旧き世界で貴方と共に   作:デュアン

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アンドロメダ・徹底抗戦せよ!

「残存艦艇掃討完了。我が方の被害、ドレッドノート級一隻轟沈、フレッチャー級*1二隻損傷、航空機32機未帰還です」

「うむ」

 

 戦闘が終わり、大小様々な残骸が舞うその宙で、杏は淡々と報告する。

 ガトランティス艦隊総勢500隻以上、対する地球は300隻程度。二倍弱という圧倒的な戦力差があった戦闘としては考えられない程被害は小さかった。

 将兵は歓喜に打ち震え、会戦の様子を観ていたであろう地球市民も今は素直に喜んでいるだろう。

 勿論、土方も嬉しくないと言えば嘘になる。だが、今回の戦いはあまりにも一方的過ぎた。地球連邦は民主主義国家である。彼が懸念しているのはこの圧倒的な力をもってして国民が覇権主義に傾かないかどうかだった。

 彼は宇宙戦士であり、地球を守る為ならば喜んでその命を捧げよう。だがそれが他国を一方的に侵略する行為だったならば?

 

「土方さん」

「……山南」

 

 思案に耽る彼を引き戻したのは飄々とした声───艦長、山南修の声であった。

 

「あなたが考えている事は分かります。自分だってそうです。でも今は……」

「……ああ、そうだな。まだ戦いは終わっていない」

「ヤマト機動部隊、確認しました。11時の方向、距離───」

 

 だが、彼らの懸念はすぐに氷解する事になる。皮肉にも、敵の手によって。

 杏の報告を遮る様に巨大な反応が前方に現れる。それはワープアウト反応であり、しかしこれ程の質量を転移させる技術は今の地球には無かった。つまり、それは───

 

 

「───ッ、白色彗星です!!」

 

 

 レーダー士が叫ぶ。艦橋の窓からでもしっかりと確認出来た───前方に浮かぶ白い彗星が。

 瞬間、宙域全体の重力傾斜が急激に高まる。その主は火を見るより明らかだった。

 

「こちらアンドロメダ。ヤマト機動部隊、直ちに現宙域より離脱せよ。繰り返す、直ちに離脱せよ」

 

 そして、その彗星の前方には帰還してきていたヤマト機動部隊が居た。事態を悟った杏は早急に通信回線を開き、その場から離脱するよう指示を出す。

 それなりに離れているここでさえこれ程の影響を受けるのだ。あれ程の近さであればどうなるかは想像に難くない。

 

 通信を受け、ヤマト以外6隻は全力で機関を吹かせて離脱を試みる。最後尾に居た2隻はあえなく引き摺り込まれていったが、残りは何とか脱出出来そうだった。

 

『こちらヤマト。これよりワープを』

「……ヤマト? 状況を報告せよ、ヤマト」

 

 だが、ヤマトからの通信はそこで突如断ち切られる。

 所で、重力の影響を受けるのは何も地球艦艇だけではない。ここには先程の戦闘の残骸が多く残っており───それの一つが重力に引かれ、今まさに脱出せんとしていたヤマトを直撃した。

 不幸中の幸いと言うべきか、ヤマトはその衝撃で弾かれて彗星に吸い込まれる事だけはなかったが───

 

「こちらアンドロメダ、ヤマト応答せよ」

 

───杏が繰り返すその言葉に、ヤマトが応える事はなかった。

 

 この時、ヤマトは機関部に重大な損傷を受けていた。機関は暴走し、艦橋からの操作を一切受け付けない程であり彼女はあらぬ方向へと突き進んでいた。

 だが、そんな事情はアンドロメダ側からでは分からない。白色彗星の影響でレーダーが乱れ、ヤマトが何処にいるのかはおろか吸い込まれたのか否かすらも分からないのだ。分かるのは3隻の空母がワープに成功した事のみ。

 

「ヤマト、ヤマト、応答せよ、ヤマト」

「一尉、落ち着け」

「ヤマト応答せよ、ヤマト」

 

 壊れた機械の様に、既に繋がっていない通信機へと言葉を繰り返す。その様子に山南が流石に静止を試みるが止まらない。

 彼は意を決し、席から立ち上がり彼女に近寄る。

 

「ヤマト、ヤマト「杏!!!」っ……山南、司令……」

「艦長だ。杏、今前には何が居る?」

「……」

 

 彼女の目にゆっくりと近付く白色彗星が映る。耳にはギシギシと艦体が軋む音が聞こえてくる。彼女の頭に困惑が走る。

 何故自分は今あれ程ヤマトを呼んでいたのだろう。彼女がヤマトを目の前で失うのはこれで2度目だ。だからなのだろうか。

 

「私は、一体……」

「それは恐怖だ、感情だ。一度深く息を吸い込み、吐くんだ」

 

 それは何の意味も無い行為。だが、不思議と考えが纏まってくる。

 彼女はここで、初めて自らの感情を制御する(すべ)を身に付けた。

 

「人には時にそれを押し殺さなければならない事がある」

「それが今、ですか」

「そうだ……土方さん、お願いします」

「……全艦マルチ隊形。波動砲発射、用意! 並びに駆逐艦フユヅキ、ユキカゼ、ハマカゼ、ハツシモはヤマト探索に向かえ」

 

 山南が彼女を落ち着かせ、そして土方が全艦に向け作戦の最終段階の発動を指示し、また駆逐艦をヤマト探索に向かわせる。波動砲を撃てない駆逐艦は今この場に居ても仕方がなかった。

 

「……目標、彗星中心核。セット20-45」

「セット20-45、拡散波動砲から収束波動砲へ、全艦連動」

 

 艦隊の隊形が変化していく。アンドロメダを中心に波動砲搭載艦のみが横五列へと。

 

「重力子スプレッド、展開」

「重力フィールド、収束率、予定値へ」

 

 艦隊の前方に巨大な青い膜が展開される。それに向かって、全艦が艦首の砲口に光の粒子を溜めていく。

 艦橋内部に電子音が流れだす。

 

「……」

 

 杏はその光景を静かに見守っていた。

 これと殆ど同じ光景を彼女は前世でも見た。その時は艦隊と彗星の規模も今よりも遥かに大きい物だったが。

 前回ではドレッドノートが中心となっていたが、今回ではドレッドノートよりも巡洋艦や護衛艦などの中型・小型艦の数の方が多い。当然威力も遥かに下だろう。

 だが、その代わりなのか彗星の大きさも土星レベルから火星レベルへと落ちている。だからまだ結果は分からなかった。

 

「エネルギー充填120%!」

「総員対ショック、対閃光防御」

 

 艦橋の窓が薄黒く染まり、皆も遮光グラスを掛ける。何度も繰り返した動作だった。

 

「カウントダウン開始。10、9、8……」

 

 彗星は未だ目立った動きを見せない。こちらが撃つのを待っているのだろうか。

 

「7、6、5、4」

 

 ゴクリ、誰かが唾を飲み込む音がする。それは自分か、他の誰かか。

 

「3、2、1───」

 

 

「波動砲……発射ァ!!」

 

 

───瞬間、激しい閃光と共に無数の青い光線が重力フィールドへと直撃。それは一瞬の()()の後に一本の巨大な光線となって解放され、彗星の中心核へと一直線に向かっていく。

 惑星どころか星系ですら破壊してしまいそうなその力の具現は何にも阻まれる事無く中心に命中、彗星は爆発し火球となった。

 何も知らない者が見れば地球の勝利を確信するであろうその光景、そんな中で杏は土方へ振り返り、言う。

 

「司令」

「ああ。全艦機関再始動、直ちに後退し第二射に備えろ」

 

 その指示は艦隊に僅かな混乱をもたらしたものの速やかに実行される。

 そうして艦隊が陣形を保ったまま後退している時、火球に動きがあった。

 

「ぜ、前方彗星内部に未知の反応を確認!」

「……パネルに出せ」

 

 巨大な火球と化した彗星。その中央に謎の影が現れる。

 炎が晴れた時、()()は姿を宇宙に晒した。

 

「あれは……」

 

 それは、まさに都市帝国と言うに相応しい物だった。

 全長は約15キロメートル。それ程の小惑星の半球の上部に所狭しと高層ビルが築かれている。光り輝くそれは地球にあるどの都市よりも発展しており、力の象徴と言って差し支えなかった。

 

「これが白色彗星の本体か……全艦波動砲発射用意!!」

「重力子スプレッド、再展開」

 

 その圧倒的な光景に艦隊の乗員は皆打ちのめされていたが、そんな中に土方の指示が飛ぶ。

 地球防衛軍、第二世代波動機関搭載艦艇───第一世代はヤマト───は最大三回の波動砲連射が可能となっている。アンドロメダ、アリゾナは四回だ。

 ただし最大回数を迎えるとその時点で機関内部のエネルギーが空になってしまう。しかし、艦隊はまだ一度しか放っていない為あと一回は安全に放つ事が可能だった。この時の為に艦隊戦で波動砲をアンドロメダしか使用しなかったのだ。

 

「目標、敵彗星()()!」

 

 またも光の粒子が艦首砲口へと収束していく。

 先程と同じ展開、しかし今度の都市帝国は静観はしなかった。

 

「都市帝国、一部回転を始めました!」

「回転? ……発射を急がせろ」

 

 見ると、小惑星と都市の結節点にあるリング状の構造物が回転を始めている。何をしようとしているのかは分からない、だが土方の背筋には冷たい物が降りてきていた。

 

「発射10秒前!」

「回転している構造物よりガス状の物体が噴射されました!」

「発射は予定通り行う!」

 

 そのリングから都市を守るかの様に白いガスが噴出される。だが、今更波動砲は止められない。

 そうして予定通りカウントは0となり、一斉に波動砲が発射、重力フィールドによって収束されたそれは都市へと向かっていき───

 

 

───それはガスにぶつかり、暫く競り合った後に分散、エネルギーは宙に霧散した。残ったのは傷一つ無い都市帝国とただ呆然とするしかない波動砲艦隊のみ。

 

「な……」

「は、波動砲が……」

 

 有り得ない。皆がそう思った。あれ程のエネルギーを食らって無傷だなんて。

 杏の脳裏には前世の光景がフラッシュバックしていた。

 二度に渡る波動砲は効果を成さず、エネルギーが尽きて無防備となった艦隊に破滅ミサイルの群れが襲いかかる。アンドロメダも至近で爆発し、艦首の殆どを抉り取られるという損傷を受け、機関にも甚大な損害を負った。

 そのまま呑み込まれるかに思えた彼女は、しかし同じく損傷を受けていた姉妹艦、アポロノームの命と引き換えに生き延びたのだ。

 

「あ……」

 

 彼女の思考が停止する。

 ああ、まただ。自分は二度目の生を、しかもこんな特殊な形で受けたというのにまた自分は、艦隊を、人類を、地球を、守る事が出来ない。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ。自分は旗艦で、戦艦で、こんな事で混乱していてはいけないのに。しかし彼女の身体は言う事を聞かず、全く動こうとしない。

 

 

「狼狽えるな!!」

 

 

「っ……」

 

 そんな彼女を、皆を、解放したのは土方の声だった。

 

「全艦120度反転、防衛ラインを火星軌道まで後退させる。急げ!!」

 

 その号令は速やかに艦隊全体に伝えられ、失われていた光を取り戻していく。

 そうだ、我々はまだ負けていない。まだ戦う事が出来るのだ。

 

「都市帝国より大型ミサイルが発射されました!」

「迎撃しろ! 本艦は殿を務め、艦隊後退の援護を行う!」

「了解! 艦首魚雷発射管開け!」

 

 どうやら敵はそう易々と後退させてくれるつもりはないらしく、回転していたリングから次々とミサイルが発射される。それは一発一発が駆逐艦程もある巨大な物で、命中すれば波動防壁があれどどうなるかは分からなかった。

 それを迎撃すべく艦首上部に設置された四基の魚雷発射管が開かれ、対空ミサイルが発射される。

 

「……っ、グレネード投射機使用準備」

 

 そして、我を取り戻した杏も同じく迎撃の指示を出す。

 発射されたミサイルやグレネードは正確に敵ミサイルを捉え、次々と爆破させる。その間にも艦隊は転舵し、撤退していく。

 

「リングに高エネルギー反応! ビーム攻撃だと思われます!」

「重力子スプレッド、射線予測宙域に展開」

 

 その様子に痺れを切らしたのか、都市帝国はミサイルから高出力ビームによる攻撃へと切り替える。

 リングの砲口から放たれたその光線は、差程威力は高くないのか青い膜によって阻まれ、地球艦隊への被害を完全に防いでいた。

 

 やがて、地球艦隊はその全てが離脱に成功し、最後に残ったアンドロメダも辛うじてワープに成功する。

 

 

 この光景は地球市民も観ており、彼らの感情は大きく揺さぶられていた、

 マルチ隊形による圧倒的な力の投射。勝利を確信してからの都市帝国の出現。それに対する波動砲攻撃は完全に防がれ、地球艦隊は為す術なく撤退を余儀なくされた───少なくとも、そう見えた。

 艦隊戦の圧勝による歓喜は何処へやら、彼らは波動砲という超兵器が通じない相手が出現した事に恐怖する。彼らは我先にとかつて押し込められていた地下都市へと逃げ込み、当局は警備に追われるのだった。

*1
駆逐艦




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白色彗星が強過ぎる?栄えあるラスボスなのでこのくらいは強くないと困ります
旧作の描写では拡散波動砲の一斉射(さらば版)で駄目だったのがヤマトの一撃で吹き飛ばせたり、かと思えば2ではさらばよりも明らかに少ない数の拡散波動砲で吹き飛ばせてたりと描写が安定していないんですね。
作中では収束波動砲の一斉射は受けていないので、もしかしたらここまで耐えられていたのかもしれない(シュレーディンガーの白色彗星)と思って今回の様な描写にしました。

因みに小惑星の方を撃ってたら速攻で終わってました。でも都市の方を撃ちたくなるのは当然だからね、仕方ないね
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