俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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「いやぁ…喜んでたねシスター。お菓子や玩具はもちろんだけど、特に当主様からの『お土産』を」
「あの子にとっては…唯一の絆ですもの」
「もう3年か…切なくなるね」
「…帰りましょう、パパとママの所へ」
「だね、週末には茨も帰ってくるだろうし…ん?おお、コレは凄い!見なよ、本気で中国のIS事情は様変わりするね。コレだけの候補を隠しているとはどうしてどうして、中々の狐だ…」
「…で、そんな情報を流した狐はどんなクーニャンかしら?それともレディかしら?」
「…選択肢が一つしかないんですが」
「そこで否定しないって事は、オシオキが必要ね…」
「これは僕に来るのは終末だね…」



カルボナーラ>>越えられない壁>>フカヒレスープ まあそんなもん

「起きていますか?凰候補生」

「…今起きました、楊管理官」

「いいニュースと悪いニュースと最悪のニュースがあります、どれからお聞かせしましょうか?」

「…悪いニュースからお願いします」

「貴女のお爺様と曾お爺様が逮捕されました。収賄、脱税、殺人教唆、死刑は免れないでしょう…ああご心配なく、貴女に不都合は存在しません。あなたの立場も、あなたの地位もなんら阻害されないことを誓いましょう」

「…そうですか」

 

たった1,2度しか会った事の無い人間だ、父さんと母さんを苦しめ、あたしの人生を狂わせた元凶だ、ざまあみろとは思わないが、どうという気も起きない…ぼんやりと考えていた鈴は、軍用秘匿回線越しの楊管理官の言葉に耳を疑ってしまった。

 

「良いニュースを先に報告しましょうか。中国共産党IS委員会は中華人民共和国IS委員会に改名しました…そうそう、新たな候補生の一覧を後でメールで送っておきましょう、B+からA-まで多士済々、貴女のAランクには及びませんが後生恐るべし、うかうかしていると貴女も追い越されますよ。そうそう、キナ臭くはありますがAOAとも一応の協力体制を締結しました。『甲龍』はいまそちらの修復チームが修理を行っている状態です」

「で、ですが…」

「回族、ミャオ族、ウィグル族…どうやら漢民族の一極支配もうまく行きそうにはなくなりました。私が委員長を務めますが、少なくとも新たな候補生は貴女たちのような魔窟ではない、健全な環境で育成することを誓いましょう。私の良心に誓って…ただ、西安の『鎧龍』(カイロン)は失われてしまいましたが」

「…!?楊管理官!最後のニュースは…!?」

「…西安基地が謎の勢力によって強襲されました。私は成都に居りましたので事なきを得ましたが、生存者は居りません…そして、貴女のお父様のことですが…『妻を捜しに行く』の置手紙を残して失踪されましたとのことで…」

 

管理官の言葉を最後まで聞かず切ってしまった鈴は乾いた笑いを浮かべながら医務室のベッドに携帯を放り投げる。

 

(最低だ…結局あたしが父さんも母さんも、家族全てを地獄に…違う、地獄に行くのはあたしだけだ、二人はきっと天国にいける…こんなあたしじゃ『甲龍』だって愛想を尽かすわ…医務室なら、鋏位はあるよね…)

 

ISスーツのまま、目当てのものを探しに鈴はベッドを抜け出そうとする…彼女の心はそのまま朽ち果て、命脈は自らの手で絶たれていただろう。

 

「鈴…大丈夫か?どこも痛くないか?」

 

 

 

『魔窟』にあっても鈴の心の星であり続けた少年…織斑一夏が閉じたカーテンを開きながら声をかけていなければ。

 

 

 

 

「だ、大丈夫!…ねえ、さっきの電話…聞いてた?」

「…いや、電話が鳴ったから外に出てた。まだ何処かと話があるなら…」

「…大丈夫、もう何処からも電話はかかってこないから!あのさ…」

「そっか…箒、茨、セシリア!鈴は無事だぜ!」

 

…まあ、そんな空気の読めなさも、彼らしいといえば彼らしいのだが…

 

 

 

「あ、悪ぃ…俺ら小一時間後に出直してくる…」

 

医務室のドアを開けたら潤んだ瞳の鈴がこちらを睨みつけてくる。分かってる、逢瀬は邪魔しない…と回れ右しようとした俺の左肩をシノさんが、右肩をセシリアががっちり掴んだ。タイミングバッチリだな、なんだかんだで息ピッタリだな。『破裂の人形』みたいに肩に爪痕残りそうだな、俺。

 

「…不純異性交遊教唆は死刑だ。茨、日本の刑法を知らないのか?」

 

何だよその罪状、もし自分が鈴と同じ立場だったら『不純異性交遊妨害は死刑』とか言ってただろシノさん。というかつい四半日前に『秘密の御呪』企ててた人間が言うセリフじゃないだろシノさん。

 

「あらあら、『埋めろ増やせよ』と申しますもの。茨君も箒さんと一緒に埋まります?」

 

『産めよ増やせよ』だろセシリア。一緒に埋めるとかナチュラルにライバル減らしてるんじゃないよセシリア。シノさんは俺をイケニエに化生になって襲い掛かるぞセシリア…っと、名前で呼び捨てってのはさすがに馴れ馴れしいか。次に呼ぶときは姓に戻そう、そうしよう。

 

「…そうだ、アレ持って来いよ茨!鈴に最初にご馳走させるんだろ!」

「そうだな…茨、後ろ手に持っている点心の皿、まさか忘れたわけではあるまい?」

「渡すから離してよ…鈴、芳田さん…食堂のオバチャンからさっき、『食堂で中華ゴマ団子をスィーツとして出したいんだけど、味見してくれない?あんた達のお墨付きなら確実だから』って貰ったのよ。アツアツのうちにどうだ?」

「…ごめん、食欲ないんだ…」

 

目の前に突き出したゴマ団子の皿に顔を曇らせて首を振る鈴。よっぽど滅入ってるな…だからこそ食べなきゃいけないんだ、コイツを。

 

「…そっか。いやなぁ…作ってくれたコックさんは俺も一夏も、もちろんお前も知ってるんだ。今日配属されて『1年ぶりに』調理の仕事に従事するんだけど、ブランクがどれだけ響いているのか『自分の料理を一番食べてる』お前を名指しでご指名なんだ…あ、今は会いに行くなよ?AOAがレセプションを行うって言うんで会場の料理を学園の食堂に発注したんだと!和食、洋食、…『香港式』中華…学生、先生、職員、来賓全員招待するんで食堂は戦場だった。手空きは学生職員関係なく助っ人に借り出されてるし、俺らも一段落したらお手伝いに行く。ああ、今日付けでもう一人女性スタッフも配属されたんだけど、そっちもてんてこ舞いで…」

「…寄越しなさい!貰うわよ茨!」

 

…おお、しょげたカラスがもう怒ったか。ま、それくらい元気じゃないと鈴じゃあない。

 

「そうだ、俺らもご相伴に預かろうぜ、一夏…おお、一年前とおんなじ、鈴の家でご馳走になった味だ!」

「ほっとするよな、この甘さ…」

「ゴマ餡でもアズキ餡でもない…サツマイモ餡を使った中華ゴマ団子ですか…まさに珠玉の逸品ですわね…」

「『紅(くれない)と胡麻の魂』…こんな優しそうな点心につける名前とは思えないが…まさか泣くほど感激するとはな…確かに美味いが…」

 

…まあ、鈴から親の話は全然出てなかったけど、きっと訓練でずっと会えなかったんだろう…ん?

 

「鈴、電話だぜ…席外すか?」

「…大丈夫よ茨、中国語で話すから」

 

 

『もしもし。楊管理官…クラスメイトが、私の父母の幽霊に逢ったそうです』

『ええ、そのことについてです…短気を起こして自傷行為などしていませんね!?…ここから先は私の独り言です、忘れてください…中国共産党は幽霊など信じてはいません、ですのでもし貴女が幽霊を見ても我々はそのことについては一切『関知』しません。『対応』もしません。それだけは信じてください…子は親の愛によって立ち、親は子の孝によって立つ、親孝行を存分に行いなさい、凰候補生』

『…有難うございます、楊管理官…いえ、委員長…』

『管理官ですよ。これまでも、これからも』

 

あ、マジ泣きしてるよ鈴…よっぽどショッキングなニュースだったんだろうな。

 

 

 

「やあやあ、遅かったじゃないか『ブリュンヒルデ』。解析は今からだよ。もう少し施工業者を選ぶべきだね、あるいは根絶やしにする覚悟を持つべきだね…まあまあそう瞳を三角にしないでくれよ、ルートビアでもどうだいどうだい?」

 

ここはIS学園本校舎地下50m、本来の設計者であるAOAすら与り知らないはずの空間。そこはレベル4以上の権限の無い人間には門を開かないはずのエリアであり、織斑千冬以外の人間は居ないはずだった…だが、小柄な老人はまるでネズミのように指紋を、声紋を、網膜を、静脈承認を、コピー不能とまで言われたカードキーを…あらゆる障壁を掻い潜って、機能停止した木偶人形…『ゴーレム』にちょこんと座りながら下卑た笑みと共にキンキンに冷えた瓶入りのルートビアを開いたゲートの前で睨みつけていた彼女に向けていた。

 

「ここでは私は一介の教師です、アルフレッド・オーウェル・アークライト博士…あなたにここに居る資格はお有りで?」

「無いよ無いよ、だからもう帰る。上じゃあ楽しい楽しいレセプションが始まってる頃だからね…ああ、君と山田先生の分は折り詰めを用意させてもらったよもらったよ、仲間はずれは悲しいだろうからね」

 

老人はニヤニヤ笑いながら軽やかに千冬の脇を通り抜け、エレベーターへの道を歩いていく…そして思い出したように振り向き、一切の表情を消すとつまらなさそうに吐き捨てた。

 

「僕の見立てだ。こいつは『無人機』じゃない。ISコアってのは人の心が大好きなのさ…操作方法を知らない人間に刷り込んで教える程度には。0歳児、或いは胎児…コアとしても教えがいがあったろうな」

 

 

 

医務室でのやり取りの後、我々はレセプション会場の設営を行っていた。まあ、テーブルや椅子を備え付けたり紙皿やコップ、そして料理を運ぶ程度だったが…『騒動解決の立役者』として我々一同は来賓席で座っていなさい、などという意見もあったが、料理の品定め…訂正、入ったばかりの1年生としては体を使って内申点をアピールすることも大切なのだ、うん。因みに凰は厨房で父親の手伝いを行っているらしい。『アンカー・スチーム』『ブルー・ティアーズ』と同様『甲龍』も『オートスミス・マークナイン』で修理中のため、黒いブレスレットはつけてはいなかったが。

 

「どうも!新聞部副部長、黛薫子です!いやいやAOAは羽振りが良いですねー、コレだけのご馳走を頂けるなんて思っても見ませんでした!」

(…そうか?それほどのことも無いんじゃないか?)

 

私達のテーブルには一夏、茨、セシリア、鈴、簪さん、布仏さん、AOA代表として茨のカウンセラーの席が据えられている…本来は織斑先生と山田先生もここにいるはずなのだが、例の『無人機』の調査を行うため、今回のレセプションは欠席するとの事で、余った枠に布仏さんが入った形だ。

 

「いえいえ、我々もまさかここまで腕のよろしいシェフが居られるとは思ってもいませんでした。貝類はチャウダー、トゥーナはサラダオイル漬けしか我々の世界にはありませんでしたので。スモークサーモン、トゥーナ、シュリンプ、スキッド、エッグ…この『手まりスシ』美味しいですね」

「いやいやー、流石にこのマグロをツナ缶にするのは勿体無いんじゃないんですかねー」

 

AOA主催のレセプションの料理は、確かに一介の高校生には満足できるものだっただろう…だが、教師陣や来賓、イギリス開発チームや倉持技研の面々はVIPルームで歓待を受けているそうだ。VIPルームに料理を据えた相川さんや谷本さん、田嶋さん曰く『アワビのステーキや大トロの刺身とかひたすらに豪華な料理が並んでた』そうだ…一方我々学園生や職員、主催者であるAOAスタッフのテーブルには松花堂弁当の箱の中にローストビーフ、和風キノコスパゲティ、ミニオムレツ、手まり寿司、一口サイズのタコスやブリトー、スモークサーモンのオードブルといった各国料理が品良く詰められている…見た目にも美しいし、出された料理に文句をつける気も軽く見られたと激昂するつもりも無いが、そういった華を欲しいと思うのはいけないことなのだろうか…?

 

「スゲぇぞ箒!この味噌汁イセエビの出汁だ…コクが違いすぎる!」

 

何!?…確かに食堂のいつもの味噌汁とはコクが丸っきり違うが具は普通の豆腐に長ネギだけだぞ!?…一夏、良く気付いたな。

 

「…なあ、このサボテンのサラダなんだけどさ、オルコットさん…この黒くペラペラしてるのって…ひょっとして黒トリュフ?」

「あら、やっと気付きましたわね茨君。わたくしの舌がおかしくなければ、フランス産黒トリュフですわ…キノコスパゲティにはポルチーニ茸が使われておりましたし、そしてさっき茨君が一口で頂かれたフレッシュシーフードタコスですが、ロシア産のキャビアが入っておりましたわよ?」

「マジかよ!?もっと味わって食えばよかったなぁ。プツプツした感触、トビッコだと思ったのに…流石に丸まったタコスの中身開いて吟味するわけにも行かないし、貧乏舌が恨めしいぜ…」

「トビッコと同じ扱いじゃ…キャビアが…怒るわ…」

「それくらいでびくつくな、茨…各国代表ともなればこれだけの宴席、珍しくもあるまい」

 

(な、何…?じつはとんでもなく予算がかかってるのか、この料理…!?)

内心の動揺を押さえ込むように、ミニオムレツを箸で切り開く。箸の国の人間なんだ、一々ナイフとフォークを使う必要も無いだろう…ん!?トロトロのチーズと一緒に黒いサイコロ状のものが出てきたぞ!?

 

「…まさかここにも黒トリュフとはな。どれだけ羽振りのよさを見せる気だ、AOA」

 

…動揺は何とか抑えられた。こんな所で弱さを見せるわけにはいけないんだ、仮にも来賓席に陣取っているんだぞ、私は…

 

「ねえ、これって本物の黒マグロよ!?うちで入学祝に戸井のマグロをご近所に振舞ったんだけど、それとそっくり!それにこのネギトロ、中落ちをスプーンで削って作ってる!」

「流石かがみん、お寿司に関しては一家言あるねー…あ、じゃあこのスモークサーモンもかなぁ、かんちゃん?」

「多分それ…鮭児っていう…レアな鮭で…出来てる…前同じようなの…お歳暮でもらった…」

 

どうやら自分たちの頂いている『ありきたりな』料理が滅茶苦茶高価だと気付きだしたのだろう、あちこちのテーブルでざわめきが生まれ始める。黛さんは一切表情を崩していない辺りキチンと分かっていたらしい…なんだろう、この敗北感は。そして弁当箱の中の料理が片付いたのを見計らったように今度は食堂の従業員の皆さんにより追加の料理が運ばれてくる…今度は中華メインか。ビュッフェスタイルで頂く大きな北京ダック、シュウマイ、シュリンプトースト、ワンタンスープ、ニラ玉、唐揚げ、海鮮チャーハンに学生たちが歓声を上げる…黛さんも行列に並んだか、少しはゆっくり出来そうだ。

 

 

 

「一夏、約束通り作ってきてあげたわよ…酢豚」

 

 

…そんな余裕をもてたのも、そのときまでだった。

 

 

 

「すごいなぁ、このお弁当…まあ、お金を出せば日本じゃいくらでも用意できるんだろうけど…」

「あら、良い物を手に入れるには『信用』も必要ですわ。IS学園が肝煎りになってこのレセプションを開いたのではなくって?」

「さぁ…我々はヒラですから。上の判断にはなんともコメントできかねます」

 

オルコットさんに視線を向けられたカウンセラーの子は、視線をそらしながらもしゃもしゃとラム肉の入ったブリトーを口に運んでいく…きっとアレも滅茶苦茶高いんだろう…まあ、原価がいくらとかじゃあなくアワビステーキとか大トロの刺身とか分かりやすい『豪華さ』のほうが有り難い様な気がするんだが。

 

「次は中華か…後半分って所かな、胃袋…」

「あら、まだまだ行けますわよ…あら、大きな北京ダックですこと。あら?薄餅は来ないのかしら?」

「ああ…あれは『ローストダック』。広東式だからそのままナイフで切り分けて食べちゃって頂戴。」

「お、お疲れさん鈴…松花堂弁当、お前の分もあるぜ」

 

ほんと、お疲れ様だわ、鈴…ん?どうしたその酢豚?

 

「大丈夫、父さんと母さんとお話してたから…一夏、約束通り作ってきてあげたわよ…酢豚」

「お、おう…頂きます…」

 

…何だろう、この甘酸っぱさと真剣さが入り混じった空気は。そんな夢見るような瞳も出来たのか、鈴。そしてシノさんにオルコットさん、笑顔のままそんな恐ろしい瞳で睨みつけるな。それと一夏、お前は何を約束したんだ?…ああ、俺も簪さんや布仏さんのような傍観者で居たかった…

 

「ご馳走さん、鈴。相変わらず美味いな…何処のレストランでもシェフ勤められるぜ、マジで!」

「ほ、本当?…じゃ、じゃあ…『約束』…守ってくれる?」

 

…をー、『儚さ』をアッピルしてくるとはなかなか解っておられる、鈴…解っております『淑女協定』のお二人様。ビームでも出てきそうな勢いで『約束とは何だ!?』とか睨まないでください。俺も興味は有りますし…ああ、お寿司美味しいなあ…

 

「…いやさあ、流石に毎日お邪魔したらおじさんやおばさんが迷惑するだろ?鈴だって何時までも独身って訳にもいかないだろうし…」

「!?…違う、違うわよ!そういう意味じゃないわよ!…やだよ、やだよ!…う、うううう…」

「一夏、トイレ行くぞ…悪ぃ皆、ちっと鈴を見ててくれ…」

 

 

が、ガチで泣き出したよ鈴…一夏、お前本当に何を『約束』したのよ!?

 

 

 

「なあ一夏、お前一体何を鈴と約束したのよ!?あんなに泣き出すなんて尋常じゃないぞ!?」

「あ、ああ…『料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』って…」

 

(ガチの告白じゃあないですかー!!)

 

レセプション会場からやや離れた自動販売機前、俺はあっけらかんと言い放つ一夏の前でのた打ち回っていた。というか、何で最後の最後でヘタレたんだよ、鈴!?俺よりも付き合い長いんだからもうちょっと言葉選ぼうよ鈴!

 

「…あのな一夏、鈴はプロポーズしたんだよ。『毎日ご飯を作ってあげる』って意味なんだよ…」

「そんな!?俺には千冬姉が…」

(何でそこで『ブリュンヒルデ』が出て来るんだよぉぉ!?)

 

ジタジタとのた打ち回る俺をボンヤリ見ていた一夏だったが、表情を暗くするとポツリと呟いた。

 

「俺なんかに関わっても良い事無いのに、皆おかしいぜ…」

 

「…違うぞ、一夏。お前はそんなつまらないヤツじゃない。シノさん、オルコットさん、鈴…それに俺がつまらないヤツにわざわざ関わってると思うか?」

 

のた打ち回ることを止めた俺は、地面にアグラをかくと一夏を睨む。一夏は月を背にした状態でこちらに向き、表情は全然読めない状態だ。

 

「…俺は、ISに関しては全然素人だし…今までずっと、千冬姉に迷惑かけてきたし…今回の件でもそうだ!茨は無人機の前に陣取って延々皆を守ったのに、俺は後ろで控えてて、最後に一撃入れただけだった…」

「俺も素人だぜ、ISに関しては…それに、今回『木偶人形』に勝てたのは、皆を守れたのは一夏、オルコットさん、鈴、俺…それだけじゃない、シノさんや簪さんや山田先生、AOAの連中…誰か欠けても勝ち目は無かった、俺はそう思う」

 

…正直、今思い出しても寒気がする。あのとき『プリズム』が発動していなかったら、俺はあそこで終わってた…いや、俺ならいい、山田先生やシノさん、簪さんが巻き込まれていたら…

 

「俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)だって茨に教わったんだぞ!お前のほうが…」

「…俺さ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)、黒豹女から教わったんだけどさ…2週間かかった。分かるか?延々ベテランがマンツーマンで付き添って、最後の最後でやっとマスターできたんだ。一夏、お前はどうだ?素人が見よう見まねで教えて、あっさりマスターしたんだぞ!正直、お前が羨ましい、妬けるよ…」

 

…アレは地獄だった。『才能が無い』『努力が足りない』『あたしのツバメにでもなったらどうだ?』などと延々と罵られながら基本動作を教わりつつも瞬時加速(イグニッション・ブースト)は使えず、最終週の模擬戦で破れかぶれで発動したら何とかマスターし、ついでに黒豹女にも一撃を入れられた…まあ、その後も地獄だったが…

 

「一夏、自信を持ってくれ。『俺が嫉妬する』人間はつまらないヤツじゃない。そしたら俺はもっとつまらなくなってしまう。嫉妬するのは弱者の特権だ。そしてシノさんも、オルコットさんも、鈴も、真剣にお前に向き合っている。それだけは忘れないでくれ…さ、さっさと会場に戻ろうぜ」

 

そういうと、俺は立ち上がり会場へと戻りはじめる…主賓が何時までも席を外したままじゃ怪しまれるしな、うん。

 

「茨…あんなふうに敵の前で延々囮になれる奴は弱者じゃないぜ、いくらものすごい盾を持ってても」

 

…何かくすぐったいな、知り合いに褒められるってのは。

 




家族会議 再び (本人抜き)

「ただ今帰りました、義父さん、義母さん…」
「ごめんねパパ、ママ…急にお仕事が入っちゃって。週末には茨、帰ってたんでしょ?」
「まぁ、先週末に茨が帰ってきおったが…会わんで正解だったかもしれんの…」
「言わないでゴンちゃん!あんなの嘘よ!茨は友情を貫き通すべきよ!」
「彼女でも連れてきましたか?いやいや引っ込み思案かと思ってましたが、環境に適応したんですかねぇ…」
「いやの、茨はの、先生を連れてきたんじゃよ…」
「この時期に先生を!?何か問題でも…」
「すみれ、一度しか言わないからね…ゴンちゃんの見立てよ。茨はね…先生と付き合ってるの!」

「トコトンまで飲みましょう、ママ」
「僕も付き合うよ、すみれちゃん」
「まさか一人だけおねんねとか通じないわよ、ゴンちゃん…」
「あ、アルハラとかワシのシマじゃノーカンなんじゃ!」
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