終着点への道   作:月島柊

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〈鳥遊湊×花坂星奈〉

 

 俺、鳥遊湊は高校1年生。もうすぐ2年生だ。

 

俺には幼馴染み、というか腐れ縁、のような関係の女がいる。花坂星奈だ。テストの5教科点数学年内トップ5に入るほどで、しかも周りからは「学年のヒロイン」とも呼ばれている。

 

女子からも妬む人はおらず、みんな尊敬している。そんな完璧な奴が、俺の幼馴染み。合わせる顔もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、花坂星奈は高校1年生。もうすぐ2年生になる。

 

私には幼馴染みの男子がいる。鳥遊湊だ。定期テストでは学年トップの座を争うほどの優等生。スポーツもできて、プログラムもできる。模範的な完璧少年だ。

 

さらに周りからも評判で、中には「クールな優等生」や「優しいイケメン」と呼ばれている。ただ、男子からは若干妬まれているが。

 

そんな完璧な男子が私の幼馴染みなんて、もう合わせる顔がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梅雨に入り、夏が本格的に始まろうとしている6月4日。2年生になってからのテストも終わり、俺は学年1位でテストを終えた。

 

当然のごとく今日も朝から雨。晴れなんかもうしばらくないだろう。俺は部活を終わらせ、さっさと帰路についた。

 

最寄りは小田急の相武台前。家の最寄りは青梅線の中神だ。18:53発の各駅停車新宿行きで登戸まで向かう。町田までは座れないことが多いが、町田からは座って登戸まで行っている。普通の人は町田で19:05発快速急行新宿行きに乗り換えるだろうが、俺は面倒で乗り換えない。

 

町田を出ると登戸まで先着。登戸には19:28。南武線に乗り換えて立川まで向かう。登戸19:36発快速稲城長沼行きで終点稲城長沼へ行き、稲城長沼で登戸を19:32に出発した各駅停車立川行きに乗り換え。なぜ登戸の4分乗り換えが間に合わないか。それは……

 

「それでさー、東郷先生ってホント怖くない?私東郷先生の授業好きじゃないんだよね~」

 

花坂星奈の相手だ。星奈は幼馴染みなのもあって家が隣。それもあって帰りは一緒に帰っている。

 

「それは分かるかも。なんか口調が怖いよな」

「そうそう!悪いことしてないのになんかね~」

 

高校生定番の話題なのだろうか。人それぞれだとは思うが、今日はこんな会話だった。

 

「けど勉強はできるんだな」

「なに、湊の方ができてるじゃん」

 

言葉の綾だ。

 

「細かいこと気にするな」

「もうっ!」

 

星奈は手を腰に当てて起こっているように言った。ただ、全く怖くない。

 

 立川には20:03。20:10発、中央線内通勤快速の青梅行きで中神まで。10分もかからずに到着する。

 

中神には20:18。星奈と一緒に家まで帰るのが日常のため、もう慣れた。

 

「ねぇ、明日は何時に来ればいい?」

 

俺の隣に寄り添って言った。星奈は俺の目覚まし時計で、朝起こしに来てくれている。朝が弱い俺からしたらありがたい限りだ。

 

「6時半くらいかな」

「分かった。自分で起きれたらいいんだけどね~」

 

それはそうだ。ただ、朝はやっぱり起きれない。前日の疲れで眠いのもあって。

 

「無理なんだよな」

「私が起こしに来れなかったらどうするの?」

 

確かにそれは考えたことなかった。

 

「お前を信じてるから。星奈身体強いし」

 

星奈はずっと病気などにはかからず、中学校からは休まずに学校に行っている。それもあって、星奈を信じていた。

 

「なにそれ」

 

星奈は笑いながら言った。

 

そのあとすぐに家に着き、俺は星奈と別れて家に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「──と……みなと……湊、起きて」

 

耳元で可愛らしい声が囁いた。俺はその声に反応して目を開けた。

 

ベッドのすぐ横に女子の顔があった。この人が声の正体か。

 

「……」

 

そこにいたのは他でもない。星奈だった。

 

「おはよ、湊」

 

おかしい。あんなにかわいい声だと感じたことは全く無かったのに。

 

「囁き、効いた?」

「……効いた」

 

俺が正直に言うと、星奈は「ふふっ」と笑った。

 

「よかった。ほら、朝ごはん食べよ」

 

俺は星奈の後ろをついていった。

 

あんなに囁くとかわいい声なのか。星奈をかわいいと見たことは無かったが、なぜか急にかわいく感じた。

 

 中神から電車に乗り、相武台前まで行った。

 

学校の着くと、クラスの中まで星奈と一緒に行くと、クラスメイトでかつ友達である龍島冥聖が言った。

 

「なぁ、君ら付き合ってんの?」

 

俺の友達なのもあって冷やかしには聞こえなかった。

 

「違うよ。家が隣だから一緒に来てるだけ」

 

俺は冥聖に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「──と……みなと……湊、起きて」

 

俺が目を開けると、星奈は俺の上に乗っかっていた。顔も結構近い。

 

「せ、星奈!?」

 

星奈は俺から慌てて離れた。星奈はあたふたしていて、俺が寄ると少し後ずさりする。

 

「星奈、どうしたんだよ」

「え、えっと……お、起きなかったから!そう!」

 

俺そんなに起きなかったか。なんか申し訳ないな。

 

「そうだったか。ごめん、昨日は疲れてたから」

「え……あ、うん!大丈夫!」

 

星奈は挙動不審だったが、理由もちゃんとしてたし違和感はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日昼、俺は教室の自分の席で弁当を出した。今日の昼飯はなんだろうか。好きな物だといいな。

 

「ねぇ、湊」

 

星奈が俺に話しかけてきた。

 

「なんだ」

「あの、さ。その……」

 

星奈は言葉に詰まったようだった。目を後ろで組んでいて、何かもじもじしていた。

 

「ん?」

「お、お、お昼!一緒に食べよ!!」

 

大きな声で星奈が言った。周りもその声に驚いてこっちを見た。多分言った人も関係しているだろう。学年のヒロインが昼飯に誘っているんだから。

 

「い、いいけど……」

「ありがと!」

 

星奈が俺を引っ張って外に連れて行く。男子から痛い視線があったが、それを耐えて外に出た。

 

中庭の隅で俺と星奈は昼飯を食べていた。外は暑く、軽く25℃を超えていそうだった。星奈は俺の前に弁当を出し、俺ことを見つめた。

 

「あの、作ってきたから、その、食べて?」

 

星奈は少し顔を赤くした。食べてほしかったのか。

 

「いいよ」

 

俺は弁当箱を開ける。厚焼きたまごにふりかけのかかったご飯、ブロッコリーのサラダが少し入っていて、色とりどりだった。身体に良さそうだ。俺は弁当を頬張る。

 

「ど、どう?」

「美味しいよ。これ、星奈が作ったのか?」

 

星奈は頷いた。一体どうしたらこんなに美味しい料理が作れるんだ。

 

「栄養ありそうだ。これと違って」

 

俺は自分の弁当箱を開けた。開けた瞬間、星奈は「うわっ」と声を上げた。

 

「茶色い……」

「そうだろ?味濃いんだよなぁ……」

 

俺がそう言うと、星奈は「あっ」と言って俺に言った。

 

「じゃあ私が作ってくる。いいでしょ」

「いいのか?」

「うん!」

「だったらお願いしようかな。よろしく、星奈」

 

星奈は嬉しそうに笑った。ニコニコした顔は天使のようで、心臓がドキッとした。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は起こされる前に起きていた。ただ、起こしに来てもらいたくて、寝たふりをしていた。

 

しばらくすると、星奈がドアを静かに開けて入ってきた。そして俺のベッドに上った。

 

(まてまてまて、起きてるのにこれは……)

 

心臓がバクバク音が聞こえるほど鳴る。星奈に聞こえていないか不安になるほどだ。

 

「湊……湊……起きて」

 

息が多く、小さく囁く。俺は心臓の鼓動が抑えきれなくなり、目を開けた。

 

「ん……おはよう……」

 

寝ていたふりをするのは大変だった。

 

「おはよう。朝ごはん食べよ」

 

星奈は先に降りていった。

 

なぜこんなに心臓の鼓動が速まるんだろうか。星奈に対してこんなに鼓動が速まったことはなかったのに。いや、昨日の昼飯のとき、速まった。なぜだ……

 

 

 

 

 

 

 放課後、俺は部活の先輩に呼ばれて部室に向かった。ゲーム制作の課題があり、その話し合いだ。

 

「おい、湊」

 

クラスメイトから呼ばれた。俺の友達である冥聖だ。

 

「なんだ」

「今日は幼馴染みと帰るのか?」

 

冷やかしかなんかかな。なんて言っても、冥聖なのもあってそうは聞こえない。

 

「今日は部活の話し合いあって」

「なんだ、忘れてなかったか。彼女さん待たせちゃうな」

「彼女じゃ、ない……」

 

俺は少し詰まった。朝のことがあったからだ。

 

「ははっ、ほら、行くぞ。湊」

 

冥聖は先に部室に行った。そのあと、すぐに星奈が来た。

 

「かえろっ」

「今日は部活の先輩に呼ばれてて。ちょっと待ってて」

「分かった」

 

星奈はクラスの前で立って待っている。俺は部室に行って話し合いをしにいった。

 

部室には同じ課題担当の先輩が2人座っていて、かつ俺のパートナーの冥聖も隣に座っていた。

 

「話し合いってなんですか」

「ゲームの内容を話し合いたくてさ」

 

プログラム内容に関してだろう。俺は下書きをカバンの中から出し、先輩に見せた。

 

「キーボードのWASDキーか、方向キーで移動します。それで──」

 

 

 

 20分後、話し合いが終わった。すぐに星奈が待っている教室に向かい、星奈を呼んだ。今教室は何もしていないはずだ。

 

「星奈、お待たせ──」

 

星奈は俺の知らない先輩に肩を掴まれていた。肩を掴まれた星奈は俺の方を見ると、弁解しようとした。そこに、先輩が口を挟む。

 

「丁度よかった。星奈ちゃんさ、君より俺のことが好きなんだってさ。さっき告白受けてさ」

「っ!」

 

おかしい。普通だったら「はい、そうですか」で済むはずなのに、悔しいのか、ムカついてるのか、よく分からなかった。ただ、胸が苦しい。そんな中で、俺はこんなことを言ってしまった。

 

「そうですか。別に構わないですよ。星奈、今日は先輩と一緒に帰りな。お幸せに」

 

俺はそう言って教室から出てしまった。1歩踏み出すだけでフラつくほど、胸が締め付けられる。なんでこんなに苦しいんだろう。

 

俺はそう考えている内に1つの結論に至った。

 

(俺、星奈のこと、好きだったのか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の電車内はいつもより静かに感じた。いつもと同じような電車なはずなのに、静かだった。

 

電車はいつもより2本遅い19:10発各駅停車新宿行き。町田で相模大野を各駅停車より5分遅く出発する急行新宿行きと、7分遅く出発する快速急行新宿行きの待ち合わせを行い、途中の新百合ヶ丘には19:39に到着。

 

まだ苦しいままで、頭の中には先輩と星奈の光景が浮かんでくる。その度に締め付けられ、忘れようにも忘れられなかった。

登戸には19:48。19:59発各駅停車立川行きで立川へ。立川には20:27。20:31発青梅線青梅行きで中神まで。20:39、中神に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は6時過ぎに起き、朝ご飯を済ませ、母さんは星奈に昼ご飯を作ってもらってると思い込んでいるため、昼ご飯を持たなかった。

 

6:55、7:00になっても、星奈は来なかった。遅刻ギリギリ、7:13に家を出て行った。星奈は来なかった。

 

7:19発青梅線中央線直通、中央線内快速東京行きで立川まで行き、7:30発南武線各駅停車川崎行きで登戸、8:04発急行本厚木行きで相模大野、8:26発各駅停車小田原行きで相武台前。8:31に到着し、走って高校へ。8:40がタイムリミットだが、8:35、学校に入り、8:38、教室へ。

 

星奈は教室にいた。最後に入った俺は疲れながらも席に着いた。星奈がいると少し気まずかったが、1日頑張らなければ。

 

 昼飯の時間。10分ほど待っていたが、星奈は来なかった。やはり、もう星奈にはあの先輩がいるのだろう。

 

今俺に課されているのは「どれだけ早く諦めるか」だった。諦めるというのにも、元から付き合っていないのに諦めるのも、何を諦めたのか分からないことになる。

 

結局、その日は昼飯を食わずに午後の授業へ。考えていると昼飯どころではなかった。

 

 

 

 

 

 放課後、いつもだったら「帰ろう」と星奈が話しかけてくるのだが、星奈はもう教室にいない。彼氏のところに行ったんだろう。

 

俺は駅に向かい、部活がなかったため、17:02発各駅停車新宿行きで町田へ行き、もうなるべく星奈と会わないために17:18発横浜線各駅停車八王子行きで八王子、17:53発八高線、川越線直通川越行きで拝島、18:12発青梅線、中央線直通、中央線内快速の東京行きで中神へ。

 

18:16に中神に到着。すぐに家に帰った。星奈のことを思い出すと辛いこともあり、すぐに別のことに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから5ヶ月。11月になり、外は寒くなってきた。ただ、俺はもう学校では1人だった。話す相手は冥聖だったはずなのだが、冥聖には彼女変わらないが、女子がいた。そのため、俺とは話さなくなった。

 

いつの間にか孤立し、7月や8月は寂しかったが、9月になると1人も慣れた。11月なんて1人が普通だと思えてきていた。

 

学校へ行き、家に帰る。これを繰り返すだけの毎日だ。気が付けば周りはカップルが増えてきて、俺は本当の孤立。恐らくできていないのは俺ぐらいだ。極めつけに、10月には星奈とあの先輩が付き合い始め、正式なカップルになったという噂まで流れ始めた。

 

もう星奈はほど遠い存在だ。俺なんてクラス内の下っ端。アリと同等の存在だった。いや、アリ未満かもしれない。

 

俺は乗る電車もずらしていた。1人になったのもあり、自分からも人を避け始めた。18:53発が普通だが、19:22発に遅らせた。これで同じ高校の生徒はいない。部活がなくても、17:02発ではなく、17:17発の各駅停車本厚木行き。海老名で17:33発快速急行新宿行きに乗り換えている。

 

もう慣れた。17:33発快速急行新宿行きで登戸へ向かい、登戸には18:01。少し気分転換に登戸で改札から出てみた。

 

多摩川の橋の近くまで来て、河川敷に来た。もう暗かったが、中々楽しかった。暗い河川敷で、小田急の高架下。

 

「1人は楽しいか」

 

そう声をかけられた。俺はこう答えた。

 

「あぁ」

 

そう答えると、俺の首筋に冷たく光っているものが当たった。

 

「じゃあ、もっと1人にしてあげよう」

 

その物の正体は正真正銘、ナイフだった。その言葉の意味も分かったはずだ。なのに、俺は

 

「ありがとう」

 

と返事をした。感謝を伝えるつもりはなかった。しかし、そう返事していた。

 

「どういたしまして」

 

首にナイフの刃が当たり、その人は言う。

 

「1人は、楽しいか」

 

俺は再びこう答えた。

 

「あぁ」

 

その後、その人はナイフを俺の首に当てたまま横にスライド()()()()()

 

痛みはほとんど無かったが、俺はその場で視界が真っ暗になり、重力に従った。アスファルトが俺を迎える。固かった。

 

そこで俺は気付いた。俺はさっきの人に首を切られた。いや、さっきの人は首を()()()()()()のだ。楽になれる、第1歩だった。感謝すべきだろう。

 

河川敷を行き交う人々は、俺を邪魔者のように避けていく。俺はそんな存在だ。そんな扱いが正しい。

 

そう思っていると、1人の人影がこっちに向かってきた。誰だろう。こんな俺に寄ってくる人なんて。

 

「どうだ、幼馴染みを失って」

「……どういうことだ……」

 

話すだけで痛みがある。

 

「忘れたか。星奈ちゃんと教室で抱き合ってた俺だよ」

 

思い出した。もうどうでもよくて覚えていなかったが、あの時の先輩だ。

 

「ここにいると思ったよ。さぁ、君も辛いだろ?中途半端に生きていて」

 

先輩は俺を起こした。一体何をする気なのか、全く分からなかった。

 

「だから、俺がこうしてやるよっ!」

 

風を切る音が聞こえたと思うと、拳がこっちに飛んできていた。間一髪で避けていたが、次は避けれそうにない。

 

「ふっ」と声を出して拳を飛ばす。俺は腕でその拳を受け止める。腕に激しい痛みが走る。

 

「安心しろ、俺を転ばせられたら星奈ちゃんはお前にやる」

 

俺はそれを聞いて、先輩に足をかけようとする。しかし、それを気付かれ、俺の足が引っかけられた。

 

地面に強く激突し、激しい痛みが走る。もう立つほどの力も入らなかった。

 

「なんだ、もう立てないか。そうだよなぁ、さっき弱ったからなぁ」

 

先輩は俺に一蹴り入れて、俺を見下した。

 

「じゃあな、鳥遊湊。また端っこで俺たちのアツアツカップル状態を見てるんだな」

 

先輩は笑いながら歩いていった。それが悔しくて、立ち上がろうとした。それでも、立ち上がろうとするだけで前身に痛みが走る。それを我慢すると、傷口から血が流れ出した。それでも、俺は立ち上がって、歩みを進めた。

 

「星奈は、俺のだ……」

 

先輩の肩を掴んだ。そして、最後の力を振り絞り、先輩を道路の方向に倒した。

 

「……分かったよ。星奈ちゃんはやるよ。ただ、覚えとけよ。少しでも悪い関係になったら、俺のものだって」

 

それを言って、先輩は立ち上がった。

 

「……よかった……」

 

俺が生きる価値はあった。星奈のために、星奈を守るためだった。

 

(あれ、力が……)

 

俺はその場で倒れ込んだ。地面に激突しても痛みなんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は葛谷先輩に無理矢理彼女にされ、嫌々付き合っていた。そんな中で、葛谷は登戸で改札を出て、出口に向かっていった。何となく怖くて、私は登戸駅にとどまっていた。

 

葛谷は私にぶつかり、一言放った。

 

「お前、彼氏できたな」

 

言っている意味が一瞬分からなかったが、何となく予感がした。私は予感を信じ、葛谷が北方向に走った。

 

河川敷で、小田急線の高架下。湊が地面に横たわっていた。

 

「湊!」

 

湊は目を開けていた。よかった、意識はある。

 

「星奈……好きだよ……」

 

突然の告白だった。

 

これで、さっきの葛谷が言っていた言葉と噛み合った。葛谷は私を振った。いや、湊が彼氏になった、と言った方が正しい。それで、湊が疲れ果てて横たわっている。ってことだろうか。

 

「湊、首……」

「……切られた。多分先輩の関係者……」

 

かすれた声で言った。だから湊こんな状態に……

 

「ごめん、帰ろう……」

 

湊は腹筋を使って起き上がろうとする。すると、傷口から血が流れ始める。

 

「湊!無理しないで」

 

湊の背中を私は支える。湊の体重が全部私にかかる。やっぱり、運動ができる男子の体は重い。たくましい体だ。

 

重さに耐えつつ、私は湊を座らせた。ここまででやっとだった。

 

「星奈……」

「なに」

 

私が話を聞こうと耳を湊に近づけると、湊の唇が私の頬に触れた。

 

「ふぇっ!?」

「……星奈は、俺のだから……」

 

湊はゆっくり笑った。痛みを堪えているような笑みで、少し辛くなってくる。

 

「……うん」

 

私はピタッと湊にくっついた。痛くないように、傷がないところに優しく触れた。

 

私はお母さんに電話をして、登戸まで迎えに来るように言った。ただ、来れても土手を降りたところの道路。そこまでは連れてかないといけなかった。

 

「湊、歩ける?」

「……支えてくれたら、多分」

 

湊はゆっくり私を支えに立ち上がる。すぐ私に倒れ込んできたが、湊は自分で立とうと頑張っていた。

 

「湊、私に寄りかかっていいよ。無理しないで」

 

私がそう言うと、湊は苦しそうに頷き、私に寄りかかった。

 

そのまま土手を越え、道路の脇に座る。ここでお母さんが来るまで待つ。

高架下のため、小田急線が通ると大きな音が鳴る。これだったら言っても聞こえないかもしれない。次の電車の音が聞こえたとき、私は言った。

 

「私も好きだよ!」

 

私がそう言った瞬間、電車が通り過ぎた。というか、言ってる途中だった気もする。

 

湊は黙っている。あれ、もしかして……

 

「あの、さ。え、両片思いってこと?」

 

やっぱり聞こえてた。恥ずかしい。今すぐに多摩川に飛び込んで頭を冷やしたい。

 

「星奈……」

 

湊は私を質問攻めにする。私は恥ずかしさを紛らわすために大きな声で言った。

 

「そう!そういうこと!ダメ!?」

 

湊は驚いたようだった。う、ごめん……

 

「ダメじゃ、ないけど……やっぱり?」

 

やっぱりってどういうことだろう。

 

「え?」

「1回寝たふりのときあって、その時1回も呼んでないのにベットの上、乗ってきたから……」

 

ああ、また恥ずかしい。私は身体全体が暑くなり、汗もかき始めた。

 

「うぅ……」

 

湊は私の頭をゆっくり、優しく撫でる。

 

「いいから……俺の女だし?」

 

葛谷先輩と同じ言い方だったが、何も嫌じゃなかった。むしろ、湊の女の子になれて嬉しい。

 

 少しして、お母さんが来た。お母さんと私で湊を支えて車に乗せた。湊は私に寄りかかっていて、お母さんも笑っている。

 

「やっぱり、あなたたちそういう関係だったのね」

「え?どういうこと?」

 

お母さんは運転しながら言った。

 

「あのね、鳥遊くんのお母さんと話してたの。実は付き合ってるんじゃないかーって」

 

そんなこと話してたんだ。やっぱり知らないところで親の繋がりがある。

 

「それで、やっぱりそういう関係だったんだなって」

「そ、それは今日……」

 

私はそこまで言って「あっ」と言った。これ言うとお母さん熱くなるかも……

 

「今日告白したの!?」

 

やっぱり。お母さんは食い気味に聞いてくる。

 

「お母さんは運転に集中して!」

 

そう言って私は誤魔化した。湊の目の前で言うとまた恥ずかしくなっちゃいそうだし。

 

 

 家に着いて、湊の家で私は湊と一緒にいた。湊が心配で、離れることができなかった。あと、単純に湊と一緒にいたかった。

 

「あのさ、星奈」

 

湊は寝たままこっちを向いて言った。

 

「なに?」

「ありがと」

 

湊は少し笑った。まだ痛いんだろうけど、少し安心した。痛みがひいてきたと思えて。

 

「星奈が、彼女でよかった」

「ありがとう、湊」

 

私は湊の隣に寄り添った。湊は少しくっついてくる。嬉しい。やっぱり好きなんだな。

 

私はそう実感して、湊の隣で仮眠をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝、私たちは起きた。支度を済ませ、学校に行く準備を進める。

ただ、少し複雑。湊も結構深く心は傷ついてるだろうし、私だって急に告白されたから戸惑いもある。

 

「星奈……悪い、こんな告白」

 

湊がYシャツを着ながら言った。

 

「ううん、いいんだよ。それより、湊私のこと好きだったんだね」

 

私がそう聞くと、湊はネクタイを締めて私の方を向いた。

 

「あのな、1回だけ寝たふりの時あったんだよ。それで、何も言ってないのに星奈が俺に近づいてきてさ」

 

気付かれてると思わなかった。思い出すだけで恥ずかしくなってくる。

 

「あれは……」

「あの時から好きだったのか」

 

湊が聞いてくる。私は静かに頷いた。すると、湊は微笑んで言った。

 

「俺もだったよ」

「ふえっ!?」

 

湊は私のことを撫でた。

 

「すごい緊張してさ。星奈が可愛く見えた」

「そうなの……?」

 

私は湊を見つめる。湊は私に抱き付く。

 

(湊……)

 

私も湊をぎゅっと抱き寄せる。こうしてて安心する。これが好きってことなのかな。

 

 学校には遅刻ギリギリで着いた。私と湊が手をつないで教室に入ると、みんなは私たちの方を見て動かなくなった。

 

「星奈ちゃん……付き合ってた人いるんじゃないの?」

「無理矢理付き合わされてたんだもん。本当の人はこっち」

 

湊は私の肩を抱く。周りの女子は「キャーッ」と歓声をあげる。男子は「くっそー」という声や、「良かったな」など様々な声が聞こえる。

 

「星奈、好きだよ」

 

湊は耳元で囁いてくる。

私は湊の耳元で囁き返す。もう湊は私のものなんだもん。何してもいいよね。

 

「私もっ♡」

 

耳にキスして、学校のチャイムが鳴る。

 

私たちのカップル日常が始まった。

 

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