「いやはや、まさかあのガトランティスを打ち破ったのがあなた方だとは。その健闘、実に素晴らしい」
「いえいえ、我等など運が良かったのみですよ」
部屋の中で談笑が行われている。しかし、表面こそ笑っているものの心の中ではお互いに銃口を突きつけ合っている。
ヤマトらがイスカンダルを巡って戦闘を繰り広げている頃、地球にある訪問者があった。
やや青みがかった白い肌をもつ種族───ボラー連邦である。
冥王星付近にワープアウトした彼らは即刻の会談を要求してきたのである。その内容はガトランティス帝国についてであった。彼らはかの帝国を倒した国家を探していたのである。
一方の地球はといえば気が気ではなかった。何しろ、ガミラス戦役直後の外交航海にてトラブルを起こしているのだから。何かしらの因縁をつけられでもすれば地球は再び戦火に見舞われるかもしれないのだ。
だが、そんな地球の不安とは裏腹に、ボラー連邦の外交官は───少なくとも表向きは───友好的だった。
「お互い
「そう言っていただければこちらとしても幸いです」
ボラー連邦は、バース星でも一件を"不幸なすれ違い"として処理したかったのだ。
連邦は銀河系の大半を支配し、多くの植民星や属国を持つ国家。そんな超大国が辺境国家の戦艦一隻を取り逃がしたなどと認める訳にはいかなかった。
また、連邦ですら手こずるだろうと予測されていた帝国を滅ぼした国家。一体何を隠しているのかも分からない状況での敵対は避けるべきだ、ベムラーゼはそう判断したのである。
現在連邦はゼニー合衆国との戦争中だ。そんな時に不安要素を増やすべきではない。
結果として、地球連邦とボラー連邦との間に友好条約が締結される事になった。いつの日か破られる物だと分かっていても、一先ず即開戦だけは避けられた事を地球高官は喜んだ。
そして、地球市民も。ディンギル以来のまともに国交を結べる国家───ボラーとしてはディンギルと並べられるのは不本意だろうが───の出現に歓喜する。
地球に射した陽光が今、最高潮を迎えていた。
───────
────
─
『こ、こちら第二主砲基部! 三式弾の手動揚弾方法が分かりません!』
「馬鹿者! マニュアルをよく読め!」
『波動砲発射機構のページは何処でしょうか!?』
「34ページだ! お前らは訓練学校で一体何を習っていたんだ!」
イスカンダル攻防戦より一か月が経ったこの日、アンドロメダは太陽系外縁部にて単独での訓練航海を実施していた。
特務遊撃艦となったこの艦は予定の都合が付きやすく、新兵育成にはもってこいだった。この日も多くの卒業生が乗り込み緊急時の対応などの訓練を行っていた。
「……」
戦術長と新兵のやり取りと杏は無言で眺めている。しかしその眼は穏やかそのものだった。
彼女は前世でのガトランティス戦役末期を思い出していた。
時間断層で作り出された無数の戦艦が絶え間なく出撃していた。艦の大半は無人艦。しかし一握りの有人艦に乗る兵すら不足しており、乗せられたのは訓練も碌にしていない様な新兵だった。
彼らは覚束ない手で艦を操り───そして皆、死んでいった。そこに怒号など飛ばない。失敗した瞬間には死ぬからだ。今、こうして怒る事が出来るのは正に平和の象徴だった。
「艦長、地球より通信が。機関トラブルにより到着が少し遅れるそうです」
「そうか」
通信士が艦長席に座る谷に報告する。
今日、この艦はディンギル艦隊と合流する事になっていた。ディンギル星に帰っていたルガール艦隊が地球へ戻ってくるのだ。アンドロメダは偶然その進行上におり、どうせならば新兵に他国の艦隊を生で見せよう、という事になったのである。
そこにこの報告だ。ただまあ、特段気にする事ではない。訓練の時間が多少延びるだけだ。
「前方、40宇宙キロの宙域にワープアウト反応を確認」
「ワープアウト反応? ディンギルはまだなのだろう、ボラーか?」
「そんな報告は受けていませんが……」
突然、予定にないワープアウト反応を感知する。
通常、太陽系圏内を航行する艦には全て地球防衛軍本部への届け出が必要になる。特に外部から進入してくる艦など必ず通達される筈である。
「艦長。警戒態勢をとるべきかと」
「うむ。全艦警戒態勢。波動防壁展開」
不審に思った杏が谷に進言する。彼の指示は艦全体に伝わり、熟練兵の手で即座に波動防壁が展開され各砲塔が発射準備を整えていく。その手慣れた様子に新兵は改めて自分達が目指す場所の高さを実感し、憧れを抱く。
「正体不明の艦隊出現まであと3、2、1」
そのカウントダウンがゼロになり、黒い影が無数に現れ───
「───え」
───次の瞬間、艦橋内部に居た人間全員が倒れた。
そして、彼女も。
「───あ」
彼女は頭部に激しい痛みを感じ───
───────
「地球戦艦の生命反応消失を確認」
「重核子爆弾は無事起動したようだな。念の為に電波妨害までしていたが無駄になったか」
ワープしてきた艦隊───デザリアム艦隊の旗艦ガリアデスの艦橋にて、艦隊司令のカザンはそう呟く。
彼らはデザリアム帝国より派遣された地球占領軍である。
デザリアム人は高度に発達した科学力により自らの身体を機械化していた。だが、いつしかそれに限界が訪れ始め、状況を改善しようとした帝国は地球に目を付けたのだ。
今回アンドロメダに使用された『重核子爆弾』は人間の脳細胞のみを死滅させる事が出来るのだ。それにより地球人を全滅、残った健康な肉体に帝国人で唯一機械化されていない部位───脳を移植する。それが今回の侵攻の目的だった。
「兎も角、これでメルダースの仇は取れた、という訳か……いや、確かあと三隻居たのだったな」
彼は目の前で力なく漂うアンドロメダを見て、先日のイスカンダル侵攻時に戦死した戦友を思い出す。
あの場で艦隊を全滅させた地球艦は四隻。これはその中の一隻だ。
「地球戦艦は鹵獲し中間補給基地で解析に回せ。地球侵攻は予定通り───」
と、彼が意識を他に向けた時だった。
「ち、地球戦艦に高エネルギー反応!!」
「何───」
彼が窓に視線を向けるのと、アンドロメダの艦首が輝き出すのはほぼ同時だった。
「───ッ!! 重核子爆弾再度照射!!」
「重核子爆弾はもう発動しています!!」
「エネルギー増大!」
「な、何だと……」
必殺の攻撃が通じていない事に彼は啞然とする。
だが、それも一瞬の事。
「ぐ……全艦攻撃! あの戦艦を沈めろォ!!」
彼のその指令は、しかし少し遅かった。
「───波動砲、発射ァ!!」
アンドロメダ艦橋内部。そこでただ一人動く杏が引き金を引く。
その声は、彼女には珍しい"叫び"だった。
次の瞬間、激しい閃光と共に青白い光線が放たれる。
その目標は───重核子爆弾だ。
放たれた収束波動砲は射線上に居た護衛艦を蒸発させながら突き進み、鎮座する重核子爆弾へと命中する。
果たして、そのエネルギーは爆弾のシールドを打ち破るには足りなかった。爆弾は僅かに振動したのみで、未だそこに健在であった。
「機関全開、最大船速。前面へ波動防壁集中展開」
だが、そんな事で攻撃の手は緩めない。
全てのノズルを最大出力で噴かせ、艦首に波動防壁を集中展開する。続けて各兵装を起動させターゲティングしたデザリアム艦隊へと向ける。
これ程の操作を一人で行えるのは彼女が彼女だからだ。だが、その分余裕も少なく、少なくとも縦横無尽に動き回る高機動戦闘の様な芸当は行えないだろう。今の彼女に出来るのはがむしゃらに突撃する事のみだ。
デザリアム艦隊の中央、先程波動砲が空けた穴をアンドロメダは進んでいく。道中で主砲やミサイルをばら撒きながら。
それらは次々と護衛艦を屠っていく。無数の光点が暗黒の宇宙空間に灯っていき、その度に多くの命が消えていく。
だが、デザリアム艦隊もただ見守っていただけではない。彼らも反撃しその主砲を撃ちこんでいく。
高速で突撃する彼女に命中する事は容易ではないが、それでも包囲した状態から撃てば幾つかは当たる。
今のアンドロメダは波動防壁を艦首のみに絞っている。素の装甲も硬いがヤマト程ではない。
艦体各所に次々と砲撃が命中し爆発が起こる。その度に激しい振動が起こり、艦内で無数に倒れる死体が翻弄され、また宇宙に吸い出されていく。
「───ッ!」
それは、艦橋にも。
砲撃で削り取られた窓から死体が吸い出されていく。先程まで話していた通信士や戦術長、そして艦長の谷。彼女はそれに目をやり、血塗れの顔を顰めさせていた。
痛い。
ただ一つ。今自分がやらねばならないのはこうなった元凶───あの
傷付き各所から煙を吹くアンドロメダは、しかし重核子爆弾に到達した。アンドロメダは止まる事なく、その勢いのまま爆弾に突撃する。
前世でヤマトがバレラス総統府にやったものと、そして
エネルギー攻撃には強い重核子爆弾のシールドも物理攻撃には弱かった。アンドロメダの艦首は爆弾の装甲を食い破り、内部に深くめり込んだ。
不幸にも今のアンドロメダには波動カートリッジ弾が配備されていなかった。彼女が外洋に出る予定は無く、製造されたそれらは外洋艦隊に優先的に配備されていたからである。
そして、カートリッジ弾の無い今の彼女に、あの時のゴルバと同じ物であろうシールドを破る方法はこれしかなかった。
「波動砲発射用意!!」
艦に残った全てのエネルギーを集めて波動砲の発射用意をする。
「何としても……これだけは……!」
突如として浴びせられた謎の重力波、その発信源。波動防壁すら効かず、少なくとも射程は40宇宙キロ以上。彼女自身それを浴び、一瞬痛みを感じたがそれだけであった。
ガトランティス戦役が終わり地球は軍拡路線を縮小した。その結果として無人艦隊という物は現状作られておらず───つまり、この爆弾に対抗できるのは地球で彼女のみだ。
そして、もしここで取り逃がしてしまえば爆弾は直進し、道中の基地や警務艦隊の人員を全滅させながら地球に到達するだろう。そうなれば地球市民全員が人質だ。外洋航海中の艦隊が戻ってきても出来る事は無い。
地球への通信はしようとはしたが妨害されていた。この状況で彼女が出来る事といえば突撃のみである。ここで撤退したとしても犠牲者が増えるだけなのだ。
砲撃が次々と命中する。だが、勢いは弱い。爆弾への誘爆を恐れているのだろう。
「5、4、3……」
爆弾内部に入り込んだ艦首に光の粒子が集まっていく。
「2、1───」
「……被害状況は」
「護衛艦34隻、巡洋艦13隻との通信が途絶。そうでない艦艇にもかなりの被害が出ております……」
「たった一隻の戦艦に……!」
戦闘は終わった───重核子爆弾の大爆発という結果をもって。
その惨状を見たカザンは歯ぎしりをする。
「何故あの戦艦は動けたのだ」
「確かに生命反応は消失していました。重力波照射直後に動きを止めた点から内部の人員が死滅した事には間違いないかと」
「まさか自動運転か……? 地球にあのレベルの自動技術があるとは聞いていないぞ、情報部は何をしていた!」
彼は作戦を根底から覆す技術を見抜く事が出来なかった情報部に対し隠す事のない苛立ちをぶつける。
そして、同時にこれからどうするかを考えていた。
頼みの綱である重核子爆弾は消えた。これは高度な技術力の結晶であり、同じ物を製造するにはかなりのコストと時間が必要で、尚且つ本星でしか製造不可能だ。
また、あのレベルの無人艦があるとなるとこの作戦そのものが瓦解してしまいかねない。本作戦は重核子爆弾の脳細胞破壊機能ありきで立てられており、それが通用しない相手がいるとなると純粋な艦隊戦力のみで相手しなければならない。
それだと負けてしまう、とは言わないが、しかしたった一隻の戦艦に艦隊の実に半数以上が撃沈、または損傷させられた事を思えば不安だった。
「カザン司令、どういたしますか?」
「……一度態勢を立て直す。痕跡は残すな、あの地球戦艦の残骸を回収───」
そんな指示を彼が出そうとした時だった。
「司令、現宙域にワープアウトしてこようとする反応が。数5」
「何!? 通信は妨害していた筈だぞ!」
その場にワープアウトしてこようとする何者かが居る。
たった五隻。本来ならば焦りもしない状況だが、一隻にこれだけやられた後では余裕を持てる筈もなかった。
「クソ! 回収作業は中止! 全艦直ちにワープ、現宙域を離脱せよ!!」
だからこそ、彼はそう指示を飛ばす。
痕跡を残せば地球への奇襲は叶わなくなる。だが、これ以上の艦隊の損耗は何としても抑えたかった。
デザリアム残存艦隊は急ぎワープし、その直後、
「……何だ、これは」
「アンドロメダが出迎える手筈なのですが……」
ワープアウトしたのはエンジントラブルで遅れが生じていたディンギル艦隊だった。
その旗艦、ガルンボルストの艦橋にてルガール・ド・ザールはその場に広がる明らかな激戦の跡に困惑する。
「アンドロメダとの通信は!」
「つ、通信繋がりません」
「一体何が……」
「ルガール殿下! 2時の方向に!」
観測士が叫び、そちらの方向の景色がパネルに映される。
「アンド……ロメダ……?」
───そこにあったのは、艦首が消失しそれ以外にも無数の破孔が空いたアンドロメダだった。
一体アンドロメダは何回死ぬのか
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