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…と思ったかい思ったかい?ボクだよボクだよ!
「…この光景を見ると…各国がIS開発に悪戦苦闘する様は…嘘みたい…」
「そーなのかんちゃん?へこんだ装甲とか千切れたコードとか繋いでるだけじゃないの?」
クラス代表決定戦が終わった週明けの月曜日。一夏以外の専用機持ちと見学希望者はAOA開発チーム…
「それが出来るからこそ外注(アウトソーシング)の契約を取り付けられたんだよメガネちゃん。材料さえあれば大体の修復・作成は『ジョブ&ホビー』の中で出来るんだ。勿論情報だって提携国の意向に従いきちんと秘密にしておくよ!倫理的だろ倫理的だろ?それでもボクらは信用出来ないってわざわざイギリスの皆様は監視してるんだ!嫌だね嫌だね性悪説は」
…訂正、新たにIS学園が外注契約を取り結んだAOA修理チームの面々と修理用ユニット『オートスミス・マークナイン』のある部屋で相対していた。アークライト博士の言葉にイギリス開発関係職員らしき見慣れない面々が青筋を立てる…気にしたら負けだぞ…まったく、知れば知るほど『ゲス』という言葉がなじんでいく老人だ。あと身分証の入ったパスケースを鎖鎌みたいにブンブン回すな、倫理が世を儚んで身を投げる。
「補足と訂正をさせていただきます。我々AOAは距離的な理由で修理に多大なコストがかかるであろう各国の皆様に修理の代行を提案しておりましたが、今回クラス代表決定戦で損傷した英国の『ブルー・ティアーズ』無償修理のデモンストレーションをさせていただく運びとなりました。結果如何によっては正式な契約を結ぶ事となる次第です」
「…獣医に果たして人間の手術が出来るかどうか疑問ですがな」
「そう獣医を馬鹿にしたモンじゃないよジョンブル!犬猫は何処が痛い苦しいなんて訴えられないんだよ訴えられないんだよ!せめてヤブ医者と言ってくれよ言ってくれよ!そうだ、ついでに猫耳とか竹槍マフラーとか付けてみないかい?」
…ちなみに一夏はココにはいない。整備科の修理施設で倉持技研が行っている『白式』の修復作業に立ち会っており、そちらは残念ながら非公開だ。『ブルー・ティアーズ』が『オートスミス・マークナイン』の中から排出され、イギリス関係者はおっとり刀で駆け寄る…まあ、ゲスジジイはとてもじゃないが信用できないからな、同情する。
「そうそう、アラスカ条約締結後初めてボク達AOAが第2世代型IS『タイガー・シャーク』の設計図だの材料だのを洗いざらい公表した時は中々滑稽だったよ!何処とは言わないけど地道に技術力を上げるんじゃなくただコピーだけしてメシの種にする気満々の国も企業も結構居たからね居たからね!…蓋を開けたらどうなったと思うレディ?」
「そういう所は苦境に喘ぎ、独自開発の道を進んだドイツ、イタリア、フランス、ロシア、中国、そして我がイギリス…或いは倉持技研やAOAに高額の技術指導を受けた所以外は軒並み撤退しましたわ」
「ご名答!流石は技術の英国だ!ISの工作機械を作る工作機械すら作れないレベルだってのに嘴を挟むからこうなるのさ!ヘッドハンティングをして何とかしようとしたって、ドル以上に強い貨幣はこの世に存在しないんだよしないんだよ」
「…でもあるちゃんー、あるちゃん達でもコアは作れないんでしょー?」
「グハアっ!…いい弱点突いたねホノボノちゃん。君には見えないかもしれないけど赤いビックリマークが2つボクの上に輝いたよ輝いたよ!あと『アルちゃん』と呼んでくれたのは君が始めてさ!イェーイハイタッチだ!」
「てひひ、いぇーい!」
「…はぁ?何…それ?篠ノ之さん…分かる?」
…そう、現存するコアは467個。そしてそれは私の姉『天災』篠ノ之束にしか作れない…布仏さん、きちんと手を洗ってくれよ。あと私に話を振らないでくれ簪さん。理解する努力をするだけ無駄だと茨も言っていた。そもそもこんなのと意思の疎通が出来るビジネスマンはいるんだろうか?…それとイギリス関係者、鬼の首でも取ったかのような表情はやめろ。コアを作れないのは同じだろうが。
『ああ…やっと逢えました…フライングスパゲティーモンスター様…』
どうやら茨はあのカウンセラーのカウンセリングを受けているらしく、画面の中で思い切り顔を引きつらせている。
…フライングスパゲティモンスターとは何なのだろう?
或いはそれは、何処にでもある日常
「そういえば、2組に転校生が来るんだって。織斑君や猿取君は知ってた?」
「…2組に来るのは初耳。そっか…上海って事は中国の人なんだろうな…」
「あ、ああそうだな、茨…」
火曜日の朝、ホームルーム前の僅かな時間。鷹月さんの問いに答え、机に寝そべる俺と椅子にもたれる一夏の呟きを耳ざとく聞きつけたシノさんは視線をこちらに向けながら誰とはなしに言葉をつむぐ…どうした一夏?何か変だぞ。
「ああ、だから金曜日は出かけられていたのか、先生たちは…」
(まあ、本当は土曜もあっちに居るはずだったんだけどね…)
…彼女たちにとっては油揚げを掻っ攫われるだけのイベントでしかなかったであろう土曜日は、俺にとっては大きな意味を持っていた。特に『淑女協定』が!…いや、昨日だけでも何人か居たらしい…『お友達になりたい』『物珍しいから知り合いになりたい』じゃなく、『とりあえず寝たい』っていうグルーピーみたいな不心得者が上級生に…2人ががっちりガードし、敗北者が遠くに離れて行った後で『一夏の耳に入らないように』『上品に』こき下ろす様は中々に恐ろしかった。うちのクラスメイトは完全にスルーしているあたりきちんと選別はしているんだろう、二人とも。
…気持ちは分からないでもない。そういう関係になれれば一発逆転出来るだろう。だけどココはIS学園、東大に行くより狭き門であり、卒業後IS関連の大学や仕事に就けなかったとしても有名大学に進学しているOGは一杯居るのだ!下手な小細工は身を滅ぼしかねないのだ、口コミ的に考えても。まあその前にブリュンヒルデに木っ端微塵にされるけどな!
俺にそういうユーワクが来ないのは…喜ぶべきなんだろうな…
「まずはクラス対抗戦、ですわね。一夏さんをわたくしたちで鍛え上げ…」
「優勝した組に配布されるスイーツ半年フリーパスをゲットだぜ!」
「「「「おー!」」」
「…お、おう」
オルコットさんの周りにいた鷹月さんや谷本さん、布仏さんたちが歓声を上げる。
…甘いもん好きだな皆。別腹だとタカをくくっていると泣きを見るぞ。まあ、食堂の甘味の種類は中々に圧巻だった。1日一種食べても半年でコンプ出来るかどうかだろう…だが、ミルフィーユに『谷間の乙女百合』とかモンブランに『白銀の令嬢』、フルーツパフェに『女王の宝冠』とか付けるセンスはどうなんだろう?俺がもしミルフィーユ好きなら涙を飲む羽目になるだろうし、栗の苦手な奴が名前だけ聞いて頼んで後悔したことは無いんだろうか?それと一夏、そんなに気のない返事をするな。
(まあ、見事優勝してもらえれば一夏のお株も爆上げだ!リーグ戦開始まで正味3日、何処まで鍛え上げられるか…)
…入学して2週間、その時期にもう実戦形式の試合をやるのはどうにも解せなかった。例えば俺以外専用機持ちの居ない、ISに触れることが初めての学年が居たとしたらワンサイドゲームになってしまい1組と他の組がいがみ合ったりしないんだろうか?とか、出る杭を打つのが日本の悪癖だと言われるが、世間体が悪すぎてとても本気は出せそうに無いんじゃないか?と考えていた。だが織斑先生曰く『戦いへの姿勢』『クラスの連帯』を図るための通過儀礼だそうだ。なるほど、どうしようもないのを選べばクラス中の責任になるし、手抜きなんぞしようものならそれだけで失格しそうだ。
「まあ、専用機持ちはウチら1組と4組にしかいないし、4組の専用機は調整中っぽいから…」
「その情報、古いよ」
その言葉とともに扉が開き、『誇り』『自信』そんな言葉をツインテールの髪型の小柄な体にみなぎらせ…
「オードリーじゃん、元気してたか?」
俺の素っ頓狂な声に思いっきりずっこけた、久々にお目にかかる知り合いがそこに居た。
■
「オードリー?」「誰それ?」「春日?」「若林?」「ヘップバーン?」「ミネバ?」「リトルショップオブホラーズ?」
「だ…誰がオードリーよアホ茨!…ていうか、何でアンタがここにいるのよ!?」
イヤにキョドってないか鈴?…そっか、俺の情報はまともに流れては居ないんだっけか。
「ゴメンゴメン…こいつは凰鈴音(ファン・リンイン)。一夏の幼馴染さ」
「よ、よぉ鈴…ひさしぶりだな」
どうにもたどたどしく挨拶を交わす一夏…どうしたんだ、本当に?
「お久しぶり、一夏、茨…ていうか茨、アンタがもう1人の男のIS操縦者?」
「まーね、色々とあるのよ…『その情報、古いよ』ってことは…」
「ええ、中国代表候補生としてここに来たのよ…あたしが居る以上、楽に勝てるとは思わないことね」
「宣戦布告は済んだか?…なら、さっさと2組に戻れ」
「は…はい!千冬さん!」
「…学校では織斑先生だ」
いつの間にか後ろに居た織斑先生に怯えた鈴は全力で隣の教室へ戻っていく。そういえばいつも織斑先生にビビッてたらしいな、鈴は。誰かれ構わず噛み付く狂犬じゃあるまいし…いや、だからこそ手ごわいのか、うん。
「ああ…なんだ、別に変わってないじゃないか、鈴…」
「そりゃそうだろ。鈴が帰国したのは1年前だぜ?」
ホント、今日は何かおかしいぞ一夏。風邪でも引いたか?
■
さて、IS登場後の『女性』の地位向上も様々であった。
元々女性の立場が強く、専守防衛を旨とする日本では…まあ、3万円のお父さんのお小遣いが2万7千円になったり、女性車両が1両増え、女性向けのジョークグッズの売り場が二割ほど増える程度であったし、能力の有るものが先陣を切っていくアメリカ合衆国では男性優位主義(マチズモ)は鳴りを潜め、女性が主人公のハリウッド映画が2割程度増えた程度であった。だが、女性が男性の所有物であったアラブやアフリカ、カーストによりそもそも人間の序列が厳格に決められていたヒンズー教徒が多数を占めるインドでの混乱は舌筆に尽くしがたいものがあった。
インドにおいてはIS適正の高い女子が宗教の束縛の緩い仏教にこぞって改宗した結果、政治、経済におけるヒンズー教徒の影響は加速度的に減少、『本来平等であるべき人間を差別する淫祠邪宗』と法律で非合法化される寸前でほぼ全ての司祭階級(バラモン)、士族階級(クシャトリア)が『カースト制度は恥ずべきものであり、我々は差別を許さない』という公式見解を発表することで事なきを得た…が、昔日の栄光は見る影もない。また、アラブにおいてはアメリカ、及び日本の肝煎りでいち早くISを導入し、IS登場以前にさえ伝統的なブルカの下に春色の衣装を纏う女性が多数を占めたUAE(アラブ首長国連邦)、トルコが旧態依然たるイスラム各国を押しのけアラブの双璧となり、アフリカではイギリスの肝煎りで南アフリカがいち早くISを導入し圧倒的アドバンテージを得る結果となった。『ISを使い西欧列強は新たなる植民地支配を行いつつある』、と国連にて長広舌を振るったアラブ及びアフリカ各国大使は、『人を人らしく扱う国に何か問題でも?』の女性国連事務総長の問いかけに俯いたままであった。
女性が…いや、人間が人間らしく生きることの難しい場所においてISはまさに救いの女神であり、『天災』篠ノ之束博士にあやかり娘に『タバネ』とつける者、博士そのものを崇拝の対称にする者は枚挙に暇がなかった。
…口さがないAOA関係者曰く『人非人(ヒトデナシ)の国』であった中国はほぼ唯一無二の例外であったが。
■
「…ふぅん、あんたがAOAのテストパイロットね…」
湯気の立つラーメンの丼越しに剣呑な光が瞳に輝く。スゴイな鈴、眼光は1年前と比較にならないほど鋭くなったぞ!
(まあ、中国から持参したISを展開しなかっただけでも御の字だよな…)
…午前の授業が終わり、食堂に向かった一夏と『淑女協定』の面々。そこに鈴も加わり近況報告を兼ねて食事会が行われていた。自己紹介も終わり、俺や一夏の話を興味深そうに聞いていた鈴だったが、一夏の一言が全てをぶち壊してしまった。
「茨の専用機はAOAが用意したんだぜ、凄いだろ!」
慌ててシノさんやオルコットさんが一夏の口を塞ぐが、全てはもう遅かった…正直、AOAは不倶戴天の敵が多いのだ。鈴の反応は当たり前すぎるほど当たり前だ。
「…確かに俺は2重国籍持ちだし、AOAのバックアップを受けて専用機も持ってる…」
そこで言葉を切ると鈴をチラリと見る。剣呑な光はまだ収まる気配は無い。だが、宣言しておかねばこちらとしても立つ瀬が無い。
「IS学園特記事項には、外的介入を制限する条項がある…でも、そんなものが無くてもAOAから何か仕掛けるように働きかけがあっても俺は撥ね付ける。信じてくれとはいわない。ただ…」
「確かに、そんな器用なことが出来る利口じゃないわね…茨のアホは」
大きくため息をつくと、鈴は丼のスープを大きく呷る。剣呑な光は瞳から消えていた。
「…まあでも、IS学園特記事項があって俺や茨はホント助かったよ。モルモット扱いされたり最悪ホルマリン漬けにされちまう所だった…」
「一夏さんがそんな目に遭いましたら、わたくしがお救いして差し上げますわ!」
「何を言う、助けるのは私だ!」
シノさんにオルコットさん、張り合う場所が違ってないか?ホルマリン漬けになったらもうどうしようもないぞ?
…そしてそんな二人を鈴は先ほどの比ではないほどの剣呑さで睨みつけていた。
■
『ねえ、シスター・ファロン?』
『…どうしましたブルー・ムーン?こんな夜に起きたままなんて…』
『サンタさんて、ほんとにいるの?』
『『いる・いない』のではないです…サンタさんとは、『なる』ものなのですよ』
『サンタさんに…なるの?』
『ええ。最初のサンタさんがプレゼントを良い子にあげて、そしてその良い子がサンタさんになって他の良い子にプレゼントをあげる…サンタさんになれるおとな、それが良い子のめざすおとなです』
『わたしも…サンタさんになりたい。だから…おねがい…かなえて欲しい…』
『…わかりました。あなたの願いは私にはかなえられそうにありません。ですが…サンタさんになれそうなおとななら知っております』
『ほんと!?サンタさんになってほしいってそのひとにおねがいしてくれる?』
『もちろんですよ、ブルー・ムーン』
「オータム、作戦の最終確認…よろしいですか?」
「ああ…追加装備は剥離剤(リムーバー)じゃないのか…」
「ええ。今回の作戦目的は『壊滅』ですので。ISを奪取するにとどまらず人員を可能な限り殺害してください…使い捨てではありますが、『殲滅』すら難しい話ではないでしょう」
「なるほど…『ゴッサム』ね…カタログスペックだけでゲップがでそうだ…ん?ミッション遂行後はエージェントと接触…こいつは!?」
「…ええ、彼が国外脱出の手立てを整えるそうです」
「思ったより早くサンタが見つかったぜ、オチビちゃん」
■
「と言うわけで茨、部屋代わって?」
「…いや、意味わかんないんだけど。ていうか鈴、お前の相部屋の子が迷惑するだろ?」
『淑女協定』の面々や他のクラスメイトが最上階に遊びにくることは何回かあった。消灯前には皆おとなしく部屋に戻って行ったから鈴もそうだとは思っていたんだが…どうやら引越しする気満々らしい。ボストンバッグ1つで大丈夫とかコンパクトに出来てるよな、色々と。
「茨…あんただって彼女の一人ぐらい欲しいでしょ?あたしは出会いを提供してあげるのよ?」
…自分でも分かるくらい顔が青ざめる。これ以上色々と厄介な物事には足を踏み入れたくないのだ。被害者を増やすわけにはいけないのだ!
「あ…わかった!いいものあげる!いいカンポー入ってるわよ!!」
懐から鈴が取り出したのは日本ではお目にかかれないような漢字の踊るドリンク剤だった。生ぬるい肌触りが妙に寒気を誘う。
「赤マムシ枕元に常備してるオッサンかよ…あのさ、気持ちは嬉しいけど、俺は紳士で居たいのよ、こういうことで揉め事起こしたくないのよ?お互いに自重しよう、な?」
「な、何よ!一夏とあたしは将来を誓い合った仲なのよ!?…いいわ、今度のクラス対抗戦で優勝した暁には、実力で部屋を奪い取ってあげるわ!」
泣き出しそうな表情でボストンバッグを掴み、鈴は部屋を飛び出していってしまう…将来を誓い合ったのか…じゃああの『現状』は少なくとも1年前には無かったのか?…そんな俺たちのドタバタ劇を無言で見つめていた一夏は、何事も無かったかのように明るく言い放った。
「最上階で寝たいんなら俺が代わったのにな…俺なら千冬姉の所で寝れるんだし」
…鈴はお前と寝たいんだよ、一夏…
○
「うえ…うえぇぇ!!」
(最悪だ…!)
自分のために用意された部屋のトイレに駆け込むと、鈴は思い切り嘔吐した。
(あたしをいやらしい目で見てた…『一夏を篭絡しろ』って言ってた…あの豚どもとあたしは同じだ…)
「だ、大丈夫!?凰さん!」
心配そうにドア越しに声をかけるルームメイト…名前はティナ・ハミルトンだった…に便器の縁を押さえながらも務めて明るく鈴は声を出す。
「ち、ちょっとはしゃいで食べすぎちゃってさ…もう少しだけトイレ借りるね?」
「だ、だいじょうぶ大丈夫!あたしも来た時は水が合わなくて…」
その言葉を尻目に鈴は情報部が用意した薬剤…感知されにくい猛毒、自白剤、媚薬、向精神薬を次々とトイレに捨てていく。
(あたしは強いんだ…あの地獄でだって無事でいられた…あんな奴らのいうことなんて聞くもんか…でも父さんも母さんも…、ああ、あたしが適性検査なんて受けなかったら…)
すべて薬剤を捨て終え、流しきった鈴はそれでもなお声を殺しながら号泣し続けた。
…それは、ハイティーンの少女が負うには余りにも重い『運命』であった。
うらカンポー
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「で、どうするかなぁ…コレ」
鈴のおいていったドリンク剤を見つめると、俺は大きくため息をつく。明らかにやばそうな雰囲気なのだ。
「…一口もーらい。じゃ、下に行くぜ」
…どうやらメイドインチャイナの危険性は一夏の脳内には無いらしい…まあ、バーコードとか付いてるし、蓋もきちんとしてあったヤツだからまぁ大丈夫だろう。
品名は…『西施』ね…
「やっと書類整理が終わりました…」
ようやく上海ショックからは抜け出たものの、いまだその傷跡は山田先生を苛んでいる…どうしたらこの憔悴から先生を救えるのだろう…?
「…あれ、このドリンク剤はなんです?」
「ああ、一夏が飲みかけでおいてった…」
…どうやら俺の杞憂だったらしい、勢いよく飲み干す様は先ほどの面影すらない…間接キスの間接キスか、ノーカンになるんじゃないだろうか?
「ん、美味しい…じゃ、シャワー借りますね猿取君」
「ええ…どうぞ…」
(どんなドリンク剤なんかね?西施って…)
何気なく検索してみると出るわ出るわ、『西施 輸入代行』『西施 絶倫』だののどぎつい言葉が…
(そ、そうだ!あのアプリ使ってみるか!)
黒豹女が俺のスマホにインストールしたアプリを起動し、『西施』と入れる…
…中華漢方のみで作成された最高級の精力剤、市場に出回る製品の9割9部が粗悪な贋物であり、向精神薬等の混入も指摘される…
「先生まずい!早くドリンク剤吐き出して…!?」
シャワールームに飛び込み、慌てて言葉をかける俺…だが、山田先生を見てその判断は間違いであったと痛切に思った。
「…猿取君…一滴残らず…吐き出してもらいますからね…」
…そうだ、俺は…わき目も振らず部屋から逃げ出すべきだった…
…まあ、いいカンポー入ってたのは本当だったよ、うん。
そして俺と一夏は、初めて朝のジョギングをサボった。