「首相閣下、急ぎご報告したい事がございます」
「何事だ騒々しい」
天の川銀河中心部。そこでは主に二つの国家がしのぎを削っている。
一つは『ゼニー合衆国』。その名の通り民主主義国家であり、比較的穏やかな国民性の国家である。国力は高いが技術力はそこまで高くなく、もう一つの国家に押され続けているのが現状である。
そのもう一つの国家が『ボラー連邦』。好戦的な国家であり広大な領域を持っている。ゼニーとは戦争状態にあり、
そんなボラー連邦の首都は、銀河系中心部の巨大ブラックホールから約3800光年程離れた位置に存在する氷結した惑星である。そこにある首相官邸───ベムラーゼパレスと呼ばれるその建物に、ボラーを統べる男、ベムラーゼ首相は住んでおり、そんな彼をある人物───総参謀長ゴルサコフが慌てた様子で尋ねた。
「ガトランティス帝国が……どうやら滅亡した様です」
「何だと? 確かな情報なのか」
「占領下の惑星に潜入させている諜報員からの情報です。どうやら本星である白色彗星が破壊された様でして。同じ内容の報告が他に十数件来ておりますので信憑性は高いかと」
「ううむ……」
ベムラーゼは渋い表情を浮かべて顎に手を当てる。
アンドロメダ銀河からの侵略者、ガトランティス帝国。いずれボラーとも戦う事になるであろう事が予想されており、それに備えて様々な調査を行っていた。
正面からぶつかれば大国ボラーといえども大損害を負う事は免れない、そう想定されていた。特に本星である白色彗星は連邦の力では試作兵器でありベムラーゼ機動要塞にのみ搭載されている超兵器『ブラックホール砲』を使用する他対処は不可能だとされ、だからこそこの報告をそう簡単に信じる事は出来なかった。
「……白色彗星は何処に行く予定だったのだ?」
「オリオン腕方面に向かっていた様です。そこに存在する国家によって破壊されたと思われますが、詳細な国名は不明です」
「今すぐ調査せよ」
「はっ!」
彼は言った。
「───この銀河に、我らの知らぬ戦力など存在してはならんのだ」
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「うわぁ、すげぇーー!!」
「でけぇなあ」
ある日の地球。雲一つ無い青空のもと、幾つもの内火艇が十数人の青年を乗せて穏やかな海を進んでいる。
乗っている青年達は皆白に少しの赤が混じった服───宇宙戦士訓練学校の制服を身に着けており、彼らは皆進んでいる先に鎮座する巨艦───宇宙戦艦ヤマトに目を奪われていた。
そう、今日は宇宙戦士訓練学校を卒業した生徒達が防衛軍艦艇に配属される日なのである。
ここにいるのは宇宙戦艦ヤマトが率いる事になった第7航空戦隊だ。
旗艦である宇宙戦艦ヤマト、いせ型からより搭載量を増加し、艦体左舷にアングルドデッキを突き出した形の新型空母、あまぎ型戦闘空母一番艦『あまぎ』、ゆうなぎ型パトロール艦『はるかぜ』の三隻からなる艦隊であり、長期に渡る行動が出来る編成となっている。
また、その隣に居るのはアンドロメダ。彼女は地球防衛軍総旗艦の任から外され、代わりに特務遊撃艦という肩書きとなった。
これは、アンドロメダという特殊な艦を総旗艦という動きづらいポジションに縛り付けておくのは如何なものか、という意見を反映した結果であり、これにより彼女は従来に比べて遥かに単独行動が可能となったのだ。
今回共に居るのは、第7航空戦隊との合同訓練航海を行う為であった。
それはともかく、水雷艇の一隻が転覆する、ヤマトの離水が少し遅れるなどといったアクシデントはあったものの、訓練生達の配属と訓練艦隊の発進は殆ど時間通りに完了する。
その後、艦隊は月面基地から発進した航空隊の訓練生達を回収する事になる。調子に乗ってヤマトの眼前で曲芸飛行をした新人パイロットの坂本茂が、キレた加藤三郎にシバかれるといった事もあったが、こちらも予定通り完了した。
そうして、艦隊は最初の予定宙域───アステロイド・ベルトへ到着する。そこで航空隊、及び砲撃訓練を行うのだ。
そこではヤマトで砲撃を担当した新人の北野哲が焦って航空隊が安全な位置に退避していないにも関わらず砲撃してしまうなどのアクシデントがあった。不幸中の幸いにも被害は出なかったものの、北野、及び危険飛行をした坂本は罰としてパンツ一丁で艦内を一周する事になったのである。
「いいぞー!」
「ほらほらー!!」
二人並んで走る彼らを乗組員達が囃し立てる。
ヤマト乗組員は男女比がかなり偏っているのでそれ程羞恥心を感じる事も無かったのだが、今日の彼らは不運だった。
「「なっ!!?」」
「……? 何故下着姿でランニングを……?」
目の前に現れた少女の姿に二人は揃って驚愕する。
その少女───山南杏は、その二人の姿に困惑する。彼女の知る2202年とこちらの2202年ではコンプライアンス意識がかなり違っていた。少なくとも、下着姿で艦内一周というデータはインプットされていなかった。
「や、山南……二佐、な、何故ここに……」
「会議です。それで北野准尉と坂本三尉は何故した───行ってしまいました」
アンドロメダの副艦長で今の彼らからすればかなりの上官である彼女だが、見た目は可憐な少女である。猛烈に湧き上がる羞恥心に、二人は堪らず全力疾走で駆けていった。
そんな二人の後ろ姿を見て、彼女は首を傾げるのだった。
ところで、彼女は今機嫌が悪かった───少なくとも、外部からはそう見えていた。何故ならば、アンドロメダの艦長が変わったからである。
先の戦いの功績を評価され、多くの軍人が昇進した。それは彼女や山南も例外ではなく、一等宙佐であった彼は宙将補となり、第7航空戦隊の司令に就任した。
今、防衛軍は人材不足である。そんな状況で山南の様な軍人を艦長に留めておく余裕は無かったのだ。それは彼女も理解しているのだが、それはそれとして彼と共に居られないのは辛かった。
因みに、新しく艦長になったのは谷鋼三という男である。別の世界では
そんな訳で近づき難いオーラを放っていた彼女だったが、下着姿でのランニングという謎極まりない光景を目にした事で少し雰囲気は和らいだのだった。
それはそれとして、訓練は続く。
ガミラス戦役、ガトランティス戦役という二つの戦争を戦い抜いた戦士達に鍛えられ、宇宙戦士の卵達はメキメキと成長していった。
「───イスカンダルが漂流している!?」
そんな通信が地球から入ったのは、地球出港から一週間程経った頃だった。衝撃的な内容を前に、古代や山南、そして杏らは驚愕する。
詳細を言うと、新天地を探していたデスラー艦隊は母星に最後の別れを告げるべくガミラス星へと赴いていた。だが、かつての決戦により死の星となったそこでは、謎の集団が掘削作業を行っていた。
それに激怒したデスラーはその集団を攻撃。しかし、それが原因となってガミラス星は木端微塵になってしまう。
そして、双子星を失ったイスカンダルは惑星軌道を逸脱、移動を開始してしまう。デスラー艦隊はそれを追うも、イスカンダルはワープしてしまう。彼はワープアウト座標を計算すると同時にヤマトや地球へと通信を送ったのだった。
そして、偶然にもイスカンダルに最も近い地球防衛軍艦艇はこの艦隊だった。
「俺としては少し不安があるな。この艦隊は今訓練生を多く乗せている。実戦は危険だ」
「儂も同意見だ」
「しかし山南さん、谷さん! 地球はイスカンダルに返しきれない程の恩があります、これを見捨てるなんて俺には出来ません!」
ヤマトに上層部が集まり、会議を行う。意見は対立していた。
「杏二佐、お前はどう思う」
「私も同意見です」
「そんな……」
彼女の答えに古代は落胆する。
「……しかし、事態はそう簡単でもありません。何があるか分からない現状、救援に向かうのであればこちらもそれなりの規模の艦隊でなければいけません。それが可能な即応艦隊は地球基地、月面基地、タイタン基地にしかなく、イスカンダルの移動速度も考慮すると到着まで二週間から三週間程度かかると思われます。対して、我々ならば一週間で到着可能です」
「山南二佐……!」
「成程な、一週間の差か……」
彼女の言葉に、山南は考え込む。彼女の能力で弾き出されたその結果は信頼性が高かった。
一週間から二週間の差。普通に宇宙空間を移動しているだけならばいざしらず、イスカンダルはワープしている。いつどんな危険な空間に入ってしまうかも分からない現状、その差はあまりにも重かった。
「山南司令」
「真田君、何だね?」
と、そこでヤマト副艦長の真田が声を上げる。
「この事態はある意味で好機かと思われます」
「好機?」
「はい。今このヤマトにはとある試作兵器が搭載されています。本来ならばこの訓練中にテストをしようと考えていたのですが、実戦で使えるかどうかを試せるのならばこれを逃す手はありません」
「新兵器……例のディンギルミサイルを基にしたというあれか」
「見ただけなので完全に機構を再現出来ている訳ではありませんが」
「ううむ……」
「それに……イスカンダルには古代守が居ます。邦人保護の観点からも早急に向かうべきかと」
彼は言った。
その後も会議は続き、結論は───
───────
「ヤマトからの通信はまだか」
「ま、まだありません」
イスカンダル、海上。そこでは着水したデスラー艦隊と襲撃した謎の艦隊───暗黒星団帝国のデーダー艦隊との熾烈な戦闘が行われていた。
プレアデスから発進したイモ虫型戦闘機から放たれた魚雷が三段空母の艦底を抉り、円盤型戦闘機の機銃がイスカンダル宮殿を破壊していく。戦況は絶望的であった。上空に散布し、艦隊の侵入を阻んでいたデスラー機雷は敵の砲撃によって次々と破壊され、既に何隻かは侵入してきている。デスラー艦隊は既に壊滅状態、まともにやりあっても即座に全滅するだろう。
だが、それでも。愛する者を守る為、せめて最後に一矢報いようと彼が全艦に突撃を命じようとした───
「ん?」
───その時だった。
「あれは───」
彼等が来た事は、宮殿の古代からも見えていた。
彼等───第7航空戦隊から発進した攻撃隊はデーダー艦隊の背後から急襲した。
原作での古代はイスカンダルに行くことを躊躇していましたが、今作では真逆になっています。理由としては古代の上に山南さんという"頼れる大人"がいるからです