「我が巡洋艦隊……全滅!!」
「ぐぬぅぅぅ……」
副官の苦悶に満ちた報告にデーダーは拳を握り締め、唸る。
地球航空隊の奇襲はデーダー艦隊にとってまさに予想外のものだった。彼らが集めていた情報ではガミラスは既に滅亡し、例え残党が襲ってきたとしてもそれきりであり援軍などを恐れる心配はない、とされていたのだ。まさか滅亡寸前に追い込み、逆に自分達が滅ぼされた相手───地球が助けに来るなど誰が想像できるだろう。
背後から強襲した航空隊は展開していた艦艇に襲い掛かり、続けてデスラー艦隊を襲っていた航空機を次々と撃墜していった。
「───古代」
艦橋の目の前を通り過ぎていったコスモゼロのコックピットの中に見えた男の顔を見て、デスラーは呟いた。
その後、直掩機に囲まれた地球艦隊が現れる。デーダーは激怒し攻撃を命じるが、接近した航空隊は全て撃墜され、その後攻撃を加えようとした巡洋艦隊も瞬く間に全滅した。
彼らが加える攻撃は全て波動防壁に阻まれ、逆に地球艦隊ではヤマトのショックカノンが数隻を纏めて葬り去り、アンドロメダやあまぎのショックカノンは凄まじい連射速度で正確な射撃をしてくるのだ。相手になどならなかった。
「ぐ……ならば! このプレアデス直々に葬り去ってくれるわ!! 全艦第一級戦闘配備! イスカンダルを背に地球艦隊を狙え!!」
拳をプルプルと震わせ、彼は指示を出す。
ものの数分で数十隻もの艦隊が全滅したデーダー艦隊だったが、彼にはまだ余裕があった。彼の乗るプレアデスには"位相変換装甲"と呼ばれる機構が搭載されており、暗黒星団帝国───デザリアム帝国の艦艇の中でもトップクラスの堅牢さを誇る。
並みの攻撃では傷一つつかないそれに、彼は絶対的な自信を持っていたのだ。
「全艦攻撃開始!!」
彼のその声と共にプレアデスや背後に控えていた護衛艦隊が攻撃を開始する。
「~~~ッ!! 何故攻撃が効かんのだ!!」
だが、その緑色の光線は悉くが波動防壁によって阻まれ、彼は椅子の肘置きに拳を叩きつけた。
「主砲が効かない!?」
一方、地球側も驚愕していた。
突撃してくる
「山南司令、試作兵器を使いますか?」
「待て、まずは波動砲を試す。アンドロメダ、はるかぜ*1は敵艦隊を引きつけろ。あまぎは本艦の後方で波動砲発射準備、本艦は波動防壁にエネルギーを集中させあまぎの盾となる! ただし試作兵器も装填しておけ」
『こちらアンドロメダ、了解』
『こちらはるかぜ、了解!』
『こちらあまぎ、了解』
山南の指示で各艦が動き出す。
試作兵器は"波動砲が通用しない相手"に対しての使用が想定された物であり、ここで使っては本当に波動砲が通用しない相手に対しても通用するかが分からない。また、そもそも試作兵器というだけあって三発しか搭載されていない、という事情もあった。
あくまでも山南の勘ではあったが、敵はまだ何かを隠している様に思えたのだ。
「波動防壁、前面に集中展開」
「あまぎ、後方に回ります!」
「牽引ビーム接続」
現在プレアデスの背後にはイスカンダルがある。このまま発射してしまえば貫通した時にイスカンダルまでも破壊してしまう恐れがあった。
その為、あまぎとヤマトを牽引ビームで接続、波動砲の充填中である為に動けない彼女をヤマトが動かす事で位置を調節するのである。
前方を見ると、アンドロメダとはるかぜが敵艦隊に突撃し主砲やミサイルを乱射して敵を
『こちらあまぎ、波動砲発射十秒前』
「了解。島、ヤマトを射線上から退避させろ」
「了解。スラスター全開」
あまぎからの報告で、ヤマトは上昇し波動砲口の前から退避する。
「……む? 何だ……ッ!! まさか!?」
デーダーが二隻の不審な動きに気付いた時にはもう遅かった。
ヤマトが退き、披露されたあまぎの艦首砲口には青い光が灯っていた。
「た、ただちにこの場から───」
───次の瞬間、視界は光に包まれ彼は叫び声を上げながら乗艦と共に消滅した。プレアデスを貫いた波動砲は、その背後に居た数隻の護衛艦を蒸発させながら宇宙を突き進んでいく。
イスカンダルには一切の被害は無かった。
「敵艦、消滅!」
『こちらアンドロメダ、敵艦隊の殲滅を完了』
プレアデスが轟沈したのを見届けた艦橋は歓喜に沸く。
「こ、これが地球防衛軍……! 凄い……!」
「北野、気を抜くなよ。今回は偶々上手くいっただけだからな」
「は、はい!」
作戦が完璧に完了した光景を見て、北野は目を輝かせる。その様子を見た島は彼を戒めるが、内心では彼もほっとしていた。
そんな様に艦内の空気が緩む中、一人山南は険しい表情を崩さない。
「総員警戒を緩めるな。相原、イスカンダル宮殿に繋げ」
「は、はい!」
「司令、一体何を?」
敵は殲滅したのに、といわんばかりの表情で古代が振り向く。
「いや、何か胸騒ぎがな……」
と、彼が不安そうな表情をする傍、二隻になってしまったデスラー艦隊が浮上して地球艦隊と合流する。それと同時に宮殿との回線が開く。
『ヤマトの皆さん、こちらは、イスカンダルのスターシャ』
「兄さん!」
メインパネルに映った古代守の姿に、進は歓喜の声を上げて立ち上がる。
『進か……立派になったな』
「兄さん、早く脱出してヤマトに避難してください!」
『ありがとう、俺達の為にここまで来てくれて。それだけで充分だ』
だが、彼の説得にも二人は頑なに応じない。
「守よ、そしてスターシャさん。イスカンダルを離れたくないという気持ちはよーく分かる。だが───」
と、山南が話し始めた時だった。
『こちらはるかぜ! ヤマト後方5時の方向より巨大物体接近!』
「何!?」
「レーダーには何も映っていません!」
「後部カメラの映像を出せ!」
はるかぜからそんな通信が入る。レーダーには何も映っておらず、相手は高いステルス性能を持っていると判断した山南はすぐさま後部を映すカメラの映像をメインパネルに投影させる。
「な……」
「こ、これは……!?」
そこにあったのは黒い球と円筒を縦に繋げた様な形状の物体であり、それは後部から噴射してヤマトらに接近していた。
その特異な形状もさる事ながら、なんといっても特筆すべきはその大きさである。その物体は全幅だけでもアンドロメダと同程度あり、全長は何と700メートル以上もあった。
「エンジン全開、フルパワー!」
そんな代物が接近してきている。ヤマトやあまぎは慌てて退避する。
その物体はヤマトらが居た空間を通り抜けると、ある地点で停止しその胴体を引き起こし周囲に戦闘ヘリを展開させる。
自動惑星ゴルバ、それがこの物体の名であった。
『地球の艦隊よ、お見事な戦いぶりであった』
ゴルバからの通信が地球艦隊やデスラー艦隊に強制的に接続され、メインパネルに青白い肌を持つスキンヘッドの男───司令官たるメルダーズが投影される。
「お前達がイスカンダルを攻撃した部隊の旗艦か」
『そうだ。イスカンダルは我が暗黒星団帝国の物だ───』
彼は話し始める。
自分達は暗黒星団帝国という星間国家に所属する者である事。イスカンダルを狙うのは地下に眠るイスカンダリウムという物質が星間戦争に必要だからだという事。それの採掘が終わればイスカンダルの二人になど用はない事……。
その最後に告げられた即刻退去の勧告に、しかし山南は突っぱねる。
「イスカンダリウムの採掘権は現女王であるスターシャに委ねられている。どうなのです、スターシャ女王?」
『……イスカンダリウムを戦争に使われる訳にはいきません』
「だ、そうです。ならば我々としてもその勧告に従う訳にはいきませんな」
彼は肩をすくめてそう答える。その間に彼は秘匿回線でアンドロメダへ波動砲発射準備の合図を送っていた。
『ならば我々はイスカンダルに向け直接攻撃を仕掛ける。それでも抵抗するというのか』
「返答は変わりませんな」
『……よろしい、ならば戦争だ。このゴルバと戦おうとした事を後悔さ───』
と、そこで通信が切れる。
眼前ではアンドロメダから放たれた青白い光線がゴルバに命中していた。
「……ううむ、効いていないな」
だが、彼女が放った波動砲がゴルバを貫く事は無く、少しの衝撃を与えたのみで大した傷を負わせる事は出来なかった。
『───ククク……ハーッハッハッハッ!! そんな石ころの様なエネルギーがこのゴルバに』
「よし、真田君、例の兵器を」
「了解。第一主砲、
再び通信が入り、メルダーズが高笑いを上げて勝ち誇る。だが、ヤマト乗組員は悲観的にはなっておらず、寧ろ次の作戦に移行していた。
真田が第一砲塔に通信を入れる。そこでは試作兵器───波動カートリッジ弾の発射準備が進められている。とはいっても既に装填は終わっていた為、準備はすぐに済んだのだが。
波動カートリッジ弾。それはガトランティス戦役終盤の戦訓───波動砲が通用しない敵が存在する可能性───を活かし、共に対超巨大戦艦戦でディンギル艦が放ったミサイルを参考にして急ぎ作り上げた新兵器である。
ディンギルのミサイル───ハイパー放射ミサイルはその実物がある訳ではないので機構は全て映像や反応からの推測なのだが、真田志郎の手によって短期間かつ情報不足にも関わらずそれなりの物が完成した。
これは三式弾の要領で主砲から発射する実弾であり、内部には波動砲の1/100のエネルギーが封入されている。
また、これの最大の特徴がその高い貫通力であり、着弾すると弾頭に搭載された機構が作動、敵装甲を融解させながらロケットブースターで突き進み、ある程度時間が経った所で信管が作動、爆発するという物だ。
理論上超巨大戦艦の装甲でも貫く事が可能だが、如何せん開発したばかりであるのでテストはまだ───これが初使用である。それでも皆がその効果を疑わないのは、ひとえに真田への信頼からであった。
「発射準備完了!」
「波動カートリッジ弾、発射ァ!!」
そうして、第一主砲から宇宙に似合わぬ爆煙が発生し三発の砲弾がゴルバに向けて放たれる。
波動砲を受け、その衝撃から立ち直っていなかったゴルバは迎撃する事が出来ず、それは艦体中央部に着弾する。
命中した三発はそのどれもが正常に作動し、波動砲すら通じない装甲を融解させ突き進む。
そして───
『そんな馬鹿な───』
そこで通信が切れる。
次の瞬間、視界が眩い光に覆われ、それが収まった時そこには細かな残骸しか残っていなかった。
「「「……」」」
そして、訪れるのは静寂。デザリアムにいいようにやられていたデスラーやスターシャ、波動砲が通じなかった地球艦隊、そして開発者である真田ですらこの結果には呆然としていた。
それ程までに驚異的な結果だったのだ。真田も装甲を貫通する所までは予測していたが、大爆発を起こして消滅するとまでは思っていなかった。孔を空け、そこを起点として脆い内部へと攻撃する、それがこの兵器の目的なのだから。
「……波動エネルギー、か?」
彼のそんな呟きは、次に上げられた声に搔き消された。
「「「うおおおおおお!!!!」」」
第一艦橋に居た皆が大きな歓声を上げる。
当然だろう。何しろ波動砲が通用しない───かの
山南も、ほっと胸をなでおろしていた。先程のメルダーズとの会話で"艦隊の旗艦はゴルバである"という事を分かっていた為、一先ずこの場にもうあのレベルの敵は出てこない。漸く安心できそうだった。
「各艦に回線を繋げ。我々は一度イスカンダルに降下する」
───────
「スターシャ、どうしても行かないというのか」
「私はイスカンダルの女王としてこの星を守る責務があります。離れる訳にはまいりません」
戦闘を終えた艦隊は、警戒の為にはるかぜのみを上空に残しそれ以外の艦は全てイスカンダルの港に停泊する事となった。
そこで各国の面々がスターシャ達との交渉の為、宮殿へと赴いたのだ。
「君はこの星の状況が分かっているのか?」
「……ええ」
「この星は今ボルゾン恒星系に居る。ここの恒星ボルゾンは赤色巨星となって日が経ち、ガスの流出も著しい。これの軌道に乗せる事は可能だが諸々の可能性を考慮するとイスカンダル表面は大幅な環境変化に見舞われる。到底人が住める星ではなくなるぞ!?」
「試算によれば約2週間後にはイスカンダル赤道直下で最高気温は氷点下30度になると思われます」
デスラーの説得を杏が具体的な数値でサポートする。
「星自体の寿命も更に短くなるだろう。恒星の影響で電波障害なども頻繁に起こる様になる」
「しかし……」
「君は良くても……ッ、君の……伴侶や子供はどうなるのだ。そんな環境で生活させる気か?」
彼は苦虫を嚙み潰したような表情で問う。彼女の顔は少し歪むが、しかし何も話さない。
最早、彼女には如何なる説得も通用しなかった。最悪の場合、守とサーシャだけを脱出させ、星を自爆させて自分は運命を共にする、とまで言い出す始末。これにはデスラーや山南もこめかみを押さえてしまう。
この様子では、力づくで連れ出したとしても自決してしまいかねない、そんな雰囲気が漂っていた。
「……! そうだ、デスラー!」
「何だ、古代」
と、会議が行き詰ったそんな時、古代が声を上げる。
当然の如く一国の国家元首を呼び捨てにする彼に山南は苦笑するが、何も言わない。この二人の間には謎の友情めいたものがあるのは知っていた。
「バラン星を覚えているか?」
「バラン星、だと? ああ覚えているとも、君達が人工太陽を破壊した……そうか」
「それだ、人工太陽だ! それをイスカンダルに作ればいい!」
彼のその言葉にその場にいた皆の表情が一変する。
「そうか、人工太陽を打ち上げればボルゾンからの影響もその重力場でシャットアウト出来る……!」
真田が言う。
「デスラー、人工太陽の資料はあるのか?」
「ああ、我が大ガミラスの叡智は残らず記録してある。だが今の我等にそれを作る力は無いぞ」
「それは地球でやる!」
「おい古代、お前はまた……」
二人の掛け合いの中でしれっと地球が負担する事になった太陽製造に山南はため息をつく。
「地球の恩人を助ける為ならば納得してもらえる筈です!」
「……帰ってからの交渉次第だな。地球は民主制だ、議会を納得させなければそこまでの大掛かりな事業は出来んぞ。そして、多分議会はそれだけじゃ納得しないだろう」
彼は言外に"議会を納得させられるだけの何か"を出す様にデスラーへ求める。
それが伝わったのかそうでないかは分からないが、彼は口を開いた。
「我が国が開発中だった次元潜航技術のデータを提供する」
「!!?」
そして、出されたカードは思ったよりも大きかった。
「じ、次元潜航」
「……確かにそれならば説得出来る可能性はありますね」
山南や真田はその重大性に慄き、杏は前世での次元潜航艦を思い出して呟く。
そもそも、次元潜航という技術を開発している、という情報そのものがカードになるレベルの代物だった。敵を一方的に嬲れるという事がどれだけ戦闘に重要かは火を見るよりも明らかだろう。
そんな暴挙ともいえる行動に、しかし彼の傍らに控えるタランは何も言わない。彼は完全に自らの主君を信頼していた。
「こちらがこれだけの情報を出すのだ。地球には人工太陽に加えてイスカンダルの防衛も任せたい」
「防衛……」
「また同じ事が起こらぬとも限らない……悔しいが、今の我等にはスターシャを守る余力は無い……頼む」
彼の声には力が無かった。もしも地球が来なければ今頃彼もスターシャもこの世には居なかった、それに対する力不足を痛感させられていたのだ。
「……分かりました。それだけあれば議会も納得するでしょう」
「……感謝する」
デスラーがここまで下に出る事は過去未来共に無いだろう、それだけ彼は衰耗していた。
そうして、山南は地球に帰投したらそれらを伝える事を、デスラーはそれが叶った暁には次元潜航技術を渡す事をそれぞれ約束し、そして肝心のスターシャも人工太陽建設及び地球艦隊駐屯に賛成した為、それで一旦話は終わったのだった。
「山南さん」
「古代か、生で会うのは久しぶりだな」
会議が終わり、古代守が山南に話しかける。ガミラス戦役時、あの冥王星沖会戦まで同じ軍で戦い、時に同じ艦で上官と部下の関係にもなった事がある二人には積もる話が多々あった。
が、その前に。
「古代守元一等宙佐*2、お初にお目にかかります。特務遊撃艦アンドロメダ副艦長、山南杏二等宙佐です」
「は、初めまして。古代守です……山南さんって娘さん居たんですね」
「養子だよ」
年端もいかぬ少女が二等宙佐という大層な地位にいる。そんな奇妙な状況に、しかし彼は何も聞かなかった。明らかにおかしな事がある時は大抵軍の機密に関わるのだ。少なくとも部外者の自分が知るべき事ではないだろう。
そして話に花を咲かせ、彼は最後に言った。
「山南さん、これはスターシャとも相談した結果なのですが……」
「ん? どうした」
「サーシャを地球に……真田のもとに預ける事に決めました。もう真田には話を通してあります」
驚愕する彼を前に、古代は話し続ける。
「イスカンダルの寿命があと幾ばくも無いのは周知の事実です。そんな星に……あの子を置いておく訳にはいきません。俺達が過去なら、あの子は未来だ。あの子をこんな狭い世界に閉じ込めておくわけにはいきません」
「古代……まあ、当人同士が了承しているのならば俺から言うことは何も無いさ」
「体のいい育児放棄ではないですか?」
「杏!?」
「も、勿論自分も頻繁にサーシャの下に行く! 決して本当の親の顔を忘れさせたりはしないぞ!」
杏の(空気を読まない)ツッコミに彼は慌てて取り繕う。
その宣言通り彼は頻繁にサーシャのもとに行く事になる。
しかし、その努力虚しく真田の事を父親だと思い、彼の事は"よく来るおじさん"という認識になるのだが……それはまた後の話。
スターシャは生き残ったが今後守とのイチャイチャを見せつけられる事になるデスラーの脳はもうボロボロ