「太陽系に接近する正体不明の艦隊を確認しました」
その報告がなされたのは第11番惑星での戦いから数週間が経過した時の事だった。
「いつもの陽動艦隊か?」
「いえ。報告によれば戦艦や空母など総勢500隻を超える大艦隊との事です」
「500か……」
土方は椅子に深く腰掛け、腕を組み思考を巡らせる。
500隻、確かに膨大な数だ。現在地球防衛軍に所属する戦闘艦艇、そして建造中の物を合わせたとしても400隻に届かない程度なのだからその国力の差が分かるだろう。
だが、彼は特に絶望はしていなかった。
「果たしてこれは本隊なのか……」
アンドロメダがもたらしたパラレルワールドの情報によれば、ガトランティスとは一千万を超える程の艦艇を保有しているのだという。本当ならば絶望するしかないのだが、そのパラレルワールドの情報と現実の乖離が徐々に明らかになっているのだ。
まず、ガトランティスの兵士は適切な処理をしなければ爆発する、という物。これは先日発生した第11番惑星沖会戦時に得た捕虜によって否定されている。
次に敵の本拠地。どうやら白色彗星の内部には小惑星の上部を都市に改造した物があるらしい。しかしそのサイズは惑星レベルではなく数十km程度だという。
流石に具体的な艦艇数などの軍事情報に対しては口を噤んだが、この情報が真実ならば少なくとも一千万などという数を保有するのは物理的に不可能だろう。だとすれば、その軍事力の差は絶望的という程でもなくなってくる。
「……」
「司令、いかが致しましょうか」
「……これを敵の本隊と推定。土星以遠の基地は放棄、各基地所属艦隊はタイタン基地へ集結させろ」
「な!? し、司令それは……」
無茶苦茶だ。参謀は言外にそう伝えてくる。
確かに太陽系内でも第11番惑星などの余りにも遠すぎる惑星を放棄する事はあったが、冥王星や海王星などの重要拠点までも放棄するというのはどうやっても理解出来なかった。
そもそもそんな作戦、司令部が承諾する筈がない。しかし彼は続ける。
「司令部へは事後報告でいい。鈍重な手続きなどしていては間に合わん」
「軍規違反です! そんな事をすれば……!」
「……君は私の作戦参謀なのだろう。そしてこれは私の作戦なのだ」
「は……!」
「全ての責任は私が取る。早く各方面に通達しろ!」
「は、りょ、了解しました!」
そうして、慌てて彼は部屋から出ていく。それを確認した後、彼は秘密回線を開いた。
「藤堂、そちらに話は行っているか?」
『うむ。君はこれが本隊だと?』
「ああ。報告書には敵艦隊の中に数十隻単位の空母が確認されたとある。これ程の戦力を動かしているのだからまず本隊だろう」
参謀が置いていった報告書、そこには敵艦隊の具体的な編成が記されていた。
先の会戦でも確認された戦艦が80隻以上、250m級の空母が60隻以上、そして未知の超大型空母が2隻存在する。明らかに気の入りようがこれまでとは違っていた。
『了解した。では艦隊を集めるのだな?』
「そうだ。土星以遠の基地を全て放棄する。正式な報告は撤収が完了してからになるな」
『こちらでも根回しをしておこう……土方君、健闘を祈る』
「分かっている。我々は負けられん……何としてもだ」
プツリ。通信が切られ、次に彼は別の場所へと回線を繋げる。
「各艦艦長を集めろ。作戦会議を開く」
───────
────
─
時は少し遡り、場所は大宇宙を突き進む白色彗星帝国。
彗星本体がテレザートの自爆によって損傷し、一時は進む事すら困難な状況になっていたここは、今はほぼ修理が完了し太陽系へ向けて進んでいた。
「メダルーザ発進せよ!」
その先鋒として帝国が誇る第一機動艦隊が出撃する。その先陣に立つのは司令官たるバルゼーが座乗する新型戦艦『メダルーザ』。
艦体は他のガトランティス艦艇とは大きく異なっており、双胴型の艦体に双発式のエンジン、そして特徴的な回転式砲塔は一切搭載されておらず、代わりに連装砲が一基搭載されているのみ。
しかし、それらはこの艦を語る上では付属物に過ぎない。この艦の最も大きな特徴は艦底部に搭載された大型砲"火炎直撃砲"。これは威力もさることながら最大の特徴は転送機能であり、双胴の艦首に搭載された瞬間物質移送機によって発射されたエネルギーが目標の正面に転送、避ける暇もなく命中、爆沈するという超兵器である。
戦艦を一撃で撃沈し得る威力、圧倒的な射程、不可視で不可避の射線。正に力の具現、バルゼーは酔いしれる。
だが、一つ気がかりなのが先のコスモダートの件。
橋頭堡を築くべく先んじて太陽系に侵攻したコスモダート率いる艦隊は、太陽系最外縁部の星を攻撃し───そこでたった
約30隻もの艦隊だ。帝国の規模からすれば小艦隊だがそれでもたった二隻にやられる様な脆弱な軍ではない。
ちらり、とコスモダートから最後に送信されてきた画像を見る。そこには二隻の地球艦が写っている。
片方はあのデスラーがご執心の戦艦、ヤマト。たった一隻でガミラスを滅ぼしたというが……正直な所、彼はガミラスが弱過ぎただけだと思っている。
長きに渡る遊星爆弾の攻撃によって地球は絶滅寸前であったという。そんな星が造ったたった一隻の戦艦にやられる国家などたかが知れているというものだ。彼には何故大帝があれ程デスラーを買っているのかが理解出来なかった。
だが現時点でゴーランドの艦隊が奴に敗れており、決して油断は出来ない相手だ。
そして、もう一隻の戦艦。彼はこれ程の艦がほんの一年前まで赤焦げていた星に造れるとは思えなかった。
推定全長450m。我が国が誇るカラクルム級戦艦*1やアポカリプス級空母*2をも遥かに超える巨大艦だ。彼の頬に一筋の汗が流れる。
一体どこからこの様な技術を手に入れたのか。天の川銀河には確かボラーとかいう星間国家があると聞くが、まさかそこと繋がっているのではないか。もしくは全てが偽装で我々は既に奴らの手中に嵌っているのではないか。様々な想像───全て悪い方向───が胸中を駆け巡る。
実際にはボラーとは現状険悪な関係であるし、デスラーは何も知らないのだがそんな事は彼が知る由ではない。
「……いや、駄目だな。この様な考えでは」
そんな不安の霧を頭を振って振り払う。
いずれ我らガトランティスは全ての敵を打ち砕き、宇宙を我らが大帝の手に捧げなければならないのだ。例え奴らが策を弄していたとしても、他の国家と繋がっていても我々は全てを正面から打ち砕けばよいのだ。
彼はモニターに映る艦隊を見る。
戦艦、駆逐艦、そして空母。総勢500隻以上の大艦隊。これだけの物量があれば如何なる敵も恐れるに足らない。自分の不安などこの艦隊の前では実に矮小な物なのだ。
そうして、様々な思惑を乗せながら艦隊は宇宙を突き進む。
決戦の地は太陽系第六惑星───土星である。
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