「……アンド、ロメダ……?」
「はい。信じられないかもしれませんが……私は間違いなくアンドロメダです」
山南は混乱していた。
まず、この少女が彼や土方、ヤマトの事を知っているという事実に。そして突然謝罪し、挙句の果てには自害しようとした事に。最後に名乗った名について。
当然彼にはこの少女との面識は無い。彼は特段物覚えが悪いという訳でもなく、仮に忘れやすくともこのような特徴的な髪をしている人間の事など忘れる筈もない。ましてや虐待など、会ってもいない少女をどうやって叩くというのか。
また、彼女の名前も奇妙だ。あれではまるで───
「アンドロメダと言ったな。君は人間ではないのか?」
彼の思った事をいつの間にか隣に来ていた土方が問う。
彼女は自らの事を『"前衛武装宇宙艦"アンドロメダ』と言った。とてつもなく長い苗字という可能性も無くはないが……
「その通りです。私は火星で沈み、次に目が覚めた時にはこの場所にこの姿で寝ていました」
だが、その可能性は彼女自身の言葉で否定される。確かに相変わらず彼女の顔には感情は無く、声にもあまり抑揚は感じられない。しかしそれは一般的な機械音声とは明らかに違う物だった。
先程の検査では『人間である』と出ていた。つまり、彼女は少なくともアンドロイドの類いではない。
「……恐らくは、信じられないと思います。戦艦が人間になったなどと」
「……ああ。そうだな」
「そこで一つ提案なのですが───」
彼女が何かを話そうとした、その時だった。
『総員、第一種戦闘配備! 繰り返す、総員第一種戦闘配備!!』
サイレンが鳴り響き、そんな放送が流れてくる。それは艦のレーダーが敵艦の姿を捉えた事を示していた。
「チッ、気付かれたか。話は後だ、今は敵に対処する必要がある」
「ガトランティス艦ですか!? ならば私も!!」
「ガトランティス? 敵はガミラスだ」
「ガミラス……? ガミラスは味方ですよね……?」
一言だが大きな違和感。それを指摘した瞬間、これまであまり変わらなかった土方の顔が途端に激昂へと変わる。
「何を言っているんだお前は! ……とにかく、今は話している暇は無い。山南、行くぞ」
「は、はい。……君はここに居るんだ、いいね?」
「……了解しました」
山南はその気迫に気圧されつつ、彼女をこの部屋に居るよう伝える。それに彼女は渋々といった様子で首を縦に振る。
それを確認し、正体不明の感覚に後ろ髪を引かれつつ、2人は艦橋へと戻るのだった。
───────
「状況は」
「10時の方向、20光秒の宙域に敵艦隊が出現しました。恐らくワープだと思われます。数10! 敵の射程内に入るまで後10秒!」
「残存艦艇か……どこに隠れていたのやら。撤退しますか?」
「……」
10隻のガミラス艦。数だけ見れば少ないが、今の彼らにとっては絶望的な数字だった。何せ、この艦とガミラス艦との間には圧倒的な差があるのだ。
今、山南が提案した"撤退"。しかし、彼自身もそれはほぼ不可能である事を理解していた。
「……砲雷撃戦用意。ここで敵を迎撃する」
「……了解しました。全管、砲雷撃戦用意!!」
ここで全力で逃げたとしてもすぐに追いつかれる。例え地球に帰れたとして、地下都市への進入ハッチの位置がバレてしまえば最悪地球人類が全滅してしまう事にもなりかねない。
敵にワープで至近距離まで近付かれた時点で取れる選択肢は1つしか無かったのだ。
ターレットリングの軋む音が艦橋内まで響いてくる。艦内通路を乗組員が慌ただしく動き回り、皆が今できる事を全力で遂行しようとする。
だが、そんな彼らの努力を嘲笑うかのように。
「敵艦隊発砲!!」
「ッ! 回避しろ!」
「1発、命中コースです!」
「……衝撃に備えろ!!」
のそりのそりと動く彼女へと赤い閃光が手を伸ばす。
絶大な破壊力が込められたその光線は───しかし、彼女の装甲を貫く事はなかった。
『こちらアンドロメダ。これよりキリシマに加勢します』
───何故ならば、沖田艦とガミラス艦隊の間に突如1隻の巨艦が現れ、その身に光線を受け止めたのだから。更に、無数のビームを受けて尚その巨艦は全く揺らいでいなかった。
「な……」
その場に居た者達は皆唖然とする。
目測だが400mはあろうかという巨体。上部にそびえ立つT字型の司令塔に、それを挟む様に前後に設置された4基の長砲身の三連装砲。そして、艦首に空いた2つの穴。その姿は全く見た事のない物だった。
『これより
「この声は……まさか!?」
突如入ってきた通信。その声は完全に先程の少女の物であった。
キリシマ、という物が何かは分からなかったが、文脈的にそれがこの艦を示す物であると判断し、土方は彼女の言う通りに艦を下がらせる。先程の発言で彼女の事を信用していない彼ではあったが、この状況では取れる選択肢は余りにも限られていた。
一方、少女の方はといえば、こちらは苦悩していた。
彼女はとある事情から地球人とガミラス人が分かり合える事を知っている。だからこそあまり傷付けたくはなかったが……
今、彼女は目の前の戦艦───アンドロメダの艦橋内に居る。彼女は自分が
「主砲、発射用意」
今のアンドロメダの姿は彼女の知る最後の姿だった。即ち、両舷のミサイル発射管がパルスレーザーに置き換えられ、艦体色は濃いグレーと赤───ヤマトカラーに塗り替えられ、艦首の波動砲口はスプリッターによって上下に分けられている、『アンドロメダ改』としての姿。
彼女には沈む直前までの記憶があったが、その艦体には傷一つ無かった。空間魚雷や対艦グレネード、三式弾も満載されており、戦闘態勢としてはこれ以上ない程に整っている。
問題があるとすれば乗員が彼女一名しかいない事だが───
「……問題無く動いてる。アナライザーは居ないのに」
───それは杞憂であった。主砲も、機関も、舵も、その全てが彼女の意思に沿ってまるで手足の様に動いていく。本来であればこの艦は制御用に製造されたアナライザーによって動くのだが、それは何故か居なかった。それでも問題無く動いているのだから、自分は艦の制御AIと考えていいのだろう、と彼女は一旦結論付ける。
艦が揺れる。ガミラス艦のビームが命中した様だった。しかし、艦体には傷一つ無い。その全てが堅牢な波動防壁によって防がれていた。
アンドロメダはガトランティスの脅威が周知される前に建造された艦であり、その仮想敵は当時地球が最も恐れていた星間国家───即ち、ガミラスである。その為、アンドロメダにはガミラス艦を圧倒出来るだけの性能が求められた。
計算上、この艦単独でかつての冥王星基地艦隊を相手にしても勝てるのだ。たかが10隻など彼女の前では塵芥に過ぎない。
前方の2基の主砲がそれぞれの標的に向く。エンジンからエネルギーが送り込まれ、発射準備が完了する。
「───発射」
「何だ……あの巨艦は……」
ガミラス残存艦隊を率いる男は閉じぬ口でそう呟く。彼の視線は、先程突然出現した謎の巨大戦艦に吸い込まれていた。
全長444m。ガミラスでも滅多に見ない程の巨艦であり、当然これまでの地球侵攻でも見られた事はない。
「ど、どうしますか」
「うぐ……」
彼らは第11番惑星基地に所属していた艦隊である。11番惑星基地は小さな基地である。その為、冥王星基地陥落の報告がなされた後は身の振り方を考えざるを得なくなった。
ガミラスは撤退を許さない。その為何もせずに帰る訳にはいかない。しかし、これだけの戦力───この10隻が基地のほぼ全戦力だ───ではさしもの野蛮人といえども占領は出来ないだろう。
そうして考えていた最中、火星宙域に謎のワープアウト反応が探知された。それが何なのかを調べに来た所、こうして地球の艦と出会ってしまったという訳だ。
相手は1隻。すぐに撃沈出来る筈だった。
「あの様な艦はデータにはありません」
「本国の新型艦、という訳でもなさそうだな……ならば地球の物か?」
あの艦のデザインはガミラスのそれとは全く異なっていた。そもそも完全に地球艦を庇っているのだ。確実に敵だろう。
「……全艦再度攻撃開始。背後の雑魚は捨ておけ、あの巨艦のみを狙え!」
その指令と共に10隻から赤い光線が一斉に放たれる。しかし、それが目標を貫く事はなかった。
ビームが艦に命中する直前、青い膜のような物によって阻まれたのだ。
「な!? まさかシールドか!? そのような高度な技術を何故!?」
「敵艦砲塔、動きます!!」
彼らが唖然とする中、その艦は上部甲板にある巨砲を動かしつつあった。
とてつもなく長い砲身を3本装着した砲塔。これまでの地球艦ならば気にしなかっただろうが、冥王星基地が陥落した事で否応無しに警戒させられる。
それは動き、ある2隻に狙いを定め───青白い光線を撃ち放つ。
「ぐッ!!?」
2基の砲塔からそれぞれ放たれた短い光線は吸い込まれるように2隻のデストロイヤー艦に命中し、一撃で爆散させる。その光景は到底信じられる物ではなかったが、間髪入れずに再び発射された光線によってまたも2隻の艦が撃沈された事で思考停止している暇など無いのだと思い知らされる。
「全艦散開! 速力を活かして───ッ、なんて連射速度だ」
「6番艦、2番艦轟沈!!」
「……全艦敵艦に突っ込めェ!!!」
その指令を下した直後にまた2隻が爆発する。既に10隻いた艦隊は2隻にまで撃ち減らされていた。
機関出力を限界まで上げ、蛇行しながら巨艦へと突っ込もうとする。しかし───
「あ」
───もう、遅かった。
ガミラス帝国第11番惑星基地所属艦隊10隻は、火星宙域にて地球
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