西暦2200年12月8日、アンドロメダが地球に帰還してから約1か月後。この日、メガロポリスの一角にとある建物が完成した。在地ディンギル大使館、地球連邦初となる異性文明の大使館である。その外観や内観は大使に先んじてアンドロメダに乗艦し地球へとやってきたディンギル人の監修のもと黒と基調としたディンギル風の物となっており、灰色が多いメガロポリスの中ではかなり浮いていた。
そしてこの日、その大使館が完成したのだ。初めて見る地球に友好的()な異星人を一目見ようと地球市民らが集まる中、同時期に地球へと派遣された在地大使───ルガール・ド・ザールが地球連邦大統領や司令長官らと共にテープカットを行い、その後中に入っていく。
そうして彼らと内部を一通り見終わり、大統領らとの正式な会談を行った。それで今日の行事は終了……の、筈だったのだが。
「おい、お前は少し残れ」
「……? はい」
ルガールが大統領らの護衛───主にルガールから───として同行していたアンドロメダを呼び止める。
彼女は彼らに許可をとり、ルガールと共に応接室へと入り、対面して座る。
「何の御用でしょうか」
「決まっているだろう。お前が"何者か"についてだ」
「……」
彼は部下が運んできた紅茶を啜り、言う。
「軽く地球人について調べてみたが、お前の様な耐久力を持つ者は居ないようだった」
「……民間人に対して発砲などしていないでしょうね」
「する訳がないだろう。我々は蛮族では無い」
地球人について調べた、という言葉にアンドロメダは軽く殺気を放ち、そう尋ねる。
通常ではこの様な事は訊かないが、ルガールには彼女に突然発砲したという前科があった。耐久力を調べる為といって民間人に対して銃撃したと言われても信じてしまう程度には信頼を持っていなかった。
「さて、改めて訊く……山南杏、お前は何者だ?」
「……それは言わなければなりませんか?」
「勿論。これは命令だ」
「私はディンギル人ではありませんが……」
彼女は少し口を閉じる。彼女は、ここで何としてでも誤魔化さなければならなかった。
手榴弾が効かない人間が居る、これは特にバレても問題は無い。如何に個人の能力が高くともこの大宇宙で行われる争いにおいては大した事ではないからだ。
しかし、"人間になれる宇宙戦艦が居る"。この事実は必ず秘匿しなければならない。彼女の戦術、戦略的価値はかなり大きい。何しろ、地球は彼女一人を敵国の首都へ送り込むだけでほぼ勝利が確定するのだから。
首都直上に突如現れる宇宙戦艦。軍は誤射を恐れて攻撃出来ず、しかもその戦艦には惑星を破壊する事の出来る兵器が搭載されているのだ。
「……ここでは黙秘する事にしましょう」
「ほう?」
「これは軍事機密ですので。ディンギルにもあるでしょう?」
「つまり、お前はそれ程の価値がある存在だという訳だ。余計に気になってきたぞ」
「想像はご自由にどうぞ」
別に勝手に想像を巡らされるのは問題無いのだ。彼女の正体が分かる者などいる筈がないのだから。
「こちらからも質問があります」
「何だ?」
話を逸らす為、こちらからも質問を繰り出す。
「以前の暗殺未遂事件についてです。あの犯人は何故あの様な凶行に及んだのですか?」
「ああ、あれか……」
そう、数ヶ月前にディンギル星に赴いた際に起こり、彼がここまで彼女に興味を持つ様になったきっかけの事件。あの犯人が何故事件を起こすに至ったのか、だ。
これは元々地球連邦上層部からも原因を調べる様通達されており、丁度良い機会なので尋ねておく。
すると、彼は胸元から何かを取り出し、彼女に見せた。
「これを奴は持っていた」
「……これは?」
「知らないのか? どうやら地球はまだ汚染されていないらしいな」
ルガールは何故か嬉しそうな反応を見せる。
彼が見せたのは一つのペンダントだった。それには謎の女性の顔が彫り込まれている。
「これはシャルバートとやらを信奉する者達が決まって持っている物だ」
「シャルバート?」
彼は話し始める。
事の始まりはアンドロメダが訪れる三年程前。その日、未知の宇宙船がディンギル星を訪れたのだ。当時既にボラー連邦からは要注意国家───すぐに攻撃してくる狂信者集団───として認識されており、他国の船が来なくなって久しかった。
その為、この訪問者は物珍しく、彼らは本星に降下させて対応した。
しかし、それが全ての間違いだった。その船はシャルバート教の信者の船であり、彼らは保護と布教の為に訪れていたのだ。
当然、ディンギル側はそれを拒否。更に彼らを異端者として拘束、処刑を決定した。
だが、牢獄へと入れている最中に信者達によって
彼らは帝国市民を相手に布教を繰り返し、発見しては異端者として拘束しているが未だ根絶は出来ておらず、潜在的な信者は今や数千人規模にまで膨れ上がっているのだという。
「今回私を殺そうとしたのもその内の一人だという訳だ。警戒が薄くなる瞬間を心待ちにしていたらしい。全く、忌々しいものだ」
「……」
自業自得では。その言葉を彼女は口には出さなかった。
要するに宗教弾圧の結果暗殺されかけたという訳だ。地球の歴史でも何度も見られた出来事であり、特段驚くべき事ではなかった。
「……しかし、その様な宗教があるのですね」
シャルバート教。地球では宗教弾圧は禁止されているが、しかしディンギルと友好的に接しているという理由で敵視される可能性も考えられる。彼女はその名前を要警戒として記憶した。
その後は当たり障りのない会話を交わし、彼女は解放される。奇しくもルガールに銃撃された彼女が彼と最も接点のある者となってしまっていた。
友好的なのは良く、また交流が深いのも地球にとって有益ではあるのだが如何せん本人の性格や価値観が違い過ぎる為にとてつもなく苦労する。面倒臭い、そんな人間臭い感情が湧き出てくるのを実感しつつ、彼女は防衛軍本部へと帰投するのだった。
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───この日、防衛軍司令部の元にある報告が届く。太陽系外周艦隊が謎の敵による襲撃を受けたのである。
それは偶然にもヤマトが率いていた艦隊であり、波動防壁の効果もあり大した被害は出ず、謎の敵も撃退に成功する。
その謎の敵の残骸が問題だった。
「……遂にこの時が」
緑と白を基調とした艦艇や航空機。それは彼女が前世において嫌という程見た物であった。
「───ガトランティス」
それは死神。それは絶望の具現化。それは───破壊の化身。無尽蔵の戦力を造られし命が操り、文明と名の付く物全てを破壊し尽くす。
地球が手にした最強の兵器にして希望であった波動砲。その斉射を幾度も退け、彼女自身も火星に没してしまう。その直前にヤマトを救ったが……あの後、どうなったのだろうか。
しかし、あの時あそこまで耐え抜く事が出来たのは時間断層があってこそ。それはこの世界においては遂に発見されなかった。驚異的な技術力によって予定通りに艦隊は整備されているが、もし敵戦力が前世界と同じならばすぐにやられてしまうだろう。
そんな事を考えていた彼女の肩に手が置かれる。
「……山南艦長」
「気負い過ぎるな。事前にやれることは全てやった。後は努力するだけだ」
「……そうですね」
その言葉で少し気を取り戻した彼女はパネルを見つめる。そこには美しい星々が映し出されていた。
西暦2201年11月21日。この日、地球にとって初の、彼女にとっては二度目のガトランティス戦役が始まった。
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