俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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第1章 前奏曲(プレリュード)は、いつだって唐突
【えっ?】


「お疲れ様、すみれちゃん・・・僕に似ないで元気な子だな。」

「あら?元気じゃなかったらこんな稼業は続けられないわよ?」

「・・・君には敵わないな。名前に関しては何か考えてたかい?」

「あと1ヶ月は余裕があると思ってたし、女の子だと思ってたから。お医者様に性別だけでも教わっておけばよかったわね。野乃原・・・」

「いや、お義父さんやお義母さんの姓をこの子に使う。僕たちはこんな稼業だ、こんな風に親子として過ごせるのもそう長くない。」

「ほんと、因果な稼業ね。当主様はこのまま国籍選択をしないままにしろと?」

「ああ。・・・そうだ、この子の名前なんだけどお義父さんの苗字は『猿取』だろ?だから、『茨』にしたい」

「サルトリイバラ?」

「ああ、花言葉は『活力』そして『不屈』。そして今日の誕生花さ」

「・・・やっぱりロマンチストね、一郎さんは。」

 

「おはよ・・・なんか大騒動だな、弾」

「まあ、人類初の男のIS乗りが昨日この中学から出たからな。新聞とかテレビとか付き纏われて大変だった・・・茨はどうだった?」

「よく知らないです、違うクラスなんで・・・で通した。というか、教室内にもいたしな。ホント一夏も災難だな。同じ受験会場なんだし首に縄つけてでも藍越の会場に引っ張ってくべきだったな・・・」

「そうでもないだろ。いいなあ・・・俺も適正欲しかったよ、茨・・・」

そう、確かにソレは羨ましかった。

 

 インフィニット・ストラトス。今から10年前にありとあらゆる兵器を凌駕し、女性にしか扱えない無限の蒼穹。これによって既存の兵器、そして男性優位主義者たちは地に落とされた。女性優位主義が世の主流と化し、男は自信を失いかけていた。

「それがISを起動させた上に試験官に勝つんだもんな。やっぱりブリュンヒルデの弟だけはあるぜ!」

誇らしげな弾を横目で見ながら、俺もポツリと言葉をつむぐ。

「まあな・・・でも、どうせならもっと違う非日常が欲しい」

「『私たちの世界を救ってください勇者様!』みたいなのか?やめとけよ、『僕と契約して魔法少女になってよ』みたいなのしか来ないだろ」

「ペニシリンの作り方も知らないから江戸時代に飛んでもマジキチ扱いだろうし、自衛隊に入ったとしてもこのツラじゃあ戦国時代でも太平洋戦争でも速攻死ぬ枠だわ。弾みたいなイケメンなら主役はれるんだけどなあ・・・」

ソバカスの目立つ頬をさすりつつ、そんな軽口を叩きながらも俺達は昨夜急遽設定された全校集会のため校庭に向かっていた。

校長の愚にもつかない講話の後、俺たち中学校の全校生徒は校庭で、ISに乗り込んだ一夏と一緒に記念写真を撮っている。

「ったく・・・そっとしといてやればいいのに・・・」

一夏の真下にいる弾はそんな呟きをもらすが、正直俺にとってはやや引きつってはいるものの癇癪も起こさず何時もどおりな一夏のほうがよほど衝撃だった。

(俺ならきっとアホ面下げたメンツにキレて一暴れしかねねーわ。やっぱり一夏は格が違う)

そう、ここにいる連中は羨ましがったりジェラッたり、一夏のことなんて誰も案じていない・・弾を除いて。

(・・・ホント羨ましい。俺にもこれとは違う非日常が欲しい)

三白眼、髪はボサボサ、体型はヒョロヒョロ、ソバカス持ちの十人並みの面構え、こんな俺にはそんなチャンスは訪れない。

 

そのはずだった。

 

「・・っと、悪ぃ、弾!」

「気にすんなよ一夏」

一夏はISを降り、弾に抱き抱えられるように地上に降り立つ。新聞だか週刊誌だかのカメラがここぞとばかりにフラッシュを炊き、二人を中心に絵になる構図を取ろうとする。その眩しさに俺は他の皆と同じようにIS・・・打鉄とかいったか・・・の足にもたれかかった。

【えっ?】

頭の中に流れ込んでくるわけの分からない情報。取り込まれる体。いつの間にか鎧を纏うようにISを着込んでいた俺。

【えっ!?】

クラスメートたちの羨望や嫉妬、弾の驚愕の、一夏の同類項がいたという安堵の眼差しが360度から俺に突き刺さる。

【えっ!!?】

「降りる!降りる!俺を降ろしてくれ!」

その言葉に従うように俺を降ろすIS。一夏を羨ましがっていたついさっきの自分を心底呪わしく思いながら、一夏や弾、クラスメートやマスコミどもが何かを言う前に俺は半狂乱でただひたすらに走り出していた。

(地下世界の守護者候補だっていい!何層にも分かれた異世界の異変を解決する勇者だっていい!封印された調和神を救うために戦う天空の戦士だっていい!今なら願いをかなえるために12人のライバルと鏡の世界で殺しあう騎士にだってなってやる!だから、この場から俺を飛ばしてくれ!)

「なんでこんな非日常が、俺の元に転がり込むよ・・・」

 

「どうしたんじゃ茨?今日は午後まで全校集会じゃなかったんかいの?」

家への道はどうやって帰ってきていたのかは覚えていない。車にはねられなかっただけでも御の字だったろう。

「そりゃあ受験生ですもの、馬鹿みたいに付き合う義理も無いでしょおじいちゃん・・・そういえば茨、昨日の藍越の自己回答はやってみたの?高校浪人を許すほどうちは余裕があるわけじゃないんだから、本命を受ける前に滑り止めはとりこぼさないように・・・茨?」

俺のことを案じてくれる爺ちゃん婆ちゃんに背を向けつつも、俺はテレビに釘付けとなっていた。

「・・・ほんとにどうしたんじゃ?くるくるチャンネルを変えて・・・今日はどのチャンネルもお前のクラスメイトの話で持ちきりじゃぞ?」

そう、どのチャンネルも初の男性IS操縦者である一夏の話題ばかりだ。幼少期から何からプライベートなど御構い無しに垂れ流すその姿勢には吐き気すら覚える。

「・・・解るわ茨、一夏君が自分の手の届かない遠い人になってしまって寂しいんでしょ?でもね、積み重ねてきた想い出は、甘い記憶は決して裏切らないわよ。」

「ど、同性愛なぞ非生産的じゃぞい!」

そんな夫婦漫才を繰り広げる二人に、俺は意を決して真実を告げた。

「爺ちゃん、婆ちゃん、俺…学校でIS起動させた。」

 

「…茨、そんな嘘をつくくらい一夏君に焦がれてたのね。でもね、一つの真実は億の嘘に勝るのよ!あなたのやるべきこと、それはその熱情を、パトスを受け入れて彼に受け止めて…」

「…のお茨、何時間前にそれがあった?」

違う世界の住人になりつつある婆ちゃんを尻目に、爺ちゃんはいつになく真剣な表情で俺に問いかける。

「…2時間前。マジだって!俺は嘘なんて…」

「無論、嘘を言うとは思っておらん。じゃがのぉ…普通、それ位時間が空いたらテロップの一つ、速報一つ入りそうじゃ。それにテレビや新聞の記者なぞうちに来とらんぞ?」

そうだ、あんなに学校にマスコミがいたなら家に大挙して押し寄せていてもおかしくないのに、誰もうちには来ていない。

「お前が帰ってくる前も後も何の連絡も学校からは入っておらん。思うに茨、そいつは一夏君が降りた後に触ったために起きた誤作動ではないんか?」

「…誤作動から始まる愛!!そういうのもアリね!」

「…だね。昨日のうちに藍越の自己採点は終わってる、多分大丈夫。」

そうだ、アレはたちの悪い白昼夢だ。勉強して寝て起きればまた何時もの日常が待っている。だから俺は婆ちゃんを揺さぶる爺ちゃんのこんな呟きを背に何時もどおり勉強部屋に向かっていった。

「…しかし、番組の内容が変わっとりゃせんか?一夏君の事をサワリでしゃべったら後はブリュンヒルデの事ばっかりじゃ…バーちゃん!!いい加減目ぇ覚ますんじゃ!」

 

 

『本日、二人目の男性IS操縦者が発見されました』

それは夕食時の公共放送のニュース。爺ちゃんの大好物でもあるオムライスを半分ほど食べ進めた辺りにソレは食卓に流れてきた。

『政府の発表によりますと先日発見された織斑一夏君の同級生である男子中学生が、本日記念撮影用に中学校に搬入された第2世代型IS、打鉄を起動させたとの事です。政府は彼がアメリカ国籍を有する多重国籍者であるため、関係各国との調整を含め慎重に判断していきたいとの事でした。』

そのままニュースは天気予報に入り、爺ちゃんの大好きな番組『来た!ダーウィン来た!』が流れていく。凍り付いている二人に振り絞るように声をかける。

「爺ちゃん、婆ちゃん、俺って確か…アメリカ国籍、持ってるんだっけ…」

「おう。一郎君とすみれがハワイに新婚旅行に行ってた時に産まれたんじゃ」

「…茨、冷凍庫に鯨の刺身があるけど、明日にする?今から戻す?」

「流石にオムライスとは合わないよ。明日にする」

そうして、何時もの時間は流れていく・・・いや、3人でなんとか流していく。

「茨、一杯どうじゃ」

普段酒など見向きもしない爺ちゃんが、冷蔵庫から缶ビールを2本持ち出してきた。我が家にて唯一のアルコール消費者である婆ちゃんが、グラスを男二人の前に置き、ビールを爺ちゃんから受け取ると蓋を開ける。

「1杯だけにしておきなさいよ。お爺ちゃんは粕漬けで顔真っ赤にする下戸だし、茨は未成年なんだから」

初めてのビールは、いやになるくらい苦かった。

 

 

 

 

「『長年の忠勤に鑑み』ね・・・報道管制は終了。これで茨と織斑君の情報は金棒引達の口の端には上らなくなった。」

「・・・了解。こちらからは当主様からの最新情報。『茨君はこのまま例の会社に派遣。織斑君と同時にIS学園に入学させて欲しい。』」

「了解・・・すみれちゃんが気に病むことじゃない。僕のほうにこそ責任がある」

「ううん・・・大丈夫・・・これから・・・どうなるのかしら、一郎さん」

「・・・大丈夫、みんなハッピーになれるさ。その為に、僕たちはここにいるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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