寝静まった『バルーニング学園』。華美ではないが清潔感に溢れた園長室で、年老いた黒人の老婦人…『マザー・エリザベス』と『シスター・ファロン』は相対していた。
「…お疲れ様でした、『シスター・ファロン』…あなたをここに迎えて早6年、あの子を抱えてきて、もう3年ですね…また、誘いがあれば征くつもりですか?」
「…私は、もうこの生き方しか出来ません。他の道を選ぶには、余りに多くの子羊を『迷い』から断ち切りました…」
「…ここは貴女の家です。そして、貴女はたくさんの妹と弟を…そして『娘』を育てております、私の自慢の娘です。何時いかなる時も、それだけは忘れないでください」
「…これを、『ブルー・ムーン』の枕元においてくださいませ、『マザー・エリザベス』…私には…コレをあの子の枕元に置く資格はございません…」
「ええ、4ヶ月遅れのサンタさんになってあげましょう、『シスター・ファロン』」
『母』は、声を殺して泣く『娘』を、ただ優しく抱きしめていた。
「ごめん…一夏、急に泣き出したりして…」
「こっちこそごめんな、鈴…茨からキチンと説明してもらったよ」
レセプション会場に据えられたベンチで寝転がりながらカウンセラーの子の膝枕を受けていた鈴は、一夏の姿を見ると慌てて立ち上がる…子供が子供にあやされているみたいで、どうにもアンバランスに思えてしまう…だから睨まないでくれよシノさんにオルコットさん。
「…猿取君、今失礼なことを考えましたね。カウンセラーの基本にして究極の仕事なんですよ、泣く子をあやすのは」
…相変わらず鋭い子だ。やっぱり心が読めたりするんだろうか、インド系は。シャーさんってロリコンって言うよりは育成厨と戦闘少女厨って感じだよね、ララーってロリっぽくないし。
「…まさか。餅は餅屋って思っただけ。掴みに変なこと言い出さないなら確実にプロだよ、カウンセラーさんは。同い年ぐらいなのに、凄いなあって感心してただけです」
「それこそ失礼です。私はお酒を嗜めるんですよ…ほら、身分証」
…おお、名前の所は指で押さえて読めないけれど、確かに20歳だ。東洋人は老け込むのが遅いから結婚相手には良い、なんて白人の笑い話にはあるらしいがまさにそうだな…にしても飛び級で大学卒業してるのか、やっぱり俊英ぞろいなんだな、AOA。
「…衆人環視の中くんずほぐれつあんなことをした貴方達1組ぜいいんも凄いじゃありませんか」
「…どんなことかしら?」
言葉よりも先に俺の口元を鷲掴みにする鈴。おかしいな、それは中国代表じゃなくて日本代表だろ?ネオホンコン?あの人は元々大阪人だぞ。お下げジジイ呼ばわりされてるけど49歳だぞ、クロスさん。
「…ああ、そう言われればそうだな。クラス代表決定戦、私たちが死闘を演じた後茨に誘われたんだ、「一夏の前途を祝福しようじゃないか」って…6年ぶりだったが、見違えるほどに逞しかったな…」
顔を赤らめながら瞳をそらすシノさん。身長差から俺は口元を押さえつけられて真実を語れない。待て鈴音、敵の挑発に乗るな!
「つまりアホ茨はお相伴に預かったって訳ね…日本人は貞淑だって、嘘だったのね…」
「わたくしは初めてでしたので最初は4人で…その後1組全員でしましたわ…最初に一夏さんの腰に手をかけたのは茨君。男同士でしたのにイヤに手馴れてましたわね…」
「…あったかかったよね、おりむー…」
Hahahaイギリス人はホント始末におえねーな!嘘は無いが真実が一欠片もないぞ!あと絶対楽しんでるだろ、布仏さん!つーかカウンセラー、一夏の手を引いて逃げやがったぞ、追わなくていいのか!?1組諸君、何固唾を呑んで見守ってるんだ!?そこの新聞部何カメラ片手に激写しまくってる、ピュリッツァー賞でも狙う気か!?顎からこんな音がするなんて初めて知ったわ、俺。
「…そうだったんだ…あたしの美しい思い出は…所詮は夢幻だったんだね…ごめんね一夏、あんたを守ってあげられなくて…そして茨、あんたは悲しみとなって生きなさい…」
なあ、お前は『鈴』であって『ラ王』じゃないだろ!?シンといいユダといいサウザーといい小悪党じゃなかったらヤンデレばっかりだよな世紀末の敵役。『人生に一片の悔い無し』ってあれだけ好き放題して不満があったらそれこそオカシーだろ。ていうか全面核戦争起こすような政権とかさっさと脳筋の長兄でもアジって潰しに行かせろよ何のための暗殺拳だよリュウケンさん。
「愛に殉じる…まさに漢ね!」
「これが『愛ゆえの悲しみ』ってやつなのね…大丈夫よ猿取君、私たちがあなたを失った織斑君の悲しみを癒してあげる!」
…ああ、俺は一夏を狙うライバルとして認定されていたのか。そうだよな、猫だって犬に訳も無く恨まれてるもんな。ごめんね山田先生、一夏を正気に戻せなくて。お父さんお母さんジーちゃんバーちゃん、先立つ不孝をお許しください…百ヶ日が終わったあたりで山田先生がお腹大きくして家に来るとかそういうオチはありませんように…
「…胴上げ…」
「えっ?」
「…だから胴上げ。先週…クラス代表決定戦が終わった後で…胴上げをやった…」
…ありがとう簪さん。力が緩んだアイアンクローを引き剥がしどうやら10人並の俺の顔はこれ以上酷くなる危険性と流動食を頂く事態はとりあえず消えたようだ。そして残念だったな鈴、あのまま儚げオーラを出せていたら10馬身くらいは差をつけてゴールインできたぞ!…暫くは誰の肩ももたないからな!あと女の子にちょっかい出さなくてもいいから性的嗜好は至ってノーマルであることは俺自身アピールしておこう、そうしよう。
「ダメじゃない本音…楽しみが…消える所だった…」
「むー、だいじょうぶだよかんちゃんー、いくらりんりんでも人の顎はくだけないってー」
…動画やドット絵の投稿サイトでも見てた方が楽しいぞ…それと、多分砕けてたわ、俺の顎…
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『防衛用』『競技用』として各国に配備されているISではあるが、『独自開発』の壁は余りにも高いものであった。白騎士のデータ、及びコアは世界各国及び企業に配布されたものの元来の技術力が如実に表れ、日本、アメリカ、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、中国の8カ国以外は自前のコアに有償で貸与された他国の製造したISを装着するのが主流である。しかしながら国家の、企業のプライドをかけた技術向上はめざましく、インド、シンガポール、オーストラリアはほぼ別物といっていいほどのカスタマイズ機を手がけており、来年度には独自設計機をロールアウトできるのではないかというのが経済界の通説である。
世界で2番目に普及しているISは防御を主体とし、換装装備(パッケージ)の種類では群を抜く『倉持技研』の『打鉄』、IS開発においては最後発ではあるものの機動性重視のスペック、豊富な後付武装による対応能力の高さが高評価の『デュノア社』の『ラファール・リヴァイブ』が世界第3位のシェアを誇っている。
…さて、世界第1位のシェアを誇るISは何処の何であろうか?
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「どうも!ご活躍お疲れ様です、織斑一夏君!1年1組クラス代表としての意気込みを一つお願いします!」
「え、えーと…千冬姉の名を守るためにも頑張ります!」
宴たけなわ、もうそろそろお開き…なのだが、元気に満ち溢れた学生はまだまだ眠る気はないようだ。AOAスタッフは満腹になったのか、それぞれ本を開いたり、スマートフォンを眺めたりやりたい放題だ…そこで織斑先生の名前を出すか、一夏。
「ほい皆、〆のマンゴープリン…『龍へと至る大河』(リバー・オブ・ドラゴン)だと。どれもコレも甘味は仰々しいネーミングだわ…」
…ナイスタイミングだぞ、茨。比較的サッパリしていたがやはり中華料理は脂っこい…ブン屋とはいえ先輩か、一番最初に黛さんに出したことは気にすまい。あと顎を押さえて睨みつけるな、少し悪ノリしただけだ…恨むならカウンセラーを恨め。
「おお!ナイスタイミングです!1年1組クラス代表補佐心得見習の猿取君、ご質問があります!ちなみにクラス代表補佐はセシリア=オルコットさん、クラス代表補佐心得は篠ノ之箒さんですよ!」
…ふむ、最初に沈んだのは私なのだ。ある意味異例の大抜擢といえよう。そして茨、別に取って食われるわけではないんだ、そんな死にそうな表情は止めろ。
「あなたの纏うIS『アンカー・スチーム』、そして第三世代型兵器『P』!今回の騒動解決のまさに要といえるでしょう!ご自身の口からセールスポイントをアピールしてください!」
「いや…その…そんな良いものじゃないですよ、コレ…」
『アンカー・スチーム』の待機状態であるスマイリーフェイスの輝く指輪がはまった左手親指を撫でながら顔を引きつらせる茨。先程修理が終わった『甲龍』『ブルー・ティアーズ』同様修理は完全に終わっているだろうに…
「もっと自信を持てよ、茨!お前だって活躍してただろ!」
「謙虚と卑屈は紙一重ですわよ、茨君。『自分が撃破に貢献した』その事実を持って雄弁に語ったらいかがです?」
「そうよ。少なくともあんたが『無人機』のビームを弾き返せなかったら、4対1とはいえもっと被害が出ていたはずよ」
「いや…待機状態のISから情報は流れてきたんだけど…もともとが…バットを凶器にするみたいな話でさ…」
戦友三人に叱咤激励されながらも何とも茨は歯切れが悪い。
「オーケーオーケートレイニー!そこから先はボクが説明しよう!『紳士淑女の皆、お腹一杯かーい!?眠くて眠くて仕方ないだろ!?この宣伝(promotion、propaganda)が終わったらさっさと寝るんだよ寝るんだよ!睡眠不足は美容の大敵だからね!』」
いつの間にか後ろにいたゲスジジイ…アークライト博士が拡声器越しに大声を張り上げた…紫ラメのタキシードとは、悪趣味ここに窮まれりだな…AOAスタッフは敏感に反応していた。本を投げ捨て、スマートフォンをポケットにしまうと大型スクリーンを展開し、スライド映写機を設置する…しかしながら古いスライドだな。あんな骨董品大昔のドキュメンタリーでしか見たことないぞ。
「『バットを凶器にする』余りいいたとえじゃないが言いたいことはわかるよトレイニー!『アンカー・スチーム』の第3世代型装備…『心』をトリガーにする装備…正式名称は『パシフィスト』(平和主義者)!そしてコイツ、『アンカー・スチーム』(上喜撰)の元々の開発名は『アストロ・シーカー』(宇宙探索者)、分類としては探索型…そしてどちらとも原案はAOAじゃあない…NASA(アメリカ航空宇宙局)なのさ!』
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『ちーちゃん、どうしたのさ、そんなに怖い声で…赤ん坊の脳?ああ、束さんのクローンだから何処からも尻は持ち込まれないって!…んー、いい喉越し!』
諸君!本来ISは宇宙開発のために作られたってのはみんな知ってるはずだ!『天災』篠ノ之束博士が『白騎士』を発表した時、どこもシカトしてたって教科書に載ってただろ!?だがねぇだがねぇ…NASAはその優秀さを痛感し、独自に開発を行うことにした!!だが、予算はスズメの涙、設計図は引けたものの実機なんて夢の正夢さ!そのうちに『白騎士事件』が起こり…あとはAOAがNASAの仕事を引き継いだって寸法さ…もっとも、その設計図はお蔵入りだったんだけどね!でも仕方ないよね!戦闘のことなんて丸っきり考えていない設計だもんね!
『…何で脳味噌だけをコアに接続したか?決まってるじゃないちーちゃん!省スペースのためだよ!それに軟骨は唐揚に、筋は煮込みにもなるし、今日のディナーは贅沢にも『海亀のスープ』!まあ、攻撃パターンがどうしても単調になるのが欠点なんだけどね!』
さて、『白騎士事件』後に目先の利いた国は、アラスカ条約発効後残りのウスノロどもはこぞってISを導入した!さて、現在シェアナンバーワンを誇るISは何か分かるかい!?そう!AOAの『タイガー・シャーク』だ!第2世代最初期の機体なんだが、ドンガメの『打鉄』やスピード馬鹿の『ラファール』とは格が違う攻防速バランスの取れたスペック、射撃オンリーだろうが格闘オンリーだろうがすぐに馴染むFCS…だがもっとも受けが良かったのは戦闘データだ!実際に戦場で戦うことが出来た『黄金の愛』(ゴールデン・ラブ)、『白金の平和』(プラチナム・ピース)のデータ…中東、南シナ海、メキシコ、イスラエル…垂涎モノだったろうな!お陰様で南アメリカ、東南アジアを初め、全世界から引っ張りだこさ!データだけでも売って欲しいっていくつもオファーがあったんだよぉ?
『「人の命をなんだと思っている!?」…その言葉、ちーちゃんだけには言われたくなかったな。私にも教えてよ、どうしてあの時…ちーちゃんは離れちゃったのさ!ずっと一緒なら、いっくんとのことだってどうにでもなったんだよ!?』
だがねぇだがねぇ…IS学園には『打鉄』『ラファール・リヴァイブ』そしてイギリスの『メイルシュトローム』しかないんだ、何故だか分かるかい?『葷酒山門に入るを許さず』じゃあないが…ヒトゴロシの直系をIS学園に入れちゃあいけないってIS委員会はカンカンだったのさ!馬鹿な話だよ、自分たちだってヒトゴロシに使いたくて仕方が無いのに!だけどねぇ…IS学園で使ってるISと実際に本国で使っているISが丸っきり違っていたら卒業生は戸惑うわけだ!もしこのままメイドインアメリカのISがIS学園に無いままだと下手をすればシェアがガンガン奪われるんじゃあないか、AOAは危惧したわけだ!そこでAOAが元々関わっていなかった『アストロ・シーカー』の設計図を引っ張り出し、第3世代型IS『ファング・クエイク』のモンキーモデルをベースにボク達AOAは『戦闘なんて丸っきり考えていない』ISを拵えたって訳さ!では『パシフィスト』の説明ドーゾ!
「…大人ってホント頭悪ぃよね、くーちゃん。子供の頃の束さんがついた嘘を本気で信じて、ホントのことを知って泣き叫んで…それでも嘘をホントにする為に突き進んでいくんだよ、ずるいよね…」
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「『パシフィスト』の説明をさせていただきます。『白騎士事件』以前にも皮膜装甲(スキン・バリアー)の優秀さは理解されておりましたが、デブリの多い宙域で高速で移動した場合あっという間に消尽してしまうのではないか?金星、水星といったより太陽に近い宙域での太陽風の影響は?…一例では有りますが宇宙空間での機体への影響は枚挙に暇がありません。そこで転ばぬ先の杖としてNASAが目をつけたのが機体制御に使うPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)でした。『停止』ではなく『湾曲』させることで障害物を、有害な宇宙線を、より少ないエネルギーで防御できるのではないか?そういうコンセプトの下に『パシフィスト』は設計されました…猿取君、『アンカー・スチーム』の展開と『プリズム』の発動をお願いします」
「あいよ…BattleBorn!」
俺の『アンカー・スチーム』の展開と中心に1枚、真ん中に6枚、外側に6枚、計13枚の六角形で構成された虹色の盾…『プリズム』の発動を確認すると、樽みたいな体系の赤毛の男の説明を引き継ぐ形で金髪碧眼の美女が言葉を続ける。
「『プリズム』…『パシフィスト』の基本の発動状態です。正面のみを防御する形ではありますが、実体弾、エネルギー兵器等の光学兵器など種類を問わず90度まで湾曲させることで防御することが可能です…凰学生、申し訳ありませんが『甲龍』を展開した後、『アンカー・スチーム』に切りかかっていただけないでしょうか?」
「いいわよ。治してくれたのはあんたたちだし…っりゃあ!!」
「…っと!?」
鈴の振りかぶった段平を『プリズム』で受け止め…鈴の『甲龍』は真後ろに吹き飛ばされていく。その姿を横目に金髪の美女は事も無げに言葉を続けていく。
「ISと『プリズム』が接触した場合、運動エネルギーに比例して180度弾き返されるのです…そして何より特筆すべきことに、『プリズム』は皮膜装甲(スキン・バリアー)と、ISと接触しても『双方が』消耗しない作りとなっております。凰学生、機体状況を確認ください」
「全然シールドエネルギーが減ってない…」
「宇宙空間での作業中、ISと接触した場合にシールドエネルギーが消耗してしまえば死活問題です。故に双方接触した場合においても影響が出ない造りになっております。…猿取君、『パック』を展開できますか?」
「…鈴を中心に?」
「いえ、ただ発動させてみてください。『誰を』中心に、などということなど考えずとも結構です」
俺の回りにバラバラと散らばった『パック』を満足そうに見やる金髪さん…どうにも意図がつかめない。…ん?何かいきなりハイパーセンサーが鋭敏になったぞ!?
「『パック』…本来は『パラボラ』として作成された形態です。『無人機』…ゴーレムと仮称しましょうか…ゴーレムとの戦いでは『アンカー・スチーム』の判断で包囲するように展開されましたが、本来は『情報収集及び伝達の補助』として作成されました。光学兵器等の『軽い』攻撃は弾くことが可能でしょうが、実体弾等の『重い』攻撃は『障害物』と認識して自動的に回避します…IS、仕舞っていただいて結構です」
ISを仕舞った俺と鈴を満足そうに見ると、金髪さんは拡声器を今度はゲスジジイに渡した…おい馬鹿やめろ。
「ささ、質問タイムだ!…ああ、大トロとアワビステーキ、松阪牛のスキヤキでお腹パンパンの『ノット・レディースアンドジェントルメン』は質問を差し控えていただくよ!…んー、『レッドチャイニーズ』は願い下げだが、チャイニーズフードは大好きさ!特にフォーチュンクッキー!」
VIPルームからおっとり刀で駆けつけた来賓たちが思い切り顔色を変える…ホント、煽るのは一級だなゲスジジイ。とりあえずチャーハンを小皿に移さず手づかみで食うのは止めろ。残り少なくなっているとはいえ見苦しい…すき焼きか、刺身とかむしろステーキのほうがいいんじゃないかな?あとフォーチュンクッキーは元々日本のお菓子だぞ。
「あ、ジイさん質問…なんで茨はあんなに戦えたんだ?『アンカー・スチーム』は…その、戦闘用じゃないんだろ?」
「そりゃあベースが第3世代機『ファング・クエイク』だからだよベビーフェイス!ハードポイントに格納された兵器は全て『ファング・クエイク』と同じさ!『ブローニング・オートマチック・ライフル』の狩猟用モデルだって当たれば人は死ぬんだよ!」
「あるちゃんに質問でーす…どーしていばらんのISはレーザーとかの兵器を積んでないの?カンカン弾けるんじゃないの?」
「ああ…それは俺から。ISには武装の好き嫌いがあるのよ。『アンカー・スチーム』はさ…エネルギーライフルとか、プラズマキャノンとか光学系の武装を持つと思いっきり嫌がってさ、まともに動かなくなるのよ…ゲスジジイ、俺からも質問。何で今の今まで『パシフィスト』は寝てたのさ?今まで戦ってきたけど、楽な戦いは一回も無かったぜ?」
俺の質問に満面の笑みを浮かべながらゲスジジイは言葉を返す…骨だけになっているとはいえローストダックを手づかみでかぶりつくとかマジでテーブルマナーもヘチマも無いな。
「そりゃあ簡単さ簡単さ…心のどこかで『スポーツ』だと思い込んでただろトレイニー!出し惜しみ抜き、殺すか殺されるかの『戦場』…それが宇宙なのさ!それと光学兵器を嫌がる理由だけどさだけどさ、そもそも探索用なんだ『アンカー・スチーム』は!通信系統に支障を生じさせるようなモノを持ちたがるわけ無いだろう?」
●
「いやいや、ホント『上喜撰』だわ…原子力で動く船すらあるのに、石炭焚いて動く状態だわ…」
レセプションはその後、『ゴーレム』襲撃の現場検証のためクラス対抗戦は中止になる、と生徒会長からのお詫びのアナウンスが流れ、騒然となる1年生たちを尻目に『その代わり全学生に1ヶ月スィーツフリーパスと25ドル分の学園のストア専用の電子マネーをプレゼントだ!どんどん食べてブクブク太りなよ!』というゲスジジイの〆の言葉により散会となった。寮への家路を私たちは急いでいる…まあ、得をしたんだか損をしたんだか馬鹿にされているんだか分からない宙ぶらりんの気持ちはわかるが、そうぼやくな茨。倉持技研に修復のために赴いた一夏が聞いたら目を三角にして怒り出すぞ。白式にはブレードしかないんだ。
「『蒸気船』にしてやられたのですよ、『ゴーレム』は。そして各国はその有様を注視していますわ。少なくとも、イギリス開発チームは『パシフィスト』にどうやら興味津々のようですわよ…『操縦者と可能な限り友好的な関係を維持しろ』だそうですわ…」
「かぁっ…レディともクーニャンともヤマトナデシコともよき隣人で居たいわ、俺としては…鈴、俺は華奢なんだから顎を握りつぶすとかマジで止めてくれよ…そういうボーリョク的な行動は一夏も嫌がるぜー?」
「わ、わかってるわよ…ゴメンね、その、転校してから…いろいろ、迷惑かけて…」
「そうそう、やっぱりそういう乙女チックなところに男は惹かれるんだって…っと!だから俺はサンドバッグじゃないっての!」
「調子に乗るなアホ茨!」
…まったく、騒々しい連中だ。鼻先を掠めたハイキックに青ざめながら逃げ出す茨と追いかける凰…こんな光景が、一夏の周りではいつも繰り広げられていたんだろうか…
「宇宙探索か…未だに月から先には人間は行ってないんだっけか?ホント、皆でいけたら最高に楽しいだろうな…っと、ギブギブ!」
「あら?やっぱり男は夢見がちなのですね。宇宙は死の世界、楽しみとは無縁ですわよ?」
「だからこそ皆で行くのさ。一夏と皆のドタバタを見てるだけで退屈はなさそう…」
「あんたホント死にたがりなのね。『パシフィスト』なんて格好の盾、あたしたちが無視すると思う?」
…おお、四六のガマも真っ青な勢いで脂汗が流れているぞ、茨。前言撤回するなら今のうちだぞ?
…そうだな。姉さんは宇宙開発のため、平和のためにISを作り上げたんだ。
きっと、姉さんの夢はかなうさ。
完敗、かんぱい、カンパイ、乾杯
「『凰(おおとり)夫妻についてはご安心ください、我が日本国の国民として最大限フォローしていきます…ええ、貴女方とはよき隣人で居たいと思います…では』…はあ、ほんと、ここまで清廉な人間が中国にいたとはね…」
「楊新委員長からですか、楯無様」
「ええ。共産党上層部各々の泣き所のキーマン…金庫番、私兵の元締、女衒…そんな連中を一気に確保して自助努力で清浄化を図らせる、単純だけど一番効果的ね…しかも、最大の戦力であるISは集中管理し、軍閥が妙な動きをすれば一気に潰す…何で私腹を肥やさないのか不思議なくらいだわ」
「『番狢』の土産…キーマンのリストですか…」
「ホント、今日は何もかも忘れたいわ…水杯だけど、未成年だもの自重しましょうね」
「ええ、楯無様」
「お疲れ様でしたー!やっぱり、子供たちこそいいものを食べないとねー」
「ま、VIPの皆さんのお食事も一級品だったけど、若い子達ほど『本物』を食べて味を覚えなきゃね」
「さって、本日から皆さんと共に働かれます『凰(おおとり)』さん夫妻です!今日は『お試し』のはずだったんですけど…まさかここまで凄いとは思いませんでした!」
「ほんと1年間離れてたんですか?こんな照りのローストダック、初めて見ました…おお、肉まで柔らか!」
「はいはい、意地汚い真似は無し!ビールは皆持った?…そこ、タッパにつめる前にまず自分の胃袋!では…」
「久しいな、チズコ…まったく、地位は人を腐らせる。『一流』『二流』の区別すら付かなかったぞ、VIP連中。もう少し選んだらどうだ、ジュウゾウ?」
「まさか、お前がマッドサイエンティスト役とはな…『フランケンシュタイン博士』と聞いたときは耳を疑ったが…フフフ、すまんすまん」
「…でも、はじめてあった時と同じ『宇宙』への憧れは変わっていないようですわね」
「…当たり前だ。僕が僕である以上、捨ててはいけないものだ…懐かしの『ワイルド・ターキー』だ…肌寒くはなってきたが、腹の中から暖めようじゃないか」
「あー、本社の連中と交代かー…」
「カウンセラーは常駐なのれす!役得サイコーなのれす!」
「というわけでここにいるぜいいんのビール代は出してもらったからな!あと隠し撮りカメラの映像はリアルタイムで回すこと!」
「おまわりさんこいつです」
「あー、これから荷造りなんだから暴れんな!さて、『アンカー・スチーム』に!そして我らが『アメリカン・スピリット』に!そして我らが夢見た『空(AIR)・宇宙(SPACE)』に!」
「『パシフィスト』に!そして我らが『プライド』に!そして熱き『パッション』に!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」