俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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独自設定マシマシ回です。※助けて!Oさんが原形をとどめてないの!

「こんにちわシスター・ファロン、イースターは大盛況だったらしいわね。市の広報サイトに大きく載っていたわ」
「お久しゅうございます、ミズ・ミューゼル…マザー・エリザベスも皆様の多大なる支援を感謝しております…本日はデトロイトでご宿泊を?」

ミシガン州デトロイト。古きよき時代においては自動車の町、つい最近までは犯罪多発地帯として名を馳せていた。だが、今ではまったくといって良いほど様変わりをし、新たなる姿を見せている。

「ええ…例え誰が許したとしても貴女を労わなければ、私は私を許せない」

AOA(アーマメンツ・オブ・アメリカ)はアラスカ条約締結後、デトロイト市を再開発すると大々的に発表した。サイボーグ刑事が活躍するSF映画を引き合いに『オムニ社現る!』などといったネガティブ・キャンペーンをメディアは展開し、デトロイト市民は自分たちの運命を悲観して裕福なものはいち早く他の地へと引き払い、持たざるものは運命を呪った…だが、デトロイトの全住人は最も幸運なアメリカ人へと変貌し、引き払ったものたちは慌て者として憐憫と嘲笑を浴びることとなった。

「もったいないお言葉…私はただ、神の僕として二つの永遠に挟まれた一瞬を過ごすのみでございます」

AOAはスラムをそのまま残したかのような、ローマのコロッセオのような、ヒューロン湖を模したような、或いは特別分厚い防護バリアーの中に様々な兵器を据えたアリーナをいくつも作り、親善試合や公開試合の競技場、各種兵装の試験場として開設し、AOA設立に携わった企業たちは交通網を再整備し、市役所、消防、警察、病院といった公共機関に桁違いの支援を行い、近隣に工業大学を移設し、マンションを、ホテルを、銀行を、映画スタジオを、ISをテーマにしたアミューズメント施設を作り、郊外には住宅地を、ショッピングモールを作り、そこにデトロイト住民を優先的に就職させた。

「…みんな良い子達ね、『バルーニング学園』の子供たちは」

AOA関係者…アメリカの同盟国…ノウハウに乏しい、或いは広大な国土の無い開発国…そしてISという未知の存在に心惹かれた企業は、メディアは、大衆は国の内外からこぞってデトロイトを目指し、外貨を、ドルをアメリカに落とした。また、マスメディア対策として親善試合や公開試合の『デトロイトでの』賭けは禁止されたが、それが功を成し住環境としても比較にならないほど良好になったと感じた国内外の富豪はこぞって別荘を、或いは終の棲家をデトロイトに求め、デトロイトの地価はアメリカ1の上昇率となった。一方、AOAのお膝元であるラスベガスではISの親善試合、公開試合が最も人気のあるスポーツブックとして親しまれることになる。蓋を開ければ、IS学園開校までには投資した倍以上の額をAOA、そして関わった企業たちは受け取ることとなった。

「本来、人は善良なのです。誤った教育が人を歪めるのです…デトロイト、ミシガンだけではありません。近隣の州からも子供たちは風に乗るかのように流れてきます。私たちの救いを求める命、救えなかった命は、それでもいるのです…」

…「我々はISを戦争に使用した唯一の国家であり、その罪は拭い去れない。初めてISを開発し、それでもなお戦争に使用しなかった賢明なる日本にこそ未来を背負う若人を育てる権利と自由がある」というアメリカ大統領の涙ながらの演説は聴くものの心を打ったが、専門の搭乗者教育機関を極東である日本に据えたのは他でもない、諜報をはじめとするリスクを冷徹に判断したアメリカの意向である…それでもなお、データを全て公開しなければいけないといった不利益を背負ってもISや各種兵装のテストをIS学園を含む他の施設と比べるとはるかに低コストで、バリエーションに富んだシチュエーションで、長期間実験出来る立地条件に恵まれた環境は魅力的であり、歴史的構造物が多く大規模な訓練施設が設置できなかったイタリアを筆頭にデトロイトを訪れる国家、企業は枚挙に暇が無い。

「…そう自分を責めることは無いわ、シスター・ファロン。宗教も、人種も、性別も関係なく、ここにいる子供たちは全てあなたたちが救ってきた…それは偽りの無い事実よ」

ビジネススーツに身を固めた金髪の美女と、修道服に身を固めた栗毛色の髪の美女。子供たちがボール遊びに興じる大きな庭の隅のベンチでたたずんでいるのはデトロイトをはじめとするミシガン州の身寄りの無い子供たちを支援、育成する『バルーニング学園』である。この学園もAOAの再開発のお陰で、再開発前とは比較にならないほどの支援を受け、比較にならないほどの数の不幸な子供たちが救われ、一人立ちできたのだ…だが、それでも不幸はネタ切れになることは無い。

「…救いを求める子羊が居るのですね、【スコール】…」

…この学園のエンブレムは、風に乗る蜘蛛(バルーニング・スパイダー)である。糸一本で風に乗る、そんなか細い縁で集った子供たちを助けたい、それが設立者の理念であった。



をかしな、おかしな、可笑しなふたり

「2月の3バカ壮行会以来じゃねぇか、猿取のボン…なんでぇ、駆け落ちの算段か?」

「おヒサ、開店10分前にごめんねオッちゃん…ちがうんだよ、山田先生っていって俺のクラスの副担だよ…取り敢えず、ラーメン2つで」

「う…うう…先輩…センパイ…」

「…ね?俺のこととか眼中に無いでしょ?」

 

ここは駅に程近い高架下のラーメン屋台『無頼』。グスグス泣く山田先生を何とか屋台の椅子に座らせ、俺は立ったまま本日何度目か思い出せないほどのため息をついた…いや、泣くところまでメンタルが戻ったことを喜ぶべきだろう。

 

(ほんと、織斑先生がキャリーバッグ持ってたから駅周辺だとあたりをつけて正解だったよ…厄日だ…今日は大厄だ…)

 

 

『えふっ…猿取君ー、先生今から富士の樹海か竜飛岬に行って来ますねー、織斑先生によろしく』

 

駅の大きな待合室。それはつい1日前となんら変わりの無い山田先生のはずだった。声のトーンも、明るさもなんら変わりない。

 

(自殺の名所じゃねーか!というか距離に幅がありすぎなんだけど!?)

 

負のオーラをこれでもかと放ちながらウィスキーをラッパ飲みするというその1点を除けばであるが。ナンパ野郎も見える地雷を踏む勇気はさらさらないらしく、先生周辺には俺以外誰もいない。

…一度踏んだんだ、何度踏んでも変わりは無いよね…

 

『知ってた先生?溺死体は体がフーセンみたいにぶくぶくに膨れるし首吊りは腹の中とか毛穴から排泄物や血がどくどく溢れてくるんだって。そんな姿を見たら、皆嫌だと思うよ…』

『別に良いんです!もう、もう私は…』

 

焦点のイマイチ合ってない瞳で俺をにらみ付ける山田先生のキャリーバッグを持つと、俺は努めて明るく言葉を続ける。

 

『町で一番美味いラーメン食いに行かない?どこで死ぬかはその後で考えようよ』

まあ、ホントは暫定1位なんだけどさ…

 

「おー、丼の底まで見える澄んだスープですねー…お、凄い!予想をはるかに超えるコクです!最後の晩餐には最高です!」

「…ボン、いったい何があったんだ?無理心中の算段するような人生を送るようには見えないし見えなかったぜ、俺には…」

 

明るくネガティブにラーメンをすする山田先生と、あきれを通り越して感心するオッちゃん…本当、何でこうなったんだろう。丼からたちのぼる湯気が目にしみる。

 

「なかなか、思い通りに行かないんだよ、色んなことが…」

「焦り過ぎなんじゃねーのか?ボン…スープだってよ、しばらく寝かさないといい味がでねーんだぞ」

 

オッちゃんは茹でる前の麺の入ったザルをポンポンと叩きながら諭すように言葉を続ける。

 

「俺だって調理人の端くれ、麺だって打てるし焼き豚だって焼けるしメンマだって煮上げられる。何ならナルトだって蒸し上げるし小麦からラーメンだってこしらえられるかもしれねえ…でもよ、それぞれ信頼できる人らに任せることでスープに専念できるし、全部一人でこしらえるよりはるかに安くラーメンを出せるし、その利益で製麺所だの肉屋だのが潤うし、俺の期待にこたえようと他のみんなも努力してくれる。なんでも一人でやろうとしてねぇか?」

 

 だよな…焦りすぎてたよな…ほんの少しだけヒステリックさが気になるスープが、なぜか今日は気にならない。

 

「ありがと、オッちゃん…もう少し、回りを頼ってみる…食べ終わったみたいね、先生。おあいそお願いします」

「すぅ…大好きです…センパイ…」

 

…やっぱり、腹ペコの人間は短気になる。酒臭さは気になるとはいえウトウトしているあたり大分落ち着いたようだ。さて、かえ…

 

「ほい、税込み1300円だ…どうしたボン?札出したまま固まって?」

「…ああ、なんでもないです」

 

…どこに帰ればいい!?まだモノレールは動いてるし門限は切ってないし外泊申請だってしてる!!でも…

1 学園にオテテ繋いで帰還→目撃者アリ→ウワサになる→いくえ不明

2 どこかのホテルに宿泊→目撃者アリ→親とか呼ばれて一巻の終わり→いくえ不明

「…答え3か」

ああ、ほんと答え③だ、14に行けだ…

かくして俺はスマホを取り出した。

 

 

「試験の結果待ちですが…まずはおめでとうございます、凰候補生。IS学園での切磋琢磨、ご期待申し上げます」

「なんで…何で私が選ばれたんですか、楊管理官!?西安には他にも一杯…」

「その質問に答える権利は私は持ち合わせておりません、凰候補生」

 

用意されたホテルで激昂して詰め寄る少女に、管理官は冷ややかに言葉を返す…だが、ふっと表情を緩めると言葉を続けた。

 

「今から独り言を言います、忘れて下さい…感情はおろか自我すら危うい存在でしょう?彼女たちは。殺せといわれれば殺し、抱かれろといわれれば抱かれる木偶。漢民族にIS操縦能力者は驚くほど少なく、いてもE+かD-。その中でAクラスをたたき出し、IS学園に居るはずの男子の片割れの知人、さらにはたゆまぬ努力を続けた英才にして軍中央部の大物の子女。そんな貴女があのような場所で朽ちることはありません。」

 

彼女の担当となった管理官が最初に忠告したことである『成績を上位にキープしつつ周りと合わせろ、決して目立たないように』そして陰日向になって守り続けてきた管理官の存在。それがあの訓練施設という名の『魔窟』で彼女の命脈を守り、心を守り、貞操を守り続けていた。

 

「…だけど!だけど!!あいつ等が何を強いてきたか分かるの楊管理官!あいつらは…」

「織斑一夏の篭絡、出来れば妊娠。或いはもう一人のクラスメイトの殺害…IS学園の特記事項には国や企業の干渉を撥ね退ける物があります。柳に風と受け流せば…」

「父さんと母さんが人質に取られてるのに!二人には守ってくれるものなんて何もないのに!」

 

滂沱の涙を流しつつ管理官にすがりつく少女。管理官は背中をなでながら慰めの言葉をかけるしかなかった。

 

「神は残酷な結末は用意しないものです…」

「共産主義は神仏より上なんでしょ!?嫌だよ…そんなの…」

 

…楊麗々。初代中国代表にして第1回『モンドグロッソ』準優勝者。コアを政争のネタとする中央の愚を諌言し、管理官という閑職に付けられた女性である。

彼女には、甲龍の待機状態である黒いブレスレットは手鎖にしか見えなかった。

 

 

「お婆ちゃん、茨には失望したわ」

 

今日は帰らないって言ってた孫が教師同伴で急遽帰宅する。何か問題でも起こしたのかとやきもきしていたら酔っ払った美女同伴で帰ってきた、どう考えても事案ですよ!ってなるのは分かる。

 

「ポーズでつき合うなんて失礼だと思わないの!焦らしなんて流行らないわよ!ノンケへの転向は玉砕してからでも…」

 

山田先生を寝かせた後、かくして家族会議は始まったのだが…バーちゃんは激昂しながら相変わらず訳の分からないことを言っている。これがスペイン宗教裁判なんだろうか。

 

「あやめ、少しお黙りなさい…のぉ、茨。お前のひいジーさんから身上を預かり、何十年もマンションやアパートの管理人をしておるとの、大体人間の関係っちゅうのは分かるんじゃ。仮面夫婦、愛人関係、なさぬ仲の子…のぉ、お前と山田先生を見た時、『馴れ』がみえたんじゃ。そこらの中高生のアベックが出せるものではない、許しあった仲のな」

 

爺ちゃんはバーちゃんを嗜めると、沈黙する俺を肯定と受け取ったのだろう、俺に言葉を続ける。

 

「無論、お前は入学して1週間足らずじゃ。そういう関係になる方が異常じゃ…ワシらにも、言えん事か?」

「何もいえない…ただ、絶対に悪事じゃない!それだけは信じて…」

 

誰彼かまわず言えたらどんな楽だろう、友人とその姉を地獄に落としてしまうというその結果に目を瞑れたら。山田先生を後追いさせてしまうことに目を瞑れたら。

 

「わかった…すまんの。なに、ワシもモウロクして見込み違いもよく有るんじゃ!お前の部屋に寝具が2組あるじゃろ、さっさと休め。」

 

シュンとしたままの婆ちゃんをちらりと見ると、爺ちゃんは言葉を続ける。

 

「まあ…その…今夜は自重せぇ…」

 

 

何を自重するのよ、何を…

 

「あ、ここは…?猿取君…?」

「俺の実家。朝までゆっくり休んで帰ろう?」

「ごめんなさいね、教師失格…」

「まあ、失格とか、合格とかまだ気にしなくていいんじゃないの?だってまだ1週間しかたってないんだし…」

 

 

だよな、何を焦ってたんだ俺は!あそこまで爛れた関係が一朝一夕で解決できるかモヤシ!

 

「そうだ、朗報!淑女協定が結ばれて一夏を共同で攻略しよう、って子が同盟を結んだんだ!かなり心強いよ!」

「そうなんですか…こっちはボロボロです…ああ…上海ガニが…織斑先生とのナイトライフが…」

「ねえ先生、二つ質問…織斑先生の荷物は重かった?あと、部屋はシングル?ツイン?」

 

俺の質問にまた泣きそうになってた山田先生はポカンとしていたが、しばし考え込むと言葉を返す。

 

「はい…荷物は同じくらいの重さでしたし、予約してた部屋はシングルでしたよ…?」

「じゃあ織斑先生は本当に用事があって帰ったんだよ!先生が嫌いとかそんなんじゃないんだから安心しなよ!」

 

そうだよ、わざわざ荷造りしてまで袖にするような悪辣なことをするような女性じゃない、そんなことじゃ『世界最強』になんてなれるわけがない…俺だってヴィレッジ=ピープルと同じ部屋で泊まれ、って言われたらわき目も振らず逃げ出すけど、同じ階なら別にどうってことはない…はず。

 

「そっか…そうですよね!落ち込んで損しました!ああ…そう考えると惜しかったですね、上海ガニ…」

 

夢見る表情を浮かべる山田先生に安心して、俺は残酷な現実を言うことができなかった。

 

 

上海ガニの旬は11月だということを。

 

 




昔話
「2人とも熟睡…面白くないわね…」
「ギシアンされても困るじゃろ…茨の奴、ドンキホーテかと思っておったが、鼻デカシラノとはの…」
「ライバルと思い人の恋愛を成就するために東奔西走ね…どっちかって言ったら茨は『泣いた赤鬼』の青鬼だと思っていたわ…」
「ふむ、友人のために逢えて汚れ役を、か…」
「パーツが足りないわ!!ノンケの友人の恋愛のために逢えて汚れ役をやるピュアホモよ!なのに、なのに、ノンケに転向とか絶対にダメよ…」
「…バーちゃんの目に張り付いた鱗、どうやったら剥がれるんかいの…」
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