「3、2、1……発動します!」
西暦2200年9月6日、地球。この日、直前にワープアウトして来た敵艦による砲撃というアクシデントもあったものの宇宙戦艦ヤマトは往復29万6000光年の旅路を乗り越え地球に帰還し、すぐに放射能除去装置───コスモクリーナーDを地表に設置して発動させた。帰還前の白兵戦時に一度使用しており、使用時の副作用───酸欠空気が発生する───なども既に分かっていた為に発動は順調に行われる。
効果は劇的だった。
「「「おお……」」」
その場で宇宙服を着用し経過を見守っていた者達が感嘆する。彼らの持つ計器では、大気中の放射能濃度がみるみるうちに下がっていくのが示されており、それは即ち人類が絶滅の脅威から逃れられた事を意味していた。彼らの中には感動のあまり涙をこぼす者もおり、そして誰もそれを笑わなかった。
僅か数分程度で放射能濃度はガミラス戦役前のそれまで下がる。そこである一人が何かをし始めた。
「……はっ」
「な、何をしているのだね古代君!?」
彼───ヤマトにて戦闘班長を務めていた古代進が宇宙服を脱いだのだ。それに芹沢が驚くが、古代のそんな様子を見て他の者達も次々とヘルメットを脱ぎ始める。
「ああ、何年振りでしょう。生身で太陽の光を浴びるのは」
「……そうだな」
山南と土方も同じく外す。それに観念したのか芹沢も外し、すうっと息を吸い込む。砂と埃の匂い、決して良い香りとは呼べないそれは、しかし彼にかつての地球を思い起こさせるには十分だった。
「……っ、うっ」
気付けば、彼も涙を流していた。顔を押さえるもくぐもった声は隠す事が出来ない。
「現在、オゾン層が薄くなっている為紫外線が危険値に達しています。宇宙服を脱ぐ事はあまり推奨しません」
「お前なあ……まあ、少しくらいはいいじゃないか」
「……10分までにして下さい」
そんな空気の読めないアンドロメダの発言などもあったが、ともかくこれで地球は救われたのである。
地下に押し込められた数年間、人類の歴史から見れば短いその時間は、しかし確実に人々の心を蝕んでいた。だがこれからはまた昔の様に太陽の下で暮らせるのだ。アンドロメダは、その喜びに共感出来ない事を後悔した。
「そういえばお初にお目にかかります、古代進戦闘班長。私は一時的にアンドロメダ艦長を務めさせて頂いております山南杏、一等宙尉です」
「は、はい。古代進です……山南さんの娘さんですか?」
浄化が一段落し、防衛軍司令部に戻ってきた一行。そこでアンドロメダは古代に自己紹介をする。見慣れない顔でしかもこんな場所には似合わない少女が居る事を───そうは言うが古代も18である───気になっていた彼は突然話しかけられ少し驚く。
「ん? ああ……一応な。おっと、勘違いするなよ。彼女は養子だ」
「色々と聞きたい事はあるのですが、まずあの戦艦は何ですか? 人類が苦しんでいるのにあんな大型艦を」
「待て待て! その辺りは複雑なんだ」
古代達ヤマトクルーは太陽系に帰還して早速アンドロメダに遭遇し、見慣れない超大型戦艦に驚いていたものだ。その時は地球へコスモクリーナーを届ける事が最優先だったが為に話題にしなかったが、今は追求する余裕があった。
彼の今の認識としては、地球が滅亡直前であるにも関わらず復興を先送りにしてまず宇宙戦艦を建造した、という事になっている。ヤマトの1.5倍強はあるであろう戦艦だ、かなりのリソースが費やされている事は想像に難くない。彼の怒りも当然であった。それを分かっているからこそ、山南は上官である自分に対するこの様な態度にも優しく諭す様に対応していた。
「古代一等宙尉、それについては私からご説明致します」
彼女は話す。アンドロメダがパラレルワールドの地球で建造された戦闘艦であり、そちらで戦没し何故かこちらの世界に流れ着いた事を。そして。
「そして私の本当の名前は前衛武装宇宙艦AAA-1、アンドロメダです」
「……は?」
「信じられないかもしれませんが、私はアンドロメダそのものであり何故かこの様な姿になっているのです」
最後に告げられたその言葉に彼は目を丸くする。パラレルワールドから来た、という事実ですら信じ難い事であるというのに、その戦艦が目の前の20にも満たない少女だというのである。マトモな人間ならば信じられないのも当然であった。
だが、その後彼女が戦艦を出し一人で動かす映像を見せられると流石に信じる他なかった。当然彼には箝口令が敷かれ、彼の怒りはよく分からないまま収まったのだった。因みに後にヤマト工作班長である真田志郎にも同じ事実を伝えた所今度は興味津々であり、是非とも調べさせて欲しいと言った。だが、彼女がこれから外宇宙に行かなければならないと告げると引き下がる。地球の未来と自分の興味を天秤にかける程常識の無い人物ではないのだ。
そう、彼女はこれから戦艦を駆けて外宇宙に出発するのである。これまでは地球防衛の為に太陽系から離れられなかったアンドロメダだったが、ヤマトが帰還した今は気にする事なく離れられるのだ。ガミラスはヤマトの手によって滅亡し───これを聞いた時、アンドロメダの顔からはまたも一切の感情が抜け落ちていた───現状、地球には敵も味方も居ないのだ。
彼女らはこれより銀河系内にあると思われる他の星間国家と国交を結びに向かうのだ。ガミラスが滅亡した以上、想定よりも状況は悪くなっている。より一層その必要性は増していた。ヤマトを責める事は出来ない、そうするしか他に方法が無かったのだから。今はただ、努力するのみだった。
「アンドロメダ、銀河系中心部へ向けて発進!」
艦長席に座る山南が言う。今回、戦闘も想定される為に艦を指揮するのは山南であり、アンドロメダ自身は副艦長として乗っていた。その他にも全権大使が乗り、地球の期待の高さを表していた。
だが、彼らは思い知る事になる。
「ワープ完了。現在位置、地球より約1500光年」
出発より1週間が経過したこの日、アンドロメダはとある恒星系へと到着する。
「最初の候補地、バジウド星系か……」
山南は呟く。
地球より約1500光年の位置にある恒星系、バジウド星系。この第四惑星はガミラス戦役時に移住先の調査をしている際人類の生存が可能であると思われる地球型惑星だという事が判明していた。
地球から観測出来るのは1500年前のデータであり、人類が生存出来るならばそこに文明があってもおかしくないという理由からまずここが選ばれたのだ。
そして、その予想は的中していた。
「!! 艦長、前方15宇宙キロの空間に艦艇多数! こちらに呼び掛けてきています!」
「何!? メインパネルに出せ! 全権大使をここに!」
謎の艦隊より通信が入る。それを上部パネルに投影し、念の為に大使を呼ぶ様に指示する。
ガミラスを除けば事実上地球初のファーストコンタクトになるのだ。山南の額に汗が滲む。
『……こちらバース星警備隊。貴艦は我らの領域を侵犯している。直ちに停船し所属を明らかにせよ』
パネルに映し出されたのはヒューマノイドの男であった。しかし、その肌色は地球人とは違い極端に白い。
山南は相手の機嫌を損ねないように慎重にコミュニケーションを試みる。
「こちらは地球防衛軍、宇宙戦艦アンドロメダ。まずは突然の訪問を謝罪いたします」
『そちらの目的は?』
「我らは調査及び国交を樹立したいと思い訪問しました。あなた方についての知識が無くこの様な形での訪問になってしまいましたが、領域侵犯は意図的ではないという事だけは伝えさせて頂きたい」
彼のその言葉にパネルに映る男は少し思考し、やがて口を開く。
『バース星への寄港を許可する。本艦の先導に従え』
「了解した」
こうして、最初の相手はバース星───そして、そこを実質的に支配する天の川銀河の超大国、ボラー連邦に決定したのだった。
そして───この世界が如何に残酷か、彼らは思い知る事になる。
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