「司令! 52宇宙キロの宙域に重力振多数!」
「来たか……司令部に報告!」
アンドロメダに悲劇が襲ってから13日後。
「司令部より返答、天王星の第二艦隊、及び付近を巡回中の第十一、十五警務艦隊が急行する様です」
ここは冥王星。かつてガミラスによって前線基地が構築されていたここは、今や地球防衛軍の太陽系外縁部における最重要拠点となっていた。
当然真っ先に襲撃を受ける事も想定されており、以前より一個戦隊、軍備再編後は第三艦隊が駐留している。だがそれはあくまでも時間稼ぎの為の戦力だ。
「ハイペロンジャマー起動! 基地要員は直ちに地下シェルターへ退避、及び第五戦隊は全艦拡散波動砲発射用意。敵艦隊に反撃の隙を与えるな!」
そんな第三艦隊の旗艦、ドレッドノート級航宙戦艦『ウォースパイト』艦橋にて艦隊司令は指示を飛ばし、それに応じて操作がなされる。
ハイペロンジャマー──重核子爆弾への対処装置であるこれは、つい先日真田志郎が完成に漕ぎ着け最前線たるこの艦隊に最優先で配備されていた。これが起動されると重核子爆弾の照射する重力波とは逆の波長の物を照射、無力化するという地球屈指の科学者達が短期間で作り上げた代物である。
「第五戦隊──メリーランド、ふじ以下12隻、拡散波動砲発射用意完了」
「敵艦隊ワープアウトまで5、4、3──」
オペレーターがカウントダウンを告げる。
無限にも思える程の短時間が過ぎ、やがて漆黒の空間に揺らぎが生じ、そこから漆黒の艦体が顔を出す。
艦に備えられた敵味方判別装置は、ワープアウトしたそれらを敵──デザリアム艦隊だと判別した。これでもう、波動砲発射を阻む物は何もない。
「よし、波動砲発射ァ!」
司令が叫び、それに連動して艦隊から無数の青い光線が放たれた。
その直後、レーダー員が悲鳴にも似た声を上げる。
「敵艦隊前面に更なるワープアウト反応──超大型です!」
「何!?」
彼は目を見開く。だが、既に発射された波動砲を止める術は無い。
「波動砲命中……被害、ありません」
「くそっ、流石の敵さんも予想していたか」
果たして、無数の波動砲は敵艦隊を貫く事はなく、艦隊の盾になる様にワープアウトしてきた超大型艦──ゴルバによって受け止められたのである。
計十二発もの波動砲。しかしゴルバは何ら狼狽える事はなく淡々と反撃態勢を整え始めていた。
「全艦後退、続けて波動カートリッジ弾一斉射!」
「第一、第二主砲発射用意!」
だが、それはこちらも同じ。
敵は波動砲の存在を知っており、そしてそれに耐えられる艦艇も存在する。ならばそれを盾にするという行為は想定されていた。されていたからこそ、それに対する策も用意している。
予め装填していた、現状ゴルバに対する唯一の対抗策──波動カートリッジ弾。艦隊司令の指示で全艦が一斉に砲口を巨体へ向ける。
「撃てェ!!」
そして、爆発。極めて前時代的な黒煙が主砲から上がり、それに伴って複数発の砲弾が放たれる。
以前のイスカンダル事件によってその効果は確認済み。例えあれから強化されていたとしてもその砲弾は装甲を貫き、大爆発を起こすだろう──
所で、そんな波動カートリッジ弾にも弱点がある。それはそれが"砲弾"である事だ。
多くの星間国家が何故光学兵器を使うのかといえば理由は二つ。一つは弾速が速い事。
宇宙空間での戦闘距離というのは数万キロは当たり前、時には数十万、数百万キロにも及ぶ。距離の単位に『光秒*1』や『宇宙キロ*2』を使用するのはその為だ。
「敵艦隊、ゴルバの影から出てきました」
「何?」
波動カートリッジ弾が放たれた瞬間、これまでゴルバに隠れていたデザリアム艦隊が飛び出す。
何のつもりだ、そう彼が疑問に思った──刹那。
「──っ……」
さて、二つ目の理由。
それは──実体弾は
何を言いたいのかといえば、地球艦隊が放った波動カートリッジ弾は、その全てが敵によって迎撃された。
暗黒の空間に無数の光球が生み出される光景を見て彼は顔を顰める。実体弾なのだから当然迎撃されるのも想定内──だが、出来る事ならばこれで決めておきたかった。迎撃を掻い潜る方法といえば飽和攻撃だが、敵と地球艦隊の間にはそれが出来る程の数の差は無いのである。
「全艦、第二防衛ラインまで応戦しつつ後退! 基地へ連絡、
──────
「全弾撃墜」
「よし。このままゴルバを盾にしつつ前進せよ。ここはどうもデブリが多い、衝突には充分注意を払え」
地球侵攻軍"黒色艦隊"第五分艦隊旗艦、プレアデス級攻勢型戦艦『トーレス』艦橋に無機質な声が反響する。
艦隊司令であるガルバはモニターに映し出された爆炎を見て口角を吊り上げる。その光景は正に作戦が成功した事を告げていたのだから。
「敵艦隊、後退する模様」
「踏み潰せ」
艦隊の盾となって前進するゴルバが発砲を始め、同時に艦隊からも無数の深紅の光線が放たれる。
地球艦隊もそれに対して攻撃を加えるが、通常攻撃はゴルバに対して全く効果を示さず、時折放たれる実弾は対空誘導弾によって迎撃されてしまう。
やがて波動防壁が限界点を迎え、駆逐艦や護衛艦などの小型艦が猛烈な攻撃に耐えられず爆沈し始めた──そんな時であった。
「九時の方向より高エネルギー反応」
「九時だと──ッ!?」
ガルバが報告を受けて指示を出す間も無く、艦の左方を航行していた巡洋艦が爆沈する。
彼は目を見開きながら声を荒げる。
「レーダーは何をしていた!!」
「艦隊の反応無し、ビームのみが突如現れました」
「何だと……」
暗い艦橋内がまたも照らされる。またも左方の護衛艦が爆発したのだ。
敵がいないのに攻撃を受けるという怪奇現象。しかし彼は艦隊司令として呆けているだけではいけない。
「第五四駆逐戦隊を発射源に向かわせろ! 他の艦はゴルバ右方へ退避!」
彼の指示で艦隊の一部が九時の方向へ向かい、それ以外の艦は謎の攻撃から身を守る様にゴルバの陰に隠れる。
だが、怪奇は彼を逃がさない。
「三時の方向より高エネルギー反応」
「なッ、何だと!?」
「バリアスに命中……轟沈」
次は右方を進んでいた巡洋艦が爆沈する。
先程までとは正反対からの攻撃、加えて今度も敵の姿は見えない。
見えぬ敵、突然現れる高威力ビーム、次々と爆沈していく艦艇達。そんな中で彼は出来るだけ冷静であろうとした。
「ま、まさかビームを直接ワープさせている訳でもあるまい……それならば重力変動が確認出来る筈だ……何か異変は無いのか!」
「敵基地と思われる地点に発射反応が確認出来ます」
「敵基地、だと? 馬鹿な、そこからの射角は塞がっている筈だ」
と、そこでパネルに青白い肌の男が映し出される。それは先程左方に向かわせた第五四駆逐戦隊の司令官であった。
彼は焦った様子で報告する。
「ガルバ司令! 未知の攻撃の正体が判明しました!!」
「何!?」
「発射源と思われる宙域にはデブリに偽装した衛星が設置してありました。敵は恐らくこれにビームを
そこで光と共に通信が途絶する。
恐らく敵の攻撃によって撃沈されたのだろう。だがガルバは不敵な笑みを浮かべる。
「成程……よくやった!! 地球人め、小賢しい真似をする。だが仕掛けが判ればこちらの物よ!! 全艦周辺デブリを攻撃対象に定め──」
「敵機編隊接近」
「チッ、迎撃しろ!!」
「敵艦隊前進」
地球側の謎の攻撃──反射衛星砲の仕組みを暴いたのとほぼ同時に地球側の攻勢が始まる。
艦隊、地上基地から発進していた航空隊が大回りをしてゴルバの裏方面から攻撃を仕掛け、艦隊は正面から突撃を加える。左右からは反射衛星砲による攻撃が加えられ、ここにデザリアム艦隊は疑似的な包囲網に囚われた状態になってしまっていた。
「さ、誘い込まれたのか……」
そう、彼らは冥王星に近付き過ぎたのだ。
地球艦隊が後退したのは単に劣勢だったから、という訳ではない。冥王星近辺までデザリアム艦隊を引きつけ、反射衛星砲が十全に効力を発揮できるようにする為であった。
かつてヤマトの決死隊が破壊し海に沈んだ反射衛星砲。しかし砲は破壊されたものの衛星の大半は残されており、その構想は地球防衛軍に受け継がれた。冥王星基地再建の折に防衛装備として採用される事が決定、ここに反射衛星砲は復活を果たしたのである。
そしてそのシュルツの遺産は今ここでデザリアムという敵に対して効果を十分以上に発揮していた。
反射衛星砲と航空隊によって艦隊は徐々にその数を減らしていく。そこに地球艦隊が潜り込み、両艦隊が入り乱れての戦闘となる。
当然の事ながら誤射を恐れてゴルバは攻撃を加える事が出来ず、事実上無力化されていた所に波動カートリッジ弾による一斉砲撃が加えられる。ゴルバも迎撃したものの艦隊による支援が無ければ完全な防空は不可能であった。
「ゴルバに命中!」
「よし、全艦離脱!!」
地球艦隊が放った数十発のうち二発が命中する。それを確認した地球艦隊は速やかにその場を離れ、次の瞬間にはゴルバは残っていたデザリアム艦隊を巻き込んで大爆発を起こす。
「ミヨーズ様、申し訳ござ──」
そしてガルバも、自らの乗艦である『トーレス』と運命を共にした。
さて、こうして後の世に"第三次冥王星沖会戦"と呼ばれる事となる戦闘は幕を下ろした。
これとほぼ同時刻、他の惑星基地も襲撃を受けていた。しかしその規模は冥王星ほどのものはなく、どれも陽動と言い切れる程度のものであり地球艦隊によって撃退されていた。
そう、陽動であったのだ。
『──こちら月面基地! 地球より3.2光秒の宙域に大規模な重力変動を探知! 繰り返す……』