俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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そういやビリーズブートキャンプのビリー、日本人女性と結婚してるんだってさ。

わた、わたつぃが訓練教官のファイルス中尉である。はなひかけられたとき以外は口をひあくな。口でっそれる前と後に“サー”と言え。分かったか、無地牛ども!」

「サー、イエッサー!」(女性の場合はレディーじゃないんかな?)

 

俺がISを起動させた次の日の朝、爺ちゃんが管理人、婆ちゃんがオーナーを勤めるマンションの一室であるわが家に、総務大臣だのアメリカ駐日大使だの日経連の会長だの日米の偉いさんが一同に会していた(冗談抜きですし詰めだった)。偉いさんたち曰く、『日米友好の架け橋』となりうる貴重な存在である俺に、是非とも多重国籍のままアメリカでのIS産業の雄であるAOA…アーマメンツ・オブ・アメリカ社のテストパイロットとしてIS学園に入学して頂きたい、そのためAOA社の実施する錬成講習に参加して欲しいとのことだった。

 

「きさ、きさ・・・ソーリー、コレナンテ読みます?」

「『貴様らは厳しい私を嫌う、だが憎めばそれだけ学ぶ』です・・・」

「センキュー。きさまぁはきびしいわたつぃを嫌う、だが嫌えばそえだけ学ぶ!」

 

講習やら移動やらの費用は全て会社持ち、多少は謝礼も出るらしい。IS学園で必要となる諸々の経費も全て会社から支払われるし、金という面では万々歳だろう。

 むしろ俺にとって魅力的だったのは、日米両国が提案してきた徹底した情報管制だった。『IS学園に入学・卒業し、なおかつ君が20歳になるまでどちらの国籍を選ぶのか選択しないなら織斑一夏、猿取茨両名の個人情報の開示を徹底的に両国は制限する、昨日のニュースはその誠意と見ていただきたい』IS関係者は個人保護プログラムで引越しなんかを余儀なくされる人も多いからねえ、という偉いさんの言葉に爺ちゃんが「ワシらを芝の珍獣扱いとかいい度胸じゃねえの」とよく解らない理由で激昂する一幕もあったが、その日の昼には俺は政府専用機でアメリカに渡り、MIBに囲まれて、いやにゴツイリムジンに揺られながら錬成講習の会場にやってきた。

爺ちゃん婆ちゃんの日常が壊されそうに無いというのはありがたかったし、金の面でも文句は無い。女子校に行くというのは抵抗があるものの、どうやら一夏もその学校に入学予定らしいので心強い。『ハニートラップには気をつけなさい。いいこと、男同士の友情を深く、熱くしなさい!』という婆ちゃんの寒気を覚えるような忠告もあったが、まぁ少なくとも最初のハニトラターゲットは親類的にも一夏だろう。ある意味現実で味わえる非日常としては最上級の状況だ。

 

「そぉのスキン・・・ヘッド?名前は!?」

「茨であります、サー!」(俺のボサボサ髪見えないのか、このネーチャン!?)

 

むしろ頭を痛めているのはこの講習会場だった。小学校の先生がお昼休みに上映会をやっていた戦争映画の1シーンをジャージ姿の俺と、専任軍曹役の女性…ファッションに疎い俺でもかなりの上物と思われる軍服に身を包み、微章を山ほどつけ、そして何よりモデルでも中々いないような美貌と体系、そして豊かな金髪…がノートを目の前でかざしながら、詰まり詰まりセリフを読むという理解に苦しむ状況。

 

「うちの食堂ではフライドチキンとスイカは出ない、わあったな!」

「サー、イエッ…って!」

 

この後は新兵の一人がぼやいて専任軍曹にタマを殴られるシーンなのだ。俺は【ありがとうございます!】などと喜べるようなマゾでは断じてない…だから、背後に誰かいたことに気付けず、足を払われて天井を拝む羽目になったことも致し方ないのだ、ないったらない!

 

「さっさとタマ殴りなさいよナタル。話が進まないじゃない。」

 

瞳も、肌も、ウルフカットの髪も黒。モヤシの俺が着たら悪いジョークにしかならない黄色いトラックスーツを完璧に着こなし、美貌や女性的な丸みはあるものの、『黒豹』という言葉が何よりふさわしいその姿。馬鹿馬鹿しい劇に乱入してきた女性はまさに対照的だった。

 

「ち、ちょっとまった!死ぬ、死ぬからやめて!」

「その必要は無いわイーリ。緊張は解けましたか?猿取訓練生(トレイニー・サルトリ)。ステイツ、及びAOAはあなたを歓迎します…私、今講習で講義を担当しますナタルです。」

 

わたわたと起き上がる俺に苦笑しながら言葉を返す専任軍曹…ナタルさん。一方、イーリと呼ばれた黒豹女はニヤニヤしながら俺の肩を揉み始める。

 

「実技を担当するイーリだ…まあ頑張ってくれたまえマック。生きて講習を終えられたらチャールズ=アトラスの通信教育以上にマッチョになれるはずさ」

「…アメリカでもっとも有名なボディービル通信教育のことですよトレイニー。アメリカ国籍を有するのですから、アメリカ文化も学びましょうね。」

 

 

「ん?ん?トレイニー随分と消耗しとるの。よっぽど実技で絞られたか?ん?それとも毎晩絞られたんか?ん?」

 

いやらしい笑みを浮かべる白衣の爺に眩暈すら起こしながら俺はここ2週間の訓練を思い返していた。

分厚い電話帳みたいな参考書片手に受けるISの各種講義は難しくはあったが、受験戦争を勝利に向かいひたすら詰め込みをしていた中三にとっては新鮮なことばかりだった。ナタルさんの解説も面白く、かつ俺の理解できていないところを確実に付き、解決させていく。やはりIS乗りがエリートとみなされるのはある意味当然のことといえよう。

一方黒豹女の実技はまさに地獄だった。初日で「これがクリアできたら即終了、完クリするまで睡眠無しな」とわけのわからないアスレチックコースに挑戦。2メートル以上ある高い塀を越え、塀を乗り越えた先の滑り台の先にある池に落ちないよう飛ぶコースから始まり、ベルトコンベアみたいな橋をバレーボールをぶつけられながら走ったり、池の上を回転するキノコのオブジェにしがみつきながらゴールを目指したり、最後の落とし穴に飛び込むヤツをクリアしたのはその日の23時だった。その後もエスカレーターのごとく自動で沈んでいくロッククライミングの壁を登り切れやら、ごっつい防具を全身に付けてゴム弾の雨の中を目的地まで走り抜けるだの、体をベルトで固定させたままプールに突入、沈みきったら脱出だの、勿論普通のランニングだの腹筋だのの基礎的なトレーニングも積み重ね、夜はといえば…いや、思い出したくない。

 正直、監視の目が無かったら自殺なり逃亡なり企てていただろう。それでも折れることなく続けていられたのは何故なんだろうか。意地?それとも期待に添えたいという意思か?

 

「おっ、おっ、自己紹介がまだだったまだだった、ボクはアルフレッド・オーウェル・アークライト。専門は宇宙工学。君の専用機をこしらえるプロジェクトの主任でもあるんだ。愛をこめて「アルちゃん」と呼ぶのを許可してもいいよ?ん?ん?」

 

 前頭部が綺麗に禿げ上がり、ヨレヨレのズボンに黄ばんだワイシャツに白衣、そしてありえないくらいでかい紫ラメの蝶ネクタイに赤縁ロイド眼鏡にドジョウヒゲ、、極めつけは『ゲス』という言葉を老人というワクにはめたらこうなるというその顔。不死の怪物でもいじくってる方がよほどサマになるゲスジジイである。

 

「恐れ多いですアークライト博士。ところで、俺のISはどんな機体なんでしょう?」

 

俺らが向かっているのはいつも講習を受けている教室でもなく、黒豹女の待ち受ける各種運動場でもない。とうとう俺の専用機が完成したとの連絡を受けてゲスジジイの先導の元、3名そろって搬入された格納庫へと向かっている。

 

「一応は第3世代機なんだ。でもさでもさ、君、余りにも早く発見されただろ?カナダに貸与予定だった『ファング・クエイク』のモンキーモデルをベースに作成させてもらったよ。しょうがないよね?ね?ね?」

「モンキーモデルとは、オリジナルより劣化したコピーと考えて差し支えないです…」

「トレイニー、アンタの姓はモンキーキャッチなんだろ?ならお誂え向きじゃあないか」

 

沈痛な面持ちのナタルさんとニヤニヤ笑う黒豹女…ホントは、『猿取』って苗字じゃなかったんだけど…。ま、そこいらのことドーでもいいだろ。

 

 

「でもそのおかげでカナダは大迷惑なんだ、君はカナダにゴメンなさいしないといけないよね?ね?それと武装なんだけどさ、機体がダメダメちゃんだし後付装備(イコライザ)はAOAの威信をかけて用意したよ。マシンガン、ショットガン、ライフル、ミサイル、グレネード、どれも当たれば強烈さ。当たればなんだけどね?だけどFCSがファング・クエイクの奴と共通なんだ。知ってる?知ってる?火器管制装置のことだよ?ファング・クエイクは格闘戦がメインなんだ。ロッキー・バルボアにジョン・ランボーの役をやれっていうものさ。でも仕方ないよね?時間なかったもんね?」

「…博士。基本装備(プリセット)の第3世代型装備は?」

 

頭を抱えるナタルさんにゲスジジイは格納庫の前で満面の笑みを浮かべながら振り返り、言葉を返す。

 

「それかー。それ触れちゃうかー。勿論あるけどコアとの相性が悪くてロックされてるんだ。その名も『P』!さて何の略でしょう?①【ご立派様】、②パトリオット、③ピーマン さあこのうちどれ?」

 

そこでゲスジジイは言葉を切り、笑みを消すと言葉を続ける。

 

「正直、君は期待されて無いよトレイニー。ISを動かせればいい、世の中の男性優位主義者、アメリカ至上主義者たちの溜飲を下げる対象となれればそれで十分なんだ。さあそれでもISに乗って苦労するかい?」

「勿論乗ります。ここで逃げてもいいことなんて何も無いでしょうし。」

 

ここまで頑張ったんだ。モルモット扱いされたりホルマリン漬けにされる未来よりは遥かにましだろう。それに期待されてないというのは裏を返せば相手は油断しているんだ、大物食い(ジャイアントキリング)だって夢じゃあない。

 

「うん、いいねいいね、君はイケメンじゃないけどイイね、後20歳若かったらボクはほおって置かなかったよ…じゃあお披露目だ!ご照覧あれ、『アンカー・スチーム』(上喜撰)!」

 

寒気のするセリフとともにゲスい笑みを再び浮かべ格納庫の扉を開けるゲスジジイ。そこに、俺が纏うであろうISが鎮座していた。

 

「ふぅん、全身装甲(フルスキン)ねぇ・・・ずいぶんと古めかしいこと。」

「だってだってしょうがないだろ?トレイニーはエッグロール(春巻)のモヤシみたいにヒョロヒョロなんだ、ハッタリだって重要だろ?」

 

鼻を鳴らす黒豹女に言葉を返すゲスジジイ。まあ確かに俺は筋骨隆々とは程遠い。だが、この2週間は嫌になるくらい鍛えられてきたんだ。せめて若木といって欲しい。

 

「じゃあ早速登録を始めよう!そうそう、A・Sってイニシャルには色々と意味を含めてるんだ。例えばシュワちゃん。そんな感じの顔だろ?このIS。」

 

むむむ。確かに角ばった顔はシュワちゃんそっくりかもしれない…まあ、バイザー型の目は幼稚園児の世話を仰せつかってどうにも困ってるように見える。

 

「まあ、よろしく頼む…相棒。」

 

そう言いながら一次移行(ファーストシフト)を済ますべくISに触れる俺。何故だか、『アンカー・スチーム』の顔は苦笑しているように見えた。

 

 

「彼には『P』を任せようと思う。」

「そんな、彼は東洋人ですよ!?」

「だが白黒赤のどの男もISを動かせなかった。ステイツは躍起になって探そうとしているが、余り意味があるとは思えないな」

「『P』は我々の手持ちではあのISでしか認識せず、それもロック状態。『機業』が感づけば事だぞ。」

「どうせ遅かれ早かれ気付く。それに彼は織斑君の知り合いなんだろ?ならば『天災』とも接触する機会は多いはずだ。」

「人間という種に見捨てられても、なお情は捨てられないか。因果なものだな」

「彼には『ファング・クエイク』のモンキーモデルとでも説明しておこう。それで辞退するならそこまでの存在だ。」

「…なんにせよ、まだまだ国という存在は大きい。『機業』や『天災』が何を考えようとかまわないが、まだその時ではない。我々としては、まだ雌伏し、時の至るを待つべきだろう。」

「ああ。The Day Is Coming.」

「「「「「「「「「「The Day Is Coming」」」」」」」」」

 




『初陣』

※ダイジェストでお楽しみください

「お帰り。さっさと寝ろ」
ようやくわけのわからないアスレチックコースをクリアして眠りに付こうとした俺。用意された寝室は広く、調度品も豪華で、ふかふかのダブルベッドがとても眠りやすそうだった…黒豹女がど真ん中でビールかっくらっていなければ。
「…何であなたがいるんですか、イーリさん」
「お目付け役だよ。自殺とか逃亡とかしないように。メシもシャワーも済ませたんだろ?夜更かしは美容の毒だ、さっさと寝ろ」
仕方なくソファに寝転んだ俺に黒豹女はビールの空き缶をぶつけてきた。
「用意されたベッドに失礼だろ!さっさとベッドに寝ろ」
「…一つしかないんですけど」
「ほぉ、あたしの隣は嫌か」
「いえ滅相も無い」

(…寝れん)
いびきが酷いとか体臭がキツイとかそういうのではない。罵声を飛ばしていたあの声とは思えないくらい柔らかい寝息で、ありえない位良い匂いだ。後ろにあるはずの黒豹女の体温がいやに近くに感じられる。
(ヤバイ、【ご立派様】が反応してる…トイレ行…って!?)
「ん…ガキの割には立派じゃない。こっちもお目付けしろって言われてるんだよねぇ…」

よく有るじゃない、【行為】の終わった後にさめざめと泣くシーン。まさか男の俺が同じ羽目になるとは思わなかったよ。
「…メソメソ泣く割には随分とガチガチだねぇ、とんだ種馬だ」
「止めて下しあ!俺はリボルバーじゃないんです!」


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