俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

10 / 90
「あの国は、散々アメリカにコケにされてきたから、一泡ふかせようって気持ちになるのは分かるけど…専用機まで用意させるとはね…」
「ええ。上層部の子女に適正値が高い者が居るのも驚きでしたが…『共産主義者がどうなろうが知ったことじゃあないが、僕達は荒っぽい手段『しか』使いたくないし、そうすればトレイニーや織斑君は悲しむだろうからね。このネタはロハでいいよ』との事です。」
「あの国も、操縦者を鍛えるのにかなりえげつない事をしているそうです…お嬢様、彼女の目的は織斑君と猿取君の篭絡、なのでしょうか?」
「猿取君は殺害でしょうね。暴行を受けそうになったといえば正当防衛が成り立つでしょうし、彼を援助する企業たちにも打撃を与えられる、何よりAOAの看板に泥を塗ることが出来るでしょうから…私達もあの国には煮え湯を飲まされてきたもの、是非も無いわ」
「了解しました。では『番狢』は…」
「あの二人には情報が集まったら声を…いえ、今のうちに話だけは通しておきなさい。あのワーカホリック夫婦には今は安らぎが必要でしょうし、ひとたび動けば最大級の獲物を掻っ攫ってくるわ」
「…しかし、あんなものの箱の中に入れてくるとは…」
「ああ、中身はカタログがぎっしり詰まってましたよ、宅配便の記事欄で猿取君を焦らせようとしたんでしょう。」



『大人』の都合

「おし、お疲れさん!腹減ったなあ…」

「んじゃあ、お疲れさん…ラストオーダーまであと30分だ、急ごうぜ…」

 

ここは第3アリーナエントランス。特訓を終えた俺と一夏は食堂への道を歩いていた。一夏は『調査ばっかり受けていた』と言っていたが、どうしてどうして一通りの機動はこなしていた。

 

「でも凄いよなあ…お前があんだけ動けるとは思わなかったぜ!」

「…俺は2週間早くISを動かし続けていたから少し慣れてる、それくらいの差だよ。みっちり訓練をすれば誰でも出来るさ。」

 

むしろ初乗りの段階で山田先生を撃破出来たお前のほうが凄い。そう言おうとした時、一夏は何かに気付き手を振っていた。

 

「よ、箒!お前達もメシか?」

「あ、ああ…お前達もか?」

 

そこには武道館の方向から歩いてきた篠ノ之さん、

 

「…奇遇ですわね」

 

そして、目に見えて意気消沈したオルコットさんが居た。

 

 

閉店前の食堂は閑散としており、注文待ちのグループは私達だけだった。

 

「しかし、何食っても外れがないのは凄いよなあ、ここ。今朝食った白菜の浅漬け絶品だったぜ!」

 

…一夏、確かに美味いと思ったが、褒めちぎられても微妙だろう。褒めるなら手間隙のかかった若竹煮や厚焼き玉子の絶品さを褒めるべきじゃあないのか?

 

「確かにここの食堂は凄いな。札幌ラーメンに日替わり定食に焼き魚定食にローストビーフプレート、出来る時間がバラバラのはずのものをきちんと一緒に出してくれるんだ、簡単そうだけども中々ムズい…一夏、取ってこよう。レディは座ってて」

 

 

「ふぁあ、食った食った…あのジイさんの演説だけど…気にするだけ損だぜ、オルコットさん」

 

「気にしてなど…!」

 

一夏の言葉にムキになるセシリア。威勢の割には余り手は進んでない。猿取君は丼の中の具を食べ終えると、スープをかなり残した状態で箸を置き、セシリアに言葉をかける。

 

「その意見には賛成。ゲスジジイとは2週間しか関わってないけど…アレは『人の嫌がることをしましょう』って言われたら卵アレルギー持ちの人間にプリンをご馳走するタイプの人間だ」

「ひっでえ!…でも、マジでそんな感じだよな…今のはツボッたぜ、茨…」

 

…確かに、アレは他人の嫌がることを他人めがけてやるタイプだ。そして猿取君、私は味噌汁を口に含んでいたんだ、迂闊な発言は死を招くぞ。

 

「…しかし、わたくしはイギリス代表候補生、国の有り様が…」

「そこだよ。俺らは子供なんだからさ…国とか会社とか重すぎるんだよ。もっとシンプルに考えようぜ。『クラス代表を決めるためにタッグマッチをする』それだけでいいじゃない」

「そんな無責任な!わたくしは…」

「…分かった…ゲスジジイがさ、お土産おいてって…用務員さんから受け取ったんだけど…中身も見ないで捨ててくれってお願いしたんだ。何故だと思う?」

 

そうボヤくと猿取君は真剣な表情になった。一夏も、私も、セシリアも顔を見つめる。3人の表情が自分に向いたことを確認すると、猿取君は口を開いた。

 

 

 

「あのアホ伝票欄に『児童ポルノ』って書いてたんだぞ!!最悪だろ!?俺こんなヤツが主任を務めるIS乗ってるんだって思ったら心底情けなくなったぞ!」

「ヒデぇ…!悪ぃ…笑っていいか…ヒデぇ…!!」

「そ、それは…フフフ…最悪だな…ハハハ…!!」

 

 

ダメだ…笑いがかみ殺しきれない…!

 

「そ…それは…ご愁傷様ですわね…ククク…」

 

あまりの事実にセシリアも笑いを噛み殺すのに必死のようだ。

 

「こんなゲスジジイの考えなんて理解しようとするだけ無駄だぜ。まずは明日の授業に備えようぜ…レディ、食欲が無いのであればご助力申し上げますが?」

「あら、少なくとも胃袋の容量は弁えておりましてよ?」

 

…結局、私とセシリアの完食する時間はほぼ同時だった…侮れんな、イギリス代表候補生…

 

 

食事を終えた俺達は、寮への道を歩いていた。

 

「いや、ホント楽しかったぜ…く、フハハ…!!」

「ふ、フフフ…いや、猿取君がコメディアンとしてここまでセンスがあるとは思いませんでしたわ…ククク…」

「そう笑うな…猿取君がむくれてるぞ…ふ、フフフ…」

「こっちは最悪の気分だよ!今日は、食にまつわる災難ばっかりだな…」

 

まあ、しょげ返った相手と戦ってもしょうがないしな、これくらいの恥はかくさ、かくけどさ…何か理不尽だ…

 

「…にしてもさ、相変わらず茨ってラーメンのスープ残すよな。」

「…美味しかったけどさ、少し物足りないんだよ。無頼のラーメンは逆にヒステリックさが気になって残しちゃうのよ。過不足なし、スープ底まで飲み干せるラーメンは鈴の親父さんの所のラーメンだけだったな。まあ…最初は山ほど胡椒ふって鈴に叩かれたけどな…」

「何してるかな、鈴…」

 

俺は中1の時からの付き合いだけど、一夏は小学校のときからの付き合いだしな。懐かしいだろう…ん?

 

「…猿取君、鈴とは誰だ?」

 

 

振り返ると、篠ノ之さんが俺の肩を掴んでいる…いや、ちょっと痛いんだけど。

 

「あ、あのさ箒!まずはタッグマッチの事を考えようぜ!」

「…一夏、私は猿取君に話しかけてるんだ。」

「…はい」

 

 

…そうだな…適当に誤魔化すか?あれ?幼馴染のはずなのに、何で篠ノ之さんは知らないんだ?

 

「あれ?一夏の小学校からの幼馴染って聞いてたんだけど…知らないの?」

「り、鈴は箒と入れ違いになる形で転校してきたんだよ!それで1年前に中国に帰国したんだ!」

「幼馴染という事は…色々と親しかったというわけか…猿取君、後は知ってることは?」

 

 

…どんどん力が強くなってくる。いや、マジで痛いんですけど。

 

「一家で中華料理屋をやってて、一夏はよくバイトやってたな。それくらいしか…」

「あらあら…恋多き男ですのね。妬けますわ…」

「おいオルコットさん、分かってて言ってるだろ!俺はそんなんじゃ…ちょ、離せよ箒!」

「猿取君、少し一夏を借りるぞ。娯楽室で色々と聞こうじゃないか」

「就寝時間までには返してくれよー、篠ノ之さん」

 

 

 

やっと開放されたよ。…ま、こういう非日常ならドンと来いなんだけどさ。

 

 

 




ギフトカタログ
※ダイジェストでお楽しみください。
「山田先生、ゴミ置き場にあったこの箱だけど…何が入ってるのかしら?」
「あ、これってギフトカタログですよ榊原先生。『AOA特選ギフトカタログ』ですって。あの博士が置いて行ったんですかね?」
「でも、グルメもファッションも凡庸なものばかり。こんなんじゃ…!?」
「どうしたんですフランシィ先生?ヘルス&ビューティの所を食い入るように眺めて?」
「凄いわよこれ!手首くらいある!こっちはビーズの1つ1つが振動するそうよ!」
「こんなに捩れて…こんなに張って…1つから選びきれそうに無いわ…」
「こっちは…通販用のカタログよ!」
「丁度、教頭先生を除いた教師全員分あるわね、両方とも…」
その後、ゴミ置き場には空のダンボールが捨てられており、ヘルス&ビューティーの宅配便がちらほら届くようになり…ほんの少しだけ某生徒の教務点が底上げされたそうだ。




「で、猿取君はどれがいいと思います?」
「俺に話を振らないでくださいよ、マジで…」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。