俺、鳥遊湊は高校1年生。もうすぐ2年生だ。
俺には幼馴染み、というか腐れ縁、のような関係の女がいる。花坂星奈だ。テストの5教科点数学年内トップ5に入るほどで、しかも周りからは「学年のヒロイン」とも呼ばれている。
女子からも妬む人はおらず、みんな尊敬している。そんな完璧な奴が、俺の幼馴染み。合わせる顔もない。
私、花坂星奈は高校1年生。もうすぐ2年生になる。
私には幼馴染みの男子がいる。鳥遊湊だ。定期テストでは学年トップの座を争うほどの優等生。スポーツもできて、プログラムもできる。模範的な完璧少年だ。
さらに周りからも評判で、中には「クールな優等生」や「優しいイケメン」と呼ばれている。ただ、男子からは若干妬まれているが。
そんな完璧な男子が私の幼馴染みなんて、もう合わせる顔がない。
梅雨に入り、夏が本格的に始まろうとしている6月4日。2年生になってからのテストも終わり、俺は学年1位でテストを終えた。
当然のごとく今日も朝から雨。晴れなんかもうしばらくないだろう。俺は部活を終わらせ、さっさと帰路についた。
最寄りは小田急の相武台前。家の最寄りは青梅線の中神だ。18:53発の各駅停車新宿行きで登戸まで向かう。町田までは座れないことが多いが、町田からは座って登戸まで行っている。普通の人は町田で19:05発快速急行新宿行きに乗り換えるだろうが、俺は面倒で乗り換えない。
町田を出ると登戸まで先着。登戸には19:28。南武線に乗り換えて立川まで向かう。登戸19:36発快速稲城長沼行きで終点稲城長沼へ行き、稲城長沼で登戸を19:32に出発した各駅停車立川行きに乗り換え。なぜ登戸の4分乗り換えが間に合わないか。それは……
「それでさー、東郷先生ってホント怖くない?私東郷先生の授業好きじゃないんだよね~」
花坂星奈の相手だ。星奈は幼馴染みなのもあって家が隣。それもあって帰りは一緒に帰っている。
「それは分かるかも。なんか口調が怖いよな」
「そうそう!悪いことしてないのになんかね~」
高校生定番の話題なのだろうか。人それぞれだとは思うが、今日はこんな会話だった。
「けど勉強はできるんだな」
「なに、湊の方ができてるじゃん」
言葉の綾だ。
「細かいこと気にするな」
「もうっ!」
星奈は手を腰に当てて起こっているように言った。ただ、全く怖くない。
立川には20:03。20:10発、中央線内通勤快速の青梅行きで中神まで。10分もかからずに到着する。
中神には20:18。星奈と一緒に家まで帰るのが日常のため、もう慣れた。
「ねぇ、明日は何時に来ればいい?」
俺の隣に寄り添って言った。星奈は俺の目覚まし時計で、朝起こしに来てくれている。朝が弱い俺からしたらありがたい限りだ。
「6時半くらいかな」
「分かった。自分で起きれたらいいんだけどね~」
それはそうだ。ただ、朝はやっぱり起きれない。前日の疲れで眠いのもあって。
「無理なんだよな」
「私が起こしに来れなかったらどうするの?」
確かにそれは考えたことなかった。
「お前を信じてるから。星奈身体強いし」
星奈はずっと病気などにはかからず、中学校からは休まずに学校に行っている。それもあって、星奈を信じていた。
「なにそれ」
星奈は笑いながら言った。
そのあとすぐに家に着き、俺は星奈と別れて家に入った。
「──と……みなと……湊、起きて」
耳元で可愛らしい声が囁いた。俺はその声に反応して目を開けた。
ベッドのすぐ横に女子の顔があった。この人が声の正体か。
「……」
そこにいたのは他でもない。星奈だった。
「おはよ、湊」
おかしい。あんなにかわいい声だと感じたことは全く無かったのに。
「囁き、効いた?」
「……効いた」
俺が正直に言うと、星奈は「ふふっ」と笑った。
「よかった。ほら、朝ごはん食べよ」
俺は星奈の後ろをついていった。
あんなに囁くとかわいい声なのか。星奈をかわいいと見たことは無かったが、なぜか急にかわいく感じた。
中神から電車に乗り、相武台前まで行った。
学校の着くと、クラスの中まで星奈と一緒に行くと、クラスメイトでかつ友達である龍島冥聖が言った。
「なぁ、君ら付き合ってんの?」
俺の友達なのもあって冷やかしには聞こえなかった。
「違うよ。家が隣だから一緒に来てるだけ」
俺は冥聖に言った。
「──と……みなと……湊、起きて」
俺が目を開けると、星奈は俺の上に乗っかっていた。顔も結構近い。
「せ、星奈!?」
星奈は俺から慌てて離れた。星奈はあたふたしていて、俺が寄ると少し後ずさりする。
「星奈、どうしたんだよ」
「え、えっと……お、起きなかったから!そう!」
俺そんなに起きなかったか。なんか申し訳ないな。
「そうだったか。ごめん、昨日は疲れてたから」
「え……あ、うん!大丈夫!」
星奈は挙動不審だったが、理由もちゃんとしてたし違和感はなかった。
翌日昼、俺は教室の自分の席で弁当を出した。今日の昼飯はなんだろうか。好きな物だといいな。
「ねぇ、湊」
星奈が俺に話しかけてきた。
「なんだ」
「あの、さ。その……」
星奈は言葉に詰まったようだった。目を後ろで組んでいて、何かもじもじしていた。
「ん?」
「お、お、お昼!一緒に食べよ!!」
大きな声で星奈が言った。周りもその声に驚いてこっちを見た。多分言った人も関係しているだろう。学年のヒロインが昼飯に誘っているんだから。
「い、いいけど……」
「ありがと!」
星奈が俺を引っ張って外に連れて行く。男子から痛い視線があったが、それを耐えて外に出た。
中庭の隅で俺と星奈は昼飯を食べていた。外は暑く、軽く25℃を超えていそうだった。星奈は俺の前に弁当を出し、俺ことを見つめた。
「あの、作ってきたから、その、食べて?」
星奈は少し顔を赤くした。食べてほしかったのか。
「いいよ」
俺は弁当箱を開ける。厚焼きたまごにふりかけのかかったご飯、ブロッコリーのサラダが少し入っていて、色とりどりだった。身体に良さそうだ。俺は弁当を頬張る。
「ど、どう?」
「美味しいよ。これ、星奈が作ったのか?」
星奈は頷いた。一体どうしたらこんなに美味しい料理が作れるんだ。
「栄養ありそうだ。これと違って」
俺は自分の弁当箱を開けた。開けた瞬間、星奈は「うわっ」と声を上げた。
「茶色い……」
「そうだろ?味濃いんだよなぁ……」
俺がそう言うと、星奈は「あっ」と言って俺に言った。
「じゃあ私が作ってくる。いいでしょ」
「いいのか?」
「うん!」
「だったらお願いしようかな。よろしく、星奈」
星奈は嬉しそうに笑った。ニコニコした顔は天使のようで、心臓がドキッとした。
翌朝、俺は起こされる前に起きていた。ただ、起こしに来てもらいたくて、寝たふりをしていた。
しばらくすると、星奈がドアを静かに開けて入ってきた。そして俺のベッドに上った。
(まてまてまて、起きてるのにこれは……)
心臓がバクバク音が聞こえるほど鳴る。星奈に聞こえていないか不安になるほどだ。
「湊……湊……起きて」
息が多く、小さく囁く。俺は心臓の鼓動が抑えきれなくなり、目を開けた。
「ん……おはよう……」
寝ていたふりをするのは大変だった。
「おはよう。朝ごはん食べよ」
星奈は先に降りていった。
なぜこんなに心臓の鼓動が速まるんだろうか。星奈に対してこんなに鼓動が速まったことはなかったのに。いや、昨日の昼飯のとき、速まった。なぜだ……
放課後、俺は部活の先輩に呼ばれて部室に向かった。ゲーム制作の課題があり、その話し合いだ。
「おい、湊」
クラスメイトから呼ばれた。俺の友達である冥聖だ。
「なんだ」
「今日は幼馴染みと帰るのか?」
冷やかしかなんかかな。なんて言っても、冥聖なのもあってそうは聞こえない。
「今日は部活の話し合いあって」
「なんだ、忘れてなかったか。彼女さん待たせちゃうな」
「彼女じゃ、ない……」
俺は少し詰まった。朝のことがあったからだ。
「ははっ、ほら、行くぞ。湊」
冥聖は先に部室に行った。そのあと、すぐに星奈が来た。
「かえろっ」
「今日は部活の先輩に呼ばれてて。ちょっと待ってて」
「分かった」
星奈はクラスの前で立って待っている。俺は部室に行って話し合いをしにいった。
部室には同じ課題担当の先輩が2人座っていて、かつ俺のパートナーの冥聖も隣に座っていた。
「話し合いってなんですか」
「ゲームの内容を話し合いたくてさ」
プログラム内容に関してだろう。俺は下書きをカバンの中から出し、先輩に見せた。
「キーボードのWASDキーか、方向キーで移動します。それで──」
20分後、話し合いが終わった。すぐに星奈が待っている教室に向かい、星奈を呼んだ。今教室は何もしていないはずだ。
「星奈、お待たせ──」
星奈は俺の知らない先輩に肩を掴まれていた。肩を掴まれた星奈は俺の方を見ると、弁解しようとした。そこに、先輩が口を挟む。
「丁度よかった。星奈ちゃんさ、君より俺のことが好きなんだってさ。さっき告白受けてさ」
「っ!」
おかしい。普通だったら「はい、そうですか」で済むはずなのに、悔しいのか、ムカついてるのか、よく分からなかった。ただ、胸が苦しい。そんな中で、俺はこんなことを言ってしまった。
「そうですか。別に構わないですよ。星奈、今日は先輩と一緒に帰りな。お幸せに」
俺はそう言って教室から出てしまった。1歩踏み出すだけでフラつくほど、胸が締め付けられる。なんでこんなに苦しいんだろう。
俺はそう考えている内に1つの結論に至った。
(俺、星奈のこと、好きだったのか……)
その日の電車内はいつもより静かに感じた。いつもと同じような電車なはずなのに、静かだった。
電車はいつもより2本遅い19:10発各駅停車新宿行き。町田で相模大野を各駅停車より5分遅く出発する急行新宿行きと、7分遅く出発する快速急行新宿行きの待ち合わせを行い、途中の新百合ヶ丘には19:39に到着。
まだ苦しいままで、頭の中には先輩と星奈の光景が浮かんでくる。その度に締め付けられ、忘れようにも忘れられなかった。
登戸には19:48。19:59発各駅停車立川行きで立川へ。立川には20:27。20:31発青梅線青梅行きで中神まで。20:39、中神に着く。
翌朝、俺は6時過ぎに起き、朝ご飯を済ませ、母さんは星奈に昼ご飯を作ってもらってると思い込んでいるため、昼ご飯を持たなかった。
6:55、7:00になっても、星奈は来なかった。遅刻ギリギリ、7:13に家を出て行った。星奈は来なかった。
7:19発青梅線中央線直通、中央線内快速東京行きで立川まで行き、7:30発南武線各駅停車川崎行きで登戸、8:04発急行本厚木行きで相模大野、8:26発各駅停車小田原行きで相武台前。8:31に到着し、走って高校へ。8:40がタイムリミットだが、8:35、学校に入り、8:38、教室へ。
星奈は教室にいた。最後に入った俺は疲れながらも席に着いた。星奈がいると少し気まずかったが、1日頑張らなければ。
昼飯の時間。10分ほど待っていたが、星奈は来なかった。やはり、もう星奈にはあの先輩がいるのだろう。
今俺に課されているのは「どれだけ早く諦めるか」だった。諦めるというのにも、元から付き合っていないのに諦めるのも、何を諦めたのか分からないことになる。
結局、その日は昼飯を食わずに午後の授業へ。考えていると昼飯どころではなかった。
放課後、いつもだったら「帰ろう」と星奈が話しかけてくるのだが、星奈はもう教室にいない。彼氏のところに行ったんだろう。
俺は駅に向かい、部活がなかったため、17:02発各駅停車新宿行きで町田へ行き、もうなるべく星奈と会わないために17:18発横浜線各駅停車八王子行きで八王子、17:53発八高線、川越線直通川越行きで拝島、18:12発青梅線、中央線直通、中央線内快速の東京行きで中神へ。
18:16に中神に到着。すぐに家に帰った。星奈のことを思い出すと辛いこともあり、すぐに別のことに集中した。
あれから5ヶ月。11月になり、外は寒くなってきた。ただ、俺はもう学校では1人だった。話す相手は冥聖だったはずなのだが、冥聖には彼女変わらないが、女子がいた。そのため、俺とは話さなくなった。
いつの間にか孤立し、7月や8月は寂しかったが、9月になると1人も慣れた。11月なんて1人が普通だと思えてきていた。
学校へ行き、家に帰る。これを繰り返すだけの毎日だ。気が付けば周りはカップルが増えてきて、俺は本当の孤立。恐らくできていないのは俺ぐらいだ。極めつけに、10月には星奈とあの先輩が付き合い始め、正式なカップルになったという噂まで流れ始めた。
もう星奈はほど遠い存在だ。俺なんてクラス内の下っ端。アリと同等の存在だった。いや、アリ未満かもしれない。
俺は乗る電車もずらしていた。1人になったのもあり、自分からも人を避け始めた。18:53発が普通だが、19:22発に遅らせた。これで同じ高校の生徒はいない。部活がなくても、17:02発ではなく、17:17発の各駅停車本厚木行き。海老名で17:33発快速急行新宿行きに乗り換えている。
もう慣れた。17:33発快速急行新宿行きで登戸へ向かい、登戸には18:01。少し気分転換に登戸で改札から出てみた。
多摩川の橋の近くまで来て、河川敷に来た。もう暗かったが、中々楽しかった。暗い河川敷で、小田急の高架下。
「1人は楽しいか」
そう声をかけられた。俺はこう答えた。
「あぁ」
そう答えると、俺の首筋に冷たく光っているものが当たった。
「じゃあ、もっと1人にしてあげよう」
その物の正体は正真正銘、ナイフだった。その言葉の意味も分かったはずだ。なのに、俺は
「ありがとう」
と返事をした。感謝を伝えるつもりはなかった。しかし、そう返事していた。
「どういたしまして」
首にナイフの刃が当たり、その人は言う。
「1人は、楽しいか」
俺は再びこう答えた。
「あぁ」
その後、その人はナイフを俺の首に当てたまま横にスライド
痛みはほとんど無かったが、俺はその場で視界が真っ暗になり、重力に従った。アスファルトが俺を迎える。固かった。
そこで俺は気付いた。俺はさっきの人に首を切られた。いや、さっきの人は首を
河川敷を行き交う人々は、俺を邪魔者のように避けていく。俺はそんな存在だ。そんな扱いが正しい。
そう思っていると、1人の人影がこっちに向かってきた。誰だろう。こんな俺に寄ってくる人なんて。
「どうだ、幼馴染みを失って」
「……どういうことだ……」
話すだけで痛みがある。
「忘れたか。星奈ちゃんと教室で抱き合ってた俺だよ」
思い出した。もうどうでもよくて覚えていなかったが、あの時の先輩だ。
「ここにいると思ったよ。さぁ、君も辛いだろ?中途半端に生きていて」
先輩は俺を起こした。一体何をする気なのか、全く分からなかった。
「だから、俺がこうしてやるよっ!」
風を切る音が聞こえたと思うと、拳がこっちに飛んできていた。間一髪で避けていたが、次は避けれそうにない。
「ふっ」と声を出して拳を飛ばす。俺は腕でその拳を受け止める。腕に激しい痛みが走る。
「安心しろ、俺を転ばせられたら星奈ちゃんはお前にやる」
俺はそれを聞いて、先輩に足をかけようとする。しかし、それを気付かれ、俺の足が引っかけられた。
地面に強く激突し、激しい痛みが走る。もう立つほどの力も入らなかった。
「なんだ、もう立てないか。そうだよなぁ、さっき弱ったからなぁ」
先輩は俺に一蹴り入れて、俺を見下した。
「じゃあな、鳥遊湊。また端っこで俺たちのアツアツカップル状態を見てるんだな」
先輩は笑いながら歩いていった。それが悔しくて、立ち上がろうとした。それでも、立ち上がろうとするだけで前身に痛みが走る。それを我慢すると、傷口から血が流れ出した。それでも、俺は立ち上がって、歩みを進めた。
「星奈は、俺のだ……」
先輩の肩を掴んだ。そして、最後の力を振り絞り、先輩を道路の方向に倒した。
「……分かったよ。星奈ちゃんはやるよ。ただ、覚えとけよ。少しでも悪い関係になったら、俺のものだって」
それを言って、先輩は立ち上がった。
「……よかった……」
俺が生きる価値はあった。星奈のために、星奈を守るためだった。
(あれ、力が……)
俺はその場で倒れ込んだ。地面に激突しても痛みなんてなかった。
私は葛谷先輩に無理矢理彼女にされ、嫌々付き合っていた。そんな中で、葛谷は登戸で改札を出て、出口に向かっていった。何となく怖くて、私は登戸駅にとどまっていた。
葛谷は私にぶつかり、一言放った。
「お前、彼氏できたな」
言っている意味が一瞬分からなかったが、何となく予感がした。私は予感を信じ、葛谷が北方向に走った。
河川敷で、小田急線の高架下。湊が地面に横たわっていた。
「湊!」
湊は目を開けていた。よかった、意識はある。
「星奈……好きだよ……」
突然の告白だった。
これで、さっきの葛谷が言っていた言葉と噛み合った。葛谷は私を振った。いや、湊が彼氏になった、と言った方が正しい。それで、湊が疲れ果てて横たわっている。ってことだろうか。
「湊、首……」
「……切られた。多分先輩の関係者……」
かすれた声で言った。だから湊こんな状態に……
「ごめん、帰ろう……」
湊は腹筋を使って起き上がろうとする。すると、傷口から血が流れ始める。
「湊!無理しないで」
湊の背中を私は支える。湊の体重が全部私にかかる。やっぱり、運動ができる男子の体は重い。たくましい体だ。
重さに耐えつつ、私は湊を座らせた。ここまででやっとだった。
「星奈……」
「なに」
私が話を聞こうと耳を湊に近づけると、湊の唇が私の頬に触れた。
「ふぇっ!?」
「……星奈は、俺のだから……」
湊はゆっくり笑った。痛みを堪えているような笑みで、少し辛くなってくる。
「……うん」
私はピタッと湊にくっついた。痛くないように、傷がないところに優しく触れた。
私はお母さんに電話をして、登戸まで迎えに来るように言った。ただ、来れても土手を降りたところの道路。そこまでは連れてかないといけなかった。
「湊、歩ける?」
「……支えてくれたら、多分」
湊はゆっくり私を支えに立ち上がる。すぐ私に倒れ込んできたが、湊は自分で立とうと頑張っていた。
「湊、私に寄りかかっていいよ。無理しないで」
私がそう言うと、湊は苦しそうに頷き、私に寄りかかった。
そのまま土手を越え、道路の脇に座る。ここでお母さんが来るまで待つ。
高架下のため、小田急線が通ると大きな音が鳴る。これだったら言っても聞こえないかもしれない。次の電車の音が聞こえたとき、私は言った。
「私も好きだよ!」
私がそう言った瞬間、電車が通り過ぎた。というか、言ってる途中だった気もする。
湊は黙っている。あれ、もしかして……
「あの、さ。え、両片思いってこと?」
やっぱり聞こえてた。恥ずかしい。今すぐに多摩川に飛び込んで頭を冷やしたい。
「星奈……」
湊は私を質問攻めにする。私は恥ずかしさを紛らわすために大きな声で言った。
「そう!そういうこと!ダメ!?」
湊は驚いたようだった。う、ごめん……
「ダメじゃ、ないけど……やっぱり?」
やっぱりってどういうことだろう。
「え?」
「1回寝たふりのときあって、その時1回も呼んでないのにベットの上、乗ってきたから……」
ああ、また恥ずかしい。私は身体全体が暑くなり、汗もかき始めた。
「うぅ……」
湊は私の頭をゆっくり、優しく撫でる。
「いいから……俺の女だし?」
葛谷先輩と同じ言い方だったが、何も嫌じゃなかった。むしろ、湊の女の子になれて嬉しい。
少しして、お母さんが来た。お母さんと私で湊を支えて車に乗せた。湊は私に寄りかかっていて、お母さんも笑っている。
「やっぱり、あなたたちそういう関係だったのね」
「え?どういうこと?」
お母さんは運転しながら言った。
「あのね、鳥遊くんのお母さんと話してたの。実は付き合ってるんじゃないかーって」
そんなこと話してたんだ。やっぱり知らないところで親の繋がりがある。
「それで、やっぱりそういう関係だったんだなって」
「そ、それは今日……」
私はそこまで言って「あっ」と言った。これ言うとお母さん熱くなるかも……
「今日告白したの!?」
やっぱり。お母さんは食い気味に聞いてくる。
「お母さんは運転に集中して!」
そう言って私は誤魔化した。湊の目の前で言うとまた恥ずかしくなっちゃいそうだし。
家に着いて、湊の家で私は湊と一緒にいた。湊が心配で、離れることができなかった。あと、単純に湊と一緒にいたかった。
「あのさ、星奈」
湊は寝たままこっちを向いて言った。
「なに?」
「ありがと」
湊は少し笑った。まだ痛いんだろうけど、少し安心した。痛みがひいてきたと思えて。
「星奈が、彼女でよかった」
「ありがとう、湊」
私は湊の隣に寄り添った。湊は少しくっついてくる。嬉しい。やっぱり好きなんだな。
私はそう実感して、湊の隣で仮眠をとった。
翌日早朝、私たちは起きた。支度を済ませ、学校に行く準備を進める。
ただ、少し複雑。湊も結構深く心は傷ついてるだろうし、私だって急に告白されたから戸惑いもある。
「星奈……悪い、こんな告白」
湊がYシャツを着ながら言った。
「ううん、いいんだよ。それより、湊私のこと好きだったんだね」
私がそう聞くと、湊はネクタイを締めて私の方を向いた。
「あのな、1回だけ寝たふりの時あったんだよ。それで、何も言ってないのに星奈が俺に近づいてきてさ」
気付かれてると思わなかった。思い出すだけで恥ずかしくなってくる。
「あれは……」
「あの時から好きだったのか」
湊が聞いてくる。私は静かに頷いた。すると、湊は微笑んで言った。
「俺もだったよ」
「ふえっ!?」
湊は私のことを撫でた。
「すごい緊張してさ。星奈が可愛く見えた」
「そうなの……?」
私は湊を見つめる。湊は私に抱き付く。
(湊……)
私も湊をぎゅっと抱き寄せる。こうしてて安心する。これが好きってことなのかな。
学校には遅刻ギリギリで着いた。私と湊が手をつないで教室に入ると、みんなは私たちの方を見て動かなくなった。
「星奈ちゃん……付き合ってた人いるんじゃないの?」
「無理矢理付き合わされてたんだもん。本当の人はこっち」
湊は私の肩を抱く。周りの女子は「キャーッ」と歓声をあげる。男子は「くっそー」という声や、「良かったな」など様々な声が聞こえる。
「星奈、好きだよ」
湊は耳元で囁いてくる。
私は湊の耳元で囁き返す。もう湊は私のものなんだもん。何してもいいよね。
「私もっ♡」
耳にキスして、学校のチャイムが鳴る。
私たちのカップル日常が始まった。