始めた。手をブンブン振り回し、俺に抱き付く。

 

「いないからぁ……!愁くんだけだからぁ……!」

 

片胸だけが出てるのもあって、柔らかい感触が直に伝わってくる。

 

「あっ、ちょ……」

「わーん……」

 

泣いている。なんかごめん……

 

 

 全部食べて、俺は瑞浪のバイトが終わるまでカフェの外で待機していた。

外は夕方だが、西日が当たって暑い。いつになったら夏は終わるんだ、と俺を思わせるほどだ。

 

「お待たせ、ダーリン♡」

 

呼び方が変わった。瑞浪はレースのついたノースリーブの服にミニスカートで出てきた。うん、いつも通りかわいい。1番タイプの女の子だ。理想の彼女。

 

「待った?」

「いや、全く」

 

俺は瑞浪と手を繋いで桜新町駅へ。

桜新町からは急行の待避をしていた17:18発各駅停車南栗橋行きで三軒茶屋へ。この時間はもう準急の運転が終わり、17:06発準急押上行きからは急行か各駅停車で運転される。

 

「ふふーん♪」

「どうかしたか?瑞浪」

 

瑞浪が鼻歌を歌っていたのが気になった。

 

「愁くんと2人でいられるの幸せだなーって」

 

瑞浪はハグして言う。そっか、もう悲しい目に遭わないから安心するんだろうな。

三軒茶屋には17:23。17:30発の下高井戸行きで上町へ向かう。

 

 

 上町には17:37。俺と瑞浪はまっすぐ家まで帰り、ベッドに直行した。ベッドに飛び込み、俺と瑞浪は疲れたお互いを癒やし合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みの半ば、俺と瑞浪は、瑞浪のお父さんを探しに出かけた。どうも内緒で連絡はしていたらしく、今日の8時に会えるらしい。

新潟県の豊栄という場所にいるらしい。俺と瑞浪は安く移動するため、23:12発下高井戸行きで下高井戸へ向かう。バスタ新宿から夜行バスに乗るため、新宿へ向かうのだ。

23:21に下高井戸に到着。このあと23:29発、快速新宿行きに乗る。深夜のため、電車はガラガラ。

新宿には23:38。バスタ新宿に移動する。

瑞浪は初めての夜行バス。少し不安そうだったが、その度に俺が撫でてあげていた。

一方の俺は人生三度目。最初は新宿~秋田のフローラ号、2回目は青森~東京のノクターン・ネオ号。そして、3回目が今回の東京~新潟のアミー号。

 

「愁くん……ホントに怖くないんだよね?夜行バスって……」

 

瑞浪はまだ不安そう。

 

「大丈夫だよ。怖くない」

 

俺は瑞浪を撫でる。初めてはこんなものだろう。

0:23頃、バスが入ってきた。俺たちは1番後ろの席。2人で隣の席を取った。

 

「ねぇねぇ、手握ってて?」

「不安か?」

「うん……少しでも愁くんと触れてたい……」

 

バスは0:25に出発。

この先、長岡駅大手口に5:10、三条・燕に5:30、島原に5:50、新潟駅南口に6:05に到着する。

電車で行くと、新潟に8:10に到着する、とき301号が最初になる。長岡に7:00までに在来線で着ければいいのだが、当然着けるはずがない。そうすると、深夜バスが最も早くなる。

飛行機でも羽田空港→新潟空港の直行便はない。伊丹空港まで行ってから新潟空港まで行くことになるため、10時近くなる。

 

「愁くんの手、大きい……」

「そうか?」

 

瑞浪は俺の手をぎゅっと握っている。もう出発したのだが、どうやら不安っぽい。

 

「寝れるかな……」

「俺が寝かせてあげるよ」

 

俺は瑞浪のところのリクライニングのところまで手を伸ばし、座席を倒す。俺も同じところまで倒し、瑞浪のお腹と胸の中間辺りをゆっくり優しくたたく。

 

「んっ……んっ……」

 

瑞浪は叩くのと当時に小さく声が出る。

 

「眠くなるだろ?」

「うん……ねぇ、寄りかかっていい?」

 

瑞浪は上目遣いで言う。

 

「もちろん」

 

瑞浪はゆっくり俺に寄りかかる。

新潟まではあと5時間強。まだ時間はたくさんある。

 

 

 

 深夜3時、俺は瑞浪の様子を見ていた。かわいい寝顔が見れるかと思ったのだ。

しかし、そんなのは見れなかった。目を普通に開いている瑞浪がそこにいた。

 

「瑞浪、寝れない?」

「うん……全然寝れない……」

「大丈夫だよ、俺が隣にいるから」

 

2人で聞こえるか怪しいくらいの小声で話した。瑞浪は俺の腕にしがみつき、頑張って寝ようとする。その姿はまるで小さいモルモットが頑張って歩いているようだった。小さいのにも関わらず頑張っている、愛らしい姿だ。

 

 

 

 

 

 

 早朝5時半、三条・燕に到着。3分ほど止まり、5:33に出発。もう新潟県内に入っている。

瑞浪はゆっくり眠っていた。期待していたかわいらしい寝顔が見れた。

 

(やっぱり癒やされるなぁ……)

 

俺は抱き付いて寝ている瑞浪を見て癒やされていた。瑞浪からしたら抱きまくらを抱いて寝てるみたいな感じなのかな。

 

 6時になり、俺は瑞浪を優しく揺らして起こす。瑞浪は寝ぼけた声を出しながら目を開けた。

 

「ん?もう着く?」

 

瑞浪は俺に目を合わせる。目が細く、こっちを上目遣いで見る。

 

「着くよ」

「ん……」

 

かわいい。寝顔もそうだが、起きたときもかわいい。

新潟駅に着くと、瑞浪は手を繋いで俺についてくる。

 

「お父さん元気かな」

「楽しみなんだな、会うの」

「うん!」

 

俺と瑞浪は新潟駅1番線に向かう。1番線からの6:41発白新線普通村上行きで豊栄まで向かう。

新潟県内はほとんど白新線で使われているE129系が使用される。新潟駅を起点に、直通も多数ある。

1本前の白新線、6:06発普通新発田行きは越後線の吉田始発。ほとんど越後線から発着する電車だが、白新線からは1日2本長岡行き、1日3本新津行きが走っている。逆からも、1日2本豊栄行きと村上行きがそれぞれ出ている。

そんな中でも、6:41発普通村上行きは新潟始発。白新線から羽越本線に向かう電車だ。

 

「なんかE721系みたいな形してるな、この電車」

 

瑞浪が前面を見て言う。

 

「この形って使いやすいのかな」

「さぁ。ただ、E721系以降の地方はこの形だよね」

 

E129系も、E131系もこの形。地方の路線では多い印象がある。

6:41、電車は時刻通り出発。この先、東新潟、大形、新崎の順に停車する。

 

 

 豊栄には7:03。瑞浪が1番早く出て、改札まで小走りで行っていた。お父さんに会えるのがよっぽど楽しみなんだろう。

 

「パパ!」

 

瑞浪は改札から出て左に逸れた場所にいた男性に飛びついた。身体もそれなりにガッシリとしていて、瑞浪が飛びついたのを耐えられるほどだ。

 

「瑞浪か!大きくなったなぁ」

 

瑞浪のお父さんは瑞浪の頭をポンポンとたたく。最中に俺に気付き、瑞浪に聞く。

 

「瑞浪、あの人は」

「あ、私の彼氏」

 

お父さんは俺の方を向くと、頭を下げた。俺は少し戸惑い、手をあたふたさせる。

 

「瑞浪の父です。瑞浪がお世話になっております」

 

しっかりした人なんだな、って、そうじゃなくて。

 

「頭を上げてください。俺は水野愁です。よろしくお願いします」

 

お父さんと握手をして、俺たちは関係を深めた。

俺たちは瑞浪のお父さんについていき、家まで向かった。

 

「貴重な休日をすまない。今日と明日くらいしか空いてなかったんだ」

「全然大丈夫だよ、パパ」

 

俺も頷いた。会社員だろうし、中々忙しいんだろう。

家に着くと、案内された椅子に座った。瑞浪は俺の隣で、お父さんと向かい合って座った。

 

「それで……瑞浪」

「んー?」

「彼氏とはどこまでいってるんだ」

 

中々俺が聞きにくい話になった。この場所に俺がいるのか?正直気まずいんだが……

 

「デートとか、前はバイト先にも来たよ」

 

バイト先に来たのはたまたまだが。

 

「登下校はほとんど一緒だもんねーっ」

「そうなのか。よかった……」

 

お父さんはかなり安心した様子だった。不安になる要素でもあったんだろうか。

 

「水野くん、少しいいかな。2人で話したい」

「ああ、はい」

 

俺と瑞浪のお父さんは別の部屋に行った。瑞浪が悲しそうな目で見つめてくる。結構行きづらい。

2人になると、お父さんは瑞浪のことを話し始めた。

 

「瑞浪はな、結構思い詰めてしまう子なんだ」

「思い詰めてしまう、ですか」

 

俺はお父さんに聞き返した。そうは見えなかったからだ。

 

「あぁ。深く考えすぎてしまうんだ。細かいことでも、もしかしたら嫌われてしまうかも、と」

 

俺にもそんなこと言ってなかったな。

 

「私だけに話してくれたんだ。母さんの話は聞いているだろう?」

 

俺は頷いた。

 

「だから私にだけ話してくれたんだ。それで、瑞浪はそんな性格だから、彼氏とは上手くやっていけてるのかと思ってね」

 

そうだったのか。なんかことごとくお母さんに妨げられてるな、自分の生活を。

 

「大丈夫です、俺が彼女を守るので」

「頼もしいよ。機会があったら君のご両親にも挨拶したいんだけどね」

 

さっきの話を聞く限り、忙しいから来れないんだろうな。

 

「いつでも待ってますよ」

「ありがとう。さぁ、瑞浪も寂しいだろうし、戻ろうか」

「はい」

 

俺はお父さんと一緒に部屋を出た。

瑞浪はソファでうとうとして俺たちを待っていた。深夜バスの中で寝不足だったんだろうか。

 

「あ、パパ、愁くん……」

「水野くん、隣に座ってやってくれ」

「はい」

 

俺は瑞浪の隣に座った。瑞浪は眠そうだが笑みを浮かべた。

やがて俺に膝の上に乗っかり、そのまま寝てしまった。やっぱり寝不足だったんだろうか。

 

「瑞浪、寝てしまったか」

「はい。夜行バスで来たので」

 

お父さんは驚いているようだった。

 

「夜行バスで来たのか。だったら帰るときは新幹線で帰るといい。お金は出すよ」

 

このとき、結構答えづらい。遠慮すると瑞浪を軽く見てる感じに思われるし、なんかお言葉にも甘えづらい。

 

「瑞浪もいるんだ。2人で帰りなさい」

 

そう言われると、そうしなければいけなさそうだった。

 

「じゃあ……そうさせてもらいます」

 

帰りは新幹線で帰ることになった。

 

 新潟駅まで白新線で出たあと、俺たちは上越新幹線とき338号東京行きに乗車した。お父さんは電車の前まで来てくれて、そこで見送ってくれた。

 

「気をつけて帰れよ、瑞浪」

「うん。また来るからね?」

「はいはい。またおいで」

 

17:26、とき338号東京行きは出発した。瑞浪と2人隣で座っていた。2人席がちょうど取れたため隣だった。

 

「愁くんの隣~♪」

「寝るか?」

 

俺がそう聞くと、瑞浪は首を振った。

 

「寝ないもん!昼間寝たし」

 

あの時ってそんなにぐっすり寝てたのかよ。人の膝でよく寝られたもんだ。

 

「そうか。じゃあ東京まで起きてられるんだな?」

「大丈夫だよ!多分……

 

自信なさげに小声で言った。多分これは寝るパターンだ。

 

 長岡を17:48に出発すると、瑞浪は俺に寄りかかった。寝る気だろうか。

 

「騙された?」

「え?」

 

瑞浪は俺をハグする。全く寝る気じゃなかったのか……

 

「ふふーん、私だってずっと寝てるわけじゃないもーん」

「そうか、悪かったな」

 

この先どうなるかは知らないが。

 

 とき号は上越新幹線の速達種別だが、とき338号は新潟~東京の上越新幹線全駅に停車する。後続の340号は浦佐と本庄早稲田を通過、前を走る336号は燕三条、浦佐、上毛高原を通過する。

ただ、とき338号も途中駅での待避はない。そこは流石のとき号だ。

 

「ね、愁くん」

「ん?どした」

 

瑞浪は俺にキスする。というか、遠慮しなくなってから瑞浪のスキンシップが激しい気がする。

 

 高崎までやって来た。俺たちが乗り換える駅は東京。お父さんには高崎で乗り換えることや、大宮で乗り換えることも提案したのだが、お父さんが「どうせ大して変わらないだろう」と言って東京までにしてくれた。

だが、新潟~高崎は指定席で8130円、新潟~大宮は10,330円、新潟~東京は10,760円。差額2630円が「大して変わらない」とはならないと思うのだが……

実際、指定席料金もそれぞれ違う。わざわざ指定席を取ってくれたのはありがたいが、自由席でも……

 

「愁くん、どうかした?」

「ん、いや。瑞浪のお父さん、よく東京まで取ってくれたなって」

 

瑞浪はスマホを開いて何か調べていた。しばらくして、俺にスマホの画面をみせる。

 

「これ、お父さんの会社なんだけどさ」

 

瑞浪が出したのは、超大手企業。給料も月給50万という、少なくとも平均的な値段ではない。

 

「本物のお金持ちは豪勢な暮らしを進んでしない、って言うじゃん?多分そういうことなんだろうね」

 

瑞浪は冷静に言っていたが、普通に驚く金額だ。

だって、10ヶ月分働いたとしても給料は500万。1年間でもこのくらいは貰えるだろう。

これじゃあ3000円弱の値段なんて大した値段じゃないのか。

 

「すごいな、瑞浪のお父さん」

「でしょ!あのね──」

 

瑞浪の話はしばらく続いた。

お父さんのことを話しているときの瑞浪の顔は今までにないほど楽しそうだった。俺はこんなに楽しそうな顔をさせたことがなかったから。

 

(ごめんね、瑞浪)

 

俺は心の中で謝った。

普通の人とは事情が違う瑞浪を、俺は楽しませてあげられていない。そう考えると申し訳なく思えてくる。

 

 東京に着き、俺たちはなるべく安く上町に行くため、定期区間を利用して下高井戸まで向かった。

瑞浪は俺にずっと抱き付いているが、多分お父さんといた方が楽しいんだろう。

 

「瑞浪、楽しい?」

 

俺がそう聞くと、瑞浪は笑顔になって言った。

 

「うん。どうして?」

「いや、なんとなく」

 

瑞浪をもっと楽しませてあげたい。お父さんから任せられたのだから、楽しくさせてあげたい。

東京19:47発山手線外回りで渋谷まで向かう。渋谷で京王井の頭線に乗り換える。

 

「愁くん、私が楽しくなることしてくれれば、楽しくなるよ?」

「何が楽しいんだ?」

 

瑞浪は俺の頭を強く押す。

 

「少し屈んで?」

 

俺は瑞浪が押すのをやめる低さまで屈んだ。瑞浪は上から覆い被さるように俺を隠した。

 

「え、何?」

「愁くんに甘えて欲しいの。ほら、こうすれば私が甘えられてるみたいでしょ?」

 

瑞浪の大きな胸が俺の頭の上にぷにゅんと乗っかる。頭の上が至福の状態。

 

「あー、これ楽~」

 

漢字は一緒だけど。ただ「たのしい」じゃない。「らく」なだけだ。

 

「あ、あのー?」

 

俺が聞く。

瑞浪の顔を見ると、瑞浪の顔は今までにないほど楽しそうだった。さっきの顔とは違う。ものすごく楽しそうだった。

 

「瑞浪?」

「愁くんが受けなの楽しいっ!」

 

攻めじゃない方がいいらしい。

 

「愁くんにもっと胸乗っけちゃえー!」

 

瑞浪はたわわに実った2つの球を俺の頭にさらに乗せる。耳に胸が当たり、頭の上半分が2つの球に包まれる。柔らかい。

 

「って、そうじゃない!」

「む?だって楽なんだもーん」

 

瑞浪は乗せ続ける。周りからの視線が痛い。なんでこんなことに……

 

 結局、渋谷に着くまでの26分間ずっと乗せ続けられた。井の頭線乗り換えの時はいつも通り、といっていいのか分からないが、手を繋いで歩いていた。

20:27発急行吉祥寺行きに乗り、瑞浪からさっきのようなことをされないように若干距離を取った。

 

「ねぇ、どうして離れてるの?」

「さっきみたいなことをされないように」

 

瑞浪は頬を膨らませて不満そうな顔をした。これだけでもかわいいものはかわいい。

 

「いいじゃーん!ねっ?」

「とは言ってもさ、電車の中でそういうことは流石に、ね」

 

電車の中でそんな姿を見せつけたら、他の人にどんな目で見られるか。考えただけで怖い。

 

「楽しくないーっ!」

「家に帰ったらいいよ、別に」

 

楽しませないといけない、っていう使命感はあるし、楽しませてあげられないのも嫌だ。家に帰ってからだったらそんなに恥ずかしくはない、と思いたい。

 

「じゃあ早く家帰ろっ!」

「俺に言われてもな……」

 

俺も早く家に帰りたいが、着く時間は決まってるんだし、仕方がない。

 

 20:33、明大前に到着。ここから京王線に乗り換え、下高井戸を目指す。

20:40発各駅停車高尾山口行きに乗車し、隣の下高井戸へ。2分もしないうちに到着し、20:41着。少し歩いて20:51発東急世田谷線三軒茶屋行きで上町に帰る。

20:59、上町に到着。家に帰る。

 

 家に帰ってからは瑞浪に襲われた。瑞浪も暴走し、俺にいくつもイチャイチャをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みなのもあり、関東は35℃を超える日もあった。

今日の予想最高気温は東京で35℃、横浜で35℃、千葉で34℃、さいたまで36℃、前橋で36℃、宇都宮でも35℃と、各地猛烈な暑さだ。

明後日行くことになったのは神奈川の海水浴場。横浜だって35℃になるのだから、当然暑い。

 

「母さん、準備しなくていいのか」

「うふふっ、2人で一緒に行ってきなさい。私たちも後から行くから」

 

車の中の方が涼しいんだけどな……大磯まで電車で行かないといけないのか。

瑞浪にそのことを話すと、瑞浪はすぐさま準備を始めた。バッグにあったものを全て出す。普通のTシャツ、長袖、ミニスカート、ノースリーブなどが出てくる中で、1つだけ色も違う服があった。紺色で、白の縁取りがされた服か。

 

「あっ、中学校のスク水」

「中学の時のか」

 

瑞浪は上の服を脱ぎ始める。下も脱ぎ、下着姿になると、瑞浪は俺に言った。

 

「こっち、見てるの?」

「あ、見ちゃ悪かったよな」

「いや、いいんだけど……少しドキドキしちゃう」

 

俺が向いている状態で瑞浪はブラジャーを取った。そのあと、スルスルと音を立ててパンツを脱ぐ。ただ、股のところからとろっとした糸が垂れる。

 

「ひゃぁっ!」

「糸、ひいてる……」

 

瑞浪は「それは見ちゃらめっ!」と少し噛んだが言った。

スク水を頑張って瑞浪が着る。ウエストは少しキツいくらいで入った。あとは次の問題……

 

「うぅ……絶対入らないよぉ」

 

たわわに実った胸。胸の下で瑞浪のスク水は止まる。

瑞浪は胸の形を変え、自分で胸をスク水こ中に押し入れる。今にもはち切れそうなおっぱいがスク水を引っ張っている。

 

「き、キツい……」

「無理そうだな」

 

瑞浪は諦めまいとスク水を無理やり上げる。乳首がスク水の上からくっきりと見え、瑞浪も苦しいんだろうが、耐えているような顔をしている。

 

「き、着れたぁ……よ?」

「それで泳げるのか」

 

俺がそう聞くと、瑞浪は首を横に振った。やっぱりそうだよな。

 

「今から買いに行こうか」

「うん……!」

 

瑞浪も喜んでいた。

瑞浪がスク水を脱ぐのを手伝った。無理やり着たせいで脱がしづらい。

 

「愁くん、胸を私の方に押して」

「分かった」

 

俺は瑞浪の胸を触り、そのまま瑞浪の方に押す。

 

「そうっ、そのままっ」

 

瑞浪が頑張ってスク水を下ろす。

やがてお腹のところまでスク水が来て、あとは水着1人でやれた。どうもウエストは中学の時と変わっていないらしい。

 

「ふぅ……」

「疲れてるとこ悪いが、瑞浪、今全裸だからな?」

 

俺がそう言うと、瑞浪は俺に飛びついた。重いものが飛んできたと思ったが、瑞浪はかなり軽かった。

 

「全裸で密着されるのいいでしょ?」

「それより瑞浪が軽くて驚いてる」

 

瑞浪は「えへへーっ」と少し照れていた。

そのまま着替えさせて、家を出たのはもう太陽もかなり高いところまで上がった10時だった。

 

 せっかくだからと思い、俺と瑞浪は明後日ことになった海の近くまで行った。その近くに大きいショッピングモールがあるのだ。

10:08発三軒茶屋行きで三軒茶屋まで出て、10:28発急行中央林間行きで長津田まで向かう。

 

「桜新町より先って初めてかも」

 

瑞浪が外の景色を見て言った。

 

「そうか、瑞浪はバイト先桜新町だもんね」

 

俺からしたらもう見飽きた景色なのだが、瑞浪からしたら新鮮か。

 

「うん。愁くんどこなの?」

「長津田だから、ここは結構通ってるよ」

 

俺がそう言うと、瑞浪が悪戯っ子のような目で言った。

 

「じゃあ降りるついでに愁くんのバイト先行こっかな♡」

「いいけど、多分来づらいよ?」

 

瑞浪はキョトンとした顔をした。かわいい。

 

「どうして?」

「だって、ネカフェだよ?」

「それは確かに行きづらい……」

 

瑞浪は悔しそうだった。瑞浪のバイト先は偶々だとはいえ行ったことがある。不平等な気がしてもおかしくないだろう。

 

「けど、いつかは行くからね!」

「うん。待ってるよ」

 

俺は瑞浪の機嫌を取った。機嫌取りやすいし。

 

 長津田には10:55。このあと横浜線に乗り換えて横浜を目指す。

といっても、横浜線で横浜まで行っているのは少数派。大半が1つ手前の東神奈川で折り返す。行くのは桜木町行き、磯子行き、大船行きのみ。少なくなっている。

そんな中でも、次に乗る11:04発各駅停車は桜木町行き。横浜まで1本で行ける。

瑞浪は混んでもいないのに俺にくっついた。瑞浪は俺にくっつくのが好きらしい。

 

「……」

「瑞浪?」

「んー?」

 

無意識だったのだろうか。景色を見ていたらしい瑞浪が俺の方を向いた。

 

「……なんでもない」

「ふーん……」

 

瑞浪はさっきよりもさらにくっつく。絶対わざとだと思ったのだが、違うんだろうか。

 

 11:32に横浜に到着。8両なのもあって、ホームを若干持て余していた。

このあと、2分の乗り換えは間に合わず、11:44発東海道線普通平塚行きで辻堂へ。

さっきとは異なり、ホームを端から端まで使う。関東の在来線で最長の15両編成だ。横浜線の2倍弱ある。

 

 12:07に辻堂に到着。駅の近くにあるショッピングモールに行き、昼ご飯より先に瑞浪の水着を探しに行った。ついでに俺の水着も。

女性用水着の売り場の前に来た。瑞浪は売り場の外からでも水着を見ていた。

 

「どうしたの?」

「いや、種類多いんだなって」

 

俺と瑞浪は水着の売り場に入った。

瑞浪が一直線に向かったのは、ビキニが置いてある売り場。瑞浪って露出が多い方がいいのだろうか。

 

「瑞浪って、肌とか出てる方がいいんだ」

 

そう言うと、瑞浪は少し悲しそうな顔をして言った。

 

「着れなかったから……こういう水着って……」

 

きっとお母さんのことだろう。プールも学校のでしかやったことがないのも、納得できる。

 

「そうか。じゃあ、好きなの選べ」

 

瑞浪は元気に探し始めた。これが楽しいんだったら、俺は別にいいかな。

 

「愁くんも選んで~」

 

瑞浪は俺にも選ばせた。

 

(水着選ぶのか……そんなにいいの選べるかな……)

 

不安になってくる。自分の好みを押し付けていいのだろうか。それがダメなら、瑞浪の好きなものを選ぶしかない。

 

「愁くん、これどうかな」

 

瑞浪の声が聞こえた。

 

「いいんじゃないか、着てみなよ」

 

俺は瑞浪のことを見ないで言った。瑞浪に着せる瑞浪が何がいいか探していたのだ。

 

(もう少し奥の方にあるかな)

 

俺は奥の方に行った。もう恥じらいなどほとんど無かった。瑞浪のことを考えてばかりだ。

 

 

 

【風波瑞浪】

 

 「愁くんも選んで~」

 

愁くんが選んだ水着も着てみたいと思い、私は愁くんにそう言った。初めての水着は2人が好きな物がいい。

愁くんは熱心に選んでくれていた。私のこと考えてるのかな。

 

(どんなのがいいかな~とか、これ着せてみたいとか、考えてるのかな)

 

きっとそんなことを考えている。

自分で選んだ水着だけでも決めないと、根本的に2人の好きな水着にならない。

 

(きっと、愁くんってフリフリのついたのが好きなんだよね。レースのついた服も好きだし)

 

私はレースのついたビキニを持った。白のレースビキニ。愁くんにきっと喜んでくれるはずだ。

 

「愁くん、これどうかな」

「いいんじゃないか、着てみなよ」

 

愁くんは素っ気なかった。私の方も見てくれなかった。

 

(興味ないのかな……)

 

そう思いつつ、私はレースビキニをもって試着室に向かった。出たら愁くんが待ってるはず。だってこっちの方来てるし。

私は奥にある試着室に入り、ビキニを着た。鏡で一回確認して、愁くんが待ってるのに備える。

 

「愁くん、どう──」

 

愁くんはいなかった。

遠くにだが、愁くんが女性用水着を見ているのが見えた。

 

(なんだ、選ぶのに集中しすぎて素っ気なく見えたんだ……)

 

少し落ち込んだが、私は試着室に戻る。

 

(ホントに、かな)

 

もしかしたら愁くんは本当にどうでもいいのかもしれない。私からも離れたし、そうとも考えられる。

 

(やっぱり、私はいらない子なんだ)

 

私は試着室のカーテンを開けようとする。

 

「あっれ~?キミどうしたの?」

 

知らない人に話しかけられた。

 

「もしかして、彼氏に捨てられちゃった?」

 

その人はどんどん話していく。違う、捨てられてない。ただ水着を探してくれてるだけだ。

 

「可愛いのに、見る目ないね~、その彼氏」

 

その人は私の手首を掴む。

 

「俺たちと一緒に来ない?」

 

手を引っ張る。私は一瞬よろけた。

「やめて下さい」って言えばいいのに、私は言えなかった。口が開くだけで、声は一切出なかった。

 

「行こうよ、ね?そんな彼氏なんて忘れてさ」

 

その人は、そのあとにこんな言葉を発した。

 

「俺たちだけが、キミを大事に思ってるんだよ?」

 

(愁くんより大事に思ってるのかな……)

 

彼氏に捨てられた。それは最初こそ違うと思ってた。でも、今は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この人たちについていった方がいいのかも……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと、この人の方が大事にしてくれる。そっちの方が幸せになれる。

私は踏ん張っていた足の力を抜いた。その人に身を預けた。

 

「服は必要だね。試着室から取ってきてあげるよ」

 

その人は私の服を持った。その服は、愁くんが「好き」って言ってくれた服。初めて好きって言ってくれた服。

 

「これに着替えよっか」

 

私は試着室で着替えた。ロボットのように、言われたことしか動けなかった。

着替えて外に出ると、その人は私を引っ張った。そのまま外へ連れて行かれ、車の中に乗せられた。後部座席にはゴミが積まれていて、少し匂いがする。

 

「こっちの服の方がいいね」

 

そう言われ、私の服は脱がされ、代わりの服を着せられる。

今まで着ていた服は、車の後部座席に投げられる。

愁くんに「好き」と言われた服はいらなくなった。

 

「行こうか」

 

その人は車を走らせる。駐車場の中でハンドルを切り、道路に向かう。

さっきまでいた場所が小さくなる。

 

(さよなら……愁くん……)

 

もう愁くんには会えない。もう水野くんが「好き」だった私はいない。

 

次の瞬間、車が「パンッ」と音を鳴らし激しく揺れた。ガリガリと車が地面を擦るような音が聞こえる。

 

「なんだよ……パンクか?」

 

車が止まり、その人は車から出る。

そして反対側の、私が座っていた助手席側のドアが開く。私がその方向を見ると、愁くんが立っていた。

 

「瑞浪、戻ってこい」

 

私が愁くんの手を掴もうとすると、愁くんは何かに吹っ飛ばされる。

愁くんは地面に倒れ込み、地面に当たった左腕を押さえていた。

 

「余計なことを……」

 

そう言ったのは、私を連れてこうとした人。私は引っ張られて走らされる。

 

「待て!」

 

愁くんの声が聞こえる。愁くんは左腕を押さえながらこっちに走ってくる。私を引っ張っている男もスピードは速いのに、愁くんはそれに追いついてくる。

 

「愁くん!」

 

私は掴まれていない左手を愁くんにのばす。

 

「瑞浪!」

 

愁くんが私の名前を叫ぶ。

愁くんは私に追いつき、私の左手を掴む。私は引っ張っていた男から引き離され、愁くんに手を掴まれた状態になる。

 

「くっそ……余計な真似をするな!」

 

男はこっちに走ってくる。今度こそ、もう無理と思った瞬間、愁くんは私から離れ、男に立ち向かった。

男はまた突っ込んでくる。愁くんは右腕を上げ、男の首辺りで止める。

 

「ぐはっ……」

 

男は愁くんの右腕に当たり、後ろにバランスを崩す。

愁くんはその隙を見計らい、男の手を掴み、地面に叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後、警察がやって来て、男は連れて行かれた。車の中の確認で、投げ捨てられた私の服のことを聞いてきたが、私は「もういりません」と言って返却を断った。

何でかというと、もうあの男に触られて、ゴミになった服は、愁くんが「好き」だった服じゃないからだ。

 

「瑞浪、深く考えすぎないでいいんだよ」

 

愁くんは私に優しくそう言った。

 

「君を思ってる人は多い。俺もだし、お父さんもだろ?」

 

深く考えすぎるのが私の嫌いなところだった。それを知ってたって、お父さんから聞いたのかな。

 

「だから、もう思わないで」

 

愁くんはそのあとこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        「君が一番だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても、その服だっせぇな」

 

あの男が着せた服を見て愁くんが言った。

 

「よし、服買いに行くか」

「水着は……?」

 

私がそう聞くと、愁くんは2()()()水着が入った紙袋を見せた。

 

「お前が欲しかった水着がこっちで、俺が選んだ水着がこっち」

 

私が選んでいた水着が入っていた。水色だったけど、レースビキニが入っていた。

 

「なんで……」

「瑞浪だからさ、そう思った。本当は白がいいかと思ったんだけど、試着室に落ちてたの見て、トラウマかなって思ったんだ」

 

凄く私のことを考えてくれていた。そんなに考えてたんだ、私のこと……

 

「こっちは俺が選んだやつね。やっぱりレースビキニ着てほしくて」

 

愁くんが選んでいたのはレース部分が私のより少し長いレースビキニだった。

 

「ありがとう……愁くん……」

 

愁くんは私の頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 愁くんと一緒に新しいノースリーブのレースの服とミニスカートを買って、辻堂駅に戻った。服は辻堂駅の多目的トイレで着替えた。脱いだこの服、いつか捨てないと。

愁くんの左腕がボロボロで、切り傷と擦り傷、それに痣もあったのに私は気付き、愁くんに聞いた。

 

「これ、吹っ飛ばされたときの……?」

「……そう。ちょっと痛いけど、大丈夫だよ」

「ダメだよ、放っておいちゃ。ちょっと待って」

 

私はスマホで近くの薬局を探した。

 

「次で降りるよっ」

 

私は愁くんの口を人差し指で押さえて言った。

 

 薬局で絆創膏と消毒液、痣を治す薬を買って、人のあまりいないベンチに愁くんを座らせた。

 

「愁くん、痛くない?」

「あぁ、平気だよ」

 

愁くの傷口に消毒液をつけ、絆創膏を貼り、痣に薬を塗った。

 

「明日の海はやめた方がいいかもね」

「そうか……ごめん」

 

愁くんはしょんぼりしていた。別にいいのに。

 

「いいよぉ。それより、ハグしたい」

 

私がそう言うと、愁くんはガバッと抱き付いた。愁くんがそんなに外でするイメージは無かったけど、頼めばしてくれるんだ。

 

「明後日にしよっか?」

「あぁ……ごめん」

 

愁くんは私を抱いたまま謝った。

乗る電車は小田急江ノ島線、14:37発快速急行新宿行き。これで中央林間まで向かう。

愁くんは私がずっと撫でてあげていた。私を助けてくれたから、感謝の気持ちももちろんある。あとは明日行けないことを残念そうだったから慰めの気持ちもあった。

 

「お腹空いたね」

「そうだな。中央林間着いたらなにか食うか」

 

愁くんは撫でられたまま言った。

甘えてくれてる感じがして、ちょっとだけ楽しい。私を頼ってくれてる感じするし。

 

 中央林間には14:54。遅めのお昼ご飯を田園都市線乗り換えの間に食べる。

お昼ご飯を食べたあと、15:48発、東急大井町線直通、急行大井町行きで二子玉川まで向かう。

大井町線直通の電車は普通の田園都市線よりも短い。田園都市線は普通、各駅停車から急行まで10両で運転しているが、大井町線直通の急行は7両。朝にいる鷺沼発の大井町線直通各駅停車は5両で運転される。

当然といえば当然なのだが、15:48発の大井町行きは中央林間の時点で座れなかった。ちょうど遊びに行く帰りの時間なのもあるのだろう。

 

「座りたかったね」

「仕方ないよ。7両だし」

 

私と愁くんはドア横の仕切り板に寄りかかっていた。私が寄りかかって、愁くんは私の方を向いて、横に立っていた。

電車は途中、南町田グランベリーパーク、長津田、青葉台、あざみ野、たまプラーザ、鷺沼、溝の口、二子玉川の順に停車する。長津田で中央林間14:44発各駅停車押上行き、鷺沼で中央林間14:36発各駅停車押上行きを追い越し、二子玉川で長津田15:44発各駅停車南栗橋行きに接続する。そのため、急行停車駅と、二子玉川から田園都市線各駅はこの電車が先着する。

 

 南町田グランベリーパークで買い物帰りの人たちが大勢乗ってきて、長津田でも各駅停車からの人も含めて大量に乗ってきた。

車内はいつの間にか、通勤ラッシュとまではいかなくとも混んでいた。

 

「段々人増えてきたね」

「帰りのいい時間だもんな」

 

二子玉川で各駅停車に乗り換えても、渋谷には16:32、大手町には16:49、東武線に入っても、越谷や春日部も18時前に着ける。

 

「ごめん、もうちょっと詰めるね」

 

愁くんはそう言って私の前に来た。詰めるんだったら横から普通に詰めると思うけど……

 

(くっつきたかったのかな。ふふっ、かわいい)

 

愁くんだから許せることだ。というか、この世界の女子高生、全員愁くんにくっつかれても許しちゃうよ、きっと。

あざみ野や、鷺沼でも人は大勢乗ってきて、降りる2つ前の鷺沼では満員電車になっていた。

 

「ごめん、詰めるよ」

 

愁くんはこっちに寄ってきた。今度は本当に詰めてきてる。でも、さっきより身体が触れ合う。

 

「苦しくない?」

 

愁くんが聞いてくる。

 

「大丈夫だよ」

 

私は愁くんの目を見て言った。愁くんの目はよく見ると綺麗だった。黒い目で、外にいくにつれてグラデーションがかかっているような色。

 

「瑞浪?なんか付いてるかな」

「あ、ううん。大丈夫だよ」

 

見つめてるのが気付かれたんだ。

溝の口には16:13。次が降りる二子玉川だ。

溝の口で若干人が減り、スペースが生まれた。でも、愁くんは離れない。

 

「愁くん?」

「くっついてていいだろ?」

 

心が撃ち抜かれたようだった。ドクンと心臓が高鳴る。

 

「ひゃい……」

 

囁かれるような、吐息の混ざった声。これが、本当の恋だったんだ。

 

「瑞浪、好き」

「はわわ……」

 

愁くんは耳元で囁く。もう本当に耐えられない。

 

「すきぃ……」

 

電車は二子玉川に着く。乗客が雪崩のように外に出ていく。それに押されて私たちもホームに出る。向かい側に止まっている各駅停車南栗橋行きに乗り換える。

南栗橋行きはさっきより少し空いていた。ただ、終点まで先の到着というのもあり、乗車率は各駅停車っぽくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 家に着いて、私は愁くんのベッドで愁くんを待っていた。なんか待っててって言われたのだ。

 

(なんだろう……)

 

ドアが開く音がする。視線をそっちに向けると、そこには上半身を全て脱いだ愁くんがいた。割れてないけど、なんかたくましく感じる身体。

 

「ひゃっ!」

 

下半身は見ちゃいけない。だって、きっと全裸で……

 

「瑞浪、水着着てるから」

「へ?」

 

私は恐る恐る目を開けた。確かに水着を着ていた。なんだ、そういうことか。

 

「似合ってるかな」

「うん。似合ってる。愁くんも買ったんだ」

 

愁くんは「ありがとう」と言って私の隣に座る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、私と愁くんは初めて、全裸で抱き合ったまま寝ることにした。ちゃんと毛布はかけて……

 

「ねぇ、これってさ、結婚してからするもんなじゃないの?」

 

愁くんが聞いた。そう、提案者は私だ。

 

「だって、愁くんの肌もっと感じたいんだもん」

 

私は愁くんに抱き付く。

なんか鼻がムズムズする。くしゃみが出そう……

 

「くちゅん!」

 

くしゃみがでた。愁くんにくしゃみをかけてしまった。

 

「ごめん……」

「可愛くないくしゃみだったら叩いてたけど、可愛かったからいいよ」

 

うっ、少し怖い……

って、くしゃみが可愛かった?私の?

 

「可愛かった……?」

「うん。ビクってするだけで、なんか小さくて可愛かった」

 

また言われちゃった。凄くドキドキする……

でも、今だからこそ言われるんだ。お母さんのところだったら、絶対に言われない。

 

(ありがとう、愁くん)

 

私は心の中でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【水野愁】

 

 俺の怪我のせいで、昨日行くはずだった海は今日になった。瑞浪を守るためだったとはいえ、少し危険なやり方だったか。

まだ7時になっていないが、瑞浪が早く起きたのもあり、俺は瑞浪と一緒に起きた。女子は支度に時間がかかるらしい。きっとその通りなんだろう。

 

「愁くん、ちょっと見て~」

 

ドアの向こうから呼ばれた。よかったな、俺がドアの近くにいて。いや、それを分かってたのか?まぁ兎にも角にも呼ばれたことは事実。俺は部屋の中に入った。

 

「どうかしたか」

「どうかなーって、この水着」

 

昨日買ったやつか。そういえば見ていなかった。

着た姿だけは想像していたが、まさかこんなに似合うとは……

 

「に、似合ってるよ……すごく……」

「そう?ありがとっ」

 

瑞浪は水着の上にワンピースを着た。なんか珍しいな、瑞浪がワンピース着るなんて。

 

「なんか新鮮だな、瑞浪のワンピース」

「そうでしょ。今日は車で行くっていうから、ワンピースでもいいなって。あ、嫌いだった?」

 

瑞浪はワンピースを脱ごうとする。

 

「いや、似合ってるから着てていいよ。ただ珍しく思っただけだから」

 

瑞浪が脱ぐのをやめて、俺は瑞浪と一緒に1階のリビングに戻った。

まだ出発まで30分ほどあるが、もう母さんたちも準備が終わっていた。

 

「早いな、母さんたち」

「デートに送るんだから、準備は早めにしないと」

 

母さんは笑顔で言った。気が早いのが母さんの特徴だ。まぁ、瑞浪からしたらいいのかもしれないが。あんな生活嫌だったろうし。

 

「愁もそんな歳か。そうだよなぁ、もう高2だもんなぁ」

 

父さんまでか。もういい加減にしてくれよ……

 

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