俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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※独自設定がマシマシです…ていうか、陰謀なら『あの国』ですよね。
「香港大学に在籍し、専攻の中国史のために手遊びで学ぶうち…いつの間にか料理の道を志した人民解放軍海軍閥重鎮の道楽息子と、自らを『香港人』と称して辞さない老舗飯店の末娘…ね。この一文だけで1クールのドラマくらいは出来そうだ」
「あら、物事ってのは起きる可能性の高いものから起きるものよ?」
「男の父親、そして軍事委員会の大物である祖父は男の『賎業』も『妾』も『不義の子』も御気に召さず全てを捨てろと迫った…だが、男は不孝の謗りを受けようとも何一つ捨てなかった。そして『黄金の愛』が父親達の力の源を叩き潰し…その混乱に乗じて一家は日本へとやってきたわけだ」
「芸は身を助く、かしら?それとも天は自ら助くる者を助く、かしら?」
「だが、1年とちょっと前…男の一人娘がISの簡易検査を受けてA判定をたたき出し、運命は一変する。南洋艦隊壊滅からこっち、人民解放軍はIS開発に血道を挙げてきたが…肝心の操縦者に恵まれず、候補生もIS学園に入学させようものなら国際的に非難を浴びかねない『逸品』揃いらしい。そんな状況で共産党はそんな逸材をほおって置くわけがない」
「父や祖父だけではない、共産党全てから守りきれるわけがないと諦めた男は一家で帰国、男はなれないデスクワークに従事しながら、女は遠く離れた地でISの訓練を受ける一人娘の世話をしながら公安に監視される日々…さて、中学校時代のクラスメイトであり最初にISを起動させた男たる織斑君、憎き『黄金の愛』を作り出した資本主義の豚の走狗たるもう一人の男子のクラスメイトが今学園に居る…さて、次に打つ手はなんでしょう?」
「一人息子をみすみす危険に晒すわけにはいけないな…ウチの若いのは逸材揃いだがまだまだお人よしになりきれていない。さて、すみれちゃんは悲劇と喜劇、どちらがお好みだい?」
「悲劇なんてある時点で下下の下の下よ。三流のハッピーエンドになだれ込みましょう?」
「同感だ…そうだ、もう一つ原動力をあげよう。茨は男の作るラーメンが大好物だったそうだ」
「あら、俄然やる気が湧いてきたわ。荷造りがはかどるわね」


「二日でサヨナラか…歴代トップ2の滞在時間じゃの」
「今週末には、茨は帰ってくるって言うのに…花に群雲月に風ね」
「…月に群雲花に風じゃよ、バーちゃん」


イーハン無いのに騎士ですか(呆)

『セシリア、貴女は何故戦う?』

『戦って、勝つことで…わたくしはこの身を、家族の形見を、オルコットの名を守り続けてきました、だからです。箒さん、わたくしからも質問があります。貴女は何故、タッグマッチに立候補されたのです?』

『すまない、貴女よりもはるかに俗だ…6年ぶりに逢う幼馴染、その成長を知りたくなった、それだけなんだ』

『あら、クイーンにもビートルズにもラブソングはありますし、わたくし大好きですわよ?ただ…」

『ああ、勿論だ…もし惰弱な6年間を過ごしてきたなら、性根に活を入れてやる』

 

『おし、これにて特訓終了…近接戦に持ち込めよ、射撃はボロボロなんだから』

『分かってる、回避重視、距離はつめる時は一気につめる、ヤバくなったらさっさと後退、だろ?』

『そうそう。なあ…一つ聞いていいか?俺さ、ずっと疑問だったんだ…中学のとき、何で皆で記念写真撮った時、あんなに平然としていられたんだ?弾以外の全員が、お前を妬いて羨ましく見てた…俺を含めて』

『…俺さ、ずっと千冬姉に守られて生きてきた。千冬姉に苦労ばっかりかけてきた。そんな俺がさ、強くなるためのこれ以上無いくらいの力の手がかりを持てたんだ。アレくらいどってこと無いさ』

『敵わないな…やっぱり一夏は格が違う』

『よせよ。正直、オルコットさんや箒と戦って勝てるとは思ってない。茨と特訓してつくづく思った』

『俺だって思ったぜ、大物食いなんて夢の正夢だってさ』

『でもさ、白旗揚げる気も、尻尾巻いて逃げる気もないぞ』

『ああ、それに…負けて苦笑いするよりは、勝って大笑いしたいよな』

 

『『『『絶対勝とう』』』』

 

 

アリーナの喧騒が、俺たち3人を包んでいる。倉持から輸送されたISを一夏は纏っており、ここにはまだ現れてはいない。

…この間と同じだ、色々な情報が俺の神経を、血管を冷やしてくる。中々慣れる物じゃあないな、本当に。

 

「…それにしても…どぎつい色使いですわね『アンカー・スチーム』。アンクルサムの燕尾服のほうがまだシックですわ。」

「使ってる色はユニオン・ジャックと同じだぜ?デジタル迷彩がお嫌いなら、ギンガム・チェックにでもいたしましょうか、レディ?」

「その趣味の悪さ…いつから本物のアメリカンになりまして?」

 

正直、俺も赤青白(トリコロール)のデジタル迷彩というアバンギャルドな色使いは好きじゃない。だが、スポンサーのロゴがベタベタ張られてるのよりははるかにマシだろ?『こっちのほうがお好みだったかなトレイニー?』ってサンプルで見せられた時、泣けてきたぞ?タバコのロゴと一緒に真っ黒な肺の写真が貼られたISの姿は…まあ、こんな雑談でも神経はほぐれる。ホント、感謝だな…

 

『今、『白式』の装着が終わった。初期化(フォーマット)と最適化処理(フィッティング)中…ヤバイ、千冬姉がさっさと行けって催促してる…』

『マズイな…俺の時は30分かかったぞ、一次移行(ファーストシフト)は』

 

コアネットワークに送られて来た一夏の個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)にしばし黙考すると、俺は言葉を返す。こういう時ほんと便利だよな、全身装甲(フルスキン)は。口元も顔色も分からないんだもの。

 

『拡張領域(バス・スロット)の中に武器があるはずだ。何でも良いから引っ張り出してエントリーしろ。戦闘なら待たせて待たせて『小次郎、破れたり!』なんてことも可能なんだろうけど、あくまでスポーツだ。失格なんて真っ平ゴメンだろ?』

『こそこそと、なんのひそひそ話ですの?』

『頭が上下しているぞ、猿取君…』

 

 

…訂正。ハイパーセンサーは人の浅知恵をたやすく看破する。ここまできたら行くしかない、か!

 

『ヤバイ、雪片弐型…物理ブレードしか武器が無い!』

「上等!射撃がボロボロなんだ、銃じゃなくてラッキーだったな!ヤマトナデシコとレディがお待ちかねだ!さっさとエンゲージしようぜ!」

 

いまさら包み隠す必要も無い、オープンチャンネルで気合を入れる…ん?なんでオルコットさんは赤面してるんだ?

 

「は、破廉恥ですわ!エンゲージなんて…」

 

は、何それ?普通に交戦しましょうって言ったんだけど?ブリティッシュジョーク?

 

「行くぞ箒、オルコットさん、茨!こいつが俺の『白式』だ!」

 

灰色一色のIS…一夏の白式がアリーナへとエントリーする。空気は一気に熱くなり、その場の全員がシステムを戦闘状態に移行し、ライフルを構え、或いはブレードを抜刀する。

…さあ、全力全開で行こうじゃないか。

 

「な…何故当たらないのです!?…なっ…!!」

 

余裕の仮面がはがれ、驚愕の素顔がオルコットさんを覆う…死角からの必殺の一撃を交わされたのだ、気持ちは分かる。

 

(そろそろアリーナの使用時間が終わる…なら、刮目してもらおうか!)

 

『ブルー・ティアーズ』のビットのエネルギー弾を掻い潜り、私は彼女の土手っ腹にブレードを突きつけた。

 

「正確だ、ということは逆を返せば脆いということだ。死角を突く、というのは怖いが逆を返せば死角さえ分かっていればどうとでもなる。」

 

押し黙ってしまったオルコットさんに、私は言葉を続ける…正直、そんな柄じゃない。だが、言わないままでは綻びをそのままにしたままにしてしまいそうな気がしてならなかった。

 

「猿取君は『武装とFCSがミスマッチだ』と自嘲していたが…『ブルー・ティアーズ』はアリーナと機体がミスマッチに思える…おそらくは、アリーナのような閉じた戦場で戦うことを想定された機体ではないんだろう?」

「ええ。『ブルー・ティアーズ』は超遠距離からビットで包囲し敵戦力を暫減、その後に遠距離からの『スターライトmkⅢ』の狙撃で止めを刺す…それが基本コンセプトです…FCSの関係上、エネルギーライフルとビットの同時使用もおぼつかないのです」

 

さっきまでの威勢は何処へやら、意気消沈したオルコットさん…私に例えるなら、昨日今日竹刀を握った人間に手も足も出ず負けてしまったようなものだ、気持ちは分からないでもない…だが、このままでは彼女は潰れてしまう。

 

「なら、猿取君がFCSのミスマッチを武器にしたように、我々も戦場のミスマッチを武器にすればいい」

 

 

 

「…っと!いいのかよシノさん!一夏はレディに首ったけだぜ!」

「無理矢理でも振り向かせるさ…お前を落としてな、猿取君!」

「かあっ、欲張りだなシノさんは!」

 

打鉄の振り下ろしたブレードを軽口を叩きながらマチェット『キノ・チケット』で6回目の打ち合いで初めてギリギリで受け止め、至近距離から『プレイヤー&バンカー』を一気にばら撒く…が、当たりはごく少数、硬い打鉄には有効打にはなりえず、打鉄のアサルトライフルの射撃の隙間からまたもやブレードで切りかかられる…お互い片手で振るっているので決定打にはならないが、無視していいものじゃない。シールドエネルギーはそろそろ危険域だ。『剣道の全国大会で優勝した』って一夏情報もまんざらじゃない。

…まさかシノさんが俺に向かってくるとは予想だにもしていなかった。これじゃミサイルもろくに撃てやしない!『一夏とシノさんが交戦するのを後方から援護、シノさん撃退後二人がかりでオルコットさん撃破』という想定をしていた身としては恥じざるを得ない…いや、恥じるのも愚痴るのも後だ!

 

「く…ちょこまかちょこまかと…」

「っと、どうだ!…なっ!?」

 

一夏といえば『ブルー・ティアーズ』が展開したビットに包囲されつつも果敢に打って出ている。死角からの攻撃を何とかかわし、エネルギーライフルの正確無比な射撃をブレードで払い、斬りかかる…健闘はしているものの、互角とは言いがたい。このままではジリ貧だ。

 

「体勢を立て直すぞ!一度退け一夏!」

そう叫ぶと『ダブルダウン』から俺は新たに装備された煙幕弾を射出した。

 

 

(これならいける!)

 

猿取君と切り結びながら、緩みかける頬を全力で引き締めた…猿取君は舐めてかかっていい相手じゃない。

…セシリアのISの脆さは、『正確さ』へのこだわりにあった。『大体この辺りに撃つ』とビットに念じればライフルへのFCSの切り替えは比較にならないほど早かった。そして狭いアリーナでは、当てずっぽうの攻撃でも無視していいものじゃない。正確に死角から攻撃する、或いは相手の動きを止め、または無闇に動かしブーストを浪費させる…新たに生まれた幅の分だけこちらの勝ちは確実になる。

 

「体勢を立て直すぞ!一度退け一夏!」

 

その言葉と同時に、煙幕弾が『アンカー・スチーム』の肩部から発射された。虹色の煙が辺りを包む。後ろに退いた一夏に向けてセシリアが『スターライトmkⅢ』を放つ…が、煙幕にエネルギーの奔流が触れると窓ガラスにホースで放水したかのように拡散してしまう。

 

「撹乱幕ですか…やり口が汚らしいですわね」

「有効時間は30秒さ…それに、指や口が綺麗なままじゃフレンチポテトは食えないよ。」

「あら、皿に盛られてフォークとナイフで頂くフィッシュ&チップスもございましてよ?」

 

減らず口を叩きながらもセシリアは私の後ろに回り込み、カバーに入る…ビットが私の周囲を守るように配置される…次で決めるんだな、セシリア。

 

(そうだな…20分も30分も戦えるわけじゃない、お互いに集中力は限界だ…)

 

薄れていく煙幕を切り裂きながら多くのミサイルが、そして一夏が飛び出してくる。

一夏の『白式』は、輝くばかりの白に彩られていた。

 

 

(…勝った!)

ビットから射出されたエネルギー弾がミサイルを貫き、次々と誘爆。爆炎が併走していた一夏の『白式』を炙る。オルコットさんたちにとってはそう確信したことだろう、『ニューヨーク・ニューヨーク』なら。

だが、ベアリングが山ほど指向性弾頭に詰まった散弾ミサイル『モンテカルロ』はシノさんとビットにより深刻な被害を与えていた。ビットは4つ全てが機能停止し解除、シノさんの打鉄もあちこちから白煙を上げている…そのタイミングで一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、一気に距離をつめていく。

 

「もらったぜ、シノさん!…!?」

 

そう、シノさんの打鉄は俺に背を向けると、アサルトライフルで一夏を撃っていた。何発かが一夏を掠めていく。

 

(捨石になる気かよ、シノさん!)

 

背中から狙うのは趣味じゃないが、仕方ない!俺は両手に構えた『プレイヤー&バンカー』を全弾発射し、シールドエネルギーを枯渇させる。

 

『打鉄、戦闘不能』

 

無機質な合成音を背に俺は一夏と同じように瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、オルコットさんとの距離をつめようとする…だが、エネルギーライフルの奔流が、俺を飲み込んでいた。

 

『アンカー・スチーム、戦闘不能』

 

 

 

「切り結ぶ 太刀の下こそ地獄なれ 踏み込み行けば たちまち極楽」

「…何のおまじないですの?」

 

武道館の畳の上にちょこんと座り目を白黒させるセシリアに、私は苦笑し竹刀をかざしながら言葉を返す。

 

「刀を振るうことの心がけさ、セシリア。実際の日本刀もそうなんだが、剣先から中結までの部分…物打と言う部分で相手を打たないと有効打とは取られないのさ、剣道では。」

「わたくしは遠距離がメインですもの、そういう心がけは…」

 

不承不承といった感じのセシリア。私は笑みを消すと、言葉を続ける。

 

「だが、お前の『ブルー・ティアーズ』にも近接用のブレードは装備してある。弾切れにならないように戦うのは勿論だが、弾切れになった時、足掻く手段があるというのは心強いぞ?」

「そ、そうですわね…」

「さて、さっきの説明の続きだが…必殺の一撃を狙いたいなら、振りよりも突きだ。振りは一歩後退、或いは前進しただけで威力が減るが…突きは大きく避ける必要がある。弾切れを起こして進退窮まったなら、ブレードで突きを狙え」

 

 

猿取君を狙って『スターライトmk3』を放ったセシリアは、隠し玉であるミサイル用ビットを『ブルー・ティアーズ』から切り離し、発動させる…が、2つとも『白式』に切り伏せられた…どうする気だ!?

 

「インターセプター!」

 

セシリアはショートブレードを音声で呼び出すと、『スターライトmkⅢ』の銃床の部分を片手で掴み…下段の構えのまま距離をつめていく一夏に向けて放り投げた!

 

「…なっ!?」

 

一瞬狼狽したものの、一夏は冷静に切り上げる。『スターライトmkⅢ』は爆発し、閃光と白煙が一瞬だけ覆う…そう、一瞬だけ隙が出来る。

 

「…わたくし、新聞紙に包まれて、手や口元を油やビネガーやソルトでべちゃべちゃにしながら頂くフィッシュ&チップスも大好きですの」

 

その閃光と白煙を貫きながらセシリアはショートブレードを構え、一つの弾丸のように一夏に突っ込んで行った。一夏も振り下ろしたブレードの切っ先を返し、振り下ろし、ぶつかり合い…一塊になってごろごろと転がっていく。

 

 

 

「ああ…ここまでとは思わなかった。俺が努力してるのと同じように、みんなも努力してるんだよなぁ…」

 

いつの間にか隣に座り込んでいた猿取君が、ため息混じりにぼやく。

 

「…当たり前だろう、まさか私たちは一切努力せずにここまで来たとか思ってるんじゃないだろうな?」

 

そう冷たくいい返すとほぼ同時に、試合結果が無機質な合成音で流れた。

 

『試合終了。両者戦闘不能による引き分け(ドロー)』

「…行こうかシノさん、最後まで残っていた勇者達を讃えに」

「さっきから気になったんだが…なぜ、私が『シノさん』なんだ?」

 

少し沈黙すると、猿取君は言葉を続ける。

 

「…篠ノ之だと、なんか舌噛みそうだから。深い意味は無いよ」

 

 

オルコットさんは一夏に抱きしめられたまま号泣していた。そんなに負けたことがショックだったんだろうか?そして一夏、そんなに抱きしめたままだとシノさんや織斑先生が目を三角にするぞ。

 

「大丈夫か、セシリア?どこか痛むのか?」

 

シノさんは心配そうにセシリアを揺さぶる…オルコットさんの背中方向ではなく、一夏を挟む形で。思い切り尾花沢スイカを当てられたその状況は普通の男ならば轟沈は必至であろう、普通なら。ホント、メンドくさい男を好きになったな、シノさん…心の中の涙をハンカチでぬぐう。

 

「わた、わたくしは…箒さんの信頼に、答えられませんでした…箒さんは…自分の思いを捨ててまで…私の信頼に…答えたのに…」

「何を言う、一夏の研鑽はお前が教えてくれた。私こそ謝らねばなるまい、アレだけ足掻いたにもかかわらず、お前に勝利をもたらせなかった…」

「アレだけ足掻いたからこそ引き分けに持ち込めたんだ、篠ノ之。お前が織斑をけん制しなかったら、猿取と織斑をもっと酷い状況でオルコットは対応せざるを得なかった。オルコットがライフルを囮にせず射撃で迎撃していたとしたら、なす術もなく切り伏せられていた…よく頑張ったな、四人とも」

 

 

いつの間にか後ろに現れていた織斑先生の言葉に、その場の全員が直立不動の姿勢をとる…ちぇっ、もう少しサンドイッチ状態が続いていたとしたら一夏も目を覚ましたろうに…

 

 

「先生、提案なんですが…クラス代表、我々4人で決めてよろしいでしょうか?」

「?…ああ、いいぞ」

 

俺の言葉にうなずいた織斑先生から目をそらすと、シノさんと泣き止んだオルコットさんをちらりと見る。二人とも目の中に『?』が浮かんだ状態だ。

 

「まず、俺はご辞退しよう。最後まで立っていられなかったんだ。」

「それなら私もだ。セシリアに一夏の相手を任せてしまった負い目もある。」

 

…やっと分かってくれたようだ。二人とも瞳がイイ笑顔になった。

 

「では投票を行います。織斑一夏君がいいと思う人!」

「はい!」「はい!」「はい!…多数決により、織斑一夏君に決定しました!」

「お、おい!俺はイヤd…」

「…織斑を推すんだ、もちろんお前たちは織斑を支えてくれるんだろうな?」

「「「はい!」」」

「…分かったよ、織斑先生。よろしく頼むぜ、皆」

 

一夏もとうとう覚悟を決めた…だが、ここからが本番なんだ。

 

「1組の皆!クラス代表に決定した織斑一夏君の前途を祝福し、胴上げを行いたいと思います!アリーナに来てください!」

 

…俺の声が届くかどうか微妙だったが、意図は伝わったようだ。1エリアの生徒がアリーナへと下りてくる様を確認すると、俺はシノさんとオルコットさんに声をかけた。

 

「じゃあ胴上げの練習しよう!本番で下手を打たないように3人で練習だ!」

「し、しょうがないな…本番で失敗すると、いけないからな…」

「わ、わたくし…胴上げって初めてですの…」

 

俺は一夏の腰に、シノさんは左半身に、オルコットさんは右半身にすがる。その状態で俺ら3人は一夏を目の高さまで捧げる…うん、重いな。

 

「じゃ、俺の音頭で上げるぜ…いや、手を滑らせて怪我するとイヤだから上げるフリでいい。」

「逞しくなったな…一夏…」

「ああ…素敵ですわ…一夏さん…」

「てひひ、一番のりー!」

「お、早いねー布仏さん。息も上がってない。皆こっちだ、並んで並んでー!」

「お、オイ茨!急に離すな!!」

 

俺が急に手を離したおかげでバランスを崩し、3人は倒れこむ…先ほどと同じサンドイッチ状態だ。

 

「すまん一夏!皆、怪我は無いか?」

「だ、大胆だな一夏…皆見てるぞ…」

「ああ…一夏さん…一夏さんが求められるのでしたら、わたくし…」

「だ、大丈夫…お、オイ2人とも離せよ!苦しい!」

「…セシリア、一夏が苦しがっている、離せ」

「…箒さんこそ、お離しになったらいかがです?エンゲージとは、婚約を表すのですよ、箒さん…」

「アレは猿取君の発言だ、日本男子はブロンドに憧れると聞く。残念だったな…」

「あら、猿取君はアメリカ国民でもありますのよ?ヤマトナデシコにご執心じゃありませんの?」

「もてもてだねー、おりむー」

「だねー、羨ましいねー、いやらしいねー」

「た、頼む…離してくれ…」

 

 

『タッグマッチで引き分けか…『天災』の妹も、凡庸ではなかったという訳か』

『むしろ、一次移行(ファーストシフト)を5分で終わらせたというほうが異常よ。『ブリュンヒルデ』の弟ということを差し引いても、ね』

『…『白騎士』か?『天災』お手製というわけか…ならば好都合だ。彼に預けた『P』はいまだ眠り続けているとはいえ、相手取るには不足はあるまい』

『…なぜ、『P』はロックされたままなのでしょう?』

『彼が、頭のどこかで『スポーツ』だと誤解したままだだからだと思います。退いたら負けの『戦い』、その状況下に置かれれば、或いは身を焼くほどの殺意に侵されたなら…』

「我々がお膳立てせずともその役は『天災』がやってくれるだろう。アレは国家から、社会から、人という種から見捨てられた。それ以上でもそれ以下でもない」

『…我々は為すべきことを為すだけだ。人として、組織として、国家の一員として』

「ああ。The Day Is Coming」

『『『『『『『『『「The Day Is Coming」』』』』』』』』』

 




はじめてのがいはく
「激励会終了、いやあ、待ちに待った休日だ!外泊届けも出してるし、さっさと帰ろうぜー!」
「疲れたなー、ホント…あ、織斑先生と山田先生だ、どちらまで行かれるんです?」

食堂からの道すがら、キャリーバッグを運ぶ織斑先生と山田先生を見つけた俺は手を振って近づく。

「上海で転入生の試験があるんですよ猿取君。今夜出発、明日の早朝から試験、『一泊して』明後日とんぼ返りなんです」
「一夏…家の換気を頼む…」
「あ、ああ…」

露骨に落胆している織斑姉弟と目が爛々としている山田先生。流石にさよならのチューをする度胸は無いらしい、二人とも。

「ヘリポートから出発するから見送りは無用だ、一夏…行って来る…」
「あ、ああ…じゃあね千冬姉…」
「あ、荷物お持ちしますね織斑先生!実はですね、美味しい上海ガニ出してくれるお店が宿の近くにあってですね…」

とぼとぼと歩き出す織斑先生と気合に満ちた足取りで前を行く山田先生。さっきまでの元気は何処へやら、一夏はユーレイにでも取り付かれた表情でこっちを見た。

「悪ぃ、今日はやっぱりかえるのやめる…」
「あ、ああ…」


ふとポケットのスマホを見ると、山田先生からのメールが届いていた。

『先生、猿取君の今日の活躍に感動しました!先輩との距離を縮めてきますね!』


その日の夜、俺と山田先生は夢の中でワルキューレ姿の織斑先生に膾にされていた。
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