ディンギルという惑星(前編)
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「……ん?」
「どうしました、山南さん?」
「いや……」
ガトランティス戦役から約2年。時間断層の破棄という選択をとった地球はゆっくりと、しかし健全に復興を続けている。
地球連邦という国家規模に見合わぬ過剰な戦力は再編され、数千、数万隻と建造されたドレッドノートはその一部が移民船や空母などへと改造されていた。例えばそれは戦闘空母ヒュウガであり、補給母艦アスカである。
時に西暦2205年。天の川銀河のとある宙域にて、宇宙戦艦ヤマトは第65護衛隊の旗艦としてその二隻を伴い、新兵の訓練航海を行っていた。
その最中、艦隊司令である山南修がふと声を漏らす。
「何か……懐かしい雰囲気を感じてな」
「懐かしい……ですか」
「……多分気のせいだろう。今はヒヨっ子達が大事だ」
彼はヤマト艦長である古代にそう応え、自らの軍帽を少し整えた。
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ガトランティス───白色彗星帝国を打ち倒してから数週間が経過したこの日、ある一隻の戦艦がとある場所を目指し黒の大海原を航行している。
全長500メートルを超えるその巨艦の名は『ガルンボルスト』。ディンギル帝国が誇る宇宙戦艦であり、在地球大使であるルガール・ド・ザールの乗艦でもあった。
その周囲には数隻のやや細長く小さな───それでも300メートルを超えるが───艦。『カリグラ級中型戦艦』という名のつくそれはガルンボルストを護衛する任についている。つまり、中央の戦艦には護衛すべき人物が乗っているのだ。
「フッ……どうだ? この戦艦は。地球の小さきそれとは全く違うだろう」
「……」
艦中央部に位置するその部屋───来賓室には現在、二人の人間が居る。青い肌を持つ男とペールオレンジの肌を持つ女───ディンギル帝国第一王子にして在地球ディンギル大使、ルガール・ド・ザールと地球防衛軍
肩書きだけ見れば到底釣り合わぬ二人は今、広い部屋の中机を挟み向かい合ってソファーに座っている。
「豪華絢爛ですね。戦艦の中とは思えません」
「強き者の居室はそれに釣り合う物でなくてはな。この程度は当然の事だ」
彼女が皮肉交じりにそう表現したその部屋は、まるで豪邸の一室の様であった。
家具や柱、窓枠に至るまで緻密な装飾が施され、その一部には金や宝石が使われている。天井からは地球のそれとは少し形の異なるシャンデリアが提げられ、またあちらこちらにディンギル人の信仰する神をあしらった紋様が付けられている。
彼女らが今座るソファーや使用しているティーポットなども質が良く、湯気を立たせる紅茶からは高貴な香りが漂っている。
また、今いるリビングルームだけでなくベッドルームや何種類もの浴槽が設置されたバスルームなども併設されており、彼女の言う通りとてもではないが軍艦の中とは思えなかった。
さて、それでは何故二人がこんな場所に居るのだろうか。否、持ち主たるルガールはまだいい、何故杏がここに居るのか。
理由は単純であり、彼女は彼に
超巨大戦艦との戦闘。波動砲すら通じぬその巨大に、地球艦隊は何も出来ずにただ地球が破壊されるのを見ているしかないかに思えた。
だが、ディンギルの
如何に外部装甲が固くとも、内部から破壊されては抗う術はない。地球艦隊やガルンボルストが見守る中超巨大戦艦は爆発四散した。
そして、それを起こした張本人───アンドロメダも無事では済まなかった。波動防壁を装備せずそんな爆発の中心に居たのだから当然である。
外部装甲は殆どが融解、主砲身は消え、艦首は抉れ、艦橋には大穴が空いていた。そして、そんな艦橋にただ一人、ボロボロの杏が漂っていた。
誰が見ても死んでいるとしか答えないであろう彼女だったが、しかし真田技師の提案によって完璧に蘇生した。その方法は至って単純。アンドロメダが傷付く事により彼女の身体にも傷が付くのならば、その逆をすればいいのだ、と。
結論から言えば、その予想は当たっていた。大破したアンドロメダを修理していく度に彼女の身体は修復され、修理が完了すると同時に彼女は目を覚ます。その身体には一つの傷も残ってはいなかった。
さて、そんな彼女だったが退院すると同時にディンギル大使館へと呼びつけられる。その用件こそ、今回のディンギル星への招待だったのだ。
「貴様は父上と……会っていたか?」
「ファーストコンタクトの際に一度だけ。直接会話はしませんでしたが」
「そうか。今回は父上が貴様に会いたいというので連れて来たのだ」
「大神官大総統閣下が?」
「そうだ。恐らく……貴様が何者かを直接会って見極めるおつもりなのだろう。父上の"眼"からは逃れられん。観念するのだな」
その返答に、彼女は無言で紅茶を啜ることで返す。
そんな事だろうとは思っていた。あのディンギルが大した用事も無いのに招待などするものか。十中八九現地では尋問じみた会話が交わされるのだろうし、幾つもの検査器具にかけられる事も想定しておかなければならないだろう。
尤も、彼女自身はそれ程心配はしていない。
一部からは万が一を不安視する声も出ていたが、最終的には功労者への休暇という事で許可された。彼女は休暇など必要無いと言ったのだが……
だがまあ、機械が『人間である』と判断したとしても、それで人間側が納得出来るかはまた別の話だ。そこで上層部ではカバーストーリーを用意していた。
正直な所、このストーリーですら外部に漏れてしまえば防衛軍は国民から支持を失いかねないレベルの物なのだが、宇宙戦艦が少女になれるという事実に比べればマシだった。
「因みに私の部屋はこれよりも更に広い」
「そうですか。それは凄いですね」
そんな内心は露知らず、彼はそんな言葉を口にする。部屋の広さなど端から微塵も興味が無い彼女は視線を紅茶に移したまま平坦な声で返す。
その出来の悪いbotの様な返答に、さすがに彼も気を悪くした様で。
「……来い、見せてやる」
「先に紅茶を飲んでもいいですか? 冷めてしまいますので」
ポケモンを買ってしまいました……(解答)