旧き世界で貴方と共に   作:デュアン

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こんにちは、サーシャ

「……では、半年後には再侵攻が有り得るという事か?」

「彼らの言を信じるなら、ですが」

「多少期間にズレはあってもハイペロン爆弾が再び作る事が可能である、という点は正しいだろうな。しかし……ううむ、生殖機能の確保か」

 

 地球侵攻作戦から数日後、潜伏ゲリラの掃討などを行っている最中のメガロポリス、防衛軍司令部。

 そこでは今、防衛軍幕僚達がデザリアム捕虜から得られた情報を聞いている所だった。得られた情報としては主に三つ。

 

・ハイペロン爆弾は再建が可能。ただしそれには半年は必要である。

・デザリアム本星は地球より40万光年彼方の白色銀河に存在する。

・デザリアムが地球へ侵攻する理由は、過剰な機械化によって生殖能力を失ってしまったデザリアム人に地球人の新鮮な肉体を与える為である。

 

 これは捕虜となった高級将校らから得られた情報であり、それなりに精度は高いだろう、との事だ。そして三つ目について幕僚達は頭を悩ませていた。

 

「クローン体の製造などで何とかならないものなのか。そもそも何故よりにもよって地球なのだ」

「どうやら彼らの脳に最も適合する身体が地球人であったようで。それ以外では拒否反応を起こしてしまうとの事です」

 

 もし地球侵攻の理由が単なる資源獲得などであれば交渉の余地はあったであろう。

 だが、相手は身体を欲しているのだ。まさか地球市民を生贄に捧げる訳にもいかず、文字通り生死を賭けた戦いとなってしまっていた。

 デザリアム人を存続させようとすれば地球人が全滅し、地球人が生き残りたければデザリアムを滅ぼすしかない。移住先を探していたガミラスといい、真相を知ってしまうとどうにもやりにくい相手である。

 

「彼らが我々を滅ぼすというのであればこちらもそれ相応の対応をするべきなのです! 如何にハイペロン爆弾に対抗策があるといってもそれが永続であるとは限りません! 下手に改良の余地を与えてしまえば今度こそ地球艦隊全滅という事態に陥る可能性も十分にあるのです!」

「しかし芹沢参謀長、幾らなんでも文明を一つ破壊するというのは……地球連邦は宇宙平和を謳っている以上難しいぞ」

「地球連邦がまず守らなければならないのは地球市民の生命と財産だ! それに戦争が長期化すればそれだけ将兵も死んでいく! 彼らにも名と家族があるのだ!」

 

 防衛会議は白熱する。

 芹沢らはデザリアムという国家の積極的攻勢……場合によっては本星の破壊を主張している。

 相対する意見としては、あくまでも地球は専守防衛に徹するべきだ、国家の破壊は流石に非人道的である、という物であった。土方らは沈黙を保っている。

 だが、この会議に出席している全員があのガミラス戦役、ガトランティス戦役を生き残った者達であり、その重心はかなり芹沢に寄っていた。

 

「長官、どうされますか」

「ううむ……」

 

 幕僚達の視線が藤堂長官に集中する。この会議の最終決定権は彼にあるからだ。

 

 果たして、彼が下した決断は──

 

 

──────

 

 

「この子が、サーシャさんなのですか……?」

「ああ。信じられないかもしれないが……」

 

 メガロポリス、地球連邦科学局本部。

 修理が終わり、しばしの休暇を貰った杏は久方振りに真田志郎の手で育てられている少女──サーシャの姿を見に行った。

 以前彼女が会ったのはイスカンダル事変直後の赤子の姿。それから大した時も経っておらず、出迎えるのは僅かに成長した赤ん坊であろうと考えていた……のだが。

 

「古代サーシャです! 山南の()()()()、初めまして!」

 

 そこで杏を出迎えたのは、森雪……否、以前籍を入れたらしいので古代雪か、彼女をそのまま小さくした様な容姿の少女であった。その姿は到底幼児には見えず、十歳かそこらにしか見えない。

 衝撃的な光景を目にして固まる彼女に真田がフォローを入れる。

 

「どうやらイスカンダル人は身体の成長スピードが地球人のそれと比べて非常に速いらしい。地球人で言うところの第二次性徴を数年で終わらせ、それ以降は逆に地球人よりも緩やかに老化していく……非常に興味深い人種だ」

「そうですか……改めまして、サーシャさん。私は山南杏。地球防衛宇宙軍一等宙佐です。あと、竣工時を零歳とするのであればまだ3歳なのでおばさまと呼ばれる様な年齢ではありません」

「そうなのですか? なら……山南のあかちゃん?」

「……」

「君も自身の呼称を気にしたりするんだな」

 

 ニコニコと明るい笑みを浮かべるサーシャ、黙り込む杏、顎に手をやって興味深い、という目で杏を見る真田。三者三葉の混沌とした空間が一瞬広がった。

 

「……所で真田さん、彼女はどの様に育てられているのですか?」

「ん? ああ、彼女の希望に沿って──」

 

「私、ヤマトに乗りたい!」

 

「──だそうだ」

「そうなのですか」

「私としてはその年齢で軍人など目指す物ではないと思うのだがな……」

 

 はあ、と彼が溜息をつく。

 確かに軍人というのはどうしても死と隣り合わせの職業である。特に宇宙海軍の船乗りともなれば尚更だ。装甲を挟んだ外は死の世界、船が沈めば高い確率で死んでしまう。

 彼自身、自らがイスカンダルまで赴いた身であるから殊更気にするのだろう。それが親心という物なのだろうか。

 

 

──────

 

 

「……ええ、はい。地球は非常に危険な国家です」

 

 メガロポリス某所、在地ボラー連邦大使館。その一室にて大使であるヴィルキ・ボローズがモニター越しに男に向かって話しかける。

 

「地球連邦の軍事力は強大であり、数年前に情けなく我が国に助力を求めてきたとは思えない程です」

『ゼニーや昨今台頭しつつあるガルマン帝国を自称する叛徒共との関係はどうなのだ』

 

 相手はやはり青白い肌をした初老の男──ボラー連邦軍参謀総長、ゴルサコフ。

 ボラー連邦首相たるベムラーゼからの信任厚い、実質的な国家のナンバー2の男である。彼は険しい顔を崩さずにボローズへ問う。

 

「は、はっ。ゼニー合衆国とは以前我が国を訪問した後に接触した様ですがさしたる繋がりは得なかった様です。ガルマン帝国については、地球連邦は昨年以降銀河中心部への進出はしておりませんので接点は無いかと」

『そうか』

 

 ボローズは冷や汗を垂らし、平伏しながら答える。

……実際にはガルマン帝国はガミラスの後継国家であり、そのガミラスの総統たるデスラーとの間には奇妙な絆が芽生えているのだが、そもそも台頭したばかりの勢力など大した情報も無いので仕方がない事ではある。

 

『貴様から見て地球はどの程度の危険度だ』

「はっ……このまま放置しておくには些か復興スピードが速すぎます。可及的速やかに"救済の手を差し伸べる(侵攻し併合する)"べきかと」

 

 その言葉にゴルサコフは顔を顰める。

 ボローズのその言は、まるで地球が近い内にボラーですら勝てなくなる、と言っている様な物であったからだ。

 言い終わってからそれに気付いた彼は慌てて取り繕う。

 

「もっ、申し訳ございません! わ、私とて偉大なる大ボラーの前では地球など塵芥も同然と確信しております!」

『言葉に気を付けろよ、ボローズ。貴様は先のバースにて国家の顔に泥を塗ったのだ。貴様が今こうして職を与えられているのはひとえに首相閣下の柔軟かつお優しい御心があってこそなのだからな』

「は、ははっ! 重々承知致しております……」

『それでいい。この先も励めよ』

「はっ……」

 

 そうして通信が切られ、その数秒後に彼はその場に崩れ落ちる。

 滝の様に流れ落ちる冷や汗と涙、粛清の恐怖からは未だ解放される事はない。

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